(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
表面処理が施される処理面と前記表面処理が施されない非処理面とを含む被塗布物のうち前記非処理面にのみ塗布された、室温で固体であって加熱により液化される熱溶融性の、全重量に対して85重量%以上100重量%以下のパラフィンを含むマスキング剤である塗布材料を、25℃以下の温度の冷媒によって、固体状のまま前記被塗布物から除去する冷却除去工程を有する除去方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、複雑かつ小型の非処理面にマスキングを形成可能な塗布装置及び塗布方法、容易にマスキング剤を除去可能な除去装置及び除去方法並びに塗布除去システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記(1)〜(32)に記載の発明により達成される
(1)室温で固体であって加熱により液化される熱溶融性の塗布材料を、表面処理が施される処理面と前記表面処理が施されない非処理面とを含む被塗布物のうち前記非処理面にのみ塗布する塗布装置であって、溶融した前記塗布材料を前記被塗布物に向けて吐出するインクジェット部と、溶融した前記塗布材料を前記インクジェット部に供給する供給部と、前記供給部に設けられ前記塗布材料を溶融する加熱手段と、を有する塗布装置。
【0009】
(2)前記供給部は、固体状または液体状の前記塗布材料を投入可能なタンク部と、前記インクジェット部及び前記タンク部を連結する連結部と、前記タンク部内の溶融した前記塗布材料を、前記連結部を介して、前記インクジェット部まで送り出す送出部と、を有し、前記加熱手段は、前記タンク部に設けられ前記塗布材料を溶融する第1加熱部と、前記連結部に設けられ前記塗布材料の溶融状態を維持する第2加熱部と、を有する上記(1)に記載の塗布装置。
【0010】
(3)前記送出部は、前記タンク部を前記インクジェット部よりも上方に配置することによって溶融した前記塗布材料を高い所から低い所へ流下させて送り出す自然流下機構、またはポンプ機構から構成されている上記(2)に記載の塗布装置。
【0011】
(4)前記インクジェット部を前記被塗布物に対して相対的に三次元的に移動し姿勢を調整して、前記被塗布物において前記塗布材料が塗布される位置を調整自在な調整部をさらに有する上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0012】
(5)前記調整部は、前記被塗布物の前記塗布材料が着弾する着弾面において互いに直交する第1方向及び第2方向の軸周りにそれぞれ、前記インクジェット部を前記被塗布物に対して相対的に回動して、前記着弾面に対して傾斜させる第1回動部及び第2回動部を有する上記(4)に記載の塗布装置。
【0013】
(6)前記インクジェット部に設けられるインクジェットノズルの列は前記第2方向に配列され、前記塗布材料は前記インクジェット部によって前記第1方向に沿って順次吐出され、前記調整部は、前記着弾面に直交する第3方向の軸周りに、前記インクジェット部を前記被塗布物に対して相対的に回動して、前記インクジェットノズルの列を前記第2方向に対して傾斜させる第3回動部をさらに有する上記(5)に記載の塗布装置。
【0014】
(7)前記インクジェット部から前記塗布材料が吐出する方向とは異なる方向に向けて、前記塗布材料を吐出する他のインクジェット部をさらに有する上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0015】
(8)前記塗布材料は、パラフィンを含むマスキング剤である上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0016】
(9)80℃における粘度が5〜30mPa・sである、上記(8)に記載の塗布装置。
【0017】
(10)前記パラフィンは前記マスキング剤の全重量に対して85重量%以上100重量%未満である上記(8)または(9)に記載の塗布装置。
【0018】
(11)前記インクジェット部と前記被塗布物とを相対的に搬送する搬送部と、前記搬送部に設けられ前記被塗布物の温度を制御する温度制御部と、をさらに有する上記(1)〜(10)のいずれか1つに記載の塗布装置。
【0019】
(12)表面処理が施される処理面と前記表面処理が施されない非処理面とを含む被塗布物のうち前記非処理面にのみ塗布された、室温で固体であって加熱により液化される熱溶融性の、パラフィンを含むマスキング剤である塗布材料を、前記パラフィンの融点未満の温度の冷媒によって、固体状のまま前記被塗布物から除去する冷却除去部を有する除去装置。
【0020】
(13)前記冷却除去部によって除去した固体状の前記マスキング剤を前記冷媒から回収する冷却側回収部を有し、前記冷却側回収部で回収した前記マスキング剤を上記(1)〜(11)のいずれか1つに記載の塗布材料として再利用する上記(12)に記載の除去装置。
【0021】
(14)表面処理が施される処理面と前記表面処理が施されない非処理面とを含む被塗布物のうち前記非処理面にのみ塗布された、室温で固体であって加熱により液化される熱溶融性の、パラフィンを含むマスキング剤である塗布材料を、前記パラフィンの融点未満の温度の冷媒によって、固体状のまま前記被塗布物から除去する冷却除去部と、前記冷却除去部が除去した後の前記非処理面に残留した前記塗布材料を、前記パラフィンの融点以上の温度の流体によって溶融させ、液体状にして前記被塗布物から除去する溶融除去部と、を有する除去装置。
【0022】
(15)前記冷却除去部によって除去した固体状の前記マスキング剤を前記冷媒から回収する冷却側回収部と、前記溶融除去部によって除去した液体状の前記マスキング剤を固体状にした後に回収する溶融側回収部と、を有し、前記冷却側回収部及び前記溶融側回収部で回収した前記マスキング剤を上記(1)〜(11)のいずれか1つに記載の塗布材料として再利用する上記(14)に記載の除去装置。
【0023】
(16)表面処理が施される処理面と前記表面処理が施されない非処理面とを含む被塗布物のうち前記非処理面にのみ塗布された、室温で固体であって加熱により液化される熱溶融性の、パラフィンを含むマスキング剤である塗布材料を、前記パラフィンの融点以上の温度の流体によって溶融させ、液体状にして前記被塗布物から除去する溶融除去部を有する除去装置。
【0024】
(17)前記溶融除去部によって除去した液体状の前記マスキング剤を固体状にした後に回収する溶融側回収部を有し、前記溶融側回収部で回収した前記マスキング剤を上記(1)〜(11)のいずれか1つに記載の塗布材料として再利用する上記(16)に記載の除去装置。
【0025】
(18)上記(1)〜(11)のいずれか1つに記載の塗布装置と、上記(12)〜(17)のいずれか1つに記載の除去装置と、を備える塗布除去システム。
【0026】
(19)室温で固体であって加熱により液化される熱溶融性の塗布材料を、表面処理が施される処理面と前記表面処理が施されない非処理面とを含む被塗布物のうち前記非処理面にのみ塗布する塗布方法であって、溶融した前記塗布材料をインクジェット部に供給する供給工程と、前記供給工程において供給された前記塗布材料を前記インクジェット部によって吐出する吐出工程と、を有する塗布方法。
【0027】
(20)前記供給工程は、固体状または液体状の前記塗布材料をタンク部に投入する投入工程と、前記投入工程において投入された固体状の前記塗布材料を溶融する溶融工程と、前記溶融工程において溶融された前記塗布材料を前記インクジェット部まで送り出す送出工程と、前記タンク部と前記インクジェット部とを連結する連結部において、前記塗布材料の溶融状態を維持する溶融維持工程と、を有する上記(19)に記載の塗布方法。
【0028】
(21)前記吐出工程の前に、前記インクジェット部を前記被塗布物に対して相対的に三次元的に移動し姿勢を調整して、前記被塗布物において前記塗布材料が塗布される位置を調整する調整工程をさらに有する上記(19)または(20)に記載の塗布方法。
【0029】
(22)前記塗布材料は、パラフィンを含むマスキング剤である上記(19)〜(21)のいずれか1つに記載の塗布方法。
【0030】
(23)前記塗布材料の80℃における粘度が5〜30mPa・sである上記(22)に記載の塗布方法。
【0031】
(24)前記パラフィンは前記マスキング剤の全重量に対して85重量%以上100重量%未満である上記(22)または(23)に記載の塗布方法。
【0032】
(25)前記インクジェット部と、温度を制御された前記被塗布物と、を相対的に搬送する搬送工程をさらに有する上記(19)〜(24)のいずれか1つに記載の塗布方法。
【0033】
(26)表面処理が施される処理面と前記表面処理が施されない非処理面とを含む被塗布物のうち前記非処理面にのみ塗布された、室温で固体であって加熱により液化される熱溶融性の、パラフィンを含むマスキング剤である塗布材料を、前記パラフィンの融点未満の温度の冷媒によって、固体状のまま前記被塗布物から除去する冷却除去工程を有する除去方法。
【0034】
(27)前記冷却除去工程において除去された固体状の前記マスキング剤を前記冷媒から回収する冷却側回収工程をさらに有し、前記冷却側回収工程によって回収された前記マスキング剤を上記(19)〜(25)のいずれか1つに記載の塗布材料として再利用する上記(26)に記載の除去方法。
【0035】
(28)表面処理が施される処理面と前記表面処理が施されない非処理面とを含む被塗布物のうち前記非処理面にのみ塗布された、室温で固体であって加熱により液化される熱溶融性の、パラフィンを含むマスキング剤である塗布材料を、前記パラフィンの融点未満の温度の冷媒によって、固体状のまま前記被塗布物から除去する冷却除去工程と、前記冷却除去工程後の前記非処理面に残留した前記塗布材料を、前記パラフィンの融点以上の温度の流体によって溶融させ、液体状にして前記被塗布物から除去する溶融除去工程と、を有する除去方法。
【0036】
(29)前記冷却除去工程において除去された固体状の前記マスキング剤を前記冷媒から回収する冷却側回収工程と、前記溶融除去工程において除去された液体状の前記マスキング剤を固体状にした後に回収する溶融側回収工程と、をさらに有し、前記冷却側回収工程及び前記溶融側回収工程によって回収された前記マスキング剤を上記(19)〜(25)のいずれか1つに記載の塗布材料として再利用する上記(28)に記載の除去方法。
【0037】
(30)表面処理が施される処理面と前記表面処理が施されない非処理面とを含む被塗布物のうち前記非処理面にのみ塗布された、室温で固体であって加熱により液化される熱溶融性の、パラフィンを含むマスキング剤である塗布材料を、前記パラフィンの融点以上の温度の流体によって溶融させ、液体状にして前記被塗布物から除去する溶融除去工程を有する除去方法。
【0038】
(31)前記溶融除去工程において除去された液体状の前記マスキング剤を固体状にした後に回収する溶融側回収工程をさらに有し、前記溶融側回収工程によって回収された前記マスキング剤を上記(19)〜(25)のいずれか1つに記載の塗布材料として再利用する上記(30)に記載の除去方法。
【0039】
(32)上記(19)〜(25)のいずれか1つに記載の塗布方法と、上記(26)〜(31)のいずれか1つに記載の除去方法と、を備える塗布除去方法。
【発明の効果】
【0040】
上記(1)に記載の発明によれば、加熱手段によって溶融された塗布材料をインクジェット部によって吐出して被塗布物の非処理面に塗布するため、複雑かつ小型の非処理面にマスキングを形成することができる。
【0041】
上記(2)に記載の発明によれば、タンク部に固形状の塗布材料を載置できるため、作業性が向上する。
【0042】
上記(3)に記載の発明によれば、塗布材料をタンク部からインクジェット部に送出できるため、作業性が向上する。
【0043】
上記(4)に記載の発明によれば、3次元形状を有する被塗布物であっても、塗布材料を塗布することができる。
【0044】
上記(5)に記載の発明によれば、3次元形状を有する被塗布物であっても、塗布材料を塗布することができる。
【0045】
上記(6)に記載の発明によれば、着弾される塗布材料の第2方向成分の密度を上げることができるため、めっき処理の不具合を防ぐことができる。
【0046】
上記(7)に記載の発明によれば、3次元形状を有する被塗布物であっても、塗布材料を塗布することができる。
【0047】
上記(8)に記載の発明によれば、着弾面に着弾された塗布材料のインク垂れを少なくすることができる。
【0048】
上記(9)に記載の発明によれば、インクジェット部によって塗布材料を吐出することができ、着弾面に着弾された塗布材料のインク垂れを少なくすることができる。
【0049】
上記(10)に記載の発明によれば、耐薬品性を十分に発揮できる。
【0050】
上記(11)に記載の発明によれば、着弾面に着弾されたマスキング剤のインク垂れを少なくすることができ、また容易にインクジェット部と被塗布物とを相対的に搬送できる。
【0051】
上記(12)に記載の発明によれば、非処理面に塗布されたパラフィンを含むマスキング剤を、パラフィンの融点未満の温度の冷媒によって、固体状のまま被塗布物から除去するため、容易にマスキング剤を除去できる。
【0052】
上記(13)に記載の発明によれば、冷却除去部によって除去したマスキング剤を再利用できるため、塗布材料の使用量を減らすことができる。
【0053】
上記(14)に記載の発明によれば、非処理面に塗布されたパラフィンを含むマスキング剤を、パラフィンの融点未満の温度の冷媒によって、固体状のまま被塗布物から除去した後に、非処理面に残留したマスキング剤を、パラフィンの融点以上の温度の流体によって溶融させ、液体状にして被塗布物から除去する。したがって、より確実にマスキング剤を除去できる。
【0054】
上記(15)に記載の発明によれば、冷却除去部によって除去したマスキング剤及び溶融除去部によって除去したマスキング剤を再利用できるため、塗布材料の使用量を減らすことができる。
【0055】
上記(16)に記載の発明によれば、非処理面に塗布されたパラフィンを含むマスキング剤を、パラフィンの融点以上の温度の流体によって溶融させ、液体状にして被塗布物から除去するため、容易にマスキング剤を除去できる。
【0056】
上記(17)に記載の発明によれば、溶融除去部によって除去したマスキング剤を再利用できるため、塗布材料の使用量を減らすことができる。
【0057】
上記(18)に記載の発明によれば、微小領域に精度良くかつ容易に表面処理を行うことができる。
【0058】
上記(19)に記載の発明によれば、溶融した塗布材料をインクジェット部に供給し、供給された塗布材料をインクジェット部によって吐出するため、複雑かつ小型の非処理面にマスキングを形成することができる。
【0059】
上記(20)に記載の発明によれば、タンク部に固形状の塗布材料を載置できるため、作業性が向上する。
【0060】
上記(21)に記載の発明によれば、3次元形状を有する被塗布物であっても、塗布材料を塗布することができる。
【0061】
上記(22)に記載の発明によれば、着弾面に着弾された塗布材料のインク垂れを少なくすることができる。
【0062】
上記(23)に記載の発明によれば、インクジェット部によって塗布材料を吐出することができ、着弾面に着弾された塗布材料のインク垂れを少なくすることができる。
【0063】
上記(24)に記載の発明によれば、耐薬品性を十分に発揮できる。
【0064】
上記(25)に記載の発明によれば、着弾面に着弾されたマスキング剤のインク垂れを少なくすることができ、また容易にインクジェット部と被塗布物とを相対的に搬送できる。
【0065】
上記(26)に記載の発明によれば、非処理面に塗布されたパラフィンを含むマスキング剤を、パラフィンの融点未満の温度の冷媒によって、固体状のまま被塗布物から除去するため、容易にマスキング剤を除去できる。
【0066】
上記(27)に記載の発明によれば、冷却除去工程において除去されたマスキング剤を再利用できるため、塗布材料の使用量を減らすことができる。
【0067】
上記(28)に記載の発明によれば、非処理面に塗布されたパラフィンを含むマスキング剤を、パラフィンの融点未満の温度の冷媒によって、固体状のまま被塗布物から除去した後に、非処理面に残留したマスキング剤をパラフィンの融点以上の温度の流体によって溶融させ、液体状にして被塗布物から除去する。したがって、より確実にマスキング剤を除去できる。
【0068】
上記(29)に記載の発明によれば、冷却除去工程において除去されたマスキング剤及び溶融除去工程において除去されたマスキング剤を再利用できるため、塗布材料の使用量を減らすことができる。
【0069】
上記(30)に記載の発明によれば、非処理面に塗布されたパラフィンを含むマスキング剤を、パラフィンの融点以上の温度の流体によって溶融させ、液体状にして被塗布物から除去するため、容易にマスキング剤を除去できる。
【0070】
上記(31)に記載の発明によれば、溶融除去工程において除去されたマスキング剤を再利用できるため、塗布材料の使用量を減らすことができる。
【0071】
上記(32)に記載の発明によれば、微小領域に精度良くかつ容易に表面処理を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0073】
<第1実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0074】
図1は、本発明の第1実施形態に係る塗布除去システム2を示す図である。
図2(A)は、第1実施形態に係る塗布装置10のインクジェット部20によって被塗布物Wの非処理面S2に塗布材料Aを塗布する様子を示す図で、
図2(B)は、塗布後の被塗布物Wの状態を示す図である。なお、
図2において被塗布物Wが搬送される方向をX方向(第1方向)、インクジェット部20のインクジェットノズル24の列が配列される方向をY方向(第2方向)、X方向及びY方向に直交する方向をZ方向(第3方向)と定義する。
【0075】
図1に示されるように、塗布除去システム2は、塗布装置10と、除去装置70と、を有する。
【0076】
<塗布装置10>
図2(A)に示されるように、塗布装置10は、室温で固体であって加熱により液化される熱溶融性の塗布材料Aを、表面処理が施される処理面S1と表面処理が施されない非処理面S2とを含む被塗布物Wのうち非処理面S2にのみ塗布する塗布装置10である。処理面S1と非処理面S2とは着弾面Sを構成する。
【0077】
塗布装置10は、溶融した塗布材料Aを被塗布物Wに向けて吐出するインクジェット部20と、溶融した塗布材料Aをインクジェット部20に供給する供給部30と、供給部30に設けられ塗布材料Aを溶融する加熱手段31と、を有する。
【0078】
表面処理は、被塗布物Wの表面を化学的または物理的な方法で改質することをいい、例えば、めっき、エッチング、めっき電鋳、表面粗化等の化学的改質方法、ポリッシング、スパッタリング等の物理的改質方法が挙げられる。
【0079】
本実施形態における塗布材料Aは、パラフィンを含むマスキング剤A´である。塗布材料Aはパラフィンと、必要に応じて着色剤及び他の添加剤を含んで構成される。塗布材料Aの詳細な構成については後述する。以後、被塗布物Wに塗布されるまでを塗布材料A、被塗布物Wに塗布された後をマスキング剤A´と称する。
【0080】
被塗布物Wは、例えば配線基板や電子部品である。配線基板には、マザーボードに代表されるプリント配線板、中央演算回路(CPU)、チップセット、セラミック基板、タッチパンネール基板等に代表されるパッケージ基板等が含まれる。また、電子部品には、半導体チップ、コネクタ類、ソケット類等が含まれる。これらの配線基板や電子部品は、ガラスエポキシ材、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルムなどの樹脂フィルム、BTレジン、シリコンウエハ、ガラス、液晶フィルム、アラミド、セラミック等から構成されている。また、上述の材料に銅、銀、錫、ニッケル、金などの導電層が形成されてなるもの、例えば、ポリイミドフィルムなどの樹脂フィルム表面に金属薄膜を形成した金属薄膜付樹脂フィルムなどから構成されてもよい。
【0081】
図3は、インクジェット部20から塗布材料Aが吐出する様子を示す図である。
【0082】
インクジェット部20は、
図3に示されるように、液体状の塗布材料Aが流れるインク流路21と、ピエゾ22によって加圧されるインク加圧室23と、インク加圧室23において加圧された塗布材料Aが吐出されるインクジェットノズル24と、を有する。インクジェットノズル24の列は、
図2に示されるように、Y方向に一列にのみ配列されている。ピエゾ方式のインクジェット技術は公知の技術であるため、詳細な説明については省略する。なお、インクジェット部20に塗布材料Aの溶融状態を維持するための加熱部が設けられてもよい。また、インクジェットノズル24の列が複数列設けられていてもよい。
【0083】
なお、塗布時の塗布材料Aの温度は、塗布性を向上させる面から融点+20℃以上の温度であることが好ましく、融点+30℃以上の温度であることがより好ましい。一方、上限はパラフィンの沸点未満であれば特に制限されないが、インクジェット部20の耐熱性の面から180℃以下であることが好ましく、140℃であることがより好ましい。また、これに加えてまたは代えて、塗布材料Aの融点+50℃以下であることがさらに好ましい。
【0084】
マスキング剤A´の厚さは特に制限されないが、10μm〜100μmであるのが好ましく、10μm〜50μmであるのがより好ましい。マスキング剤A´の厚さが10μm以上であればピンホールの発生を抑制できる。このため、後述するめっき液に浸漬する工程において、マスクとしての機能を十分に果たすことができる。一方、マスキング剤A´の厚さが100μmであれば、内部応力の増大によるマスキング剤A´と被塗布物Wとの密着性の低下やクラックの発生を抑制することができる。
【0085】
また、マスキング剤A´のY方向の幅は特に制限されず、形成するパターンに応じて設定される。当該幅は、インクジェット部20をY方向に多連することにより、任意の幅まで形成できる。
【0086】
供給部30は、固体状または液体状の塗布材料Aを投入可能なタンク部32と、インクジェット部20及びタンク部32を連結する連結部33と、タンク部32内の溶融した塗布材料Aを、連結部33を介して、インクジェット部20まで送り出す送出部34と、を有する。
【0087】
加熱手段31は、タンク部32に設けられ塗布材料Aを溶融する第1加熱部31Aと、連結部33に設けられ塗布材料Aの溶融状態を維持する第2加熱部31Bと、を有する。第1加熱部31Aは、例えばハロゲンランプヒータであるがこれに限られない。また、第2加熱部31Bは、例えば連結部33の外周に設けられたコイル状ヒータであるが、これに限られない。
【0088】
タンク部32は、第1加熱部31Aの加熱に耐えうる材質であれば特に限定されず、例えば耐熱性のアクリルケースが挙げられる。
【0089】
連結部33は、第2加熱部31Bの加熱に耐えられかつ可撓性を有する材質であれば特に限定されず、例えば耐熱性のシリコンチューブが挙げられる。
【0090】
送出部34は、ポンプ機構から構成されている。
【0091】
塗布装置10はさらに、インクジェット部20を被塗布物Wに対して三次元的に移動し姿勢を調整して、被塗布物Wにおいて塗布材料Aが塗布される位置を調整自在な調整部40と、被塗布物Wをインクジェット部20に対して搬送する搬送部50と、搬送部50に設けられ被塗布物Wの温度を制御する温度制御部60と、を有する。
【0092】
図4は、調整部40の概略構成を示す斜視図である。
【0093】
調整部40は、
図2に示されるように、それぞれX方向、Y方向、Z方向の軸周りに、インクジェット部20を被塗布物Wに対して回動させる第1回動部41、第2回動部42、第3回動部43を有する。なお、第1回動部41、第2回動部42及び第3回動部43はそれぞれ同様の構成であり、
図4では簡単のため第1回動部41、第2回動部42については省略している。以下、
図4を参照して、第3回動部43の構成について説明する。
【0094】
第3回動部43は、Z方向の軸周りに、インクジェット部20を被塗布物Wに対して回動して、インクジェットノズル24の列をY方向に対して傾斜させる。
【0095】
第3回動部43は、マイクロメータ431と、インクジェット部20が固定されるケース432と、を有する。
【0096】
マイクロメータ431は先端に設けられた先端部431aと、後端に設けられた回転部431bと、を有する。
【0097】
ケース432は、支持部S5にY方向にスライド可能に連結されている。この構成により、インクジェット部20は、Y方向にスライド可能となり、着弾面Sの所望の位置(非処理面S2)に塗布材料Aを塗布することができる。
【0098】
先端部431aは、回転部431bを回転することによって前後に移動され、ケース432の側面432aを押す。このため、ケース432がZ方向の軸周りに回動され、インクジェット部20が回動される。
【0099】
回転部431bは、不図示の制御部から、回転部431bに連結された不図示のサーボモータに信号が送られることによって回転される。なお、回転部431bは手動によって回転されてもよい。
【0100】
搬送部50は、ロールツーロール方式の搬送部50である。ロールツーロール方式とは、被塗布物Wをロールに巻いた状態から引き出して、塗布装置10において塗布材料Aを被塗布物Wに塗布した後に、再びロールに巻き取る方式の被塗布物Wの保持及び供給手段のことである。
【0101】
温度制御部60は、搬送部50に取り付けられ搬送中の被塗布物Wの温度を制御する。温度制御部60は、例えばハロゲンヒータであるがこれに限られない。
【0102】
搬送部50によって搬送されるときの被塗布物Wの温度は特に制限されないが、急激な収縮によるマスキング剤A´の剥離を抑制する観点から好ましくは24℃〜60°であり、塗布後のインク伸びを向上させる観点からは50°〜60°である。一方、上限は塗布材料Aを構成するパラフィンの融点未満であれば特に制限されないが、パラフィンの伸びの点で好ましくは24℃〜50℃であり、エッジの形成の点でより好ましくは24℃〜30℃である。この構成により被塗布物Wの温度を適切に制御することで、インク垂れを防ぐことができる。
【0103】
<除去装置70>
除去装置70は、非処理面S2にのみ塗布された、パラフィンを含むマスキング剤A´である塗布材料Aを、パラフィンの融点未満の温度の冷媒712によって、固体状のまま被塗布物Wから除去する冷却除去部71を有する。冷媒712は例えば水であり、水槽711内に貯蔵されている
冷却除去部71は、パラフィンの融点未満の温度の冷媒712がマスキング剤A´に接することによって、マスキング剤A´に含まれるパラフィンを固化して、被塗布物Wからマスキング剤A´を除去する。
【0104】
なお、本実施形態では純水によってマスキング剤A´を除去したが、これに限られず、その他の液体または気体の媒体であってもよい。液体としては酸性、アルカリ性、中性のいずれであってもよいが、酸性およびアルカリ性である場合には、めっき等の表面処理により形成された金属層に変色等の悪影響を及ぼすおそれがある。したがって、液体を用いる場合には中性であることが好ましい。すなわち、冷媒は、冷風および/または中性の液体であることが好ましい。より好ましくは中性の液体である。冷風としては、空気、窒素、二酸化炭素等の冷却気体が挙げられる。
【0105】
中性の液体としては、パラフィンを溶解させない中性の液体であれば特に限定されることはなく、使用するパラフィンにあわせて公知のものを適宜選択して使用することができる。例えば、メチルエチルケトン、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、3−ヘプタノン及び4−ヘプタノン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−メトキシエタノール、アリルアルコール、フルフリルアルコール及びフェノール等のアルコール系溶媒等が挙げられる。なお、これらは、単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0106】
冷媒712の温度としては、パラフィンの融点未満であり、パラフィンの収縮により剥離可能な温度であれば特に制限されない。パラフィンの収縮率はパラフィンの融点に依存するため、マスキング剤A´に用いるパラフィンの融点に応じて適宜設定できる。具体的には、剥離性を良好とするためには、(パラフィンの融点−60)℃以下であることが好ましく、(パラフィンの融点−70)℃以下であることがより好ましく、(パラフィンの融点―80)℃以下であることがより好ましい。一例をあげると、冷媒の温度は、簡便性の点から25℃以下であることが好ましく、より好ましくは10℃以下であり、さらに好ましくは5℃以下であり、特に好ましくは剥離時間短縮の点から0℃以下である。冷媒の温度の下限は特に制限されない。例えば、液体窒素を用いる場合には、−196℃とすることができる。
【0107】
除去装置70はさらに、冷却除去部71によって除去した固体状のマスキング剤A´を冷媒から回収する冷却側回収部72を有し、冷却側回収部72で回収したマスキング剤A´を塗布材料Aとして再利用する。
【0108】
冷却側回収部72は、冷却除去部71において除去され水槽711内に沈殿または浮遊されたマスキング剤A´を回収する。冷却側回収部72は回収したマスキング剤A´の重量に耐えられ、またマスキング剤A´のみを回収できる構成であれば、限定されない。
【0109】
冷却側回収部72において回収されたマスキング剤A´は、そのまま塗布材料Aとして再利用することができる。あるいは、必要に応じて、回収したマスキング剤A´中の不純物、例えば、めっき処理等により生じた金属片や金属粒子、ゴミ・埃など、を除去して再利用してもよい。ただし、必要に応じて、回収されたマスキング剤A´を精製し、再利用してもよい。
【0110】
<塗布材料A>
以下、本実施形態に係る塗布装置10によって塗布される塗布材料A及び塗布材料Aが塗布される被塗布物Wについて説明する。
【0111】
本明細書において、パラフィンとは、炭素原子の数が20以上のアルカン(一般式がC
nH
2n+2の鎖式飽和炭化水素)をいう。パラフィンは化学的安定性が高く、腐食性の高いめっき液やエッチング液等の表面処理剤への耐薬品性(耐アルカリ性・耐酸性)に優れる。このため、パラフィンを含む組成物をめっき処理やエッチング処理等の表面処理の際のマスキング剤A´として用いることができる。パラフィンを含むマスキング剤A´を用いた表面処理は、後述のように、溶融状態の塗布材料Aを、被塗布物Wの表面処理が施されない非処理面に塗布した(マスクパターンを形成した)後に、めっき処理やエッチング処理等の表面処理をし、その後融点未満に冷却することによりマスキング剤A´が固化され、マスキング剤A´が除去される。また、パラフィンは人体への安全性も高いという利点も有し、パラフィンを用いてマスキング剤A´を製造することで、マスキング剤A´の取り扱い性が向上する。
【0112】
本発明において使用可能なパラフィンは特に制限されず、炭素数20〜80の鎖式飽和炭化水素であることが好ましく、炭素数20〜40の鎖式飽和炭化水素であることがより好ましい。また、該パラフィンは直鎖状であっても、分岐状であってもよい。パラフィンは、均一の物質から構成されていてもよいが、通常は炭素鎖が異なる2種類以上の鎖式飽和炭化水素(パラフィン)の混合物である。
【0113】
前記パラフィンの数平均分子量Mnは220〜480であることが好ましく、220〜300であることがより好ましく、220〜260であることがさらに好ましい。これによりパラフィンの融点を所望の範囲とすることができ、被塗布物Wとの密着性及び冷却時の剥離性を向上させることができる。
【0114】
また、パラフィンの平均炭素数は20〜40であることが好ましい。一般に、炭素数が多いほどパラフィンの融点が上昇する。したがって、含有炭素数を変化せることにより、パラフィンの融点を所望の範囲とすることができ、被塗布物Wとの密着性及び冷却時の剥離性を向上させることができる。
【0115】
パラフィンの融点は塗布材料Aの用途により異なるが、常温(25℃)で固体状であるパラフィンが好ましい。より好ましくは、パラフィンの融点が40℃以上であり、さらには50℃以上である。さらに好ましくは60℃以上であり、特に好ましくは65℃以上である。後述するマスキング剤A´の除去や表面処理(めっき処理、エッチング処理)はパラフィンの融点未満の温度で行う必要がある。したがって、かかる場合には、パラフィンを含んで構成されるマスキング剤A´の除去や表面処理を容易に行うことができ、これらの処理温度の選択幅が広いため好ましい。一方、融点の上限は特に制限されないが、融点が200℃以下であればパラフィンを含んで構成される塗布材料Aの塗布を温和な条件で行うことができるため好ましい。一般にパラフィンの融点が上がると温度低下時の収縮率が大きくなり、パラフィンが割れやすくなる。かかる観点から、融点はより好ましくは150℃以下であり、さらに好ましくは100℃以下であり、特に好ましくは85℃以下である。
【0116】
パラフィンとしては、JIS K 2235:2009に規定される石油の減圧蒸留留出油から分離精製して製造されるパラフィンワックス、または、石油鉱物由来の合成パラフィン、合成ワックス等を使用できる。市販品としては、日本精蝋株式会社製「PARAFFINWAX」シリーズを好適な例に挙げることができる。
【0117】
塗布材料Aは、上記パラフィンのみから構成されていてもよい。ただし、塗布材料Aは、パラフィンならびに必要に応じて着色剤及び他の添加剤を含むマスキング組成物であってもよい。
【0118】
塗布材料Aは着色剤を含むことが好ましい。パラフィンは常温において半透明〜白色であるため、着色剤を添加することで、非処理面に塗布された塗布材料Aの視認性が向上する。着色剤としては特に制限されず、従来公知の顔料及び/または染料を使用できる。
【0119】
顔料としては例えば、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet 3、19、23、29、30、37、50、88、Pigment Orange 13、16、20、36などのマゼンタ顔料;Pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17−1、22、27、28、29、36、60などのシアン顔料、Pigment Green 7、26、36、50などの緑顔料;Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94、95、97、108、109、110、137、138、139、153、154、155、157、166、167、168、180、185、193などの黄顔料;Pigment Black 7、28、26などの黒顔料;PigmentWhite 6、18、21などの白色顔料などを目的に応じて使用できる。
【0120】
染料としては、水に実質的に不溶な油溶性染料であることが好ましく、例えば、C.I.ソルベント・ブラック 3,7,27,29及び34;C.I.ソルベント・イエロー 14,16,19,29,30,56,82,93及び162;C.I.ソルベント・レッド 1,3,8,18,24,27,43,49,51,72,73,109,122,132及び218;C.I.ソルベント・バイオレット 3;C.I.ソルベント・ブルー 2,11,25,35,38,67及び70;C.I.ソルベント・グリーン 3及び7;並びにC.I.ソルベント・オレンジ 2;等が挙げられる。なお、本明細書において、油溶性染料とは、25℃での水への溶解度(水100gに溶解できる染料の質量)が1g以下であるものをいい、好ましくは0.5g以下、より好ましくは0.1g以下であるもの)が好ましい。
【0121】
これらの顔料及び/または染料は1種単独で用いてもよく、また、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0122】
塗布材料A中において固体のまま存在する顔料などの着色剤を使用する際には、着色剤粒子の平均粒径を、好ましくは1〜20μm、より好ましくは1〜10μm、より好ましくは1〜5μm、さらに好ましくは1〜2μmとすることが好ましい。かかる範囲であれば、インクジェットノズル24の詰まりを抑制し、保存安定性を維持することができるので好ましい。
【0123】
塗布材料Aは必要に応じて、着色剤の分散性を向上させるための分散剤、塗布材料Aの表面張力を調節するための界面活性剤、粘度調整剤、接着性向上のための接着性付与材、可撓性付与のための可塑剤、あるいは熱安定性を付与するための酸化防止剤等の添加剤の添加剤を含んでもよい。
【0124】
塗布材料Aにおけるパラフィンの含有量は、耐薬品性を十分に発揮させる面から、塗布材料Aの全重量に対して、85重量%以上100重量%未満であることが好ましく、めっき液との化学反応を防止する点から90重量%以上99.99重量%以下であることがより好ましく、めっき液との化学反応をより一層防止する点から95重量%以上99.99重量%以下であることがさらに好ましい。
【0125】
塗布材料Aにおける着色剤の含有量は使用目的により適宜選択されるが、塗布材料Aの塗布性及び着色性を考慮すれば、塗布材料A全体の重量に対し、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.01〜5質量%含有することがより好ましく、0.01〜1質量%含有することがさらに好ましい。
【0126】
塗布材料Aにおけるその他の添加剤の含有量は本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、通常、パラフィン及び着色剤の合計重量(100重量部)に対して、0.1重量部以上10重量部以下が好ましい。
【0127】
着色剤及び/または添加剤を含む塗布材料Aの作製は、溶融状態のパラフィンと、着色剤及び/または添加剤とを、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等の各分散装置を用いて混合することにより行うことができる。
【0128】
塗布材料Aは80℃における粘度が5〜30mPa・sであることが好ましい。かかる範囲であれば、インクジェット方式を含む多様な塗布装置及び塗布方法を採用できる。一般には、吐出後のインク垂れを防ぐ面からは粘度が高い方が良いが、粘度が高すぎるとインクの伸びが悪く、解像度を上げても、均一な塗布面が形成しにくい場合がある。かかる観点から、該粘度は5〜20mPa・sであることが好ましく、8〜20mPa・sであることがより好ましい。塗布材料Aの粘度は、塗布材料Aを構成するパラフィンの組成(鎖式飽和炭化水素の種類及び含有比率)を調整したり、粘度調整剤を添加することにより所望の範囲に調整することができる。
【0129】
本実施形態では、パラフィンワックス(融点95℃)を100重量部、着色剤として顔料を5質量部混合した塗布材料Aを用いた。塗布材料Aの粘度を回転式粘度計(例えば東機産業社製TVB−35等)を用いて測定したところ、80℃において12mPa・sであった。
【0130】
以上の通り構成される塗布除去システム2では、マスキング剤A´が非処理面S2に塗布された被塗布物Wに所定の表面処理を行った後、被塗布物Wの非処理面S2からマスキング剤A´が除去されることによって、被塗布物Wの処理面S1に所定の表面処理が行われる。以下、
図5〜
図9を参照して、被塗布物Wの処理面S1に一例としてめっき処理をする方法について説明する。
【0131】
図5は、塗布除去システム2を含むめっき処理ユニット1を示す図である。めっき処理ユニット1は、塗布除去システム2とめっき浸漬部3とを有する。
図6は、
図5に示されるめっき処理ユニット1によるめっき処理方法を示すフローチャートである。
図7は、
図5に示されるめっき処理ユニット1による各工程終了時の状態を示す図である。
図7(A)は初期状態、
図7(B)は吐出工程終了後、
図7(C)はめっき液浸漬後、
図7(D)は冷却除去工程終了後の被塗布物の図である。
【0132】
S01では、調整部40によって、インクジェット部20の姿勢が調整される(調整工程)。本実施形態では、
図8に示されるように、2つの塗布装置10、すなわち2つのインクジェット部20(第1のインクジェット部20、第2のインクジェット部20´)が設けられている。具体的には、被塗布物Wが互いに異なる2つの方向V1,V2に直交する非処理面S2を有するとき、第1回動部41及び第2回動部42によって、第1のインクジェット部20は、方向V1に塗布材料Aが吐出されるようにX軸及びY軸周りに回動され、第2のインクジェット部20´は、方向V2に塗布材料Aが吐出されるようにX軸及びY軸周りに回動される。
【0133】
さらに、
図9に示されるように、第3回動部43によって、インクジェット部20は被塗布物Wに対してZ軸周りにθ°だけ回動される。インクジェット部20をZ軸周りにθ°だけ回動することによって、インクジェットノズル24の列がY方向からθ°だけ傾斜する。インクジェットノズル24間のピッチをY1とすると、傾斜後のインクジェットノズル24間のピッチのY方向成分Y2はY1×cosθとなる。このようにインクジェットノズル24の列が一列にのみ設けられているため、傾斜後のインクジェットノズル24間のピッチのY方向成分Y2の算出が容易である。傾斜後のインクジェットノズル24間のピッチのY方向成分Y2はY1×cosθで表されるため、傾斜角θを90°に近づけることによってインクジェットノズル24間のピッチのY方向成分Y2を小さくすることができ、インクジェットノズル24間のピッチY1が吐出時の塗布材料Aの径に対して相対的に大きいときであっても、連続して着弾されたマスキング剤A´のY方向にすきまが生じないように塗布することができ、着弾されたマスキング剤A´のY方向のすきまにめっき処理が施されるという不具合を防ぐことができる。
【0134】
S02では、塗布材料Aがタンク部32に投入され、溶融され、連結部33を介してインクジェット部20に供給される(供給工程)。具体的には、固形状または液体状の塗布材料Aがタンク部32に投入される(投入工程)。そして、タンク部32に設けられた第1加熱部31Aによって、固体状の塗布材料Aが140℃まで加熱して溶融される(溶融工程)。そして、連結部33の外周に設けられた第2加熱部31Bによって塗布材料Aの溶融状態が維持され(溶融維持工程)、送出部34によって、タンク部32からインクジェット部20に塗布材料Aが送出される(送出工程)。
【0135】
S03では、インクジェット部20によって塗布材料Aが吐出され、被塗布物Wの非処理面S2に塗布される(吐出工程)。具体的には、連結部33を介して供給された液体状の塗布材料Aはインク流路21を流れ、インク加圧室23に流れ込む。そして非処理面S2にのみ塗布されるよう、複数あるピエゾ22から適切なピエゾ22に適切な電圧を与えて、インク加圧室23を変形させる。そして、インクジェットノズル24から塗布材料A(120℃)が吐出され、非処理面S2に塗布される(
図7(B)参照)。
【0136】
S04では、被塗布物Wがめっき液へ浸漬される。具体的には、非処理面S2にマスキング剤A´が塗布された被塗布物Wがめっき浸漬部3のめっき液へ浸漬される。この結果、被塗布物Wの処理面S1に金属層Mが形成される(
図7(C)参照)。なお、被塗布物Wと金属層Mとの密着性の向上等を目的として、めっき液への浸漬に先立ち、被塗布物Wに対して前処理を施してもよい。前処理としては、例えば、ブラスト処理、アルカリ洗浄、酸洗浄、水洗、有機溶剤洗浄、ボンバード処理等の清浄化処理、エッチング処理、下地層の形成等が挙げられる。金属層Mの構成材料としては、例えば、Ni、Cu、Ag、Au、Cr、Zn、Sn、Sn−Pb合金等が挙げられる。めっき処理により形成される金属層Mの厚さは特に制限されないが、十分な導電性を示すためには0.5μm以上が好ましい。一方、上限は特に制限されない。めっき処理の方法は特に制限されず、例えば、電解めっき法、無電解めっき法等の処理を行うことができる。めっき処理の温度は、めっき溶液の種類およびめっき方法(電解めっき、無電解めっき)により異なる。通常、めっき溶液の温度は、無電解めっきの場合には40〜80℃であり、電解めっきの場合には20〜70℃であり、好ましくは50〜65℃である。ただし、一般的にアルカリ系、シアン系の溶液を用いる場合には電解めっき処理温度は50℃以上である。また、無電解めっき処理は50℃以上で行うことが多い。本発明においては、めっき処理時にマスキング剤A´の溶融が防止できる温度であれば特に制限されず、マスキング剤A´を構成するパラフィンの融点未満とすればよい。好ましくは、パラフィンの融点−10℃以下でめっき処理を行うことが好ましい。特に好ましい態様としては、めっき処理の温度(めっき溶液の温度)+10〜50℃、さらに好ましくはめっき処理の温度(めっき溶液の温度)+10〜30℃の融点のパラフィンを用いてマスキング剤A´を構成する。すなわち、マスキング剤A´を構成するパラフィンの融点−10〜50℃の温度、さらに好ましくはパラフィンの融点−10〜30℃の温度でめっき処理を行うことが特に好ましい。
【0137】
以下に、本実施形態に係るめっき溶液及びめっき条件の一例を挙げる。
【0139】
被塗布物Wを65℃のめっき溶液(pH=4、上記表1に示すめっき溶液)中に1時間浸漬し、0.2〜1μmの厚さの14K金めっき層を形成する。
【0140】
S05では、被塗布物Wからマスキング剤A´が除去される(冷却除去工程)。具体的には、処理面S1に金属層Mが塗布され、非処理面S2にマスキング剤A´が塗布された被塗布物Wが、除去装置70の水槽711内の水に浸漬される。この結果、非処理面S2に塗布されているマスキング剤A´は非処理面S2から除去される(
図7(D)参照)。浸漬時間は、液体の温度によっても異なるが、通常、30秒〜5分間とすることが好ましく、5分〜30分間とすることがより好ましい。また、浸漬中に必要に応じて、超音波振動等を加えてもよい。
【0141】
S06では、めっき処理が終了したかが判断される。めっき処理が終了したと判断された場合(S06:YES)、処理が終了される。
【0142】
一方、めっき処理が終了していないと判断される場合(S06:NO)、S07の処理が行われた後に、S02の処理に戻る。
【0143】
S07では、S05において除去されたマスキング剤A´が冷却側回収部72によって回収される(冷却側回収工程)。具体的には、非処理面S2から除去され、水槽711内を浮遊または沈殿する固形状のマスキング剤A´が回収される。そして、回収されたマスキング剤A´を再度タンク部32に投入して、塗布材料Aとして再利用する。
【0144】
以上のとおり、
図6に示されるフローチャートの処理によるめっき処理方法によれば、微小領域に精度良くかつ容易にめっき処理を行うことができる。
【0145】
また、本実施形態に係る塗布装置10であれば、非処理面S2全てに正確にマスキング剤を塗布することができるため、不要な箇所にまでめっき液が塗布されることはなく、めっき材料のムダを防ぐことができる。
【0146】
<第2実施形態>
次に、
図10を参照して、本発明の第2実施形態に係る塗布除去システム5について説明する。本実施形態は、除去装置170が溶融除去部81及び溶融側回収部82をさらに有する点において、第1実施形態と異なる。以下、第1実施形態に係る塗布除去システム2と共通する部分は説明を省略し、本実施形態に係る塗布除去システム5のみに特徴のある箇所について説明する。
【0147】
本実施形態に係る塗布除去システム5は、
図10に示すように、塗布装置10及び除去装置170を有する。除去装置170は、冷却除去部71と、冷却側回収部72と、溶融除去部81と、溶融側回収部82と、を有する。冷却除去部71及び冷却側回収部72の構成は、第1実施形態と同様であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0148】
溶融除去部81は、冷却除去部71が除去した後の非処理面S2に残留した塗布材料Aを、パラフィンの融点以上の温度の流体Fによって溶融させ、液体状にして被塗布物Wから除去する。
【0149】
溶融除去部81は、液体貯蓄部811と、液体滴下部812と、熱風供給部813と、載置部814と、液体回収部815と、を有する。
【0150】
液体貯蓄部811は、液体F1を貯蓄する。液体貯蓄部811には不図示の熱源が設けられ、液体F1の温度が制御される。
【0151】
液体滴下部812は、載置部814に載置される被塗布物Wに液体F1を滴下する。液体滴下部812は、バルブVを開くことによって、液体F1が貯蓄される液体貯蓄部811から液体F1が供給され、液体F1を滴下する。
【0152】
熱風供給部813は、載置部814に載置される被塗布物Wに熱風F2を供給する。
【0153】
液体回収部815は、液体F1及び液体F1によって溶融されたマスキング剤A´を回収する。
【0154】
液体F1及び熱風F2は流体Fを構成する。
【0155】
液体F1は例えば温水である。なお、これに限られず冷媒712と同様の液体を用いることができる。また、液体F1の温度としては、パラフィンの融点以上であれば特に制限されない。また、熱風F2の温度としても、パラフィンの融点以上であれば特に制限されない。
【0156】
溶融側回収部82は、溶融除去部81によって除去した液体状のマスキング剤A´を固体状にした後に回収する。溶融側回収部82で回収したマスキング剤A´を塗布材料Aとして再利用する。
【0157】
溶融側回収部82は、溶融除去部81において除去され液体回収部815に回収され一定時間経過後において液体回収部815内に沈殿または浮遊されるマスキング剤A´を回収する。溶融側回収部82は回収したマスキング剤A´の重量に耐えられ、またマスキング剤A´のみを回収できる構成であれば、特に限定されない。
【0158】
溶融側回収部82において回収されたマスキング剤A´は、そのまま塗布材料Aとして再利用することができる。あるいは、必要に応じて、回収したマスキング剤A´中の不純物、例えば、めっき処理等により生じた金属片や金属粒子、ゴミ・埃など、を除去して再利用してもよい。ただし、必要に応じて、回収されたマスキング剤A´を精製し、再利用してもよい。
【0159】
以上の通り構成される塗布除去システム5では、マスキング剤A´が非処理面S2に塗布された被塗布物Wに所定の表面処理を行った後、被塗布物Wの非処理面S2からマスキング剤A´が除去されることによって、被塗布物Wの処理面S1に所定の表面処理が行われる。以下、
図6、
図11を参照して、被塗布物Wの処理面S1に一例としてめっき処理をする方法について説明する。なお、
図6に示すS04までは第1実施形態と同様であるため、S05以降の工程について説明する。
【0160】
S05では、被塗布物Wからマスキング剤A´が除去される(冷却除去工程、溶融除去工程)。具体的には、まず第1実施形態において説明したように、冷却除去工程が行われる。
図11は、冷却除去工程終了後の被塗布物Wの図である。
図11に示すように、被塗布物Wの非処理面S2には、マスキング剤A´が残留する。次に、水槽711から被塗布物Wを取り出し、被塗布物Wを載置部814に載置する。次に、熱風供給部813から被塗布物Wに熱風F2を供給し、被塗布物Wの非処理面S2に残留するマスキング剤A´を溶融する。次に、バルブVを開き、液体貯蓄部811に貯蓄される液体F1を液体滴下部812から被塗布物Wの非処理面S2に滴下させる。この結果、液体F1及び液体F1によって溶融されたマスキング剤A´が液体回収部815に回収される。
【0161】
S06では、めっき処理が終了したかが判断される。めっき処理が終了したと判断された場合(S06:YES)、処理が終了される。
【0162】
一方、めっき処理が終了していないと判断される場合(S06:NO)、S07の処理が行われた後に、S02の処理に戻る。
【0163】
S07では、S05において除去されたマスキング剤A´が冷却側回収部72及び溶融側回収部82によって回収される(冷却側回収工程、溶融側回収工程)。回収方法は、第1実施形態と同様であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0164】
<第3実施形態>
次に、
図12を参照して、本発明の第3実施形態に係る塗布除去システム6について説明する。本実施形態は、除去装置270が溶融除去部81及び溶融側回収部82から構成される点において、第1実施形態及び第2実施形態と異なる。
【0165】
本実施形態に係る塗布除去システム6は、
図12に示すように、表面処理が施される処理面S1と表面処理が施されない非処理面S2とを含む被塗布物Wのうち非処理面S2にのみ塗布された、室温で固体であって加熱により液化される熱溶融性の、パラフィンを含むマスキング剤A´である塗布材料Aを、パラフィンの融点以上の温度の液体F1によって溶融させ、液体状にして被塗布物Wから除去する溶融除去部81を有する。また、塗布除去システム6は、溶融除去部81によって除去した液体状のマスキング剤A´を固体状にした後に回収する溶融側回収部82を有し、溶融側回収部82で回収したマスキング剤A´を塗布材料Aとして再利用する。溶融除去部81及び溶融側回収部82の構成は、第2実施形態と同様であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0166】
以下、上述した実施形態の改変例を例示する。
【0167】
(改変例)
上述した実施形態では、調整部40によってインクジェット部20の姿勢を調整して、所定の方向に塗布材料Aが吐出されたが、調整部40が設けられず、予め所定の方向に吐出されるように固定されたホルダーによってインクジェット部が保持されて塗布材料Aが吐出されてもよい。
【0168】
また、上述した実施形態では、送出部34は、ポンプ機構から構成されていたが、タンク部32をインクジェット部20よりも上方に配置することによって溶融した塗布材料Aを高い所から低い所へ流下させて送り出す自然流下機構であってもよい。
【0169】
また、上述した実施形態では、インクジェット部20は2つ設けられていたが、インクジェット部20は、1つであっても3つ以上であってもよい。
【0170】
また、上述した実施形態では、調整部40によってインクジェット部20の姿勢を被塗布物Wに対して調整したが、調整部40によって被塗布物Wの姿勢をインクジェット部20に対して調整してもよい。
【0171】
また、上述した実施形態では、加熱手段31によって塗布材料Aが溶融された後、大気中において表面処理が行われたが、恒温槽の中で塗布材料Aの溶融及び表面処理が行われてもよい。
【0172】
また、上述した実施形態では、表面処理としてめっき処理が行われたが、エッチング処理などの他の表面処理が行われてもよい。