(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記少なくとも1つの弁輪下支持部材は、前記少なくとも1つの弁輪下支持部材の前記位置を、前記実質的に環状の支持部材の長手方向の軸に対して選択的に調節するための調節機構を含む、請求項1に記載の装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は主に、機能障害のある心臓弁を治療するための装置および方法に関し、特に、心臓弁での逆流を受動的に予防または低減する一助として弁下で弁尖を支持するのみならず、弁下組織を支持する、装置および関連の方法に関する。本発明は主に、収縮期に弁尖のテザリングおよび逆流を防ぐ、弁輪下、弁尖の自由縁および弁下組織支持機構を有する人工弁輪システムを提供する。好都合なことに、本発明では、弁尖接合の高さと角度を矯正して正し、弁尖のテザリングを防ぎ、時間の経過に伴う弁の逆流再発の問題を解決するために、心臓弁(僧帽弁および三尖弁)の心室リモデリングを、弁輪レベルと弁輪レベルにまでは至らないレベルで同時に達成する。結果として、本発明は、(機能性僧帽弁逆流症などの)逆流だけでなく、拡張型心筋症および虚血性心筋症によって生じる逆流も治療できる。
【0012】
本発明の一態様の代表例として、
図1Aから
図1Eは、心臓の僧帽弁12(
図2)などの弁に疾患がある場合の血液の逆流に対処するための装置10を示す。
図2に示すように、僧帽弁12は、左心房14と左心室16との間に位置し、収縮時に左心室から左心房への血液の逆流を防ぐよう機能する。僧帽弁12は、D字形の弁輪18を有する。弁輪18は、左心房14と左心室16との間の開口部を画定し、互いに対向する前部20および後部22を含む。僧帽弁12は、2つの弁尖すなわち、前尖24と後尖26とで形成される。これらの弁尖は各々、互いに対向する上面28と下面30とを含む。前尖24は、2つの線維三角(図示せず)の間で、D字形の弁輪18のほぼ平らな基部に沿って延在する。後尖26は、僧帽弁12のD字形の弁輪18の湾曲した部分のまわりに弓形に延在する。腱索32および32’が、それぞれ、僧帽弁前尖24の下位自由縁34と僧帽弁後尖26の下位自由縁36との間で、左心室16の乳頭筋38および38’と繋がっている。
【0013】
図1Aから
図1Eを参照すると、装置10は、実質的に環状の支持部材40と、少なくとも1つの弁輪下支持部材とを備える。弁輪下支持部材は、たとえば、支持部材40に固定された弁輪下後部支持部材42などである。装置10は、僧帽弁輪18の鞍形に対応する三次元(3D)形状を有する。この3D形状がゆえに、心周期に伴う複雑な生理学的運動の間、装置10で僧帽弁12の3D形状を補助することができる。これによって、弁尖切除術および/または弁輪形成術の必要性がなくなる。装置10は、僧帽弁12のそば(たとえば、弁輪18内または弁輪18上)に移植されると、心周期の間も変形することなく受動的に弁尖を支える助けとなるからである。
【0014】
実質的に環状の支持部材40は、少なくとも、第1の中間部44と、第2の中間部46と、第1の中間部と第2の中間部との間に延在する後側端部48と、を備える。本明細書で使用する場合、「実質的に環状の」という表現は、円形または半円形に構成された環状の支持部材40を説明するのに使用できる。よって、「実質的に環状の」という表現は、完全に環状、完全に円形、楕円形、部分的に円形、C字形、D字形、U字形などの環状支持部材40をいうことができる。本明細書で使用する場合、「実質的に」という表現は、動き、特徴、特性、状態、構造、事柄または結果の程度または度合いが完全またはほぼ完全であることであるということができる。たとえば、「実質的に」環状である環状支持部材40とは、その支持部材が、完全に環状であるかほぼ完全に環状であることを意味することになろう。絶対的な環状から厳密にどの程度までのずれが許容されるかは、場合によっては、個々の文脈に依存する。しかしながら、一般論として、全体としての結果が絶対的かつ完全な環状にした場合と同じになるように環状に近づけることになる。
【0015】
図1Aから
図1Cに示されるように、実質的に環状の支持部材40は、完全に環状で、第1の中間部44と、第2の中間部46と、第1の中間部と第2の中間部との間に延在する後側端部48と、第1の中間部と第2の中間部との間に延在し、後側端部と対向する前側端部50と、を備えてもよい。あるいは、
図1Fから
図1Gに示されるように、実質的に環状の支持部材40は、部分的に環状で、第1の中間部44と、第2の中間部46と、第1の中間部と第2の中間部との間に延在する後側端部48と、を備えてもよい。
【0016】
前側端部50は僧帽弁輪18の前部20、後側端部48は後部22に取り付けられるような寸法である。たとえば、後側端部48、第1の中間部44、第2の中間部46は、後側端部が前側端部50に対して凹形になるように、連続した弧を形成する。同様に、前側端部50、第1の中間部44、第2の中間部46は、前側端部が後側端部48に対して凸形になるように、連続した弧を形成する。
図1Dに示されるように、実質的に環状の支持部材40は、長手方向の軸LAも含む。実質的に環状の支持部材40は、剛性の構成を有するものであっても、半剛性の構成を有するものであってもよい。
【0017】
また、装置10は、第1の位置52で実質的に環状の支持部材に直接しっかりと接続された少なくとも1つの弁輪下後部支持部材42も含む。
図1Aから
図3Bに示されるように、たとえば、装置10は、弁輪下後部支持部材42を1つしか含まない。弁輪下後部支持部材42は、装置10を僧帽弁輪18の上または周囲に移植した際に、僧帽弁後尖26の下かつ少なくとも1つの弁下構造を横切るかまたはその後ろに延在するような寸法、形状、構成に作られている。僧帽弁12と繋がった弁下構造は、後尖の下位自由縁36などの後尖26の下面、前尖の下位自由縁34などの前尖24の下面、後尖と繋がった腱索32、前尖と繋がった腱索32’、後尖の腱索と繋がった1本または2本以上の乳頭筋38、前尖の腱索と繋がった1本または2本以上の乳頭筋38’、これらの組み合わせを含み得るが、これらに限定されるものではない。
【0018】
弁輪下後部支持部材42は、単一の弁下構造全体、2つまたは3つ以上の弁下構造全体、単一の弁下構造の一部または2つまたは3つ以上の弁下構造の一部を横切るかまたはその後ろに延在するような形状、構成、寸法に作られていてもよい。たとえば、弁輪下後部支持部材42は、僧帽弁後尖26の下かつ僧帽弁後尖の下位自由縁36の一部を横切るかまたはその後ろに延在するか、あるいは、僧帽弁後尖の下位自由縁のみの一部を横切るかまたはその後ろに延在するよう構成されていてもよい。また、弁輪下後部支持部材42は、僧帽弁後尖26の下かつ、僧帽弁後尖と繋がった腱索32全体および/または1本以上の乳頭筋38か、あるいは、僧帽弁後尖の腱索の一部を横切るかまたはその後ろに延在するよう構成されていてもよい。これらの事例の一方または両方において、僧帽弁後尖の可動制限を防止または低減し、ひいては、僧帽弁12を通る血液の逆流を防止または低減するために、弁輪下後部支持部材42の形状は、僧帽弁後尖26、特にその下位自由縁26の3D形状を忠実に反映している。
【0019】
図1Dに示されるように、弁輪下後部支持部材42は、実質的に環状の支持部材40の長手方向の軸LAから角度Aかつ、この軸の下に距離Dの位置に延在している。弁輪下後部支持部材42の角度Aは、弁輪下後部支持部材が最適な弁尖接合を容易にするようなものである。本発明の一実施例では、角度Aは、約10°から約60°の間(たとえば、約30°)であってもよい。同様に、距離Dは、弁輪下後部支持部材42が僧帽弁後尖26の下に延在して、弁輪下後部支持部材で最適な弁尖接合を容易にできるようなものである。
【0020】
弁輪下後部支持部材42は、剛性の構成を有するものであっても、半剛性の構成を有するものであってもよい。弁輪下後部支持部材42が半剛性の構成を持つ場合、たとえば、弁輪下後部支持部材は、さまざまな位置まで屈曲可能または調節可能なものであってもよい。それに加えてあるいは任意に、弁輪下後部支持部材42は、その位置を長手方向の軸LAに対して選択的に調節するための調節機構54(
図1Hから
図1K)を含んでもよい。
図1Iに示されるように、調節機構54を用いることで、装置10の移植前、移植時および/または移植後に、弁輪下後部支持部材42の角度Aおよび/または距離Dおよび/または横方向位置LPを、選択的に調節できるようになる。
【0021】
弁尖接合を最適化するために、解剖学的な弁尖構成、弁下組織構成(たとえば、腱索32および32’ならびに乳頭筋38および38’など)、および/または自由縁の弁尖接合角に応じて、弁輪下後部支持部材42の角度Aおよび/または距離Dおよび/または横方向位置LPを、選択的に調節可能である。横方向位置LPとは、弁輪下後部支持部材42の、実質的に環状の支持部材40の後側端部48との相対位置かつ長手方向の軸LAと平行な(または実質的に平行な)軸に沿った位置をいう。
図1Jに示されるように、調節機構54は、弁輪下後部支持部材42の横方向位置LPを、あらかじめ設定された位置(矢印と点線で示す)に調節するよう動作可能である。たとえば、装置10は、3箇所のあらかじめ設定された位置(「1」、「2」、「3」で示す)を含んでもよい。調節機構54が、弁輪下後部支持部材42の角度Aおよび/または距離Dをあらかじめ設定された位置に調節するよう動作可能であってもよいことは、自明であろう。
【0022】
本発明の一実施例では、調節機構54は、少なくとも一部が実質的に環状の支持部材40内に配置され、弁輪下後部支持部材42と作動的に接続されたねじ(たとえば、ラチェット様の機構)などの作動部材56(
図1Hおよび
図1J)を含んでもよい。作動部材56を選択的に操作(たとえば、回転、押す、引くなど)して、弁輪下後部支持部材42の角度Aおよび/または距離Dおよび/または横方向位置LPを調節(たとえば、増やすまたは減らすなど)することが可能である。
【0023】
作動部材56は、調節具58(
図1Iから
図1K)によって選択的に操作可能である。調節具58の構成は、弁輪下後部支持部材42の位置を、どの時点で調節したいのかに左右されることになる。開胸手術時に調節が必要な場合、たとえば、調節具58を、外科医が手で容易に持って操作できるねじ回しまたは他の同様の装置のように構成できる(
図1J)。あるいは、装置10の移植後に調節が必要な場合、調節具58を、弁輪下後部支持部材42の経皮的な調節を可能にすべくカテーテルのように構成できる(
図1Iおよび
図1K)。
【0024】
一般論として、作動部材56は、経皮的中隔心筋焼灼術(
図1K)を用いて、電磁力(後述)を用いて、および/または心エコーガイダンスによって、直視下心臓手術時の直視下で選択的に操作可能である。たとえば、心肺バイパスから外れた後、作動部材を操作して弁輪下後部支持部材42を(たとえば、心エコーガイダンス下で)調節し、最適な弁尖接合角を達成することで、僧帽弁および/または三尖弁の逆流を排除できるように、調節具58を磁力によって作動部材56の左に取り付け、左心房壁を通って外に出すことができる。その後、磁力を開放し、調節具58を引っ込めればよい。
【0025】
調節機構54が、弁輪下後部支持部材42の選択的な調節を可能にする他の構成をとってもよいことは、自明であろう。たとえば、弁輪下後部支持部材42の全体または一部のみを、エネルギーを選択的に印加することで形状(および向き)を調節できる形状記憶材料で作製してもよい。時間の経過とともに、僧帽弁および/または三尖弁の再発逆流が生じた場合、好都合なことに、調節機構54がゆえ、さらに直視下心臓手術をする必要なく、弁輪下後部支持部材42の位置を調節できる。
【0026】
弁輪下後部支持部材42(
図1C)は、係合部60と、係合部から第1の位置52まで延在する一体型の首部62とを含む。係合部60は、少なくとも1つの弁下構造と接触するよう構成され、通常は細長いS字構成を有する。係合部60は、断面の形状が円形であってもよいし、V字形であってもよく、楕円形でも四角形でもよく、他のどのような幾何学的形状の断面であってもよい。係合部60は、弓形に構成されていてもよい。
図1Cに示されるように、たとえば、係合部60は、実質的に環状の支持部材40の後側端部48に対して凸形であってもよい。
【0027】
首部62は、係合部60と一体に形成される。首部62は、それぞれの僧帽弁の弁尖24および26の交連のうちの1つの間、あるいはほぼ間に延在するような寸法になっている。それ自体、第1の位置52は一般に、交連のうちの1つと隣接しているが、必ずしもそうでなくてもよい。
図1Bから
図1Cに示されるように、首部62は、(第1の位置52で)実質的に環状の支持部材40および係合部60と一体に形成された、互いに対向して配置された第1の端64および第2の端66を有する。たとえば、首部62の第1の端64は、実質的に環状の支持部材40の第2の中間部46と一体に形成されている。
【0028】
装置10の全体または一部のみを、剛性材料で作製してもよいし、手で変形できるが、移植後(すなわち、通常の生理学的応力にさらされたとき)には変形せずに保てるだけの剛性を持つ半剛性材料で作製してもよい。装置10を構成するための材料の非限定的な例として、生体適合性で、金属合金などの医療グレードの金属、プラスチック、ニチノール、ステンレス鋼、チタン、熱分解カーボン、コバルトクロムなどがあげられる。
【0029】
装置10の全体または一部のみを、生体適合性材料の層68で覆ってもよい(
図1E)。生体適合性材料の層68は、DACRON、ベロア生地、ポリウレタン、PTFE、ePTFEまたはヘパリンコーティング布などの合成材料を含んでもよい。あるいは、層68は、ウシまたはウマの心膜、同時移植片、患者のグラフトまたは細胞播種組織などの生物学的材料を含んでもよい。層68は、実質的に環状の支持部材40および/または弁輪下後部支持部材42の内面、実質的に環状の支持部材および/または弁輪下後部支持部材の外面を覆ってもよいし、内面と外面の両方を包んでいてもよい。
図1Eに示されるように、たとえば、層68は、実質的に環状の支持部材40の外周全体に取り付けられていてもよい。層68は、装置10のどの部分を覆ってもよいことに、注意されたい。
【0030】
同じく
図1Cに示されるように、層68は、装置10を僧帽弁輪18に取り付けやすくするための少なくとも1つのマーカー70を含んでもよい。マーカー70は、縫合糸による配置を容易にするためのあらかじめ形成された穴および/または装置10を生体内で安定させるのに縫合糸をどこに配置すればよいかを示す色の目印を含んでもよい。1箇所または複数箇所の所望の部分の周辺に追加の生体適合性層を含むことによって、移植および弁尖接合を容易にすべく、装置10の一部を線維三角(図示せず)の高さで拡大または補強してもよいことに注意されたい。
【0031】
装置10の少なくとも一部を、心室および/または心臓組織に溶出できる治療薬のうちの1つまたは組み合わせで処理してもよい。この治療薬は、不整脈、血栓症、狭窄、アポトーシス、炎症を含むがこれに限定されるものではない、多岐にわたる病態を予防できるものであってもよい。このため、治療薬は、抗不整脈剤、抗凝血剤、酸化防止剤、血栓溶解薬、ステロイド、抗アポトーシス剤、抗異常増殖剤(すなわち、上皮細胞の異常増殖を予防できる)および/または抗炎症剤のうちの少なくとも1つを含んでもよい。任意にまたはそれに加えて、治療薬は、微生物感染および心不全などの他の疾患または疾患過程を治療または予防できるものであってもよい。これらの場合、治療薬は、抗微生物剤(たとえば、抗菌薬など)、強心薬、変時性薬および/または生物学的製剤(細胞またはタンパク質など)を含んでもよい。
【0032】
本発明のもうひとつの態様を、
図3Aから
図3Dに示す。
図3Aから
図3Dに示される装置10は、後述する点を除いて、
図1Aから
図1Iに示される装置10と同じに構成されている。
図3Aから
図3Dでは、
図1Aから
図1Iの構造と同じ構造には同一の参照符号を使用するが、類似してはいるが同一ではない類似構造には添字「a」を付す。装置10
aは、上述したどのような材料で構成してもよく、この装置が、同じく上述したように生体適合性材料の層68および/または1種類以上の治療薬を含んでもよいことに、注意されたい。
【0033】
図3Aから
図3Bに示されるように、弁輪下後部支持部材42
aは、互いに離れた第1の係合部72および第2の係合部74を含む二股分岐構成を有してもよい。第1の係合部72および第2の係合部74は、(中心軸CAを基準に)互いに距離D1(
図3A)だけ離れ、軸方向にずれていてもよい。通常、距離D1は、僧帽弁の解剖学的構造、被験者が患っている個々の弁の機能不全状態などの要因に応じて変更可能である。特に、距離D1は、第1の係合部72および第2の係合部74と、1つまたは2つ以上の弁下構造との接触を容易にするよう変更可能である。たとえば、距離D1は、第1の係合部72が、僧帽弁後尖26の下位自由縁36の一部と接触し、第2の係合部74が、僧帽弁後尖と繋がった腱索32および/または1本以上の乳頭筋38の一部と接触するように変更可能である。
【0034】
図3Cから
図3Dに示されるように、弁輪下後部支持部材42は、開口134が延在する、弓形でループ状の構成を有するものであってもよい。弁輪下後部支持部材42の係合部60は、実質的に環状の支持部材40の前側端部50に対して凹形を有するものであってもよい。また、弁輪下後部支持部材42の係合部60は、少なくとも1つの弁下構造の全体または一部のみを横切るかまたはその後ろに延在してもよい。
【0035】
本発明のもうひとつの態様を、
図4Aから
図4Eに示す。
図4Aから
図4Eに示される装置10
bは、後述する点を除いて、
図1Aから
図1Iに示される装置10と同じに構成されている。
図4Aから
図4Eでは、
図1Aから
図1Iの構造と同じ構造には同一の参照符号を使用するが、類似してはいるが同一ではない類似構造には添字「b」を付す。装置10
bは、上述したどのような材料で構成してもよく、同じく上述したように生体適合性材料の層68および/または1種類以上の治療薬を含んでもよいことに、注意されたい。
【0036】
図4Aから
図4Bに示されるように、弁輪下後部支持部材42
bは、互いに離れた第1の係合部72および第2の係合部74を含む二股分岐構成を有してもよい。第1の係合部72および第2の係合部74は、(中心軸CAを基準に)互いに距離D2だけ離れ、半径方向にずれていてもよい。通常、距離D2は、僧帽弁の解剖学的構造、被験者が患っている個々の弁の機能不全状態などの要因に応じて変更可能である。特に、距離D2は、第1の係合部72および第2の係合部74と、1つまたは2つ以上の弁下構造との接触を容易にするよう変更可能である。たとえば、距離D2は、第1の係合部72が、僧帽弁前尖24の下位自由縁34および/または僧帽弁前尖と繋がった腱索32’(および/または1本以上の乳頭筋38’)の一部と接触し、第2の係合部74が、僧帽弁後尖26の下位自由縁36および/または僧帽弁後尖と繋がった腱索32(および/または1本以上の乳頭筋38’)の一部と接触するように変更可能である。
図4Cから
図4Eに示され、かつ、詳細については後述するように、装置10
bがしっかりと移植されると、2つのレベルの心室リモデリングが起こり得る。
【0037】
本発明のもうひとつの態様を、
図5Aから
図5Bに示す。
図5Aから
図5Bに示される装置10
cは、後述する点を除いて、
図1Aから
図1Bに示される装置10と同じに構成されている。
図5Aから
図5Bでは、
図1Aから
図1Bの構造と同じ構造には同一の参照符号を使用するが、類似してはいるが同一ではない類似構造には添字「c」を付す。装置10
cは、上述したどのような材料で構成してもよく、同じく上述したように生体適合性材料の層68および/または1種類以上の治療薬を含んでもよいことに、注意されたい。
【0038】
この装置は、Y字形またはフォーク形の弁輪下支持部材76を含む。弁輪下支持部材76は、弁輪下後部支持部80と対向して設けられた弁輪下前部支持部78を有する。弁輪下前部支持部78および弁輪下後部支持部80は、実質的に環状の支持体40部材の第1の位置52で、共通の首部82を介して一体に接続されている。第1の位置52は、第1の中間部44または第2のおよび46のいずれかにあってもよく、僧帽弁交連に隣接して位置してもよい。
【0039】
図5Aに示されるように、弁輪下前部支持部78および弁輪下後部支持部80は各々、互いに離れた第1の係合部72および第2の係合部74を有する。第1の係合部72および第2の係合部74は、(中心軸CAを基準に)互いに距離D1だけ離れ、軸方向にずれていてもよい。あるいは、弁輪下前部支持部78および弁輪下後部支持部80は各々、細長いループ形の構成を有するものであってもよい(
図5B)。弁輪下前部支持部78は、弁輪下後部支持部80から、距離D2だけ半径方向に離れている。距離D1および/または距離D2は、弁尖接合を最適化するよう変更可能であることは、自明であろう。
【0040】
本発明のもうひとつの態様を、
図6Aから
図6Cに示す。
図6Aから
図6Cに示される装置10
dは、後述する点を除いて、
図1Aから
図1Iに示される装置10と同じに構成されている。
図6Aから
図6Cでは、
図1Aから
図1Iの構造と同じ構造には同一の参照符号を使用するが、類似してはいるが同一ではない類似構造には添字「d」を付す。装置10
dは、上述したどのような材料で構成してもよく、同じく上述したように生体適合性材料の層68および/または1種類以上の治療薬を含んでもよいことに、注意されたい。
【0041】
図6Aから
図6Cに示されるように、装置10
dは、実質的に環状の支持部材40と、これにしっかりと接続された、弁輪下前後支持部材180とを有する。実質的に環状の支持部材40は、全体が環状で、第1の中間部44、第2の中間部46、第1の中間部と第2の中間部との間に延在する後側端部48、後側端部に対向して、第1の中間部と第2の中間部との間に延在する前側端部50を含むものであってもよい。あるいは、実質的に環状の支持部材40は、部分的に環状で、第1の中間部44、第2の中間部46、第1の中間部と第2の中間部との間に延在する後側端部48を含むものであってもよい。
【0042】
前側端部50および後側端部48はそれぞれ、僧帽弁輪18の前部20および後部22に取り付けられる寸法になっている。たとえば、後側端部48、第1の中間部44、第2の中間部46は、前側端部50に対して後側端部が凹形になるように、連続した弧を形成している。同様に、前側端部50、第1の中間部44、第2の中間部46は、後側端部48に対して前側端部が凸形になるように、連続した弧を形成している。
図1Dに示される装置10のように、装置10
dの実質的に環状の支持部材40も、長手方向の軸LAを含む。実質的に環状の支持部材40は、剛性の構成であっても半剛性の構成であってもよい。
【0043】
弁輪下前後支持部材180は、装置10
dを僧帽弁輪18上またはその周囲に移植する際に、僧帽弁後端26および僧帽弁前尖24の下かつ、少なくとも1つの弁下構造を横切るかまたはその後ろに延在するような寸法、形状、構成に作られている。弁輪下前後支持部材180は、第1の位置52で、実質的に環状の支持部材40に、直接しっかりと接続されている。
図6Aに示されるように、たとえば、弁輪下前後支持部材180は、第2の中間部46に、直接しっかりと接続されている。図示はしていないが、弁輪下前後支持部材180を、第1の中間部44に直接しっかりと接続してもよいことは、自明であろう。
【0044】
弁輪下前後支持部材180は、首部62を介して実質的に環状の支持部材40に一体かつ直接的に接続されたフック形の係合部182を含む。係合部182はさらに、第1の係合部184と、第2の係合部186と、第1の係合部と第2の係合部との間に延在する屈曲部188とを含む。第1の係合部184および第2の係合部186は各々、少なくとも1つの弁下構造を横切るかまたはその後ろに延在するよう構成された、連続した、弧状(または弓形)の構成を有する。第1の係合部184および第2の係合部186は、実質的に環状の支持部材40の前側端部50に対して、(それぞれ)凹形および凸形を有するものであってもよい。
【0045】
第1の係合部184は、後尖26の下面(後尖の下位自由縁36など)、後尖と繋がった腱索32、後尖の腱索と繋がった1本または2本以上の乳頭筋38、これらの組み合わせなど、少なくとも1つの弁下構造を横切るかまたはその後ろに延在するよう構成されている。また、第2の係合部186は、前尖24の下面(前尖の下位自由縁34など)、前尖と繋がった腱索32’、前尖の腱索と繋がった1本または2本以上の乳頭筋38’、これらの組み合わせなど、少なくとも1つの弁下構造を横切るかまたはその後ろに延在するよう構成されている。
【0046】
第1の係合部184および第2の係合部186は、横方向にみて同一面内(すなわち、長手方向の軸LAの下またはこれと平行または実質的に平行に延在する面)に位置していてもよいし、中心軸CAを基準に互いにずれていてもよい。このように、第1の係合部184および第2の係合部186は、同一または異なる対応の弁下構造に接触するよう位置していてもよい。第1の係合部184および第2の係合部186が互いにずれている場合、たとえば、第1の係合部は、後尖26の下面(たとえば、後尖の下位自由縁36など)を横切るかまたはその後ろに延在するよう構成されていてもよく、第2の係合部は、前尖24と繋がった腱索32’を横切るかまたはその後ろに延在するよう構成されていてもよい。
【0047】
弁輪下前後支持部材180の別の構成を、
図6Bから
図6Cに示す。
図6Bに示されるように、弁輪下前後支持部材180の係合部182は、互いに離れた第1の係合部材190および第2の係合部材192を含む二股分岐構成を有してもよい。第1の係合部材190および第2の係合部材192は、(中心軸CAを基準に)互いに距離D1だけ離れ、軸方向にずれていてもよい。通常、距離D1は、僧帽弁の解剖学的構造、被験者が患っている個々の弁の機能不全状態などの要因に応じて変更可能である。特に、距離D1は、第1の係合部材190および第2の係合部材192と、1つまたは2つ以上の弁下構造との接触を容易にするよう変更可能である。上述したように、第1の係合部材190および第2の係合部材192は各々、第1の係合部184および第2の係合部186を含む。
【0048】
図6Cに示されるように、弁輪下前後支持部材180の係合部182は、開口134が延在する、弓形でループ状の構成を有するものであってもよい。ループ形の係合部182は、共通の弓形屈曲部194で接合される第1の係合部材190および第2の係合部材192を含んでもよい。第1の係合部材190および第2の係合部材192は、(中心軸CAを基準に)互いに距離D1だけ離れ、軸方向にずれていてもよい。通常、距離D1は、僧帽弁の解剖学的構造、被験者が患っている個々の弁の機能不全状態などの要因に応じて変更可能である。
【0049】
装置10
dは、それに加えてまたは任意に、
図1Aから
図1Bに示される装置10のような他の特徴ならびに上述した他の特徴を含んでもよいことは、自明であろう。たとえば、装置10
dは、調節可能な機構54、生体適合性材料の層68、装置を僧帽弁輪18に取り付けやすくするための少なくとも1つのマーカー70および/または治療薬のうちの1つまたは組み合わせを含んでもよい。
【0050】
本発明のもうひとつの態様を、
図7Aから
図7Cに示す。
図7Aから
図7Cに示される装置10
eは、後述する点を除いて、
図1Aから
図1Iに示される装置10と同じに構成されている。
図7Aから
図7Cでは、
図1Aから
図1Iの構造と同じ構造には同一の参照符号を使用するが、類似してはいるが同一ではない類似構造には添字「e」を付す。装置10
eは、上述したどのような材料で構成してもよく、同じく上述したように生体適合性材料の層68および/または1種類以上の治療薬を含んでもよいことに、注意されたい。
【0051】
図7Aから
図7Cに示されるように、装置10
eは、実質的に環状の支持部材40、第1の弁輪下後部支持部材42’、第2の弁輪下後部支持部材42’’を含む。実質的に環状の支持部材40は、完全に環状で、第1の中間部44と、第2の中間部46と、第1の中間部と第2の中間部との間に延在する後側端部48と、第1の中間部と第2の中間部との間に延在し、後側端部と対向する前側端部50と、を備えてもよい。あるいは、実質的に環状の支持部材40は、部分的に環状で、第1の中間部44と、第2の中間部46と、第1の中間部と第2の中間部との間に延在する後側端部48と、を備えてもよい。
【0052】
前側端部50は僧帽弁輪18の前部20、後側端部48は後部22に取り付けられるような寸法である。たとえば、後側端部48、第1の中間部44、第2の中間部46は、後側端部が前側端部50に対して凹形になるように、連続した弧を形成する。同様に、前側端部50、第1の中間部44、第2の中間部46は、前側端部が後側端部48に対して凸形になるように、連続した弧を形成する。
図7Cに示されるように、実質的に環状の支持部材40は、長手方向の軸LAも含む。実質的に環状の支持部材40は、剛性の構成を有するものであっても、半剛性の構成を有するものであってもよい。
【0053】
第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’は、装置10
eを僧帽弁輪18上またはその周囲に移植する際に、僧帽弁後尖26の下かつ少なくとも1つの弁下構造を横切るかまたはその後ろにするような寸法、形状、構成に作られている。第1の弁輪下後部支持部材42’は、第1の位置52で、実質的に環状の支持部材40に、直接しっかりと接続され、第2の弁輪下後部支持部材42’’は、第1の位置とは異なる第2の位置84で、実質的に環状の支持部材に、直接しっかりと接続されている。
図7Aに示されるように、たとえば、第1の弁輪下後部支持部材42’は、第1の中間部44に直接しっかりと接続され、第2の弁輪下後部支持部材42’’は、第2の中間部46に、直接しっかりと接続されている。
【0054】
第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’の各々は、実質的に環状の支持部材40の長手方向の軸LAから、それぞれ角度A1およびA2(
図7C)で、距離D3およびD4だけ下に延在している。第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’各々の角度A1およびA2は、第1の弁輪下後部支持部材および第2の弁輪下後部支持部材がそれぞれ、最適な弁尖接合を容易にするようなものである。本発明の一実施例では、第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’のうちの一方または両方の角度A1およびA2は、約10°から約60°の間(たとえば、約30°)であってもよい。角度AlおよびA2は、同一であっても異なっていてもよいことは、自明であろう。同様に、距離D3およびD4は、第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’各々の一部が、僧帽弁後尖26の下に延在して、第1および第2の弁輪下後部支持部材が、最適な弁尖接合を容易にできるようなものである。また、距離D3およびD4が同一であっても異なっていてもよいことも、自明であろう。
【0055】
第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’は各々、
図1Aから
図1Bに示して上述した弁輪下後部支持部材42と同様に構成されていてもよいし、同じに構成されていてもよい。たとえば、第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’は各々、係合部60(
図7A)と、係合部から第1の位置52まで延在する一体型の首部62とを含む。第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’各々の係合部60は、各係合部が、実質的に環状の支持部材40の前側端部50に対して凹形になるような弓形であってもよい。
【0056】
装置10
eは、
図1Aから
図1Bに示される装置10のような他の特徴ならびに上述した他の特徴を含んでもよいことは、自明であろう。たとえば、装置10
eは、調節可能な機構54、生体適合性材料の層68、装置を僧帽弁輪18に取り付けやすくするための少なくとも1つのマーカー70および/または治療薬のうちの1つまたは組み合わせを含んでもよい。
【0057】
本発明のもうひとつの態様を、
図8Aから
図9Cに示す。この態様は、逆流のある僧帽弁12を通る血流の逆流を治療するための方法を含む。以下、
図7Aから
図7Bに示される装置10
eを用いて本発明の方法について説明するが、疾患のある僧帽弁を通る血流の逆流を治療するのに、本明細書に記載のどの装置を用いてもよいことに、注意されたい。たとえば、
図13Aから
図13Bに示される装置10
fを使用して、機能障害(たとえば、可動制限など)のある僧帽弁前尖24を治療してもよい。
【0058】
上述したように、装置10
e(
図7Aから
図7B)は、鞍形で、3D構成が僧帽弁輪18に取り付けられるようになった、D字形の環状支持部材40を含む。また、装置10
eは、互いに対向して配置され、それぞれ実質的に環状の支持部材40の第1の中間部44および第2の中間部46と一体に形成された第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’を含む。
図7Aから
図7Bには図示していないが、装置10
eの全体または一部のみ(たとえば、実質的に環状の支持部材40など)を、縫合リングなどの生体適合性材料の層68で覆ってもよいことは、自明であろう。
【0059】
逆流のある僧帽弁12を治療するために、僧帽弁の寸法は、まず、装置10
eに最適な寸法を決めるために得られる。バルブサイジング装置を使用して、僧帽弁12のサイジングをすることができる。バルブサイジング装置の例は、従来技術において知られており、ATS OPEN PIVOT STANDARD SIZERシリーズ(ATS Medical, Inc. Minneapolis, MN)などの市販のサイザーを含んでもよい。本発明の一実施例では、僧帽弁12の寸法は、Naviaの米国特許出願公開第2009/0132036号(A1)(以下、「’036出願」)に開示されたバルブサイジング装置86を用いて決定でき、その内容全体を本明細書に援用する。
【0060】
図8Aから
図8Cに示されるように、サイジング装置86は、サイジング部材90にしっかりと取り付けられたハンドル部材88を含む。ハンドル部材88は、遠位側取付部94に流体接続されたハンドル92を含む。ハンドル92は、サイジング装置86を案内するためのものであり、遠位側取付部94は、ハンドルをサイジング部材90に接続するためのものである。
図8Bから
図8Cを参照すると、サイジング部材90は、前側端部98と、後側端部100と、互いに対向し、前側端部と後側端部との間に延在する第1の中間部102および第2の中間部104と、を有する環状の支持部材96を含む。環状の支持部材96は、平坦な構成(
図8B)を有し、3Dまたは鞍形構成であってもよい。
【0061】
サイジング部材90は、長手方向の軸106(
図8B)を画定し、ハンドル部材88の遠位側取付部94と嵌合させるための開口など、取付機構110を有するブレージング部108を含む。
図8Bに示されるように、ブレージング部108は、環状の支持部材96の長手方向の軸106の上に延在する。サイジング部材90はさらに、心臓弁の弁尖(たとえば、後尖26の下面(下位自由縁36など))と弁下組織(たとえば、腱索32および32’および/または1本以上の乳頭筋38および38’)を支持するための弁輪下支持部材112を含む。
図8Bに示されるように、弁輪下支持部材112は、環状の支持部材96の長手方向の軸106の下に延在する。本発明の一実施例では、弁輪下支持部材112は、僧帽弁後尖26の下に延在し、少なくとも1つの弁下構造と係合するような寸法に作られていてもよい。
【0062】
サイジング装置86を用いて僧帽弁12の寸法を判断するために、開胸手術で僧帽弁に到達する。この手術時、サイジング装置86、特にサイジング部材90を僧帽弁12の上面周囲に位置決めできるように、僧帽弁12を可視化する。サイジング部材90を左心房14に案内するためのハンドル92を使用して、環状の支持部材96が僧帽弁の弁輪18と接触し、弁輪下支持部材112が後ろから少なくとも1つの弁下構造と接触または係合するように、サイジング装置86を僧帽弁12の周囲に位置決めする。
【0063】
次に、僧帽弁12を通る血流を監視して、僧帽弁の前尖24と後尖26との間の接合を評価する。僧帽弁の実質的に正常な接合が観察されるまで、寸法の異なる複数のサイジング部材90を僧帽弁12の上に配置してもよい。「正常な血流」とは、生理学的に正常な圧力下かつ生理学的に正常な速度で、とどこおりなく進む哺乳類の弁または脈管構造を通る血液の移動をいうことができる。僧帽弁12を通る実質的に正常な血流が観察されたら、サイジング部材90の寸法を記録し、そのサイジング部材の寸法に対応する寸法の装置10
eを移植用に選択する。あるいはまたはそれに加えて、生理食塩水試験を用いて、僧帽弁12を通る血流と適切な弁尖接合とを評価してもよいことに、注意されたい。
【0064】
適切な寸法の装置10
eを選択後、この装置を、’036出願に開示されているものなどの送達装置114またはホルダー(
図8Dから
図8E)に取り付ける。
図8Dから
図8Eに示されるように、送達装置114またはホルダーは、前側端部118と、後側端部120と、互いに対向し、前側端部と後側端部との間に延在する第1の中間部122および第2の中間部124と、を有するリング形の支持部材116を含む。送達装置114またはホルダーは、サイジング装置86の遠位側取付部94(またはそれに近いもの)に接続するための開口などの取付機構126を含む。リング形の支持部材116は、断面C字形であり、この断面がチャネル128(
図8E)を画定している。チャネル128は、リング形の支持部材116の周縁のまわりに延在し、装置10
eを送達装置114またはホルダーに取り付けやすくするための複数の延長部130を含む。送達装置114またはホルダーは、装置10
eを送達装置またはホルダーに取り付けるために縫合糸が通る複数の縫合糸取付点132も含む。異なる点132で縫合糸を切断することで、装置10
eを取り外すことができる。
【0065】
装置10
eの移植術を開始するにあたり、シリコーンチューブ(図示せず)を僧帽弁12の少なくとも1つの交連に通し、僧帽弁後尖26と繋がった腱索32および32’および/または1本以上の乳頭筋38および38’などの少なくとも1つの弁下構造の後ろに配置する。装置10
eを送達装置114にしっかりと取り付けたら、縫合糸(図示せず)を僧帽弁輪18に配置する。その後、僧帽弁12の上面周囲で送達装置114を位置決めする。次に、縫合糸を1つ以上のマーカー70(たとえば穴など)に通しながら、送達装置を僧帽弁12に係合させ、装置10
eの実質的に環状の支持部材40を僧帽弁輪18に向かって前進させる。続いて、シリコーンチューブの開放端が第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’の少なくとも1つの遠位端と係合するように、チューブを操作する。その後、このチューブを、その係合していない側の端から静かに引くことで、第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’が交連を通って移動し、少なくとも1つの弁下構造に後ろから係合する。そしてチューブの係合を解除した後、ハンドル部88を取り出して、装置10
eが僧帽弁12の周囲でしっかりと位置決めされるように縫合糸を締める。縫合糸の締め付けが完了したら、送達装置114またはホルダーを装置10
eから外して左心房14から取り除けるように、縫合糸を切る。
【0066】
装置10
eをしっかりと適所に配置した状態であれば(
図9Aから
図9C)、2つのレベルの心室リモデリングが同時に起こり得る。弁輪レベルにまでは至らないレベルでは、第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’は、心臓の収縮時に、1つ以上の弁下構造を前に移動させることで、少なくとも1つの弁下構造(たとえば、僧帽弁後尖26の下位自由縁36、後尖と繋がった腱索32および32’および/または後尖と繋がった1本以上の乳頭筋38および38’など)を支持し、これによって僧帽弁後尖の可動制限が減り、僧帽弁12を通る血液の逆流が防止または低減される。さらに、虚血性心筋症および拡張型心筋症によって生じる左心室リモデリングは、後側の左心室壁を前側(または内側)に押す(または移動する)こと(すなわち、逆リモデリング機構)によって、防止または低減される。同時に、弁輪レベルでは、拡張型心筋症および虚血性心筋症によって生じる心室リモデリングを達成するだけでなく、時間の経過に伴う僧帽弁逆流症の再発頻度を防止または低減するために、後側の左心室壁の一部を前に押す。また、弁輪レベルでは、装置10
eの3Dで鞍形の幾何学形状がゆえに僧帽弁輪18がリモデルされ、環状の直径が小さくなり、弁尖接合が改善される。装置10
eの適切な移植時、僧帽弁12を通る正常な血流を回復できるように手技を終えることができる。
【0067】
図10Aから
図12Cは、
図1Aから
図1Dに示される装置10の他の幾何学的バリエーションを示す。
図10Aに示されるように、たとえば、第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’各々の係合部60は、フォークのような構成であってもよい。特に、係合部60は各々、(中心軸CAを基準に)互いに距離D1だけ離れ、軸方向にずれている、互いに対向して配置された第1の係合部72および第2の係合部74を含んでもよい。距離D1は、被験者の僧帽弁12の解剖学的構造、被験者が患っている個々の弁の機能不全状態などの要因に応じて、第1の弁輪下後部支持部材42’と第2の弁輪下後部支持部材42’’との間で同一であっても異なっていてもよい。第1の係合部72および第2の係合部74は各々、実質的に環状の支持部材40の前側端部50に対して凹形を有するものであってもよい。また、第1の係合部72および第2の係合部74は各々、少なくとも1つの弁下構造の全体または一部のみを横切るかまたはその後ろに延在してもよい(
図10B)。
【0068】
図11Aから
図11Bに示されるように、第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’は各々、開口134が延在する、弓形でループ状の構成を有するものであってもよい。第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’各々の係合部60は、実質的に環状の支持部材40の前側端部50に対して凹形を有するものであってもよい。また、第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’各々の係合部60は、少なくとも1つの弁下構造の全体または一部のみを横切るかまたはその後ろに延在してもよい(
図11B)。
【0069】
図12Aから
図12Cに示されるように、第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’は各々、
図7Aから
図7Bに示される第1の弁輪下後部支持部材および第2の弁輪下後部支持部材と同様に構成できる。しかしながら、
図12Bに示されるように、第1の弁輪下後部支持部材42’は、第2の弁輪下後部支持部材42’’に対応する第2の距離D’’より短い第1の距離D’だけ延在するような寸法に作られている。言葉をかえると、第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’が、中心軸CAから互いに軸方向にずれる(
図12A)ように、第1の距離D’は、第2の距離D’’より短い。
【0070】
図12Aにおいてさらにわかるように、第1の弁輪下後部支持部材42’の長さL1は、第2の弁輪下後部支持部材42’’の対応する長さL2と重なるような寸法になっている。第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’各々の係合部60は、実質的に環状の支持部材40の前側端部50に対して凹形を有するものであってもよい。また、第1の弁輪下後部支持部材42’および第2の弁輪下後部支持部材42’’各々の係合部60は、少なくとも1つの弁下構造の全体または一部のみを横切るかまたはその後ろに延在してもよい(
図12C)。
【0071】
本発明のもうひとつの態様を、
図13Aから
図13Bに示す。
図13Aから
図13Bに示される装置10
fは、後述する点を除いて、
図7Aから
図7Bに示される装置10
eと同じに構成されている。
図13Aから
図13Bでは、
図7Aから
図7Bに示される構造と同じ構造には同一の参照符号を使用するが、類似してはいるが同一ではない類似構造には添字「f」を付す。装置10
fは、上述したどのような材料で構成してもよく、同じく上述したように生体適合性材料の層68および/または1種類以上の治療薬を含んでもよいことに、注意されたい。
【0072】
図13Aから
図13Bに示されるように、装置10
fは、実質的に環状の支持部材40、第1の弁輪下前部支持部材136、第2の弁輪下前部支持部材138を含む。実質的に環状の支持部材40は、全体が環状で、第1の中間部44、第2の中間部46、第1の中間部と第2の中間部との間に延在する後側端部48、後側端部に対向して、第1の中間部と第2の中間部との間に延在する前側端部50を含むものであってもよい。あるいは、実質的に環状の支持部材40は、部分的に環状で、第1の中間部44、第2の中間部46、第1の中間部と第2の中間部との間に延在する後側端部48を含むものであってもよい。
【0073】
前側端部50(
図13Aから
図13B)および後側端部48はそれぞれ、僧帽弁輪18の前部20および後部22に取り付けられる寸法になっている。たとえば、後側端部48、第1の中間部44、第2の中間部46は、前側端部50に対して後側端部が凹形になるように、連続した弧を形成している。同様に、前側端部50、第1の中間部44、第2の中間部46は、後側端部48に対して前側端部が凸形になるように、連続した弧を形成している。
図13Bに示されるように、実質的に環状の支持部材40は、長手方向の軸LAも含む。実質的に環状の支持部材40は、剛性の構成を有するものであっても、半剛性の構成を有するものであってもよい。
【0074】
第1の弁輪下前部支持部材136および第2の弁輪下前部支持部材138は、装置10
fを僧帽弁輪18上またはその周囲に移植する際に、僧帽弁前尖24の下かつ少なくとも1つの弁下構造を横切るかまたはその後ろに延在するような寸法、形状、構成に作られている。第1の弁輪下前部支持部材136は、第1の位置52で、実質的に環状の支持部材40に、直接しっかりと接続され、第2の弁輪下前部支持部材138は、第1の位置とは異なる第2の位置84で、実質的に環状の支持部材に、直接しっかりと接続されている。
図13Aに示されるように、たとえば、第1の弁輪下前部支持部材136は、第1の中間部44に直接しっかりと接続され、第2の弁輪下前部支持部材138は、第2の中間部46に、直接しっかりと接続されている。
【0075】
図13Bに示されるように、第1の弁輪下前部支持部材136および第2の弁輪下前部支持部材138は、実質的に環状の支持部材40の長手方向の軸LAから、それぞれ角度A1およびA2で、距離D3およびD4だけ下に延在している。第1の弁輪下前部支持部材136および第2の弁輪下前部支持部材138各々の角度A1およびA2は、第1の弁輪下前部支持部材および第2の弁輪下前部支持部材がそれぞれ、最適な弁尖接合を容易にするようなものである。本発明の一実施例では、第1の弁輪下前部支持部材136および第2の弁輪下前部支持部材138のうちの一方または両方の角度A1およびA2は、約20°から約40°の間(たとえば、約30°)であってもよい。角度AlおよびA2は、同一であっても異なっていてもよいことは、自明であろう。同様に、距離D3およびD4は、第1の弁輪下前部支持部材136および第2の弁輪下前部支持部材138各々の一部が、僧帽弁前尖24の下に延在して、第1および第2の弁輪下前部支持部材が、最適な弁尖接合を容易にできるようなものである。また、距離D3およびD4が同一であっても異なっていてもよいことも、自明であろう。
【0076】
第1の弁輪下前部支持部材136および第2の弁輪下前部支持部材138は各々、
図1Aから
図1Bに示して上述した弁輪下後部支持部材42と同様に構成されていてもよい。たとえば、第1の弁輪下前部支持部材136および第2の弁輪下前部支持部材138(
図13A)は各々、係合部140と、係合部から第1の位置52まで延在する一体型の首部142とを含む。第1の弁輪下前部支持部材136および第2の弁輪下前部支持部材138各々の係合部140は、実質的に環状の支持部材40の前側端部50に対して弓形(たとえば、凸形など)であってもよい。
【0077】
装置10
fは、それに加えてまたは任意に、
図7Aから
図7Bに示される装置10
eのような他の特徴ならびに上述した他の特徴を含んでもよいことは、自明であろう。たとえば、装置10
fは、調節可能な機構54、生体適合性材料の層68、装置を僧帽弁輪18に取り付けやすくするための少なくとも1つのマーカー70および/または治療薬のうちの1つまたは組み合わせを含んでもよい。
【0078】
本発明のもうひとつの態様を、
図14Aから
図14Cに示す。
図14A〜14Cに示される装置10
gは、後述する点を除いて、
図1Aから
図1Eに示される装置10および
図13Aから
図13Bに示される装置10
fと同じに構成されている。
図14Aから
図14Cでは、
図1Aから
図1Eおよび
図13Aから
図13Bの構造と同じ構造には同一の参照符号を使用するが、類似してはいるが同一ではない類似構造には添字「g」を付す。装置10
gは、上述したどのような材料で構成してもよく、同じく上述したように生体適合性材料の層68および/または1種類以上の治療薬を含んでもよいことに、注意されたい。
【0079】
図15に示されるように、右心房146と右心室148の間には、三尖弁144が位置している。三尖弁144は、3つの弁尖(後述)と、弁輪150と、支持腱索(全体を152で示す)と、乳頭筋(全体を154で示す)とで構成される。三尖弁144自体は、垂直よりわずかに傾いているため、弁の周縁部は、前上方部、下方、中隔であり、それぞれの弁尖はこれらの結合部位にその名前が由来する。前尖156は、最大の弁尖であり、房室口(図示せず)と動脈円錐(図示せず)との間に挟まっている。後尖158は、次に大きな弁尖であり、名称は右心室148周縁に対する相対位置および関係に由来している。3つ目の最も小さい弁尖は、中隔尖160であり、左右の線維三角(図示せず)と、心房中隔および心室中隔に結合されている。三尖弁の弁下組織は、前部、後部、中隔の乳頭筋154およびその真の腱索152からなる。偽腱索(図示せず)が、2本の乳頭筋154を繋ぎ、乳頭筋と心室壁を繋ぎ、あるいは心室壁上の点同士を繋ぐこともある。真の腱152は通常、乳頭筋154の心尖3分の1から出ているが、中隔尖160の場合のように心室壁から出ることもある。
【0080】
再び
図14Aから
図14Cを参照すると、装置10
gは、実質的に環状の支持部材40
gと、これに接続された少なくとも1つの弁輪下前部支持部材162と、を含んでもよい。実質的に環状の支持部材40
gは、三尖弁輪150(
図15)の3D形状に対応する3D形状を有するものであってもよい。実質的に環状の支持部材40
gは、長手方向の軸LA(
図14C)を画定し、前側端部50
gと、後側端部48
gと、互いに対向して配置され、前側端部と後側端部との間に延在する第1の中間部44
gおよび第2の46
gと、を含むものであってもよい。前側端部50
gおよび後側端部48
gは、三尖弁輪150(
図15)の前部および後部にそれぞれ取り付けられるような寸法に作られている。実質的に環状の支持部材40
g(
図14Aから
図14C)は、C字形または部分的なリング構成を持つものとして示されているが、実質的に環状の支持部材を、完全に環状のリング構成などの他の構成にしてもよいことは、自明であろう。
【0081】
図14Aから
図14Cに示されるように、装置10
gは、弁輪下前部支持部材162を含む。しかしながら、装置10
gは、2つ以上の弁輪下前部支持部材162(
図14Dから
図14E)および/または中隔尖160を支えるための1つまたは2つ以上の弁輪下支持部材(
図17Aから
図17E)および/または三尖弁の後尖158を含んでもよいことは、自明であろう。弁輪下前部支持部材162は、前尖156の下かつ、少なくとも1つの弁下構造の全体または一部のみを横切るかまたはその後ろに延在するような寸法に作られている。
図14Aから
図14Cに示される弁輪下前部支持部材162は、前尖156の下位自由縁(図示せず)全体、三尖弁の前尖の下位自由縁の一部のみ、三尖弁の前尖と繋がった腱索152の全体または一部のみおよび/または三尖弁の前尖と繋がった乳頭筋154の全体または一部のみを横切るかまたはその後ろに延在するような寸法に作られていてもよい。
【0082】
弁輪下前部支持部材162は、三尖弁の中隔尖160の下位自由縁(図示せず)全体、三尖弁の中隔尖の下位自由縁の一部のみ、三尖弁の中隔尖と繋がった腱索152の全体または一部のみ、三尖弁の中隔尖と繋がった乳頭筋154の全体または一部のみ、三尖弁の後尖158の下位自由縁(図示せず)全体、三尖弁の後尖の下位自由縁の一部のみ、三尖弁の後尖と繋がった腱索の全体または一部のみおよび/または三尖弁の後尖と繋がった乳頭筋の全体または一部のみなど、他の弁下構造を横切るかまたはその後ろに延在するような形状、構成、寸法に作られていてもよいことは、自明であろう。
【0083】
弁輪下前部支持部材162は、剛性の構成を有するものであっても、半剛性の構成を有するものであってもよい。弁輪下前部支持部材162が半剛性の構成を持つ場合、たとえば、第1の弁輪下前部支持部材は、さまざまな位置まで屈曲可能または調節可能なものであってもよい。それに加えてあるいは任意に、弁輪下前部支持部材162は、その位置を実質的に環状の支持部材40
gの長手方向の軸LAに対して選択的に調節するための(上述したような)調節機構54を含んでもよい。
【0084】
図14Cに示されるように、弁輪下前部支持部材162は、実質的に環状の支持部材40
fの長手方向の軸LAから角度A3および距離D5だけ下に延在する。弁輪下前部支持部材162の角度A3は、第1の弁輪下前部支持部材が最適な弁尖接合を容易にするようなものである。本発明の一実施例では、弁輪下前部支持部材162の角度A3は、約20°から約40°の間(たとえば、約30°)であってもよい。同様に、距離D5は、弁輪下前部支持部材162の一部が、三尖弁の前尖156の下に延在して、最適な弁尖接合を容易にできるようなものである。
【0085】
弁輪下前部支持部材162は、細長く、実質的にU字形の構成を有し、係合部166と一体に形成された首部164(
図14A)を含む。首部164は、三尖弁の弁尖156、158、160のそれぞれの交連の1つの間またはほぼ間に延在するような寸法に作られている。
図14Aから
図14Bに示されるように、首部164は、互いに対向して配置され、それぞれ実質的に環状の支持部材40
gおよび係合部166と一体に形成された第1の端168および第2の端170を含む。たとえば、首部164の第1の端168は、実質的に環状の支持部材40
fの第1の中間部44
gと一体に形成できる。
【0086】
弁輪下前部支持部材162の係合部166は、実質的に環状の支持部材40
gの後側端部48
gに対して凹形を有する。係合部166の全体または一部のみは、移植時に弁下構造の全体または一部のみが接触するような寸法に作られている。弁輪下前部支持部材162は、
図4Aから
図4B、
図5〜
図6、
図14Dから
図14E、
図17Dから
図17Eに示される構成のうちのどのような1つまたは組み合わせを有するものであってもよい(もちろん、係合部166が、実質的に環状の支持部材40
gの前側端部50
gまたは後側端部48
gのいずれかに対して凹形であることを条件とする)ことは、自明であろう。
【0087】
本発明のもうひとつの態様を、
図16Aから
図16Bに示す。この態様は、逆流のある三尖弁144を通る血流の逆流を治療するための方法を含む。以下、
図14Aから
図14Cに示される装置10
gを用いて本発明の方法について説明するが、疾患のある三尖弁144を通る血流の逆流を治療するのに、本明細書に記載の幾何学的バリエーションを、どの1つまたは組み合わせで用いてもよいことに、注意されたい。
【0088】
上述したように、装置10
g(
図14Aから
図14C)は、三尖弁輪150に取り付けるための寸法に作られた3D構成を有する、部分的にリング形で環状の支持部材40
gを含む。また、装置10
gは、実質的に環状の支持部材40
gの第1の中間部44
fと一体に形成された弁輪下前部支持部材162を含む。
図14Aから
図14Cには図示していないが、装置10
fの全体または一部のみ(たとえば、環状の支持部材40
fなど)を、縫合リングなどの生体適合性材料の層68、少なくとも1つのマーカー70および/または治療薬のうちの1つまたは組み合わせで覆ってもよいことは、自明であろう。
【0089】
この方法は、上述した逆流のある僧帽弁12を治療するための方法と実質的に同じように実施できる。たとえば、三尖弁144の寸法は、まず、装置10
gに最適な寸法を決めるために得られる。上述したサイジング装置86などのバルブサイジング装置を使用して、三尖弁144のサイジングをすることができる。三尖弁144の寸法を定めた後、三尖弁を通る血流を監視して、(上述したような)前尖156、後尖158、中隔尖160間の接合を評価することができる。三尖弁を通る実質的に正常な流体流(たとえば、血液または生理食塩水)が観察されるまで、寸法の異なる複数のサイジング部材90を三尖弁144の上に配置してもよい。三尖弁144を通る実質的に正常な血流が観察されたら、サイジング部材90の寸法を記録し、そのサイジング部材の寸法に対応する寸法の装置10
gを移植用に選択する。あるいはまたはそれに加えて、生理食塩水試験を用いて、三尖弁144を通る流体流と適切な弁尖接合とを評価してもよいことに、注意されたい。
【0090】
適切な寸法の装置10
gを選択後、上述したように、この装置を送達装置114またはホルダーに取り付ける。移植術を開始するにあたり、シリコーンチューブ(図示せず)を三尖弁144の少なくとも1つの交連に通し、三尖弁の前尖156と繋がった腱索152および/または1本以上の乳頭筋154などの少なくとも1つの弁下構造の後ろに配置する。装置10
gを送達装置114にしっかりと取り付けたら、縫合糸(図示せず)を三尖弁輪150に配置する。その後、三尖弁144の上面周囲で送達装置114を位置決めする。次に、縫合糸を1つ以上のマーカー70(たとえば穴など)に通しながら、送達装置114を三尖弁144に係合させ、装置10
gの実質的に環状の支持部材40
gを三尖弁輪150に向かって前進させる。
【0091】
このようにした後、シリコーンチューブの開放端が弁輪下前部支持部材162の遠位端と係合するように、チューブを操作する。その後、このチューブを、その係合していない側の端から静かに引くことで、弁輪下前部支持部材162が交連を通って移動し、少なくとも1つの弁下構造に係合する。そしてチューブの係合を解除した後、ハンドル部材88を取り出して、装置10
gが三尖弁144の周囲でしっかりと位置決めされるように縫合糸を締める。縫合糸の締め付けが完了したら、送達装置114またはホルダーを装置10
gから外して右心房146から取り除けるように、縫合糸を切る。
【0092】
装置10
gをしっかりと適所に配置した状態で(
図16Aから
図16B)、2つのレベルの心室リモデリングが同時に起こり得る。弁輪レベルにまでは至らないレベルでは、弁輪下前部支持部材162は、心臓の収縮時に、1つ以上の弁下構造を前に移動させることで、少なくとも1つの弁下構造(たとえば、三尖弁の前尖156の下位自由縁、前尖と繋がった腱索152および/または前尖と繋がった1本以上の乳頭筋154など)を支持し、これによって前尖24の可動制限が減り、三尖弁144を通る血液の逆流が防止または低減される。さらに、虚血性心筋症および拡張型心筋症によって生じる心室リモデリングは、右心室148の前後の壁を前側(または内側)に押す(または移動する)こと(すなわち、逆リモデリング機構)によって、防止または低減される。また、弁輪レベルでは、装置10
gの3Dで鞍形の幾何学形状がゆえに三尖弁輪150がリモデルされ、環状の直径が小さくなり、弁尖接合が改善される。装置10
gの適切な移植時、三尖弁144を通る正常な血流を回復できるように手技を終えることができる。
【0093】
本発明のもうひとつの態様を、
図18Aから
図18Cに示す。
図18Aから
図18Cに示される装置10
hは、後述する点を除いて、
図14Aから
図14Cに示される装置10
gと同じに構成されている。
図18Aから
図18Cでは、
図14Aから
図14Cの構造と同じ構造には同一の参照符号を使用するが、類似してはいるが同一ではない類似構造には添字「h」を付す。装置10
hは、上述したどのような材料で構成してもよく、同じく上述したように生体適合性材料の層68および/または1種類以上の治療薬を含んでもよいことに、注意されたい。
【0094】
装置10
hは、実質的に環状の支持部材40
gと、これにしっかりと接続された、少なくとも1つの弓状三構造支持部材200と、を含んでもよい。実質的に環状の支持部材40
gは、三尖弁輪150(
図15)の3D形状に対応する3D形状を有するものであってもよい。実質的に環状の支持部材40
gは、(
図14Cに示すような)長手方向の軸LAを画定し、前側端部50
gと、後側端部48
gと、互いに対向して配置され、前側端部と後側端部との間に延在する第1の中間部44
gおよび第2の46
gと、を含むものであってもよい。前側端部50
gおよび後側端部48
gは、三尖弁輪150(
図15)の前部および後部にそれぞれ取り付けられるような寸法に作られている。実質的に環状の支持部材40
gは、C字形または部分的なリング構成を持つものとして示されているが、実質的に環状の支持部材を、完全に環状のリング構成などの他の構成にしてもよいことは、自明であろう。
【0095】
弓状三構造支持部材200は、装置10
hを三尖弁輪150の上または周囲に移植する際に、前尖156、後尖158、中隔尖160の下かつ、少なくとも1つの弁下構造を横切るかまたはその後ろに延在するような寸法、形状、構成に作られている。弓状三構造弁尖支持部材200は、第1の位置202で、実質的に環状の支持部材40
gに直接しっかりと接続されている。
図6Aに示されるように、たとえば、弓状三構造弁尖支持部材200は、第1の中間部44
gに直接しっかりと接続されている。図示はしていないが、弓状三構造支持部材200は、第2の中間部46
gに直接しっかりと接続されていてもよいことは、自明であろう。
【0096】
弓状三構造支持部材200は、首部164を介して実質的に環状の支持部材40
gと一体かつ直接的に接続されたフック形の係合部182
hを有する。係合部182
hはさらに、第1の係合部184
hと、第2の係合部186
hと、第1の係合部と第2の係合部との間に延在する屈曲部188
hと、を含む。第1の係合部184
hおよび第2の係合部186
hは各々、少なくとも1つの弁下構造を横切るかまたはその後ろに延在するように構成された連続した弧形(または弓形)の構成を有する。第1の係合部184
hおよび第2の係合部186
hは、実質的に環状の支持部材40
gの前側端部50
gに対して(それぞれ)凹形および凸形を有するものであってもよい。
【0097】
第1の係合部184
hは、後尖158の下面(後尖の下位自由縁(図示せず)など)、後尖と繋がった腱索152、後尖の腱索と繋がった1本または2本以上の乳頭筋154、これらの組み合わせなど、少なくとも1つの弁下構造を横切るかまたはその後ろに延在するように構成されている。また、第2の係合部186
hは、前尖156の下面(前尖の下位自由縁(図示せず)など)、前尖と繋がった腱索152、前尖の腱索と繋がった1本または2本以上の乳頭筋154、中隔尖160の下面(中隔尖の下位自由縁(図示せず)など)、中隔尖と繋がった腱索、中隔尖の腱索と繋がった1本または2本以上の乳頭筋、これらの組み合わせなど、少なくとも1つの弁下構造を横切るかまたはその後ろに延在するように構成されている。本発明の一実施例では、第2の係合部186
hは、前尖156および中隔尖160と繋がった(またはこれらを含む)弁下構造を横切るかまたはその後ろに延在するように構成されている。
【0098】
第1の係合部184
hおよび第2の係合部186
hは、横方向にみて同一面内(すなわち、長手方向の軸LAの下またはこれと平行または実質的に平行に延在する面)に位置していてもよいし、中心軸CA(
図18Aから
図18Cには図示せず)を基準に互いにずれていてもよい。このように、第1の係合部184
hおよび第2の係合部186
hは、対応する同一の弁下構造と接触するように位置していてもよいし、対応する異なる弁下構造と接触するように位置していてもよい。第1の係合部184
hおよび第2の係合部186
hが互いにずれている場合、たとえば、第1の係合部は、後尖158の下面(たとえば、後尖の下位自由縁など)横切るかまたはその後ろに延在するよう構成されていてもよく、第2の係合部は、前尖156および中隔尖160と繋がった腱索152を横切るかまたはその後ろに延在するよう構成されていてもよい。
【0099】
弁輪下前後支持部材180の別の構成を、
図6Bから
図6Cに示す。
図6Bに示されるように、弁輪下前後支持部材180の係合部182は、互いに離れた第1の係合部材190および第2の係合部材192を含む二股分岐構成を有してもよい。第1の係合部材190および第2の係合部材192は、(中心軸CAを基準に)互いに距離D1だけ離れ、軸方向にずれていてもよい。通常、距離D1は、僧帽弁の解剖学的構造、被験者が患っている個々の弁の機能不全状態などの要因に応じて変更可能である。特に、距離D1は、第1の係合部材190および第2の係合部材192と、1つまたは2つ以上の弁下構造との接触を容易にするよう変更可能である。上述したように、第1の係合部材190および第2の係合部材192は各々、第1の係合部184および第2の係合部186を含む。
【0100】
図6Cに示されるように、弁輪下前後支持部材180の係合部182は、開口134が延在する、弓形でループ状の構成を有するものであってもよい。ループ形の係合部182は、共通の弓形屈曲部194で接合される第1の係合部材190および第2の係合部材192を含んでもよい。第1の係合部材190および第2の係合部材192は、(中心軸CAを基準に)互いに距離D1だけ離れ、軸方向にずれていてもよい。通常、距離D1は、僧帽弁の解剖学的構造、被験者が患っている個々の弁の機能不全状態などの要因に応じて変更可能である。
【0101】
装置10
dは、
図1Aから
図1Bに示される装置10のような他の特徴ならびに上述した他の特徴を含んでもよいことは、自明であろう。たとえば、装置10
dは、調節可能な機構54、生体適合性材料の層68、装置を僧帽弁輪18に取り付けやすくするための少なくとも1つのマーカー70および/または治療薬のうちの1つまたは組み合わせを含んでもよい。
【0102】
本発明についての上記の説明から、当業者であれば、改善、変更、修正できる部分に気づくであろう。このような改善、変更、修正は、当業者の技能の範囲内である。