(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
液晶パネルには、液晶を通過する光線の旋光性を制御するため偏光板が用いられる。従来これらの偏光板として、ポリビニルアルコール等の樹脂フィルムをヨウ素や二色性色素で染色し、一方向に延伸した偏光板が広く使用されている。しかし上記の偏光板は、色素や樹脂フィルムの種類によっては耐熱性や耐光性が十分でなく、また液晶パネルの大型化にともない、フィルムの製造装置が大型化するという問題がある。
【0003】
これに対して、ガラス板や樹脂フィルムなどの基材上に、リオトロピック液晶化合物を含む液晶性コーティング液を流延し、リオトロピック液晶化合物を配向させて偏光膜を形成する方法が知られている。リオトロピック液晶化合物は、溶液中で液晶性を示す超分子会合体を形成しており、これを含む液晶性コーティング液に剪断応力を加えて流延させると、超分子会合体の長軸方向が流延方向に配向する。そのようなリオトロピック液晶化合物のひとつとして、アゾ化合物がある(特許文献1)。リオトロピック液晶化合物の偏光膜は延伸する必要がなく、延伸による幅方向の収縮がないので、広い幅の偏光膜を得やすい。また膜厚を格段に薄くすることができるので、将来性が期待されている。
【0004】
しかし、従来のアゾ化合物を含む液晶性コーティング液を流延して得られる偏光膜は、乾燥過程で膜中に微細結晶が析出して、偏光膜のヘイズ(光散乱)が大きくなり、透明性が悪化するという問題があった。そのためヘイズの問題を解決した新規なアゾ化合物を含む液晶性コーティング液が求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、アゾ化合物を含む液晶性コーティング液から得られる偏光膜において、乾燥過程で膜中に微細結晶が析出して偏光膜のヘイズ(光散乱)が大きくなり、透明性が悪化する問題を解決した、新規なアゾ化合物を含む液晶性コーティング液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アゾ化合物を含む液晶性コーティング液の微細結晶の析出について鋭意検討した結果、スルホン酸基などの置換基が特定の位置に置換したアミノナフトール骨格を含むアゾ化合物を用いることにより析出を抑制でき、ヘイズの小さい偏光膜が得られることを見出した。
【0008】
本発明の要旨は次の通りである。
(1)本発明の液晶性コーティング液は、下記一般式(1)で表わされるアゾ化合物と、前記アゾ化合物を溶解する溶媒とを含むことを特徴とする。
【化1】
一般式(1)中、Qは置換基を有していてもよいアリール基が結合したアゾ基を表わす。Rは水素原
子を表わす。Mは
リチウムイオンを表わす。
(
2)本発明の液晶性コーティング液は、アゾ化合物の濃度が、0.5重量%〜50重量%であることを特徴とする。
(
3)本発明の液晶性コーティング液は、液晶性コーティング液のpHが、5〜9であることを特徴とする。
(
4)本発明の偏光膜は、上記に記載の液晶性コーティング液を薄膜状に流延し、乾燥して得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の新規なアゾ化合物を含む液晶性コーティング液を、流延、乾燥して得られる偏光膜は、乾燥過程で膜中に微細結晶が析出することが抑制されるため、ヘイズが小さい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記のアゾ化合物を含む本発明の液晶性コーティング液は、液晶性コーティング液を流延し乾燥する際、微細結晶の析出が抑制され、その結果、ヘイズの原因となる微細結晶が従来に比べはるかに少なくなり、ヘイズが減少すると考えられる。本発明の液晶性コーティング液は、含まれるアゾ化合物の構造の中で、平面性が高いため溶解性に乏しい部位となる可能性の高いアミノナフトール骨格を、特定位置にスルホン酸基を導入して、溶解しやすくした。これにより、微細結晶の析出を抑制できたと考えられる。
【0011】
[液晶性コーティング液]
本発明の液晶性コーティング液は、下記一般式(1)で表わされるアゾ化合物と、このアゾ化合物を溶解する溶媒とを含む。
【化1】
式(1)中、Qは置換基を有していてもよいアリール基
が結合したアゾ基を表わす。Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アセチル基、ベンゾイル基またはフェニル基を表わす(これらの基は置換基を有していてもよい)。Mは対イオンを表わす。
【0012】
本発明の液晶性コーティング液は、上記のアゾ化合物が液中で超分子会合体を形成し、液晶相を示す。液晶相には特に制限はなく、ネマチック液晶相、ヘキサゴナル液晶相などが挙げられる。これらの液晶相は偏光顕微鏡で光学模様を観察して識別、確認することができる。
【0013】
本発明の液晶性コーティング液における上記のアゾ化合物の濃度は、好ましくは0.5重量%〜50重量%である。上記範囲の濃度の少なくとも一部で、安定な液晶相を示す液晶性コーティング液が得られ、目的の厚み(例えば0.4μm)の偏光膜が容易に得られる。
【0014】
本発明の液晶性コーティング液のpHは、好ましくは5〜9である。pHが上記範囲であると、配向度の高い偏光膜が得られる。また、ステンレスなどの金属製のコータを腐食しないため生産性に優れる。
【0015】
本発明の液晶性コーティング液は、上記のアゾ化合物と溶媒とを含むものであれば、他に任意のもの、例えば他の液晶化合物や添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば界面活性剤、酸化防止剤、帯電防止剤などが挙げられる。これらの添加剤の濃度は通常10重量%未満である。
【0016】
本発明の液晶性コーティング液の調製方法には特に制限はなく、例えば溶媒に上記のアゾ化合物を加えてもよいし、逆に上記のアゾ化合物に溶媒を加えてもよい。
【0017】
[アゾ化合物]
本発明の液晶性コーティング液に用いられるアゾ化合物は、上記一般式(1)で表わされる化合物であり、溶媒に溶解させた溶液状態で温度や濃度を変化させると、等方相−液晶相の相転移を起こす性質(リオトロピック液晶性)を有する。上記の一般式(1)で表わされるアゾ化合物は、可視光領域(波長380nm〜780nm)で吸収二色性を示し、特定位置にスルホン酸基などの置換基を有することによって、微細結晶の析出が抑制され、ヘイズの小さい偏光膜を得ることができる。
【0018】
上記の式(1)中、Qは置換基を有していてもよいアリール基
が結合したアゾ基を表わし、吸収波長の幅を調整するのに適した置換基が用いられる。
【0019】
上記の式(1)中、Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アセチル基、ベンゾイル基またはフェニル基を表わす(これらの基は置換基を有していてもよい)。
【0020】
上記の式(1)中、Mは対イオンを表わし、好ましくは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、前記の金属の金属イオン、または、置換もしくは無置換のアンモニウムイオンである。金属イオンとしては、例えばLi
+、Ni
2+、Fe
3+、Cu
2+、Ag
+、Zn
2+、Al
3+、Pd
2+、Cd
2+、Sn
2+、Co
2+、Mn
2+、Ce
3+などが挙げられる。対イオンMが多価イオンの場合は、複数のアゾ化合物が一つの多価イオン(対イオン)を共有する。
【0021】
[溶媒]
本発明に用いられる溶媒は上記のアゾ化合物を溶解するものであり、好ましくは親水性溶媒が用いられる。前記の親水性溶媒は好ましくは水、アルコール類、セロソルブ類およびそれらの混合溶媒である。溶媒にはグリセリン、エチレングリコールなどの水溶性の化合物が添加されていてもよい。これらの添加物は、アゾ化合物の易溶性や、液晶性コーティング液の乾燥速度を調整するために用いることができる。
【0022】
[偏光膜]
本発明の偏光膜は、本発明の液晶性コーティング液を基材や金属ドラム表面に流延し、乾燥して得られる。流延手段は、液晶性コーティング液を均一に流延できるものであれば特に制限はなく、適切なコータ、例えばスライドコータ、スロットダイコータ、バーコータ、ロッドコータ、ロールコータ、カーテンコータ、スプレイコータなどが用いられる。
【0023】
乾燥方法に特に制限はなく、自然乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥、減圧加熱乾燥などが用いられる。加熱乾燥手段としては、空気循環式乾燥オーブンや熱ロールなどの任意の乾燥装置が用いられる。加熱乾燥の場合の乾燥温度は、好ましくは50℃〜120℃である。本発明の偏光膜は残存溶剤量が膜の総重量に対して5重量%以下となるように乾燥されることが好ましい。
【0024】
本発明の偏光膜は、好ましくは可視光領域(波長380nm〜780nm)で吸収二色性を示す。このような特性は、偏光膜中で上記のアゾ化合物が配向することにより得られる。上記のアゾ化合物は液晶性コーティング液中で超分子会合体を形成しており、液晶性コーティング液に剪断応力を加えながら流延させると、超分子会合体の長軸方向が流延方向に配向する。配向手段は、剪断応力に加えて、ラビング処理や光配向などの配向処理、磁場や電場による配向などを組み合わせてもよい。
【0025】
本発明の偏光膜の厚みは、好ましくは0.1μm〜3μmである。本発明の偏光膜の偏光度は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。本発明によれば偏光膜のヘイズ値を、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下とすることができる。
【0026】
[基材]
本発明の液晶性コーティング液を流延するための基材に特に制限はなく、単層のものでもよいし複層の積層体(例えば配向膜を含むもの)であってもよい。具体的な基材としては、ガラス板や樹脂フィルムが挙げられる。
【0027】
基材が配向膜を含む場合、配向膜は配向処理の施されたものが好ましい。配向膜を含む基材としては、例えばガラス板にポリイミド膜がコーティングされた基材が挙げられる。このポリイミド膜には公知の方法、例えばラビングなどの機械的配向処理や、光配向処理などにより配向性が付与される。
【0028】
基材のガラスとしては、液晶セルに用いられる無アルカリガラスが好ましい。可撓性の必要な用途には、樹脂フィルム基材が好適である。樹脂フィルムの表面がラビングなどにより配向処理されていてもよいし、樹脂フィルムの表面に、他の素材からなる配向膜が形成されていてもよい。
【0029】
基材に用いる樹脂フィルムの素材としては、フィルム形成性を有する樹脂であれば特に限定されないが、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。基材の厚みは用途によるほかは特に限定されないが、一般的には1μm〜1000μmの範囲である。
【0030】
[偏光膜の用途]
本発明の偏光膜は偏光素子として好適に用いられる。偏光素子は各種の液晶パネル、例えばコンピュータ、コピー機などのOA機器、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末、携帯ゲーム機などの携帯機器、ビデオカメラ、テレビ、電子レンジなどの家庭用機器、バックモニター、カーナビゲーション、カーオーディオなどの車載用機器、店舗用モニターなどの展示機器、監視用モニターなどの警備機器、介護用モニター、医療用モニターなどの医療機器の液晶パネルに使われる。
【0031】
本発明の偏光膜は基材から剥離して用いてもよいし、基材と積層したまま用いてもよい。基材と積層したまま光学用途に用いる場合、基材は可視光に透明なものが好ましい。基材から剥離した場合は、好ましくは他の支持体や光学素子に積層して用いられる。
【実施例】
【0032】
[実施例1]
3−アミノ−2−ナフトールと8−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸とを、常法(細田豊著「理論製造 染料化学 第5版」昭和43年7月15日技報堂発行、135ページ〜152ページ)により、ジアゾ化およびカップリング反応させて、モノアゾ化合物を得た。得られたモノアゾ化合物を同様に常法によりジアゾ化し、さらに1−アミノ−8−ナフトール−2,4−ジスルホン酸リチウム塩とカップリング反応させて、下記構造式(2)のアゾ化合物を含む粗生成物を得、これを塩化リチウムで塩析することにより、下記構造式(2)のアゾ化合物を得た。
【化2】
【0033】
上記構造式(2)のアゾ化合物をイオン交換水に溶解させ、20重量%の液晶性コーティング液を調製した。この液晶性コーティング液のpHは7.7であった。この液晶性コーティング液をポリスポイトで採取し、2枚のスライドガラスの間に挟んで、室温(23℃)にて偏光顕微鏡で観察したところ、ネマチック液晶相が観察された。
【0034】
上記の液晶性コーティング液を、ラビング処理およびコロナ処理の施されたノルボルネン系ポリマーフィルム(日本ゼオン社製ゼオノア)の表面に、バーコータ(BUSCHMAN社製Mayer rot HS4)を用いて薄膜状に流延し、23℃の恒温室内で自然乾燥させて、厚み0.4μmの偏光膜を作製した。得られた偏光膜の光学特性を表1に示す。
【0035】
[実施例2]
3−アミノ−2−ナフトールを、4’−アミノアセトアニリドに変えた以外は、実施例1と同様の方法で下記構造式(3)のアゾ化合物を得た。
【化3】
【0036】
上記構造式(3)のアゾ化合物を、イオン交換水に溶解させて得られたコーティング液(20重量%)は、pHが7.2であり、室温(23℃)でネマチック液晶相を示した。上記の液晶性コーティング液をイオン交換水を用いてさらに希釈し、10重量%となるように調製した。この液晶性コーティング液を用いて、実施例1と同様の方法で、厚み0.6μmの偏光膜を作製した。得られた偏光膜の光学特性を表1に示す。
【0037】
[実施例3]
3−アミノ−2−ナフトールを4−ニトロアニリンに変え、8−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸を5−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸に変えた以外は、実施例1と同様の方法で下記構造式(4)の化合物を得た。
【化4】
【0038】
上記構造式(4)のアゾ化合物をイオン交換水に溶解させて得られたコーティング液(濃度20重量%)は、pHが7.2であり、室温(23℃)でネマチック液晶相を示した。この液晶性コーティング液を用いて、実施例1と同様の方法で、厚み0.6μmの偏光膜を作製した。得られた偏光膜の光学特性を表1に示す。
【0039】
[比較例1]
3−アミノ−2−ナフトールを4−ニトロアニリンに変え、1−アミノ−8−ナフトール−2,4−ジスルホン酸リチウム塩を7−アミノ−1−ナフトール−3,6−ジスルホン酸リチウム塩に変えた以外は、実施例1と同様の方法で、下記構造式(5)のアゾ化合物を得た。
【化5】
【0040】
上記構造式(5)のアゾ化合物をイオン交換水に溶解させて得られたコーティング液(濃度20重量%)は、pHが6.7であり、室温(23℃)でネマチック液晶相を示した。この液晶性コーティング液を用いて、実施例1と同様の方法で、厚み0.8μmの偏光膜を作製した。得られた偏光膜の光学特性を表1に示す。
【表1】
【0041】
[測定方法]
[液晶相の観察]
液晶性コーティング液を少量ポリスポイトで採取し、2枚のスライドガラス(松浪ガラス社製MATSUNAMI SLIDE GLASS)に挟み、偏光顕微鏡(オリンパス社製OPTIPHOT−POL)を用いて観察した。
【0042】
[pHの測定]
液晶性コーティング液のpHは、pHメーター(DENVER INSTRUMENT社製Ultra BASIC)を用いて測定した。
【0043】
[厚みの測定]
偏光膜の一部を剥離し、三次元非接触表面形状計測システム(菱化システム社製Micromap MM5200)を用いて段差を測定し、厚みを求めた。
【0044】
[偏光度の測定]
分光光度計(日本分光社製V−7100)を用いて、波長380nm〜780nmの範囲の偏光透過スペクトルを測定した。このスペクトルから視感度補正を行なった最大透過率方向の直線偏光の透過率Y1とそれに直交する方向の透過率Y2を求め、偏光度=(Y1−Y2)/(Y1+Y2)により偏光度を求めた。
【0045】
[ヘイズの測定]
ヘイズ測定装置(村上色彩研究所製HR−100)を用いて、室温(23℃)にてヘイズを測定した。繰り返し回数3回の平均値を測定値とした。