(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1面及びその逆側の第2面を備える基板と、前記基板の少なくとも前記第1面上に設けられた下部電極と、前記下部電極上に設けられたセラミック層と、前記セラミック層上に設けられた上部電極と、前記上部電極から少なくとも前記基板まで連続する接続配線と、を備える電子部品の製造方法であって、
(a)前記第1面上に下部電極を設けること、
(b)前記第1面上に、熱処理を受けることで、前記下部電極と前記接続配線との間を電気的に離隔する第1マスクを配置すること、
(c)前記工程(a)及び(b)の後で、前記第1マスク、並びに前記下部電極及び/又は他のマスクをフォトマスクとして用いることで、前記第1面上の少なくとも前記第1マスク及び下部電極を除く領域に配置されたフォトレジスト層を含むレジストパターンを形成すること、
(d)少なくとも前記下部電極上と前記第1マスク上に、前記セラミック層又は焼成により前記セラミック層を形成する前駆体層を設けること、
(e)前記セラミック層上又は前記前駆体層上に上部電極を設けること、
(f)前記上部電極から少なくとも前記基板まで連続する接続配線を設けること、及び
(g)少なくとも前記工程(d)後に、前記第1マスクの熱処理を行うこと、
を備える製造方法。
前記工程(g)は、前記第1マスクを熱処理することで、前記第1マスクを酸化し気化するか、前記基板及び/又はセラミック層に吸収させるか、粒状化させることで、前記下部電極と前記接続配線との間を電気的に離隔することを備える、
請求項1に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1.電子部品>
図1に、電子部品の構成の一例を示す。なお、
図1の構成は、あくまでも一例であり、電子部品はさらなる層または部材を備えてもよい。
【0014】
図1に示すように、電子部品1は、基板11、積層体10及び接続配線15を備える。
【0015】
基板11は、第1面21及び第1面21とは逆側の第2面22を備える、平板上の部材である。また、基板11は絶縁性を有する部材であり、例えば絶縁性セラミックスの焼成体である。絶縁性セラミックスとしては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ムライト、窒化アルミニウム及び窒化ケイ素から成る群より選択される少なくとも1種類の物質が用いられる。酸化ジルコニウムは、安定化酸化ジルコニウムであってもよい。安定化酸化ジルコニウムとは、安定化剤の添加によって結晶の相転移が抑制された酸化ジルコニウムである。安定化酸化ジルコニウムには、部分安定化酸化ジルコニウムも包含される。
【0016】
本実施形態では、基板11は、その内部にキャビティ23を備える。なお、キャビティ23は必須の構成ではない。
【0017】
積層体10は、下部電極12、セラミック層13及び上部電極14を含む。
【0018】
下部電極12は、基板11の第1面21上で、キャビティ23の上方に設けられている。下部電極12は特に、基板11の第1面21上で、キャビティ23と対応する領域に設けられている。つまり、基板11の第1面21内で、下部電極12の位置及び形状は、キャビティ23の位置及び形状とほぼ一致している。
【0019】
下部電極12の材料は、導電性材料であればよいが、好ましくは、セラミック層13の材料との反応性及び焼成時の耐熱性等の観点から選択される。例えば、下部電極12の材料は、高融点の貴金属として、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)及びこれらの合金からなる群より選択される少なくとも一種の金属であってもよいし、希土類元素を含有する複合金属材料であってもよい。
【0020】
なお、下部電極12にも、接続配線が接続されるが、図示及びその説明は省略する。
【0021】
セラミック層13は、下部電極12上に設けられている。詳しく述べると、セラミック層13は、下部電極12を覆うと共に、第1面21上で下部電極12に隣接する部分にまで広がるように設けられている。つまり、セラミック層13は、下部電極12が形成された部分と、その部分に隣接する部分と、を含む領域に設けられる。言い換えると、セラミック層13は、下部電極12上に設けられた本体部131と、下部電極12からオーバーハングするオーバーハング部132とを備える。なお、
図1に示す断面では、オーバーハング部132は、下部電極12の一端のみに隣接するように設けられるが、オーバーハング部132は、下部電極12の両端に隣接するように、2箇所以上に設けられてもよい。
【0022】
上部電極14は、セラミック層13上に設けられる。上部電極14の材料としては、電気的な接続がなされるのであれば、特に制限は無い。
【0023】
セラミック層13は、下部電極12と上部電極14との間の電気的短絡を抑制する程度の絶縁性を具備すればよい。セラミック層13は、例えば、強誘電体であってもよく、圧電/電歪体であってもよく、誘電体であってもよい。
【0024】
圧電/電歪体としては、例えば鉛系ペロブスカイト型酸化物や非鉛系ペロブスカイト型酸化物が挙げられる。より具体的な鉛系ペロブスカイト型酸化物には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(ZrxTi1−x)O3)、又は単純酸化物若しくは複合ペロブスカイト型酸化物とチタン酸ジルコン酸鉛の固溶体が挙げられる。ここで、複合ペロブスカイト型酸化物としては、ニッケル酸ニオブ酸鉛(PNN)、マグネシウム酸ニオブ酸鉛(PMN)、亜鉛酸ニオブ酸鉛(PZN)、マグネシウム酸タンタル酸鉛(PMT)、ニッケル酸タングステン酸鉛(PNW)、マンガン酸ニオブ酸鉛(PMnN)、マンガン酸アンチモン酸鉛(PMnSb)、アンチモン酸ニオブ酸鉛(PMnSb)などが挙げられる。また、非鉛系ペロブスカイト型酸化物としては、(Na,Nb)TiO3、(K,Nb)TiO3、(Bi,Na)TiO3、BaTiO3、SrTiO3が挙げられる。
【0025】
誘電体としては、チタン酸ジルコン酸鉛、BaTiO3、SrTiO3等が挙げられる。
【0026】
接続配線15は、上部電極14への給電経路である。接続配線15は、上部電極14と電気的に接続されており、少なくとも基板11の第1面21まで連続するように設けられる。
図1では、接続配線15の端部と上部電極14の端部とが、基板11の平面方向において接触するように配置されているが、接続配線15の端部が、上部電極14の端部に重なるように配置されていてもよい。接続配線15の材料としては、電気的な接続がなされるのであれば、特に制限は無い。
【0027】
電子部品は、圧電素子、誘電素子、電歪素子、コンデンサ、アクチュエータ等を包含する。電子部品は、例えば、インクジェットプリンタのヘッド、センサ、ポンプ、スピーカ等の種々のデバイスに適用される。
【0028】
以上に述べた構成の利用例として、インクジェットプリンタのヘッドについて説明する。
【0029】
図2(A)及び
図2(B)に示すように、ヘッド101は、積層体110、基板111、接続配線115を備える。積層体110は、下部電極112、圧電/電歪層113、上部電極114を備え、基板111は複数のキャビティ123を備える。本例では、後述するように、キャビティ123は、吐出されるインクが一時的に溜められるインク室として機能する。
【0030】
ヘッド101においては、基板111、下部電極112、圧電/電歪層113、上部電極114、接続配線115等は、それぞれ、上述した基板11、下部電極12、セラミック層13、上部電極14、接続配線15等の一例である。よって、これらの構成要素について既に述べた材料、寸法等の構成は、以下で特に断らない限り、ヘッド101においても適用可能である。
【0031】
図2(B)1個のキャビティ123に対して、1個の積層体110が設けられる。積層体110間、特に圧電/電歪層113間のスペースは、キャビティ123のスペースに対応し、1μm以上50μm以下であってもよく、3μm以上20μm以下であってもよい。
【0032】
圧電/電歪層113の厚みは、特に制限はないが、例えば15μm以下であってもよく、0.5μm以上かつ5μm以下であってもよい。
【0033】
また、下部電極112の厚みは、例えば5μm以下、0.3μm以上3μm以下等の範囲に設定可能である。下部電極112の幅は特に制限はないが、寸法安定性の観点からは、キャビティ123の寸法−30μm以下が好ましく、更には−5μm以下であることが望ましい。
【0034】
接続配線115は、上部電極114に接続されている。特に、
図2(A)では、接続配線115の端部が、上部電極114の端部に重なるように配置されている。なお、下部電極112に接続される他の接続配線も設けられるが、この他の接続配線については、図示及びその説明を省略する。
【0035】
基板111は、第1面121及び第2面122を備える。また、基板111は、第1基板51、第2基板52、振動板53を備える。第1基板51、第2基板52、振動板53は、この順に積層されている。
【0036】
第1基板51は、略均一の厚みを有する板である。第1基板51は、丸形の平面形状を有し、キャビティ123から第2面122に貫通するインク供給孔511及びインク吐出孔512を備える。インク吐出孔511は、キャビティ123の長手方向の一端近傍に、インク供給孔512は他端近傍に配置される。インク共有孔512は、図示しないインクタンクとインク供給路で接続される。
【0037】
第2基板52は、細長矩形の平面形状を有するキャビティ123を備える。
図2(B)に示すように、1つのヘッド101において、複数のキャビティ123が、キャビティ123の短手方向において並べられている。キャビティ間のスペースは、1μm以上50μm以下であってもよく、3μm以上20μm以下であってもよい。キャビティ123の寸法は特に限定されないが、例えば短手方向の長さが200μm以下、長手方向の長さが3mm以下であってもよい。また、第1基板51及び第2基板52の厚みの合計は、300μm以下であってもよい。
【0038】
振動板53は、略均一の厚みを有する板である。振動板53の厚みは、30μm以下であってもよく、0.5μm以上かつ5μm以下であってもよい。積層体110は、振動板53上、つまり第1面121上に設けられる。
【0039】
ヘッド101によるインク吐出は、次のように行われる。インクは、インク供給孔511を通じて図示しないインクタンクからキャビティ123に供給される。積層体110の下部電極112と上部電極114との間に電圧が印加されると、圧電/電歪113が変形する。この変形によって振動板53が振動し、キャビティ123内に貯留されたインクが、インク吐出孔512を介して外部に吐出される。
【0040】
<2.電子部品の製造方法>
上記<1.>欄の電子部品1の製造方法の一例を以下に説明する。
【0041】
(1)下部電極の形成
下部電極12の形成工程の具体例を、
図3(A)及び
図3(B)に示す。
【0042】
本実施形態では、まず、基板の第1面にフォトレジスト層を形成する工程の一例として、基板11の第1面21に、一様にフォトレジスト層31を形成する。
【0043】
次に、フォトマスクでフォトレジスト層31の一部を遮光しながら、フォトレジスト層31を露光し、さらに未露光のフォトレジスト層31を除去することで、レジストパターンを形成する。
図3(A)では、フォトマスクを配置する工程として、キャビティ23内に遮光剤を入れ、その後に、矢印で示すように、光を基板11の第2面22に照射することで、キャビティ23内の遮光剤をフォトマスクとして用いている。こうして、キャビティ23と対応する領域A1が遮光され、領域A1から外れる領域が露光される。その後、未露光のフォトレジストを除去することで、
図3(A)に示すように、レジストパターンが形成される。
【0044】
遮光剤をキャビティ23内に導入するには、例えば、遮光剤を含有する液体(すなわち遮光液)を、基板11の第1面21又は第2面22に設けられた図示しない孔からキャビティ23内に注入することで、キャビティ23内に遮光液を充填してもよい。また、注入以外に、毛細管現象を利用して、遮光液をキャビティ23内に導入してもよい。さらに、遮光液の溶媒(又は分散媒)を乾燥させてもよい。遮光剤は、少なくともフォトレジスト層31の露光時にキャビティ23内に存在すればよく、露光後に取り除かれてもよい。遮光剤は、露光に用いられる光を吸収する染料又は顔料を含んでもよい。
【0045】
フォトレジスト層31及び以下で説明するフォトレジスト層を形成するフォトレジストとしては、ネガ型のフォトレジストとして公知の材料が好適に用いられる。具体的には、下部電極12、セラミック層13及び上部電極14等の構成要素を整った矩形形状とするためには、エポキシ系、オキセタン系、ポリイミド系、アクリル系樹脂の厚膜タイプや、高アスペクト用の化学増幅型レジスト剤が望ましい。例えば、フォトレジストの塗布方法は、スピンコート、スリットコート、ロールコート、スプレー法、スクリーン印刷法であってもよい。また、感光性のドライフィルムレジストを貼り付けてもよい。
【0046】
露光後に未露光のレジストを除く方法、用いる現像液等においても、公知の手法が用いられる。
【0047】
こうして形成されたレジストパターン上から、下部電極12の材料が、基板11の第1面21上に配置される。説明の便宜上、形成途中の下部電極(つまり導電材料層)についても、下部電極と同一の符号を付して、“下部電極12”と呼ぶことがある。
【0048】
下部電極12となる導電材料層を形成した後に、レジストパターンを除去することで、フォトレジスト層31が形成されていない領域、つまり基板11の第1面21の領域A1に、選択的に下部電極12を形成することができる(
図3(B))。
【0049】
下部電極12を形成する工程は:
−導電材料を分散媒に分散させたペースト(以下、「導電ペースト」と称する)、若しくは導電材料のレジネートを溶媒に溶解させた溶液(以下、「導電レジネート溶液」と称する)を塗布し、その後分散媒又は溶媒を除去すること、又は、
−導電材料を蒸着すること、
を備えていてもよい。
【0050】
導電ペーストの塗布は、スクリーン印刷によって行うことができ、導電レジネート溶液の塗布は、スピンコート、吹きつけ等によって行うことができる。また、導電材料の蒸着は、スパッタ蒸着、抵抗加熱蒸着等により行うことができる。
【0051】
下部電極12の形成後、レジストパターンは除去される。レジストパターンの除去は、熱処理、プラズマ処理、蒸気噴霧法、剥離液による処理等によって実行可能である。なお、他の工程における他のレジストパターンの除去についても、同様である。
【0052】
導電材料層が焼成されることで、導電材料層は下部電極12となる。導電材料層の焼成は、導電材料層の形成後、かつレジストパターンの除去後に行われればよく、例えばさらに他の層(セラミック層13や上部電極14等)が形成された後であってもよい。
【0053】
(2)仮マスクの配置
電子部品の製造方法は、第1面21に、仮マスク4を配置することを含む。仮マスク4とは、第1マスクの一例であり、熱処理を受けることで、下部電極12と接続配線15との間を電気的に離隔することができる。
【0054】
図4(A)及び
図4(B)に示すように、本実施形態において、仮マスク4は、第1面21内で、領域A1に隣接した領域A2に形成される。
【0055】
まず、フォトレジスト層32を第1面21上に一様に形成する。その後、
図4(A)に示すように、フォトマスク41を、第1面21に対向する位置に、領域A2を遮光するように配置する。図中に矢印で示すように、第1面21に光を照射することで、領域A2を除いて、フォトレジスト層32が露光される。未露光のフォトレジスト層32を除去することで、領域A2において基板11の第1面21が露出したレジストパターンを形成することができる。
【0056】
なお、フォトマスク41に代えて、第2面22に対向するようにフォトマスクを配置してもよいし、又はキャビティ23とは別のキャビティを基板11内に設けて、この別のキャビティ内に導入された遮光剤をフォトマスクとして用いてもよい。フォトマスクが第2面22に対向するか、基板11内に設けられるとき、光は第2面22に照射する。
【0057】
図4(B)に示すように、こうして露出された領域A2に、仮マスク材料を供給することで、仮マスク4を形成する。
【0058】
仮マスク材料は、熱処理によって、酸化し気化して消失するか、粒状化するか、基板11及び/又はセラミック層13に吸収される材料であってもよい。さらに、仮マスク材料は、薄い厚みで高い遮光性を実現できることが好ましい。
【0059】
例えば、炭素(C)は、熱処理によって酸化することで、二酸化炭素又は一酸化炭素となって気化する。また、金(Au)、銀(Ag)などの低融点の材料を用いることができる。この場合、金(Au)や銀(Ag)は、熱処理において薄膜状から微粒子状になることで導電性を失う。基板11及び/又はセラミック層13に吸収される仮マスク材料としては、例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、アルミ(Al)が挙げられる。なお、「基板11及び/又はセラミック層13に吸収される」とは、「基板11及び/又はセラミック層13内に拡散する」と言い換えてもよい。この場合、例えば駆りマスク材としてニッケル(Ni)を選定し、セラミック層13としてニッケル酸ニオブ酸鉛とチタン酸ジルコン酸鉛の固溶体を選定したとすると、熱処理によってニッケル(Ni)が酸化ニッケル(NiO)に酸化し、セラミック層13に吸収され、ニッケル酸ニオブ酸鉛の一部となることで、仮マスク材として存在しなくなる。
【0060】
仮マスク材料の供給方法は特に制限はないが、薄膜形成に適した方法として、例えば、乾式法として、スパッタリング法、真空蒸着法、MOCVD法(化学気相成長法)が挙げられる。また、湿式法として、金属溶液、ナノ粒子分散液、又はレジネートの塗布が挙げられる。塗布方法としては、例えばディップ法、スプレー法、スピンコート法、インクジェット法、静電塗装法、スプレー−分注法等が挙げられる。
【0061】
仮マスク4の厚みは、仮マスク4の材料が、セラミック層13の焼成等の熱処理時にセラミック層13等の周囲の材料に吸収されても、セラミック層13の機能や特性に実用上の影響を及ぼさず、かつ露光時の遮光性を確保できる程度に調整されればよい。例えば、光学濃度(OD値)が2以上であってもよい。仮マスク4の厚みは、例えば100Å以上1μm以下であってもよいし、500Å以上0.5μm以下であってもよい。
【0062】
図4(B)に示すように、仮マスク4の形成後、フォトレジスト層32により形成されたレジストパターンは除去される。レジストパターンの除去については、上述したとおりである。
【0063】
なお、
図4(B)では、仮マスク4は、下部電極12に隣接するように配置されている。つまり、下部電極12と仮マスク4とは、領域A1と領域A2との境界において接触するように配置されている。しかし、下部電極12と仮マスク4との間には、隙間が設けられていてもよい。この隙間は、例えば、セラミック層13の本体部131とオーバーハング部132とが中断されずに連続するように形成できる範囲内で許容される。
【0064】
また、仮マスク4の一部が、下部電極12に重なるように配置されてもよい。仮マスク4は、領域A1に隣接する領域A2内に少なくともその一部が形成されていればよく、領域A1とA2とに跨って配置されていてもよい。
【0065】
(3)セラミック層の形成
電子部品の製造方法は、下部電極12及び仮マスク4を形成した後で、セラミック層13を設けることを含む。具体的には、下部電極12及び/又は他のマスク、並びに仮マスク4をフォトマスクとして用いてレジストパターンを形成し、このレジストパターンを用いて、前駆体層16を形成することができる。その後、焼成を行うことで、前駆体層16をセラミック層13とする。詳細には、以下の通りである。
【0066】
図5(A)では、下部電極12及び仮マスク4を含む領域A3を除く領域に配置されたフォトレジスト層を含むレジストパターンを形成している。具体的には、仮マスク及び下部電極12の上から、第1面21上に一様にフォトレジスト層33を形成する。その後、
図5(A)に矢印で示すように、第2面22に光を照射することで、下部電極12及び仮マスク4をフォトマスクとして用いて、フォトレジスト層33を露光する。その後、未露光のフォトレジスト層33を除去することで、領域A3が露出したレジストパターンが形成される。
【0067】
なお、本実施形態では下部電極12をフォトマスクとして用いているが、他のフォトマスクを設けることで、第1面21において遮光される領域を確保することもできる。また、他のフォトマスクと下部電極12との両方をフォトマスクとして用いることもできる。
【0068】
こうして形成されたレジストパターンが形成された状態で、前駆体層16の材料を第1面21上、具体的には下部電極12及び仮マスク4上に供給する。前駆体層16は後に行う焼成によってセラミック層13となる。
【0069】
前駆体層16の形成方法について説明する。まず、レジストパターンの上(すなわち
図5(A)における上)から、基板11の第1面21をセラミックペーストでコートする。
【0070】
セラミックペーストは固形分率が80〜99wt%が望ましく、焼結後のセラミックスの密度及びパターン加工性の観点から90〜99wt%が更に望ましい。
【0071】
ペーストは、セラミック材料及びバインダーを含有する。バインダーの種類に制限はないが、セラミック材料へのバインダーの吸着、及びバインダーへのセラミック材料の分散性の観点から、ブチラール樹脂、セルロース樹脂、アクリル樹脂等が使用可能である。複数種類のバインダーが混合されてもよい。
【0072】
セラミックペーストのコート法に特に制限はないが、例えばスピンコート、スリットコート、ロールコート、ゾルゲル法、スプレー法、スクリーン印刷法の湿式塗布、下部電極パターンを電極にした電気泳動法等が用いられる。セラミックペースト以外によるコート方法として、イオンビーム、スパッタリング、真空蒸着、PVD、イオンプレーティング、CVD、等の方法を挙げることができる。
【0073】
前駆体層16の形成後、レジストパターンを除去することで、領域A3以外の箇所(つまりフォトレジスト33上)に付着した前駆体層材料を除去する。レジストパターンの除去については、上述したとおりである。こうして、ただし、フォトレジスト材料が無機添加物を含んでいなければ、この後の熱処理でフォトレジストを消失させることも可能であるので、フォトレジストパターンの除去工程は省略することができる。
【0074】
こうして、下部電極12及び仮マスク4を用いて形成されたレジストパターンに沿って、つまりレジストパターンが形成されていない領域に、セラミック層13が形成される(
図5(B))。
【0075】
(4)熱処理
電子部品の製造方法は、仮マスク4を熱処理することを備える(
図5(C))。
【0076】
熱処理における温度、時間等の諸条件は、仮マスク4が酸化するか、粒状化するか、基板11及び/又はセラミック層13に吸収されることで、下部電極12と接続配線15との間が電気的に離隔されるように設定される。熱処理における諸条件は、特定の数値及び構成に限定されず、仮マスク4の材料等に応じて変更される。
【0077】
仮マスク4の熱処理と、前駆体層16をセラミック層13にするための焼成を、それぞれ別の工程として行っても良いし、熱処理と焼成を一度の熱処理によって行っても良い。なお、前駆体層16のコート方法が、セラミックペースト以外のコート方法の場合には、必ずしも焼成を行わずとも良い場合がある。つまり、セラミック層を設ける工程とは、前駆体層を設けることとそれを焼成することとを含んでいてもよいし、セラミック材料を基板上に配置することを含み、焼成することを含んでいなくてもよい。
【0078】
例えば、熱処理における温度は600℃以上かつ1400℃以下であってもよく、800℃以上1300℃以下であってもよい。
【0079】
(5)上部電極の形成
電子部品の製造方法は、少なくともセラミック層13を形成した後(前駆体層16の状態であってもよい)、上部電極14を形成することを含む(
図5(D))。具体的には、導電性材料をセラミック層13、または前駆体層16上に配置し、その後必要に応じて焼成を行うことで、上部電極14が形成される。上部電極の形成に用いられる導電性材料及びその形成方法等については、電気的な接続がなされるのであれば、特に制限は無い。
【0080】
また、上部電極14のパターニングは、例えばセラミック層13をフォトマスクとして行うことができる。つまり、セラミック層13を形成した後、基板11の第1面21上にフォトレジストを塗布する。その後、第2面22側から光を照射して、フォトレジストを感光させる。未感光のフォトレジストを除去することで、セラミック層13の上面を選択的に露出させるレジストパターンが形成される。その後、このレジストパターン上から導電材料をセラミック層13上に配置する。レジストパターンを除くことで、セラミック層13上に上部電極14となる導電材料層が形成される。
【0081】
(6)接続配線の形成
電子部品の製造方法は、接続配線15を設けることを含む。接続配線15は、フォトレジストを用いたパターニングによって形成されてもよい。ただし、接続配線15は、下部電極12と接続配線15との間にオーバーハング部132が介在するような位置に設けられる。これによって、下部電極12と接続配線15との間が電気的に離隔され、短絡の発生が抑制される。
【0082】
なお、下部電極12に接続する接続配線は、例えばセラミック層13の形成前に、フォトレジストを用いたパターニング等の手法によって形成される。具体的な手法については図示及び説明を省略する。
【0083】
(7)焼成
電子部品の製造方法は、下部電極12、セラミック層13及び上部電極14の少なくとも1つを焼成することを備えてもよい。下部電極12、セラミック層13、及び上部電極14は、別々に焼成されてもよいし、これらの構成要素のうち少なくとも2つ以上が共焼成されてもよい。また、上述したように、熱処理工程が、焼成によって実現されてもよい。
【0084】
(8)他の形態
図3(A)では、第2マスクの一例として、キャビティ23内の遮光剤をフォトマスクとして用いたが、フォトマスクは、基板11の第1面21又は第2面22に対向するように配置されてもよい。
【0085】
また、基板11の第1面21に対向するようにフォトマスクを配置する場合、
図3(A)における光の照射方向は、第1面21側から照射するように変更される。
【0086】
なお、キャビティ23内に遮光剤を導入することは、基板内にフォトマスクを配置することの一例に過ぎない。
【0087】
いうまでもなく、以上に述べた製造方法は、
図2(A)及び
図2(B)に示すヘッド101の製造方法に適用可能である。
【実施例】
【0088】
[実施例1]
図2(A)及び
図2(B)に基づく構成を有する試料を、以下の通り作製した。作製工程の概要は、
図3(A)、
図3(B)、
図4(A)、
図4(B)、
図5(A)、
図5(B)、
図5(C)で説明した通りである。
【0089】
(基板の形成)
部分安定化酸化ジルコニウムのグリーンシートを積層することで、下記寸法を有する基板を形成し、その後1450℃温度にて焼成した。
振動板:7μm
第1基板:80μm
第2基板:70μm
キャビティ寸法:巾80μm、長さ1mm
(下部電極の形成)
キャビティ内に遮光剤を導入し、フォトマスクとして用いてレジストパターンを形成した。このレジストパターンを用いて、下部電極材料として、白金ペーストを用いたスクリーン印刷を行い、基板上に白金層を形成した。レジストを除き、温度1100℃にて焼成することで、0.8μmの厚みを有する下部電極を形成した。
【0090】
(仮マスクの形成)
図4(A)に示すとおりに、下部電極に隣接する領域A2を露出させたレジストパターンを形成した。このレジストパターン上からターゲットとしてNiを用いたスパッタリングによって、厚み0.3 μmの仮マスクを形成した。
【0091】
具体的には、基板の第1面にスピンコーターにより、レジストを塗布(回転数1000rpm 保持時間6秒)し、ホットプレート加熱によりプリベークした(100℃×3分)。なお、レジスト剤としてはアクリル系樹脂を使用した。
【0092】
レジスト層の厚みは5.0μmであった(非接触形状測定機 キーエンス製にて計測)。
【0093】
所望パターンを有するフォトマスクを用いて基板の第1面を遮光しつつ、基板の第1面側から光を照射して、レジスト層を露光した。照射時間4秒、積算光量40mJ/cm
2、露光装置として、3線波長(すなわち365,405,436nm)の光を照射可能なウシオ製マルチライトを使用した。
【0094】
未露光レジストを除去する現像として、レジスト専用現像液(アルカリ性水溶液)を用いて、浸漬揺動法を1〜2分間実行した。その後、純水で3分リンスし、ホットプレートで120℃×3分間加熱乾燥した。
【0095】
レジストパターンが形成された基板の第1面全体を、RFマグネトロン式スパッタ装置を使用して、0.3μmの厚みのニッケル層でコーティングした。
【0096】
露光済みのレジスト層(つまりレジストパターン)の除去は、アルカリ性TMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)2.38wt%水溶液を用いた浸漬揺動法で5分処理することで実行した。その後、基板を純水で3分洗浄し、120℃で5分間、ホットプレートで乾燥した
(前駆体層(圧電層)形成用レジストパターンの形成)
基板の第1面(つまり振動板表面)に、スピンコーターにより、回転数600rpmでレジスト剤を塗布した。10秒間保持した後、80℃×3分のホットプレート加熱によりプリベークを行った。
【0097】
レジスト剤としてエポキシ系樹脂を使用した。レジスト層の厚みは8.0μmであった。
【0098】
基板第2面側から光を照射し、レジスト層を露光した。照射時間は40秒、積算光量 は400mJ/cm
2であった。こうして、仮マスク及び下部電極の両方をフォトマスクとして露光を行った。
【0099】
現像はレジスト専用現像液(アルカリ性水溶液)を用いて、浸漬揺動法を3分間実行した後、純水で3分リンスし、さらに150℃×3分間ホットプレートで加熱乾燥した。
【0100】
こうして、下部電極及び仮マスクが露出したレジストパターンが形成された。
【0101】
(前駆体層(圧電層)の形成)
セラミック材料としてPZT((PbTi0.48Zr0.52)O3)を含有するセラミックペースト(材質/粘度)を、レジストパターン上からスピンコートにより塗布した。
【0102】
30秒間保持した後、120℃×3分間ホットプレートで乾燥した。
【0103】
得られたセラミック材料層の厚みは5.0μmであった。厚みは、非接触形状測定機:キーエンス製にて測定した。
【0104】
(前駆体層形成用のレジストの除去)
露光したレジスト層、つまりレジストパターンの除去は、レジスト除去液(有機溶剤系)による浸漬揺動法で5分処理した後、純粋3分洗浄・除去し、さらに120℃×5分ホットプレートで乾燥することで実行した
(前駆体層の焼成及び熱処理)
以上の作業で得られた基板、下部電極、仮マスク、及び前駆体層の積層体を、電気炉を用いて、最高温度:1250℃、保持時間2時間で熱処理することで、セラミック層を焼成した。また、この焼成は、後述するように、仮マスクの熱処理としても利用された。
【0105】
分光透過率計を用いて、測定波長365nmのI線での試料の透過光量を測定した。
【0106】
[比較例1]
一方、仮マスクを形成しない以外は、同様の方法によって、基板と前駆体層との積層体を得た。
【0107】
[結果]
焼成前は、仮マスクを備える積層体の光の透過率は非常に小さかったが、仮マスク焼成時に電気炉の温度が上がるにつれて、徐々に透過率は上昇し、セラミックの焼成温度である1250℃では急激な増大を示した。これは、加熱によって、ニッケルが酸化ニッケルとなり、更にはセラミック層及び基板内に吸収されたためであると考えられる。
【0108】
一方、仮マスクを設けなかった積層体では、光の透過率に大きな変化は見られなかった。