(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の周波数で発振するマルチモード半導体レーザ光源と、上記マルチモード半導体レーザ光源に対して移動する回折格子とを備え、上記マルチモード半導体レーザ光源から上記回折格子を介して出射されるレーザ光の当該回折格子による回折光を干渉させ当該回折格子の移動量を計測する光学式変位測定装置であって、
上記回折格子が形成された面を覆うように形成された屈折率nで厚さLの透明な保護層を有し、
上記保護層は、保護層表面の法線と入射光のなす角度をθ、回折格子で発生する回折光が保護層の境界面で反射し迷光となって回折格子に再入射するとき回折格子面の法線のなす角をθ’としたとき、Δ=2L(n/cosθ’+tanθ’・sinθ)にて示される迷光とその迷光と干渉する光線の光路長差Δを、当該光路長差Δが0の場合における干渉信号の干渉強度に対し2%以下の干渉強度の干渉信号となる範囲内とする厚さLを有することを特徴とする光学式変位測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら、以下の順序で詳細に説明する。
【0018】
本発明は、例えば
図1に示すような構成の光学式変位測定装置100に適用される。
【0019】
この光学式変位測定装置100は、反射型の回折格子11が形成された光学スケール10を備え、複数の周波数で発振するマルチモード半導体レーザを用いた可干渉光源20から、上記光学スケール10に形成されている回折格子11を介して出射されるレーザ光の当該回折格子11による回折光を干渉させ当該回折格子11の移動量を計測することにより、工作機械等の可動部分の位置検出を行う装置である。
【0020】
上記光学スケール10は、
図2に示すように、回折格子11の移動による光の位相の変化を検出して位置検出を行う格子干渉計用の反射型スケールであって、ガラス、セラミック等のベース基材13上に物理的な凹凸を持つ回折格子11が形成され、その表面に形成された反射膜14を有し、その上に屈折率nで厚さLの透明な保護層12が形成されている。
【0021】
上記保護層12は、後で詳述するように、保護層表面の法線と入射光のなす角度をθ、回折格子で発生する回折光が保護層の境界面で反射し迷光となって回折格子に再入射するときの回折格子面の法線のなす角をθ’としたとき、Δ=2L(n/cosθ’+tanθ’・sinθ)にて示される、迷光とその迷光と干渉する光線の光路長差Δが、当該光路長差Δが0の場合における干渉信号の干渉強度に対し2%以下の干渉強度の干渉信号となる範囲内とする厚さLを有する。
【0022】
ここで、この光学式変位測定装置100では、
図1に示すように、回折格子11の格子面11a上の格子ベクトル方向に平行な1つの仮想的な直線を含み法線ベクトルに平行な仮想的な基準面に対し、上記仮想的な直線を含み上記基準面とのなす角がγとなっている仮想的な面を傾斜面Aとし、また、上記仮想的な直線を含み基準面とのなす角がδとなっている仮想的な面を傾斜面Bとし、上記傾斜面Aと傾斜面Bは、回折格子11の格子面11aに対し、同一面側にあるものとする。
【0023】
そして、この光学式変位測定装置100において、上記傾斜面A上に配置された構成要素を上記基準面に対して垂直な方向から見た側面図を
図3に示す。また、回折格子11に入射される可干渉光及びこの回折格子11により回折される回折光を格子ベクトル方向から見た状態を
図4に示す。さらに、上記傾斜面B上に配置された構成要素を上記基準面に対して垂直な方向から見た側面図を
図5に示す。
【0024】
この光学式変位測定装置100は、
図1及び
図3に示すように、可干渉光Laを出射する可干渉光源20と、干渉した2つの2回回折光Lc1,Lc2を受光して干渉信号を生成する受光素子30と、可干渉光源20から出射された可干渉光Laを2つの可干渉光La1,La2に分割して回折格子11に照射するとともに、回折格子11からの2回回折光Lc1,Lc2を重ね合わせて受光素子30に照射する照射受光光学系41とを備えている。
【0025】
照射受光光学系41は、可干渉光源20から出射された可干渉光Laを回折格子11の格子面11a上に結像させる第1の結像素子21と、可干渉光源20から出射された可干渉光Laを偏光方向の直交する2つの可干渉光La1,La2に分離するとともに、偏光方向の直交する2つの2回回折光Lc1,Lc2を重ね合わせる偏光ビームスプリッタ43と、偏光ビームスプリッタ43により分離された一方の可干渉光La1を反射するとともに回折格子11からの2回回折光Lc1を反射する反射器23と、偏光ビームスプリッタ43により分離された他方の可干渉光La2を反射するとともに2回回折光Lc2を反射する反射器24と、偏光ビームスプリッタ43により重ね合わされた偏光方向の直交する2つの2回回折光Lc1,Lc2を受光素子30の受光面30aに結像させる第2の結像素子25と、偏光ビームスプリッタ43により重ね合わされた偏光方向の直交する2つの2回回折光Lc1,Lc2の同一の偏光方向の成分を取り出す偏光板46とを有している。
【0026】
この照射受光光学系41は、通過する可干渉光La(La1,La2)の光路及び通過する2回回折光Lc1,Lc2の光路が、傾斜面A上に形成されるように、各部材が配置されている。そのため、可干渉光La1,La2及び2回回折光Lc1,Lc2は、
図4に示すように、格子ベクトル方向から見た入射角がγ(保護層内ではγ
n)、回折角がδ(保護層内ではδ
n)となっている。γは0次光が光路内に混入しない程度の角度に設定する。10°程度に設定することによりほとんどの場合0次光が光路内に混入しないようにすることができる。
【0027】
可干渉光源20から出射される可干渉光Laは、照射受光光学系41の偏光ビームスプリッタ43に対して、偏光方向を45度傾けて入射される。
【0028】
偏光ビームスプリッタ43は、入射された可干渉光Laを、偏光方向が直交する2つの可干渉光La1,La2に分割する。照射受光光学系41の偏光ビームスプリッタ43を透過した可干渉光La1はP偏光の光となり、反射した可干渉光La2はS偏光の光となる。
【0029】
また、偏光ビームスプリッタ43には、回折格子11により2回回折された、2回回折光Lc1,Lc2が入射される。ここで、2回回折光Lc1は、元々はP偏光の光であるが、後述する反射光学系42により偏光方向が90度回転させられS偏光の光となっている。同様に、2回回折光Lc2は、元々はS偏光の光であるが、後述する反射光学系42により偏光方向が90度回転させられP偏光の光となっている。従って、この偏光ビームスプリッタ43は、S偏光の光である2回回折光Lc1を反射し、P偏光の光である2回回折光Lc2を透過して、これら2つの2回回折光Lc1,Lc2を重ね合わせる。
【0030】
反射器23は、偏光ビームスプリッタ43を透過した可干渉光La1を反射して、回折格子11の格子面11aの所定の位置に照射する。また、反射器23は、回折格子11からの2回回折光Lc1を反射して、偏光ビームスプリッタ43に照射する。
【0031】
反射器24は、偏光ビームスプリッタ43により反射された可干渉光La2を反射して、回折格子11の格子面11aの所定の位置に照射する。また、回折格子11からの2回回折光Lc2を反射して、偏光ビームスプリッタ43に照射する。
【0032】
反射器23及び反射器24は、
図3に示す方向から見た入射角がθ(保護層内の角度はθ
n)となるように、可干渉光La1及び可干渉光La2を、格子面11a上の所定の位置に照射している。なお、反射器23及び反射器24は、その反射面が、互いが向き合うように配置されている。そのため、可干渉光La1と可干渉光La2とは、格子ベクトル方向の入射方向が、互いに逆方向となっている。また、反射器23及び反射器24は、格子ベクトル方向に所定量離した位置に、可干渉光La1と可干渉光La2とを入射している。可干渉光La1の入射点と可干渉光La2の入射点との間の距離は、lとなっている。lは0以上の任意の距離である。
【0033】
偏光板46は、偏光ビームスプリッタ43により重ね合わされたS偏光の光である2回回折光Lc1とP偏光の光である2回回折光Lc2とが透過する。この偏光板46は、2回回折光Lc1及び2回回折光Lc2に対して、それぞれの光の偏光方向が45度の成分を透過して、互いに同一の偏光方向の光とする。
【0034】
受光素子30は、この偏光板46を透過した2つの2回回折光Lc1,Lc2を受光する。
【0035】
この光学式変位測定装置100では、このような可干渉光La1が回折格子11に照射されることによりこの可干渉光La1が回折し、1回回折光Lb1が生じる。また、このような可干渉光La2が回折格子11に照射されることによりこの可干渉光La2が回折し、1回回折光Lb2が生じる。1回回折光Lb1と1回回折光Lb2の回折角は、格子ベクトル方向からみた場合、
図4に示すように、δ(保護層内ではδ
n)となっている。すなわち、傾斜面Bに沿って1回回折光Lb1,Lb2が生じる。また、1回回折光Lb1と1回回折光Lb2の
図5に示す方向から見た回折角は、θ”(保護層内の角度はθ
n”)となっている。なお、1回回折光Lb1と1回回折光Lb2とは、格子ベクトル方向における出射方向が互いに逆方向となっている。
【0036】
δが10°以下の場合、γ
n、δ
n、θ
n、 θ
n”、の関係は近似的に以下のように表される。
【0037】
sinθ
n”=mλ
0/Λn−sinθ
n
Λは格子ピッチ、λ
0は可干渉光の真空中の中心波長、mは回折次数で、本実施例ではm=1。
【0038】
sinγ
n/sinδ
n =cosθ
n”/cosθ
n
また、この光学式変位測定装置40は、
図1及び
図5に示すように、反射光学系42を備えている。
【0039】
反射光学系42は、可干渉光La1により生じる1回回折光Lb1を反射して再度回折格子11に照射する反射器26と、可干渉光La2により生じる1回回折光Lb2を反射して再度回折格子11に照射する反射器27と、可干渉光La1により生じる1回回折光Lb1を平行光として上記反射器26に照射する第3の結像素子28と、可干渉光La2により生じる1回回折光Lb2を平行光として上記反射器27に照射する第4の結像素子29と、1回回折光Lb1の光路上に設けられた1/4波長板44と、1回回折光Lb2の光路上に設けられた1/4波長板45とを有している。
【0040】
反射光学系42は、上述したように2つの1回回折光Lb1,Lb2の格子ベクトル方向から見た回折角がδとなっているため、通過する1回回折光Lb1,Lb2の光路が傾斜面B上に形成されるように、各部材が配置されている。また、反射光学系42の反射器26と反射器27とは、
図5の方向から見た回折角θ”で回折された1回回折光Lb1,Lb2を垂直に反射可能な位置に配置されている。
【0041】
また、1/4波長板44は、回折格子11から入射するP偏光の光の1回回折光Lb1の偏光方向に対して、45度光学軸を傾けて配置されている。1回回折光Lb1は、この1/4波長板44を2回通過して、回折格子11に結像される。そのため、P偏光の光であった1回回折光Lb1がS偏光の光とされ、回折格子11に照射される。
【0042】
また、1/4波長板45は、回折格子11から入射するS偏光の光の1回回折光Lb2の偏光方向に対して、45度光学軸を傾けて配置されている。1回回折光Lb2は、この1/4波長板45を2回通過して、回折格子11に結像される。そのため、S偏光の光であった1回回折光Lb2がP偏光の光とされ、回折格子11に照射される。
【0043】
このような反射光学系42から、1回回折光Lb1,Lb2が回折格子11に入射される。この1回回折光Lb1,Lb2の格子ベクトルから見た入射角は、この1回回折光Lb1,Lb2の回折角と同じく、δ(保護層内ではδ
n)となる。また、
図5の方向から見た入射角は、同様に回折角と同じく、θ”(保護層内の角度はθ
n”)となる。
【0044】
また、この1回回折光Lb1,Lb2が回折することにより、2回回折光Lc1,Lc2が生じる。この2回回折光Lc1,Lc2の格子ベクトル方向から見た回折角は、可干渉光La1,La2の入射角と同じく、γ(保護層内ではγ
n)となる。また、
図3の方向から見た回折角は、同様に可干渉光La1,La2の入射角と同じく、θ(保護層内の角度はθ
n)となる。空気中の角度と保護層内の角度の関係はSnellの法則で表される。
【0045】
従って、2回回折光Lc1,Lc2は、可干渉光La1,La2と同光路を逆行して、偏光ビームスプリッタ43に入射する。
【0046】
また、この光学式変位測定装置100は、受光素子30からの干渉信号に基づき回折格子11の移動位置を検出する図示しない位置検出部を備えている。
【0047】
この光学式変位測定装置100では、仮想的な基準面に対して、所定の傾斜角をもった傾斜面A上に照射受光光学系41を配置し、傾斜面B上に反射光学系42を配置することにより、可干渉光と回折光とが形成する光路を分離することができ、装置の設計の自由度が増す。また、格子面11aからの0次回折光や反射光を、照射受光光学系41や反射光学系42に混入させることなく、回折光Lb1,Lb2を干渉させることができ、高精度に位置測定をすることができる。
【0048】
すなわち、この光学式変位測定装置100において、可干渉光源20から出射された可干渉光Laは第1の結像素子21を通り、偏光ビームスプリッタ43で2つの可干渉光La1,La2、すなわち、透過側P偏光、反射側S偏光に分割される。なお、可干渉光として半導体レーザを使用した場合は偏光方向をこの偏光ビームスプリッタ43に対して45°傾けて入射すればよい。 分割された2つの可干渉光La1,La2は反射器23,24で反射され反射型の回折格子11の格子面11a近傍のほぼ同一点に結像される。結像されるビーム径は、その範囲に回折光を得るのに十分な本数の格子を含む必要があり、また、ゴミやキズの影響を避けるため数十μm以上あることが望ましく、結像光学系の開口数等を調整することにより適当なビーム径とされている。
【0049】
レーザビームは入射角θで回折格子11へ入射され、当該回折格子11で角度θ”で回折されたそれぞれのビームは回折格子11の格子面11a近傍に焦点のある第3の結像素子28、29を通り、それぞれのビームの偏光方向に対して45°光学軸の傾いた1/4波長板44、45を通過し光軸に対して垂直に置かれた反射器26、27で反射され、再び1/4波長板44、45を通り、P偏光はS偏光に、S偏光はP偏光に変換され、第3の結像素子28、29を通り、回折格子11の格子面11a近傍に結像される。回折格子11で回折された光は反射器23、24から偏光ビームスプリッタ43へともと来た光路を戻る。
【0050】
偏光ビームスプリッタ43ではP偏光は透過し、S偏光は反射されるため二つの可干渉光Lc1,Lc2は重ね合わされ第2の結像素子25へと向かう。第2の結像素子25を通過した光は偏光方向に対して透過軸を45度傾けた偏光板46を通過し、受光素子30の受光面30a近傍に結像される。
【0051】
ここで、重ね合わせる2つの2回回折光Lc1,Lc2の強度をI
1,I
2、回折格子11の格子ベクトル方向への移動量をx、初期位相をφとすると、受光素子30により得られる干渉信号の強度Iは、
I=I
1+I
2+2√(I
1・I
2)cos(4Kx+φ) ・・・ 式(1)
K=2π/Λ(Λは格子ピッチ)
なる式(1)にて示され、位置検出部では、受光素子30からの干渉信号に基づき回折格子11の移動位置を検出することができる。
【0052】
このような構成の光学式変位測定装置100では、可動部分の移動に応じて回折格子11が格子ベクトル方向に移動することにより、2つの2回回折光Lc1,Lc2に位相差が生じる。この光学式変位測定装置100では、この2つの2回回折光Lc1,Lc2を干渉させて干渉信号を検出し、この干渉信号から2つの2回回折光Lc1,Lc2の位相差を求めて、回折格子11の移動位置を検出することができる。
【0053】
このように可干渉光La1,La2を格子面11a近傍に結像し、格子面11a近傍に焦点のある結像素子28,29を通して反射器26,27で反射することにより、回折格子11が傾いた場合でも、一回目の回折光が常に反射器26,27に垂直に入射するため反射光は常に入射した時と全く同じ光路を逆行することになり、二回目の回折光の光路がずれないため干渉信号の変動が起きない。
【0054】
また、
図4に示すように、可干渉光源20、受光素子30のある傾斜面Aは格子面11aに対して角度γで傾いており、反射器26,27のある傾斜面Bは角度δで傾いている。左右の光路は対称であり、左右の光路の光路長が等しくなるように反射器26,27の位置は調整される。
【0055】
このようにすることにより波長変動に起因する測定誤差の発生を防ぐことができる。この調整を行うために可干渉光源20は可干渉距離の短い物を用いることができる。例えば可干渉距離が数百μmのマルチモードの半導体レーザを用いれば、干渉縞の変調率(Visibility)が最大となるところに反射器26,27の位置を調整すれば光路長差を数十μm以下に抑えることができる。
【0056】
上記回折格子11が形成された光学スケール10では、
図6に示すように、入射光からさまざまな次数の回折光が生じ、保護層12の境界面で反射して回折格子11に再入射し、再度の回折で1次回折光とほぼ同じ方向に回折されている。
【0057】
再度の回折でもさまざまな方向に回折光が生じるが、条件を満たせば最初の1次回折光と同じ方向に回折光を生じる。条件は下記の式(2A)から導出できる。例えば、0次回折光が境界面で反射した場合、回折格子に−θ
nで再入射するので、再度の回折での1次回折光が最初の1次回折光と同じ方向に回折する。また、−1次の回折光が境界面で反射した場合は再度の回折での2次回折光が最初の1次回折光と同じ方向に回折することがわかる。式(2A)でm=0,m=−1を代入して得られたθ’の符号を変えて、再度θ
nに代入することにより導出される。以下これらの回折光を回折光迷光と表記する。これらの回折光迷光は1次回折光と干渉しやすく、保護層12わずかな厚さの変化等で位置検出用の干渉信号の変動の原因となり位置検出の誤差を引き起こす。回折光迷光が再度、保護層12と空気の境界面で反射し、再度回折した光が生じる可能性があるが、保護層12と空気の境界面での反射率は保護層12の屈折率nを1.5程度とすると約4%なので、2度目の反射では0.16%となり無視できるので、これらについては考慮しない。回折光迷光同士の干渉も、1次回折光と干渉した場合に比べ同様に影響は小さいので考慮しない。
【0058】
次に保護層12の膜厚Lとこれらの回折光と1次回折光が干渉した場合の干渉強度の関係を説明する。これらの回折光は1次回折光とは光路長が異なっており、この光路長の差をδとすると、
図7、
図8に示すように、保護層12の膜厚をL、保護層12の屈折率をn、入射光と保護層12表面の法線のなす角をθ、保護層内での迷光となる回折光と格子面の法線のなす角をθ’、格子ピッチをΛ、回折次数をm、可干渉光の真空中の中心波長をλ
0とすると、
図4のγが10°以下であれば、近似的に次の式(2A)の関係が成り立つ。
【0059】
sinθ’=mλ
0/Λn−sinθ
n 式(2A)
sinθ
n=sinθ/n
であり、光路長差
Δは、
Δ=2L(n/cosθ’+tanθ’・sinθ) 式(2B)
なる式(2B)にて表すことができる。なお、角度の符号は
図9の(A),(B)に示すとおりにしてある。
【0060】
すなわち、図
8における光路長差Δは、
Δ=BCD+FA
BCD=2Ln/cosθ’
FA=2L・tanθ’・sin
θ
となる。また、図
7における光路長差Δは、
Δ=BCD−EF
BCD=2Ln/cosθ’
EF=−2L・tanθ’・sinθ(角度符号の取り方からtanθ’はマイナス値)
となる。
【0061】
ここで、上記可干渉光源20として用いたマルチモード半導体レーザの発振スペクトルの一例を
図10に示す。そして、
図10に示した発振スペクトルのマルチモード半導体レーザを上記可干渉光源20として用いた光学式変位測定装置100において、マルチモード半導体レーザの光路長差と干渉信号強度の関係(コヒーレンシー曲線)を実測した結果を
図11の(A)に示すとともに、その一部を拡大して
図11の(B)に示す。
図11において、横軸は光路長差[mm]、縦軸は干渉強度[%]である。この例において、上記可干渉光源20が出射する可干渉光の中心波長λ
0は793.8nm、スペクトルのピーク間隔Δλは0.19nmで、コヒーレンシー曲線のピーク間隔ΔLは3.3mm間隔となっている。
【0062】
上記スペクトルのピーク間隔Δλとコヒーレンシー曲線のピーク間隔ΔLの関係は、スペクトルの各ピークの周期を持つ波が重ねあわされてうなりを起こし、そのうなりのピークがコヒーレンシー曲線のピークになると考えることにより、次の式(3)のように表すことができる。
【0063】
ΔL=λ
02/Δλ 式(3)
この式(3)に上記
図10に示した可干渉光の中心波長λ
0の値すなわち793.8nm、スペクトルのピーク間隔Δλの値すなわち0.19nm代入すると、
793.8
2/0.19×10
−6=3.3mm
となり、
図11に示したコヒーレンシー曲線のピーク間隔ΔLと一致する。
【0064】
このように、適当なスペクトルのピーク間隔を持つ光源を選択することにより、必要なコヒーレンシー曲線のピーク間隔を得ることができる。
【0065】
コヒーレンシー曲線の個々のピークの幅は、スペクトル曲線のさまざまな条件に左右されるので単純な数式で表すのは難しいが、スペクトル曲線のピークの本数が多いほどコヒーレンシー曲線のピークの幅は狭くなる。
【0066】
例えば、スペクトル曲線の形状が
図10に示したスペクトル曲線の形状と相似形で、中心波長λ
0が650nm、ピーク間隔Δλが0.25nmであるとすると、コヒーレンシー曲線のピーク間隔ΔLは
650.0
2/0.25×10
−6=1.69mm
となり、コヒーレンシー曲線は
図12にようになる。
【0067】
図10に示した特性を持つマルチモード半導体レーザでは、
図11に示すように干渉させるビームの光路長差が0.4mmから2.9mmの間では、干渉強度は2%以下で平坦である。したがって、
図8のような迷光が発生している場合、上記可干渉光源20としてこのマルチモード半導体レーザを用いた場合、上記式(2)、すなわち、
Δ=2L(n/cosθ’+tanθ’・sinθ)
が0.4mmから2.9mmの間にあれば、迷光回折光と1次回折光の光路長差はこの範囲に入り干渉のピークとピークの間に収めることできる。それにより、ピーク部分での1次光と回折迷光の強い干渉を避けることが可能となり、干渉信号の変動を最小にすることにより、誤差の発生を最小にすることができる。
【0068】
この条件を上記光学式変位測定装置100に適用した場合を以下に述べる。
【0069】
入射角θ=28.2度、保護層12の屈折率nを1.46とし、θ’は1次光の12.6度とする。したがって、保護層12の膜厚Lが75μmのときΔ=0.24mmで、干渉光強度が約18.0%となる。そして、膜厚Lが133μmのときは、Δ=0.43mmで干渉光強度が約2%となる。
【0070】
上記光学式変位測定装置100の光学系において、
図11のコヒーレンシー曲線を持つマルチモード半導体レーザを上記可干渉光源20として用いて、
図6に示した構造の光学スケール10を走査したときの、回折光迷光が原因となって起きる位置検出用の干渉信号の変動量を
図13に示す。この
図13において、縦軸は変動率で横軸は保護層12の厚さLである。
【0071】
図13に示すように、保護層12の厚さLが75μmでは変動率は約0.36と大きいが、保護層12の厚さLが133μmでは約0.03と非常に小さくなる。
【0072】
次に、干渉信号の変動率と内挿誤差の関係をシミュレーションした結果を
図14に示す。内挿誤差とは干渉信号1周期内で生じる誤差のことである。この誤差は、干渉信号の中心値が干渉信号の変動によってずれることにより生じるもので、光学素子や受光素子の感度バラツキから避けられないものである。
【0073】
この計算では、それらのバラツキが総計で5%と見込んで計算している。
この結果からわかるのは、変動率が0.03以下であれば内挿誤差は0.2nm以下になることを示している。この値は、半導体製造装置等の高精度の位置制御が必要な場合でも十分な値である。
【0074】
以上の測定結果より、保護層表面の法線と入射光のなす角度をθ、回折格子で発生する回折光が保護層の境界面で反射し迷光となって回折格子に再入射するとき回折格子面の法線のなす角をθ’としたとき、Δ=2L(n/cosθ’+tanθ’・sinθ)にて示される迷光とその迷光と干渉する光線の光路長差Δの値がマルチモード半導体レーザのコヒーレンシー曲線のピークとピークの間の光路長の範囲に入るようにLを設定することにより、回折光迷光が位置検出用の干渉信号に影響を与える影響を最小にすることができることがわかる。
【0075】
上記光学式変位測定装置100では、
図15に示すような構造の光学スケール10Aを使用することもできる。この光学スケール10Aは、ガラス、セラミック等のベース基材13上に物理的な凹凸を持つ回折格子11が形成され、その表面に形成された反射膜14を有し、その上に接着剤層15を介して保護用のガラス等の透明基板が接着されている。この例の場合は、回折光迷光が接着剤層15と透明基板16の境界面、透明基板16と空気の境界面のそれぞれで反射するので、接着剤層15の厚さ、接着剤層15の厚さに透明基板の厚さを加算した厚さのそれぞれをLとおいた場合に上記の条件を満たすようにする必要がある。透明基板16の厚さが十分厚く、透明基板16と空気の境界面からの反射光が位置検出用の光路に混入しない場合は接着剤層15の厚さに透明基板16の厚さを加算した厚さについては上記の条件を満たす必要は無い。