(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5695504
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】ダンパプーリ
(51)【国際特許分類】
F16H 55/36 20060101AFI20150319BHJP
F16H 25/12 20060101ALI20150319BHJP
F16F 15/12 20060101ALI20150319BHJP
F16F 15/123 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
F16H55/36 H
F16H25/12 D
F16F15/12 S
F16F15/123 Z
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-124480(P2011-124480)
(22)【出願日】2011年6月2日
(65)【公開番号】特開2012-193841(P2012-193841A)
(43)【公開日】2012年10月11日
【審査請求日】2014年1月31日
(31)【優先権主張番号】特願2011-42094(P2011-42094)
(32)【優先日】2011年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 哲司
(72)【発明者】
【氏名】小谷 紳二
(72)【発明者】
【氏名】永田 昭裕
(72)【発明者】
【氏名】北村 英佐
【審査官】
河端 賢
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−009899(JP,A)
【文献】
特開平03−117730(JP,A)
【文献】
実開2005−000002(JP,U)
【文献】
特開2007−051672(JP,A)
【文献】
実開昭57−167927(JP,U)
【文献】
特開2009−281435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/36
F16F 15/12
F16F 15/123
F16H 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力側と出力側の2つの回転体を同軸上で相対回転可能に配置して、前記入力側の回転体にプーリを設け、前記2つの回転体のいずれか一方側に、回転方向で周期的に軸方向へ隆起する複数の山部を形成した環状の球ガイド面を設け、他方側に、前記球ガイド面と軸方向で対向する環状の球保持面を設けて、これらの球ガイド面と球保持面との間に複数の球を周方向に配列して保持し、前記球保持面を設けた側の回転体に、前記周方向に配列した球を回転方向への移動を規制して収容する球収容部を設け、前記球ガイド面および球保持面のいずれか一方の面を、この面が設けられる側の前記回転体の軸方向に移動可能な別体の移動部材に形成して、この別体部材を前記配列された球側へ軸方向に押圧する圧縮ばねを設け、
前記球ガイド面を前記入力側の回転体側に設け、前記山部の回転方向と反対側の斜面を、回転方向側の斜面よりも緩斜面としたダンパプーリ。
【請求項2】
前記2つの回転体を、一方を他方に嵌挿するように内外に配置し、これらの内外に配置した回転体の間に形成される環状空間に、前記球ガイド面、球、球保持面および圧縮ばねを配置した請求項1に記載のダンパプーリ。
【請求項3】
前記球ガイド面と前記球保持面との間隔が拡がる方向への前記移動部材の軸方向移動を、前記球ガイド面の山部と前記球保持面との間隔が、前記球の直径未満となるように規制した請求項1または2に記載のダンパプーリ。
【請求項4】
前記球ガイド面の隣接する各山部間の領域を、最深の谷底部から両側の山部に向かって傾斜角度が大きくなる曲面の斜面で形成した請求項3に記載のダンパプーリ。
【請求項5】
前記山部間の谷底部から両側の山部に向かって傾斜角度が大きくなる斜面の曲面を、前記谷底部で傾斜が零となる楕円曲面とした請求項4に記載のダンパプーリ。
【請求項6】
前記谷底部の両側の楕円曲面を、互いに短径が等しく、長径が異なる2つの楕円のものとして、前記球ガイド面を前記入力側の回転体側に設け、前記谷底部から回転方向と反対側の斜面を前記長径が大きい楕円の楕円曲面とした請求項5に記載のダンパプーリ。
【請求項7】
前記球ガイド面と球保持面との間に配列された球の半径方向への移動を規制する手段を設けた請求項1乃至6のいずれかに記載のダンパプーリ。
【請求項8】
前記球ガイド面を前記別体部材に形成し、この別体部材を、前記球ガイド面が設けられる側の回転体に回転方向を固定する手段を設けた請求項1乃至7のいずれかに記載のダンパプーリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの回転体間の回転変動を吸収して、回転体間の回転トルクの伝達を可能としたダンパプーリに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンのクランクシャフトからオルタネータ等の補機へベルトを介して回転トルクを伝達する回転伝達部には、プーリを設けた入力側の回転体と、補機への出力側の回転体とを同軸上で相対回転可能に配置し、これらの2つの回転体間の回転変動を吸収して回転体間の回転トルクの伝達を可能としたダンパプーリが採用されている。
【0003】
この種のダンパプーリには、入力側と出力側の2つの回転体をゴムやコイルスプリング等の弾性体で連結し、弾性体の捩じれ変形を利用して回転体間の相対回転を許容し、回転体間の回転変動を吸収して回転体間の回転トルクの伝達を可能としたものが多い(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
また、弾性体の捩じれ変形を利用するのではなく、同軸上で内外に配置した2つの回転体の間に、軸方向で対向する2つの環状レースを配置して、これらの対向面に係合部を設け、第1環状レースを外側回転体に回転一体でかつ軸方向変位可能として、背面側にばねを配置するとともに、第2環状レースを内側回転体に対して回転および軸方向変位可能とし、第2環状レースと内側回転体との間に上記ばねで押圧接続される摩擦クラッチを配置して、第1環状レースの係合部を上記ばねの配置方向に降り勾配の円弧状斜面、第2環状レースの係合部を上記ばねの配置方向に昇り勾配の円弧状斜面とし、これらの係合部間で回転体間の相対回転を許容するとともに、ばねで押圧される摩擦クラッチによって回転トルクを伝達するようにしたダンパプーリも提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭63−68540号公報
【特許文献2】特開平5−180287号公報
【特許文献3】特開2006−38183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載された弾性体の捩じれ変形を利用して回転体間の相対回転を許容するダンパプーリは、繰り返しの捩じれ変形を受けるゴムやコイルスプリング等の弾性体の疲労によって、耐久寿命が短くなる問題がある。
【0007】
一方、特許文献3に記載されたダンパプーリは、このような弾性体の疲労による耐久寿命の低下はないが、回転体間の相対回転を許容する機構のほかに、回転トルクを伝達する摩擦クラッチを必要とするので、構成が複雑になる問題がある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、簡単な構成で耐久寿命の優れたダンパプーリを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、入力側と出力側の2つの回転体を同軸上で相対回転可能に配置して、前記入力側の回転体にプーリを設け、前記2つの回転体のいずれか一方側に、回転方向で周期的に軸方向へ隆起する複数の山部を形成した環状の球ガイド面を設け、他方側に、前記球ガイド面と軸方向で対向する環状の球保持面を設けて、これらの球ガイド面と球保持面との間に複数の球を周方向に配列して保持し、前記球保持面を設けた側の回転体に、前記周方向に配列した球を回転方向への移動を規制して収容する球収容部を設け、前記球ガイド面および球保持面のいずれか一方の面を、この面が設けられる側の前記回転体の軸方向に移動可能な別体部材に形成して、この別体部材を前記配列された球側へ軸方向に押圧する圧縮ばねを設けた構成を採用した。
【0010】
すなわち、同軸上で相対回転可能な2つの回転体の一方側に、回転方向で周期的に軸方向へ隆起する複数の山部を形成した球ガイド面を設け、他方側に、球ガイド面と軸方向で対向する球保持面を設けて、これらの環状の球ガイド面と球保持面との間に複数の球を周方向に配列して保持し、球保持面を設けた側の回転体に、配列した球を回転方向への移動を規制して収容する球収容部を設け、球ガイド面および球保持面のいずれか一方の面を、この面が設けられる側の回転体の軸方向に移動可能な別体部材に形成して、この別体部材を球側へ軸方向に押圧する圧縮ばねを設けることにより、簡単な構成で、耐久寿命の優れたダンパプーリを提供できるようにした。つまり、一方の回転体側に設けた球ガイド面と、他方の回転体側に設けた球収容部に回転方向への移動を規制された球を介して、回転トルクを伝達するとともに、回転体間に回転変動が生じたときに、球ガイド面の両側の山部の間で球を転動させ、回転体間の相対回転を許容できるようにした。
【0011】
前記2つの回転体を、一方を他方に嵌挿するように内外に配置し、これらの内外に配置した回転体の間に形成される環状空間に、前記球ガイド面、球、球保持面および圧縮ばねを配置することにより、ダンパプーリをコンパクトに設計することができる。
【0012】
前記球ガイド面と前記球保持面との間隔が拡がる方向への前記移動部材の軸方向移動を、前記球ガイド面の山部と前記球保持面との間隔が、前記球の直径未満となるように規制することにより、過負荷によって入力側の回転体の回転が速くなる大きな回転変動が生じたときに、玉が山部を乗り越えるトリップをなくし、このトリップ動作による騒音の発生やトルク変動を防止することができる。
【0014】
また、本発明は、前記球ガイド面を前記入力側の回転体側に設け、前記山部の回転方向と反対側の斜面を、回転方向側の斜面よりも緩斜面とする
。これにより、過負荷によって入力側の回転体の回転が速くなる大きな回転変動が生じたときに、球が山部を乗り越えても、山部を乗り越えた球が緩斜面を緩やかに下るようにし、急激なトルク変動を抑制することができる。
【0016】
前記球ガイド面の隣接する各山部間の領域を、最深の谷底部から両側の山部に向かって傾斜角度が大きくなる曲面の斜面で形成することにより、回転体間に回転変動が生じたときに山部側へ転動する球の移動速度を山部に近づくほど減速し、山部を乗り越えるトリップを規制された球を静かに停止させることができる。
【0017】
前記山部間の谷底部から両側の山部に向かって傾斜角度が大きくなる斜面の曲面は、前記谷底部で傾斜が零となる楕円曲面とすることができる。
【0018】
前記谷底部の両側の楕円曲面を、互いに短径が等しく、長径が異なる2つの楕円のものとして、前記球ガイド面を前記入力側の回転体側に設け、前記谷底部から回転方向と反対側の斜面を前記長径が大きい楕円の楕円曲面とすることにより、過負荷によって入力側の回転体の回転が速くなる大きな回転変動が生じたときに、球が山部を乗り越えるトリップを規制されるまでの移動距離を長くし、より大きな回転変動を許容することができる。
【0020】
前記球ガイド面と球保持面との間に配列された球の半径方向への移動を規制する手段を設けることにより、配列された球の半径方向への移動を確実に規制することができる。
【0021】
前記球ガイド面を前記別体部材に形成する場合は、この別体部材を、前記球ガイド面が設けられる側の回転体に回転方向を固定する手段を設けるとよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るダンパプーリは、同軸上で相対回転可能な2つの回転体の一方側に、回転方向で周期的に軸方向へ隆起する複数の山部を形成した球ガイド面を設け、他方側に、球ガイド面と軸方向で対向する球保持面を設けて、これらの環状の球ガイド面と球保持面との間に複数の球を周方向に配列して保持し、球保持面を設けた側の回転体に、配列した球を回転方向への移動を規制して収容する球収容部を設け、球ガイド面および球保持面のいずれか一方の面を、この面が設けられる側の回転体に回転方向を固定され軸方向に移動可能な別体部材に形成して、この別体部材を球側へ軸方向に押圧する圧縮ばねを設けたので、簡単な構成で、耐久寿命の優れたダンパプーリを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1の実施形態のダンパプーリを示す合成縦断面図
【
図6】第2の実施形態のダンパプーリを示す一部省略縦断面図
【
図9】第3の実施形態のダンパプーリを示す一部省略縦断面図
【
図11】
図9のダンパプーリにおける回転体間の捻転角と球の球ガイド面との接触角との関係を示すグラフ
【
図12】第4の実施形態のダンパプーリを示す一部省略縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。
図1乃至
図5は、第1の実施形態を示す。このダンパプーリは、
図1に示すように、プーリ1が設けられた入力側となり、Vリブドベルトのリブ部が嵌まり込むプーリ溝を外周部に有する筒状の第1回転体2の内径側に、出力側となる第2回転体3が同軸上で嵌挿され、転がり軸受4で第1回転体2と相対回転可能に支持されている。第1回転体2の内径面には、第1回転体2と第2回転体3の間の環状空間5の一端側を仕切る内向きの鍔部2aが設けられ、第2回転体3の外径面には、環状空間5の他端側を閉塞するように仕切るコ字断面の環状ケーシング6が取り付けられている。なお、
図1の縦断面図は、便宜的に、定常回転状態を上側半分に、後述する回転変動が大きくなる過負荷状態を下側半分に、合成して表示している。
【0025】
前記ケーシング6は、第1回転体2の内径面に装着されたすべり軸受7aに支持され、第2回転体3の外径面に螺着されたナット8の締め付けによって、軸方向位置を位置決めされる。また、転がり軸受4は、第1回転体2の鍔部2aと第2回転体3の大径段部3aで軸方向位置を位置決めされている。
【0026】
前記第1回転体2の鍔部2aとケーシング6で仕切られた環状空間5には、鍔部2a側からケーシング6側へ、後述する環状の球ガイド板9、複数の球10、環状の球保持板11および圧縮コイルばね12が順に配置されている。球ガイド板9は鍔部2aにボルト13で固定されている。球ガイド板9は、周方向に分割することもでき、鍔部2aと一体に形成することもできる。
【0027】
また、前記球保持板11は、すべり軸受7bを介して第2回転体3の軸方向に移動可能とされ、スラスト軸受14を介して圧縮コイルばね12で球10側へ押圧されている。この圧縮コイルばね12の押圧力は、ナット8の締め付け位置によって調節される。なお、圧縮コイルばね12は、板ばねや皿ばね等の他の圧縮ばねとしてもよい。また、スラスト軸受14は省略することもできる。
【0028】
前記各すべり軸受7a、7bは、真鍮、青銅等の金属素材やナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、高分子量ポリエチレン等の合成樹脂素材で形成される。これらの素材の表面に、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素等の固体潤滑剤を塗布することもできる。また、固体潤滑剤を合成樹脂素材中に分散させることもできる。金属素材で形成する場合は、表面に潤滑性のよいめっき処理を施すこともできる。
【0029】
図2に示すように、前記第2回転体3の大径段部3aには、回転方向で等間隔に複数の凹状の球収容部15が設けられ、これらの各球収容部15に、球10が回転方向の移動を規制されるように収容されている。この実施形態では、球収容部15が回転方向の5箇所に設けられ、5つの球10が回転方向に配列されている。これらの球収容部15と球10の数は2つ以上であればよく、好ましくは3つ以上とするとよい。
【0030】
また、
図1および
図2に示すように、前記各球収容部15に収容された球10は、球保持板11の外周で軸方向に張り出す環状部11aによって、半径方向外側への移動を規制されるように球ガイド板9との間に保持される。球10は圧縮コイルばね12の押圧力によって半径方向への移動を拘束されるので、環状部11aは省略することもできる。したがって、この実施形態では、プーリ1から第1回転体2に入力される回転トルクが、第1回転体2に回転方向を固定された球ガイド板9と、第2回転体3の球収容部15に回転方向の移動を規制された球10を介して、出力側の第2回転体3に伝達される。
【0031】
図3に示すように、前記球ガイド板9は、球保持板11の球保持面17と軸方向で対向する面に、回転方向で周期的に軸方向へ隆起する複数の山部16aを形成した球ガイド面16が設けられている。この実施形態では、山部16aが回転方向の5箇所に形成されている。前記球収容部15に収容されて配列された各球10は、球保持板11を介して圧縮コイルばね12で球ガイド面16に押圧されるので、定常回転状態では、各山部16aの中間の最深の谷底部16bに位置する。
【0032】
図4に示すように、前記球ガイド面16の山部16aの高さHは2〜5mmとされ、図中に矢印で示す第1回転体2と第2回転体3の回転方向に対して、山部16aの回転方向側の斜面16cとその反対側の斜面16dが、山部16aに対して対称な傾斜面とされている。定常回転状態で谷底部16bに位置する球10は、回転体2、3間に回転変動が生じると、圧縮コイルばね12の押圧力に抗して、その両側のいずれかの斜面16c、16dを登るように転動して、回転体2、3間の相対回転を許容し、過負荷によって大きな回転変動が生じたときは、山部16aを乗り越えて過負荷を吸収する。なお、山部16aの高さHを2〜5mmとしたのは、山部16aの高さHが2mm未満では、過負荷を吸収する能力が不十分となり、5mmを超えると、過負荷を吸収する際に圧縮コイルばね12の圧縮変位が大きくなり、圧縮コイルばね12の耐久寿命が短くなるからである。
【0033】
図5は、前記球ガイド面16の変形例を示す。この変形例では、図中に矢印で示す第1回転体2と第2回転体3の回転方向に対して、山部16aの回転方向と反対側の斜面16dが、回転方向側の斜面16cよりも緩斜面とされている。したがって、過負荷によって入力側の第1回転体2の回転が速くなる大きな回転変動が生じ、第1回転体2に固定された球ガイド板9の回転が速くなったときに、回転方向側の斜面16cから山部16aを乗り越えた球10が、緩斜面とされた回転方向と反対側の斜面16dを緩やかに下るので、急激なトルク変動を抑制することができる。
【0034】
図6乃至
図8は、第2の実施形態を示す。このダンパプーリは、第1の実施形態のものと同様に、プーリ1を設けた入力側の第1回転体2の内径側に、出力側の第2回転体3を同軸上で嵌挿し、転がり軸受4で第1回転体2と相対回転可能に支持したものであり、
図6に示すように、前記環状の球保持面17が第1回転体2側に設けられ、これと軸方向で対向する環状の球ガイド面16が、第2回転体3の軸方向に移動可能な別体部材である球ガイド板9に形成され、球ガイド板9が圧縮コイルばね12で球10側へ押圧されている点と、球ガイド面16と球保持面17の間に配列された各球10が、第1回転体2に設けられた各球収容部15に、回転方向の移動を規制されるように収容されている点とが異なる。その他の部分は、第1の実施形態のものと同じであり、球収容部15が回転方向の5箇所に設けられ、5つの球10が回転方向に配列されている。
【0035】
前記球ガイド板9は、環状のバックアップ部材18を介して圧縮コイルばね12で背面側を押圧され、バックアップ部材18は、第2回転体3の外径面にスプライン19で軸方向へスライド可能に取り付けられており、第2回転体3に回転方向を固定されている。
【0036】
図6および
図7に示すように、前記球保持面17は、第1回転体2の内向きの鍔部2aの側面に設けられ、鍔部2aの内周で軸方向に張り出す環状部2bの外径面に、各球10を収容する複数の凹状の球収容部15が設けられている。したがって、この実施形態では、プーリ1から第1回転体2に入力される回転トルクが、第1回転体2の球収容部15に回転方向の移動を規制された球10と、第2回転体3に回転方向を固定された球ガイド板9を介して、出力側の第2回転体3に伝達される。
【0037】
図8は、前記球ガイド板9の球ガイド面16を示す。この球ガイド面16は、図中に矢印で示す第1回転体2と第2回転体3の回転方向に対して、山部16aの回転方向側の斜面16cが、回転方向と反対側の斜面16dよりも緩斜面とされている。したがって、過負荷によって入力側の第1回転体2の回転が速くなる大きな回転変動が生じると、回転方向と反対側の斜面16dから山部16aを乗り越えた球10が、緩斜面とされた回転方向側の斜面16cを緩やかに下るので、急激なトルク変動を抑制することができる。
【0038】
図9乃至
図11は、第3の実施形態を示す。このダンパプーリは、
図9に示すように、第1の実施形態のものと同様に、プーリ1を設けた入力側の第1回転体2の内径側に、出力側の第2回転体3を同軸上で嵌挿して、転がり軸受4で第1回転体2と相対回転可能に支持し、前記球ガイド面16を設けた環状の球ガイド板9を第1回転体2側に設け、これと軸方向で対向する環状の球保持面17を、第2回転体3の軸方向に移動可能な別体部材である球保持板11に形成し、球保持板11をスラスト軸受14を介して圧縮コイルばね12で球10側へ押圧したものであり、この球保持板11に、ケーシング6の外筒部6aと当接して、その後退移動を規制する後向きの環状部11bが設けられている点と、後述するように、球ガイド面16の形態とが異なる。その他の部分は、第1の実施形態のものと同じであり、図示は省略するが、球収容部15が回転方向の5箇所に設けられ、5つの球10が回転方向に配列されている。なお、
図9の縦断面図は、
図1と同様に、定常回転状態を上側半分に、後述する回転変動が大きくなる過負荷状態を下側半分に、合成して表示している。
【0039】
図10に示すように、前記球ガイド面16は、各山部16aの高さHは2〜5mmとされ、隣接する山部16a間の領域が、最深の谷底部16bから両側の山部16aに向かって傾斜角度が大きくなる斜面16c、16dで形成されている。これらの斜面16c、16dは、短径が等しく、長径が異なる2つの楕円20a、20bの楕円曲面とされ、図中に矢印で示す第1回転体2と第2回転体3の回転方向に対して、谷底部16bから回転方向と反対側の斜面16cが長径の大きい楕円20aの楕円曲面とされ、回転方向側の斜面16dが長径の小さい楕円20bの楕円曲面とされている。
【0040】
定常回転状態で谷底部16bに位置する球10は、回転体2、3間に回転変動が生じると、圧縮コイルばね12の押圧力に抗して、その両側のいずれかの斜面16c、16dを登るように転動して、回転体2、3間の相対回転を許容する。この実施形態では、前記球保持板11の環状部11bがケーシング6の外筒部6aと当接するときの、山部16aと球保持面17との間隔が球10の直径よりもわずかに小さく設定されており、玉10が山部16aを乗り越えるトリップをなくすようにしている。したがって、このトリップ動作による騒音の発生やトルク変動が防止される。
【0041】
図11のグラフは、前記回転体2、3間の相対回転角θと、玉10の各斜面16c、16dとの当接角α(各斜面16c、16dの垂線の傾斜角)との関係を示す。相対回転角θがない定常回転状態では、玉10は谷底部16bに位置し、当接角αは零となる。第1回転体2の回転が増速されるプラス負荷側では、玉10は長い斜面16c側へ移動し、相対回転角θの増加に伴って当接角αが徐々に大きくなり、玉10の転動速度が山部16aに近づくほど減速されて、球保持面17で山部16aの乗り越えを規制されるときに静かに停止する。また、第1回転体2の回転が減速されるマイナス負荷側では、玉10は短い斜面16d側へ移動し、相対回転角θのマイナス側への減少に伴って当接角αが急激に大きくなり、反対側の山部16aに近づくほど減速される。
【0042】
この実施形態では、ダンパプーリをエンジンのクランクシャフトからオルタネータへの回転伝達部に用いることを想定して、前記各楕円20a、20bの短半径を4mm、楕円20aの長半径を18.5mm、楕円20bの長半径を6mmとし、玉10が斜面16cを登りつめたときの相対回転角θが50°、当接角αが35°に近くなるように設計されている。すなわち、プラス負荷側で当接角αが35°となるときの最大伝達トルクを15Nmとし、エンジンの特性から0.3Nm/degの平均ダンパ特性を持たせるために、グラフ中に示す当接角αが35°のときに相対回転角θが50°となる点線に近づけるように、プラス負荷側の斜面16cが上記寸法の楕円20aの楕円曲面とされ、残りの領域のマイナス負荷側の斜面16dが上記寸法の楕円20bの楕円曲面とされている。
【0043】
図12および
図13は、第4の実施形態を示す。このダンパプーリは、
図12に示すように、第2の実施形態のものと同様に、プーリ1を設けた入力側の第1回転体2の内径側に、出力側の第2回転体3を同軸上で嵌挿して、転がり軸受4で第1回転体2と相対回転可能に支持し、前記環状の球保持面17を第1回転体2側に設け、これと軸方向で対向する環状の球ガイド面16を、第2回転体3の軸方向に移動可能な別体部材である球ガイド板9に形成し、球ガイド板9を環状のバックアップ部材18を介して圧縮コイルばね12で球10側へ押圧したものであり、このバックアップ部材18に、ケーシング6の外筒部6aと当接して、その後退移動を規制する後向きの環状部18aが設けられている点と、後述するように、球ガイド面16の形態とが異なる。その他の部分は、第2の実施形態のものと同じであり、図示は省略するが、球収容部15が回転方向の5箇所に設けられ、5つの球10が回転方向に配列されている。
【0044】
図13に示すように、前記球ガイド面16は、各山部16aの高さHは2〜5mmとされ、隣接する山部16a間の領域が、最深の谷底部16bから両側の山部16aに向かって傾斜角度が大きくなる斜面16c、16dで形成されている。これらの斜面16c、16dは、短径が等しく、長径が異なる2つの楕円20a、20bの楕円曲面とされ、図中に矢印で示す第1回転体2と第2回転体3の回転方向に対して、谷底部16bから回転方向と反対側の斜面16cが長径の小さい楕円20bの楕円曲面とされ、回転方向側の斜面16dが長径の大きい楕円20aの楕円曲面とされている。
【0045】
定常回転状態で谷底部16bに位置する球10は、回転体2、3間に回転変動が生じると、圧縮コイルばね12の押圧力に抗して、その両側のいずれかの斜面16c、16dを登るように転動して、回転体2、3間の相対回転を許容する。この実施形態では、前記バックアップ部材18の環状部18aがケーシング6の外筒部6aと当接するときの、山部16aと球保持面17との間隔が球10の直径よりもわずかに小さく設定されており、玉10が山部16aを乗り越えるトリップをなくすようにしている。したがって、第3の実施形態のものと同様に、トリップ動作による騒音の発生やトルク変動が防止される。
【0046】
また、
図11に示したグラフと同様に、第1回転体2の回転が増速されるプラス負荷側では、玉10は長い斜面16d側へ移動し、当接角αの増加に伴って、玉10の転動速度が山部16aに近づくほど減速されて、球保持面17で山部16aの乗り越えを規制されるときに静かに停止する。第1回転体2の回転が減速されるマイナス負荷側では、玉10は短い斜面16c側へ移動し、相対回転角θのマイナス側への減少に伴って当接角αが急激に大きくなり、反対側の山部16aに近づくほど減速される。
【0047】
上述した各実施形態では、プーリを設けた入力側の回転体の内径側に出力側の回転体を嵌挿したが、出力側の回転体の内径側に入力側の回転体を嵌挿し、その軸方向への延出部にプーリを設けることもできる。また、入力側の回転体と出力側の回転体を軸方向で対向させ、これらの軸方向の対向部に、球ガイド板、球、球保持板および圧縮ばねを上述した構成で順に配置することもできる。
【符号の説明】
【0048】
1 プーリ
2 第1回転体
2a 鍔部
2b 環状部
3 第2回転体
3a 大径段部
4 転がり軸受
5 環状空間
6 ケーシング
6a 外筒部
7a、7b すべり軸受
8 ナット
9 球ガイド板
10 球
11 球保持板
11a、11b 環状部
12 圧縮コイルばね
13 ボルト
14 スラスト軸受
15 球収容部
16 球ガイド面
16a 山部
16b 谷底部
16c、16d 斜面
17 球保持面
18 バックアップ部材
18a 環状部
19 スプライン
20a、20b 楕円