(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年になって発見されたRE−123系酸化物超電導体(REBa
2Cu
3O
7−X:REは希土類元素)は、液体窒素温度以上で超電導性を示すことから実用上極めて有望な素材とされており、これを線材に加工して電力供給用の導体として用いることが強く要望されている。中でも、Y系酸化物超電導体(YBa
2Cu
3O
7−X)やGd系酸化物超電導体(GdBa
2Cu
3O
7−X)を用いた超電導線材は、外部磁界に対して強く、強磁界内でも高い電流密度を維持することができるため、超電導コイル用導体としての利用、あるいは電力供給用ケーブルとしての利用の他、超電導線材への通電時に発生するおそれのある故障電流の遮断を目的とした超電導限流器用の導体としての研究開発も進められている。
【0003】
この種のRE−123系酸化物超電導線材の一構造例として、
図10に示す如くテープ状の金属基材101上に、IBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition;イオンビームアシスト蒸着)法によって成膜された中間層102と、その上に成膜されたキャップ層103と、酸化物超電導層104とを積層形成した超電導線材100が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
前記構造においてキャップ層103の結晶面内配向性が高い方が、更にその上に成膜される酸化物超電導層104も高い結晶配向性となり、この酸化物超電導層104の結晶面内配向性が高くなる程、臨界電流値等の超電導特性が優れた超電導線材100を得ることができる。
【0004】
IBAD法は、スパッタリング法によりターゲットから叩き出した構成粒子を基材上に堆積させる際に、イオンガンから発生された希ガスイオンと酸素イオンとの混合イオンを同時に斜め方向(例えば45度)から照射しながら堆積させるもので、この方法によれば、基材上に厚さ数〜数十nmという薄膜の中間層102を良好な結晶配向性で形成することができる。
図10に示す構造の超電導線材100において、中間層102及びキャップ層103は、酸化物超電導層104の結晶配向性を整え、成膜時の加熱処理に伴う元素の不要拡散を抑制するとともに、金属基材101と酸化物超電導層104の中間の膨張係数を有して熱ストレスを緩和するなどの複合的な効果を得るための層であって、これらの層を順序に積層することで始めて単結晶に近い結晶配向性であって、超電導特性の優れた酸化物超電導層104を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る超電導線材およびその製造方法の実施形態について図面に基づいて説明する。なお、
図1〜
図9において、超電導線材の構成がわかりやすくなるように一部の構成要素を大きく示しており、各構成要素の寸法関係は実際の超電導線材の寸法関係とは異なっている。
【0015】
図1は本発明に係る超電導線材の第1実施形態の概略斜視図であり、
図2は
図1に示す超電導線材の部分拡大断面図である。
図1および
図2に示す超電導線材10は、テープ状の基材11の一方の面上に中間層12と酸化物超電導層13と安定化層14が順次積層されて超電導積層体S1が構成され、この超電導積層体S1の安定化層14の表面14A側から酸化物超電導層13と中間層12との界面Aを貫通して中間層12の上部まで達する貫通部7を備えてなる。貫通部7は、線材の長手方向に沿って所定長さで形成された貫通溝5に充填材6が充填されて構成されており、超電導積層体S1の幅方向および長さ方向に複数個、ランダムに形成されている。
【0016】
基材11は、通常の超電導線材の基材として使用し得るものであれば良く、長尺のプレート状、シート状又はテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。耐熱性の金属の中でも、合金が好ましく、ニッケル合金又は銅合金がより好ましい。中でも、市販品であればハステロイ(商品名、米国ヘインズ社製)が好適であり、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。また、基材11としてニッケル合金などに集合組織を導入した配向Ni−W基板のような配向金属基板を用いてもよい。
基材11の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmの範囲とすることができる。
【0017】
中間層12は、酸化物超電導層13の結晶配向性を制御し、基材11中の金属元素の酸化物超電導層13への拡散を防止するものである。さらに、基材11と酸化物超電導層13との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能し、その材質は、物理的特性が基材11と酸化物超電導層13との中間的な値を示す金属酸化物が好ましい。中間層12の好ましい材質として具体的には、Gd
2Zr
2O
7、MgO、ZrO
2−Y
2O
3(YSZ)、SrTiO
3、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等の金属酸化物が例示できる。
中間層12は、単層でも良いし、複数層でも良い。例えば、前記金属酸化物からなる層(金属酸化物層)は、結晶配向性を有していることが好ましく、複数層である場合には、最外層(最も酸化物超電導層13に近い層)が少なくとも結晶配向性を有していることが好ましい。
【0018】
中間層12は、基材11側にベッド層が介在された複数層構造でもよい。ベッド層は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層は、必要に応じて配され、例えば、イットリア(Y
2O
3)、窒化ケイ素(Si
3N
4)、酸化アルミニウム(Al
2O
3、「アルミナ」とも呼ぶ)等から構成される。このベッド層は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜200nmである。
【0019】
さらに、本発明において、中間層12は、基材11側に拡散防止層とベッド層が積層された複数層構造でもよい。この場合、基材11とベッド層との間に拡散防止層が介在された構造となる。拡散防止層は、基材11の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si
3N
4)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、あるいは希土類金属酸化物等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。なお、拡散防止層の結晶性は問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すればよい。
このように基材11とベッド層との間に拡散防止層を介在させることにより、中間層12を構成する他の層や酸化物超電導層13等を形成する際に、必然的に加熱されたり、熱処理される結果として熱履歴を受ける場合に、基材11の構成元素の一部がベッド層を介して酸化物超電導層13側に拡散することを効果的に抑制することができる。基材11とベッド層との間に拡散防止層を介在させる場合の例としては、拡散防止層としてAl
2O
3、ベッド層としてY
2O
3を用いる組み合わせを例示することができる。
【0020】
また中間層12は、前記金属酸化物層の上に、さらにキャップ層が積層された複数層構造でも良い。キャップ層は、酸化物超電導層13の配向性を制御する機能を有するとともに、酸化物超電導層13を構成する元素の中間層12への拡散や、酸化物超電導層13積層時に使用するガスと中間層12との反応を抑制する機能等を有するものである。
【0021】
キャップ層は、前記金属酸化物層の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層は、前記金属酸化物層よりも高い面内配向度が得られる。
キャップ層の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3、HfO
2等が例示できる。キャップ層の材質がCeO
2である場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
キャップ層は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが好ましい。
【0022】
中間層12の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、0.1〜5μmである。
中間層12が、前記金属酸化物層の上にキャップ層が積層された複数層構造である場合には、キャップ層の厚さは、通常は、0.1〜1.5μmである。
【0023】
中間層12は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と略記する)等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法);溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層できる。特に、IBAD法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、酸化物超電導層13やキャップ層の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、蒸着時に、結晶の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、Gd
2Zr
2O
7、MgO又はZrO
2−Y
2O
3(YSZ)からなる中間層12は、IBAD法における配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0024】
酸化物超電導層13は通常知られている組成の酸化物超電導体からなるものを広く適用することができ、REBa
2Cu
3O
y(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のもの、具体的には、Y123(YBa
2Cu
3O
y)又はGd123(GdBa
2Cu
3O
y)を例示することができる。また、その他の酸化物超電導体、例えば、Bi
2Sr
2Ca
n−1Cu
nO
4+2n+δなる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを用いても良いのは勿論である。
酸化物超電導層13は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法)等で積層でき、なかでもレーザ蒸着法が好ましい。
酸化物超電導層13の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
【0025】
酸化物超電導層13の上に積層される安定化層14は、酸化物超電導層13の一部領域が常電導状態に遷移しようとした場合に、電流のバイパス路として機能することで、酸化物超電導層13を安定化させて焼損に至らないようにする、主たる構成要素である。
安定化層14は、導電性が良好な金属からなるものが好ましく、具体的には、銀又は銀合金、銅などからなるものが例示できる。安定化層14は1層構造でも良いし、2層以上の積層構造であってもよい。
安定化層14は、公知の方法で積層できる。安定化層14が1層構造の場合は、銀層をメッキやスパッタ法で形成する方法が挙げられる。また、安定化層14が2層構造の場合は、銀層をメッキやスパッタ法で形成し、その上に銅テープなどを貼り合わせるなどの方法を採用できる。安定化層14の厚さは、3〜300μmの範囲とすることができる。
【0026】
貫通部7は、
図2に示すように安定化層14の表面14Aから酸化物超電導層13と中間層12との界面Aを貫通して中間層12の上部まで達しており、線材の長手方向に沿って所定長さで形成された貫通溝5に充填材6が充填され構成されている。貫通溝5に充填材6が充填されて貫通部7が構成されることにより、貫通部7を介して酸化物超電導層13に水分が浸入することを抑制でき、水分により酸化物超電導層13が劣化し難いので、良好な特性の超電導線材10となる。充填材6としては、貫通溝5を埋めることができるものであれば特に制限されず、導電性および非導電性のものを適用できる。充填材6として、具体的には、エポキシ樹脂、カーボンペースト、銀ペースト等が挙げられる。なお、充填材6を省略して貫通溝5をそのまま貫通部7としてもよい。
【0027】
貫通部7は、万が一酸化物超電導層13と中間層12との剥離や、酸化物超電導層13におけるクラックが発生した場合に、剥離やクラックの伝搬を防止するために形成されている。貫通部7は、貫通部7が形成されていない酸化物超電導層13の部分よりもクラックが発生しやすい。このように、クラックが発生しやすい部分を敢えて形成しておくことにより、万が一酸化物超電導層13で部分的に剥離やクラックが発生した場合に、クラックは貫通部7に集中するので、酸化物超電導層13の貫通部7が形成された箇所以外の部分に剥離やクラックが伝搬することを抑制できる。
通常、酸化物超電導層13の剥離は、超電導線材10の端部側から発生する場合が多い。そのため、貫通部7を超電導線材10の幅方向中央部よりも幅方向端部側に多く形成しておくことにより、超電導線材10の端部で発生した剥離やクラックを端部側に形成した貫通部7でせき止め、中央部側へと剥離やクラックが伝搬することを抑制でき、好ましい。
【0028】
貫通部7の寸法は、貫通部7の底部が酸化物超電導層13と中間層12との界面Aを貫通していれば特に限定されず、適宜調整可能であるが、貫通部7が大き過ぎると酸化物超電導層13の体積が減少して超電導特性が低下するため、貫通部7の幅は5〜800μm、長さは0.1〜50mmとすることが好ましい。貫通部7の幅が5μm未満の場合、レーザなどによる加工が難しくなる。また、貫通部7の長さが50mmを超えると、超電導線材10がフィラメント化してしまうおそれがある。
さらに、貫通部7は、隣接する貫通部7同士の距離が100μm以上離れていることが好ましい。このような寸法および密度で貫通部7を備えることにより、良好な超電導特性を保持しつつ、万が一酸化物超電導層13で部分的な剥離やクラックが生じた場合であっても、酸化物超電導層13全体への剥離やクラックの伝搬を抑制できる。
【0029】
なお、貫通部7の形状はスリット形状に限定されず、
図3に示す第2実施形態の超電導線材10Bのように、丸孔形状あるいは丸孔に充填材が充填された形状の貫通部7Bであってもよい。この場合、貫通部7Bは、安定化層14の表面14Aから酸化物超電導層13と中間層12との界面を貫通して中間層12の上部まで達しており、その外径は5μm〜800μmの範囲とすることが好ましい。丸孔形状の貫通部7Bの外径が5μm未満場合は、レーザなどによる加工が難しくなる。また、丸孔形状の貫通部7Bの外径が800μmを越えると、酸化物超電導層13の体積が減少して超電導特性が低下する。
また、貫通部7Bが孔形状の場合、隣接する貫通部7B同士の距離が当該貫通部7Bの外径以上となるような密度で形成されていることが好ましい。このような寸法および密度で貫通部7Bを備えることにより、良好な超電導特性を保持しつつ、万が一酸化物超電導層13で部分的な剥離やクラックが発生した場合であっても、酸化物超電導層13全体への剥離やクラックの伝搬を抑制できる。
また、貫通部7の形状は超電導線材10の幅方向に沿うスリット形状であってもよいが、良好な超電導特性を保持する観点から、超電導線材10の長さ方向に沿うスリット形状または孔形状であることが好ましい。
【0030】
次に、本発明に係る超電導線材10の製造方法の一実施形態について図面に基づいて説明する。
図4は、
図1および
図2に示す超電導線材10の製造方法の一実施形態を示す工程説明図である。
【0031】
まず、
図4(a)に示す如く、前述した超電導積層体S1を準備する。一例として、基材11上にスパッタ法で拡散防止層とベッド層を形成した後、このベッド層の上にIBAD法によりMgO等の金属酸化物層を形成し、さらにPLD法でキャップ層を形成することにより基材11上に多層構造の中間層12を形成する。次いで、中間層12の上にPLD法により酸化物超電導層13を形成した後、酸化物超電導層13の上にスパッタ法によりAgの安定化層14を形成することにより超電導積層体S1を得ることができる。なお、安定化層14はスパッタ法によりAg層を形成した後に、Ag層上にCuの金属テープを半田を介して積層して形成してもよい。
【0032】
次に、
図4(b)に示す如く、安定化層14の表面14Aから安定化層14と酸化物超電導層13を貫通して中間層12の上部まで達する複数の貫通溝5を形成する。貫通溝5は、従来公知の方法により形成すればよく、レーザ加工、間欠式スリット加工、突起付きロールを安定化層14側から押し付けることによる加工などにより形成することができる。なお、
図3に示す超電導線材10Bを製造する場合は、貫通溝5と同様の方法で、安定化層14の表面14Aから安定化層14と酸化物超電導層13を貫通して中間層12の上部まで達する貫通孔を形成すればよい。本工程により形成する貫通溝5の寸法、密度は前述の通りである。
【0033】
次いで、
図4(c)に示す如く、形成した貫通溝5に充填材6を充填して貫通溝5を埋めることにより貫通部7を形成する。充填材6の材質は前述の通りである。なお、
図4(c)に示す工程を省略し、
図4(b)に示す如く貫通溝5を形成し、貫通溝5を充填材6で埋めずにそのまま貫通部7としてもよい。また、
図4(a)に示す超電導積層体S1として、安定化層14がAg層の一層からなるものを使用した場合、
図4(c)に示す如く貫通部7を形成した後に、Agの安定化層14および貫通部7の上に、Cuの金属テープを半田を介して積層してもよい。さらにまた、
図4(b)に示す如く貫通溝5を形成した超電導積層体S1に対して、Agの安定化層14および貫通溝5の上に、Cuの金属テープを半田を介して積層してもよい。この場合、Cuの金属テープ積層の際に、貫通溝5の上方あるいは大半部分に半田が流れ込んで凝固した状態で、貫通部7が形成される。
以上の工程により、本発明に係る超電導線材10を製造できる。
【0034】
本実施形態の超電導線材の製造方法によれば、安定化層14側から酸化物超電導層13と中間層12との界面を貫通して中間層12まで達する貫通部7を備えた超電導線材10を製造できる。本実施形態の超電導線材の製造方法により製造される超電導線材10は、貫通部7を備える構成であるため、万が一酸化物超電導層13で部分的に剥離やクラックが発生した場合であっても、酸化物超電導層13の貫通部7が形成された箇所以外の部分に剥離やクラックが伝搬することを抑制できる。
本実施形態の超電導線材の製造方法において、貫通溝5を充填材6で充填して貫通部7を形成することにより、貫通部7から酸化物超電導層13へと水分が浸入することを抑制できるので、良好な超電導特性の超電導線材10を提供できる。
【0035】
本発明の超電導線材において、貫通部は上記した
図1〜
図3の構造に限定されず、中間層12と酸化物超電導層13の界面Aを貫通していれば、安定化層14側から形成されていてもよく、基材11側から形成されていてもよい。以下、本発明に係る超電導線材およびその製造方法の他の実施形態について
図5〜
図9に基づいて説明する。なお、
図5〜
図9において、上記第1実施形態の超電導線材10と同一の構成要素には同一の符号を付し、同一要素の説明は省略する。
【0036】
図5は本発明に係る超電導線材の第3実施形態を示す部分拡大断面図である。
図5に示す超電導線材10Cは、テープ状の基材11の一方の面上に中間層12と酸化物超電導層13と安定化層14とが順次積層され、安定化層14と酸化物超電導層13の界面Bから基材11側に向かって酸化物超電導層13を貫通し、中間層12の上部にまで達する複数の貫通部7Cを備えてなる。貫通部7Cは、その上の安定化層14と一体形成されており、超電導線材10Cの長手方向に沿って所定長さ伸びる貫通溝5Cの内部に、Agなどの安定化層14と同一の材質が充填材6Cとして充填されている。貫通部7Cの寸法および密度は、第1実施形態の超電導線材10の貫通溝7と同様とすることが好ましく、貫通溝7は
図3に示す超電導線材10Bの如く孔形状であってもよい。
【0037】
本実施形態の超電導線材10Cを作製するには、まず、基材11上に中間層12と酸化物超電導層13が順次積層された超電導積層体S2を準備する。そして、この超電導積層体S2の酸化物超電導層13の表面13Aから酸化物超電導層13を貫通して中間層12の上部まで達する複数の貫通溝5Cをレーザ加工などにより形成する。次に、この貫通溝5Cが形成された超電導積層体S2に対して、酸化物超電導層13および貫通溝5Cの上にスパッタ法などの成膜法によりAgなどの安定化層14を形成する。安定化層14形成時、Agなどのスパッタ粒子は貫通溝5Cの内部にも堆積し、これにより、貫通孔5Cの内部にAgなどの安定化層14と同一の材質が充填材6Cとして充填されて貫通部7Cが形成される。
以上の工程により、本実施形態の超電導線材10Cを製造できる。
なお、
図5に示す如く安定化層14を形成した後に、安定化層14の上にCuの金属テープを半田を介して積層してもよい。また、貫通溝5Cを形成した超電導積層体S2に対して、酸化物超電導層13および貫通溝5Cの上に、Cuの金属テープを半田を介して積層して安定化層14を形成してもよい。この場合、Cuの金属テープ積層の際に、貫通溝5Cの上方あるいは大半部分に半田が流れ込んで凝固した状態で、貫通部7Cが形成される。
【0038】
図6は本発明に係る超電導線材の第4実施形態を示す部分拡大断面図である。
図6に示す超電導線材10Dは、テープ状の基材11の一方の面上に中間層12と酸化物超電導層13と安定化層14とが順次積層された超電導積層体S1に、安定化層14の表面14A側から基材11側に向かって安定化層14と酸化物超電導層13と中間層12を貫通して基材11の上部まで達する複数の貫通部7Dを備えてなる。
貫通部7Dは、超電導線材10Dの長手方向に沿って所定長さ伸びる貫通溝5Dの内部に、充填材6Dが充填されて構成されている。本実施形態の超電導線材10Dにおいて、貫通溝5Dに充填される充填材6Dは特に制限されないが、樹脂、ガラスペーストなどの非導電性の材料が好ましい。なお、充填材6Dを省略して貫通溝5Dをそのまま貫通部7Dとしてもよい。
貫通部7Dの寸法および密度は、第1実施形態の超電導線材10の貫通溝7と同様とすることが好ましく、貫通溝7Dは
図3に示す超電導線材10Bの如く孔形状であってもよい。
【0039】
本実施形態の超電導線材10Dは、形成する貫通溝5Dの深さを変えること以外は、
図4(a)〜(c)に示す超電導線材10の製造方法と同様の工程で製造することができる。なお、
図6に示す如く貫通部7Dを形成した後に、安定化層14および貫通部7Dの上にCuの金属テープを半田を介して積層してもよい。また、超電導積層体S1に貫通溝5Dを形成した後、貫通溝5Dを充填材で充填せずに、安定化層14および貫通溝5Dの上にCuの金属テープを半田を介して積層してもよい。この場合、Cuの金属テープ積層の際に、貫通溝5Dの上方あるいは大半部分に半田が流れ込んで凝固した状態で、貫通部7Dが形成される。
【0040】
図7は本発明に係る超電導線材の第5実施形態を示す部分拡大断面図である。
図7に示す超電導線材10Eは、テープ状の基材11の一方の面上に中間層12と酸化物超電導層13と安定化層14とが順次積層された超電導積層体S1に、安定化層14の表面14から基材11の裏面11Aまで貫通する複数の貫通部7Eが形成されて構成される。
貫通部7Eは、超電導線材10Eの長手方向に沿って所定長さ伸びる貫通溝5Dの内部に、充填材6Eが充填されて構成されている。本実施形態の超電導線材10Eにおいて、貫通溝5Eに充填される充填材6Eは特に制限されないが、上記した第5実施形態の超電導線材10Dで例示した非導電性の材料が好ましい。なお、充填材6Eを省略して貫通溝5Eをそのまま貫通部7Eとしてもよい。
貫通部7Eの寸法および密度は、第1実施形態の超電導線材10の貫通溝7と同様とすることが好ましく、貫通溝7Eは
図3に示す超電導線材10Bの如く孔形状であってもよい。
【0041】
本実施形態の超電導線材10Eは、
図4(b)に示す貫通溝を形成する工程において、形成する貫通溝の深さを変えて、超電導積層体S1の安定化層14の表面14Aから基材11の裏面11Aまでを貫通する貫通溝5Eを形成すること以外は、
図4(a)〜(c)に示す超電導線材10の製造方法と同様の工程で製造することができる。なお、
図7に示す如く貫通部7Dを形成した後に、安定化層14および貫通部7Eの上にCuの金属テープを半田を介して積層してもよい。
【0042】
図8は本発明に係る超電導線材の第6実施形態を示す部分拡大断面図である。
図8に示す超電導線材10Fは、テープ状の基材11の一方の面上に中間層12と酸化物超電導層13と安定化層14とが順次積層された超電導積層体S1に、基材11の裏面11A側から安定化層14側に向かって基材11と中間層12と酸化物超電導層13を貫通して安定化層14の下部まで達する複数の貫通部7Fを備えてなる。
貫通部7Fは、超電導線材10Fの長手方向に沿って所定長さ伸びる貫通溝5Fの内部に、充填材6Fが充填されて構成されている。本実施形態の超電導線材10Fにおいて、貫通溝5Fに充填される充填材6Fは特に制限されないが、上記した第5実施形態の超電導線材10Dで例示した非導電性の材料が好ましい。なお、充填材6Fを省略して貫通溝5Fをそのまま貫通部7Fとしてもよい。
貫通部7Fの寸法および密度は、第1実施形態の超電導線材10の貫通溝7と同様とすることが好ましく、貫通溝7Fは
図3に示す超電導線材10Bの如く孔形状であってもよい。
【0043】
本実施形態の超電導線材10Fを作製するには、まず、
図4(a)に示す構造の超電導積層体S1を準備する。
次に、基材11側が上になるように超電導積層体S1を配置し、レーザ加工などにより、基材11の裏面11Aから基材11と中間層12と酸化物超電導層13を貫通して安定化層14の下部まで達する貫通溝5Fを形成する。その後、形成した貫通溝5Fに充填材6Fを充填して貫通溝5Fを埋めることにより貫通部7Fを形成する。
以上の工程により、本実施形態の超電導線材10Fを製造できる。
【0044】
図9は本発明に係る超電導線材の第7実施形態を示す部分拡大断面図である。
図9に示す超電導線材10Gは、テープ状の基材11の一方の面上に中間層12と酸化物超電導層13と安定化層14とが順次積層された超電導積層体S1に、基材11の裏面11A側から安定化層14側に向かって基材11と中間層12を貫通して、酸化物超電導層13の下部まで達する複数の貫通部7Gを備えてなる。
貫通部7Gは、超電導線材10Gの長手方向に沿って所定長さ伸びる貫通溝5Gの内部に、充填材6Gが充填されて構成されている。本実施形態の超電導線材10Fにおいて、貫通溝5Fに充填される充填材6Gは特に制限されず、導電性または非導電性の材料を使用できる。充填材6Gとして具体的には、上記第1実施形態の超電導線材10で使用可能な充填材と同じものが挙げられる。なお、充填材6Gを省略して貫通溝5Gをそのまま貫通部7Gとしてもよい。
貫通部7Gの寸法および密度は、第1実施形態の超電導線材10の貫通溝7と同様とすることが好ましく、貫通溝7Gは
図3に示す超電導線材10Bの如く孔形状であってもよい。
【0045】
本実施形態の超電導線材10Gを作製するには、まず、
図4(a)に示す構造の超電導積層体S1を準備し、基材11側が上になるように超電導積層体S1を配置して、レーザ加工などにより、基材11の裏面11Aから基材11と中間層12を貫通して酸化物超電導層13の下部まで達する貫通溝5Gを形成する。その後、形成した貫通溝5Gに充填材6Gを充填して貫通溝5Gを埋めることにより貫通部7Gを形成する。
以上の工程により、本実施形態の超電導線材10Gを製造できる。
【0046】
上記した第3〜第7実施形態の超電導線材10C、10D、10E、10F、10Gは、安定化層14側または基材11側から、酸化物超電導層13と中間層12の界面Aを貫通する貫通部7C、7D、7D、7E、7F、7Gを備える構成である。そのため、上記した第1実施形態の超電導線材10と同様に、万が一酸化物超電導層13で部分的に剥離やクラックが発生した場合であっても、クラックを貫通部7C、7D、7D、7E、7F、7Gに集中させて、酸化物超電導層13の貫通部7C、7D、7D、7E、7F、7Gが形成された箇所以外の部分に剥離やクラックが伝搬することを抑制できる。
【0047】
以上、本発明の超電導線材およびその製造方法について説明したが、上記実施形態において、超電導線材の各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。