特許第5695583号(P5695583)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5695583
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】油圧ポンプの故障診断装置
(51)【国際特許分類】
   F04B 51/00 20060101AFI20150319BHJP
   F04B 49/10 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   F04B51/00
   F04B49/10 311
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-23462(P2012-23462)
(22)【出願日】2012年2月6日
(65)【公開番号】特開2013-160157(P2013-160157A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077816
【弁理士】
【氏名又は名称】春日 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100156524
【弁理士】
【氏名又は名称】猪野木 雄一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 佑司
【審査官】 佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−196403(JP,A)
【文献】 特開2007−077804(JP,A)
【文献】 特開2004−100846(JP,A)
【文献】 実開平01−152083(JP,U)
【文献】 特開平07−294365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 51/00
F04B 49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、前記ケーシングに回転可能に設けられた回転軸と、複数のシリンダが設けられ前記回転軸と一体に回転するように前記ケーシング内に設けられたロータと、前記ロータの各シリンダ内に往復運動可能に挿嵌された複数のピストンと、前記ロータと摺接するように前記ケーシングに設けられた前記各シリンダと間欠的に連通する吸入ポートと排出ポートとが形成された弁部材とからなる油圧ポンプの故障診断装置であって、
前記ケーシング内の圧力を検出する内圧検出手段と、
前記油圧ポンプに作動油を供給するタンクの圧力を検出するタンク圧検出手段と、
予め定めた第1の基準圧値を記憶する記憶部と,前記内圧検出手段で検出したケーシング内の圧力から前記タンク圧検出手段で検出したタンクの圧力を減じて、差圧を算出する第1演算部と,前記第1演算部で算出した前記差圧と前記第1の基準圧値とを比較し、その結果を出力する第2演算部とを有する故障診断手段とを備えた
ことを特徴とする油圧ポンプの故障診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の油圧ポンプの故障診断装置において、
前記油圧ポンプの吐出圧力を検出する吐出圧検出手段と、
予め定めた第2の基準圧値を記憶する記憶部と,前記吐出圧検出手段で検出した前記油圧ポンプの吐出圧力と前記第2の基準圧値とを比較し、前記油圧ポンプの吐出圧力が前記第2の基準圧値未満の場合に、前記第1演算部と前記第2演算部での処理を実行させる信号を出力する第3演算部とを有する故障診断手段とを更に備えた
ことを特徴とする油圧ポンプの故障診断装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の油圧ポンプの故障診断装置において、
前記故障診断手段で検出した前記油圧ポンプの故障診断結果を報知する報知手段を更に備えた
ことを特徴とする油圧ポンプの故障診断装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の油圧ポンプの故障診断装置において、
前記タンクは密閉型であり、前記タンク圧検出手段は、前記タンク内部上方の気相部の圧力を検出する
ことを特徴とする油圧ポンプの故障診断装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の油圧ポンプの故障診断装置において、
前記タンクは密閉型であり、前記タンク圧検出手段に代えて、前記油圧ポンプの吸込み圧力を検出する吸込み圧検出手段を備えた
ことを特徴とする油圧ポンプの故障診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ポンプの故障診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ポンプにおける故障部位を簡素な構成で特定可能とするために、油圧ポンプの収容部材の内部圧力を把握する内圧把握手段と、油圧ポンプの油室から吐出される作動油の吐出圧を検出する吐出圧検出手段と、該内部圧力と該吐出圧力に基づいて、油圧ポンプの弁部材の回転部材との接触面における摩耗状態を診断する診断手段とを備えた油圧ポンプの診断装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−77804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術の油圧ポンプの内部圧力と吐出圧力とから油圧ポンプの摩耗状態を診断する方法は、一定の吐出圧力以上の運転状態において、検出したポンプの内部圧力を予め関数で定めた吐出圧力に対するポンプ内部圧力の閾値と比較することで、摩耗状態を診断している。しかし、これらの閾値は、試験結果に基づいて設定されるものであり、使用条件や使用環境などの影響を考慮して設定する必要があるので、これらの閾値を的確に定めることは困難であり、このことにより、摩耗検出精度を上げるのが難しい場合があった。
【0005】
ところで、建設機械における油圧システムの場合、密閉型の油タンクが一般的に用いられている。このような油圧システムにおいては、油圧ポンプ稼働中に、油タンクから油圧ポンプに供給される作動油の流量と油タンクに戻ってくる作動油の流量とは、時々刻々で異なるため、油タンクの圧力は大きく変動する場合がある。油ポンプは、油タンクから作動油を吸い込むと共に、本体内部のドレンを排出するドレン配管により油タンクと接続されている。このため、油ポンプの内部圧力は、油タンクの圧力変動の影響を受ける場合があった。
【0006】
このため、例えば、密閉型の油タンクを備えた油圧システムにおいて、油タンクの圧力変動を考慮せずに油圧ポンプの内部圧力と吐出圧力とに応じて油圧ポンプの摩耗状態を判断する上記従来技術を適用すると、場合によっては、誤判断をする可能性があった。
【0007】
本発明は、上述の事柄に基づいてなされたもので、その目的は、油圧ポンプが稼働した状態で、油圧ポンプ摺動部材の損傷を精度良く確実に検出できる油圧ポンプの故障診断装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、ケーシングと、前記ケーシングに回転可能に設けられた回転軸と、複数のシリンダが設けられ前記回転軸と一体に回転するように前記ケーシング内に設けられたロータと、前記ロータの各シリンダ内に往復運動可能に挿嵌された複数のピストンと、前記ロータと摺接するように前記ケーシングに設けられた前記各シリンダと間欠的に連通する吸入ポートと排出ポートとが形成された弁部材とからなる油圧ポンプの故障診断装置であって、前記ケーシング内の圧力を検出する内圧検出手段と、前記油圧ポンプに作動油を供給するタンクの圧力を検出するタンク圧検出手段と、予め定めた第1の基準圧値を記憶する記憶部と,前記内圧検出手段で検出したケーシング内の圧力から前記タンク圧検出手段で検出したタンクの圧力を減じて、差圧を算出する第1演算部と,前記第1演算部で算出した前記差圧と前記第1の基準圧値とを比較し、その結果を出力する第2演算部とを有する故障診断手段とを備えたものとする。
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記油圧ポンプの吐出圧力を検出する吐出圧検出手段と、予め定めた第2の基準圧値を記憶する記憶部と,前記吐出圧検出手段で検出した前記油圧ポンプの吐出圧力と前記第2の基準圧値とを比較し、前記油圧ポンプの吐出圧力が前記第2の基準圧値未満の場合に、前記第1演算部と前記第2演算部での処理を実行させる信号を出力する第3演算部とを有する故障診断手段とを更に備えたことを特徴とする。
【0010】
更に、第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記故障診断手段で検出した前記油圧ポンプの故障診断結果を報知する報知手段を更に備えたことを特徴とする。
【0011】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明のいずれかにおいて、前記タンクは密閉型であり、前記タンク圧検出手段は、前記タンク内部上方の気相部の圧力を検出することを特徴とする。
【0012】
更に、第5の発明は、第1乃至第3の発明のいずれかにおいて、前記タンクは密閉型であり、前記タンク圧検出手段に代えて、前記油圧ポンプの吸込み圧力を検出する吸込み圧検出手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、油圧ポンプが稼働した状態で、油圧ポンプのドレン圧力と油タンクの圧力等とに基づいて故障診断を行うので、油圧ポンプ摺動部材の損傷を精度良く確実に検出することができる。このことにより、部品の修理交換等の対策を事前に実行できるので、修理等に伴うダウンタイムを短縮することができる。この結果、建設機械の生産効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第1の実施の形態を適用した油圧ポンプの縦断面図である。
図2】本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第1の実施の形態の構成を示す構成図である。
図3】本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第1の実施の形態におけるポンプ内部圧力と油タンク圧力との関係を示す特性図である。
図4】本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第1の実施の形態の処理内容を示すフローチャート図である。
図5】本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第2の実施の形態の構成を示す構成図である。
図6】本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第2の実施の形態の処理内容を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の油圧ポンプの故障診断装置の実施の形態を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第1の実施の形態が適用される油圧ポンプの縦断面図、図2は本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第1の実施の形態の構成を示す構成図、図3は本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第1の実施の形態におけるポンプ内部圧力と油タンク圧力との関係を示す特性図、図4は本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第1の実施の形態の処理内容を示すフローチャート図である。
【0017】
図1に示す油圧ポンプ1は、可変容量型斜板式の油圧ポンプであって、例えば油圧ショベル等の建設機械に用いられ、原動機等で回転駆動される。油圧ポンプ1は、大略、ケーシング3と、回転軸8と、シリンダブロック9と、ピストン11と、シュー12と、斜板13と、弁部材としての弁板15とを備えて構成されている。
【0018】
ケーシング3は、有底筒状に形成されたケーシング本体4と蓋体5とからなり、蓋体5はケーシング本体4との間にドレン油室6を形成している。また、ケーシング本体4にはドレンポート4Aが穿設され、ドレンポート4Aはドレン管路7を介して密閉型の油タンク2に接続されている。
【0019】
回転軸8は、ケーシング3に回転可能に設けられている。シリンダブロック9は、回転軸8の外周側にスプライン結合され、ケーシング本体4の筒部内で回転軸8と一体に回転する。また、シリンダブロック9は、一端側端面を後述する斜板13に対向させ、他端側端面を後述する弁板15に摺接させている。
【0020】
シリンダ10は、シリンダブロック9に複数個設けられている。各シリンダ10は、回転軸8を中心にしてシリンダブロック9の周方向に一定の間隔をもって離間し、シリンダブロック9の軸方向と平行に配設されている。各シリンダ10の先端側は、シリンダブロック9の一端側端面に開口している。各シリンダ10の基端側には、後述の吸入ポート15A、又は排出ポート15Bと連通するシリンダポート10Aが形成されている。
【0021】
ピストン11は、各シリンダ10内に摺動可能に挿嵌されている。これらのピストン11は、シリンダブロック9の回転に伴ってシリンダ10内を往復動し、このときに後述する吸入通路16A側からシリンダポート10Aを介してシリンダ10内に作動油を吸込み、吸込んだ作動油を高圧の圧油として後述する排出通路16B側に吐出させる。また、各シリンダ10から突出する各ピストン11の突出端側にはシュー12がそれぞれ揺動可能に取付けられている。これらのシュー12は斜板13に対して円軌道を描くように摺接している。
【0022】
ここで、シリンダ10とピストン11との間には、ピストン11の摺動特性を高めるために図示しない微小隙間が形成されている。シリンダ10内の圧油は一部がこの微小隙間を介してケーシング3のドレン油室6内へと漏洩する。そして、この漏洩油によりケーシング3内のドレン油室6は作動油でほぼ満たされた状態となり、ドレン油室6から溢れた作動油はドレン管路7を介して密閉型の油タンク2に戻される。
【0023】
斜板13は、ケーシング3内の蓋体5側の斜板支持部材14に傾転可能に支持されている。斜板13の表面側はシュー12が摺接する平滑面になっている。シュー12は、斜板13の平滑面上を円軌道を描くように摺接する。このことにより、ピストン11をシリンダ10の摺動面に沿って往復動させている。また、斜板13の裏面側には凸湾曲面からなる一対の脚部13A(一方のみ図示)が形成され、斜板支持部材14の表面側には、これらの脚部13Aに対応した一対の凹湾曲部14A(一方のみ図示)が形成されている。
【0024】
弁部材としての弁板15は、シリンダブロック9の他端側端面に摺接するように、ケーシング本体4の底部側に固着して設けている。弁板15には円弧形状をなす一対の吸入ポート15A、排出ポート15Bが形成されている。吸入ポート15A及び排出ポート15Bは、シリンダブロック9内の各シリンダ10にシリンダポート10Aを介して間欠的に連通し、吸入通路16A側からタンク2内の作動油をシリンダ10内に吸込ませつつ、排出通路16B側から高圧の圧油を外部の油圧アクチュエータに向けて吐出させている。
【0025】
吸入通路16A及び排出通路16Bは、ケーシング本体4の底部に形成されている。吸入通路16Aは油タンク2に吸入配管18(図2参照)を介して接続され、排出通路16Bは油圧アクチュエータに向けて高圧の圧油を供給するための吐出配管19(図2参照)と接続されている。
【0026】
ケーシング3の内圧検出手段としての圧力センサ17は、ドレンポート4Aと密閉型の油タンク2とを接続するドレン管路7に設けられている。圧カセンサ17は、ドレン管路7の圧力(ドレン圧)と等しいドレン油室6内の圧力をケーシング3の内圧として検出し、その検出信号を後述の信号処理装置21(故障診断手段)に出力している。
【0027】
本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第1の実施の形態の構成を図2に示す。図2において、図1に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。図2において、油圧ポンプ1の吸入通路16Aとドレンポート4Aは、それぞれ吸入配管18とドレン配管7を介して密閉型の油タンク2に接続されている。油圧ポンプ1の排出通路16Bは、吐出配管19の一端側が接続され、吐出配管19の他端側は、油圧ポンプ1からの圧油を図示しないブームシリンダ等の油圧アクチュエータに分配する制御弁20に接続されている。また、油タンク2にはリターン配管22の一端側が接続されていて、リターン配管22の他端側は、各アクチュエータからの戻り油を排出する制御弁20の排出ポートに接続されている。
【0028】
ドレン管路7には、油圧ポンプ1のドレンポート4Aから流出した作動油の圧力(PD)を計測するための圧力センサ17が設けられていて、内圧検出手段を構成している。吐出配管19には、油圧ポンプ1の排出通路16Bから流出した圧油の圧力(Pa)を計測するための圧力センサ25が設けられていて、吐出圧検出手段を構成している。また、油タンク2の上部には、油タンク2の気相部の圧力(PT)を計測するための圧力センサ23が設けられていて、タンク圧検出手段を構成している。さらに圧力センサ17,25,23の各出力信号は信号処理装置21に入力されている。信号処理装置21は、第1の基準圧値を記憶する記憶部と、圧力センサ17,23からの検出値を取込み、ケーシング3内の圧力と油タンク2内の気相部の圧力との差を算出する第1の演算部と、第1の演算部で算出した差圧と記憶部に記憶した第1の基準圧値とを比較演算する第2の演算部とを備え、後述する演算処理を実行して、油圧ポンプ1の摩耗状態を判定する。また、信号処理装置21からは、運転室のモニタ等の報知装置24へ診断内容を表す信号が出力されている。
【0029】
次に、本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第1の実施の形態の動作を図1乃至図4を用いて説明する。
まず、油圧ポンプ1における内部作動油の圧力の概要について説明する。図1において、油圧ポンプ1が原動機等により駆動されると、ケーシング3内でシリンダブロック9が回転駆動し、ピストン11をシリンダ10内で往復動させる。このとき、シリンダ10内で発生した圧油の一部は、シリンダ10とピストン11との微小隙間を介してケーシング3のドレン油室6内へと漏洩する。また、ピストン11の吸入行程において、何らかの原因によりピストン11とシリンダ10との間の摺動抵抗が高まると、シリンダブロック9を弁板15から引離す方向に乖離力が生じる。この乖離力によって、シリンダブロック9と弁板15との間の摺接面に隙間が生じ、圧油がドレン油室6内へと漏洩する。このような漏洩油は、ドレン油室6内に一時的に溜められた状態で、通常はドレン管路7を通じてタンク2側に排出されている。
【0030】
しかし、シリンダ10とピストン11との間に摩耗、カジリ等が発生し、これによって漏洩油の油量が急激に増大した場合には、ドレン管路7内に多量の圧油が流入するため、その流路途中に絞り抵抗が発生してケーシング3の内圧であるドレン圧(PD)は急激に上昇する。したがって、油圧ポンプ1のドレンポート4Aから流出した作動油の圧力(ドレン圧)を計測し、所定の閾値と比較することで、油圧ポンプ1の故障診断が可能となる。
【0031】
しかしながら、上述したように、油圧ポンプ1のケーシング3の内圧は、油タンク2の圧力変動を受けることがあるため、油圧ポンプ1が稼働した状態で、油圧ポンプ1の故障を精度良く確実に検出するためには、油タンク2の圧力変動を考慮することが必要になる。
【0032】
図3に示す、本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第1の実施の形態におけるポンプ内部圧力と油タンク圧力との関係特性において、特性線aは、圧カセンサ17が検出したドレン管路7の圧力(ドレン圧力PD)を、特性線bは、圧力センサ23が検出した油タンク2の気相部の圧力(タンク圧力PT)を、特性線cは、ドレン圧力とタンク圧力との差圧(PΔ)をそれぞれ示している。
【0033】
図3に示す特性線bのタンク圧力(PT)は、大きく変動しているが、これは、油圧ポンプ1稼働中に、油タンク2から油圧ポンプ1に供給される作動油の流量と油タンク2に戻ってくる作動油の流量とが、時々刻々で異なるためである。一方、特性線aのドレン圧力(PD)は、特性線bのタンク圧力(PT)の変動周期に追従するように変化している。これは、油圧ポンプ1のドレンポート4Aがドレン管路7を介して油タンク2と接続されているためである。そこで、ドレン圧力(PD)に対するタンク圧力(PT)の影響を排除するため、ドレン圧力とタンク圧力との差圧(PΔ)を検討すると、特性線cの差圧(PΔ)の挙動は、ピーク圧力を除くと、その変動幅が小さくなることがわかる。この差圧(PΔ)を基に、油圧ポンプ1の故障診断を行うことで、油圧ポンプ1の稼働状態における故障を精度良く確実に検出することができる。
【0034】
本実施の形態において、油圧ポンプの故障診断装置は、圧力センサ17及び23によって計測した油圧ポンプ1のドレンポート4Aから流出した作動油の圧力(ドレン圧力)と油タンク2の気相部の圧力(タンク圧力)とに基づき、信号処理装置21で演算処理を行うことで、油圧ポンプ1の故障を検出する。
【0035】
次に、信号処理装置21の処理内容について図4を用いて説明する。
【0036】
まず、信号処理装置21は、油圧ポンプ1の吐出圧力を計測する(ステップS100)。具体的には、圧力センサ25で検出する油圧ポンプ1の排出通路16Bから流出した圧油の圧力Paを取込む。
【0037】
信号処理装置21は、圧力センサ25からの油圧ポンプ1の吐出圧力Paが、リリーフ操作時のポンプ吐出圧力に相当する設定圧力Pa0以上か否かの判断を行う(ステップS101)。油圧ポンプの吐出圧力Paが、リリーフ操作時相当に達すると、ドレン圧力(PD)の挙動は、タンク圧力(PT)の挙動に追従しなくなるので、設定圧力Pa0未満の場合に故障診断を実行する。油圧ポンプ1の吐出圧力Paが設定圧力Pa0以上の場合には、リターンに進み再度スタートから演算を開始し、それ以外の場合には(ステップS102)に進む。
【0038】
信号処理装置21は、ドレン圧力(PD)とタンク圧力(PT)とを計測する(ステップS102)。具体的には、圧力センサ17で検出する油圧ポンプ1のドレンポート4Aから流出した作動油の圧力と、圧力センサ23で検出する油タンク2の気相部の圧力とを取込む。
【0039】
信号処理装置21は、ドレン圧力(PD)とタンク圧力(PT)の差圧(PΔ)を算出する(ステップS103)。具体的には、信号処理装置21において、油圧ポンプ1のドレンポート4Aから流出した作動油の圧力の値から油タンク2の気相部の圧力の値を減算して差圧(PΔ)を算出している。
【0040】
信号処理装置21は、ステップS103で算出した差圧(PΔ)が、予め定めた基準差圧(P0)以上か否かの判断を行う(ステップS104)。ここで、基準差圧P0は、通常の油圧ポンプ1運転稼働時における差圧を基に定めるものであるが、油圧ポンプ1の仕様や油圧回路の構成によって異なるものであり、例えば、予め実施する試験結果等から決められる。差圧(PΔ)が基準差圧(P0)以上の場合には、(ステップS105)に進み、それ以外の場合には(ステップS106)に進む。
【0041】
信号処理装置21は、油圧ポンプ1を故障と診断する(ステップS105)。具体的には、信号処理装置21が、油圧ポンプ1の摺動部材に異常があると判断し、報知装置24へ摩耗状態異常信号を出力する。報知装置24は、例えば、オペレータへ油圧ポンプ1の摩耗状態が異常であることを報知する。信号処理装置21は、リターンに進み再度スタートから演算を開始する。
【0042】
一方、(ステップS104)において、差圧(PΔ)が基準差圧(P0)未満の場合には、信号処理装置21は、油圧ポンプ1を正常と診断する(ステップS106)。具体的には、信号処理装置21が、油圧ポンプ1の摺動部材は正常であると判断し、報知装置24へ摩耗状態正常信号を出力する。報知装置24は、例えば、オペレータへ油圧ポンプ1の摩耗状態が正常であることを報知する。信号処理装置21は、リターンに進み再度スタートから演算を開始する。
【0043】
上述した本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第1の実施の形態によれば、油圧ポンプ1が稼働した状態で、油圧ポンプ1のドレン圧力(PD)と油タンク2の圧力(PT)等とに基づいて故障診断を行うので、油圧ポンプ1摺動部材の損傷を精度良く確実に検出することができる。このことにより、部品の修理交換等の対策を事前に実行できるので、修理等に伴うダウンタイムを短縮することができる。この結果、建設機械の生産効率が向上する。
【実施例2】
【0044】
以下、本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第2の実施の形態を図面を用いて説明する。図5は本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第2の実施の形態の構成を示すシステム構成図、図6は本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第2の実施の形態の処理内容を示すフローチャート図である。図5及び図6において、図1乃至図4に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0045】
本実施の形態においては、油タンク2の気相部の圧力(PT)を計測するための圧力センサ23に代えて、油圧ポンプ1の吸込み圧力(PS)を計測する圧力センサ27を設けて構成した点が、上述した第1の実施の形態と異なる。
【0046】
図5において、吸込配管18には、油圧ポンプ1の吸入通路16Aに流入する作動油の圧力(吸込み圧力)である油圧ポンプ1の吸込み圧力(PS)を計測する為の圧力センサ27が設けられていて、圧力センサ27の出力信号は信号処理装置21に入力されている。信号処理装置21は、第2の基準圧値を記憶する記憶部と、圧力センサ17,27からの検出値を取込み、ケーシング3内の圧力と油圧ポンプ1の吸込み圧力との差を算出する第1の演算部と、第1の演算部で算出した差圧と記憶部に記憶した第2の基準圧値とを比較演算する第2の演算部とを備え、後述する演算処理を実行して、油圧ポンプ1の摩耗状態を判定する。また、信号処理装置21からは、運転室のモニタ等の報知装置24へ診断内容を表す信号が出力されている。
【0047】
油タンク2が密閉型の場合、上述した第1の実施の形態のように、油圧ポンプ1稼働中に、油タンク2から油圧ポンプ1に供給される作動油の流量と油タンク2に戻ってくる作動油の流量とが異なって、油タンク2内の油面が上昇すると、油タンク2の気相部の容積が小さくなるので、油タンク2の気相部の圧力であるタンク圧力(PT)は上昇する。このとき、油タンク2内の作動油は、気相部の空気に押圧されるので、油圧ポンプ1の吸込み圧力(PS)も上昇する。逆に、油タンク2内の油面が降下すると、油タンク2の気相部の容積が大きくなるので、タンク圧力(PT)は降下する。このとき、油タンク2内の作動油が受ける気相部からの圧力が降下するので、油圧ポンプ1の吸込み圧力(PS)も降下する。
【0048】
このように、油タンク2が密閉型の場合、油圧ポンプ1の吸込み圧力(PS)は、タンク圧力(PT)と同様な挙動を示すことが実験結果から判明している。そこで、第1の実施の形態におけるドレン圧力(PD)に対するタンク圧力(PT)の影響を排除するため、ドレン圧力と吸込み圧力(PS)との差圧(PΔ1)を基に、油圧ポンプ1の故障診断を行うことで、油圧ポンプ1の稼働状態における故障を精度良く確実に検出することができる。
【0049】
本実施の形態において、油圧ポンプ1の故障診断装置は、圧力センサ17及び27によって計測した油圧ポンプ1のドレンポート4Aから流出した作動油の圧力(ドレン圧力)と油圧ポンプ1の吸入通路16Aに流入する作動油の圧力(吸込み圧力)とに基づき、信号処理装置21で演算処理を行うことで、油圧ポンプ1の故障を検出する。
【0050】
次に、信号処理装置21の処理内容について図6を用いて説明する。
【0051】
まず、信号処理装置21は、油圧ポンプ1の吐出圧力を計測する(ステップS200)。具体的には、圧力センサ25で検出する油圧ポンプ1の排出通路16Bから流出した圧油の圧力Paを取込む。
【0052】
信号処理装置21は、圧力センサ25からの油圧ポンプ1の吐出圧力Paが、リリーフ操作時のポンプ吐出圧力に相当する設定圧力Pa0以上か否かの判断を行う(ステップS201)。油圧ポンプの吐出圧力Paが、リリーフ操作時相当に達すると、ドレン圧力(PD)の挙動は、吸込み圧力(PS)の挙動に追従しなくなるので、設定圧力Pa0未満の場合に故障診断を実行する。油圧ポンプ1の吐出圧力Paが設定圧力Pa0以上の場合には、リターンに進み再度スタートから演算を開始し、それ以外の場合には(ステップS202)に進む。
【0053】
信号処理装置21は、ドレン圧力(PD)と吸込み圧力(PS)とを計測する(ステップS202)。具体的には、圧力センサ17で検出する油圧ポンプ1のドレンポート4Aから流出した作動油の圧力と、圧力センサ27で検出する油圧ポンプ1の吸入通路16Aに流入する作動油の圧力とを取込む。
【0054】
信号処理装置21は、ドレン圧力(PD)と吸込み圧力(PS)の差圧(PΔ1)を算出する(ステップS203)。具体的には、信号処理装置21において、油圧ポンプ1のドレンポート4Aから流出した作動油の圧力の値から油圧ポンプ1の吸入通路16Aに流入する作動油の圧力の値を減算して差圧(PΔ1)を算出している。
【0055】
信号処理装置21は、ステップS203で算出した差圧(PΔ1)が、予め定めた基準差圧(P1)以上か否かの判断を行う(ステップS204)。ここで、基準差圧P1は、通常の油圧ポンプ1運転稼働時における差圧を基に定めるものであるが、油圧ポンプ1の仕様や油圧回路の構成によって異なるものであり、例えば、予め実施する試験結果等から決められる。差圧(PΔ1)が基準差圧(P1)以上の場合には、(ステップS205)に進み、それ以外の場合には(ステップS206)に進む。
【0056】
信号処理装置21は、油圧ポンプ1を故障と診断する(ステップS205)。具体的には、信号処理装置21が、油圧ポンプ1の摺動部材に異常があると判断し、報知装置24へ摩耗状態異常信号を出力する。報知装置24は、例えば、オペレータへ油圧ポンプ1の摩耗状態が異常であることを報知する。信号処理装置21は、リターンに進み再度スタートから演算を開始する。
【0057】
一方、(ステップS204)において、差圧(PΔ1)が基準差圧(P1)未満の場合には、信号処理装置21は、油圧ポンプ1を正常と診断する(ステップS206)。具体的には、信号処理装置21が、油圧ポンプ1の摺動部材は正常であると判断し、報知装置24へ摩耗状態正常信号を出力する。報知装置24は、例えば、オペレータへ油圧ポンプ1の摩耗状態が正常であることを報知する。信号処理装置21は、リターンに進み再度スタートから演算を開始する。
【0058】
上述した本発明の油圧ポンプの故障診断装置の第2の実施の形態によれば、上述した第1の実施の形態と同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 油圧ポンプ
2 油タンク
3 ケーシング
4 ケーシング本体
5 蓋体
6 ドレン油室
7 ドレン管路
8 回転軸
9 シリンダブロック
10 シリンダ
11 ピストン
12 シュー
13 斜板
14 斜板支持部材
15 弁板(弁部材)
15A 吸入ポート
15B 排出ポート
16A 吸入通路
16B 排出通路
17 圧力センサ(内圧検出手段)
18 吸入配管
19 吐出配管
20 制御弁
21 信号処理装置
22 リターン配管
23 圧力センサ(タンク圧検出手段)
24 報知装置
25 圧力センサ(吐出圧検出手段)
27 圧力センサ(吸込み圧検出手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6