(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、MR流体を回転型のクラッチ等に応用する場合、従来のMR流体ではせん断速度が高い領域においてせん断応力が大きく上昇するという問題がある。産業用機器は一般に高速回転させる必要がある。このため、産業用機器のクラッチ等におけるトルクを伝達する媒体には、せん断速度が高い領域においても、せん断応力が大きく上昇しないことが求められる。しかし、従来のMR流体は、せん断速度が高くなるとせん断応力が大きく上昇するため、高速回転させた場合に回転トルクが大きくなる。このため、従来のMR流体を高速回転させる必要がある産業用機器のクラッチ等に用いることは困難である。
【0007】
本発明は、前記の問題を解決し、磁性粒子の沈降及び二次凝集等が生じにくいだけでなく、せん断速度が高い領域においてもせん断応力が小さいMR流体を実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明はMR流体を、表面改質された一般的に用いられるミクロンサイズの磁性粒子と、表面改質されたナノサイズの磁性粒子とを混合した構成とする。
【0009】
具体的に、本発明に係るMR流体は、磁性粒子混合体と、磁性粒子混合体を分散させる分散媒とを備え、磁性粒子混合体は、第1の磁性粒子及び第2の磁性粒子を含み、第1の磁性粒子は、第1の磁性粒子本体と、該第1の磁性粒子本体を覆う第1の表面改質層とを有し、第2の磁性粒子は、第2の磁性粒子本体と、該第2の磁性粒子本体を覆う第2の表面改質層とを有し、第1の表面改質層の表面は、第1の磁性粒子本体の表面よりも分散媒に対する親和性が高く、第2の表面改質層の表面は、第2の磁性粒子本体の表面よりも分散媒に対する親和性が高く、第1の磁性粒子の平均粒子径は、1μm以上且つ50μm以下であり、第2の磁性粒子の平均粒子径は、20nm以上且つ200nm以下であり、第2の磁性粒子の磁性粒子混合体に占める割合は2wt%以上且つ20wt%以下である。
【0010】
本発明のMR流体は、第1の磁性粒子と第2の磁性粒子との親和性も向上し、第1の磁性粒子と第2の磁性粒子とが複合化しやすい。従って、第2の磁性粒子によって第1の磁性粒子同士の衝突が生じにくくなり、特に高せん断速度域において粘度を低減することができる。また、第2の磁性粒子により沈降が生じにくくなるという効果も得られる。
【0011】
本発明のMR流体において、第1の表面改質層の表面は、第1の磁性粒子本体の表面よりも疎水性であり、第2の表面改質層の表面は、第2の磁性粒子本体の表面よりも疎水性とすればよい。
【0012】
本発明のMR流体において、第1の表面改質層及び第2の表面改質層は、炭化水素鎖を有する化合物とすればよい。
【0013】
本発明のMR流体において、第1の表面改質層の表面は、第1の磁性粒子本体の表面よりも親水性であり、第2の表面改質層の表面は、第2の磁性粒子本体の表面よりも親水性としてもよい。
【0014】
本発明のMR流体において、第1の磁性粒子本体は、カルボニル鉄粒子からなり、第2の磁性粒子本体は、アークプラズマ法により形成した鉄ナノ粒子とすればよい。また、第2の磁性粒子本体は、マグネタイト粒子としてもよい。
【0015】
本発明に係るクラッチは、相対回転可能な第1の部材及び第2の部材と、第1の部材と第2の部材との間に充填されたMR流体と、MR流体に磁場を加える磁場発生部とを備え、MR流体は、本発明に係るMR流体とすればよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る磁気粘性流体によれば、磁性粒子の沈降及び二次凝集等が生じにくいだけでなく、せん断速度が高い領域においてもせん断応力が小さい磁気粘性流体を実現でき、クラッチ等に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
一実施形態に係る磁気粘性(MR)流体は、第1の磁性粒子と第2の磁性粒子とを混合した磁性粒子混合体と、磁性粒子混合体を分散させる分散媒とを備えている。第1の磁性粒子は、通常サイズの磁性粒子であり、第1の磁性粒子本体と、その表面に設けられた第1の表面改質層とを有している。第2の磁性粒子は、ナノサイズの磁性粒子であり、第2の磁性粒子本体と、その表面に設けられた第2の表面改質層とを有している。
【0019】
第1の磁性粒子本体は、一般的なMR流体において用いられる平均粒子径が1μm〜50μm程度の磁性粒子とすればよく、沈降の観点からは1μm〜10μm程度とすることが好ましい。第1の磁性粒子本体は、適した平均粒子径を有する磁性粒子であればどのようなものであってもよい。例えば、鉄、窒化鉄、炭化鉄、カルボニル鉄、二酸化クロム、低炭素鋼、ニッケル又はコバルト等を用いることができる。また、アルミニウム含有鉄合金、ケイ素含有鉄合金、コバルト含有鉄合金、ニッケル含有鉄合金、バナジウム含有鉄合金、モリブデン含有鉄合金、クロム含有鉄合金、タングステン含有鉄合金、マンガン含有鉄合金又は銅含有鉄合金等の鉄合金を用いることもできる。ガドリニウム、ガドリニウム有機誘導体からなる常磁性、超常磁性又は強磁性化合物粒子及びこれらの混合物からなる粒子等を用いることもできる。中でも、カルボニル鉄は第1の磁性粒子として適した平均粒子径のものが容易に得られるため好ましい。
【0020】
第2の磁性粒子本体は第1の磁性粒子本体よりも平均粒子径が小さく、且つMR流体として機能する粒子であればよい。第2の磁性粒子本体の平均粒子径が大きくなると粒子が沈降しやすくなり、MR流体の安定性を向上させる効果が低下する。このため、沈降の観点からは第2の磁性粒子の平均粒子径を200nm以下とすればよく、100nm以下とすることが好ましい。しかし、平均粒子径が小さすぎると、磁場を与えてもクラスタを形成せず、MR流体としての機能に寄与しなくなる。このため、クラスタ形成の観点からは第2の磁性粒子の平均粒子径を20nm以上とすればよく、50nm以上とすることが好ましく、70nm以上とすることがより好ましく、90nm以上とすることがさらに好ましい。
【0021】
実際に、平均粒子径が47nmの鉄ナノ粒子についてせん断応力を測定した結果を
図1に示す。測定には市販の回転粘度計(HAAKE社製:レオストレス600)及び磁場発生装置(英弘精機社製:MR-100N)を使用した。また、鉄ナノ粒子はアークプラズマ法により形成し、メチルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社:KBM−13)を用いて表面改質層を形成した。平均粒径は、BET(Brunauer-Emmett-Teller)法により求めた値である。測定の際の粒子濃度は20vol%とし、分散媒にはシリコーンオイル(信越化学社製:KF−96−50cs)を用い、回転粘度計のギャップは0.5mmとした。
図1に示すように、磁場をかけていない場合には0.02kPa〜0.2kPa程度であったせん断応力が、0.5T(テスラ)の磁場を印加した場合には15kPa〜20kPa程度まで上昇した。このように、平均粒子径が50nm程度の鉄ナノ粒子も磁場によりクラスタを形成し、MR流体となることが確認できた。なお、平均粒子径が100nm程度の粒子についても同様にMR流体となることが確認された。
【0022】
第2の磁性粒子本体も、適した平均粒子径を有している磁性粒子であれば第1の磁性粒子本体と同様にどのような材質であってもよい。中でもアークプラズマ法により形成した鉄ナノ粒子は、第2の磁性粒子として適した平均粒径のものが容易に得られるため好ましい。また、二価の鉄と三価の鉄を含む複合酸化物であるマグネタイトも、第2の磁性粒子として適した平均粒子径のものが容易に得られるため好ましい。
【0023】
第2の粒子をアークプラズマ法により形成する場合は、例えば以下のようにすればよい。
図2は、アークプラズマ法によりナノサイズの金属粒子を製造する装置10を概略的に示している。この装置Aは、タングステン電極を含むプラズマトーチ11と、金属材料21が載置される水冷銅ハース12とが、容器13内に相対して配設されている。陰極であるプラズマトーチ11と、陽極である水冷銅ハース12との間には直流電源14が接続されている。
【0024】
まず、容器13内を水素雰囲気又は不活性ガスと水素若しくは窒素等の2原子分子ガスやその他の多原子分子ガスとの混合ガス雰囲気としてアークプラズマ18を発生させる。アークプラズマ18により、水冷銅ハース12の上に置かれた金属材料21が蒸発する。蒸発した金属材料は冷却されてナノサイズの金属粒子である第2の磁性粒子本体となる。生成した第2の磁性粒子本体は、ガス循環ポンプ15によって吸引され、容器13と接続された粒子捕集器16に捕集される。ガス循環ポンプ15から排出されたガスは容器13に戻される。
【0025】
第2の磁性粒子本体を生成した後、装置10内を数%の酸素と非酸化性ガスとの混合気体に置換し、その状態で数時間放置する。これにより、粒子捕集器16に捕集された第2の磁性粒子本体の表面に、厚さが2nm〜10nm程度の酸化膜が生成する。放置時間を長くしても、酸化膜はそれ以上あまり成長しない。酸化膜を形成することにより、ナノサイズの金属粒子である第2の磁性粒子本体を大気中に取り出したときに、それが燃焼してしまうことを防止することができる。
【0026】
第1の表面改質層及び第2の表面改質層(以下、まとめて表面改質層という。)は、それぞれ第1の磁性粒子本体及び第2の磁性粒子本体(以下、まとめて磁性粒子本体という。)の表面に設けられ、表面改質層が設けられていない磁性粒子本体よりも分散媒に対する親和性を高くできればよい。具体的に分散媒がシリコーンオイル等の疎水性の材料からなる場合には、磁性粒子本体の表面よりも表面改質層の表面において疎水性(親油性)が高くなるようにすればよい。分散媒が水等からなる場合には、磁性粒子本体の表面よりも表面改質層の表面において親水性が高くなるようにすればよい。表面改質層は、それぞれ磁性粒子本体の表面に均一に設けられていることが好ましいが、磁性粒子本体の表面の少なくとも一部に形成されていればよい。
【0027】
第1の磁性粒子及び第2の磁性粒子が、それぞれ第1の表面改質層及び第2の表面改質層を有していることにより、高せん断速度域におけるトルクを大幅に低減することが可能となる。これは、第1の磁性粒子及び第2の磁性粒子と分散媒との親和性が向上すると共に、第1の磁性粒子と第2の磁性粒子との間の親和性も向上することによると考えられる。分散媒中において大きな第1の磁性粒子の隙間に、微細な第2の磁性粒子が充填されやすくなり、より均一な分散が実現できると考えられる。第2の磁性粒子が第1の磁性粒子の隙間に充填されることにより、第1の粒子同士の衝突が生じにくくなる。これにより、高せん断速度域における粘度をより低減できると考えられる。
【0028】
表面改質層は、分散媒に対する親和性を向上させることができればどのようにして形成してもよい。例えば、分散媒がシリコーンオイル等であり、疎水性を向上させる場合には、疎水性の化合物を磁性粒子本体の表面に固定すればよい。疎水性の化合物としては、直鎖若しくは分岐を有する炭化水素鎖又はアリル基を有する化合物等とすればよい。化合物の固定には種々の方法を用いることができるが、例えば磁性粒子本体の表面に水酸基を導入し、水酸基と反応する官能基を有する化合物を結合させればよい。また、磁性粒子本体の表面に導入した水酸基と化合物とを2官能性のカップリング剤を介して結合してもよい。
【0029】
水酸基は種々の方法により導入できるが、例えば磁性粒子本体を酸素を含む雰囲気に放置して酸化膜を形成した後、水分を含む雰囲気に放置すればよい。反応性を調整するために、酸素濃度を非酸化性の窒素又は希ガス等により調整すればよい。水酸基を導入する際の水分濃度は材料に応じて適宜設定すればよいが、アークプラズマ法により形成した鉄ナノ粒子の場合には、通常の大気下に放置するだけで十分である。材料によっては、水蒸気、水蒸気を混合した窒素若しくは不活性ガス雰囲気等とすればよい。また、酸素と水分とを含む雰囲気に放置することにより、酸化膜の形成と水酸基の導入とを同時に行うことも可能である。材料によっては、酸化膜の形成及び水酸基の導入にプラズマ照射等を用いてもよい。なお、表面に水酸基を有する市販の磁性粒子を用いる場合は、この工程は省略してよい。
【0030】
水酸基と反応する官能基を有する化合物はどのようなものを用いてもよいが、炭化水素鎖とメトキシ基又はエトキシ基等の加水分解基とを有するシランカップリング剤を用いることができる。具体的には、メチルトリエトキシシラン又はメチルトリメトキシシラン等を用いてもよい。分散媒の種類に応じて分散媒と親和性が高い官能基を導入するように、シランカップリング剤を選択すればよい。また、反応性の官能基を有するシランカップリング剤をカップリングさせた後、分散媒と親和性が高い官能基を有する化合物を反応させてもよい。また、水酸基と反応させることができればシランカップリング剤以外のカップリング剤を用いてもよい。カップリング反応は、気相にて行う方が液相にて行う場合よりも磁性粒子本体の凝集を抑制することができるので好ましい。
【0031】
一方、親水性の表面改質層が必要な場合は、シランカップリング剤等と反応させずに磁性粒子本体の表面に水酸基を導入した状態とすればよい。また、シランカップリング剤等を用いて、親水性の化合物を磁性粒子本体の表面に導入してもよい。
【0032】
表面改質層を形成した後、粒子の解砕を行うことが好ましい。解砕は、粉砕機(例えばボールミル)を用いた既知の方法により行えばよい。解砕機を用いて解砕することにより、平均粒子径を、所定の大きさ以下に正確に制御することが可能になる。なお、粒子の解砕工程は省略することも可能である。
【0033】
分散媒は、磁性粒子混合体を分散させることができる液体であればどのようなものであってもよい。例えば、シリコーンオイル、フッ素オイル、ポリアルファオレフィン、パラフィン、エーテル油、エステル油、鉱物油、植物性油又は動物性油等を用いることができる。また、トルエン、キシレン、ヘキサン、及びエーテル類等の有機溶媒又はエチルメチルイミダゾリウム塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム塩及び1−メチルピラゾリウム塩等に代表されるイオン性液体(常温溶融塩)類等を用いることもできる。これは、単独で用いることも2種類以上を組み合わせて用いることもできる。親水性の表面改質層を設ければ水、エステル類又はアルコール類等を分散媒とすることも可能である。
【0034】
本実施形態の第1の磁性粒子及び第2の磁性粒子は、分散媒との親和性が高いため、高せん断混合を行わなくても容易に分散させることができる。例えば、まず第1の磁性粒子と分散媒とを混合して攪拌した後、第2の磁性粒子を加えれば容易に分散させることができる。なお、第2の磁性粒子と分散媒とを先に混合した後、第1の磁性粒子を加えてもよく、第1の磁性粒子及び第2の磁性粒子を同時に分散媒と混合してもよい。第1の磁性粒子及び第2の磁性粒子と分散媒との混合は、自転公転式混合機、ホモジナイザー又は遊星混合機等を用いて行うことができる。第1の磁性粒子及び第2の磁性粒子と分散媒とを混合する際に分散剤等を添加してもよい。
【0035】
第1の磁性粒子が磁性粒子混合体に占める割合は80wt%〜98wt%程度とし、第2の磁性粒子が磁性粒子混合体に占める割合は2wt%〜20wt%程度とすることが好ましい。第1の磁性粒子と第2の磁性粒子とをこのような比率で混合することにより、MR流体に磁場を印加していない場合の基底粘度を低くすると共に、高せん断速度領域におけるせん断応力を低くすることができる。
【0036】
また、第2の磁性粒子を加えることにより、磁性粒子混合体が分散媒中で沈降しにくくなるという効果も得られる。実際に沈降率を測定すると、第2の磁性粒子を含まない場合には57%であった沈降率が、第2の磁性粒子を2wt%添加した
場合には75%、5wt%添加した場合には80%、10wt%添加した場合には86%、20wt%添加した場合には95%となった。なお、第1の磁性粒子にはカルボニル鉄粒子(ニューメタルスエンドケミカルス社製:UN3189、平均粒径6μm)を用いた。第2の磁性粒子にはアークプラズマ法により形成した鉄ナノ粒子(平均粒径0.1μm)にメチルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社:KBM−13)からなる表面改質層を形成して用いた。分散媒にはシリコーンオイル(信越化学社製:KF−96−50cs)を用い、磁性粒子混合体の分散媒に対する濃度は30vol%とした。また、沈降率は、MR流体を容器に入れて3日間放置した後に、全体の高さ及び上澄み部分の高さを測定し、沈降率(%)=(全体の高さ−上澄み部分の高さ)/全体の高さ×100の式から求めた。
【0037】
磁性粒子混合体の沈降を抑えるためには、第2の磁性粒子の比率ができるだけ高いことが好ましい。しかし、先に説明したように、第2の磁性粒子の比率が高くなりすぎると、低せん断速度域におけるせん断応力が大きくなる。従って、第1の磁性粒子及び第2の磁性粒子の総重量に対する第2の磁性粒子の重量比は2wt%〜20wt%とすることが好ましく、5wt%〜20wt%とすることがより好ましい。
【0038】
磁性粒子混合体の分散媒に対する濃度は、15vol%〜50vol%程度とすればよい。磁性粒子混合体の濃度が低すぎると、MR流体としての機能を発揮せず、磁性粒子混合体の濃度が高くなると、MR流体の基底粘度が上昇するため、15vol%〜30vol%程度とすることが好ましい。
【0039】
本実施形態のMR流体は、例えば
図3に示すようなクラッチに用いることができる。クラッチは、入力軸101と、出力軸102と、これらの周囲を囲むように配置された磁場発生部である電磁石103とを有している。入力軸101の端部には外筒111が固定され、出力軸102の端部にはローター121が固定されている。外筒111はローター121を囲んでおり、外筒111とローター121とは相対回転可能に配置されている。外筒111の内側の空間を密閉するようにオイルシール104が設けられている。外筒111とローター121との間には間隙が設けられており、回転時には遠心力によりこの間隙にはMR流体105が満たされる。電磁石103により磁場を発生させると、MR流体中の磁性粒子が磁束の方向にクラスタを形成し、クラスタを介して外筒111とローター121との間にトルクが伝達される。
【0040】
クラッチ以外にも、ブレーキ等のトルク制御デバイスに用いることができる。特に、高いせん断速度が加わる用途において効果的に利用することができる。
【0041】
以下に、実施例を用いてMR流体の特性についてさらに詳細に説明する。
【0042】
<第1の磁性粒子の調製>
第1の磁性粒子本体として、表面に酸化膜を有する市販のカルボニル鉄粒子(BASF社製:Softgrade SM、平均粒径2μm)を用いた。用いたカルボニル鉄粒子は酸化膜を有しているため、酸化膜形成工程及び水酸基導入工程は行わなかった。カルボニル鉄粒子20gと、シランカップリング剤0.07gとを圧力容器内に入れ、圧力容器を密閉した。シランカップリング剤には、メチルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社:KBM−13)を用いた。シランカップリング剤はビーカー等の開口容器に入れ、カルボニル鉄粒子とシランカップリング剤とが直接混合されないようにした。カルボニル鉄粒子及びシランカップリング剤を入れた圧力容器を80℃の乾燥炉内に2時間放置し、シランカップリング剤を圧力容器内で気化させた。気化したシランカップリング剤が、カルボニル鉄粒子表面の水酸基と反応することにより、表面に疎水性の表面改質層を有する第1の磁性粒子が得られた。
【0043】
<第2の磁性粒子の調製>
第2の磁性粒子本体は、以下のようにして、アークプラズマ法により形成した。まず、
図2に示す装置10の容器13内に、水素及びアルゴンの混合気体を満たして大気圧とした。水素及びアルゴンの分圧はそれぞれ、0.5atmとした。直流電源14により、タングステンからなるプラズマトーチ11(陰極)と、水冷銅ハース12の上に載置した金属材料21(陽極)との間に40Vで150Aの電流を供給することにより、アークプラズマ18を発生させた。金属材料21として、純鉄(純度99.98%:アルドリッチ社製)を用いた。鉄ナノ粒子の生成速度は0.8g/min程度であった。
【0044】
鉄ナノ粒子を生成した後、容器13及び粒子捕集器16内をアルゴンを5%含むドライエア(窒素80%、酸素20%)雰囲気として、3時間放置した。これにより、鉄ナノ粒子の表面に厚さが2nm〜10nm程度の酸化膜が形成された。なお、酸化膜の形成は透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。放置時間が3時間を超えても酸化膜の膜厚はほとんど変化しなかった。
【0045】
酸化膜が形成された鉄ナノ粒子を、装置10から取り出し、大気中に常温で1時間放置することにより、鉄ナノ粒子の表面に水酸基を導入した。水酸基を導入した鉄ナノ粒子と、シランカップリング剤とを圧力容器内に入れ、圧力容器を密閉した。シランカップリング剤には、メチルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社:KBM−13)を用いた。シランカップリング剤はビーカー等の開口容器に入れ、鉄ナノ粒子とシランカップリング剤とが直接混合されないようにした。シランカップリング剤は、鉄ナノ粒子10gに対し0.38gの比率となるようにした。鉄ナノ粒子及びシランカップリング剤を入れた圧力容器を80℃の乾燥炉内に2時間放置し、シランカップリング剤を圧力容器内で気化させた。気化したシランカップリング剤が、鉄ナノ粒子表面の水酸基と反応することにより、表面に疎水性の表面改質層を有する第2の磁性粒子が得られた。
【0046】
<実施例1>
表面改質層を有する第1の磁性粒子及び表面改質層を有する第2の磁性粒子を分散媒に分散させ、MR流体を得た。第1の磁性粒子と第2の磁性粒子とを合わせた磁性粒子混合体の分散媒に対する濃度は25vol%とした。磁性粒子混合体に対する第1の磁性粒子の濃度は95wt%とし、第2の磁性粒子の濃度は5wt%とした。分散媒には、シリコーンオイル(信越化学社製:KF−96−50cs)を用いた。
【0047】
得られたMR流体を走査型電子顕微鏡(日本電子社製:JSM−7000F)により観察した結果を
図4に示す。
図4に示すように、第2の磁性粒子が第1の磁性粒子の表面に付着して複合化している。このことから、分散媒中においては、第1の磁性粒子の隙間に第2の磁性粒子が入り込み、均一に分散していると考えられる。
【0048】
得られたMR流体について、高せん断速度域における測定が可能な自社製の回転粘度計を用いて、高せん断速度域におけるトルクを評価した。回転粘度計は、第1円板と、この第1円板に相対して所定の間隔をおいて配置された第2円板とを有している。第1円板は溝部を有し、その回転軸はサーボモーターと接続されている。第2円板は第1円板の溝部と相対する位置に凸部を有し、その回転軸にはトルクセンサが取り付けられている。溝部にMR流体を配置した状態で、第1円板と第2円板とを相対回転させることによりトルクが測定できる。円板の間隔は370μmとし、MR流体に磁場をかけずに測定を行った。測定の際のせん断速度は9000s
-1とした。せん断速度は、第2円板の回転速度を既知の回転速度センサを用いて測定し、得られた測定値から計算した。トルクセンサによる測定を開始した4秒後に円板の回転を開始し、測定開始から15秒後から30秒後までの測定値の平均値をトルク値とした。測定開始から15秒後(回転開始から11秒後)以降の値を用いるのは、装置のシールに起因するトルクの変動を安定させるためである。
【0049】
図5にトルクの測定結果を示す。トルク値は0.04Nmとなり、高せん断速度域においても非常にトルクが低く、低粘度であることが明らかである。また、トルクの経時変化及び変動がほとんど生じておらず、安定している。
【0050】
<比較例1>
第1の磁性粒子として表面改質を行ったカルボニル鉄粒子に代えて、表面改質を行っていないカルボニル鉄粒子を用いた以外は、実施例1と同様にしてMR流体を調製し、評価した。但し、磁性粒子混合体を分散媒に分散させる際には、自転・公転型の攪拌機を用いて分散させた。
【0051】
得られたMR流体のSEM像を
図6に示す。
図6に示すように、第2の磁性粒子同士の凝集が多数認められ、第1の磁性粒子と第2の磁性粒子との複合化はほとんど認められない。
【0052】
図7はトルクの測定結果を示している。トルク値は0.45Nmとなり実施例1と比べて10倍程度大きな値となった。
【0053】
<比較例2>
第2の磁性粒子を加えずに、表面改質層を有する第1の磁性粒子のみを分散媒に分散させた以外は、実施例1と同様にしてMR流体を調製し、評価した。
【0054】
図8はトルクの測定結果を示している。トルク値は2.9Nmとなり実施例1と比べて70倍程度大きな値となった。また、トルクに大きな変動が認められた。
【0055】
<比較例3>
第2の磁性粒子を加えずに、表面改質を行っていないカルボニル鉄粒子のみを分散媒に分散させた以外は、比較例1と同様にしてMR流体を調製し、評価した。
【0056】
図9はトルクの測定結果を示している。トルク値は4.09Nmとなり実施例1と比べて100倍程度大きな値となった。また、トルクに大きな変動が認められた。