(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凹凸パターンを塗膜に押圧した後、モールドを剥離する前に塗膜を仮焼成する工程を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の凹凸パターンを有する基板を製造する方法。
前記凹凸パターン上の凹凸の平均ピッチが100〜900nmの範囲であり、凹凸の平均高さは、20〜200nmの範囲であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の凹凸パターンを有する基板を製造する方法。
前記可撓性のあるモールドが、基板の長さより長い長尺状のモールドであり、前記長尺状のモールドを繰り出す繰り出しロールと、巻き取る巻取りロールを用いて、前記長尺状のモールドを搬送させながら押圧ロールでモールドを前記塗膜に押し付けることを特徴とする請求項10に記載の凹凸パターンを有する基板を製造する方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の凹凸パターンを有する基板の形成方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0023】
本発明の凹凸パターンを有する基板の形成方法は、
図1に示すように、主に、ゾル溶液(ゾルゲル溶液ともいう)を調製する溶液調製工程S1、調製されたゾル溶液を基板に塗布する塗布工程S2、基板に塗布されたゾル溶液の塗膜を乾燥する乾燥工程S3、所定時間乾燥した塗膜を加熱しながら、転写パターンが形成されたモールドを押し付ける加熱押圧工程S4、モールドを塗膜から剥離する剥離工程S5、及び塗膜を本焼成する本焼成工程S6を有する。以下、各工程について順に説明する。
【0024】
[ゾル溶液調製工程]
本発明では、ゾルゲル法によりパターンが転写される塗膜を形成するため、最初にゾル溶液を調製する。例えば、基板上に、シリカをゾルゲル法で合成する場合は、金属アルコキシド(シリカ前駆体)のゾル溶液を調製する。シリカの前駆体として、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラ-i-プロポキシシラン、テトラ-n-プロポキシシラン、テトラ-i-ブトキシシラン、テトラ-n-ブトキシシラン、テトラ-sec-ブトキシシラン、テトラ-t-ブトキシシラン等のテトラアルコキシドモノマーや、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、イソプロピルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン等のトリアルコキシドモノマーや、これらモノマーを少量重合したポリマー、前記材料の一部に官能基やポリマーを導入したことを特徴とする複合材料などの金属アルコキシドが挙げられる。さらに、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレート、オキシ塩化物、塩化物や、それらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されない。また、金属種としては、Si以外にTi、Sn、Al、Zn、Zr、Inなどや、これらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されない。上記酸化金属の前駆体を適宜混合したものを用いることもできる。
【0025】
TEOSとMTESの混合物を用いる場合には、それらの混合比は、例えばモル比で1:1にすることができる。このゾル溶液は、加水分解及び重縮合反応を行わせることによって非晶質シリカを生成する。合成条件として溶液のpHを調整するために、塩酸等の酸またはアンモニア等のアルカリを添加する。pHは4以下もしくは10以上が好ましい。また、加水分解を行うために水を加えてもよい。加える水の量は、金属アルコキシド種に対してモル比で1.5倍以上にすることができる。
【0026】
溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、ブタノール等のアルコール類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン類、ブトキシエチルエーテル、ヘキシルオキシエチルアルコール、メトキシ−2−プロパノール、ベンジルオキシエタノール等のエーテルアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類、フェノール、クロロフェノール等のフェノール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエタン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、2硫化炭素等の含ヘテロ元素化合物、水、およびこれらの混合溶媒が挙げられる。特に、エタノールおよびイソプロピルアルコールが好ましく、またそれらに水を混合したものも好ましい。
【0027】
添加物としては、粘度調整のためのポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコールや、溶液安定剤であるトリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、アセチルアセトンなどのβ―ジケトン、β―ケトエステル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキサンなどの任意の添加剤を用いることが出来る。
【0028】
また、添加剤として下記のような界面活性剤を含んでもよい。例えば、炭化水素系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤などが挙げられる。炭化水素系界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩系、高級アルコール硫酸エステル塩系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩系、α―スルホ脂肪酸エステル系、α―オレフィンスルホン酸塩系、モノアルキルリン酸エステル塩系、アルカンスルホン酸塩系、アルキルトリメチルアンモニウム塩系、ジアルキルジメチルアンモニウム塩系、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩系、アミン塩系、アルキルアミノ脂肪酸塩系、アルキルアミンオキシド系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル系、アルキルグルコシド系、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル系などが挙げられる。
【0029】
[塗布工程]
上記のように調製したゾル溶液を基板上に塗布する。基板として、ガラスや石英、シリコン基板等の無機材料からなる基板やポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリイミド(PI)、ポリアリレート等の樹脂基板を用い得る。基板は透明でも不透明でもよい。この基板から得られた凹凸パターン基板を後述する有機EL素子の製造に用いるのであれば、基板は耐熱性、UV光等に対する耐光性を備える基板が望ましい。この観点から、基板として、ガラスや石英、シリコン基板等の無機材料からなる基板がより好ましい。基板上には密着性を向上させるために、表面処理や易接着層を設けるなどをしてもよいし、水分や酸素等の気体の浸入を防ぐ目的で、ガスバリア層を設けるなどしてもよい。塗布方法として、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法などの任意の塗布方法を使用することができるが、比較的大面積の基板にゾル溶液を均一に塗布可能であること、ゾル溶液がゲル化する前に素早く塗布を完了させることができることからすれば、バーコート法、ダイコート法及びスピンコート法が好ましい。なお、後の工程でゾルゲル材料層による所望の凹凸パターンが形成されるため基板表面(表面処理や易接着層がある場合にはそれらも含めて)は平坦でよく、この基板自体は所望の凹凸パターンを有さない。
【0030】
[乾燥工程]
塗布工程後、塗布した塗膜(以下、適宜、「ゾルゲル材料層」とも言う)中の溶媒を蒸発させるために基板を大気中もしくは減圧下で保持する。この保持時間が短いと塗膜の粘度が低すぎて後続の転写工程にて転写ができず、保持時間が長すぎると前駆体の重合反応が進みすぎて転写工程にて転写ができなくなる。また、保持温度として、10〜100℃の範囲で一定温度が望ましく、10〜30℃の範囲で一定温度がより望ましい。保持温度がこの範囲より高いと、押圧工程前に塗膜のゲル化反応が急速に進行するために好ましくなく、保持温度がこの範囲より低いと、押圧工程前の塗膜のゲル化反応が遅く、生産性が低下し好ましくない。以上のように、保持温度や保持時間により乾燥状況が変化するため、乾燥工程における保持条件を精密に管理する必要がある。ゾル溶液を塗布後、溶媒の蒸発が進むとともに前駆体の重合反応も進行し、ゾル溶液の粘度などの物性も短時間で変化する。溶媒の蒸発量は、ゾル溶液調製時に使用する溶媒量(ゾル溶液の濃度)にも依存する。それゆえ、転写に好適な状態を評価する尺度が望まれる。
【0031】
本発明者は、後続の転写工程におけるモールドによる押圧を最適化するために次のような観点から乾燥工程を管理することとした。シリカ前駆体の加水分解・縮重合反応の場合、一般に、脱アルコール反応が起こるために、ゾル溶液中にアルコールが生成する。また、ゾル溶液中には溶媒としてアルコールのような揮発性溶媒が使用されている。つまり、ゾル溶液中には、加水分解過程に生成したアルコールと、溶媒として存在したアルコールが含まれ、それらを乾燥工程で除去することでゾルゲル反応が進行する。ゾル溶液をガラス基板上にバーコーターを用いて塗布した後、溶媒が塗膜から蒸発する際の時間と蒸発量を調べてみると、
図2に示すような結果となることが分かった。すなわち、塗布直後から溶媒の蒸発が急速に始まり、指数関数的に蒸発量が減り、所定時間後には殆ど変化しなくなる。塗膜の重量が変化しなくなると、膜中の残存アルコール溶媒はほぼ存在しないと考えられる。それゆえ、このときの塗膜の重量を基準とすることにより塗膜中の残存アルコール量を算出でき、その結果、ゾルゲル反応の進行を定量化できる。塗膜の重量が変化しなくなるときの重量aに対して塗布後t時間の塗膜の重量をb(t)として、転写が可能となる重量変化b(t)/aを求めることで、乾燥工程の尺度とすることができる。後述する実施例からすれば、前駆体としてTEOSとMTESの混合物を用いる場合は、パターンを転写できる範囲が1.4≦b(t)/a≦4.5であることが好ましい。b(t)/aが1.4未満であると、塗膜が固くなりパターン転写ができない。b(t)/aが4.5を超えると、溶媒の蒸発が不十分で塗膜が過度に柔らかい状態であるので、後続の転写工程のようにモールドと塗膜とが接する時間が短いと、モールドを剥離したときに塗膜破壊が起こる恐れがある。すなわち、押圧ロールを用いる転写工程では、加圧と剥離の間の時間が極めて短いので塗膜の加熱時間もまた短くなり、パターンが転写された塗膜が硬化する前に剥離が行われることで、転写されたパターンを含む塗膜が歪んだり破損する可能性がある。この結果、パターンが転写されなくなる。それゆえ、押圧ロールを用いた加熱転写プロセスにおいては、押圧ロールによる加圧前に塗膜からある程度溶媒を蒸発しておく必要があると考えられる。また、b(t)/aが4.0を超えると、塗膜の流動性が高いためにパターン転写時の圧力で液が転写部以外に流れ出してしまい、製造ラインを汚染する可能性がある。このような観点も加味すれば、b(t)/aは、1.4≦b(t)/a≦4.0を満たすことが特に好ましい。
【0032】
上記塗膜の重量変化b(t)/aは、予備実験により塗布後のゾル溶液の重量変化を経過時間ごとに求めることによって予め記録しておく。そして、上記ゾル溶液の重量変化b(t)/aが上記範囲に含まれる値を選択し、その値に相当する経過時間tを乾燥工程における保持時間として設定することができる。
【0033】
[加熱押圧工程]
上記のようにして設定された経過時間後に、所定の微細凹凸パターンが形成されたモールドを押圧ロールにより塗膜に押し付ける。この際、塗膜を加熱しながらモールドを塗膜に押し付ける。押圧ロールを用いたロールプロセスでは、プレス式と比較して以下のような利点がある。i)モールドと塗膜とが接する時間が短いため、モールドや基板及び基板を設置するステージなどの熱膨張係数の差によるパターンくずれを防ぐことができる。ii)ロールプロセスであるため生産性が向上し、さらに長尺のモールドを用いることで生産性を一層向上することができる。iii)ゲル溶液中の溶媒の突沸によってパターン中にガスの気泡が発生したり、ガス痕が残ることを防止することができる。iv)基板(塗膜)と線接触するため、転写圧力及び剥離力を小さくでき、大面積化に対応し易い。v)押圧時に気泡をかみ込むことがない。
【0034】
塗膜を加熱する方法として、例えば、加熱を押圧ロールを通じて行ってもよく、或いは、塗膜を直接あるいは基板側から行ってもよい。加熱を押圧ロールを通じて行う場合には、押圧ロール(転写ロール)の内部に加熱手段を設けてもよく、任意の加熱手段を使用することができる。押圧ロールの内部に加熱ヒータを備えるものが好適であるが、押圧ロールとは別体のヒータを備えていてもよい。いずれにしても塗膜を加熱しながら押圧が可能であれば、どのような押圧ロールを用いてもよい。押圧ロールは、表面に耐熱性のあるエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)やシリコーンゴム、ニトリルゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴムなどの樹脂材料の被膜を有するロールが好ましい。また、押圧ロールで加えられた圧力に抗するために押圧ロールに対向して基板を挟むように支持ロールを設けてもよく、あるいは基板を支持する支持台を設置してもよい。
【0035】
モールドを押圧ロールにより押し付ける際に、モールドを基板の塗膜面に被覆して、塗膜面に相対して押圧ロールを回転移動させることができる。あるいは、モールドが押圧ロールの外周に予め巻き付けられているロールを用いてもよい。押圧の際の塗膜の加熱温度は、40℃〜150℃にすることができ、押圧ロールを用いて加熱する場合には押圧ロールの加熱温度は、同様に40℃〜150℃にすることができる。このように押圧ロールを加熱することにより、モールドにより押圧が行われた塗膜からモールドをすぐに剥離することができ、生産性を向上することができる。塗膜または押圧ロールの加熱温度が40℃未満では、塗膜からのモールドの速やかな剥離が期待できず、150℃を超えると、使用する溶媒が急激に蒸発し、凹凸パターンの転写が不十分になる恐れがある。なお、押圧ロールの下に備える(後述する)支持ロールも例えば40〜150℃に加熱してもよい。なお、塗膜を加熱する手段として押圧ロールを加熱するだけでなく後述するような種々の具体的形態を採用し得る。
【0036】
[加熱押圧工程で用いるモールドとその製造方法]
本発明で用いるモールドとは、フィルム状モールドのように可撓性のあるモールドを意味する。例えば、シリコーン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリイミド(PI)、ポリアリレートのような有機材料や、ニッケル、銅、アルミニウムのような金属材料や、ガラスのような無機材料などで形成されるが、前述の押圧時の加熱温度に耐えうるものであれば任意の材料のモールドを使用できる。また、凹凸パターンは、上記材料に直接形成されていてもよいし、上記材料を基材としてさらに別の材料で形成してもよい。別の材料としては、光硬化性樹脂や、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が使用できる。基材と別の材料の間には、密着性を高めるために表面処理や易接着処理を施してもよい。また、必要に応じて、それら凹凸パターン面上に離型処理を施してもよい。モールドに形成するパターンは、任意の形状を任意の方法で形成し得る。
【0037】
有機EL用回折格子基板に用いる場合には、例えば、本出願人らによる特願2011−006487号に記載されたブロック共重合体の自己組織化(ミクロ相分離)を利用する方法(以下、適宜「BCP(Block Copolymer)法」という)や、本出願人らによるWO2011/007878A1に開示された蒸着膜上のポリマー膜を加熱・冷却することにポリマー表面の皺による凹凸を形成する方法(以下、適宜「BKL(Buckling)法」という)を用いることが好適である。BCP法及びBKL法に代えて、フォトリソグラフィ法で形成してもよい。BCP法でパターンを形成する場合、パターンを形成する材料は任意の材料を使用することができるが、ポリスチレンのようなスチレン系ポリマー、ポリメチルメタクリレートのようなポリアルキルメタクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリビニルピリジン、及びポリ乳酸からなる群から選択される2種の組合せからなるブロック共重合体が好適である。
【0038】
モールドの微細パターンの凹凸のピッチ及び高さは、任意であるが、例えば、可視領域の光を散乱または回折する用途に転写パターンを用いる場合には、凹凸の平均ピッチとしては、100〜900nm、特に100〜600nmまたは200〜900nmの範囲にあることが好ましく、200〜600nmの範囲であることがより好ましい。凹凸の平均ピッチが前記下限未満では、可視光の波長に対してピッチが小さくなりすぎるため、凹凸による光の回折が生じなくなる傾向にあり、他方、上限を超えると、回折角が小さくなり、回折格子のような光学素子としての機能が失われてしまう傾向にある。凹凸の平均高さは、20〜200nmの範囲であることが好ましく、50〜150nmの範囲であることがより好ましい。凹凸の平均高さが前記下限未満では、可視光の波長に対して高さが低すぎるために必要な回折が生じなくなる傾向にあり、他方、上限を超えると、例えば、有機EL素子の光取り出し用の光学素子として使用した場合に、EL層内部の電界分布が不均一となって特定の箇所に電界が集中することによってリークが生じ易くなったり、寿命が短くなる傾向にある。
【0039】
パターンの母型をBCP法やBKL法により形成した後、以下のようにして電鋳法などにより、パターンをさらに転写したモールドを形成することができる。最初に、電鋳処理のための導電層となるシード層を、無電解めっき、スパッタまたは蒸着等によりパターンを有する母型上に形成することができる。シード層は、後続の電鋳工程における電流密度を均一にして後続の電鋳工程により堆積される金属層の厚みを一定にするために10nm以上が好ましい。シード層の材料として、例えば、ニッケル、銅、金、銀、白金、チタン、コバルト、錫、亜鉛、クロム、金・コバルト合金、金・ニッケル合金、ホウ素・ニッケル合金、はんだ、銅・ニッケル・クロム合金、錫ニッケル合金、ニッケル・パラジウム合金、ニッケル・コバルト・リン合金、またはそれらの合金などを用いることができる。次に、シード層上に電鋳(電界めっき)により金属層を堆積させる。金属層の厚みは、例えば、シード層の厚みを含めて全体で10〜3000μmの厚さにすることができる。電鋳により堆積させる金属層の材料として、シード層として用いることができる上記金属種のいずれかを用いることができる。金属基板のモールドとしての耐摩耗性や、剥離性などの観点からは、ニッケルが好ましく、この場合、シード層についてもニッケルを用いることが好ましい。形成した金属層は、後続のモールドの形成のための樹脂層の押し付け、剥離及び洗浄などの処理の容易性からすれば、適度な硬度及び厚みを有することが望ましい。
【0040】
上記のようにして得られたシード層を含む金属層を、凹凸構造を有する母型から剥離して金属基板を得る。剥離方法は物理的に剥がしても構わないし、パターンを形成する材料を、それらを溶解する有機溶媒、例えば、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルムなどを用いて溶解して除去してもよい。金属基板を母型から剥離するときに、残留している材料成分を洗浄にて除去することができる。洗浄方法としては、界面活性剤などを用いた湿式洗浄や紫外線やプラズマを使用した乾式洗浄を用いることができる。また、例えば、粘着剤や接着剤を用いて残留している材料成分を付着除去するなどしてもよい。こうして母型からパターンが転写された金属基板が得られる。
【0041】
この金属基板を用いて、金属基板の凹凸構造(パターン)をフィルム状の支持基板に転写することでフィルム状モールドのように可撓性のあるモールドを作製することができる。例えば、硬化性樹脂を支持基板に塗布した後、金属基板の凹凸構造を樹脂層に押し付けつつ樹脂層を硬化させる。支持基板として、例えば、ガラス等の無機材料からなる基材;シリコーン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリイミド(PI)、ポリアリレート等の有機材料からなる基材;ニッケル、銅、アルミ等の金属材料が挙げられる。また、支持基板の厚みは、1〜500μmの範囲にし得る。
【0042】
硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系、アクリル系、メタクリル系、ビニルエーテル系、オキセタン系、ウレタン系、メラミン系、ウレア系、ポリエステル系、フェノール系、架橋型液晶系、フッ素系、シリコーン系等の各種樹脂が挙げられる。硬化性樹脂の厚みは0.5〜500μmの範囲であることが好ましい。厚みが前記下限未満では、硬化樹脂層の表面に形成される凹凸の高さが不十分となり易く、前記上限を超えると、硬化時に生じる樹脂の体積変化の影響が大きくなり凹凸形状が良好に形成できなくなる可能性がある。
【0043】
硬化性樹脂を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、滴下法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、ダイコート法、カーテンコート法、インクジェット法、スパッタ法等の各種コート方法を採用することができる。さらに、硬化性樹脂を硬化させる条件としては、使用する樹脂の種類により異なるが、例えば、硬化温度が室温〜250℃の範囲であり、硬化時間が0.5分〜3時間の範囲であることが好ましい。また、紫外線や電子線のようなエネルギー線を照射することで硬化させる方法でもよく、その場合には、照射量は20mJ/cm
2〜5J/cm
2の範囲であることが好ましい。
【0044】
次いで、硬化後の硬化樹脂層から金属基板を取り外す。金属基板を取り外す方法としては、機械的な剥離法に限定されず、公知の方法を採用することができる。こうして支持基板上に凹凸が形成された硬化樹脂層を有する樹脂フィルムからなるモールドを得ることができる。
【0045】
金属基板を用いてフィルム状モールドのように可撓性のあるモールドを作製するロールプロセスの一例を
図12に示す。
図12に示したロールプロセス装置70は、PETのような基板フィルム80の搬送系と、搬送中の基板フィルム80にUV硬化性樹脂を塗布するダイコータ82と、ダイコータ82の下流側に位置してパターンを転写する金属ロール(金属モールド)90と、基板フィルム80を挟んで金属ロール90と対向して設けられて基板フィルム80にUV光を照射する照射光源85とを主に備える。金属ロール90は、金属ロール表面に直接パターンが形成されたものでも良いし、前記金属基板をロール上に巻き付け固定したものでも良いし、また、円筒状の金属基板を作製し、これをロールにはめ込んで固定したもの等でも良い。搬送系は、基板フィルム80を繰り出すフィルム繰り出しロール72と、金属ロール90の上流及び下流側にそれぞれ配置されて基板フィルムを金属ロール90に付勢するニップロール74と、剥離ロール76と、パターンが転写された基板フィルム80を巻き取る巻き取りロール87を有する。フィルム繰り出しロール72に巻き付けられた基板フィルム80はフィルム繰り出しロール80の回転により下流側に繰り出されると、ダイコータ82によりUV硬化性樹脂84が基板フィルム80の上面に所定の厚みで塗布される。この基板フィルム80のUV硬化性樹脂84にニップロール74により金属ロール90が押し付けられて金属ロール90の凹凸パターンが転写され、それと同時またはその直後に照射光源85からのUV光が照射されてUV硬化性樹脂84が硬化する。硬化したパターンを有するUV硬化性樹脂付き基板フィルム87は剥離ロール76で金属ロール90から引き離された後、巻き取りロール78により巻き取られる。こうして、長尺の可撓性のあるモールドが得られる。このような長尺のモールドは、本発明に従う押圧ロールを用いた転写プロセス(ナノインプリント)に好適となる。
【0046】
塗膜(ゾルゲル材料層)にモールドを押し付けた後、塗膜を仮焼成してもよい。仮焼成することにより塗膜のゲル化を進め、パターンを固化し、剥離の際に崩れにくくする。仮焼成を行う場合には、大気中で40〜150℃の温度で加熱することが好ましい。なお、仮焼成は必ずしも行う必要はない。
【0047】
[剥離工程]
加熱押圧工程または仮焼成工程後の塗膜(ゾルゲル材料層)からモールドを剥離する。前述のようにロールを使用するので、プレート状モールドに比べて剥離力は小さくてよく、塗膜がモールドに残留することなく容易にモールドを塗膜から剥離することができる。特に、塗膜を加熱しながら押圧するので反応が進行し易く、押圧直後にモールドは塗膜から剥離し易くなる。さらに、モールドの剥離性の向上や前述の仮焼成の実施のために、後述する剥離ロールを使用してもよい(
図3参照)。剥離ロールを押圧ロールの下流側に設けてモールドを塗膜に付勢しながら回転支持することで、モールドが塗膜に付着された状態を一定時間維持することができ、その維持期間に前述の塗膜の仮焼成を行ってもよい。なお、剥離ロールを使用する場合には、例えば40〜150℃に加熱しながら剥離することにより塗膜の剥離を一層容易にすることができる。
【0048】
[本焼成工程]
基板40の塗膜(ゾルゲル材料層)42からモールドが剥離された後、塗膜を本焼成する。本焼成により塗膜を構成するシリカ(アモルファスシリカ)中に含まれている水酸基などが脱離して塗膜がより強固となる。本焼成は、200〜1200℃の温度で、5分〜6時間程度行うのが良い。こうして塗膜は硬化してモールドの凹凸パターンに対応する凹凸パターン膜を有する基板、すなわち、平坦な基板上に凹凸パターンを有するゾルゲル材料層が直接形成された基板が得られる。この時、ゾルゲル材料層であるシリカは、焼成温度、焼成時間に応じて非晶質または結晶質、または非晶質と結晶質の混合状態となる。
【0049】
[製造装置]
本発明の方法を実施するために、例えば、
図3に示すような凹凸パターン付き基板を製造する装置100を使用することができる。装置100は、主に、基板40上にゾル溶液を塗布するダイコータ30と、長尺状のモールド50を搬送する搬送系20を備える。搬送系20は、モールド50を繰り出す繰り出しロール21と、内部に加熱ヒータ22aを備え、塗膜42が形成された基板40の塗膜側からモールド50を押し付ける押圧ロール22と、押圧ロール22に対向して設けられて基板下側から基板40を押圧するとともに回転駆動して基板を基板搬送方向の下流側に送り出す支持ロール25と、押圧ロール22の下流に設けられてモールド50が基板の塗膜に押し付けられた状態を所定距離だけ維持した後にモールド50を剥離する剥離ロール23と、剥離ロールの下流に設けられてモールドを巻き取る巻き取りロール24とを有する。なお、前述の仮焼成を実施する場合には、基板搬送方向において押圧ロール22と剥離ロール23との間にヒータを設置し得る。ヒータは、例えば赤外線ヒータや熱風加熱、ホットプレートを使用することができる。
【0050】
このような装置100で、基板を処理する動作を説明する。押圧ロール22と支持ロール25に挟まれた基板40が下流側に移動しながら、ダイコータ30により基板40にゾル溶液が塗布される。塗布されたゾル溶液の塗膜42は、所定の移動時間経過後に加熱押圧ロール22に至り、そこで繰り出しロール21から送り出されたモールド50の凹凸パターンが加熱されながら塗膜42に押し付けられる。基板40は、モールド50の凹凸パターンが押し付けられたまま剥離ロール23まで搬送される。モールド50は剥離ロール23を通過するときに巻き取りロール24により上方に引き上げられるために、モールド50は塗膜42から剥離する。次いで、パターンが形成された基板を装置100とは別に設けたオーブンで本焼成する。また、本焼成用オーブンとしては、ライン中にヒータを設けてもよい。
【0051】
装置100において、剥離ロール23の設置位置や、剥離ロール23を介してモールドを巻き取る巻き取りロール24の位置を調節して剥離角度を調整してもよい。なお、支持ロール25に代えて、基板を支持して移動する移動テーブルなどの他の駆動手段を用いることができる。また、押圧ロール22によりモールド50の凹凸パターンが塗膜42押し付けられたままの状態を維持するために剥離ロール23を用いたが、そのような状態を維持するために剥離ロール23に代えて、表面が滑らかで角部が曲面を有する板状部材などの他の支持部材を用い得る。また、モールド50は長尺状のモールドとして、端部をそれぞれ繰り出しロール21及び巻き取りロール24に巻き付けたが、無端ベルト状としてもよい。こうすることで、量産のために多量の基板が連続搬送されるラインにおいても連続的な押圧操作が可能となる。
【0052】
装置100において剥離ロールを設けない場合を
図8に示す。
図8では、送出ロール26から送り出されたモールド50が加熱押圧ロール22で塗膜42に押圧された後に、直接、巻上げロール27により巻き上げられて周回する。本発明では、押圧ロールを加熱しているために、押圧直後のモールドの塗膜からの剥離が促進されており、剥離ロールを省いて装置を単純化するとともにプロセスの生産性を向上することができる。なお、送り出しロール、巻き上げロールを設置せず、直接加熱押圧ロールにモールドが巻きつけられていても良い。
【0053】
装置100において、
図9に示すように、加熱ヒータ22aを押圧ロール22の内部ではなく支持ロール25の内部に備えていてもよい。この場合には、支持ロール25内部の加熱ヒータ22aから発生する熱により塗膜42が仮焼成される。あるいは、加熱ヒータ22aを押圧ロール22と支持ロール25の両方の内部に設けてもよい。
【0054】
加熱ヒータ22aの設置について、別の変形例を
図10に示す。装置100において加熱ヒータ22aを押圧ロール22の内部に設置する代わりに、押圧ロール22の直下に設置してよい。この場合、押圧ロール22の直下に備えた加熱ヒータ22aにより塗膜42が仮焼成される。あるいは、加熱ヒータ22aを押圧ロール22の内部と押圧ロール22の直下の両方の位置に設けてもよい。
【0055】
加熱ヒータ22aの設置について、さらなる変形例を
図11に示す。装置100において、加熱ヒータ22aを押圧ロール22の内部ではなく押圧ロール22の周辺部にヒートゾーン35内に備えてもよい。ヒートゾーン35の内部に加熱ヒータが設けられているので、ヒートゾーン内部が加熱温度に維持される。この場合には、ヒートゾーン35の内部において塗膜42が仮焼成される。なお、ヒートゾーン35に加えて支持ロール25の内部に加熱ヒータを設けてもよい。
【0056】
上記のようにしてロールプロセスを経てゾルゲル材料層42からなるパターンが形成された基板は、例えば、有機EL素子用の回折格子基板、ワイヤグリッド偏光子、反射防止フィルム、あるいは太陽電池の光電変換面側に設置することにより太陽電池内部への光閉じ込め効果を付与するための光学素子として使用することができる。あるいは、上記パターンを有する基板をモールド(マザー)として用いて上記パターンをさらに別の樹脂に転写してもよい。この場合、転写された樹脂パターンは基板上のパターンの反転パターンであるために、転写された反転パターンをさらに別の樹脂に転写することで基板のレプリカとしてのモールドを作製してもよい。それらのモールドにNi等による電鋳処理を施して金属モールドを形成することもできる。それらのモールドを用いることにより、有機EL素子用の回折格子基板などの光学部品を効率よく量産することができる。
【0057】
<有機EL素子の製造方法>
上記のようにしてロールプロセスを経てゾルゲル材料層からなるパターンが形成された基板を用いて有機EL素子を製造する製造方法について、
図13を参照しながら説明する。
先ず、
図13に示すように、基板40のゾルゲル材料層42上に、透明電極92を、ゾルゲル材料層42の表面に形成されている凹凸構造が維持されるようにして積層する。透明電極92の材料としては、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)、金、白金、銀、銅が用いられる。これらの中でも、透明性と導電性の観点から、ITOが好ましい。透明電極92の厚みは20〜500nmの範囲であることが好ましい。厚みが前記下限未満では、導電性が不十分となり易く、前記上限を超えると、透明性が不十分となり発光したEL光を十分に外部に取り出せなくなる可能性がある。透明電極92を積層する方法としては、蒸着法、スパッタ法、スピンコート法等の公知の方法を適宜採用することができる。これらの方法の中でも、密着性を上げるという観点から、スパッタ法が好ましい。
【0058】
次に、透明電極92上に、
図13に示す有機層94を積層する。このような有機層94は、有機EL素子の有機層に用いることが可能なものであれば特に制限されず、公知の有機層を適宜利用することができる。また、このような有機層94は、種々の有機薄膜の積層体であってもよく、例えば、
図13に示すような正孔輸送層95、発光層96、及び電子輸送層97からなる積層体であってもよい。ここで、正孔輸送層95の材料としては、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、N,N’−ビス(3ーメチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)や4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)等の芳香族ジアミン化合物、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、テトラヒドロイミダゾール、ポリアリールアルカン、ブタジエン、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、発光層96は、透明電極92から注入された正孔と金属電極98から注入された電子とを再結合させて発光させるために設けられている。発光層96に使用できる材料としては、アントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、アルミニウムキノリノール錯体(Alq3)などの有機金属錯体、トリ−(p−ターフェニル−4−イル)アミン、1−アリール−2,5−ジ(2−チエニル)ピロール誘導体、ピラン、キナクリドン、ルブレン、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ジスチリルアミン誘導体及び各種蛍光色素等を用いることができる。またこれらの化合物のうちから選択される発光材料を適宜混合して用いることも好ましい。また、スピン多重項からの発光を示す材料系、例えば燐光発光を生じる燐光発光材料、およびそれらからなる部位を分子内の一部に有する化合物も好適に用いることができるが挙げられる。なお、前記燐光発光材料はイリジウムなどの重金属を含むことが好ましい。上述した発光材料をキャリア移動度の高いホスト材料中にゲスト材料としてドーピングして、双極子−双極子相互作用(フェルスター機構)、電子交換相互作用(デクスター機構)を利用して発光させても良い。また、電子輸送層97の材料としては、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレンなどの複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アルミニウムキノリノール錯体(Alq3)などの有機金属錯体などが挙げられる。さらに上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。なお、正孔輸送層95もしくは電子輸送層97が発光層96の役割を兼ねていてもよい。この場合、透明電極92と金属電極98の間の有機層は2層となる。
【0059】
さらに、金属電極98からの電子注入を容易にするという観点から、有機層94と金属電極98の間に電子注入層としてフッ化リチウム(LiF)、Li
2O
3等の金属フッ化物や金属酸化物、Ca、Ba、Cs等の活性の高いアルカリ土類金属、有機絶縁材料等からなる層を設けてもよい。また、透明電極92からの正孔注入を容易にするという観点から、有機層94と透明電極92の間に正孔注入層として、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、または導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマーなどからなる層を設けても良い。
【0060】
また、有機層94が正孔輸送層95、発光層96、及び電子輸送層97からなる積層体である場合、正孔輸送層95、発光層96、及び電子輸送層97の厚みは、それぞれ1〜200nmの範囲、5〜100nmの範囲、及び5〜200nmの範囲であることが好ましい。有機層94を積層する方法としては、蒸着法、スパッタ法、スピンコート法、ダイコート法等の公知の方法を適宜採用することができる。
【0061】
有機EL素子形成工程においては、次いで、
図13に示すように、有機層94上に金属電極98を積層する。金属電極98の材料としては、仕事関数の小さな物質を適宜用いることができ、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、MgAg、MgIn、AlLiが挙げられる。また、金属電極98の厚みは50〜500nmの範囲であることが好ましい。厚みが前記下限未満では、導電性が低下し易く、前記上限を超えると、電極間の短絡が発生した際に、修復が困難となる可能性がある。金属電極98は、蒸着法、スパッタ法等の公知の方法を採用して積層することができる。こうして、
図13に示すような構造の有機EL素子200が得られる。
【0062】
[実施例1]
エタノール24.3g、水2.16g及び濃塩酸0.0094gを混合した液に、テトラエトキシシラン(TEOS)2.5gとメチルトリエトキシシラン(MTES)2.1gを滴下して加え、23℃、湿度45%で2時間攪拌してゾル溶液を得た。このゾル溶液を、15×15×0.11cmのソーダライム製ガラス板上にバーコートした。バーコーターとしてドクターブレード(YOSHIMITSU SEIKI社製)を用いた。このドクターブレードは塗膜の膜厚が5μmとなるような設計であったがドクターブレードに35μmの厚みのイミドテープを張り付けて塗膜の膜厚が40μmとなるように調整した。バーコート後の種々の経過時間におけるガラス基板の重量を電子天秤(研精工業株式会社製 電磁式はかり(GH-202))で秤量し、予め秤量したガラス基板の重量を差し引くことで各経過時間における塗膜の重量(b(t))を求めた。また、ガラス板をホットプレート上で100℃で5分間熱処理して塗膜を乾燥し、このガラス基板の重量を電子天秤で計量し、予め計量したガラス基板の重量を差し引くことで乾燥膜の重量(a=8.6mg)を求めた。塗膜の乾燥重量aに対する各経過時間tにおける塗膜の重量の比(e=b(t)/a)を算出し、この重量比に基づいて以下のようにして塗膜の転写評価を行った。
図2に、経過時間(秒)に対して乾燥重量に対する塗膜の重量比(e=b(t)/a)の変動を表すグラフを示す。
【0063】
上記と同じ条件で、ゾル溶液を調製し、ソーダライム製ガラス板上に前記バーコーターで塗布した。塗布後、先にガラス基板の重量を求めた各経過時間にて、ラインアンドスペースパターンのモールドを、以下に記載するような方法で加熱した押圧ロールによりガラス板上の塗膜に押し付けた。
【0064】
ラインアンドスペースパターンのモールドは次のようにして作製した。シリコン基板上に電子線リソグラフィでラインアンドスペースパターンを形成し、元型とした。PETフィルム上に塗布したフッ素含有光硬化型樹脂層上に元型のパターンを転写し、モールドを作製した。モールドは、
図5(a)に示すように、300mm×200mm×0.1(厚み)mmのシート70であり、その一面にそれぞれ異なる方向に凹凸溝が延在する4つのラインアンドスペースパターン(1cm×1cm)72、74、76、78が所定間隔を隔てて形成されている。各パターンは、
図5(b)に示すように3分割されており、それぞれ、400nm、600nm及び800nmのピッチを有し、いずれも凹凸深さは175nmであった。
図5(c)に400nmのピッチの分割パターンの断面図を示す。押圧ロールは、内部にヒータを備え、外周が4mm厚の耐熱シリコーンが被覆されたロールであり、ロール径φが50mm、軸方向長さが350mmのものを用いた。
【0065】
最初に、モールドのラインアンドスペースパターンが形成された面を、ガラス基板の一端から他端に向かって80℃に加熱した押圧ロールを回転させながらガラス基板上の塗膜に押し付けた。モールドの押圧終了後、モールドを前記一端から他端に向かって剥離角度が約30°になるように手で剥離した。
【0066】
モールドを剥離後、目視で塗膜上のラインアンドスペースパターンの転写状態を観察した。塗膜上にラインアンドスペースパターンを確認できたものを転写可能と評価した。結果を表1に示す。表1には、塗布から押圧までの経過時間、塗膜の重量、乾燥重量に対する塗膜の重量比及び評価結果を示す。評価として、塗膜にラインアンドスペースパターンが明瞭に転写されているものをO、ラインアンドスペースパターンが見えず、転写不良のものを×として表した。
【0068】
表1の結果より、乾燥重量に対する塗膜の重量比が1.4〜4.5のときは転写が良好であることが分かる。塗布後の経過時間では70秒から240秒であった。なお、重量が4.0を超えるとバーコ―タにより塗布されたゾル溶液が流動して基板から漏れ出て基板の裏に回り込み、周囲を汚染していた。
【0069】
こうして得られたラインアンドスペースパターンが転写された塗膜付きガラス基板のうち、ラインアンドスペースパターンが明瞭に転写されているものを、オーブンを用いて300℃で60分間加熱して本焼成した。
【0070】
[実施例2]
ゾル溶液の塗布をバーコート法に代えてスピンコート法で行った以外は実施例1と同様にして行った。スピンコートは最初に500rpmで8秒間行った後、1000rpmで3秒間行った。実施例1と同様にして、スピンコートの経過時間におけるガラス基板の重量を秤量し、100℃で5分間基板を加熱した後の基板の重量(乾燥重量)に対する重量比を求めた。
図6は、スピンコートの経過時間と塗膜の乾燥重量に対する経過時間ごとの塗膜の重量の比(e=b(t)/a)の変動を表す。次いで、実施例1と同様にして、それぞれの経過時間ごとに、スピンコートされたゾル溶液の塗膜にモールドを、内部に加熱ヒータを備える押圧ロールを用いて80℃でガラス板上の塗膜に押し付けながら回転移動した。塗膜の押圧が終了後、モールドを実施例1と同様にして手作業で剥離して、塗膜に転写されたパターンを観察し、評価した。
【0071】
また、評価結果を表2に示す。この結果より、ゾル溶液をスピンコータでコートした場合でも、乾燥重量に対する塗膜の重量比eが1.4以上であれば転写が良好に行えることが分かる。
【0073】
[実施例3]
ゾル溶液に用いたエタノールに代えてイソプロピルアルコール(IPA)31.7gを用いた以外は、実施例2と同様にして、ゾル溶液を調製してガラス基板上にスピンコートし、種々の経過時間で、ラインアンドスペースパターンのモールドを加熱した押圧ロールを用いてガラス板上の塗膜に押し付けた。
図7に、経過時間に対して乾燥重量に対する塗膜の重量比(=b(t)/a)の変動を表すグラフを示す。また、評価結果を表2に示す。この結果より、ゾル溶液の溶媒がイソプロピルアルコールの場合でも、乾燥重量に対する塗膜の重量比が1.4以上であれば転写が良好に行えることが分かる。
【0074】
<実施例4>
この実施例では、BCP法を用いて凹凸表面を有するモールドを製造し、次いで、このモールドと実施例1で用いた押圧ロールを用いて回折格子及びそれを備えた有機EL素子を製造する。最初に、下記のようなポリスチレン(以下、適宜「PS」と略する)とポリメチルメタクリレート(以下、適宜「PMMA」と略する)とからなるPolymer Source社製のブロック共重合体を用意した。
PSセグメントのMn=868,000、
PMMAセグメントのMn=857,000、
ブロック共重合体のMn=1,725,000、
PSセグメントとPMMAセグメントの体積比(PS:PMMA)=53:47、
分子量分布(Mw/Mn)=1.30、PSセグメントのTg=96℃、
PMMAセグメントのTg=110℃
【0075】
ブロック共重合体における第1及び第2のポリマーセグメントの体積比(第1のポリマーセグメント:第2のポリマーセグメント)は、ポリスチレンの密度が1.05g/cm
3であり、ポリメチルメタクリレートの密度が1.19g/cm
3であるものとして算出した。ポリマーセグメント又はポリマーの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(東ソー(株)製、型番「GPC−8020」、TSK−GEL SuperH1000、SuperH2000、SuperH3000及びSuperH4000を直列に接続したもの)を用いて測定した。ポリマーセグメントのガラス転移点(Tg)は、示差走査熱量計(Perkin−Elmer社製、製品名「DSC7」)を用いて、0〜200℃の温度範囲について20℃/minの昇温速度にて昇温しつつ測定した。ポリスチレン及びポリメチルメタクリレートの溶解度パラメータはそれぞれ9.0及び9.3である(化学便覧 応用編 改定2版参照)。
【0076】
このブロック共重合体150mgとポリエチレンオキシドとして38mgの東京化成製ポリエチレングリコール4,000(Mw=3000、Mw/Mn=1.10)に、トルエンを、総量が10gになるように加えて溶解させた。この溶液を孔径0.5μmのメンブレンフィルターでろ過してブロック共重合体溶液を得た。得られたブロック共重合体溶液を、基材としてのポリフェニレンスルフィドフィルム(東レ(株)製トレリナ)上に、スピンコート法により200〜250nmの膜厚で塗布した。スピンコートは、回転速度500rpmで10秒間行った後、引き続いて800rpmで30秒間行った。スピンコート法で塗布された薄膜を室温で10分間放置して乾燥した。
【0077】
次いで、薄膜が形成された基材を、170℃のオーブン中で5時間加熱した(第1アニール処理)。加熱後の薄膜の表面には、凹凸が観察されて、薄膜を構成するブロック共重合体がミクロ層分離していることが分かった。
【0078】
上記のように加熱された薄膜を、以下のようにしてエッチング処理して基材上のPMMAを選択的に分解除去する。薄膜に、高圧水銀灯を用いて30J/cm
2の照射量(波長365nm)で紫外線を照射した。次いで、薄膜をアセトン中に浸漬し、イオン交換水で洗浄した後、乾燥した。この結果、上記加熱処理により薄膜表面に現れた凹凸よりも明らかに深い凹凸パターンが基材上に形成された。
【0079】
次いで、エッチング処理により形成された凹凸パターンを山形構造に変形(山形化処理)するために、基材を140℃のオーブン中で1時間の加熱処理(第2アニール処理)を行った。
【0080】
上記山形化処理された薄膜の表面に、スパッタにより、電流シード層として10nm程度の薄いニッケル層を形成した。次いで、この薄膜付き基材をスルファミン酸ニッケル浴中に入れ、温度50℃で、電鋳(最大電流密度0.05A/cm
2)処理してニッケルを厚み250μmになるまで析出させた。こうして得られたニッケル電鋳体から薄膜付き基材を機械的に剥離した。次に、ニッケル電鋳体を日本シービーケミカル製ケミゾール2303中に浸漬し、50℃にて2時間攪拌しながら洗浄した。その後、ニッケル電鋳体に、アクリル系UV硬化樹脂を塗布して硬化し、剥離することを3回繰り返すことで、電鋳体の表面に一部付着していたポリマー成分を除去した。
【0081】
次いで、ニッケル電鋳体をダイキン工業(株)社製オプツールHD−2100THに約1分浸し、乾燥した後、一晩静置した。翌日、ニッケル電鋳体を、ダイキン社製オプツールHD−TH中に浸漬して約1分間超音波処理洗浄を行った。こうして離型処理されたニッケルモールド(ニッケル基板)を得た。
【0082】
次に、PET基板(東洋紡績(株)社製易接着PETフィルム、コスモシャインA−4100)上にフッ素系UV硬化性樹脂を塗布し、ニッケルモールドを押し付けながら、紫外線を600mJ/cm
2で照射することでフッ素系UV硬化性樹脂を硬化させた。樹脂が硬化後、ニッケルモールドを硬化した樹脂から剥離した。こうしてニッケルモールドの表面形状が転写された樹脂膜付きPET基板からなる回折格子モールドを得た。
【0083】
次いで、実施例1と同様にして、塗布60秒後に、バーコートされたゾル溶液の塗膜に上記記載の回折格子モールドを、80℃に加熱した押圧ロールを用いてガラス板上の塗膜に押し付けながら回転移動した。塗膜の押圧が終了後、モールドを実施例1と同様にして手作業で剥離し、次いでオーブンを用いて300℃で60分加熱して本焼成を行った後、塗膜に転写されたパターンを評価した。
【0084】
この回折格子について、樹脂表面の凹凸形状を原子間力顕微鏡(SIIナノテクノロジー社製の環境制御ユニット付走査型プローブ顕微鏡「NanonaviIIステーション/E−sweep」)を用いて解析画像を得た。原子間力顕微鏡の解析条件は、以下の通りである。
測定モード:ダイナミックフォースモード
カンチレバー:SI−DF40(材質:Si、レバー幅:40μm、チップ先端の直径:10nm)
測定雰囲気:大気中
測定温度:25℃。
【0085】
<凹凸の平均高さ>
回折格子の任意の位置に3μm角(縦3μm、横3μm)の測定領域を測定して、上記のようにして凹凸解析画像を求めた。かかる凹凸解析画像中における、任意の凹部及び凸部との深さ方向の距離を100点以上測定し、その平均を算出して凹凸の平均高さ(深さ)とする。この例で得られた解析画像より凹凸パターンの平均高さは56nmであった。
【0086】
<フーリエ変換像>
回折格子の任意の3μm角(縦3μm、横3μm)の測定領域を測定して上記のようにして凹凸解析画像を求める。得られた凹凸解析画像に対し、1次傾き補正を含むフラット処理を施した後に、2次元高速フーリエ変換処理を施すことによりフーリエ変換像を得た。フーリエ変換像は波数の絶対値が0μm
−1である原点を略中心とする円状の模様を示しており、且つ前記円状の模様が波数の絶対値が10μm
−1以下の範囲内となる領域内に存在することが確認された。
【0087】
なお、フーリエ変換像の円状の模様は、フーリエ変換像において輝点が集合することにより観測される模様である。ここにいう「円状」とは、輝点が集合した模様がほぼ円形の形状に見えることを意味し、外形の一部が凸状又は凹状となっているように見えるものも含む概念である。輝点が集合した模様がほぼ円環状に見えることもあり、この場合を「円環状」として表現する。なお、「円環状」は、環の外側の円や内側の円の形状がほぼ円形の形状に見えるものも含み且つかかる環の外側の円や内側の円の外形の一部が凸状又は凹状となっているように見えるものも含む概念である。また、「円状又は円環状の模様が波数の絶対値が10μm
−1以下(より好ましくは1.25〜10μm
−1、更に好ましくは1.25〜5μm
−1)の範囲内となる領域内に存在する」とは、フーリエ変換像を構成する輝点のうちの30%以上(より好ましくは50%以上、更により好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上)の輝点が波数の絶対値が10μm
−1以下(より好ましくは1.25〜10μm
−1、更に好ましくは1.25〜5μm
−1)の範囲内となる領域内に存在することをいう。なお、凹凸構造のパターンとフーリエ変換像との関係について、次のことが分かっている。凹凸構造自体にピッチの分布や指向性もない場合には、フーリエ変換像もランダムなパターン(模様がない)で現れるが、凹凸構造がXY方向に全体として等方的であるがピッチに分布がある場合には、円または円環状のフーリエ変換像が現れる。また、凹凸構造が単一のピッチを有する場合には、フーリエ変換像に現れる円環がシャープになる傾向がある。
【0088】
前記凹凸解析画像の2次元高速フーリエ変換処理は、2次元高速フーリエ変換処理ソフトウエアを備えたコンピュータを用いた電子的な画像処理によって容易に行うことができる。
【0089】
得られたフーリエ変換像を画像解析した結果、波数2.38μm
−1が最も強かった。すなわち平均ピッチは420nmであった。平均ピッチは以下のようにして求めることができる。フーリエ変換像の各点について、フーリエ変換像の原点からの距離(単位:μm
−1)と強度を求める。続いて、同じ距離にある点については強度の平均値を求める。以上のようにして、求められたフーリエ変換像の原点からの距離と強度の平均値の関係をプロットし、スプライン関数によりフィッティングをかけ、強度がピークとなる波数を平均波数(μm
−1)とした。平均ピッチについては別の方法、たとえば、回折格子の任意の3μm角(縦3μm、横3μm)の測定領域を測定して凹凸解析画像を求め、かかる凹凸解析画像中における任意の隣り合う凸部同士又は隣り合う凹部同士の間隔を100点以上測定し、その平均を算出して凹凸の平均ピッチを求めるなどの方法から計算しても構わない。
【0090】
<有機EL素子の製造>
上記のようにして得られた回折格子としてのゾルゲル材料層よりなるパターンが形成されたガラス基板について、付着している異物などを除去するために、ブラシで洗浄したのち、次いで、アルカリ性洗浄剤および有機溶剤で有機物等を除去した。こうして洗浄した前記基板上に、ITOを、透明電極をスパッタ法で300℃にて厚み120nmで成膜し、フォトレジスト塗布して電極用マスクパターンで露光した後、現像液でエッチングして所定のパターンの透明電極を得た。得られた透明電極をブラシで洗浄し、アルカリ性洗浄剤および有機溶剤で有機物等を除去した後、UVオゾン処理した。このように処理された透明電極上に、正孔輸送層(4,4’,4’ ’トリス(9−カルバゾール)トリフェニルアミン、厚み:35nm)、発光層(トリス(2−フェニルピリジナト)イリジウム(III)錯体をドープした4,4’,4’ ’トリス(9−カルバゾール)トリフェニルアミン、厚み15nm、トリス(2−フェニルピリジナト)イリジウム(III)錯体をドープした1,3,5−トリス(N−フェニルベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼン、厚み15nm)、電子輸送層(1,3,5−トリス(N−フェニルベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼン、厚み:65nm)、フッ化リチウム層(厚み:1.5nm)を蒸着法で積層し、さらに金属電極(アルミニウム、厚み:50nm)を蒸着法により形成して
図13に示すような凹凸構造が維持された有機EL素子を得た。
【0091】
このようなプロセスにおいて、本発明の方法に従い製造した基板はゾルゲル材料から形成されており、機械的強度に優れるため、上記のように基板及び透明電極形成後に凹凸パターン面にブラシ洗浄を行っても傷、異物の付着、透明電極上の突起などが発生しにくく、それらに起因する素子不良を抑制できる。それゆえ、本発明の方法により得られた有機EL素子は、凹凸パターンを有する基板の機械的強度という点で硬化型樹脂基板を用いる場合に比べて優れる。また、本発明の方法に従い製造したゾルゲル材料から形成された基板は、耐薬品性に優れ、また、硬化型樹脂材料から形成された基板と比較して耐アルカリ性に優位性がある。それゆえ、基板及び透明電極の洗浄工程に用いるアルカリ液や有機溶媒に対しても比較的耐食性があり、種々の洗浄液を使用することができる。また、透明基板のパターニング時にアルカリ性の現像液を用いることがあり、このような現像液に対しても耐食性がある。この点でアルカリ液に対して一般的に耐性の弱い硬化型樹脂基板に比べて有利となる。さらに、本発明の方法に従い製造したゾルゲル材料から形成された基板は、硬化型樹脂基板に比べて、耐UV性、耐候性に優れる。このため、透明電極形成後のUVオゾン洗浄処理に対しても耐性を有する。また、本発明の方法により製造された有機EL素子を屋外で使用した場合には、硬化型樹脂基板を用いる場合に比べて太陽光による劣化が抑制できる。
【0092】
<有機EL素子の発光効率の評価>
この実施例で得られた有機EL素子の発光効率を以下の方法で測定した。得られた有機EL素子に電圧を印加し、印加電圧V及び有機EL素子に流れる電流Iを印加測定器(株式会社エーディーシー社製、R6244)にて、また全光束量Lをスペクトラ・コープ社製の全光束測定装置にて測定した。このようにして得られた印加電圧V、電流I及び全光束量Lの測定値から輝度値L’を算出し、電流効率については、下記計算式(F1):
電流効率=(L’/I)×S・・・(F1)
電力効率については、下記計算式(F2):
電力効率=(L’/I/V)×S・・・(F2)
をそれぞれ用いて、有機EL素子の電流効率及び電力効率を算出した。上記式において、Sは素子の発光面積である。
なお、輝度L’の値は、有機EL素子の配光特性がランバート則にしたがうものと仮定し、下記計算式(F3):
L’=L/π/S・・・(F3)
で換算した。
【0093】
この実施例の有機EL素子は、ガラス基板上に凹凸を有しない有機EL素子と比較して、輝度1000cd/m
2において、約1.7倍の電流効率を示した。また、この実施例の有機EL素子は、ガラス基板上に凹凸を有しない有機EL素子と比較して、輝度1000cd/m
2において、約2.1倍の電力効率を示した。それゆえ、本発明の有機EL素子は、十分な外部取り出し効率を有している。
【0094】
<有機EL素子の発光指向性の評価>
この実施例で得られた有機EL素子の発光の指向性を以下の方法で評価した。発光させた有機EL素子を全ての方向(全周囲360°の方向)から目視により観察した。実施例3で得られた有機EL素子においては、全周囲360°のいずれの方向から観察しても、特に明るい場所、又は特に暗い場所は観察されず、全ての方向に均等な明るさを呈していた。このように、本発明の有機EL素子は、発光の指向性が十分に低いことが確認された。
【0095】
上記のように、この実施例では有機EL素子の透明電極(ITO)の成膜時の温度を300℃とした。透明電極の成膜時の温度は300℃よりも低い温度でも構わないが、透明電極は低抵抗率であることが望まれており、結晶性を高めるため高温での成膜が好ましい。なお、成膜時の温度が100℃程度と低い場合には、基板上に成膜されたITO膜は比較的非晶質で、比抵抗も劣り、基板とITO薄膜の密着性も乏しくなる。通常のUV硬化樹脂等で形成した凹凸パターンは高温成膜工程に耐えることが難しかったが、セラミックの一種であるゾルゲル材料を用いることで高温成膜工程にも適用できるため、本発明の方法は有機EL素子用の基板(回折格子)を作製する上でも好適である。さらに、上記のような硬化樹脂では発光時の発熱などで高温下に長期間置かれると劣化して黄変やガスの発生の可能性があり、樹脂基板を用いた有機EL素子の長期的な使用が難しいが、ゾルゲル材料を用いて作製された基板を備える有機EL素子では劣化が抑制される。
【0096】
<実施例5>
実施例4において40℃に加熱した押圧ロールを用いた以外は実施例4と同様に行った。その結果、実施例4と同様にパターン転写でき、凹凸パターンの平均高さは56nm、平均ピッチは420nmであることを確認した。
【0097】
実施例4と同様にして、有機EL素子を作製し、素子の発光効率を測定した。この実施例の有機EL素子は、ガラス基板上に凹凸を有しない有機EL素子と比較して、輝度1000cd/m
2において、約1.7倍の電流効率を示した。また、この実施例の有機EL素子は、ガラス基板上に凹凸を有しない有機EL素子と比較して、輝度1000cd/m
2において、約2.1倍の電力効率を示した。それゆえ、本発明の有機EL素子は、十分な外部取り出し効率を有している。
【0098】
<実施例6>
実施例4において150℃に加熱した押圧ロールを用いた以外は実施例4と同様に行った。その結果、実施例4と同様にパターン転写でき、凹凸パターンの平均高さは56nm、平均ピッチは420nmであることを確認した。
【0099】
実施例4と同様にして、有機EL素子を作製し、素子の発光効率を測定した。この実施例の有機EL素子は、ガラス基板上に凹凸を有しない有機EL素子と比較して、輝度1000cd/m
2において、約1.7倍の電流効率を示した。また、この実施例の有機EL素子は、ガラス基板上に凹凸を有しない有機EL素子と比較して、輝度1000cd/m
2において、約2.1倍の電力効率を示した。それゆえ、本発明の有機EL素子は、十分な外部取り出し効率を有している。
【0100】
<実施例7>
実施例4において25℃に加熱した押圧ロールを用いた以外は実施例4と同様に行った。その結果、実施例4と同様にパターンの転写はでき、凹凸パターンの平均高さは56nm、平均ピッチは420nmであったが、実施例4の場合に比べて塗膜からのモールドの剥離に時間を要した。
【0101】
<比較例1>
実施例4において塗布から押圧までの経過時間を250秒にした以外は実施例4と同様に行った。その結果、パターンは転写されなかった。
【0102】
実施例4と同様にして、有機EL素子を作製し、素子の発光効率を測定した。この比較例の有機EL素子は、ガラス基板上に凹凸を有しない有機EL素子と比較して、輝度1000cd/m
2において、約1.0倍の電流効率を示した。また、この比較例の有機EL素子は、ガラス基板上に凹凸を有しない有機EL素子と比較して、輝度1000cd/m
2において、約1.0倍の電力効率を示した。
【0103】
以上、本発明を実施例により説明してきたが、本発明の方法は上記実施例に記載した方法に限定されず、特許請求の範囲に記載した技術思想の範囲内で適宜改変することができる。例えば、上記実施例では、特定の材料、寸法及び構造からなるモールド及び押圧ロールを用いてパターンを転写したが、それらに限らず任意の材料、寸法及び構造のモールド及び押圧ロールを用い得る。また、有機EL素子の製造に際して、有機層は蒸着法を用いて成膜したが、有機層の積層方法は蒸着法でもスピンコート等の公知の塗布法を用いてもよい。さらに、ゾルゲル材料を成膜する際に、特定の組成のゾル溶液(ゾルゲル溶液)を用いたが、本発明の範囲内で任意の組成に調整することができると共に、任意の添加剤を加えてもよい。