特許第5695726号(P5695726)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5695726
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】印刷材
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20150319BHJP
   C09D 11/101 20140101ALI20150319BHJP
   B41M 5/50 20060101ALI20150319BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20150319BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20150319BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   B41M5/00 A
   C09D11/101
   B41M5/00 B
   B41M5/00 E
   B32B15/08 A
   B41J2/01 501
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-261240(P2013-261240)
(22)【出願日】2013年12月18日
【審査請求日】2014年12月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】392007566
【氏名又は名称】ナトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 成寿
(72)【発明者】
【氏名】平工 大
(72)【発明者】
【氏名】杉田 修一
(72)【発明者】
【氏名】中川 暁
【審査官】 川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−153255(JP,A)
【文献】 特開2010−13557(JP,A)
【文献】 特開2009−102535(JP,A)
【文献】 特表2010−506964(JP,A)
【文献】 特表2011−515250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
B41M 5/50−5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属系基材または窯業系基材である基材と、
前記基材の上に配置され、樹脂組成物の硬化物であるインキ受理層と、
前記インキ受理層の上に配置され、活性光線硬化型カチオン重合性インキの硬化物であるインキ層と、を有し、
前記活性光線硬化型カチオン重合性インキは、カチオン重合性化合物、エポキシ基含有シランカップリング剤、ヒドロキシル基含有オキセタン化合物および光重合開始剤を含み、
前記活性光線硬化型カチオン重合性インキ中のエポキシ基含有シランカップリング剤の含有量は、0.5〜10.0質量%の範囲内であり、
前記活性光線硬化型カチオン重合性インキ中のヒドロキシル基含有オキセタン化合物の含有量は、10〜50質量%の範囲内である、
印刷材。
【請求項2】
前記インキ受理層は、前記活性光線硬化型カチオン重合性インキに対して非浸透性である、請求項1に記載の印刷材。
【請求項3】
前記インキ受理層表面の、JIS B 0601に準拠して測定した算術平均粗さRaは、400〜3000nmの範囲内である、請求項1または請求項2に記載の印刷材。
【請求項4】
前記樹脂組成物は、ポリエステルおよびメラミン樹脂を含むか、ポリエステルおよびウレタン樹脂を含むか、またはポリエステル、メラミン樹脂およびウレタン樹脂を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の印刷材。
【請求項5】
前記ヒドロキシル基含有オキセタン化合物は、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の印刷材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物の硬化物であるインキ受理層に対して密着性の優れたインキ層を有する印刷材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の内装材および外壁材として印刷材が多く用いられている。印刷材は、所望の形状に加工した基材の表面に、インクジェット印刷などにより所望の模様を付与することで製造されうる。インクジェット印刷を利用して印刷材(内装材または外壁材)を製造する場合は、耐候性や、耐傷付き性、基材表面におけるインクの密着性などが重要である。
【0003】
たとえば、印刷材は、金属板と、金属板の表面に配置されたインキ受理層と、インキ受理層の表面に配置されたインキ層とを有する。このような印刷材は、例えば、表面に配置されたインキ受理層を有する金属板の表面に活性光線硬化型カチオン重合性インキをインクジェット印刷した後、活性光線(例えば紫外線)を照射することで活性光線硬化型インキを硬化して製造される。
【0004】
特許文献1,2には、カチオン反応性化合物、エポキシ基含有シランカップリング剤および光カチオン重合開始剤を含む活性光線硬化型カチオン重合性インキが開示されている。特許文献1,2に記載の活性光線硬化型カチオン重合性インキは、樹脂やガラスなどの表面に塗布された後、活性光線を照射することにより硬化されて塗膜になる。特許文献1,2に記載の活性光線硬化型カチオン重合性インキによって形成された塗膜は、エポキシ基含有シランカップリング剤由来のシロキサン結合を有するため、耐候性および密着性に優れる。
【0005】
また、特許文献3には、エポキシ環、オキセタン環および五員環カーボネートからなる群から選択される環状構造を2以上有するカチオン反応性化合物と、シランカップリング剤と、カチオン反応性化合物の硬化剤とを有する活性光線硬化型カチオン重合性インキが開示されている。特許文献3に記載の活性光線硬化型カチオン重合性インキは、基材に塗布された後、活性光線が照射されることにより塗膜になる。このとき、活性光線硬化型カチオン重合性インキは、カチオン反応性化合物に由来するヒドロキシル基とシランカップリング剤のシリル基またはシラノール基とがアルコール反応し、3次元的に架橋されて、耐候性に優れる塗膜になる。
【0006】
このように、特許文献1〜3に記載の活性光線硬化型カチオン重合性インキは、シランカップリング剤を含有することより、耐候性および密着性に優れる塗膜となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−153255号公報
【特許文献2】特開2007−002130号公報
【特許文献3】特開2012−025125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3に記載されているシランカップリング剤を含む活性光線硬化型カチオン重合性インキでは、シランカップリング剤同士でシロキサン結合を形成して、架橋密度が高くなってしまうことがある。このため、活性光線硬化型カチオン重合性インキの硬化物(以下「インキ層」ともいう)が収縮してしまい、基材と硬化物との密着性が低下してしまうという問題がある。
【0009】
また、前述した印刷材の基材の表面に、ポリエステルおよびメラミン樹脂を含むか、ポリエステルおよびウレタン樹脂を含むか、またはポリエステル、メラミン樹脂およびウレタン樹脂を含む樹脂組成物を塗布し硬化させて、インキ受理層を形成する場合がある。このインキ受理層に対して、特許文献1〜3に記載の活性光線硬化型カチオン重合性インキをインクジェット印刷すると、インキ受理層の架橋密度が高いため、活性光線硬化型カチオン重合性インキがインキ受理層の内部に浸透することができず、基材に対するインキ層の密着性が低下してしまうことがあった。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、耐候性および耐傷付き性を有し、かつインキ受理層に対する活性光線硬化型カチオン重合性インキの硬化物(インキ層)の密着性に優れる印刷材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、カチオン重合性化合物、所定量のエポキシ基含有シランカップリング剤、所定量のヒドロキシル基含有オキセタン化合物、および光重合開始剤を配合した活性光線硬化型カチオン重合性インキを用いて印刷材を製造することにより、上記課題を解決させうることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の印刷材に関する。
[1]金属系基材または窯業系基材である基材と、前記基材の上に配置され、樹脂組成物の硬化物であるインキ受理層と、前記インキ受理層の上に配置され、活性光線硬化型カチオン重合性インキの硬化物であるインキ層と、を有し、前記活性光線硬化型カチオン重合性インキは、カチオン重合性化合物、エポキシ基含有シランカップリング剤、ヒドロキシル基含有オキセタン化合物および光重合開始剤を含み、前記活性光線硬化型カチオン重合性インキ中のエポキシ基含有シランカップリング剤の含有量は、0.5〜10.0質量%の範囲内であり、前記活性光線硬化型カチオン重合性インキ中のヒドロキシル基含有オキセタン化合物の含有量は、10〜50質量%の範囲内である、印刷材。
[2]前記インキ受理層は、前記活性光線硬化型カチオン重合性インキに対して非浸透性である、[1]に記載の印刷材。
[3]前記インキ受理層表面の、JIS B 0601に準拠して測定した算術平均粗さRaは、400〜3000nmの範囲内である、[1]または[2]に記載の印刷材。
[4]前記樹脂組成物は、ポリエステルおよびメラミン樹脂を含むか、ポリエステルおよびウレタン樹脂を含むか、またはポリエステル、メラミン樹脂およびウレタン樹脂を含む、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の印刷材。
[5]前記ヒドロキシル基含有オキセタン化合物は、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンである、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の印刷材。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐候性および耐傷付き性を有し、かつインキ受理層に対するインキ層の密着性に優れる印刷材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】インキ受理層の模式的な断面図である。
図2】架橋型シロキサンオリゴマーの概略を示す構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.印刷材
本発明の印刷材は、基材と、基材の上に配置されたインキ受理層と、インキ受理層の上に配置されたインキ層とを有する。また、本発明の印刷材は、インキ層の上に配置されたオーバーコート層をさらに有していてもよい。本発明の印刷材は、例えば、建物の内装材および外壁材として使用される建築材料として好適に使用することができる。以下、本発明の印刷材の各構成要素について説明する。
【0016】
(基材)
基材の種類は、特に限定されない。基材の例には、金属系基材(金属板)および窯業系基材が含まれる。
【0017】
金属系基材の例には、溶融Zn−55%Al合金めっき鋼板などのめっき鋼板、普通鋼板やステンレス鋼板などの鋼板、アルミニウム板および銅板が含まれる。これらの金属系基材には、エンボス加工や絞り成型加工などを行って、タイル調やレンガ調、木目調などの凹凸加工を施してもよい。さらに、断熱性や防音性を高める目的で、樹脂発泡体や石膏ボードなどの無機素材を芯材としたアルミラミネートクラフト紙などで、金属系基材の裏面を被覆してもよい。
【0018】
窯業系基材の例には、素焼陶板、施釉および焼成した陶板、セメント板、セメント質原料や繊維質原料などを用いて成形した板材が含まれる。また、これらの窯業系基材の表面にも、タイル調やレンガ調、木目調などの凹凸加工を施してもよい。
【0019】
基材は、その表面に化成処理皮膜や下塗り塗膜などが形成されていてもよい。化成処理皮膜は、基材の表面全体に形成されており、塗膜密着性および耐食性を向上させる。化成処理皮膜を形成する化成処理の種類は、特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理、クロムフリー処理、リン酸塩処理が含まれる。化成処理皮膜の付着量は、塗膜密着性および耐食性の向上に有効な範囲内であれば特に限定されない。たとえば、クロメート皮膜の場合、全Cr換算付着量が5〜100mg/mとなるように付着量を調整すればよい。また、クロムフリー皮膜の場合、Ti−Mo複合皮膜では10〜500mg/m、フルオロアシッド系皮膜ではフッ素換算付着量または総金属元素換算付着量が3〜100mg/mの範囲内となるように付着量を調整すればよい。また、リン酸塩皮膜の場合、5〜500mg/mとなるように付着量を調整すればよい。
【0020】
下塗り塗膜は、基材または化成処理皮膜の表面全体に形成されており、塗膜密着性および耐食性を向上させる。下塗り塗膜は、例えば樹脂を含む下塗り塗料を、基材または化成処理皮膜の表面に塗布し、乾燥(または硬化)させることで形成される。下塗り塗料に含まれる樹脂の種類は、特に限定されない。樹脂の種類の例には、ポリエステルやエポキシ樹脂、アクリル樹脂などが含まれる。エポキシ樹脂は、極性が高く、かつ密着性が良好なため特に好ましい。下塗り塗膜の膜厚は、上記の機能を発揮することができれば、特に限定されない。下塗り塗膜の膜厚は、例えば5μm程度である。
【0021】
(インキ受理層)
インキ受理層は、基材または下塗り塗膜の表面全体に配置されている、活性光線硬化型カチオン重合性インキを受理するための層である。インキ受理層は、マトリックスとなる樹脂を含む。
【0022】
マトリックスとなる樹脂の種類は、特に限定されない。マトリックスとなる樹脂の例には、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコールおよびフェノール樹脂が含まれる。マトリックスとなる樹脂は、高耐候性および活性光線硬化型カチオン重合性インキとの密着性の観点から、ポリエステルを含むことが好ましい。なお、マトリックスとなる樹脂は、水性インキ用の多孔質なインキ受理層を形成するものでない。多孔質のインキ受理層は、耐水性および耐候性が悪い場合があり、建築材などの用途に適さないためである。
【0023】
マトリックスを形成するためのポリエステル樹脂組成物は、例えばポリエステルおよびメラミン樹脂を含むか、ポリエステルおよびウレタン樹脂を含むか、またはポリエステル、メラミン樹脂およびウレタン樹脂を含む。また、ポリエステルおよびメラミン樹脂を有するポリエステル樹脂組成物は、触媒およびアミンをさらに含む。このような樹脂組成物の硬化物(インキ受理層)は、架橋密度が高く、活性光線硬化型カチオン重合性インキに対して非浸透性である。なお、インキ受理層(樹脂組成物の硬化物)が活性光線硬化型カチオン重合性インキに対して非浸透性であることは、インキ受理層およびインキ層の断面を100〜200倍の倍率で顕微鏡観察することにより、確認することができる。インキ受理層が非浸透性の場合は、インキ受理層とインキ層との界面を明確に識別することができるが、浸透性の場合は、界面が不明確となり識別することが困難である。
【0024】
ポリエステルの種類は、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、またはこれらの組み合わせと架橋反応を起こすことができれば、特に限定されない。ポリエステルの数平均分子量は、特に限定されないが、加工性の観点からは5000以上であることが好ましい。また、ポリエステルの水酸基価も、特に限定されないが、40mgKOH/g以下であることが好ましい。ポリエステルのガラス転移点は、特に限定されないが、0〜70℃の範囲内であることが好ましい。ガラス転移点が0℃未満の場合、インキ受理層の硬度が不足するおそれがある。一方、ガラス転移点が70℃超の場合、加工性が低下するおそれがある。
【0025】
メラミン樹脂は、ポリエステルの架橋剤である。メラミン樹脂の種類は、特に限定されないが、メチル化メラミン樹脂であることが好ましい。また、メチル化メラミン樹脂は、分子中の官能基に占めるメトキシ基の量が80mol%以上であることが好ましい。メチル化メラミン樹脂は、単独で使用してもよいし、他のメラミン樹脂と併用してもよい。メラミン樹脂の配合量は、ポリエステル:メラミン樹脂=60:40〜80:20(質量比)の範囲内であることが好ましい。
【0026】
触媒は、メラミン樹脂の反応を促進させる。触媒の例には、ドデシルベンゼンスルフォン酸、パラトルエンスルフォン酸、ベンゼンスルフォン酸が含まれる。触媒の配合量は、樹脂固形分に対して0.1〜8.0%程度であることが好ましい。
【0027】
アミンは、触媒反応を中和する。アミンの例には、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、モノエタノールアミン、イソプロパノールアミンが含まれる。アミンの配合量は、特に限定されないが、酸(触媒)に対して当量の50%以上の量であることが好ましい。
【0028】
ウレタン樹脂は、ポリエステルの架橋剤である。ウレタン樹脂の種類は、特に限定されないが、耐候性を高める観点から芳香族ジイソシアネートではなく、脂肪族ジイソシアネートまたは脂環式ジイソシアネートが好ましい。脂肪族ジイソシアネートおよび脂環式ジイソシアネートの例には、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアノメチル)シクロヘキサンが含まれる。ウレタン樹脂は、単独で使用してもよいし、他のウレタン樹脂と併用してもよい。ウレタン樹脂の配合量は、ポリエステル:ウレタン樹脂=60:40〜80:20(質量比)の範囲内であることが好ましい。
【0029】
インキ受理層の、JIS B 0601に準拠して測定した算術平均粗さRaは、400〜3000nmの範囲内であることが好ましい。JIS B 0601に準拠した測定方法では、インキ受理層表面の比較的大きい凹凸に関係する算術平均粗さRaを測定することができる。本発明者らの予備実験によれば、Raが大きいほど、活性光線硬化型カチオン重合性インキの濡れ広がり性が向上する。算術平均粗さRaは、活性光線硬化型カチオン重合性インキの濡れ広がり性および発色性の観点から、400〜3000nmの範囲内であることが好ましく、500〜2000nmの範囲内であることがより好ましい。算術平均粗さRaが400nm未満の場合、インキ受理層表面において活性光線硬化型カチオン重合性インキが十分に濡れ広がらない。一方、算術平均粗さRaが3000nm超の場合、活性光線硬化型カチオン重合性インキがインキ受理層表面の深い溝に侵入することで、色が薄くなってしまう。なお、算術平均粗さRaが2000nm超の場合、濡れ広がり性が飽和する。
【0030】
ここで、算術平均粗さRaは、粗さ曲線をy=f(x)で表したとき、粗さ曲線からその平均線の方向に測定長さLの部分を抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向をX軸、縦倍率の方向をY軸とし、下式(1)から求めた数値(単位;nm)である。
【0031】
【数1】
【0032】
f(x)は、触針式表面粗度計、走査トンネル顕微鏡(STM)など様々な方法により測定することができる。本願明細書において記載する算術平均粗さRaは、以下の実施例でも示すとおり、触針式表面粗度計で求めた数値である。
【0033】
前述した算術平均粗さRaの条件を満たす微細な凹凸をインキ受理層の表面に形成する方法は、特に限定されない。そのような方法の例には、ナノインプリント法や、ショットピーニング法などが含まれる。
【0034】
ナノインプリント法では、算術平均粗さRaを満たすテクスチャー(凹凸)を付与した型と、基材の上に形成されたインキ受理層とを、加熱しながら押圧する。ナノインプリント法に使用される型は、公知のダイレクト製版または電子彫刻製版を利用することで製造されうる。
【0035】
このように形成された型を用いて、インキ受理層の表面に凹凸を形成するには、型にインキ受理層が形成された基材を押圧してもよいし、インキ受理層が形成された基材に型を押圧してもよい。また、型の押圧および基材の送り出しを交互に行うステップアンドリピート方式、テクスチャーロールを用いた連続ロールプレス方式により、インキ受理層を形成した基材に型を押圧してもよい。連続ロールプレス方式は、インキ受理層の表面に微細な凹凸を高速かつ再現性よく形成することができるため、大量生産を行う場合に好ましい。
【0036】
ショットピーニング方法では、酸化物系の研削材を使用する。ショットピーニング法では、研削材の粒径、ショット粒の速度、ピーニング時間などを適宜調整することで、インキ受理層の表面に所定の凹凸を形成することができる。
【0037】
さらに、インキ受理層の表面に凹凸を形成する別の方法としては、マトリックスを形成するポリエステル樹脂組成物に、粒径および配合量を適正に調整した顔料を配合する方法がある。ここでいう「顔料」には、少なくとも体質顔料(ビーズを含む)および着色顔料が含まれる。この場合、インキ受理層中の顔料の割合は、50〜75質量%の範囲内であることが好ましい。顔料の割合が50質量%未満の場合、活性光線硬化型カチオン重合性インキがインキ受理層に密着しないおそれがある。一方、顔料の割合が75質量%超の場合、樹脂成分が少なくなり、インキ受理層に傷がついた場合にインキ受理層が剥離してしまうおそれがある。また、加工性が低下して、塗膜ワレが発生したり、耐水性が低下したりするおそれがある。ここでいう「顔料の割合」は、インキ受理層を形成する時に使用する塗料の顔料重量濃度(%)と同じである。顔料重量濃度(PWC)は、下式(2)により計算される。
顔料重量濃度(%)=顔料重量/(顔料重量+樹脂組成物重量)×100 …(2)
【0038】
また、算術平均粗さRaを400〜3000nmの範囲内とするためには、インキ受理層が粒径4μm以上の顔料を含み、かつ顔料のうち、インキ受理層中の粒径4μm以上の顔料の割合が10〜30質量%の範囲内であることが好ましい。粒径4μm以上の顔料の割合が10質量%未満の場合、算術平均粗さRaを400nm以上にするのが困難になり、活性光線硬化型カチオン重合性インキが十分に濡れ広がらないおそれがある。一方、粒径4μm以上の顔料の割合が30質量%超の場合、算術平均粗さRaが大きくなりすぎてしまい、活性光線硬化型カチオン重合性インキの吸い込みにより印刷濃度が低下してしまうおそれがある。
【0039】
また、インキ受理層は、粒径4μm以上の顔料と、粒径1μm未満の顔料とを組み合わせて含むことが好ましい。図1は、このようにして形成されたインキ受理層の模式的な断面図である。インキ受理層に粒径4μm以上の顔料と、粒径1μm未満の顔料とを組み合わせて配合することにより、図1に示されるように、粒径4μmの顔料を被覆するマトリックス樹脂内に粒径1μm未満の顔料が分散している状態となる。これにより、算術平均粗さRaが所定の範囲内の凹凸形状を安定して形成することができる。なお、顔料の粒径は、コールターカウンター法により、粒径および粒度個数分布を測定し、その粒度個数分布から求められる。
【0040】
体質顔料の種類は、特に限定されない。体質顔料の例には、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルク、マイカ、樹脂ビーズ、ガラスビーズなどが含まれる。
【0041】
樹脂ビーズの種類は、特に限定されない。樹脂ビーズの例には、アクリル樹脂ビーズ、ポリアクリロニトリルビーズ、ポリエチレンビーズ、ポリプロピレンビーズ、ポリエステルビーズ、ウレタン樹脂ビーズ、エポキシ樹脂ビーズなどが含まれる。これらの樹脂ビーズは、公知の方法を用いて製造したものでもよいし、市販品を利用してもよい。市販のアクリル樹脂ビーズの例には、東洋紡株式会社の「タフチック AR650S(平均粒径18μm)」、「タフチック AR650M(平均粒径30μm)」、「タフチック AR650MX(平均粒径40μm)」、「タフチック AR650MZ(平均粒径60μm)」、「タフチック AR650ML(平均粒径80μm)」、「タフチック AR650L(平均粒径100μm)」および「タフチック AR650LL(平均粒径150μm)」が含まれる。また、市販のポリアクリロニトリルビーズの例には、東洋紡株式会社の「タフチック A−20(平均粒径24μm)」、「タフチック YK−30(平均粒径33μm)」、「タフチック YK−50(平均粒径50μm)」および「タフチック YK−80(平均粒径80μm)」が含まれる。
【0042】
着色顔料の種類は、特に限定されない。着色顔料の例には、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、黄色酸化鉄、フタロシアニンブルー、コバルトブルーが含まれる。
【0043】
インキ受理層の膜厚は、特に限定されないが、10〜40μmの範囲内であることが好ましい。膜厚が10μm未満の場合、インキ受理層の耐久性および隠蔽性が不十分となるおそれがある。また、膜厚が40μm超の場合、製造コストが増大するとともに、焼付け時にワキが発生しやすくなるおそれがある。また、インキ受理層の表面が柚子肌状となってしまい、外観が劣化してしまうおそれがある。
【0044】
また、インキ受理層を有する基材のエンボス加工性および耐汚染性を向上させる観点から、インキ受理層は、粒径4μm以上の顔料として、粒径がインキ受理層の膜厚よりも大きく、かつ15〜80μmの範囲内であるビーズを2〜30質量%含有していることが好ましい。インキ受理層の表面においてビーズを突出させることで、インキ受理層の摺動性が向上してインキ受理層を有する基材のエンボス加工性も顕著に向上する。また、インキ受理層の表面においてビーズを突出させることで、印刷前にインキ受理層を有する基材を重ねた場合であっても、インキ受理層に汚れが付きにくくなる。粒径が15〜80μmのビーズの割合が2質量%未満の場合、インキ受理層を有する基材のエンボス加工性および耐汚染性を十分に向上させることができないおそれがある。また、ビーズの粒径が80μm超の場合、ビーズが塗膜から離脱してしまい、インキ受理層を有する基材のエンボス加工性および耐汚染性を十分に向上させることができないおそれがある。
【0045】
また、インキ受理層にワックスを配合してもよい。ワックスは、潤滑性を向上させて、エンボス加工性および耐汚染性をさらに向上させることができる。しかしながら、一般的にワックスは、活性光線硬化型カチオン重合性インキの密着性を低下させるため、配合しないことが好ましい。特に、石油ワックスおよびポリエチレンワックスは、焼き付け時に溶けて塗膜表面に広がるため、活性光線硬化型カチオン重合性インキの密着性を低下させる。よって、潤滑性を向上させるワックスとしては、PTFE微粉末ワックスが好ましい。PTFE微粉末ワックスは、焼き付け温度で溶解せず、インキ受理層表面に広がらないため、活性光線硬化型カチオン重合性インキの密着性を低下させない。
【0046】
(インキ層)
インキ層は、インキ受理層の上に配置されている。インキ層は、インキ受理層の表面に所望の画像が形成されるように、インキ受理層の表面全体または一部に配置されている。インキ層は、活性光線硬化型カチオン重合性インキをインキ受理層の表面にインクジェット印刷して、活性光線硬化型カチオン重合性インキを硬化させることで形成される。活性光線硬化型カチオン重合性インキは、紫外線(活性光線)を照射することにより硬化するカチオン重合型のUVインキであることが好ましい。
【0047】
活性光線硬化型カチオン重合性インキは、カチオン重合性化合物、エポキシ基含有シランカップリング剤、ヒドロキシル基含有オキセタン化合物および光重合開始剤を含む。また、活性光線硬化型カチオン重合性インキは、顔料および分散剤をさらに含んでいてもよい。
【0048】
カチオン重合性化合物の種類は、カチオン重合可能なモノマーであれば、特に限定されない。カチオン重合性化合物の例には、芳香族エポキシド、脂環式エポキシド、脂肪族エポキシドおよびヒドロキシル基含有オキセタン化合物以外のオキセタン化合物が含まれる。芳香族エポキシドの例には、ビスフェノールAまたはそのアルキレンオキサイド付加体のジもしくはポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAまたはそのアルキレンオキサイド付加体のジもしくはポリグリシジルエーテル、およびノボラック型エポキシ樹脂が含まれる。脂環式エポキシドの例には、少なくとも1個のシクロへキセンまたはシクロペンテン環などのシクロアルカン環を有する化合物を、過酸化水素や過酸などの酸化剤でエポキシ化することによって得られる、シクロヘキセンオキサイドまたはシクロペンテンオキサイド含有化合物が含まれる。脂肪族エポキシドの例には、エチレングリコールのジグリシジルエーテルやプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテルなどのアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、グリセリンまたはそのアルキレンオキサイド付加体のジもしくはトリグリシジルエーテルなどの多価アルコールのポリグリシジルエーテルやポリエチレングリコールまたはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールまたはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテルなどのポリアルキレングリコールのジグリシジルエーテルが含まれる。オキセタン化合物は、成長反応しやすいため、カチオン重合することで高分子量化することができる。オキセタン化合物の例には、特開2001−220526号公報や特開2001−310937号公報などに記載されている既知のオキセタン化合物が含まれる。また、オキセタン化合物は、単独で使用してもよいし、オキセタン環を1個含有する単官能オキセタン化合物と、オキセタン環を2個以上含有する多官能オキセタン化合物とを併用することもできる。
【0049】
活性光線硬化型カチオン重合性インキ中のカチオン重合性化合物の含有量は、60〜95質量%の範囲内が好ましい。カチオン重合性化合物が60質量%未満の場合、硬化成分が少なくなりすぎてインキ層が形成されないおそれがある。一方、カチオン重合性化合物が95質量%超の場合、光重合開始剤の添加量が少なくなりすぎて、インキ層を十分に硬化させることができないおそれがある。
【0050】
エポキシ基含有シランカップリング剤は、カチオン重合性化合物やヒドロキシル基含有オキセタン化合物などとシロキサン結合を形成してインキ層の耐候性を向上させる。エポキシ基含有シランカップリング剤の種類は、特に限定されない。エポキシ基含有シランカップリング剤の例には、(3−(2,3エポキシプロポキシ)プロピル)トリメチルトリメトキシシラン、3−グリドキシプロピルメトキシシラン、エポキシ含有オリゴマー型のシランカップリング剤が含まれる。これらのエポキシ基含有シランカップリング剤は、公知の方法を用いて製造したものでもよいし、市販品を利用してもよい。市販のエポキシ基含有シランカップリング剤の例には、信越化学工業株式会社の「KBM−303;2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン」、「KBM−403;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」が含まれる。エポキシ基含有シランカップリング剤は、エポキシ基を有しているため、カチオン重合の開始反応が進みやすい。
【0051】
活性光線硬化型カチオン重合性インキ中のエポキシ基含有シランカップリング剤の含有量は、0.5〜10.0質量%の範囲内である。エポキシ基含有シランカップリング剤が0.5質量%未満の場合、シロキサン結合が不十分となるため、耐候性が低くなってしまうおそれがある。一方、エポキシ基含有シランカップリング剤が10.0質量%超の場合、自己縮合してしまい、インキ受理層に対する密着性が低下してしまうおそれがある。
【0052】
ヒドロキシル基含有オキセタン化合物は、分子内に1または2以上のヒドロキシル基を有する化合物である。ヒドロキシル基含有オキセタン化合物の種類は、特に限定されない。ヒドロキシル基含有オキセタン化合物の例には、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンが含まれる。ヒドロキシル基含有オキセタン化合物は、公知の方法を用いて製造したものでもよいし、市販品を利用してもよい。市販のヒドロキシル基含有オキセタン化合物の例には、東亜合成株式会社の「OXT−101;3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン」が含まれる。このようなヒドロキシル基含有オキセタン化合物は、開始反応が進みにくいが、重合反応が進みやすい。
【0053】
活性光線硬化型カチオン重合性インキ中のヒドロキシル基含有オキセタン化合物の含有量は、10〜50質量%の範囲内である。ヒドロキシル基含有オキセタン化合物が10質量%未満の場合、活性光線硬化型カチオン重合性インキ中のエポキシ基含有シランカップリング剤の割合が多くなり、インキ層のインキ受理層に対する密着性が低下してしまうおそれがある。一方、ヒドロキシル基含有オキセタン化合物が50質量%超の場合、空気中の水分を吸収するため、活性光線硬化型カチオン重合性インキが硬化せず、インキ層の表面が傷付きやすくなるおそれがある。
【0054】
光重合開始剤は、活性光線の照射によりカチオン重合を開始させる。光重合開始剤の種類は、活性光線の照射によりカチオン重合を開始させることができればとくに限定されないが、活性光線の照射によりルイス酸を発生させるオニウム塩であることが好ましい。光重合開始剤の例には、ルイス酸のジアゾニウム塩、ルイス酸のヨードニウム塩、ルイス酸のスルホニウム塩などが含まれる。これらのオニウム塩は、芳香族ジアゾニウム、芳香族ヨードニウム、または芳香族スルホニウムなどを含むカチオン部分と、アニオン部分がBF−、PF−、SbF−、または[BX]−(Xは少なくとも2つ以上のフッ素またはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基)などを含むアニオン部分とを有する。具体的には、四フッ化ホウ素のフェニルジアゾニウム塩、六フッ化リンのジフェニルヨードニウム塩、六フッ化アンチモンのジフェニルヨードニウム塩、六フッ化ヒ素のトリ−4−メチルフェニルスルホニウム塩、四フッ化アンチモンのトリ−4−メチルフェニルスルホニウム塩、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素のジフェニルヨードニウム塩、アセチルアセトンアルミニウム塩とオルトニトロベンジルシリルエーテル混合体、フェニルチオピリジウム塩、六フッ化リンアレン−鉄錯体などである。
【0055】
活性光線硬化型カチオン重合性インキ中の光重合開始剤の含有量は、3〜15質量%の範囲内であることが好ましい。光重合開始剤が3質量%未満の場合、十分な重合度が得られないため、インキ層が形成されないおそれがある。一方、光重合開始剤が15質量%超の場合、インキ層の表層と深層の硬化度の差が大きくなることにより歪が発生し、密着性が低下するおそれがある。
【0056】
顔料の種類は、有機顔料または無機顔料であれば、特に限定されない。有機顔料の例には、ニトロソ類、染付レーキ類、アゾレーキ類、不溶性アゾ類、モノアゾ類、ジスアゾ類、縮合アゾ類、ベンゾイミダゾロン類、フタロシアニン類、アントラキノン類、ペリレン類、キナクリドン類、ジオキサジン類、イソインドリン類、アゾメチン類およびピロロピロール類が含まれる。また、無機顔料の例には、酸化物類、水酸化物類、硫化物類、フェロシアン化物類、クロム酸塩類、炭酸塩類、ケイ酸塩類、リン酸塩類、炭素類(カーボンブラック)および金属粉類が含まれる。顔料は、活性光線硬化型カチオン重合性インキ中に0.5〜20質量%の範囲内で配合されていることが好ましい。顔料が0.5質量%未満の場合、着色が不充分となり、所望の画像が形成できないおそれがある。一方、顔料が20質量%超の場合、活性光線硬化型カチオン重合性インキの粘度が高くなりすぎて、インクジェットヘッドからの吐出不良を生じるおそれがある。
【0057】
分散剤は、活性光線硬化型カチオン重合性インキの各成分を分散状態にする。分散剤としては、低分子分散剤および高分子分散剤のいずれも使用することができる。分散剤は、公知の方法を用いて製造したものでもよいし、市販品を利用してもよい。このような市販の分散剤の例には、「アジスパーPB822」、「アジスパーPB821」(いずれも味の素ファインテクノ株式会社)が含まれる。
【0058】
図2は、架橋型シロキサンオリゴマーの概略を示した構造図である。図2に示されるように、シランカップリング剤は、ケイ素原子上にある複数のアルコキシ基の加水分解により複数のシラノール基を生じる。このシラノール基は、光重合開始剤から発生する強酸を酸触媒として、2重、3重にシロキサン結合を形成して架橋型シロキサンオリゴマーとなる。この架橋型シロキサンオリゴマーは、硬化収縮率が高いためインキ層の密着性低下の原因となりうる。したがって、インキ受理層に対するインキ層の密着性を向上させるためには、この架橋型シロキサンオリゴマーの生成を抑制する必要がある。
【0059】
本発明者らは、以下の(1)〜(3)により、シランカップリング剤同士の3次元架橋反応による架橋型シロキサンオリゴマーの生成を抑制して、インキ層の密着性を向上させうることを見出した。
【0060】
(1)活性光線硬化型カチオン重合性インキ中に、シランカップリング剤中のシラノール基と反応可能なヒドロキシル基含有オキセタン化合物を10〜50質量%を添加する。
【0061】
(2)シランカップリング剤の分子構造内にカチオン重合可能なエポキシ基を導入する。これにより、シランカップリング剤は、カチオン重合ポリマー鎖の一部となる。このため、シランカップリング剤同士が水素結合により近接した後、3次元架橋して架橋型シロキサンオリゴマーが生成するのを抑制することができる。
【0062】
(3)エポキシ含有シランカップリング剤の含有量をヒドロキシ基含有オキセタンの含有量よりも少ない0.5〜10質量%とするとともに、シランカップリング剤に導入したカチオン重合性の官能基をオキセタン環ではなくエポキシ基とする。一般的に、カチオン重合性モノマーであるエポキシ化合物は、硬化反応の開始は速いが、重合率はあまり大きくならない特性を有する。一方、カチオン重合モノマーであるオキセタン化合物は、硬化の開始は遅いが、反応の後半で硬化速度が速くなり、重合率が高くなる特性を有する。エポキシ化合物とオキセタン化合物のカチオン重合特性の違いは、それぞれが有する環状エーテルの環の歪と塩基性とから説明される。すなわち、環の歪はエポキシ基の方がオキセタン環よりも大きく、塩基性はオキセタン環の方がエポキシ基よりも大きい、という逆の特性を有する。
【0063】
上記(1)〜(3)により、カチオン重合ポリマーの重合開始点にエポキシ含有シランカップリング剤が導入されるものの、エポキシ基の特性からシランカップリング剤が連続してカチオン重合する可能性は極めて低くなる。これもシランカップリング剤同士が近接して架橋型シロキサンオリゴマーが生成するのを抑制すると考えられる。なお、エポキシ含有シランカップリング剤の添加量が10質量%超の場合、カチオン重合ポリマーの重合開始点に導入されなかったシランカップリング剤同士が、水素結合により近接して架橋型シロキサンオリゴマーを生成してインキ層の密着性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0064】
(オーバーコート層)
前述のように、本発明の印刷材は、インキ層の上にオーバーコート層をさらに有していてもよい。
【0065】
オーバーコート層を形成するためのオーバーコート塗料の種類は、特に限定されない。オーバーコート塗料の例には、有機溶剤型塗料、水系塗料、粉体塗料が含まれる。これらの塗料に用いられる樹脂成分の種類は、特に限定されない。樹脂成分の例には、アクリル樹脂系、ポリエステル系、アルキド樹脂系、シリコーン変性アクリル樹脂系、シリコーン変性ポリエステル系、シリコーン樹脂系、フッ素樹脂系が含まれる。これらの樹脂成分は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、オーバーコート塗料には、必要に応じてポリイソシアネート化合物、アミノ樹脂、エポキシ基含有化合物、カルボキシ基含有化合物などの架橋剤を配合してもよい。
【0066】
2.印刷材の製造方法
本発明に係る印刷材を製造する方法は、特に限定されない。たとえば、基材の表面に樹脂組成物を塗布し、乾燥(または硬化)させることで、インキ受理層を形成する。次いで、インキ受理層の表面に活性光線硬化型カチオン重合性インキをインクジェット印刷し、活性光線を照射して硬化させて、インキ層を形成する。また、必要に応じて、インキ層の表面にオーバーコート塗料を塗布し、乾燥(または硬化)させることで、オーバーコート層を形成する。以上の手順により、本発明に係る印刷材が製造されうる。なお、インキ受理層を形成する前に、基材の表面に化成処理皮膜および下塗り塗膜を形成してもよい。また、インキ受理層を形成した金属板を、エンボスロールを介して所望の形状に加工してもよい。
【0067】
基材の表面に化成処理皮膜を形成する場合、化成処理皮膜は、基材の表面に化成処理液を塗布し、乾燥させることで形成されうる。化成処理液の塗布方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法やカーテンフロー法、スピンコート法、エアースプレー法、エアーレススプレー法、浸漬引き上げ法などが含まれる。化成処理液の乾燥条件は、化成処理液の組成などに応じて適宜設定すればよい。たとえば、化成処理液を塗布した基材を水洗することなく乾燥オーブン内に投入し、到達板温が80〜250℃の範囲内となるように加熱することで、基材の表面に均一な化成処理皮膜を形成することができる。また、下塗り塗膜をさらに形成する場合、下塗り塗膜は、化成処理皮膜の表面に下塗り塗料を塗布し、乾燥させることで形成されうる。下塗り塗料の塗布方法は、化成処理液の塗布方法と同じ方法を使用することができる。下塗り塗膜の乾燥条件は、樹脂の種類などに応じて適宜設定すればよい。たとえば、到達板温が150〜250℃の範囲内となるように加熱することで、化成処理皮膜の表面に均一な下塗り塗膜を形成することができる。
【0068】
インキ受理層は、基材(または化成処理皮膜もしくは下塗り塗膜)の表面に、前述の樹脂組成物を塗布し、乾燥(または硬化)させることで形成される。樹脂組成物の塗布方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法やカーテンフロー法、スピンコート法、エアースプレー法、エアーレススプレー法、浸漬引き上げ法などが含まれる。樹脂組成物の乾燥条件は、特に限定されない。たとえば、樹脂組成物を塗布した基材を到達板温が150〜250℃の範囲内となるように乾燥させることで、基材(または化成処理皮膜もしくは下塗り塗膜)の表面にインキ受理層を形成することができる。
【0069】
このようなインキ樹脂層の表面には、JIS B 0601に準拠して測定した算術平均粗さRaが400〜3000nmの範囲内の凹凸を、ナノインプリント法や、ショットピーニング法などによって形成してもよい。また、マトリックスを形成するポリエステル樹脂組成物に、上述した粒径および配合量を適正に調整した顔料を配合して、インキ受理層の表面に凹凸を形成してもよい。
【0070】
インキ層は、インキ受理層の表面に、インクジェットプリンターを用いて、活性光線硬化型カチオン重合性インキをインクジェット印刷した後、積算光量が100〜800mJ/cmの範囲内となるように活性光線(例えば紫外線)を照射して、活性光線硬化型カチオン重合性インキを硬化させることで形成されうる。たとえば、紫外線の積算光量は、紫外線照度計・光量計(UV−351−25;株式会社オーク製作所)を用いて、測定波長域;240〜275nm、測定波長中心;254nmで測定することができる。
【0071】
オーバーコート層は、オーバーコート塗料をインキ層の表面に塗布し、乾燥(または硬化)させることで形成される。オーバーコート塗料の塗布方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法やカーテンフロー法、スピンコート法、エアースプレー法、エアーレススプレー法、浸漬引き上げ法などが含まれる。オーバーコート塗料の乾燥条件は、特に限定されない。たとえば、オーバーコート塗料を塗布した印刷材を到達板温が60〜150℃の範囲内となるように乾燥させることで、印刷材の表面にオーバーコート層を形成することができる。
【0072】
以上のように、本発明の印刷材は、エポキシ基含有シランカップリング剤およびヒドロキシル基含有オキセタン化合物を所定量含む活性光線硬化型カチオン重合性インキを用いて製造される。このとき、エポキシ基含有シランカップリング剤は、カチオン重合性化合物やヒドロキシル基含有オキセタン化合物などとシロキサン結合を形成してインキ層の耐候性を向上させる。また、ヒドロキシル基含有オキセタン化合物は、重合反応を進みやすくし、カチオン重合性化合物(シランカップリング剤)同士の重合反応を抑制するため、インキ層の密着性を向上させる。したがって、本発明の印刷材は、耐候性を有し、かつインキ受理層に対するインキ層の密着性に優れる。
【0073】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0074】
1.印刷材の作製
(1)基材
塗装原板として、板厚が0.27mm、片面当たりのめっき付着量が90g/mの溶融Zn−55%Al合金めっき鋼板を準備した。アルカリ脱脂した塗装原板の表面に塗布型クロメート処理液(NRC300NS;日本ペイント株式会社)を塗布し、全クロム換算付着量が50mg/mの化成処理皮膜を形成した。次いで、ポリエステル系プライマー塗料(700P;日本ファインコーティングス株式会社)を、バーコーターを用いて化成処理皮膜の上に塗布し、到達板温215℃で焼き付けて、乾燥膜厚5μmの下塗り塗膜を形成した。
【0075】
(2)インキ受理層
A.樹脂組成物1〜7の調製
インキ受理層を形成するための7種類の樹脂組成物を以下の方法により調製した。樹脂組成物1〜7は、ポリエステル(数平均分子量5000、ガラス転移温度30℃、水酸基価28mgKOH/g;DIC株式会社)と、架橋剤としてのメチル化メラミン樹脂(サイメル303;三井サイテック株式会社)とを70:30で混合して得られたベース樹脂に、さらに触媒、アミン、および顔料を配合することで調製した。触媒としては、ドデシルベンゼンスルフォン酸を樹脂固形分に対して1質量%添加した。また、アミンとしては、ジメチルアミノエタノールを、ドデシルベンゼンスルフォン酸の酸等量に対してアミン等量として1.25倍の量を加えた。顔料としては、平均粒径0.28μmの酸化チタン(JR−603;テイカ株式会社)、平均粒径5.5μmの疎水性シリカA(サイシリア456;富士シリシア化学株式会社)、平均粒径12μmの疎水性シリカB(サイリシア476;富士シリシア化学株式会社)、平均粒径10μmのマイカ(SJ−010;株式会社ヤマグチマイカ)、平均粒径18μmのアクリル樹脂ビーズ(タフチック AR650S;東洋紡株式会社)を使用した(表1の樹脂組成物No.1〜7を参照)。
【0076】
B.樹脂組成物8〜10の調製
インキ受理層を形成するための3種類の樹脂組成物を以下の方法により調製した。樹脂組成物8〜10は、ポリエステル(数平均分子量5000、ガラス転移温度30℃、水酸基価28mgKOH/g;DIC株式会社)と、架橋剤としてのブロックイソシアネート樹脂(コロネート2513;日本ウレタン工業株式会社)とを100:30で混合して得られたベース樹脂に、顔料を配合することで調製した。使用した顔料は、樹脂組成物1〜7と同じである(表1の樹脂組成物No.8〜10を参照)。
【0077】
C.インキ受理層の形成
前述の樹脂組成物1〜10を、バーコーターを用いて下塗り塗膜の上に塗布し、到達板温225℃で1分間焼き付けることで、18〜40μmの乾燥膜厚のインキ受理層を形成し、塗装材を製造した(表1参照)。インキ受理層の上にインキ層を試験的に形成し、インキ受理層およびインキ層の断面を100〜200倍の倍率で顕微鏡観察したところ、インキ受理層とインキ層との界面が明確に識別できたことから、インキ受理層が活性光線硬化型カチオン重合性インキに対して非浸透性であることを確認した。
【0078】
D.表面粗度の測定
インキ受理層の表面の算術平均粗さRaは、JIS B 0601に準拠して、触針式表面粗度計(Dektak150;アルバック・ファイ株式会社)を用いて測定した。算術平均粗さRaの測定は、触針圧:3mg、触針半径:2.5μm、走査距離:1mmの条件で、60秒間走査することで行った。なお、触針式表面粗度計の垂直方向分解能は、0.1nm/6.5μm、1nm/65.5μm、8nm/524μmであった。
【0079】
製造した塗装材、樹脂組成物の組成およびインキ受理層の算術平均粗さRaを表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
(3)インキ層
A.活性光線硬化型カチオン重合性インキの調製
ガラス瓶に、エポキシ化合物(CEL2021P、CEL3000; 株式会社ダイセル)合計10質量%、オキセタン化合物(OXT−221、OXT−212;東亜合成株式会社)合計8.5〜52.5質量%、エポキシ基含有シランカップリング剤(KBM−403;信越化学工業株式会社)0.2〜11.0質量%、ヒドロキシル基含有オキセタン化合物(OXT−101;東亜合成株式会社)8〜52質量%、黒色顔料(チャンネルブラック RCF♯33; 三菱化学株式会社)3.0質量部、顔料分散剤(PB822;味の素ファインテクノ株式会社)3.5質量%と、の混合物にジルコニアビーズ(直径1mm)200gを入れて密栓した。次いで、ペイントシェーカーで4時間分散処理した。分散処理後、ジルコニアビーズを除去して顔料分散体を調製した。顔料分散体に、光カチオン重合開始剤(CPI−100P; サンアプロ株式会社)を18質量%を混合して、活性光線硬化型カチオン重合性インキを調製した(表2の活性光線硬化物型カチオン重合性インキNo.1〜10を参照)。
【0082】
B.インクジェット印刷
インクジェット印刷は、ノズル径が35μmのインクジェットヘッドを使用した。また、インクジェット印刷時のヘッド加熱温度は45℃、印加電圧は11.5V、パルス幅は10.0μs、駆動周波数は3483Hz、インキ滴の体積は42pl、解像度は360dpiとした。
【0083】
C.紫外線照射
インクジェット印刷後の塗装材に対して、高圧水銀ランプ(Hバルブ;フュージョンUVシステムズ・ジャパン株式会社)を用いて、200W/cmのランプ出力で、積算光量:600mJ/cm(赤外線光量計UV−351−25;株式会社オーク製作所で測定)となるように、紫外線を照射した。
【0084】
【表2】
【0085】
2.インキ層の評価
(1)密着性の評価
塗装材の表面全体に活性光線硬化型カチオン重合性インキを、解像度360dpi、インキ塗布量:8.4g/m(インキ層が隙間なく形成されるべき量)となるように印刷した。そして、印刷材に対して、JIS K5600−5−6 G 330に準拠した碁盤目試験を実施した。具体的には、印刷材の表面に、1mm間隔で100個のマス目ができるように基盤目状の切り込みを入れ、当該部分にテープを貼り付けた。テープ剥離後、塗膜の残存率を観察した。塗膜の剥離面積が0%のものを「◎」と評価し、剥離面積が0%超であって10%以内であったものを「○」と評価し、剥離面積が10%超であって20%以内であったものを「△」と評価し、剥離面積が20%超のものを「×」と評価した。インキ層の密着性の評価が△以上であれば実用可能である。
【0086】
(2)濡れ拡がり性の評価
A.ドット径による濡れ拡がり性の評価
塗装材の表面に活性光線硬化型カチオン重合性インキを、42plで1ドット(解像度360dpi)印刷し、ドット径をマイクロスコープにて測定した。
【0087】
B.インキ層表面のL値よる濡れ拡がり性の評価
塗装材の表面全体に活性光線硬化型カチオン重合性インキを、解像度360dpi、インキ塗布量:8.4g/m(インキ層が隙間なく形成されるべき量)となるように印刷した。次いで、JIS K 5600に準拠して、印刷後の印刷材(インキ層)の中央部分のL値を測定した。活性光線硬化型カチオン重合性インキが濡れ広がると、活性光線硬化型カチオン重合性インキの隙間がなくなるため、L値が低くなる。一方、活性光線硬化型カチオン重合性インキの濡れ広がりが不十分であると、インキ受理層が露出するため、L値が高くなる。よって、L値が25以下の場合「◎」と評価し、L値が25超であって30未満の場合「○」と評価し、L値が30以上であって35未満の場合「△」と評価し、L値が35以上であって40未満の場合「×」、L値が40以上の場合を「××」と評価した。活性光線硬化型カチオン重合性インキの濡れ広がり性の評価が△以上であれば実用可能である。
【0088】
(3)耐傷付き性の評価
インキ層の耐傷付き性は、JIS K5600−5−4に準拠して、鉛筆を使用して印刷材表面のインキ層が傷付く鉛筆硬度により評価した。傷付き硬度H以上で実用可能と評価した。
【0089】
(4)耐候性の評価
インキ層の耐候性は、超促進耐候性試験機(KW−R5TP;ダイプラ・ウィンテス株式会社)を用いて下記の試験条件で試験を行い、試験後の印刷材の表面外観を観察することにより評価した。インキ層に剥離がなく、かつ試験前後の色差ΔEが5未満であるものを「○」と評価し、インキ層に剥離はないが試験前後のΔEが5以上であるものを「×」と評価し、インキ層が剥離したものを「××」と評価した。外観評価が「○」であれば実用可能である。
「試験条件」
・試験時間 600時間後
・UVカットフィルター KF−1
・ブラックパネル温度 63℃
・UV照射強度 750W/m
・降雨(純水噴霧)条件 2min/120min
・連続UV照射 (結露、暗黒設定なし)
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
【表5】
【0093】
(5)結果
表5に示されるように、エポキシ基含有シランカップリング剤の添加量が0.5質量%未満の活性光線硬化型カチオン重合性インキNo.7を用いた比較例1〜10の印刷材は、耐候性が低かった。また、当該印刷材の試験前後の色差ΔEは、5以上であった。一方、エポキシ基含有シランカップリング剤の添加量が11質量%と多い活性光線硬化型カチオン重合性インキNo.8を用いた比較例11〜20の印刷材は、インキ層の硬化収縮により、密着性が低かった。ヒドロキシル基含有オキセタン化合物の添加量が少ない活性光線硬化型カチオン重合性インキNo.9を用いた比較例21〜30の印刷材も同様に、密着性が低かった。また、ヒドロキシル基含有オキセタン化合物の添加量が52.0質量%と多い活性光線硬化型カチオン重合性インキNo.10を用いた比較例31〜40の印刷材は、耐傷付き性が低かった。これは、オキセタン化合物が、空気中の水を取り込みやすいためと推測された。
【0094】
一方、表3,4に示されるように、塗装材No.1〜5,8〜10、かつ活性光線硬化型カチオン重合性インキNo.1〜6を用いた印刷材は、活性光線硬化型カチオン重合性インキの1ドット径が96μm以上あり、十分な濡れ拡がり性を示した。また、この印刷材は、各ドット間の隙間がなくなるため、L値が30未満と良好な値を示し、かつ活性光線硬化型カチオン重合性インキの密着性も良好であった。特に、塗装材No.2〜4、かつ活性光線硬化型カチオン重合性インキNo.1,2,4〜6を用いた印刷材は、Raが500〜2000nmであるため、L値が25未満であり、優れた発色性を示した。
【0095】
一方、塗装材No.6、かつ活性光線硬化型カチオン重合性インキNo.1〜6を用いた印刷材は、Raが400nm未満であり、ドット径が80μm以下であった。この印刷材では、各ドットが単独で存在し、下地のインキ受理層が露出するため、L値が35以上と高くなったと考えられる。しかしながら、この印刷材に使用した活性光線硬化型カチオン重合性インキには、エポキシ基含有シランカップリング剤およびヒドロキシル基含有オキセタン化合物が所定量配合されているため、密着性および耐候性が良好であった。また、塗装材No.7、かつ活性光線硬化型カチオン重合性インキNo.1〜6を用いた印刷材は、Raが3000nm超であり、L値が30以上であった。これは、活性光線硬化型カチオン重合性インキがインキ受理層表面の深い溝に侵入することで色が薄くなったものと推測された。この場合も、この印刷材に使用した活性光線硬化型カチオン重合性インキには、エポキシ基含有シランカップリング剤およびヒドロキシル基含有オキセタン化合物が所定量配合されているため、密着性および耐候性が良好であった。また、塗装材No.1〜10、かつ活性光線硬化型カチオン重合性インキNo.1〜6を用いた印刷材は、鉛筆硬度がH以上であり、耐傷付き性が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の印刷材は、耐候性および耐傷付き性を有し、かつインキ受理層に対するインキ層の密着性に優れるため、例えば、建築物の内装材および外壁材として有用である。
【要約】
【課題】耐候性および耐傷付き性を有し、かつインキ受理層に対するインキ層の密着性に優れる印刷材を提供すること。
【解決手段】本発明の印刷材は、基材と、前記基材の上に配置され、樹脂組成物の硬化物であるインキ受理層と、前記インキ受理層の上に配置され、活性光線硬化型カチオン重合性インキの硬化物であるインキ層と、を有する。前記インキ受理層は、前記活性光線硬化型カチオン重合性インキに対して非浸透性を有する。また、前記活性光線硬化型カチオン重合性インキは、カチオン重合性化合物と、エポキシ基含有シランカップリング剤を0.5〜10.0質量%と、ヒドロキシル基含有オキセタン化合物を10〜50質量%と、光重合開始剤とを含む。
【選択図】図2
図1
図2