【実施例】
【0044】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はなんらこれらに制約されるものではない。なお、本実施例および比較例においては、下記メーカーの試薬および酵素を使用した。なお、界面活性剤の成分名は、各メーカーのカタログ記載名称を記載した。
【0045】
MES(株式会社同仁化学研究所)、水酸化ナトリウム(キシダ化学株式会社)、TOOS(株式会社同仁化学研究所)、4−アミノアンチピリン(和光純薬工業株式会社)、リンタングステン酸ナトリウム(キシダ化学株式会社)、デキストラン硫酸ナトリウム(分子量4000)(東京化成工業株式会社)、デキストラン硫酸ナトリウム(分子量36000〜5万)(和光純薬株式会社)、デキストラン硫酸ナトリウム(分子量50万)(和光純薬工業株式会社)、塩化マグネシウム(キシダ化学株式会社)、トリブチル−n−オクチルホスホニウムクロリド(東京化成工業株式会社)、トリブチルドデシルホスホニウムブロミド(東京化成工業株式会社)、トリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド(東京化成工業株式会社)、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムブロミド(東京化成工業株式会社)、コレステロールエステラーゼ(旭化成株式会社)、コレステロールオキシダーゼ(オリエンタル酵母工業株式会社)、ペルオキシダーゼ(東洋紡株式会社)、エマルゲンB−66(成分名 ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル;花王株式会社)、ウシ血清アルブミン(BSA;Sigma)、BLAUNON L−205(成分名 ポリオキシエチレンラウリルアミン;青木油脂工業株式会社)、BLAUNON S−207(成分名 ポリオキシエチレンステアリルアミン;青木油脂工業株式会社)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(東京化成工業株式会社)、3級ニッサンアミンBB(成分名 ジメチルラウリルアミン;日油株式会社)、ペグノール005(成分名 ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル;東邦化学工業株式会社)、エマルゲンA−60(成分名 ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル;花王株式会社)、ニューコール610(成分名 ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル;日本乳化剤株式会社)、ニューコール2600FB(成分名 ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル;日本乳化剤株式会社)、コール酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社)、エナジコールL−30AN(成分名 アラニネート;ライオン株式会社)、アンヒトール24B(成分名 ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン;花王株式会社)、エナジコールC−40H(成分名 イミダゾニウムベタイン;ライオン株式会社)。トリメチルヘキサデシルホスホニウムブロミド(CAS番号[71221−96−0])、トリエチルドデシルホスホニウムブロミド(CAS番号[21743−53−3])、トリエチルヘキサデシルホスホニウムクロリド(CAS番号[56155−08−9]については、Electrochemistry communications 9 2353−2358(2007)記載の方法に倣って合成した。
【0046】
(比較例1)従来法の特性の比較評価
超遠心分離法により調製したHDL画分、VLDL画分であって、生理食塩水を用いて両画分中のコレステロール濃度が50mg/dLとなるよう希釈した試料(以下、該試料について、HDL画分試料、VLDL画分試料ということがある)を用いて、従来法の特性を比較評価した。比較評価は、下記に示す第一試薬(以下、基礎第一試薬ということがある)に対して、ポリアニオンのみを添加した試薬(比較例1−1)、特許文献3に記載の化合物の組み合わせを添加した試薬(比較例1−2)、特許文献4に記載された化合物を添加した試薬(比較例1−3)、特許文献6に記載された化合物を添加した試薬(比較例1−4、比較例1−5)を用いて実施した。基礎第一試薬に添加した各成分名および濃度を表1に示した。第二試薬(以下、基礎第二試薬ということがある)は以下に示す組成の試薬を使用した。
【0047】
第一試薬(基礎第一試薬)
MES−NaOH緩衝液(pH6.5) 100 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.7 mmol/L
第二試薬(基礎第二試薬)
MES−NaOH緩衝液(pH6.5) 100 mmol/L
コレステロールエステラーゼ 1 単位/mL
コレステロールオキシダーゼ 1 単位/mL
ペルオキシダーゼ 5 単位/mL
TOOS 0.1 mmol/L
エマルゲンB−66 1.0 重量%
【0048】
【表1】
【0049】
測定は日立7170形自動分析機(株式会社日立ハイテクノロジーズ)を使用して行った。HDL画分試料またはVLDL画分試料2.4μLに各比較例の第一試薬240μLを添加し、約5分後、基礎第二試薬80μLをさらに添加した。基礎第二試薬添加直前と添加後5分後の吸光度を測定し、その差を求めた(2ポイント法)。吸光度測定は、主波長600nm、副波長700nmで行った。
【0050】
比較例1−1の第一試薬を用いて測定したHDL画分試料の吸光度を100とし、比較例1−2〜比較例1−5の第一試薬を用いて測定したHDL画分試料の相対吸光度(%)(各比較例のHDL画分試料の吸光度×100/比較例1−1のHDL画分試料の吸光度)を求めた。さらに、それぞれの第一試薬での測定について、HDL画分試料の吸光度に対するVLDL画分試料の相対吸光度(%)(同一比較例中の、VLDL画分試料の吸光度×100/HDL画分試料の吸光度)を計算した。HDL画分試料の相対吸光度が大きく、かつVLDL画分試料/HDL画分試料の相対吸光度が小さい条件が、本発明の課題達成に求められる条件、すなわち、コレステロール測定用酵素とHDL−Cとの反応性を維持したまま、コレステロール測定用酵素とVLDL−Cとの反応性を低下せしめる条件である。結果を表2に示した。
【0051】
【表2】
【0052】
先ず、HDL画分試料の相対吸光度(%)は、各比較例の第一試薬のHDL画分との反応性の相対的な強さを表す。従って数値が100より小さい場合には、比較例1−1と比較してHDL画分に対する反応性が低下していることを示す。次に、VLDL画分試料/HDL画分試料の相対吸光度(%)は、HDL画分試料とVLDL画分試料のコレステロール濃度が同一であることより、両画分に対する反応性の差を反映する。数値が100であれば、HDL画分とVLDL画分に対する反応性が等しいことを示し、数値が小さいほどVLDL画分との反応性が低いことを示す。比較例1−1のHDL画分試料に対するVLDL画分試料の相対吸光度は19.1%であり、HDL画分に対してVLDL画分の反応性を抑制可能な条件の一つであるといえる。比較例1−2(特許文献3)は、基礎第一試薬に2価金属塩をさらに共存させた試薬による試験条件であるが、比較例1−1に対してHDL画分に対する反応性を維持したまま、VLDL画分に対する反応性をさらに低下させることができる。しかし、2価金属塩(特にマグネシウム塩)は自動分析装置の流路洗浄剤であるアルカリ性洗浄液と混合されると、水難溶性の水酸化塩(水酸化マグネシウム)を形成して、流路のつまりをひきおこすなど、装置の保守管理の点で重大な問題を有しており、従来技術の課題としても認識されている。比較例1−3(特許文献4)では、ポリアニオンを単独で使用する比較例1−1と比較してVLDL画分の反応性がやや低下しているが、マグネシウムイオンを使用した比較例1−2ほどには抑制できていない。また比較例1−4、1−5(特許文献6)では、VLDL画分の反応性を抑制できていない(特に比較例1−5)ばかりか、HDL画分との反応性まで低下していることがわかる。
【0053】
(実施例1)課題解決に効果的な化合物のスクリーニング
超遠心分離法により調製したHDL画分、VLDL画分であって、生理食塩水を用いて両画分中のコレステロール濃度が50mg/dLとなるよう希釈した試料(以下、該試料について、HDL画分試料、VLDL画分試料ということがある)を用いて、コレステロール測定用酵素とVLDL画分との反応性を低下せしめる化合物のスクリーニングを実施した。スクリーニング用の試薬は、比較例1記載の基礎第一試薬に対して、ポリアニオン、各種ホスホニウム塩化合物、BSAを表3に示す濃度となるよう添加した試薬(実施例1−1〜実施例1−16)を使用した。第二試薬は、比較例1記載の基礎第二試薬を使用した。
【0054】
【表3】
【0055】
但し、表中、PTAはリンタングステン酸ナトリウムを示し、0.04重量%で使用した。DSはデキストラン硫酸ナトリウムを示し、0.05重量%で使用した。また、ホスホニウム塩化合物は、P
111(16)はトリメチルヘキサデシルホスホニウムブロミド、P
222(12)はトリエチルドデシルホスホニウムブロミド、P
222(16)はトリエチルヘキサデシルホスホニウムクロリド、P
4448はトリブチル−n−オクチルホスホニウムクロリド、P
444(12)はトリブチルドデシルホスホニウムブロミド、P
444(16)はトリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド、P
666(14)はトリヘキシルテトラデシルホスホニウムブロミドを示す。濃度はいずれも第一試薬中の濃度を示す。
【0056】
測定および結果の解析は、比較例1と同様に実施した。すなわち、比較例1−1の第一試薬を使用して測定したHDL画分試料の吸光度を100とし、各実施例の第一試薬を使用して測定したHDL画分試料の相対吸光度(%)を求めた。さらに、それぞれの第一試薬を使用する測定において、HDL画分試料の吸光度に対するVLDL画分試料の相対吸光度(%)を計算した。結果を表4に示した。
【0057】
【表4】
【0058】
表4より、本発明のホスホニウム塩化合物を含有する第一試薬は、表3に示した実施例1−1〜実施例1−16のいずれにおいても、コレステロール測定用酵素とHDL画分との反応性を維持したまま、VLDL画分との反応性を抑制できていることがわかる。そして、その反応性抑制の程度は、比較例1−2のマグネシウムイオンを使用した場合と比較して、同程度以上である。本発明のホスホニウム塩化合物を含有する第一試薬は、自動分析装置のアルカリ性洗浄液と混合されても水難溶性の物質を生じないため、比較例1−2の第一試薬を使用する場合に対して、極めて有用な手段であるといえる。また、比較例1−3〜比較例1−5と比較しても、VLDL画分への反応性抑制は本発明のホスホニウム塩化合物を含有する第一試薬の方が優れていることがわかる。
このような効果は、トリメチルヘキサデシルホスホニウムブロミド、トリエチルドデシルホスホニウムブロミド、トリエチルヘキサデシルホスホニウムクロリド、トリブチル−n−オクチルホスホニウムクロリド、トリブチルドデシルホスホニウムブロミド、トリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムブロミドのいずれを用いた場合においても認められる。また、その効果は、併用されるポリアニオンの種類に依存するものではなく、リンタングステン酸ナトリウムであってもデキストラン硫酸であっても同様の効果を示す(実施例1−2と、実施例1−3、1−4、1−5とを比較、または実施例1−10と、実施例1−11、1−12とを比較)。さらにデキストラン硫酸を使用する場合は、その分子量に因らず、目的の効果を得ることができる(実施例1−3〜1−5を比較)。またBSAの有無に因っても効果は変動しない(実施例1−9と1−10を比較)。
【0059】
(実施例2)本発明のホスホニウム塩化合物を添加した第一試薬による血清検体のHDLコレステロール測定値と、簡易DCMによるHDLコレステロール測定値の相関
ポリアニオンとしてリンタングステン酸ナトリウムを用い、本発明のホスホニウム塩化合物を含む第一試薬(試薬A、B、C、D、E、F、G、H、I)を、以下の通り調製した。
【0060】
第一試薬(試薬A)
MES−NaOH緩衝液(pH6.5) 100 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.7 mmol/L
デキストラン硫酸ナトリウム(分子量4000) 0.05 重量%
トリメチルヘキサデシルホスホニウムブロミド 0.1 mmol/L
BSA 1.0 重量%
【0061】
第一試薬(試薬B)
MES−NaOH緩衝液(pH6.5) 100 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.7 mmol/L
リンタングステン酸ナトリウム 0.04 重量%
トリエチルドデシルホスホニウムブロミド 0.2 mmol/L
BSA 1.0 重量%
【0062】
第一試薬(試薬C)
MES−NaOH緩衝液(pH6.5) 100 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.7 mmol/L
デキストラン硫酸ナトリウム(分子量4000) 0.05 重量%
トリエチルドデシルホスホニウムブロミド 0.2 mmol/L
BSA 1.0 重量%
【0063】
第一試薬(試薬D)
MES−NaOH緩衝液(pH6.5) 100 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.7 mmol/L
デキストラン硫酸ナトリウム(分子量4000) 0.05 重量%
トリエチルヘキサデシルホスホニウムクロリド 0.1 mmol/L
BSA 1.0 重量%
【0064】
第一試薬(試薬E)
MES−NaOH緩衝液(pH6.5) 100 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.7 mmol/L
リンタングステン酸ナトリウム 0.04 重量%
トリブチル−n−オクチルホスホニウムクロリド 0.8 mmol/L
BSA 1.0 重量%
【0065】
第一試薬(試薬F)
MES−NaOH緩衝液(pH6.5) 100 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.7 mmol/L
リンタングステン酸ナトリウム 0.04 重量%
トリブチルドデシルホスホニウムブロミド 0.1 mmol/L
BSA 1.0 重量%
【0066】
第一試薬(試薬G)
MES−NaOH緩衝液(pH6.5) 100 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.7 mmol/L
リンタングステン酸ナトリウム 0.04 重量%
トリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド 0.05 mmol/L
BSA 1.0 重量%
【0067】
第一試薬(試薬H)
MES−NaOH緩衝液(pH6.5) 100 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.7 mmol/L
リンタングステン酸ナトリウム 0.04 重量%
トリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド 0.045 mmol/L
BLAUNON S−207(特許文献4) 0.045 mmol/L
BSA 1.0 重量%
【0068】
第一試薬(試薬I)
MES−NaOH緩衝液(pH6.5) 100 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.7 mmol/L
リンタングステン酸ナトリウム 0.04 重量%
トリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド 0.045 mmol/L
3級ニッサンアミンBB (特許文献6) 0.045 mmol/L
BSA 1.0 重量%
【0069】
試薬A〜試薬Iの第一試薬および比較例1記載の基礎第二試薬からなるHDLコレステロール測定用試薬を用いて、ヒト血清90検体中のHDLコレステロール濃度を測定した。ヒト血清中のHDLコレステロール濃度の真値は、DCM(非特許文献3)を用いて測定した。DCMによる測定値をX、各実施例の値をYとし、相関係数、回帰式を比較した。結果を表5に示した。なお、本実施例で使用したヒト血清90検体の脂質項目の測定値分布は、総コレステロール(T−CHO)49〜289mg/dL、HDLコレステロール(HDL−C)19〜112mg/dL、LDLコレステロール(LDL−C)24〜196mg/dL、遊離コレステロール(F−CHO)12〜84mg/dL、トリグリセリド(TG)20〜351mg/dLであり、一部に参考基準値を外れる検体を含むものの、概ね正常な検体から構成される検体群といえる。なお、T−CHOはコレステスト(登録商標)CHO、HDL−Cはコレステスト(登録商標)N HDL、LDL−Cはコレステスト(登録商標)LDL、F−CHOはピュアオート(登録商標)S F−CHO−N、TGはコレステスト(登録商標)TG(いずれも積水メディカル株式会社)を用いて測定した。またTGが200mg/dL以上である検体は、生理食塩水で2倍希釈した上でDCMに供した。
【0070】
上記DCMの具体的な手順は以下である。DCM分画液には、以下の試薬を用いた。デキストラン硫酸ナトリウム(Dextralip50、Sigma)、塩化マグネシウム6水和物(キシダ化学株式会社)、アジ化ナトリウム(キシダ化学株式会社)。測定手順を以下に記す。
(1)分画液の調製
試薬a
デキストラン硫酸ナトリウム 20 g/L
アジ化ナトリウム 0.5 g/L
試薬b
塩化マグネシウム 0.7 mol/L
アジ化ナトリウム 0.5 g/L
を調製し、両者を等量ずつ混合した。
(2)血清試料と上記(1)で調製した分画液を、体積比10:1で混合し、ボルテックスミキサーにより混合した。
(3)室温で10〜30分静置後、1500G、4℃、30分遠心した。
(4)上清を回収し、総コレステロール含量を、コレステスト(登録商標)CHO(積水メディカル株式会社)を用いて測定した。血清試料は分画液により1.1倍に希釈されているため、得られた測定値を1.1倍して、血清試料中のHDLコレステロール値とした。
【0071】
【表5】
【0072】
(比較例2)従来法の第一試薬による測定値と、DCMによる測定値の相関
従来法の第一試薬として、以下の第一試薬(試薬J、K、L、M、N)を調製した。
【0073】
第一試薬(試薬J)
MES−NaOH緩衝液(pH6.5) 100 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.7 mmol/L
リンタングステン酸ナトリウム 0.04 重量%
【0074】
第一試薬(試薬K)
MES−NaOH緩衝液(pH6.5) 100 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.7 mmol/L
リンタングステン酸ナトリウム 0.04 重量%
塩化マグネシウム 8 mmol/L
【0075】
第一試薬(試薬L)
MES−NaOH緩衝液(pH6.5) 100 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.7 mmol/L
デキストラン硫酸ナトリウム(分子量50万) 0.1 重量%
BLAUNON L−205 0.007 重量%
BSA 0.2 重量%
【0076】
第一試薬(試薬M)
MES−NaOH緩衝液(pH6.5) 100 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.7 mmol/L
デキストラン硫酸ナトリウム(分子量50万) 0.1 重量%
セチルトリメチルアンモニウムブロミド 0.002 重量%
BSA 1.0 重量%
【0077】
第一試薬(試薬N)
MES−NaOH緩衝液(pH6.5) 100 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.7 mmol/L
リンタングステン酸ナトリウム 0.04 重量%
セチルトリメチルアンモニウムブロミド 0.002 重量%
BSA 1.0 重量%
【0078】
試薬J〜試薬Nの第一試薬および比較例1記載の基礎第二試薬からなるHDLコレステロール測定用試薬を用いて、実施例2と同一のヒト血清90検体中のHDLコレステロール濃度を測定した。DCMによる測定値をX、各実施例の値をYとし、相関係数、回帰式を比較した。結果を表6に示した。
【0079】
【表6】
【0080】
実施例2から、本発明品のホスホニウム塩とポリアニオンとを含有する第一試薬を用いた測定では、DCMとの良好な相関関係が認められることがわかった。試薬A〜試薬Iのいずれの第一試薬においても、相関は、ホスホニウム塩を含まない試薬Jと比べると明らかに有意であり、特許文献3記載の2価金属を用いる方法(試薬K)、特許文献4記載のポリオキシエチレンラウリルアミンを用いる方法(試薬L)、特許文献6記載のセチルトリメチルアンモニウムブロミドを用いる方法(試薬Mおよび試薬N)と比べても、概ね正常である検体群を測定した場合のDCMとの相関は、同等もしくは改善していることがわかった。
【0081】
(実施例3)異常検体の測定
試薬E〜試薬Iの第一試薬および比較例1記載の第二試薬からなるHDLコレステロール測定用試薬を用いて、表7に示すヒト血清検体中のHDLコレステロール濃度を測定した。なお、表7に示された各検体の脂質濃度は、実施例2記載の各脂質測定用試薬を用いて測定した。HDLコレステロール値は、以下のように算出した。まず血清1.0mLに対し、密度1.006の食塩水を重層し、26000Gで30分遠心した。続いて重層した食塩水と同体積量を上層より除去し、浮上したカイロミクロン層を除去した。このようにして得られたサンプルに対し、DCMを適応して測定した。DCMによる測定値、ならびに各試薬を用いた場合の測定値を表8に示した。
【0082】
【表7】
【0083】
【表8】
【0084】
(比較例3)
試薬J〜試薬Nの第一試薬および比較例1記載の基礎第二試薬からなるHDLコレステロール測定用試薬を用いて、表7に示すヒト血清検体中のHDLコレステロール濃度を測定した。DCMによる測定値、ならびに各試薬を用いた場合の測定値を表9に示した。
【0085】
【表9】
【0086】
表7に示す、トリグリセリドが異常高値であって、総コレステロール、およびLDLコレステロールが概ね正常値であるIV型高脂血症様の検体を比較例に示した試薬J〜試薬Nを用いて測定した場合、表9に示すように、DCM値に対して大きく乖離した。一方、本発明のホスホニウム塩およびポリアニオンを含有する試薬E〜試薬Iを用いて表7に示す検体を測定した場合において
は、DCM値に対して良く一致する値を示した。これは、総コレステロール、およびLDLコレステロールが概ね正常値であり、カイロミクロンやVLDLが多く含まれる検体において、従来の方法では、カイロミクロンやVLDLを適切に処理させることができなかったのに対し、本発明のホスホニウム塩をポリアニオンと併用した場合には、カイロミクロンやVLDLをより確実に処理することができたため、測定精度が向上したと考えられる。
【0087】
(実施例4)界面活性剤との組み合わせ
界面活性剤の種類について試験した。
超遠心分離法により調製したHDL画分、VLDL画分であって、生理食塩水を用いて両画分中のコレステロール濃度が50mg/dLとなるよう希釈した試料(以下、該試料について、HDL画分試料、VLDL画分試料ということがある)を用いて、第二試薬中に添加する界面活性剤の種類を変動させた際の影響を検証した。第二試薬は、比較例1に記載した基礎第二試薬において、エマルゲンB−66を添加する替わりに、表10に示す界面活性剤を添加した試薬を使用した。第一試薬は、従来法として比較例2の試薬Jを、基準となる本発明のホスホニウム塩化合物を添加した試薬として、トリブチルドデシルホスホニウムブロミドを含む実施例2の試薬Fを使用した。
【0088】
第二試薬
MES−NaOH緩衝液(pH6.5) 100 mmol/L
コレステロールエステラーゼ 1 単位/mL
コレステロールオキシダーゼ 1 単位/mL
ペルオキシダーゼ 5 単位/mL
TOOS 0.1 mmol/L
各種界面活性剤 表10に示す濃度
【0089】
【表10】
【0090】
第一試薬として試薬Jを用いて測定したHDL画分試料の吸光度を100とし、第一試薬として本発明のホスホニウム塩化合物が添加された試薬Fを用いて測定したHDL画分試料の相対吸光度(%)を、実施例3−1から実施例3−8のそれぞれの第二試薬を使用した試験について算出した。さらに、それぞれの測定において、HDL画分試料の吸光度に対するVLDL画分試料の相対吸光度(%)を計算した。HDL画分試料の相対吸光度が大きく、かつVLDL画分試料/HDL画分試料の相対吸光度が小さい条件が、課題達成に求められる条件、すなわち、コレステロール測定用酵素とHDLとの反応性を維持したまま、コレステロール測定用酵素とVLDLとの反応性を低下せしめる条件である。結果を表11に示した。
【0091】
【表11】
【0092】
同一の界面活性剤を添加した第二試薬どうしで、第一試薬における本発明のホスホニウム塩化合物の添加効果を比較した。非イオン性界面活性剤である、ペグノール005(実施例3−1)、エマルゲンA−60(実施例3−2)、ニューコール610(実施例3−3)、ニューコール2600FB(実施例3−4)を含む第二試薬を用いた場合、エマルゲンB−66を使用した場合(実施例2)と同様に、本発明のホスホニウム塩化合物をポリアニオンと共に第一試薬に添加することで、コレステロール測定用酵素のHDL画分への反応性を概ね維持したまま、VLDL画分試料/HDL画分試料の相対吸光度が低下する、すなわちコレステロール測定用酵素のVLDL画分への反応性を抑制する、目的の反応が認められた。陰イオン性界面活性剤であるエナジコールL−30AN(実施例3−5)、コール酸ナトリウム(実施例3−6)を使用した場合、第一試薬を試薬JとしてHDL画分試料を測定したところ、所定の反応時間内に吸光度の増加が飽和せず発色反応が終了しなかった(データ示さず)。しかし、第一試薬を本発明の試薬Fとした場合、HDL画分との反応性が改善され、試薬F/試薬JのHDL画分の吸光度比は100%を超えた値となった。また、第一試薬として試薬Jを用いた場合のコレステロール測定用酵素とVLDL画分との反応性は、エナジコールL−30ANを用いた場合はHDL画分と同程度(108.2%)、コール酸ナトリウムを用いた場合のVLDL画分との反応性はHDL画分の6倍(635.5%)も高いものであった。しかし、本発明の試薬Fを第一試薬として用いた場合、いずれの界面活性剤においてもVLDL画分の反応性は大幅に抑制され、VLDL画分試料/HDL画分試料の吸光度比は小さく(12.5%、3.4%)なった。
両イオン性界面活性剤であるアンヒトール24B(実施例3−7)、エナジコールC−40H(実施例3−8)を使用した場合においても、陰イオン界面活性剤を使用した場合と同様の現象が認められた。すなわち、本発明のホスホニウム塩化合物をポリアニオンと共に第一試薬に添加することで、HDL画分への反応性を概ね維持(108.7%、105.0%)したまま、VLDL画分試料/HDL画分試料の相対吸光度が低下した(102%→45.9%、171.7%→7.1%)。
以上より、本発明のホスホニウム塩化合物とポリアニオンをリポ蛋白
と共存させてLDLおよびVLDLを処理する方法におけるコレステロール測定用酵素とVLDLの反応性を抑制する効果は、HDLを可溶化するために使用されるいずれの界面活性剤の共存下でもその効果を得られることが実証された。