特許第5695875号(P5695875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5695875複合粒子、複合粒子の製造方法、複合粒子内添紙及び塗工紙
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5695875
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】複合粒子、複合粒子の製造方法、複合粒子内添紙及び塗工紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 17/68 20060101AFI20150319BHJP
   D21H 19/40 20060101ALI20150319BHJP
   C01F 11/18 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   D21H17/68
   D21H19/40
   C01F11/18 H
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2010-229549(P2010-229549)
(22)【出願日】2010年10月12日
(65)【公開番号】特開2012-82549(P2012-82549A)
(43)【公開日】2012年4月26日
【審査請求日】2013年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100155527
【弁理士】
【氏名又は名称】奥谷 優
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100150027
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 早苗
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100133651
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 慶子
(72)【発明者】
【氏名】大角 博之
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 裕紀
【審査官】 中尾 奈穂子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−270206(JP,A)
【文献】 特開昭60−072963(JP,A)
【文献】 特開2006−088636(JP,A)
【文献】 特開2008−115517(JP,A)
【文献】 特開2007−270402(JP,A)
【文献】 特開2003−049389(JP,A)
【文献】 特開2012−177215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00− 1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00− 9/00
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00− 7/00
C01F 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウム粒子の表面の少なくとも一部がシリカで被覆されてなる複合粒子であって、
上記炭酸カルシウムとして平均粒子径0.5μm以上3μm以下の重質炭酸カルシウムが用いられ、
シリカ被覆後の平均粒子径が2μm以上15μm以下であり、0.021μmから2,000μmの範囲を132対数分割して測定した粒度分布において最頻値を占める粒子の頻度割合が3%以上12%以下であることを特徴とする複合粒子。
【請求項2】
シリカの含有率が2質量%以上30質量%以下である請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
炭酸カルシウム粒子をケイ酸アルカリ水溶液中に懸濁させて懸濁液を得る懸濁工程と、
この懸濁液に鉱酸を添加し、炭酸カルシウム粒子の表面にシリカを析出させ被覆して炭酸カルシウム粒子を凝集させる凝集工程と
を有する複合粒子の製造方法であって、
上記炭酸カルシウムとして平均粒子径0.5μm以上3μm以下の重質炭酸カルシウムが用いられ、
上記複合粒子の平均粒子径が2μm以上15μm以下であり、0.021μmから2,000μmの範囲を132対数分割して測定した上記複合粒子の粒度分布において最頻値を占める粒子の頻度割合が3%以上12%以下であることを特徴とする複合粒子の製造方法。
【請求項4】
上記凝集工程における懸濁液の温度が60℃以上100℃以下であり、
上記複合粒子のシリカ含有率が2質量%以上30質量%以下となる範囲で上記鉱酸を添加する請求項に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の複合粒子が内添された複合粒子内添紙。
【請求項6】
基紙と、この基紙の少なくとも一方の面に形成される1層又は複数層の塗工層とを有する塗工紙であって、
上記塗工層が請求項1又は請求項2に記載の複合粒子を含有することを特徴とする塗工紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合粒子、複合粒子の製造方法、複合粒子内添紙及び塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源問題及び経費削減の観点から紙は軽量化される傾向にある。しかしながら、例えば印刷用紙を軽量化した場合、紙に印刷した時の不透明度が低下し、印刷された文字や写真等が紙の反対側から透き通って見えるという不都合が生じる。この対策として紙に種々の填料を内添し、印刷した際インク中の油成分の浸透を抑制し、紙の印刷後不透明度を高めるということが一般に行われている。この印刷後不透明度を向上させる目的のために無機系又は有機系の各種填料の研究が行われており、より安価で且つ優れた印刷後不透明度向上効果を持つ填料の開発への要求が年々高まっている。また、最近では、軽量化される傾向がさらに強いため、上記印刷後不透明度を向上させる能力に加えて、白紙自体の不透明度を向上させる能力を兼ね備えた填料の出現が強く望まれている。
【0003】
このような填料としては、カオリン、タルク、二酸化チタン、水和ケイ酸(ホワイトカーボン)、尿素−ホルマリンポリマー微粒子などが用いられている。カオリン及びタルクは不透明度向上に効果があり且つ安価ではあるが、吸油能が小さいため印刷後の不透明度の向上は大きくない。二酸化チタンは光散乱能が高いので不透明度の向上には有効であるが、高価であるばかりでなく吸油能が小さいという欠点を有しており、また、粒子径が小さくパルプに添加して抄紙機で抄紙する際の歩留りが高くない。尿素−ホルマリンポリマー微粒子は光散乱能や、吸油能が高く、印刷後不透明度の向上に優れているが、高価であり経済性の点で満足できるものではない。水和ケイ酸は印刷後不透明度を付与する効果はあるが、白紙不透明度に対する効果を含めて十分満足すべき水準に到達していないのが現状である。
【0004】
このような中、上記各填料の有する不都合を克服すべく様々な填料の複合化、特に吸油能に優れ、コスト的に有利な水和ケイ酸をベースとした複合化が試みられている。例えば出願人は再資源化にて得られた再生粒子にシリカを複合させた複合粒子を開発している(特開2008−81390号公報参照)。また、従来から製紙用の填料や顔料に用いられてきた無機微粒子にシリカを複合させた複合無機粒子を填料として用いた嵩高紙の開発や(特開2003−49389号公報参照)、軽質炭酸カルシウムを特定し、シリカを複合させることで、軽質炭酸カルシウム由来の高い比散乱係数(高不透明性)という性状と、シリカ由来の高吸油量及び嵩高という性状を併せ持ち、更に、製紙工程中のカレンダー処理やスーパーカレンダー処理を受けても潰れ難いという性状を有する紙用の填料や顔料として使用できる軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物を提供する技術が提案されている(特開2005−219945号公報参照)。
【0005】
一方、重質炭酸カルシウムは、低廉であるものの、粒度分布が広く、不定形であり、表面に多数のナイフエッジを有し、かつ硬度が高い。従って、重質炭酸カルシウムを填料として用いても、歩留まりや不透明度向上効果が低く、ワイヤー磨耗度が高いため、重質炭酸カルシウムは塗工用顔料等の一定用途に限定的に用いられているのみである。また、上述の各複合粒子は、いずれも一次粒子の粒径が一定範囲に定まっているものが用いられていることなどにより、複合化における粒径等の制御がしやすいものである。そのため、これらの複合化技術を、粒度分布が広くかつ不定形である重質炭酸カルシウムへそのまま活用することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−81390号公報
【特許文献2】特開2003−49389号公報
【特許文献3】特開2005−219945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、粒度分布が広くかつ不定形である粒子を用いた場合にも歩留りや不透明度向上効果が高く、かつワイヤー磨耗度が低い複合粒子を提供することを目的とする。加えて、このような複合粒子の製造方法、この複合粒子が内添された複合粒子内添紙、及びこの複合粒子を塗工層に含む塗工紙を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、
炭酸カルシウム粒子の表面の少なくとも一部がシリカで被覆されてなる複合粒子であって、
平均粒子径が2μm以上15μm以下であり、
0.021μmから2,000μmの範囲を132対数分割して測定した粒度分布において最頻値を占める粒子の頻度割合が3%以上12%以下であることを特徴とする。
【0009】
当該複合粒子は、上記粒度分布において最頻値を占める粒子の頻度割合が3%以上12%以下であることで、粒径のばらつきが大きい炭酸カルシウム粒子を用いた場合にも、シリカの被覆により粒径のばらつきが小さい状態としている。すなわち、このような粒度分布の広い炭酸カルシウム粒子のうち、粒径の小さいものはシリカの被覆と共に複数の粒子の凝集が進んでいる一方、粒径の大きいものはシリカの被覆のみで、凝集がほとんど生じていない状態に制御されている。
【0010】
このような粒子の集合体である当該複合粒子によれば、粒径の小さい粒子が少ないため抄紙の際に繊維間に留まりやすく、歩留りが向上する。また、当該複合粒子によれば、元々粒径が大きく角張っていた粒子の表面がシリカで被覆されているためワイヤー磨耗度を下げることができる。また、当該複合粒子によれば、粒度分布が広い、すなわち様々な粒子径の炭酸カルシウム粒子の集合体からなることで光の散乱性が高く、不透明度を高めることができる。さらに当該複合粒子は、シリカの表面への析出により多孔質形状となっており、吸油度が高く、印刷後不透明度を高めることができる。
【0011】
シリカの含有率が2質量%以上30質量%以下であるとよい。シリカの含有率をこのような範囲とすることで、粒径の小さい炭酸カルシウム粒子に対しては、複数の粒子が凝集するほど十分な表面へのシリカ析出量となり、粒径の大きい炭酸カルシウム粒子に対しては、表面、特に析出しやすい先端部分へのシリカ析出に留まりやすく、他の粒子との凝集が生じるほどの被覆が生じにくくなる。従って、当該複合粒子によれば、粒度分布の広い炭酸カルシウム粒子をこのような量のシリカで被覆することで、粒度分布の狭い凝集体状態に制御されやすくなる。
【0012】
上記炭酸カルシウム粒子が重質炭酸カルシウムであるとよい。当該複合粒子によれば、粒度分布が広く、不定形であり、かつ表面に多数のナイフエッジを有する重質炭酸カルシウムの粒子を用いることにより、粒径の小さい炭酸カルシウム粒子に対しては、複数の粒子が凝集するほど十分な表面へのシリカ析出量となり、粒径の大きい炭酸カルシウム粒子に対しては、表面、特に析出しやすい先端部分へのシリカ析出に留まりやすく、他の粒子との凝集が生じるほどの被覆が生じにくくなる効果が顕著であり、得られる凝集体は光の散乱性が高く、不透明度を高めることができる。さらに当該複合粒子は、シリカの表面への析出により多孔質形状となっており、粒子密度が高い重質炭酸カルシウムを用いながら吸油度が高く、印刷後不透明度を高めることができ、上述のように歩留りや不透明度向上効果等が高く、かつワイヤー磨耗度を低減させることができる。
【0013】
本発明の複合粒子の製造方法は、
炭酸カルシウム粒子をケイ酸アルカリ水溶液中に懸濁させて懸濁液を得る懸濁工程と、
この懸濁液に鉱酸を添加し、炭酸カルシウム粒子の表面にシリカを析出させて炭酸カルシウム粒子を凝集させる凝集工程と
を有する複合粒子の製造方法であって、
上記複合粒子の平均粒子径が2μm以上15μm以下であり、
0.021μmから2,000μmの範囲を132対数分割して測定した上記複合粒子の粒度分布において最頻値を占める粒子の頻度割合が3%以上12%以下であることを特徴とする。
【0014】
当該複合粒子の製造方法によれば、凝集工程において、炭酸カルシウム粒子のうち、粒径の小さいものはシリカの被覆と共に複数の粒子の凝集が進む一方、粒径の大きいものはシリカの被覆のみで、凝集がほとんど生じていない状態となり、粒度分布の広い炭酸カルシウム粒子を粒度分布幅の狭い複合粒子とすることができる。従って、当該製造方法によれば、歩留り及び不透明度が高く、かつ、ワイヤー磨耗度が低い複合粒子を得ることができる。
【0015】
上記凝集工程における懸濁液の温度が60℃以上100℃以下であり、上記複合粒子のシリカ含有率が2質量%以上30質量%以下となる範囲で上記鉱酸を添加するとよい。このような温度及び鉱酸添加量に制御すること、更に好適には鉱酸を添加後の反応保持時間を60〜120分保つことで、例えば元来シリカ被覆し難い粒度分布が広く、不定形であり、かつ表面に多数のナイフエッジを有する重質炭酸カルシウムの粒子を用いることによっても、上述の粒度分布の狭い複合粒子を効率的に得ることができる。
【0016】
上記炭酸カルシウム粒子が重質炭酸カルシウムであるとよい。炭酸カルシウム粒子として粒度分布が広く、不定形であり、かつ表面に多数のナイフエッジを有する重質炭酸カルシウムの粒子を用いることで、炭酸カルシウム粒子の粒度分布が広く、また、凝集工程において、望ましい凝集をより効率的に行うことができる効果を顕著に得ることができる。
【0017】
本発明の複合粒子内添紙は、上記複合粒子が内添されたものである。当該複合粒子内添紙によれば、上記複合粒子が内添されているため、この填料としての複合粒子の歩留りが高く、不透明度や印刷不透明度を高めることができると共に、製紙の際、ワイヤーの磨耗を抑えることができる。
【0018】
本発明の塗工紙は、基紙と、この基紙の少なくとも一方の面に形成される1層又は複数層の塗工層とを有する塗工紙であって、上記塗工層が上記複合粒子を含有することを特徴とする。当該塗工紙によれば、上記複合粒子を顔料として塗工層に用いているため、不透明度及び印刷後不透明度に優れる。また、重質炭酸カルシウム等をシリカで被覆していることでブレードの磨耗を低減しブレードの延命が図れると共に、上記複合粒子を塗工用顔料として用いた損紙や古紙を再生して原料パルプに用いても、古紙由来の無機粒子によるワイヤーの磨耗を抑えることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の複合粒子によれば、填料として用いることで歩留まりが高く、填料又は塗工紙における顔料として用いることで紙の不透明度及び印刷後不透明度を高めることができ、また、ワイヤー磨耗度を抑えることができる。特に、粒度分布が広く、不定形であり、かつ表面に多数のナイフエッジを有する廉価な重質炭酸カルシウムを効率的に活用することができる。また、当該複合粒子の製造方法によれば、粒度分布が広い粒子から、歩留まりや不透明度向上効果等が高く、かつワイヤー磨耗度が低い複合粒子を製造することができる。
【0020】
さらには、当該複合粒子内添紙及び塗工紙によれば、填料又は顔料として当該複合粒子を用いているため、この粒子が重質炭酸カルシウムを凝集させて得られた場合であっても歩留りや不透明度向上効果が高く、また、製紙の際のワイヤーの磨耗を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の複合粒子、この複合粒子の製造方法、複合粒子内添紙及び塗工紙の実施の形態について説明する。
【0022】
<複合粒子>
本発明の複合粒子は、表面の少なくとも一部がシリカで被覆された炭酸カルシウム粒子からなる、換言すると、炭酸カルシウム粒子の表面の少なくとも一部がシリカで被覆されてなる複合粒子である。当該複合粒子は、通常、シリカで被覆された炭酸カルシウム粒子の凝集粒子と、シリカで被覆されているのみで凝集が生じていない炭酸カルシウム粒子とが混在して存在する粒子の集合体である。
【0023】
当該複合粒子の平均粒子径は、2μm以上15μm以下であり、好ましくは3μm以上10μm以下、3.5μm以上8μm以下がさらに好ましい。複合粒子の平均粒子径をこのような範囲とすることで、填料又は顔料として用いたときの不透明度等を効率的に高めることができる。当該複合粒子の平均粒径が上記下限未満の場合は、填料として用いたときに歩留まりが十分に向上しないおそれがあり、また、不透明度向上能も十分ではない。一方、この平均粒子径が上記上限を超えると填料として用いた場合、パルプ繊維間の強度を低下させる結果、紙力が低下したり、ワイヤー磨耗度が高まる場合があり、また、粒径が大きいことで、スラリー又は塗工液中での均一分散性が低下し、不透明度及び印刷後不透明度が低下するおそれがある。
【0024】
なお、本明細書における平均粒子径は50%体積平均粒子径をいい、日機装社製マイクロトラック粒度分布測定装置(型番:MT−3300)を用い、測定回数:Avg/2(2回の測定の平均)、測定時間:10秒、分布表示:体積、粒径区分:標準、計算モードMT−3300II、測定上限2000μm、測定下限0.021μmの条件下で測定することができる。
【0025】
0.021μmから2,000μmの範囲を132対数分割して測定した当該複合粒子の粒度分布における最頻値を占める1分割あたりの粒子の頻度割合は、3%以上12%以下である。なお、上記炭酸カルシウム粒子の同様な粒度分布における最頻値を占める粒子の頻度割合より大きいことが好ましい。
【0026】
シリカ被覆後の最頻値が3%未満では、十分な一次粒子のシリカ被覆が行えず、特には重質炭酸カルシウム特有の多数のナイフエッジに丸みを及ぼす効果が発現できず、12%を超えるシリカ被覆では、本件発明者が知見した、粒径の小さいものはシリカの被覆と共に複数の粒子の凝集が進む一方、粒径の大きいものはシリカの被覆のみで凝集がほとんど生じない特有の効果が発現されない問題が生じる。
【0027】
なお、本明細書における粒度分布は、日機装社製マイクロトラック粒度分布測定装置(型番:MT−3300)を用い、測定回数:Avg/2、測定時間:10秒、分布表示:体積、粒径区分:標準、計算モードMT−3300II、測定上限2000μm、測定下限0.021μmの条件下で測定することができる。
【0028】
当該複合粒子は、このように最頻値を占める粒子の頻度割合が炭酸カルシウム粒子の一次粒子における最頻値を占める粒子の頻度割合よりシリカを被覆することで少なくとも3%以上、多くとも12%以下と大きくすることで、粒径のばらつきが大きい炭酸カルシウム粒子をもとに、シリカの被覆により粒径のばらつきが小さい状態としている。このような粒子の集合体である当該複合粒子によれば、粒径の小さい粒子が少ないため、さらに好ましくはシリカ含有率を2質量%以上30質量%以下に調整することで粒径の小さい粒子が選択的にシリカにより柔軟に凝集化され、抄紙の際に繊維間に留まりやすく、歩留まりが向上すると共に、柔軟な性状により嵩高性にも寄与する。また、当該複合粒子によれば元々粒径が大きく角張っていた粒子の表面はシリカで被覆されているためワイヤー磨耗度を下げることができる。また、当該複合粒子によれば、一次粒子径の粒度分布が広い、すなわち様々な粒子径の炭酸カルシウム粒子の集合体からなることで光の散乱性が高く、不透明度を高めることができる。さらに当該複合粒子は、シリカの表面への析出による被覆により多孔質形状となっており、吸油度が高く、印刷後不透明度を高めることができる。
【0029】
最頻値が12%より高い一次粒子を用いてシリカ被覆を行った場合は、シリカ被覆による凝集により、一次粒子の最頻値より、低い最頻値の複合粒子が生じる問題が発現し、歩留まりや不透明度が低下する問題を引き起こす。
【0030】
当該複合粒子のこの最頻値を占める粒子の頻度割合としては、4.5%以上9.5%以下が好ましく、5%以上9%以下がさらに好ましい。このようにこの頻度割合を比較的高くすることで、上述のように粒度分布が狭くなり、上記性能を効果的に奏することができる。なお、本発明における粒子の粒度分布もレーザー回折法により測定される。
【0031】
シリカ被覆による炭酸カルシウムの一次粒子と複合後の複合粒子とにおける最頻値を占める頻度割合の上昇差異(複合粒子における最頻値を占める頻度割合から炭酸カルシウムの一次粒子における最頻値を占める頻度割合を減じた値(%))が、少なくとも2%以上、より好ましくは3%以上であることが、歩留り及び不透明度が高く、かつ、ワイヤー磨耗度が低い複合粒子を得ることができ好ましい。
【0032】
<炭酸カルシウム粒子>
当該複合粒子に用いられる炭酸カルシウム粒子は、平均粒子径(一次粒子径)が0.5μm以上3μm以下のものが好ましく、0.8μm以上2.5μm以下が更に好ましい。炭酸カルシウム粒子の平均粒子径をこのような範囲とすることで、後述するシリカによる凝集と相まって、当該複合粒子を製紙における填料または顔料として用いた際の歩留まり及び不透明度等を高めることができる。
【0033】
また、この炭酸カルシウム粒子としては、上述の粒度分布における最頻値を占める一次粒子の頻度割合が、得られる複合粒子の上述の粒度分布における頻度割合より小さい値であるものが好適に用いられる。この頻度割合が低い炭酸カルシウム粒子を用いることで、粒径の小さいものはシリカの被覆と共に複数の粒子の凝集が進む一方、粒径の大きいものはシリカの被覆のみで凝集がほとんど生じていない状態となり、粒度分布の広い炭酸カルシウム粒子を粒度分布幅の狭い複合粒子とすることができ、結果として複合粒子の歩留向上、吸油度や不透明度を高めることができる。
【0034】
この炭酸カルシウム粒子としては、軟質炭酸カルシウム又は重質炭酸カルシウムのいずれでもよいが、重質炭酸カルシウムを用いることが好ましい。重質炭酸カルシウム粒子を用いることで、上述のような広い粒度分布を有する炭酸カルシウム粒子を容易に得ることができる。
【0035】
この重質炭酸カルシウムは、天然の石灰石を粉砕・分級する方法で調製することができるし、粉粒体として入手できる市販の重質炭酸カルシウムを必要に応じて粉砕・分級して用いることもできる。ここでいう粉砕には、例えば、ロールミル、ジェットミル、乾式ボールミル、衝撃式粉砕機等の乾式粉砕機による粉砕、湿式ボールミル、振動ミル、撹拌槽型ミル、流通管型ミル、コボールミル等の湿式粉砕機による粉砕が挙げられ、これらの粉砕機を適宜組み合わせて使用することもできる。
【0036】
また、分級方法としては、例えば、共振振動ふるい、ローヘッドスクリーン、電磁スクリーン等のふるい分け、ミクロンセパレーター、サイクロン等の乾式分級、デカンタ型遠心分離機、液体サイクロン、ドラッグ分級機等の湿式分級が挙げられ、これらの分級機を適宜組み合わせて使用することができる。
【0037】
<シリカ>
炭酸カルシウム粒子を被覆するシリカとしては、特に限定されず公知のものを用いることができ、後述するように水溶液中でシリカを析出し被覆させることで、効率的に炭酸カルシウム粒子に被覆させることができる。
【0038】
このシリカの含有率としては、2質量%以上30質量%以下が好ましく、3質量%以上25質量%以下がさらに好ましい。シリカの含有率をこのような範囲とすることで、粒径の小さい炭酸カルシウム粒子に対しては、複数の粒子が柔軟に凝集するほど十分な表面へのシリカ析出量となり、粒径の大きい炭酸カルシウム粒子に対しては、表面、特に析出しやすいナイフエッジ等の先端部分へのシリカ析出に留まり、他の粒子との凝集が生じるほどの被覆が生じない。従って、当該複合粒子によれば、粒度分布の広い炭酸カルシウム粒子をこのような質量比のシリカで被覆することで、粒度分布の狭い凝集体状態に制御されやすくなり、結果として複合粒子の歩留向上、吸油度や不透明度を高め、ワイヤー磨耗度の低減を図ることができる。
【0039】
シリカの含有率が上記下限未満の場合は、炭酸カルシウム粒子を十分に凝集させることができず、得られる複合粒子の粒度分布が狭まりにくく、その結果、填料として用いた際の歩留まりが向上しないおそれがある。逆に、シリカ含有率が上記上限を超える場合は、粒径の比較的大きい炭酸カルシウム粒子の凝集までもが進みやすくなる。その結果、得られる複合粒子において粒径が大きい粒子が増え、同様に粒度分布が狭まりにくく、不透明度向上能が十分ではなく、また、粒径の大きい粒子が多いため、紙力が低下したり、紙粉が生じやすくなるおそれがある。
【0040】
<用途、品質等>
当該複合粒子は、製紙の際の内添填料または塗工用顔料として、単独で又は通常の炭酸カルシウム、カオリンクレー、タルク、二酸化チタン、サチンホワイト、プラスチックピグメント等の顔料と混合して好適に用いることができる。
【0041】
当該複合粒子を内添填料や塗工用顔料として使用する場合、例えば、上記通常の内添用填料や塗工用顔料の合計量に対して、当該複合粒子を5〜100質量%、好適には10〜100質量%添加して使用することができる。
【0042】
当該複合粒子は、好ましくは鉱物由来の湿式粉砕を経た重質炭酸カルシウムであるために、粒度分布が広かったものが、微小粒子のシリカゾルによる凝集化と比較的粒径の大きい重質炭酸カルシウムへのシリカゾル付着とにより粒子の硬度が相対的に低くなり、かつ、粒度分布幅が狭くなっている。従って、当該複合粒子を製紙用の填料や顔料として使用した場合に抄紙機や塗工機等の摩耗性トラブルを回避できる。また、当該複合粒子は、元来高密度な重質炭酸カルシウムの表面をシリカで被覆したものであることから比表面積が大きくなり、これを内添用の填料や塗工用顔料として使用すると、白色度と不透明度が高く、填料歩留りの高い紙を得ることもできる。
【0043】
当該複合粒子の吸油度は、30ml/100g以上100ml/100g以下、より好ましくは40ml/100g以上80ml/100g以下の範囲が好ましい。このような吸油度を有する複合粒子を内添填料として使用すると、紙層中においてこの複合粒子が紙層中に含浸されるインクのビヒクル分や有機溶剤等を吸収するため用紙の印刷不透明度が低下するのを抑制し、また、インクのビヒクル分や有機溶剤等を吸収することで、インク乾燥性やニジミの防止効果を顕著に発揮することができる。一方、吸油度が30ml/100g未満の場合には上記の効果が十分でなく、複合粒子がインクの吸収・乾燥性を阻害する傾向が生じる場合が有る。また吸油度が100ml/100gを超えると、インクの吸収性が高いためインクの沈みこみ、いわゆる発色性が劣る不都合が生じる場合がある。
【0044】
なお、当該複合粒子は製紙用以外に、例えばゴム、プラスチック、塗料、インキ等のフィラーなどとして用いることができる。当該複合粒子をフィラーとして用いることで高い白色度と隠蔽性を付与することができる。
【0045】
<製造方法>
当該シリカ複合粒子の製造方法は、
(1)炭酸カルシウム粒子をケイ酸アルカリ水溶液中に懸濁させて懸濁液を得る懸濁工程と、
(2)この懸濁液に鉱酸を添加し、炭酸カルシウム粒子の表面にシリカを析出し、被覆させて炭酸カルシウム粒子を凝集させる凝集工程と
を有する複合粒子の製造方法であって、
上記複合粒子の平均粒子径が2μm以上15μm以下であり、
0.021μmから2,000μmの範囲を132対数分割して測定した上記複合粒子の粒度分布において最頻値を占める粒子の頻度割合が3%以上12%以下であることを特徴とする。
【0046】
当該複合粒子の製造方法によれば、凝集工程において、炭酸カルシウム粒子のうち、粒径の小さいものはシリカの被覆と共に複数の粒子の凝集が進む一方、粒径の大きいものはシリカの被覆のみで、凝集がほとんど生じていない状態となり、粒度分布の広い炭酸カルシウム粒子を粒度分布の狭い複合粒子とすることができる。従って、当該製造方法によれば、歩留り及び不透明度等が高く、かつ、ワイヤー磨耗度が低い複合粒子を得ることができる。
【0047】
(1)懸濁工程
本工程においては、好ましくは湿式粉砕された重質炭酸カルシウムをケイ酸アルカリ水溶液中に混合する。ケイ酸アルカリ水溶液は特に限定されないが、ケイ酸ナトリウム溶液(3号水ガラス)が入手に容易である点で好ましいましい。
【0048】
珪酸アルカリ溶液の濃度は水溶液中の珪酸分(SiO換算)で3〜10質量%が好適である。10質量%を超えると形成される複合粒子は生成するホワイトカーボンで被覆されてしまい、芯部の炭酸カルシウムの不定形性、光学的特性が発揮されなくなってしまう場合がある。また、3質量%未満では複合粒子中のシリカ成分が低下するため、シリカが被覆された複合粒子が形成しにくくなってしまう。
【0049】
また、この懸濁液の固形分濃度としては、3〜35質量%が好ましい。この濃度を上記範囲で調整することにより、得られる複合粒子の粒径、粒度分布、シリカ含有率等を所望する範囲に制御しやすくなる。
【0050】
(2)凝集工程
本工程においては、上記懸濁液に鉱酸を添加し、炭酸カルシウム粒子の表面にシリカを析出し被覆させ、炭酸カルシウム粒子の少なくとも一部を凝集させる。
【0051】
上記鉱酸としては希硫酸、希塩酸、希硝酸等の鉱酸の希釈液等が挙げられるが、価格、ハンドリングの点で希硫酸が好ましい。さらに、希硫酸を使用する場合の添加時の濃度としては、0.2〜4.0モル%が好ましい。本発明の製造方法で好適に用いられる重質炭酸カルシウムは鉱物由来であるがうえに、所定の範囲でカルシウム、アルミニウム等の不純物を構成元素として含有しており、過度の濃度の鉱酸添加は、得られる複合粒子に変質が生じるおそれがある。
【0052】
また、鉱酸添加量が多いほど短時間内にシリカが析出するので、それらの条件に合わせて添加速度を調整することが好ましい。なお、5分以内の添加は、均一な反応系の構成が不十分になる。
【0053】
この凝集工程における反応温度としては、60℃以上100℃以下が好ましい。本発明者らの鋭意検討の結果から、本発明に使用する炭酸カルシウムとの反応温度はシリカの生成、結晶成長速度および形成された炭酸カルシウム−シリカ複合粒子の力学的強度に影響を及ぼす。反応温度が60℃未満ではシリカの生成・成長速度が遅く、形成された複合粒子の被覆性に劣り、被覆の剥落が生じやすく、填料内添紙の抄造時にかかる剪断力で被覆が壊れ易い。逆に100℃を超えると、水系反応であるためオートクレーブを使用しなければならないため反応工程が複雑になってしまう。なお、最適反応温度は65〜95℃である。
【0054】
この凝集工程においては、上述のように鉱酸の添加によりシリカゾルを生成させ、上記懸濁液を中性〜弱アルカリ性、好ましくはpHを8〜11の範囲に調整することにより複合粒子を得ることができる。この際、上記懸濁液の温度が60℃以上100℃以下であるとともに、上記複合粒子におけるシリカ含有率が2質量%以上30質量%以下となる範囲で鉱酸を添加するとよい。このような温度及び鉱酸添加量に制御すること、より好適には、重質炭酸カルシウムに対するシリカの凝集工程の保持時間を60〜120分、より好適には70分から100分保つことにより粒径の小さいものはシリカの被覆と共に複数の粒子の凝集が進んでいる一方、粒径の大きい炭酸カルシウム粒子に対しては、表面、特に析出しやすいナイフエッジ等の先端部分へのシリカ析出に留まり、他の粒子との凝集が生じるほどの被覆が生じないによって、上述の粒度分布の狭い複合粒子を効率的に得ることができる。保持時間が60分を下回ると、粒径の小さな炭酸カルシウムの凝集が不十分になり、120分を上回ると、過度のシリカ被覆が生じ、過大な粒径の複合粒子が生じる場合がある。
【0055】
<複合粒子内添紙>
本発明の複合粒子内添紙は、上記複合粒子が内添されたものである。当該複合粒子内添紙によれば、上記複合粒子が内添されているため、この填料としての複合粒子の歩留りが高く、不透明度や印刷不透明度を高めることができると共に、製紙の際、ワイヤーの磨耗を抑えることができる。
【0056】
本発明の複合粒子を内添填料として用いて複合粒子内添紙を製造する方法は、通常の填料内添紙の製造方法と同様であり、例えば当該複合粒子と上記比率で他の填料と混合したスラリーをパルプ原料スラリーに添加し、さらに必要に応じて紙力増強剤、サイズ剤、歩留向上剤等の添加剤を加えた紙料スラリーとし、これを抄紙することにより得られる。パルプ原料(固形分)に対する填料添加率は、1〜50質量%、好適には3〜30質量%である。
【0057】
紙料スラリーに添加する添加剤としては公知のものを用いることができ、例えば紙力増強剤としては澱粉類、植物性ガム、水性セルロース誘導体、ポリアクリルアミド等を、サイズ剤としてはロジン、澱粉、CMC(カルボキシルメチルセルロース)、ポリビニルアルコール、アルキルケテンダイマー、ASA(アルケニル無水コハク酸)、中性ロジン等を、また歩留向上剤としてはポリアクリルアミド及びその共重合体、第4級アンモニウム塩等を挙げることができる。資料スラリーには、さらに必要に応じて染料、顔料等の色料を添加してもよい。
【0058】
これら添加剤を紙料スラリーに添加、混合し、公知の抄紙機で抄造することにより複合粒子内添紙を製造することができる。当該複合紙料内添紙の坪量は特に限定されないが、通常10〜300g/m程度である。
【0059】
<塗工紙>
本発明の塗工紙は、基紙と、この基紙の少なくとも一方の面に形成される1層又は複数層の塗工層とを有する塗工紙であって、上記塗工層が上記複合粒子を含有することを特徴とする。当該塗工紙によれば、上記複合粒子を顔料として塗工層に用いているため、不透明度及び印刷後不透明度に優れる。
【0060】
本発明の複合粒子を用いて塗工紙を製造する方法は、通常の塗工紙の製造方法と同様であり、例えば本発明の複合粒子を上記比率で他の顔料と混合し、分散剤を添加して得たスラリーを接着剤や他の添加剤を混合して塗料を調整し、これを中質紙、上質紙等の紙材上に塗工することにより得られる。
【0061】
なお、塗工用顔料として当該複合粒子を使用する場合には、塗工機における作業性、欠陥の防止を目的に平均粒子径を好ましくは0.5〜5μm、さらに好ましくは1〜2μmに調整することが好ましい。この調整方法としては、1)シリカを被覆させる前の炭酸カルシウムの粒子径を2μm以下に調整すると共にシリカ含有率を低く抑えること。2)得られた複合粒子を粉砕機、好ましくは湿式粉砕機で処理し、粒子径を調整する方法等を挙げることができる。
【0062】
当該複合粒子を用いて塗工紙を製造する場合においても、当該複合粒子の吸油度は、30〜100ml/100gの範囲が好ましい。これは、接着剤と混合して使用する場合、その塗工液中において複合粒子が接着剤を吸収し、その真密度が低下するため沈降が抑制され、さらに複合粒子が塗工層中で偏った沈降を呈さなくなり、塗工層中で均一に分散される効果が顕著に現れるためである。この吸油度が30ml/100g以下の場合には上記の効果が不十分であり、複合粒子の真比重と塗工液の比重との差により複合粒子が沈降して塗工層中に不均一な分散状態になるので好ましくない。逆に、吸油度が100ml/100gを越える場合では、塗工層に塗工顔料として配合した場合には、ラテックス、澱粉等のバインダーを吸収し、塗工層強度が低下する問題が生じる。
【0063】
また、重質炭酸カルシウムの表面をシリカにて被覆しているため、角ばった形状を有する重質炭酸カルシウムの形状が丸みを帯び、重質炭酸カルシウムに起因するブレードや塗工用ロール、塗工液を吐出する設備等の磨耗を低減できる。更には、損紙や古紙としてリサイクルされた場合においても、得られる再生パルプに残留する無機粒子によるワイヤーや設備の磨耗を低減できる。
【0064】
塗工液に含有される接着剤としては、公知のものを用いることができ、例えばスチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体ラテックス、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体又は共重合体等のアクリル系重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス、若しくはこれらの各種重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ部分溶解性又はアルカリ非溶解性の重合体ラテックス等が使用される。
【0065】
さらに上記のような合成接着剤のほかに、例えばカチオン化澱粉、酸化澱粉、酸素変性澱粉、熱化学変性澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、冷水可溶澱粉等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース類、ポリビニルアルコール、オレフィン−無水マレイン酸樹脂等の水溶性合成接着剤等を適宜選択して併用できる。また、必要に応じて、顔料スラリーや塗料中には消泡剤、耐水化剤、流動性変性剤、着色剤、蛍光増白剤等の各種添加剤が添加される。また、分散剤としてはケイ酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダ等が挙げられる。
【0066】
塗工液の塗工方法としては、塗工量に応じて、エアーナイフ、ブレード、ゲートロール、ロッド、バー、キャスト、グラビア、カーテン等の公知の塗工機(コーター)で行うことができる。塗工量は片面当たり乾燥質量で通常数〜数10g/m程度である。
【0067】
このようにして得られた乾燥後の塗工紙は、一般に印刷適性(例えば、高平滑や高光沢)を付与する目的で、カレンダに通紙して加圧仕上げが施される。この場合のカレンダ装置としては、例えばスーパーカレンダ、グロスカレンダ、ソフトコンパクトカレンダなどの金属またはドラムと弾性ロールの組み合わせになる各種カレンダが、オンマシン又はオフマシン仕様で適宜使用できる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
<実施例1>複合粒子1の製造
軽質炭酸カルシウム(一次粒子の平均粒径2.0μm、0.021μmから2,000μmの範囲を132対数分割して測定した粒度分布において最頻値を占める粒子の頻度割合(頻度割合A)6.1%のスラリー(濃度10%)200gに珪酸ナトリウム水溶液60gを添加して、ホモミキサーを使用して回転数3,000rpmで20分間、分散処理を行い重質炭酸カルシウムと珪酸ナトリウム水溶液の分散スラリーを調製した。次に、このスラリーを攪拌機、温度センサー、還流冷却器の付いた1Lの四口フラスコに入れ、攪拌しながら油浴にて75℃に昇温した。次に容器内のスラリーを75℃に保ちながら、1規定の硫酸150mLを定量ポンプを使用して、滴下速度2.5mL/分で100分かけて滴下し重質炭酸カルシウムとシリカとの複合粒子1を得た。このときの反応液のpHは8.8であった。さらに、No.2ろ紙を用いてろ過・水洗し再度ろ過することにより、複合粒子1のウェットケーキが得られた。
【0070】
<実施例2〜15及び比較例1〜6>複合粒子2〜15及び複合粒子i〜ivの製造
表1に記載の一次粒子の平均粒子径(μm)、頻度割合A(%)を有する重質炭酸カルシウム又は軽質炭酸カルシウムを用い、表1に記載のシリカ含有量となるように硫酸の添加量を調整したこと以外は、実施例1と同様な作業を行い、実施例2〜15の複合粒子2〜15及び比較例1〜6の複合粒子i〜ivを得た。なお、粒子vは市販の軽質炭酸カルシウム、粒子viは、市販の重質炭酸カルシウムをそれぞれ分級し調整したシリカ被覆をしていない粒子である。
【0071】
なお、表1に反応開始pH、反応液温(℃:反応中の最高温度とした。)及び得られた複合粒子の平均粒子径(μm)、0.021μmから2,000μmの範囲を132対数分割して測定した粒度分布において最頻値を占める粒子の頻度割合(頻度割合B:%)、吸油度(mL/100g)及びワイヤー磨耗度(mg)を示す。なお反応開始pH及び反応温度は粒子種や鉱酸添加量等によって変化した。また、測定方法は以下の通りである。
【0072】
[平均粒子径、頻度割合A及び頻度割合Bの測定]
レーザー回折粒度分布測定装置〔マイクロトラック/日機装社〕(型番:MT−3300)を使用し、50%体積平均粒子径(μm)、頻度割合A(%)及び頻度割合B(%)を測定した。測定試料の調製は、0.1%ヘキサメタ燐酸ソーダ水溶液に粒子を添加し、超音波で1分間分散した。
【0073】
[シリカ含有量]
蛍光X線分析装置(RIGAKU SYSTEM3080E2)により成分分析を行い、カルシウムの酸化物換算割合とケイ素の酸化物換算割合とから、シリカ含有量(質量%)を算出した。
【0074】
[複合粒子の吸油度]
JIS−K5101記載の練り合わせ法に準じて測定した。すなわち105℃〜110℃で2時間乾燥した試料2g〜5gをガラス板に取り、精製アマニ油(酸価4以下のもの)をビュレットから少量ずつ試料の中央に滴下しその都度ヘラで練り合わせ、滴下練り合わせの操作を繰り返し、全体が初めて1本の棒状にまとまったときを終点として、精製アマニ油の滴下量を求め、下記式(1)によって吸油度を算出した。
吸油量=[アマニ油量(mL)×100]/紙料(g) ・・・(1)
【0075】
[ワイヤー磨耗度(mg)]
磨耗度試験装置(日本フィルコン(株)製)を使用し、固形分濃度:5%の填料分散液をポンプ循環させながら、試験条件(加重=650g,ワイヤー=プラスチックワイヤ/SS−40…日本フィルコン社製を使用,試験時間=3時間)で摩耗度試験を行い、減量したワイヤーの重量(mg)をもってワイヤー摩耗度とした。数値が大きい程、ワイヤー摩耗性が大きいことを示す。
【0076】
【表1】
【0077】
<実施例16>複合粒子内添紙の製造
得られた複合粒子1をコーレスミキサーでスラリー化し、固形分濃度10%のスラリーを調製した。NBKP(フリーネス=CSF520mL)10質量部及びLBKP(フリーネス=CSF480ml)90質量部を配合したパルプスラリーに、上記スラリーを固形分で15質量部、硫酸バンドを0.5質量部、カチオン化澱粉0.7質量部、中性ロジンサイズ剤1.0質量部、歩留向上剤0.1質量部をそれぞれ添加し、固形分濃度0.9質量%の紙料を調製した。この紙料を手抄き抄紙機でパルプシートを作成し、乾燥後、ラボスーパーカレンダーに通紙して、米坪が64.9g/mの実施例16の複合粒子含有紙を得た。
【0078】
<実施例17〜30及び比較例7〜12>複合粒子内添紙の製造
用いた複合粒子を表2に示すものにした以外は、実施例16と同様の操作を行い、実施例17〜30及び比較例7〜12の各複合粒子内添紙を得た。
【0079】
得られた各複合粒子内添紙の評価結果を表2に示す。なお、各評価は、以下の方法にて行った。
【0080】
[坪量(g/m)]
JIS−P8142に記載の「紙及び板紙−坪量測定方法」に準拠して測定した。
【0081】
[灰分(%)]
JIS−P8251に準拠して測定した。
【0082】
[灰分歩留]
手抄で得られた複合粒子内添紙の灰分(JIS−P8251に準拠して測定)を、手抄に供した紙料中の灰分で除して算出した。
【0083】
[不透明度(%)]
JIS−P8149に記載の方法に準拠して測定した。
【0084】
[印刷後不透明度(%)]
J.TAPPI 45に準拠して新聞用オフセット印刷インキ(墨)を使用し、RI印刷試験機(明製作所製)でインキ量を変えてベタ印刷を行った。印刷面反射率が9%の時の印刷前の裏面反射率(印刷面の反対面)に対する印刷後の裏面反射率の比率から、次式(2)を用いて印刷不透明度(Y)を算出した。なお、反射率測定には分光白色度測機(スガ試験機製)を使用した。
Y={(印刷後裏面反射率)/(未印刷の裏面反射率)}×100 ・・・ (2)
【0085】
【表2】
【0086】
<実施例31>塗工紙の製造
顔料として、複合粒子1を20質量部、炭酸カルシウム粒子(ハイドロカーブ#90:オミヤ社)40質量部及びカオリン(HF−90:ヒューバー社)20質量部、SBRラテックス(PA4098:日本A&L社)11質量部、澱粉(スターコート:日本食品加工社)2質量部並びに分散剤(アロンA−6028:東亜合成化学工業)0.3質量部を水に配合し、コーレスミキサーでスラリー化し、固形分50質量%の塗工液を調製した。
【0087】
この塗工液を坪量38g/mの上質原紙の片面に乾燥質量6.8g/mとなるように片面ずつロールテストコーターで塗工し、その後乾燥及びさらにテストスーパーカレンダ仕上げ(線圧160kg/cm×2回通紙)して塗工紙を得た。
【0088】
<実施例32〜45及び比較例13〜18>塗工紙の製造
複合粒子1のかわりに表3に示す各粒子を用い、表3の塗工量としたこと以外は、実施例31と同様の操作を行い、実施例32〜45及び比較例13〜18の各塗工紙を得た。
【0089】
得られた各塗工紙の評価結果を表3に示す。なお、塗工紙の評価における、不透明度及び印刷後不透明度の評価方法は、上記複合粒子内添紙の評価と同様に行った。
【0090】
【表3】
【0091】
表2及び表3の結果から、本発明の複合粒子が内添された複合粒子内添紙及び本発明の複合粒子が塗布された塗工紙は、優れた不透明度及び印刷後不透明度を有し、かつワイヤー磨耗度が低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の複合粒子は、製紙における内添填料や塗工液における顔料として好適に用いることができる。