(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5695902
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】近接場AFM検出を用いたウェハスケールの非破壊的な表面下超音波顕微鏡法
(51)【国際特許分類】
G01Q 60/24 20100101AFI20150319BHJP
G01Q 60/00 20100101ALI20150319BHJP
【FI】
G01Q60/24
G01Q60/00
【請求項の数】30
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2010-507726(P2010-507726)
(86)(22)【出願日】2008年5月12日
(65)【公表番号】特表2010-527011(P2010-527011A)
(43)【公表日】2010年8月5日
(86)【国際出願番号】US2008063462
(87)【国際公開番号】WO2008141301
(87)【国際公開日】20081120
【審査請求日】2011年5月12日
(31)【優先権主張番号】60/917,301
(32)【優先日】2007年5月10日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512038610
【氏名又は名称】ブルカー ナノ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BRUKER NANO,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ス、シャンミン
(72)【発明者】
【氏名】プレイター、クレイグ
【審査官】
谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】
特表2001−510889(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0056782(US,A1)
【文献】
国際公開第2007/044002(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の表面下特性のイメージングを行う方法において、
走査型プローブ顕微鏡(SPM)を提供するSPM提供工程であって、SPMはチップを支持するカンチレバーを有するプローブを備えており、SPMは試料の第1面から離間して配置される工程と;
試料に超音波エネルギーを与える第1超音波源を提供する超音波源提供工程であって、同第1超音波源は試料の第2面から離間して配置される工程と;
第1位置にある試料の1つの部分に第1超音波源からの超音波エネルギーを結合するエネルギー結合工程と;
プローブを使用して、入射した前記超音波エネルギーと試料の表面下特性との間の相互作用を検出するプローブ使用工程と;
試料の異なる部分に超音波エネルギーを結合するように、試料と第1超音波源とのうちの少なくとも一方を並進ステージで連続的に移動させて、第1超音波源と試料との間の相対運動を生じさせる移動工程と、
プローブに結合された第2超音波源を提供する工程であって、第2超音波源はビート周波数を有するビート信号を生じるように駆動超音波を生成し、それにより検出された前記相互作用をダウンコンバージョンする工程と、を含む方法。
【請求項2】
第2位置にある前記試料に超音波を結合することと、第2位置について測定工程を繰り返すこととを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非線形のプローブ応答を導出するようにチップと試料との相互作用を制御することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
チップと試料との相互作用を制御することは、フィードバックを用いて非線形のプローブ応答を調整することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
プローブに結合された第2超音波源を提供することは、GHz周波数で動作する圧電変換器をプローブに組み込むことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
超音波源提供工程は、生成される超音波を第1位置にある試料の前記部分に集束させる超音波変換器を提供することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
生成される超音波を集束させることは、超音波変換器に結合されたフレネルレンズを使用して超音波を集束させることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
複数の調波を励起させるように第2超音波源が駆動される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
エネルギー結合工程は、試料に対する第1超音波源の液体結合を提供することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
エネルギー結合工程は、連続波レーザ音響励起を行うことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
検出した相互作用に基づいて試料の表面下構造を再構成する再構成工程を更に含み、再構成工程の分解能は100nmよりも高い、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記プローブ使用工程は、カンチレバーの運動の振幅および位相のうちの少なくとも一方を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
超音波エネルギーの振幅および位相を測定することは、試料の期待される組成および期待される構造を含む群のうちの少なくとも1つを使用して測定を補助することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
試料の表面下特性を検出するプローブ式機器であって、
チップを支持するカンチレバーを有するプローブを備えた走査型プローブ顕微鏡(SPM)であって、同SPMは試料の第1面から離間しているSPMと;
第1位置にある試料の1つの部分に超音波を提供する第1超音波源であって、同第1超音波源は試料の第2面から離間している第1超音波源と;
試料とプローブおよび第1超音波源との間の相対動作を生じさせる並進ステージと;
入射した超音波エネルギーと試料の表面下特性との間の相互作用を測定するビート信号検出器と;
プローブに結合されており、ビート周波数を有するビート信号を生じるように駆動超音波を生成する第2超音波源と、を備え、
ビート周波数はプローブの共振周波数に対応する周波数に調整され,
第1超音波源からの超音波エネルギーに対応する周波数をf1、駆動超音波に対応する周波数をf2、f2の調波に対応する整数の倍数をnとすると、nf2−f1はプローブの共振周波数に等しい、プローブ式機器。
【請求項15】
プローブの非線形応答が最適化されるまで、フィードバックループを用いてチップと試料との間隔を制御するアクチュエータを更に備える、請求項14に記載のプローブ式機器。
【請求項16】
試料は、直径が200mm以上の半導体ウェハである、請求項14に記載のプローブ式機器。
【請求項17】
第1超音波源からの超音波の結合は試料に対して非破壊的である、請求項14に記載のプローブ式機器。
【請求項18】
第1超音波源からの超音波は液体を介して試料に結合される、請求項14に記載のプローブ式機器。
【請求項19】
前記相互作用はカンチレバー運動を生じさせ、検出器は、カンチレバー運動の振幅および位相のうちの少なくとも一方を測定する、請求項14に記載のプローブ式機器。
【請求項20】
試料の表面下特性位置のイメージングを行う方法であって、
カンチレバーとプローブチップとを備えるプローブを提供する工程と;
試料上の異なる複数の位置に連続的に結合される第1超音波および第2超音波を生成する第1超音波源および第2超音波源を提供する工程であって、同第1超音波源および第2超音波源は試料から離間している工程と;
試料と第1超音波源および第2超音波源との間の相対運動を生じさせる少なくとも1つの並進ステージを提供する工程と;
試料の第1部分に第1超音波源からの超音波を結合する工程と;
第2超音波源からの超音波エネルギーでプローブを駆動する工程と;
第1超音波源および第2超音波源からの超音波エネルギーの相互作用によって、ほぼ試料表面に生じた超音波エネルギーを測定する工程と;
試料、第1超音波源、および第2超音波源のうちの少なくとも1つを移動させて、試料の第2部分において相対運動を生じさせ、測定を可能とする工程と、を含み、
超音波エネルギーの測定は、第1超音波源および第2超音波源の調波のうちの少なくとも1つを結合することによって生成されるビート信号を検出し、検出された同信号をダウンコンバージョンする、方法。
【請求項21】
プローブに結合された第2超音波源を提供することは、GHz周波数で動作する圧電変換器をプローブのチップに組み込むことを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
プローブ共振のうちの1つにほぼ対応する周波数を有するビート信号を生じるように、プローブと試料との相互作用によるプローブの非線形応答を調整する調整工程を更に含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
測定結果に基づいて試料の表面下構造を再構成する再構成工程を更に含み、前記再構成工程の分解能は100nmよりも高い、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
試料上の複数の位置における表面下特性のイメージングを行う方法であって、
試料に第1超音波源からの第1超音波を解放可能に結合する工程と;
第2超音波源からの、1GHzよりも高い周波数を有する第2超音波信号で、走査型プローブ顕微鏡のプローブを励起させる工程と;
プローブと試料との間の非線形応答を最適化するように、試料に対してプローブを位置決めする工程と;
ビート信号を検出し、ダウンコンバージョンすることにより、20nmよりも高い分解能まで試料の表面下特性を検出する工程と、を含む方法。
【請求項25】
前記移動工程は、試料の少なくとも第1部分と第2部分との間において5分未満の並進をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記移動工程は、試料の少なくとも第1部分と第2部分との間において10秒未満の並進をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
ビート周波数はプローブの共振周波数に対応する周波数に調整される、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記超音波エネルギーに対応する周波数をf1、駆動超音波に対応する周波数をf2、f2の調波に対応する整数の倍数をnとすると、nf2−f1はプローブの共振周波数に等しい、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
第1超音波に対応する周波数をf1、第2超音波に対応する周波数をf2、f2の調波に対応する整数の倍数をnとすると、nf2−f1はプローブの共振周波数に等しい、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
試料に第1超音波源からの第1超音波を解放可能に結合する工程は、試料ホルダの内部キャビティに超音波を生成する超音波源を提供する工程を含み、超音波は液界面を介して試料に結合される、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、計測機器および対応する技術の分野に関する。より詳細には、本出願は表面下のイメージングが可能な計測ツールに関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願
本出願は、引用によって本明細書に援用される米国特許仮出願第60/917,307号明細書(出願日:2007年5月10日)の利益を主張するものである。
【0003】
半導体業界、材料業界、および生物医学業界で広く需要があるにも拘らず、ナノスケール表面下測定に広く採用されるルーチンを提供する技術は未だ存在していない。表面計測は、表面上の小スケールの特性(フィーチャ)を測定する科学技術である。測定パラメータとしては、たとえば表面の一次形態、表面の波打ち、および表面粗度がある。表面下測定は、表面の下にある固体の構成を定義するパラメータの研究である。表面下測定としては、たとえばシリコンウェハにおける表面下欠陥の検出がある。表面下測定用の複数のシステムが存在しているが、各システムには制限があり、こうしたシステムや方法が広く適用されるのを阻んでいる。これについて以下に詳述する。
【0004】
表面下測定を行う様々な技術が存在しているが、それぞれに特定の制限が付随している。TEM(透過型電子顕微鏡)は低電子密度の材料をわずかな距離だけ通して観察し、表面下の細部をいくらか明らかにすることが可能である。しかし、この技術は試料を薄化するので破壊的であるとともに時間を要するため、適用性に制限がある。レーザ走査型共焦点顕微鏡の分解能は約200nmまで小さくできるが、光学的に透明な試料にしか使用できない。音響(acoustic)顕微鏡(たとえば、Sonoscan製)は、表面下測定の用途で広範に使用されており、非常に成功している。しかし、方位分解能は、超音波励起の波長によって、通常、mm〜nmの範囲に制限されている。投影X線システム(たとえば、Xradia製またはSkyscan製)は、表面下顕微鏡法において近年劇的な進歩を遂げている。しかしナノスケールに適用した場合、この技術もやはり破壊的であり、試料を幅25mm未満に分割し、厚さ100μm未満に薄化する必要がある。また、高エネルギーのイオン化X線放射の使用も、X線が試料を架橋などによって損傷し得る数々の用途においては、考慮の対象となる。他の技術として、パルス熱顕微鏡がある。パルス熱顕微鏡では、IR(赤外線)で試料をフラッシュ照射し、試料から再放射される熱のイメージングを行うことによって表面下情報が得られる。この技術では熱特性の異なる材料が対比されるが、やはり光学分解能の限界が問題となる。
【0005】
上記の技術のうち、AFM(原子力間顕微鏡)には劇的な利点が存在する。すなわち、半導体から材料科学、および生物医学的な試料などまでの広範な試料において、非破壊的かつ定式的に100nm以下の分解能を与えることが可能である。しかし、標準のAFMイメージング技術は、表面特性または表面の数nm下の特性に対してのみ感度が高い。AFMの利点と音響顕微鏡の利点とを組み合わせるAFMのバリエーション(たとえば、超音波力顕微鏡および原子間力音響顕微鏡)が、ここ数十年にわたって開発されている。「Science」誌に2005年に掲載された論文では、SNFUH(走査型近接場超音波ホログラフィ)と呼ばれる技術が記載されている。この論文において著者は、試料表面の500nm下に埋設された直径20nmのナノ粒子を検出および解像可能であることを明らかにしている。この論文ではまた、半導体試料に埋設されたボイドや赤血球内のマラリア原虫を観察可能であることを明らかにしている。
【0006】
上記のシステムや、SNFUHの可能性にも拘らず、現状としてSNFUH技術を広く産業に導入することは全く非現実的である。第一に、測定が実証されているのは、面積が従来の300mmシリコンウェハの500分の1未満であるcmスケールの試料だけである。第二に、現在のSNFUH技術で十分なコントラストを得るには、超音波アクチュエータを各試料に個々に接続する必要がある。半導体産業に広く導入されるには、ウェハ上に分散した複数の箇所(たとえば、15箇所)を20ウェハ毎時以上のスループットで迅速に測定する能力が必要とされる。これらのスループット要件を満たすように超音波アクチュエータの接続および分離を実行可能な技術は、現在存在していない。このように、現在のSNFUH技術では、大型試料のハンドリングのために簡便にスケールを変更することは不可能である。また半導体産業においては、裏面パーティクルコンタミネーションに厳しい制限があり、現在の超音波結合(coupling)要件では目標が達成される可能性は低い。たとえば現在の産業基準は、ウェハ搬送毎に加わるパーティクルの最大数を1000未満に制限している(これらの基準は半導体世代ごとに一層厳しくなってもいる)。これには、ウェハハンドリングと、試料ホルダ−ウェハ間の接触とを含むすべての発生要因からのパーティクルが含まれる。最後に、現在のSNFUH技術では、高画質を得るには、相当量の実験経験を有する博士号相当の専門家が必要である。SNFUHでは、固定端でカンチレバープローブを駆動することによって超音波源が導入される。長さが数百μmのカンチレバーは、MHz超音波をチップに有効に結合(カップリング)できるが、GHz超音波を結合することはできない(GHz波はカンチレバーに沿って減衰するため)。SNUHFのアーキテクチャは、MHz周波数範囲の音響への使用に制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水平方向には20nm超、垂直方向には1nm超の分解能(試料表面の100nmよりも深く埋設された特性の分解能を含む)で、臨界的な埋設されたナノ構造の非破壊的なイメージングを可能とするシステムおよび方法が必要とされている。更に、任意の試料サイズを通じてこのようなイメージングを可能にする、スループットの向上したシステムおよび方法が必要とされている。また更に、前面および裏面のコンタミネーションを最小にするシステムおよび方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様では、試料上の複数の位置における表面下特性の非破壊的なイメージングを行う方法を提供する。この方法は、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を提供するステップを含む。SPMは、チップを支持するカンチレバーを有するプローブを備えており、試料上の複数の位置に連続的に迅速に超音波エネルギーを結合可能な超音波源を提供する。この方法は、試料と超音波源とのうちの少なくとも一方を並進で移動させて、超音波源と試料との間の相対運動を生じさせることと、第1水平位置にある試料の1つの部分に超音波を結合することと、プローブを使用して、試料表面または試料表面付近の超音波エネルギーの振幅、位相またはその両方を測定することとを含む。
【0009】
本発明の他の態様では、試料の表面下特性を検出するプローブ式機器を提供する。この機器は走査型プローブ顕微鏡(SPM)を備える。このSPMは、チップを支持するカンチレバーを有するプローブを備える。この機器は、試料の1つの部分に超音波を与える超音波源と、プローブおよび超音波源に対し試料を移動させるように構成された並進ステージとを更に備える。この機器は、ビート信号検出器を更に備える。この検出器は、プローブを用いて、試料付近の超音波エネルギーの振幅および位相を測定する。並進ステージは、試料の複数の部分においてビート信号の反復的な検出を可能にすべくプローブおよび超音波ステージに対して試料を移動させるように構成されている。
【0010】
本発明の更に他の態様では、上記の方法は、第2水平位置にある試料の第2部分に超音波を結合することと、第2水平位置について測定ステップを繰り返すこととを更に含んでもよい。
【0011】
本発明の更に他の態様では、上記の方法は、非線形応答が最適化されるまで、フィードバックループを用いてチップと試料との間隔を制御することを更に含んでもよい。
本発明の他の態様では、上記の方法は、プローブに結合された第2超音波源を提供することを更に含んでもよい。プローブに結合された第2超音波源を提供することは、GHz周波数で動作する圧電変換器をプローブのチップに組み込むことを含んでもよい。この組込要素を利用して、ビート周波数を有するビート信号を生じるように駆動超音波を生成してもよい。
【0012】
本発明の他の態様では、上記の方法は、生成される超音波を第1水平位置にある試料の該部分に集束させる超音波変換器を提供することを含んでもよい。生成される超音波を集束させることは、超音波変換器に結合されたフレネルレンズを使用して超音波を集束させることを含んでもよい。
【0013】
本発明の他の態様では、超音波源は複数の調波へと駆動され、駆動される周波数よりも有意に高い周波数の成分を生じてもよい。高周波成分は、調和周波数に従って回折限界分解能を高めることができる。このような高調波成分は一般に、基本成分(すなわち、第1調波)よりも充分に速く減衰する。近接場検出が望ましく、本発明の走査型プローブ検出では近接場検出が行われる。
【0014】
本発明の他の態様では、試料の1つの部分に超音波を結合することは、超純水の液適を提供して試料に超音波源を結合することを含んでもよい。
本発明の他の態様では、上記の方法は、測定結果に基づいて試料の表面下構造を再構成する再構成ステップを更に含んでもよい。本発明の他の態様では、再構成ステップの分解能は100nmより高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態によるナノスケール表面下測定機器の概略図。
【
図2】一実施形態による、本発明の変換器が生成する超音波と表面下の試料特性との相互作用を示す概略図。
【
図3】一実施形態による、大型試料上の広範囲領域における表面下特性の測定を示す、試料ホルダの側面図。
【
図4】一実施形態による、AFMプローブの直上に局所的なGHzレベルの励起を生成することによって非線形のチップと試料とのミキシングを行うシステムの模式図。
【
図5】一実施形態による、非接触(正の間隔)から反発接触(負の間隔)まで、チップが試料と相互作用するときのビート力の変化を示すグラフ。
【
図6】一実施形態による、プローブと試料との間隔が減少するときのチップと試料との相互作用を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の上記および他の目的、特徴、および効果は、以下の詳細な説明と添付図面から当業者には明らかとなるであろう。詳細な説明と特定の実施形態は本発明の好適な実施形態を示すが、例示であり制限ではないことを理解されたい。本発明の精神から逸脱することなく本発明の範囲内において数々の変更および変形がなされてもよく、本発明はこうしたすべての変形を含有する。
【0017】
本発明の好ましい実施形態を添付の図面に示す。図面において、類似の参照番号は類似
の部材を示す。
本発明の好適な一実施形態において、SPM(走査型プローブ顕微鏡)は、HRI(高調波共振イメージング)による試料情報の取得に用いられる。SPMは、チップを支持したプローブを使用して試料情報を取得する、また、チップを振動させることが可能である機器を備えてもよい。SPMはたとえば、STM(走査型トンネル顕微鏡)、MFM(走査型磁気力顕微鏡)、SCM(走査型静電容量顕微鏡)、NSOM(走査型近接場光顕微鏡)、SThM(走査型熱顕微鏡)、またはAFM(原子力間顕微鏡)を含んでもよい。AFMの形態により本発明の一実施形態を開示するが、本発明は他のすべてのSPMにも適用されることを理解されたい。
【0018】
図1に、一実施形態によるNSM(ナノスケール表面下測定)機器100の概略図を示す。走査型プローブ顕微鏡(たとえば、AFM)は、測定プローブ装置112と試料122との間に相対的な走査動作を行わせつつ、試料の1つ以上の特性を測定することによって動作する。
図1には、典型的なAFMシステムを概略的に示す。プローブ114を備え、カンチレバー115を有するプローブ装置112を用いるAFM110は、振動アクチュエータまたはドライブ116に接続されている。振動アクチュエータまたはドライブ116は、プローブ114の駆動、この場合にはプローブの共振周波数またはその付近(たとえば、プローブの共振周波数またはその調和周波数)での駆動に用いられる。一般に電子信号がAFMコントローラ121(コンパレータ/PIゲインステージ123などを含む)の制御によってAC信号源118から与えられると、アクチュエータ116はプローブ114を駆動し、好ましくは自由振動振幅A
0で振動させる(
図2を参照して以下に詳述)。プローブ114は、通常、コントローラ121によるフィードバックにより制御される適切なアクチュエータ124またはスキャナを用いて、試料122に接近するように、また試料122から離れるように駆動される。特にアクチュエータ124は、スキャナ(たとえば、並進ステージ)129とプローブ114とに接続されてもよいが、自己駆動カンチレバー/プローブの一部として、プローブ装置112のカンチレバー115に一体的に形成されてもよい(多くの場合、一体的に形成されていることが好ましい)。さらに、アクチュエータ124がプローブ114に接続されているものとして示したが、代替として、アクチュエータ124が試料122を直交3方向に移動させるXYZアクチュエータ(すなわち、Z方向の運動と、ラスタ走査などX−Y方向の走査運動との両方を行うもの)として用いられてもよい。
【0019】
使用および動作に関して、AFM110は1つまたは複数のプローブ114を搭載してもよく、搭載する複数のプローブのうちの1つを選択するように装備されてもよい。様々なプローブから、必要なバネ定数および共振周波数範囲に基づいて選択を行ってもよい。典型的には選択したプローブ114を振動させ、試料122と相互作用させて、上記のようにプローブ114の振動の1つ以上の特徴について変化を検出することによって、試料の特徴を監視する。この際、ビーム117をプローブ114の裏面に向けるために、撓み検出装置を用いてもよい。ビームはその後、検出器126(たとえば、四象限光検出器)に向かって反射される。ビームが検出器126を並進すると、適切な信号がコントローラ121に送信されて、プローブ114の振動における変化を決定するように信号が処理される。コントローラ121は一般に、チップと試料との間に一定の力を維持するように、通常は、プローブ114の振動の定値特性を維持するように、制御信号を生成する。コントローラ121は、たとえば定値A
sで振動振幅を維持して、チップと試料との間のほぼ一定な平均の相互作用を保証するために用いられてもよい。代替として、定値の位相または周波数が用いられてもよい。特に好ましくは、このようなフィードバックループを用いるチップ−試料間隔の制御は、チップと試料との相互作用に対する非線形のプローブ応答を維持するために行われる。
【0020】
図6においてグラフ600は、一実施形態によるチップ/試料の相互作用に対するプロ
ーブ応答を示す。チップは左から試料に接近して近接接触ゾーン604に入り、(スナップ接触(snap to contact)より前に)相互作用が開始する。この場合、力は適切な定値を備えたフィードバックループを用いるAFMによって制御され、カンチレバー応答の非線形部分の動作は点602付近に維持される。X軸付近の境界ゾーンは、最大の非線形性を示す応答に相当する。好ましくは、本システムは、非線形のプローブ応答を調整し、好適な実施形態におけるGHz周波数の使用に必要なビート信号を生じることによって、応答を最適化する(本明細書において以下に更に説明)。所望の応答は、たとえばフィードバックループを介して垂直方向の平均撓みを一定とすることによって維持可能な、特定のチップと試料との間隔に相当する。代替動作として、検出器126で容易に利用可能な信号である、一定なねじれ共振信号を維持した場合も、このような間隔が保持可能である。
【0021】
図1を再び参照すると、代表的な一実施形態では、試料122は300mmシリコンウェハ全体である。
図3を参照して以下に詳述するとおり、試料122は、内部キャビティ130とエアベアリング面131とを備える試料ホルダ128上に保持されてもよい。エアベアリング面131は、並進ステージ129と基体135(たとえば、AFM上部構造)との間の移動を可能とするように設けられてもよい。超音波変換器(トランスデューサ)132は、この内部キャビティ130内に載置されてもよい。超音波変換器132は、波源120による駆動に応じて超音波を生成してもよい。特に、超音波変換器132は、連続波レーザ音響励起を生成してもよい。超音波はその後、試料122の裏面に結合される。この結合は、超音波変換器132と試料122の裏面との間に液界面(たとえば、超純水の液滴134)を介して行うことが好ましい。これにより有効な超音波結合が可能となり、試料122の裏面コンタミネーションを最小にできる。超純水結合について説明したが、上記のシステムおよび方法では試料122と超音波源132との間に代替の液体結合(liquid coupling)を設けてもよいことを理解されたい。このように、たとえば永久接着剤または半永久接着剤により試料に波源を固定的に結合する周知のシステムおよび方法とは異なり、超音波源を試料122に解放可能に接続することができる。
【0022】
超音波は、試料122の所望の領域に集束その他投影されてもよい。集束領域は、プローブ114の位置と相関性があってもよい。超音波は、音響レンズ(たとえば、屈折素子またはフレネルレンズ)で集束(合焦)されてもよい。代替として、超音波交換器132は、試料122の一層広い領域を均一に照射する平面波を生成してもよい。焦点の合ったアクチュエータは、所与の入力エネルギーをより小さな領域により効率的に集中させるという利点を有する。更に、ビームを集中させた後に発散させることによって、背景放射のエネルギー密度が低減される。平面波源は、振幅情報および位相情報を変換して構造情報および組成情報を取得するための処理をより簡素化するという利点を有することができる。
【0023】
本出願に係るシステムの1つの利点として、超音波源は、試料上の連続する位置に迅速かつ非破壊的に結合可能である。「非破壊的」とは、試料が、本技術によるイメージングが行われてもなお、その部分を損なうことなく意図した目的に使用可能であることを意味する(従来技術の多くでは、試料の破壊的な処理、コンタミネーションを生じる接着剤その他の材料による超音波アクチュエータの接続、またはその両方の必要があった)。
【0024】
このアプローチの結果、特に試料122が半導体ウェハまたはコンピュータハードディスクヘッドウェハである場合、試料122の裏面コンタミネーションが最小化される。一実施形態において、裏面コンタミネーションは、超純水134を用いて試料122に音響エネルギーを結合することによって低減される。この結合を行うために、プローブ114と試料122との間に水滴134を生成および維持するように超音波アクチュエータ13
2に配管および制御を提供してもよい。このような技術は、たとえば半導体産業で使用される液浸リソグラフィで用いられている。蒸発分を相殺するように液適134を補充することのトリガを行うために、水レベルセンサを用いてもよい。代替として、許容レベルまで蒸発を抑えるために、内部キャビティ130の湿度を高めてもよい。
【0025】
代替の一実施形態では、内部キャビティ130は液体で充填されてもよい。この構成では、試料122を効果的に増感させるとともに、試料122の不要な振動を減衰させるという利益が更に得られる。
【0026】
更に他の代替実施形態では、試料122の裏面に直接接触する超音波アクチュエータ132を用いてもよい。直接接触により、AFM110が測定する試料122の領域を効果的に増感させる場合と同様の効果が得られる。しかし、このような直接接触の場合、良好な機械的結合と低いパーティクルコンタミネーションとの両方を保証するためには、一層低い位置決め公差が求められる。一実施形態において、超音波アクチュエータ132の上面は、高分子重合体(たとえば、Kapton(登録商標)またはVespel(登録商標)などのポリイミド材料)で覆われてもよい。高分子重合体にはいくらかの弾力性もあり、パーティクルの飛散およびウェハコンタミネーションを制限するには良い選択である。機械的に接触する場合、別のポジショナ(図示せず)を用いて、試料122の底部と超音波アクチュエータ132とを接触させ、また離間させてもよい。
【0027】
試料、プローブ装置122、および超音波変換器132の間の相互作用についての上記の結合および位置決め方法のいずれかを用いて、試料の異なる部分または点に超音波源を迅速に再配置可能であることは、従来システムに勝る利点である。また超音波源の移動により、試料122上の特定の測定部分と超音波源との距離に関係なく、その部分を励起させることができる。したがって、試料の一部分が超音波源の影響を受ける領域であってもよく、その場合、試料122に対し与えられる超音波エネルギーは比較的一定である。このシステムおよび方法は、超音波結合を適切に行うために試料ホルダに試料を永続的に固定させる必要なく、任意のサイズの大型試料の走査に使用できる。
【0028】
図1をもとに本明細書に記載した構成は、試料底面からの最良な結合を可能とし、試料122の上方の空気中でのカンチレバー115の高Q共振動作を可能とする。代替として、試料122の表面の励起は種々の方法により上方から行われてもよい。たとえば、AFMカンチレバー115とプローブ114とを包囲する液体または機械結合アクチュエータを設けることができる。代替として、レーザパルスを用いて、AFMプローブ114によって近接場イメージングが可能な熱音響波を生成することができる。また、空気結合アクチュエータおよび/またはEMAT(電磁音響変換器)を試料の上方または下方に用いることもできる。
【0029】
図2は、一実施形態による、本発明の変換器が生成する超音波と表面下試料特性との相互作用を示す概略図である。試料122内の表面下特性210は、様々な表面下特性210の音響インピーダンスにしたがって超音波と相互作用する。これらの相互作用により、超音波波面214の伝播における信号減衰および/または位相遅延が生じる。これらの波面の歪みは、AFMカンチレバー115のプローブ114を用いて近接場で検出されてもよい。
【0030】
AFMプローブ114は、試料122の表面に向かって伝播する超音波エネルギー214を監視する。特に、超音波エネルギー(たとえば、入射超音波)と表面下特性との相互作用の結果、超音波エネルギーの減衰、反射、遅延、屈折、および/または回折が生じ得る。周囲環境において試料122を観察した場合、試料上面の空気と試料との界面により、入射超音波エネルギーの大部分が反射され得る。表面音響波212は、AFMが直接検
出可能な試料122の表面において生成される場合もある。また、「エバネセント場」と呼ばれる小さな減衰場216が試料表面より上に延びている。このエバネセント場216にプローブ114のAFMチップが配置されると、超音波エネルギー214がプローブ114のチップに結合され、カンチレバー115の測定可能な運動が生成する。この結合の程度は、チップと試料表面との間に形成される液体メニスカス層が存在することで強化され得る。
【0031】
プローブ114のAFMチップでエバネセント場を測定することにより、遠視野の回折分解能限界が克服され、nmスケール分解能での超音波波面のマッピングが可能となる。超音波変換器132の駆動に用いられる波源120の超音波励起周波数f
1は、必要とされる浸透深度および分解能に依存して2MHz〜200MHz、好ましくはそれ以上であってもよい。周波数f
1は従来のAFMの典型的な検出帯域幅よりも高いことが多いため、超音波波面の検出を可能にするために「ダウンコンバージョン」手法を用いてもよい。
【0032】
ダウンコンバージョンは、高周波の信号を、システム100がより測定し易い低周波数に変換することによって行われる。ダウンコンバージョンは、システム100において、たとえばAFMカンチレバー115の基体に、あるいは自己駆動プローブを用いる場合には好ましくはよりチップ付近に、周波数f
2の追加の超音波振動信号を与えることによって行われる。プローブ114のAFMチップと試料122との間に非線形の相互作用が存在する場合、周波数f
1と周波数f
2の差に比例する力が相互作用によりプローブ114のチップ上に生じる。特に、プローブ114のチップには時間により変化する力の成分が存在し、これは次式のF
tに等しい。
【0033】
【数1】
ここで、γは非線形相互作用の強度、A
sは周波数f
1での試料表面運動の振幅、A
cは周波数f
2でのカンチレバー運動の振幅、ψは波面の伝播中に累積した位相遅延である。
【0034】
以下の1つまたは複数の技術を用いて、超波長分解能が達成される。非線形材料応答を導出する高エネルギーの超音波励起を用いることによって、回折限界を超える分解能が達成されることについて記載した。非線形応答は、材料を通じて伝播する弾性波に対して高調波歪みを生じさせる。この高調波歪みは、元々の励起よりも高い調波が生成および伝播されることに等しい。より高い調波ほど波長は短いため、回折限界分解能は基本波の励起よりも高くなり得る。
【0035】
具体的には、高強度の超音波を周波数f
1の試料に発生させた場合、高調波歪みにより周波数nf
2の調波が生成される(nは整数の倍数)。AFMカンチレバーの検出により、nf
2−f
1≒f
0(f
0はカンチレバー共振周波数)とすることによって、選択した調波の増幅検出が可能になる。たとえば、周波数f
2が200MHz、周波数f
1が1001MHzである場合、周波数f
2の第5調波によって、nf
2−f
1=1MHzのビート周波数が生成される。AFMカンチレバーの共振周波数が1MHz、Q値が1000である場合、たとえば超音波調波の検出感度が1000倍高まり、同時に励起波の3次元空間分解能が増大する。これをnmスケールAFMチップの相互作用による近接場検出と組み合わせると、従来にない3次元表面下分解能が達成される。特に、ビート信号はプローブの共振(基本波または調波)に対して調整されることが好ましいが、周波数は共振について検出可能な領域内のいずれであってもよい(すなわち、ピーク点である必要はない)。
【0036】
再び
図1を参照すると、ロックイン増幅器125を用いて、これらの時間により変動する力の振幅および位相を抽出することができる。ロックイン増幅器125は、アナログ電子装置、デジタル計算、またはそれらの組み合わせにより実装できる。周波数混合器127は周波数f
1−f
2の信号を生成し、この信号が参照信号としてロックイン増幅器125へ送信される。非線形相互作用γの水平方向の範囲は、プローブ114のチップと試料122との間の相互作用の接触半径または略接触半径にほぼ相当する非常に小さな領域に限定される。一実施形態によると、1GHzの超音波が試料122から発せられ、その場の変位はプローブ114の下0.01nmである。またAFMプローブ114の頂点に、GHzアクチュエータによって周波数1.001GHzの別の超音波が励起されてもよい。この第2の波は駆動超音波とも呼ばれ、ビート周波数を有するビート信号を生じてもよい。これら2つの周波数の差は、カンチレバーのバネ定数が40N/m、チップ半径が10nmの場合、接触共振周波数が1MHzとなるように選択されてもよい。このため、チップ114の頂点に働く超音波力は、ほぼ測定される信号に対して寄与し、定量化されることもできる。
【0037】
チップ114が試料122に対して走査されてもよく、振幅情報および位相情報が水平方向の位置の関数として記録されてもよい。この走査機構は、簡単のため、
図1には示さないが、試料122、チップ114、またはそれらの組み合わせを走査する1つ以上の圧電走査装置を用いて実装されてもよい。スキャナは、磁歪、電歪、容量、誘導、熱その他の運動誘導機構など、代替となる精密並進機構を使用してもよい。
【0038】
ここで
図3を参照する。
図3には、一実施形態による試料ホルダ128の側面300であり、大型試料122上の広範囲領域の連続的な観察を示す。側面300は、大型試料122上の広範囲領域の観察過程を示す。
図1をもとに記載したように、試料ホルダ128は、試料122の下に超音波変換器132を配置させる内部キャビティ130を含む。試料ホルダ128は、AFMプローブ114と音響アクチュエータ132とが試料122の異なる領域に照準を定めるように、水平方向に並進されることができる。
図3には例として2つの位置を示しているが、この技術によって任意の一連の試料領域を観察することが可能となる。実際、試料の下方の超音波アクチュエータ132と、光学検出レーザ117および検出器126とを用いることにより、従来の音響顕微鏡法の技術で試料122の大きな領域を迅速に走査できる。この走査方法により粗いプレビュー走査を行って、AFM110に特定の対象領域(たとえば、音響サーベイ走査で識別される注目領域に超音波を集束させることができる。
【0039】
一実施形態では、試料ホルダ128は並進ステージ129によって並進される。適切な並進ステージの一例としては、高速エアベアリングステージがある。他の例としては、交差ローラベアリングステージ、ボールベアリングステージ、ドラッグステージ、フレクシャーステージ、または所望のアクセス可能な試料領域に一致した運動範囲を有する他の機械的並進装置がある。並進ステージは代替として、超音波源の角度とその出力方向とを変化させるジンバルステージまたは傾斜ステージであってもよい。これらのステージは、ステッパモータ、サーボモータ、リニアモータ、圧電装置、または所望の範囲でステージを移動可能な他の装置によって駆動可能である。
【0040】
図面では便宜上、試料ホルダ128の底部をエアベアリング面131として示した。これは実現可能な実装であるが、実際には試料ホルダ128と並進ステージとは別個のユニットであってもよい。並進ステージは、通常、2以上の水平軸方向(たとえば、XY平面)における並進が可能であり、試料122の高さを調節するために、別の垂直並進ステージを備えてもよい。
【0041】
試料の上方の水平位置の関数としての振幅および位相のデータは、その後試料122の
表面下構造の再構成に用いられてもよい。この変換処理により、測定される振幅および位相の分布に一致する可能性が最も高い構造および組成が計算される。可能な場合、試料の期待される組成および構造の情報を用いて、より速く正確に振幅および位相のデータを変換できる。得られるデータは保存および表示することができ、たとえば試料122の各垂直層の詳細な構造および/または組成を詳細に示すことができる。試料122の組成および構造についての他の情報は、異なる周波数f
1およびf
2の関数として振幅および位相遅延のばらつきを測定することによって取得されてもよい。これら多スペクトル測定は、所望の範囲を通じて励起周波数のスイープまたはチャープを行うことによって可能である。
【0042】
表面下特性210の深度が不明確である場合、特に超音波源132が試料に上面から結合され、第2超音波源の同じ側がチップを通じて接続される場合、複数の技術のうちの1つを用いることができる。第1に、焦点の合った超音波アクチュエータを用いることにより、焦点深度を、したがって励起される試料領域を制限できる。第2に、パルス−エコー/超音波トラスデューサからの飛行時間測定を用いて、界面層の垂直位置を特定できる。既存の音響顕微鏡技術により、たとえば、埋設した界面層の位置特定がnmスケールまたはnmスケール未満の精度で可能になる。この目的のために、パルス生成器が超音波アクチュエータに接続されてもよく、生じたエコーはエコー受信器133によって検出される。パルスとエコーとの間の時間遅延は超音波によって伝わる距離を表すため、表面下界面の垂直位置を特定できる。また、カンチレバーチップを用いて、試料本体を通じるパルスの伝送時間を検出できる。このような飛行時間自体がビート信号の位相遅延を表しており、位相の変化による深度情報が得られる。
【0043】
表面下構造を正確に再構成する際の別な補助として、たとえば入射超音波の角度を調節することによって、トモグラフィ技術が使用できる。これは、超音波源を回転させることによって、またはたとえばフェイズドアレイアクチュエータを用いて出射超音波の方向を案内することによって使用可能となる。複数の入射角度において振幅および位相に関する複数の2次元写像を組み合わせることにより、表面下構造の細部を正確に再構成できる。
【0044】
図4は、一実施形態による、AFMプローブ114の直上に局所的なGHzレベルの励起を生成することによって非線形のチップと試料とのミキシングを行うシステム400を示す。酸化亜鉛チップ(ZnO)の組み込まれたAFMプローブ114は、高周波の超音波源に結合されてもよい。共平面導波路420を介して、駆動電圧がGHzチップアクチュエータ410へ供給される。共平面導波路320は、電極422を有する基体424を備えてもよい。厚さ約2.9μmの酸化亜鉛を提供することによって、1GHzの周波数を達成できる。アクチュエータ420の板パターンの形状により、チップ頂点における最大電力の発生を判定する。音響放射のモデル化およびチップ形状のプロセス設計により、頂点における超音波出力の最適化が容易になる。
図4に示すように、2つの波Z
tip,Z
sを混合することによって、カンチレバーの共振周波数でビート力F
tが生じる。ビート力の大きさは、AFMが制御するチップと試料との相互作用の関数である。
【0045】
図5は、一実施形態による、非接触(正の間隔)から反発接触(負の間隔)まで、チップが試料と相互作用するときのビート力の変化を示すグラフ500である。グラフ500に示すように、チップ波Z
tipの必要な強度はほんのわずかである。応答曲線500は、最大ビート力がゼロ間隔付近に決定されることを示している。この最大値は、ビート信号検出における所望の動作状態に対応している。AFMは、一定な垂直偏光(接触モード)または一定なねじれ共振振幅(TRモード(商標))のいずれかをフィードバックループにより維持することによって、このような間隔を保持できる。
【0046】
特に、レバーが柔軟である(すなわち、これに関してローパスフィルタとして動作する
)とすると、プローブもしくはカンチレバーの基体またはその付近の超音波駆動を含むことには、プローブチップに対する超音波エネルギーの結合が非効率的であるという不利が存在する。一方、組込型の圧電素子(たとえば、ZnO)を備える自己駆動プローブを用いて第2の超音波エネルギー源410でプローブを駆動すると、チップに対する超音波エネルギーの結合が一層効率的に行われ、ビート信号の生成が容易になる。
【0047】
有利には、上記のシステムおよび方法は、既存のシステムを超える数々の利点を備えている。AFMチップ114と同じ位置にあるレーザ音響源の使用により、上記システムは超音波励起の位置決めを任意に行える。また、高調波超音波源132と近接場AFM検出との使用により、上記のシステムおよび方法は表面下の方位分解能を、回折限界の2倍以上に高めることができる。
【0048】
本発明を実施する発明者らが意図する最も好ましい態様について記載したが、本発明の実施はこれに制限されない。本発明の根本概念の精神および範囲から逸脱せず、本発明の特徴の様々な追加、変更、および再構成が行われることは明らかであろう。本発明の範囲内ではあるが特に記載されていない、上記実施形態に対する他の変更の範囲については、添付の特許請求の範囲および他の添付書類から明らかとなるであろう。