(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
テープ状の基材と、該基材上に設けられた中間層と、該中間層上に設けられた酸化物超電導層と、該酸化物超電導層上に設けられた安定化層を備えて構成された酸化物超電導導体に、レーザービームを前記安定化層形成側の外方から基材の長さ方向に沿って照射し前記安定化層と酸化物超電導層と中間層と基材を溶断することにより、前記酸化物超電導導体をその幅方向に複数に分割して酸化物超電導線材を製造する場合、レーザービームとして連続波レーザーのレーザービームを用い、前記連続波レーザーのレーザービームにより前記基材の溶断面に形成される凹凸部を最大高さRzにおいて5μm以下とするとともに、前記レーザービームの照射に伴って前記酸化物超電導導体に噴出されるシールドガスにより、前記レーザービームにより溶融させた前記安定化層、前記酸化物超電導層、前記中間層および前記基材の溶融物を吹き飛ばして除去することを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。
テープ状の基材と、該基材上に設けられた中間層と、該中間層上に設けられた酸化物超電導層と、該酸化物超電導層上に設けられた安定化層を備えて構成された酸化物超電導導体を、その幅方向にレーザービームにより複数に溶断して形成された酸化物超電導線材であって、前記基材の長さ方向に沿って形成されたレーザービームによる溶断部分に形成されている凹凸部の最大高さRzにおいて5μm以下とされたことを特徴とする酸化物超電導線材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来の酸化物超電導線材の製造方法において、特許文献1に記載の如く切断部を有するカッターバイトを用いて機械的に酸化物超電導導体を切断する方法であると、酸化物超電導導体が積層構造であるがために、切断面付近で酸化物超電導層に剥離や変形が必然的に発生し、超電導特性の劣化を生じるおそれが高い問題がある。このように酸化物超電導層に剥離が一端発生してしまった箇所は切断後に機械的に剥がれやすい部分となり、剥離強度が低下する問題がある。
また、特許文献2に記載の如く酸化物超電導導体にレーザービームを照射し、酸化物超電導層を分割する方法にあっては、一例としてレーザー周波数10kHz、エネルギー4Wのパルスレーザーを用い、レーザースポット径を30μm程度に絞ってテープ状の酸化物超電導導体に照射し、酸化物超電導層を溶断している。
しかしながら、本発明者がこのパルスレーザーを用いて上述の積層構造の酸化物超電導導体を切断し、所定幅の1本の酸化物超電導導体から複数本の酸化物超電導線材を製造してみたところ、金属基材テープからその上方のAgの安定化層までの溶断部分に連続的に波形の不定形の凹凸部分が発生することを知見した。
【0008】
前記酸化物超電導導体に用いられている基材テープは強度が高い金属からなるので、基材テープの溶断部分に沿って安定化層の部分も含めて連続的に不定形の凹凸部分が生じていると、この凹凸部分が刃物のような形態に加工されていることになる。
ところで、酸化物超電導体は、超電導マグネット用の超電導コイルや送電用途の超電導ケーブルに利用するとしても、いずれの用途においても絶縁処理がなされる。この絶縁処理は、例えば
図7に示すように、基材テープ100の上に中間層と酸化物超電導層と安定化層などの積層物101を備えた酸化物超電導線材102に対し、樹脂製の絶縁テープ103を巻き付けすることでなされている。
しかし、本発明者が試作した結果、基材テープ100の両端縁に連続的な刃物状の凹凸部分を有する酸化物超電導線材102に樹脂製の絶縁テープ103を巻き付けて絶縁処理を行うと、連続的に先鋭な凹凸部分によって絶縁テープ103が切られてしまい、絶縁被覆が困難になるという問題を生じることが分かった。
【0009】
本発明は、以上のような従来の実情に鑑みなされたものであり、レーザービームにより酸化物超電導導体を切断する方法を実施しても基材の切断面に絶縁処理の障害になる凹凸部分を生じないように切断加工することができる酸化物超電導線材の製造方法と得られた酸化物超電導線材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、テープ状の基材と、該基材上に設けられた中間層と、該中間層上に設けられた酸化物超電導層と、該酸化物超電導層上に設けられた安定化層を備えて構成された酸化物超電導導体に、レーザービームを前記安定化層形成側の外方から基材の長さ方向に沿って照射し前記安定化層と酸化物超電導層と中間層と基材を溶断することにより、前記酸化物超電導導体をその幅方向に複数に分割して酸化物超電導線材を製造する場合、レーザービームとして連続波レーザーのレーザービームを用い
、前記連続波レーザーのレーザービームにより前記基材の溶断面に形成される凹凸部を最大高さRzにおいて5μm以下とするとともに、前記レーザービームの照射に伴って前記酸化物超電導導体に噴出されるシールドガスにより、前記レーザービームにより溶融させた前記安定化層、前記酸化物超電導層、前記中間層および前記基材の溶融物を吹き飛ばして除去することを特徴とする。
連続波レーザーのレーザービームを照射し、基材を含めて酸化物超電導導体を溶断し、分割すると、連続波レーザーのレーザービームにより溶断された酸化物超電導導体の溶断部分について、生成する凹凸部を従来のパルスレーザーにより溶断した場合よりも遙かに小さな凹凸部にすることができる。このため、レーザービームによる酸化物超電導導体の溶断部分を従来よりも滑らかに形成できる。また、この滑らかな溶断部分を備えた酸化物超電導線材であるならば、その外周に絶縁テープの巻き付けを行って絶縁処理する場合、絶縁テープが溶断部分の凹凸部によって切れてしまうおそれがなくなり、酸化物超電導線材の絶縁処理に支障を生じない。
【0011】
レーザービームにより基材と安定化層の溶断面に生成する凹凸部を最大高さRzにおいて5μm以下とするならば、基材溶断部を滑らかに形成できる。よって、溶断部分を囲むように張力を付加し絶縁テープを巻回して酸化物超電導線材を絶縁処理する場合、絶縁テープが切れてしまうことがない。
本発明において、前記連続波レーザーのレーザービームによる溶断後、前記基材と中間層と酸化物超電導層と安定化層の全体周囲を囲むように絶縁テープを巻回する工程を備えることができる。
基材側縁と安定化層側縁の溶断面の凹凸部が小さく、溶断面が滑らかに加工されているため、張力を印加して酸化物超電導線材の外周に絶縁テープを巻き付けたとしても、絶縁テープが切れない。このため、絶縁テープの巻き付けによって絶縁処理を施した酸化物超電導線材を得ることができる。
【0012】
本発明の酸化物超電導線材は、テープ状の基材と、該基材上に設けられた中間層と、該中間層上に設けられた酸化物超電導層と、該酸化物超電導層上に設けられた安定化層を備えて構成された酸化物超電導導体を、その幅方向にレーザービームにより複数に溶断して形成された酸化物超電導線材であって、前記基材の長さ方向に沿って形成されたレーザービームによる溶断部分に形成されている凹凸部の最大高さRzにおいて5μm以下とされたことを特徴とする。
レーザービームにより基材の溶断面に生成する凹凸部を最大高さRzにおいて5μm以下とするならば、基材側縁の溶断面を滑らかにすることができる。
【0013】
本発明の酸化物超電導線材は、前記基材と中間層と酸化物超電導層と安定化層の積層体を囲むように絶縁テープが巻回されてなる。
基材側縁の溶断部分の凹凸が5μm以下の最大高さRzに形成されているため、張力を加えて絶縁テープを巻き付けたとしても、絶縁テープが切れ難い。このため絶縁テープの巻き付けにより確実に絶縁被覆を形成できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レーザービームによる基材の溶断部分に大きな凹凸部が生じていない、溶断部分の滑らかな酸化物超電導線材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る酸化物超電導線材の製造方法の一実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係る方法に基づき、テープ状の酸化物超電導導体を連続波レーザーにより切断している状態を示す説明図、
図2は同連続波レーザーを発生させるために用いるファイバーレーザー装置の概略構成図、
図3は切断対象となる酸化物超電導導体と切断後の酸化物超電導線材を示す斜視図である。
【0017】
本発明において切断対象とする酸化物超電導導体1は、
図3(a)に示す如く金属製のテープ状の基材3の上に、中間層5と酸化物超電導層6と安定化層7が積層されてなり、この酸化物超電導導体1を後述する如く連続波レーザーのレーザービームによって切断することにより、
図3(b)に示す如く酸化物超電導導体1よりも幅狭の複数本(
図3(b)では4本)の酸化物超電導線材10を得ることができる。
この酸化物超電導線材10は、酸化物超電導導体1をその幅方向に切断して構成されているので、幅が狭い点を除くと他は全く同等構造であり、酸化物超電導線材10は、金属製のテープ状の基材3aの上に、中間層5aと酸化物超電導層6aと安定化層7aが積層されてなる。
【0018】
前記酸化物超電導線材10は、より詳細には
図4に示す如く、基材3aの上面に拡散防止層11とベッド層12と配向層15とキャップ層16とからなる中間層5が積層され、その上に酸化物超電導層6aと安定化層7aを積層して構成されているが、
図3では図示の簡略化のために中間層5を1層のように描いている。なお、拡散防止層11とベッド層12とキャップ層16は必須ではなく、場合によっては略しても良い。
図4に示す酸化物超電導線材10は、安定化層7aの上に更に厚い安定化層8を積層した状態を示しており、酸化物超電導線材10と安定化層8からなる積層体の全周に樹脂テープ17を巻き付けて絶縁層18が形成されている。
前記安定化層8は、レーザービームによる切断により
図3(b)に示す如く超電導線材10を得た後に、貼り付けあるいはめっきなどにより形成されたものである。
図4に示す構造として絶縁層18で絶縁処理した酸化物超電導線材10をコイル加工することで超電導コイルなどの用途に用いることができ、絶縁層18で絶縁処理した酸化物超電導線材10を用いて送電用の超電導ケーブルなどの用途に用いることができる。
以下に酸化物超電導線材10の各要素について説明する。
【0019】
前記基材3(3a)は、通常の超電導線材の基材として使用することができ、高強度であれば良く、長尺のケーブルとするためにテープ状であり、耐熱性の金属からなるものが好ましい。例えば、ステンレス鋼、ハステロイ等のニッケル合金等の各種高強度高耐熱性の金属材料、もしくはこれら各種金属材料上にセラミックスを配したもの、等が挙げられる。各種耐熱性の金属の中でも、ニッケル合金が好ましい。なかでも、市販品であれば、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)が好適であり、ハステロイとして、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。基材3の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmの範囲とすることができる。
【0020】
拡散防止層11は、基材3(3a)の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si
3N
4)、酸化アルミニウム(Al
2O
3、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいは、GZO(Gd
2Zr
2O
7)等から構成され、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜400nmである。
ベッド層12は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層12は、例えば、イットリア(Y
2O
3)などの希土類酸化物であり、組成式(α
1O
2)
2x(β
2O
3)
(1−x)で示されるものが例示できる。より具体的には、Er
2O
3、CeO
2、Dy
2O
3、Er
2O
3、Eu
2O
3、Ho
2O
3、La
2O
3等を例示することができる。このベッド層12は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜100nmである。
【0021】
配向層15は、単層構造あるいは複層構造のいずれでも良く、その上に積層されるキャップ層16の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から選択される。配向層15の好ましい材質として具体的には、Gd
2Zr
2O
7、MgO、ZrO
2−Y
2O
3(YSZ)、SrTiO
3、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等の金属酸化物を例示することができる。
この配向層15をIBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition)法により良好な結晶配向性(例えば結晶配向度15゜以下)で成膜するならば、その上に形成するキャップ層16の結晶配向性を良好な値(例えば結晶配向度5゜前後)とすることができ、これによりキャップ層16の上に成膜する酸化物超電導層6の結晶配向性を良好なものとして優れた超電導特性を発揮できる酸化物超電導層6を得るようにすることができる。
例えば、Gd
2Zr
2O
7、MgO又はZrO
2−Y
2O
3(YSZ)からなる配向層15は、IBAD法における結晶配向度を表す指標であるΔφ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0022】
キャップ層16は、上述のように面内結晶軸が配向した配向層15の表面に成膜されることによってエピタキシャル成長し、その後、横方向に粒成長して、結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料、であれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、ZrO
2、Ho
2O
3、Nd
2O
3等が例示できる。キャップ層の材質がCeO
2である場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
例えばCeO
2によって構成される。キャップ層16は、上述のように自己配向していることにより、配向層15よりも更に高い面内配向度、例えばΔφ=4〜6゜程度を得ることができる。
例えば、CeO
2層は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができる。CeO
2層の膜厚は、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましいが、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、50〜5000nmの範囲とすることができる。
【0023】
酸化物超電導層6(6a)は公知のもので良く、具体的には、REBa
2Cu
3O
y(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のものを例示できる。この酸化物超電導層6として、Y123(YBa
2Cu
3O
7−X)又はGd123(GdBa
2Cu
3O
7−X)などを例示することができる。
酸化物超電導層6は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザー蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相成長法(CVD法)等の物理的蒸着法;熱塗布分解法(MOD法)等で積層することができ、なかでも生産性の観点から、PLD(パルスレーザー蒸着)法、TFA−MOD法(トリフルオロ酢酸塩を用いた有機金属堆積法、塗布熱分解法)又はCVD法を用いることができる。
【0024】
前記酸化物超電導層6の上に積層されている第1番目の安定化層7aはAgなどの良電導性かつ酸化物超電導層6と接触抵抗が低くなじみの良い金属材料からなる層として形成される。Agの安定化層7を成膜するには、スパッタ法などの成膜法を採用し、その厚さを1〜30μm程度に形成できる。
第2番目の安定化層8は酸化物超電導層6aの安定化のために設けられ、酸化物超電導層6aが常電導状態に転移することを防止するために電流のバイパス用として設けられているので、CuやAlまたはそれらの合金などの良導電性の金属材料から形成される。なお、酸化物超電導線材10を限流器などの目的に適用する場合は安定化層8として高抵抗材料を用いることが好ましいので、NiCrなど、CuやAg、Alに対して高抵抗の金属材料から構成することができる。
安定化層8は安定化層7よりも厚く形成して電流のバイパス路として十分な容量を確保するため、100〜300μm程度の厚さに形成する。その場合、半田や導電性接着剤による貼り付け法あるいはめっき法などを用いて安定化層7の上に形成することができる。
【0025】
本実施形態においては、厚い安定化層8を設ける前に、酸化物超電導層6上にAgの安定化層7を形成した
図3(a)に示す酸化物超電導導体1の状態からこれを切断して幅狭の酸化物超電導線材10を製造する場合に連続波レーザーのレーザービームを用いて切断する。
図1は、連続波レーザーを発生させて酸化物超電導導体1を切断するために用いる切断装置20の概略構成を示すもので、この例の切断装置20は、複数の(
図1の例では3基の)励起用レーザーの発光装置21と、これら複数の光源21からの励起用レーザーを結合するビームコンパイナとしての結合器22と、この結合器22に接続されたダブルクラッドファイバーからなる増幅用ファイバー23と、この増幅用ファイバー23に接続された伝送用ファイバー24と、伝送用ファイバー24の先端部に接続された出力部25を主体として構成されている。
【0026】
増幅用ファイバー23は、一例として、光増幅媒体である希土類添加ファイバーを用いることができる。希土類添加ファイバーとして、希土類元素、例えば、Yb(イッテルビウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Nd(ネオジム)、Pr(プラセオジム)等の希土類元素が添加されたコアと、コアの外周を囲む第1クラッドと、この第1クラッドを囲む第2クラッドとからなる希土類添加ダブルクラッドファイバーを用いることができる。
【0027】
前記出力部25は、伝送用ファイバー24からのレーザー出力を導入する筒型の案内部26と、この案内部26の上部側に収容されている光学装置27と、案内部26の下部側に接続されているノズル体28と、このノズル体28の下部側に接続されたガス供給源29を主体として構成されている。
前記光学装置27は複数の光学レンズを備えて構成され、これらの光学レンズの相互位置を調整することにより、伝送用ファイバー24から入射されたレーザー光の径を絞ってノズル体28の先端外方において適切なビーム径になるようにレーザー光を集光照射することができる。ノズル体28の上部側壁にはガス導入部30が形成されているとともに、このガス導入部30に不活性ガスなどのガス供給源29が接続されている。このガス供給源29からノズル体28の内部に不活性ガスなどのシールドガスを送ることによりノズル体28の先端開口からシールドガスを噴出できるように構成されている。
【0028】
前記切断装置20を用いて酸化物超電導導体1を切断するには、
図1に示す如く水平に設置した酸化物超電導導体1の例えば中央部にノズル体28の先端を位置させ、この状態から酸化物超電導導体1の中央部に連続波レーザーのレーザービームを照射するとともに、酸化物超電導導体1をその長さ方向に所定の速度で移動させる。
切断装置20において励起光の発光装置21から接続用ファイバー21aを介し結合器22に入力したマルチモードの励起光は、結合器22において光結合されて増幅用ファイバー23に入力され、増幅用ファイバー23において波長の増幅と出力増幅がなされ、シングルモードに変換され、伝送用ファイバー24を介し連続波レーザーとして出力される。
本実施形態において適用する連続波レーザーの一例として、中心波長1080nmの連続波レーザーを用いることができ、ビーム出力300W、ノズル体8の先端外方にレーザービームを集光照射する場合のビーム先端側のビーム径を10μm〜100μm程度、例えば20μmとすることができる。連続波レーザーの中心波長は、1050〜1100nm程度の波長とすることができる。
【0029】
伝送用ファイバー24から出力部25に達したレーザービームに対し、光学装置27を調節して中心波長1080nmの連続波レーザーのレーザービーム径を20μm程度に絞り、ノズル体28の先端から上述の如く酸化物超電導導体1の中央部に照射すると、酸化物超電導導体1の中央部の安定化層7と酸化物超電導層6と中間層5と基材3をレーザービームにより溶断することができる。
また、レーザービームを安定化層7の外側から照射しているので、酸化物超電導導体1において安定化層7と酸化物超電導層6と中間層5と基材3の順にレーザービームの照射部分を順次溶融できるが、ノズル体28の先端から噴出されているシールドガスが、溶融させた安定化層7と酸化物超電導層6と中間層5と基材3の溶融物を吹き飛ばして除去する。また、レーザービームが基材3を貫通した状態においてノズル体28の先端から噴出されているシールドガスが、溶融させた安定化層7と酸化物超電導層6と中間層5と基材3を酸化物超電導導体1の裏面側もに吹き飛ばして除去する。これらの作用により、レーザービームによって溶断した部分に、安定化層7と酸化物超電導層6と中間層5と基材3の溶融物に起因する溶融ドロスの付着を阻止できる。なお、レーザービームの酸化物超電導導体1に対する照射角度は90゜でもよいが、1〜2゜程度傾斜させても良い。これは、Agの安定化層7の光反射率が高いので、戻り光が光ファイバー24、23側に戻らないようにするためである。
このレーザービームによる溶融開始状態から、酸化物超電導導体1を順次その長さ方向に所定の速度、例えば150mm/sで移動させることにより、酸化物超電導導体1をその長さ方向全長に渡り中央部で溶断して2本の酸化物超電導線材に2分割することができる。
以上の操作を酸化物超電導導体1の幅方向に所定間隔毎に繰り返し複数回行えば、例えば、4回行うことにより
図3(b)に示す如く酸化物超電導導体1を4分割することができる。なお、酸化物超電導導体1が長尺のものである場合は、その全長に渡りレーザービームを走査するのに時間がかかるので、4基の出力部25を並列状態で設けてレーザービームを4本同時に照射できる構成とすることにより、酸化物超電導導体1の全長に対し1回のレーザービーム走査でもって4分割できるようにしても良い。
【0030】
前述の如く連続波レーザーのレーザービームにより酸化物超電導導体1を溶断した場合、酸化物超電導導体1の溶断部分において従来技術のパルスレーザーを用いて溶断する方法よりも溶断部分を滑らかに形成できる。
図5は連続波レーザーのレーザービームにより溶断して得られた酸化物超電導線材10の溶断部分を平面視した場合の一例を示す部分拡大図である。
このように酸化物超電導線材10の溶断部分は、拡大平面視すると凹凸部10cが酸化物超電導線材10の長さ方向に(
図5の左右方向に)多数形成されているが、本実施形態の如く連続波レーザーのレーザービームを用いてビーム径20μmに設定して上述の条件で溶断すると、この凹凸部10cの最大高さRzを5μm以下に形成できる。
【0031】
従来技術において用いられているパルスレーザーのレーザービームは、レーザーの出力が極めて高いピーク出力のものをパルス状に交互に繰り返し出力することで対象物を溶断する。このパルスレーザーのレーザービームでは、酸化物超電導導体1の溶断を行う場合、凹凸部の最大高さRzが10μmよりも大きくなり、例えばYAGレーザーで溶断した場合、10〜20μmの最大高さの凹凸部が生成する。
また、短波長のレーザーでは酸化物超電導導体1を溶断するための出力が不足し、酸化物超電導導体1の溶断自体ができないとともに、波長の長いCO
2レーザーなどではAgの安定化層7の光反射率が高いので、CO
2レーザーを照射しても安定化層7の光反射が多くなって高速に酸化物超電導導体1を溶断できなくなる。
これらに対し本実施形態において用いた連続波レーザーのレーザービームでは、最大高さ5μm以下の凹凸部を有するように溶断面を従来技術よりも滑らかに加工できる。
【0032】
また、前記酸化物超電導導体1が長尺の場合、酸化物超電導導体1をリールなどに巻き付けておき、リールから順次繰り出して他のリールに巻き付け移動させる途中においてレーザービームを照射して酸化物超電導導体1をその全長にわたり酸化物超電導線材10に分割することが好ましい。
【実施例】
【0033】
「実施例1」
ハステロイC276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ100mのテープ状の基材を用意し、このテープ状基材の表面にAl
2O
3からなる厚さ100nmの拡散防止層を形成し、更にその上にイオンビームスパッタ法を用いてY
2O
3からなる厚さ30nmのベッド層を形成した。イオンビームスパッタ法の実施にあたりテープ状の基材はスパッタ装置の内部においてリールに巻回しておき、一方のリールから他方のリールに繰り出す間に成膜できるようにしてテープ状基材の全長にわたり、拡散防止層とベッド層を形成した。次に、イオンビームアシスト蒸着法によりベッド層上に厚さ10nmのMgOの配向層を形成した。この場合、アシストイオンビームの入射角度は、テープ状基材成膜面の法線に対し、45゜とした。
【0034】
続いてパルスレーザー蒸着法(PLD法)を用いてMgOの配向層上にCeO
2の厚さ500nmのキャップ層を形成した。更に、このキャップ層上にパルスレーザー蒸着法によりGdBa
2Cu
3O
7−xの厚さ1μmの酸化物超電導層を形成した。
次に、スパッタ法により酸化物超電導層上に厚さ10μmのAgの安定化基層を形成し、酸素アニールを500℃で行った。以上の工程により、テープ状の長尺の基材上に拡散防止層とベッド層と配向層とキャップ層と酸化物超電導層と安定化層を備えた構造の酸化物超電導導体を形成した。
【0035】
前記酸化物超電導導体に対し、
図1に概略構成を示す切断加工装置を用い、中心波長1080nmの連続波レーザーのファイバレーザーのビームを照射し、出力300W、ビーム径20μm、加工速度150mm/sとして、10mm幅の酸化物超電導導体を2本の酸化物超電導線材に分割する切断加工を行った。切断加工に際し、ノズル体の先端から窒素ガスを酸化物超電導導体の上面に噴出することで切断加工面に溶融ドロスが付着しないように加工した。この操作によってハステロイテープ基材の切断面には最大高さRz=3〜5μmの凹凸部が生成されていたが、肉眼観察では大きな凹凸部分は見られず、滑らかな切断面であった。
得られた幅5mmの酸化物超電導線材に対し、ポリイミド樹脂製の幅5mm、厚み12.5μmの絶縁テープを張力150gで巻き付けて絶縁処理したところ、絶縁テープを切ることなく巻き付けることができ、絶縁処理ができた。
また、
図6に示す如く切断加工した酸化物超電導線材10の安定化層7の上面に外径2.7mmの円盤部35とロッド部36を有するアルミ合金製のピン部材37をエポキシ樹脂接着剤で接着し、ロッド部36を酸化物超電導線材10に対して垂直方向に引っ張る剥離試験を行った。前記連続波レーザーのレーザービームで切断した酸化物超電導線材の試料5個に対し、同様の剥離試験を行ったところ、剥離力の平均値は約30Kgfであった。
【0036】
「比較例1」
実施例において使用した酸化物超電導導体と同じ構成の酸化物超電導導体を用意した。中心波長355nmのYAGレーザーを使用し、周波数30KHz、出力2.4W、ビーム径20nm、加工速度5mm/sの条件にて先の10mm幅の酸化物超電導導体を2分割する切断加工を行った。
YAGレーザーでは、上述の値から加工速度を上げると酸化物超電導導体に切断できない箇所が発生した。あるいは、上述の値から加工速度を上げると酸化物超電導導体の基材の切断面に大きな凹凸部分が発生するので、上述の加工速度に設定して凹凸部分が発生しないように切断加工し、酸化物超電導線材を得た。YAGレーザーによる切断においても窒素ガスを酸化物超電導導体の上面に吹き付けながら切断を行った。なお、YAGレーザーによる切断面においては、前述の加工速度であっても切断面には最大高さRz:10〜20μmの凹凸部が生じていた。
実施例において用いたものと同等の樹脂テープを酸化物超電導線材に同等張力で巻き付けたところ、樹脂テープの一部に切れ目を生じてしまった。
得られた酸化物超電導線材に対し実施例と同等の条件でピン部材37を用いた剥離試験を行った。前記YAGレーザーで切断して得た酸化物超電導線材の試料5個に対し、同様の剥離試験を行ったところ、剥離力の平均値は約28Kgfであった。
比較例1の試料では、樹脂テープに部分的に切れ目が入ったが巻き付けは可能であった。なお、この比較例1の試料を作成する際の加工速度は5mm/sであり、極めて遅いため、酸化物超電導導体のような長尺の超電導導体を加工するには速度が遅く、不向きである。
【0037】
「比較例2」
比較例1で用いたYAGレーザーによる切断条件のうち、加工速度のみを10mm/sに変更して先の10mm幅の酸化物超電導導体を2分割する切断加工試験を行った。
この結果、酸化物超電導導体の切断面にRz:20μmを超える大きな鋭利な凹凸部が発生した。この切断面を有する酸化物超電導導体に比較例1と同等条件にて樹脂テープを巻き付けてみたところ、巻き付け中に樹脂テープが切れてしまう現象が発生した。この樹脂テープの切断位置を調べたところ、基材端縁の切断面の凹凸部に沿って切断箇所が生成されたので、巻き付け張力によって凹凸部に押し付けられた樹脂テープが鋭利かつ大きな凹凸部により切断されたものと思われる。
このように、YAGレーザーを用いた酸化物超電導導体の切断にあたり、加工速度を上昇させると切断面に大きな凹凸部が発生し、巻き付けた樹脂テープが切れてしまうので、長尺の酸化物超電導導体を切断する際、効率的切断が可能な速度で切断することができないことが明らかになった。
【0038】
「比較例3」
実施例において使用した酸化物超電導導体と同じ構成の酸化物超電導導体を用意した。中心波長1080nmのファイバーレーザーを使用し、周波数60KHz、出力30W、ビーム径20nm、加工速度10mm/sの条件にて先の10mm幅の酸化物超電導導体を2分割する切断加工を行った。
この条件のファイバーレーザー(パルス出力)では、上述の値から加工速度を上げると酸化物超電導導体に切断できない箇所が発生した。あるいは、上述の値から加工速度を上げると酸化物超電導導体の基材の切断面に大きな凹凸部分が発生するので、上述の加工速度に設定して凹凸部分が発生しないように切断加工し、酸化物超電導線材を得た。このファイバーレーザーによる切断においても窒素ガスを酸化物超電導導体の上面に吹き付けながら切断を行った。なお、このファイバーレーザーによる切断面においては、前述の加工速度であっても切断面には最大高さRz:10〜20μmの凹凸部が生じていた。
実施例において用いたものと同等の樹脂テープを酸化物超電導線材に同等張力で巻き付けてみたところ、樹脂テープに部分的に切れ目が入ってしまった。
前記ファイバーレーザーで切断して得た酸化物超電導線材の試料5個に対し、同様の剥離試験を行ったところ、剥離力の平均値は約29Kgfであった。
なお、パルス出力のファイバーレーザーを用いて切断速度を20m/sに設定したところ、切断面に生成する凹凸部のRzが20〜30μmに増大した。これは、切断速度が上昇すると酸化物超電導導体の被切断部分に照射されるパルス波の重なりが悪くなることが原因と思われる。
【0039】
「比較例4」
実施例において使用した酸化物超電導導体と同じ構成の酸化物超電導導体を用意した。この酸化物超電導導体を切断加工刃によって機械的に2分割する加工を施してみたが、切断加工中にAgの安定化層が2カ所で剥離する欠陥部分を生じてしまった。
前記切断刃で切断して得た酸化物超電導線材の試料5個に対し、同様の剥離試験を行ったところ、剥離力の平均値は約3Kgfであった。