【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による防音パネルは、
多数の開口が設けられた正面板を有している筐体と、筐体内に所要間隔で配された複数枚の反射板と、反射板間に配された吸音材とを備えている防音パネルであって、複数枚の反射板が一体化された反射板組立体が形成されて、該反射板組立体が筐体に固定されて
おり、反射板組立体は、1枚の板材から各反射板に相当する部分を切り起こすことで形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
所要間隔で配された複数枚の反射板は、ある音源に対して所定の角度で互いに略平行に設けられることによって、壁面に取り付けられたときに、壁面と音源(例えば車輌)との間で多重反射して壁外部に漏れていた騒音の多重反射部分の方向を変え、吸音パネルへの入射回数を意図的に増やすことで減衰量を増すことができる。また、吸音材を反射板で斜めに仕切ることにより、通常は壁に垂直方向を吸音材の厚みとみなすが、反射板に平行な厚みに吸音材があるとみなされ、幅広い周波数での吸音効果が得られるようになる。さらに、反射板間で騒音が多重反射するため、音の減衰量が大きくなることによって、防音効果を増大することができる。
【0009】
そして、これらの複数枚の反射板が一体化されることで、反射板組立体が形成され、この反射板組立体が筐体に固定されることで、個々の反射板を筐体に固定する工程が不要となり、防音パネルの組立て(製造)の手間を大幅に少なくするすることができる。こうして得られた防音パネルを設置面に所要数取り付けていくことで、騒音低減が必要な箇所に防音パネルを設置することができる。
【0010】
防音パネルは、基本的に長方形状とされ、縦型(垂直方向に長く水平方向に短い)で使用されることがあり、また、横型(水平方向に長く垂直方向に短い)で使用されることがある。1つの筐体内に配置される反射板組立体は、1つであってもよく、また、2つ以上とされて、筐体内において左右および/または上下に並んで配置されるようにしてもよい。
【0011】
複数枚の反射板が一体化された反射板組立体は、垂直状の連結部と連結部から傾斜方向に張り出した複数枚の反射板からなるものとされる。このような反射板組立体を得るには、例えば、連結部と反射板とが別部材とされて、長尺状の連結部材(連結部)に反射板が適宜な手段(溶接、リベット、ねじ等)で一体化されるようにしてもよいが、1枚の板材から反射板組立体を形成することがより好ましい。このような反射板組立体は、例えば、1枚の板材から各反射板に相当する部分を切り起こすことで形成することができ、また、1枚の長尺状の板材を長さ方向に所定間隔で所要範囲を折り込むようにして、折り込まれて重なった部分を反射板、折り込まない部分を連結部として、これらを交互に配置することで形成することもできる。
【0012】
反射板は、1枚だけでは吸音効果が不十分であり、複数枚設けられる。反射板は、ある音源に対して所定の角度で互いに隣接する少なくとも2枚が略平行であればよく、他の反射板は所定の角度を保ち非平行でお互いに交差するように設けられていてもよい。また、反射板が水平から傾くことで、内部の吸音材の見かけ厚さが厚くなり、吸音効果が増大する。
【0013】
本発明において略平行とは、厳密な意味での平行のみを意味するのではなく、上記騒音の多重反射の反射の方向を変えうる程度の角度を許容する意味であり、通常は互いに隣接する反射板が±10°以内にあればよい。
【0014】
反射板の角度は音源から入射する音の方向と反射板のなす角度が10°から170°で、より好ましい角度は斜め上向きに(傾斜した反射板の下部が防音壁に固定された状態で)15°から75°の範囲である。防音壁は通常は鉛直に設置されているので反射板は鉛直に対し15°から75°の範囲の角度をなす。このようにすることで、反射板による反射効果を高いものとすることができる。
【0015】
反射板(反射板組立体)の材質は、必要な剛性、耐久性を満たせば、金属、樹脂、木製合板等でよいが、耐久性の面からは、スーパーダイマ鋼板(商品名)、ZAM鋼板(商品名)などの高耐食性メッキ鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板などのメッキ鋼板が好ましく、重量の面からはアルミニウム板が好ましい。
【0016】
反射板の面密度は、0.05g/cm
2以上であることが好ましい。0.05g/cm
2未満では反射量が少なく吸音効果が小さい。反射板の面密度の上限は特に限定されないが、重量面から好ましくは7g/cm
2である。反射板の面密度が0.05g/cm
2以上であることによって、音の反射量が増大し、音が外に漏れにくくなる。
【0017】
筺体内部の反射板間の空間に吸音材が充填されることによって、防音壁もしくは防音パネルと車輌などの音源との間で発生する多重反射を吸音することで防音効果が大きくなるのみならず、反射板を設けたことで生じるパネル内の多重反射を取り除く(吸音する)ことでさらに防音効果が向上する。
【0018】
吸音材の材質は特に限定されるものではないが、例えばグラスウール、ロックウール、ポリエステル繊維などの合成繊維、金属繊維等、発泡ウレタン樹脂などの発泡樹脂などが挙げられる。また、グラスウールなどの繊維状吸音材は水分を含むと変形するため、撥水性のものを用いることが好ましい。グラスウール、ロックウールなどの吸音材の密度は性能と重量のバランスから決定されるが、重量軽減のため24〜32kg/m
3程度が好ましい。ポリエステル繊維の密度範囲は10〜40kg/m
3が好ましい。
【0019】
また、用途に応じて耐候性、難燃性、強度等の確保のために繊維・発泡体自体への難燃処理等が施されていてもよいし、少なくとも音源側(正面板に対向する面)にシート状のものが貼り合わされていてもよい。
【0020】
また、従来のパネルでは吸音材がへたった場合に、パネルの一部に吸音材が偏る現象が起こるが、本パネルでは反射板が固定されていることにより、万が一吸音材のへたりが生じても、各反射板間に吸音材が留まることになる。よって、従来パネルに比べて、へたりが生じた場合の性能低下を抑えることができる。
【0021】
グラスウール、ロックウールなどの吸音材は飛散を防止するためガラスクロスや樹脂フィルム等で覆うことが好ましい。撥水グラスウールを撥水ガラスクロス等の被覆材で覆うことによって、グラスウールの飛散が防止されると共に、降雨によるグラスウールの変形が防止される。被覆材として使用される撥水ガラスクロスは特に限定されるものではないが、性能と飛散防止性能とのバランスから目の密度および厚さはEP12D相当からEP18B相当(JIS R 3414)の範囲にあることが好ましい。
【0022】
筐体の材質は、必要な強度、耐久性を満たせば、金属、樹脂などでよい。耐久性の面からは、スーパーダイマ鋼板(商品名)、ZAM鋼板(商品名)などの高耐食性メッキ鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板などのメッキ鋼板が好ましく、重量の面からはアルミニウム板が好ましい。
【0023】
筐体の正面板には、多数の開口が設けられる。開口は、ルーバー状のものとしてもよく、貫通孔としてもよい。開口が設けられる面は、複数でもよく、例えば、防音パネルより上部に音源があり、防音パネル上面に当たって、騒音となるような場合には、筐体上面(天板)にも開口を設けることが好ましい。貫通孔は、例えば当該面を金網やパンチングメタル等で形成してもよい。また、開口率はその面の好ましくは30%以上である。孔径としては、Φ5mm以下が好ましい。正面板の孔径が大きい場合、鳥が内部のグラスウールや被覆材を啄むという問題や、作業時に工具等が孔にあたり被覆材を損傷しやすいという問題等がある。また、雨や太陽光にも曝されやすい。孔径を小さくすることでかつ開口率を30%以上とすることにより、音を導入しつつ、内部を保護することが両立できる。
【0024】
反射板組立体を筐体に固定するには、ボルト、リベット、溶接等あるが、溶接部は、例えばジンクリッチペイントなどで溶接部の耐食性を確保することが好ましい。ボルト、リベットなどを使用する際には、筐体と電位差の小さい材料・メッキを施したものを用いることが電蝕などを防ぐ点で好ましい。
【0025】
略平行に設けられ反射板は、音源に対する角度や位置が著しく変わると性能の低下を招くことから、防音パネル内での位置が経年によりずれることは避ける必要がある。そのためには、反射板は、筐体に1枚ごと固定しておけばよいが、製造における組立では、反射板を1枚ずつ筐体に固定することは非常に煩雑であり、これに代えて、複数枚の反射板が一体化された反射板組立体を筐体に固定することで組立の手間が大幅に減少する。
【0026】
反射板組立体は、1枚の板材から反射板に相当する部分を切り起こすことで形成されていることが好ましい。これにより、防音パネルをより一層容易に製造することができる。
【0027】
反射板組立体を1枚の板材から形成するには、例えばプレス機と金型を用いて、一枚の板材にコの字状の切り目を入れて、これを切り起こすことで連続的に複数の反射板を形成する(残った部分が複数の反射板を連結する連結部となる。)。順送プレス機を用いればこのような製造は可能である。ここで、反射板の幅は、板材の幅よりも狭くする必要があるので、板材の両サイドには、耳が形成されることになり、反射板の幅が狭くなるとともに、反射板間に吸音材を詰め込むと、板材が長手方向に撓みやすいために、作業が二人がかりとなり、作業性が悪化する。そこで、板材の幅をパネル幅よりも大きくしておいて、これに、パネル幅より小さい反射板を形成し、その後、耳を折り曲げることで、板材の両縁に折曲げ縁部を形成して、板材(反射板組立体)の断面を略コの字状とし、反射板組立体の長手方向の剛性を上げることが好ましい。折曲げ縁部は、板材の両縁に設けられることが好ましいが、板材の片縁にだけ設けるようにしてもよい。また、折曲げ縁部は、例えば直角となるように1段設ければよいが、例えば断面くの字状の2段曲げの折曲げ縁部とすることがより好ましい。このようにすると、パネル幅一杯に反射板を設けることができるとともに、吸音材を詰め込んだ状態でも一人の作業者で運搬が可能となる。
【0028】
各反射板に、吸音材の移動を防止するストッパが設けられていることが好ましい。反射板は斜めに傾いているので、設置した吸音材がズレ落ちてしまう懸念があるが、反射板にストッパを設けることで、ズレを防ぎ、長期にわたって性能を発現することが可能となる。このようにするには、板材から反射板を切り起こすに際し、例えば方形状の部分(方形状に限定されるものではない)が残るようにして、この残った部分をストッパとすればよい。
【0029】
反射板組立体は、反射板間に吸音材が配された状態で、被覆材によって覆われていることが好ましい。
【0030】
反射板が一体化されていない場合、反射板間の吸音材を個別に被覆して、各反射板をリベット等で筐体に固定することになるが、1枚の反射板の固定に数カ所のリベット止めが必要であり、反射板が数枚となると数十カ所の固定作業となり、組立て作業に手間がかかるという問題がある。そこで、複数枚の反射板が一体化された反射板組立体を形成しておいて、その反射板間に吸音材を配した後、被覆材で一体的に覆うようにすることで、吸音材を被覆材で覆う作業が容易となるとともに、反射板組立体と筐体とを固定する箇所は数カ所で済むので、防音パネルの製造がより一層容易なものとなる。
【0031】
吸音材として、例えばグラスウール、ロックウールなどを使用する場合には、被覆材を使用することが好ましく、吸音材として、例えばポリエステル繊維を使用する場合には、被覆材を省略することもできる。
【0032】
筐体は、多数の開口が設けられた正面板、正面板の上下に配された天板および底板、正面板の左右に配された1対の側面板ならびに正面板に対向しかつ遮音性を有する背面板からなること(背面板有り)があり、また、多数の開口が設けられた正面板、正面板の上下に配された天板および底板ならびに正面板の左右に配された1対の側面板からなること(背面板無し)がある。背面板無しの場合、反射板組立体の背面に背面補強材が固定され、背面補強材が筐体の天板および底板に固定されていることが好ましい。
【0033】
すなわち、筐体の背面側の開口については、背面板無しと背面板有りとが用途に応じて使い分けられることが好ましい。例えば、既に、遮音性および壁としての強度が充分にある壁(防音壁)が設置されている場合には、パネルに遮音性を付与する必要が無く、つまり背面板はない方が、重量も軽くなり、施工性や取付部の負荷、経済性の面で有利である。一方、新規に壁を設置する場合もしくは既設壁を交換する場合には、遮音性を付与する必要があり、筐体の背面側が遮音性を有する背面板で覆われている構成とすることが好ましい。
【0034】
背面板有りの構成では、屋上や鉄道の防音壁のように上部に開放空間があり音の回り込み成分がある場合には、遮音性能を得るために、背面板の面密度が9kg/m
2以上あることが好ましい。コンクリートの壁であれば、強度の面から数cm以上の厚さの遮音板となるが、鋼板であれば、1mm程度の厚みがあれば強度面でも遜色ない上に、軽量な壁とすることができる。背面板有りの防音パネルは、例えば、H鋼を互いに対向するように垂直に立てて、防音パネルを横型として、1対のH鋼間に落とし込むことで設置することができる。
【0035】
防音パネルとしての強度(剛性)を付与するためには、上記の厚みの背面板に凹凸を設けることで断面係数を上げることができる。ここで、H鋼にパネルを落とし込んで壁を形成するような場合に、H鋼との接触面が少なくなると、パネルをH鋼に取り付ける際に、パネルの厚み方向の強度不足に繋がるので、背面板の少なくとも1カ所に凹部が設けられているようにして、背面板を内部側にくぼませることで、H鋼との接触面を大きく取ることが好ましい。
【0036】
本発明の防音パネルは、反射板無しの防音パネルと比較して非常に騒音低減効果が大きいため、パネル間に隙間があるとそこからの音漏れが原因で、騒音低減効果が小さくなってしまう。そこで、複数のパネル同士をつなげる際の隙間を少なくするために、隣接する面に重ね合わせ用凹凸部を設けることで、直接的に音が外部に抜けることを防止することが好ましい。すなわち、隙間が生じたとしても、その隙間が表面側から背面側に見通すことができないように、隙間(音の通路)が屈曲したものとされることが好ましい。具体的には、防音パネル同士の突き合わせ構造として、一方の突き合わせ面に凸部が形成され、他方の突き合わせ面に凸部に合致する凹部が形成されており、隣接する防音パネル同士が突き合わされた際に、一方の防音パネルの凸部と他方の防音パネルの凹部とが嵌め合わされるものとされる。このようにすることで、本発明の防音パネルの効果が確実に発揮される。防音パネルに凹凸を形成する代わりに、防音パネル同士を結合する結合金具に凹凸を設けることにより、隙間がある場合でも、音が透過しにくいようにすることも可能である。
【0037】
背面板有りの防音パネルにおいては、防音パネル(筐体)の側面下部に、水抜き用開口を設けておくことがより好ましい。
【0038】
上記パネルを組み立てるには、まず、複数枚の反射板を一体化することで1または複数の反射板組立体を形成し、次いで、反射板組立体の反射板間に吸音材を配置し、次いで、反射板間に吸音材が配された状態で、反射板組立体を被覆材によって覆い、次いで、被覆材によって覆われた反射板組立体を筐体に固定すればよい。