【実施例】
【0058】
<6.実施例>
以下、本発明の実施例について説明する。ここでは、組成の異なる赤色蛍光体を作製し、これら赤色蛍光体の量子効率、発光量積分値、発光強度、ピーク波長、輝度、およびPLE(Photoluminescence Excitation)スペクトルについて評価した。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
[赤色蛍光体の作製]
元素A、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)、炭素(C)、酸素(O)、および窒素(N)を、下記組成式(1)の原子数比で含有する赤色蛍光体を
図1に示すフローチャートを用いて説明した手順に従って以下のように作製した。
【0060】
【化3】
【0061】
ただし、組成式(1)中の元素Aは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、またはバリウム(Ba)の少なくとも1つである。また、組成式(1)中、m、x、y、nは、3<m<5、0<x<1、0<y<9、0<n<10なる関係を満たす。また、Caの原子数比をα、Srの原子数比をβ、その他の2族元素の原子数比をγとしたとき、m=α+β+γを満たす。
【0062】
先ず、「原料混合工程」S1を行った。ここでは、炭酸カルシウム(CaCO
3)炭酸ストロンチウム(SrCO
3)窒化ユーロピウム(EuN)、窒化シリコン(Si
3N
4)、およびメラミン(C
3H
6N
6)を用意した。用意した各原料化合物を秤量し、窒素雰囲気中のグローボックス内で、メノウ乳鉢内で混合した。
【0063】
次に、「第1熱処理工程」S2を行った。ここでは、窒化ホウ素製坩堝内に上記混合物を入れて、水素(H
2)雰囲気中で1400℃、2時間の熱処理を行った。
【0064】
次に、「第1粉砕工程」S3を行った。ここでは、窒素雰囲気中のグローボックス内で、メノウ乳鉢を用いて、上記第1焼成物を粉砕し、その後、#100メッシュ(目開きが約200μm)に通して、平均粒径が3μm以下の粒径の第1焼成物を得た。
【0065】
次に、「第2熱処理工程」S4を行った。ここでは、第1焼成物の粉末を窒化ホウ素製坩堝内に入れて、0.85MPaの窒素(N
2)雰囲気中で1800℃、2時間の熱処理を行った。これにより、第2焼成物を得た。
【0066】
次に、「第2粉砕工程」S5を行った。ここでは、窒素雰囲気中のグローボックス内において、メノウ乳鉢を用いて上記第2焼成物を粉砕した。#420メッシュ(目開きが約26μm)を用いて、平均粒径が3.5μm程度になるまで粉砕した。
【0067】
このような方法により、微粉末(例えば平均粒径が3.5μm程度)の赤色蛍光体を得た。この赤色蛍光体をICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析装置にて分析した結果、原材化合物中に含まれる組成式(1)を構成する元素は、ほぼそのままのモル比(原子数比)で赤色蛍光体中に含有されることが確認された。
【0068】
[Ca含有量に対する量子効率の評価]
カルシウム(Ca)の含有量(α/(α+β))が、0%、10%および20%の赤色蛍光体(m=3.6、x=0.135、γ=0)について、炭素(C)の含有量(y)を変化させたときの量子効率を、日本分光社製分光蛍光光度計FP−6500を用いて測定した。蛍光体の量子効率は、専用セルに蛍光体粉末を充填し、波長450nmの青色励起光を照射させて、蛍光スペクトルを測定した。その結果を、分光蛍光光度計付属の量子効率測定ソフトを用いて、赤色の量子効率を算出した。
【0069】
なお、蛍光体の効率は、励起光を吸収する効率(吸収率)、吸収した励起光を蛍光に変換する効率(内部量子効率)、及びそれらの積である励起光を蛍光に変換する効率(外部量子効率)の三種で表されるが、外部量子効率が重要である。
【0070】
図5に、カルシウム(Ca)の含有量(α/(α+β))が10%の赤色蛍光体(m=3.6、x=0.135、α/(α+β)=0.1、γ=0)について炭素(C)の含有量(y)を変化させたときの励起光に対する吸収率、内部量子効率および外部量子効率を示す。また、
図6に、カルシウム(Ca)の含有量(原子数比α/(α+β))が20%の赤色蛍光体(m=3.6、x=0.135、α/(α+β)=0.2、γ=0)について炭素(C)の含有量(y)を変化させたときの励起光に対する吸収率、内部量子効率および外部量子効率を示す。また、
図7に、カルシウム(Ca)の含有量(α/(α+β))が0%の赤色蛍光体(m=3.6、x=0.135、α/(α+β)=0、γ=0)について炭素(C)の含有量(y)を変化させたときの励起光に対する吸収率、内部量子効率および外部量子効率を示す。
【0071】
なお、実施例における炭素(C)の原子数比yは、各赤色蛍光体の作製時におけるメラミンの添加量Rを回帰直線に当てはめて求めた値である。回帰直線は、
図8に示すように、赤色蛍光体の炭素(C)含有量(y)をICP発光分析装置および酸素気流中燃焼−NDIR検出方式(装置:EMIA−U511(堀場製作所製))にて分析した結果と、作製時のメラミンの添加量Rとから作成した。
【0072】
図5〜
図7に示す結果から、元素Aにカルシウム(Ca)を含有する赤色蛍光体は、元素Aにカルシウム(Ca)を含有しない赤色蛍光体よりも高い外部量子効率が得られることが分かった。
【0073】
また、
図5および
図6に示すように、元素Aにカルシウム(Ca)を含有する赤色蛍光体は、カルシウム(Ca)の含有量(α/(α+β))が10%、20%と大きくなるに従い、炭素(C)の含有量(y)を増加させることにより、外部量子効率が65%を超える結果を得ることができることが分かった。これは、カルシウム(Ca)の含有量(α/(α+β))の増加に伴い、良好な発光効率を得るために蛍光体に含有すべき炭素(C)の含有量が増加したためだと思われる。
【0074】
一方、
図7示す元素Aにカルシウム(Ca)を含有しない赤色蛍光体(α/(α+β)=0)は、炭素(C)の含有量(y)を増加させても、外部量子効率が65%を超える結果は得られなかった。これは、良好な発光効率を得るために蛍光体に含有すべき炭素(C)の含有量が変化せずに、酸素(O)が取り除かれたためだと思われる。
【0075】
[Ca含有量に対する発光量積分値、ピーク波長、および発光スペクトルの評価]
次に、カルシウム(Ca)の含有量が異なる赤色蛍光体(m=3.6、x=0.135、γ=0)の発光量積分値、ピーク波長、および発光スペクトルについて、分光光度計(SPEX社製FLUOROLOG3)を用い、450nmの励起光を照射して測定した。
【0076】
図9に、メラミン量(y=0.0739)を固定し、カルシウム(Ca)の含有量(α
/(α+β))を0%、5%、7.5%、10%、12.5%、15%と変化させたとき
の赤色蛍光体の発光量積分値、およびピーク波長を示す。また、
図10に、これら赤色蛍
光体の発光スペクトルを示す。
【0077】
また、
図11に、カルシウム(Ca)の含有量(α/(α+β))が0%(y=0.0739)、10%(y=0.0766)、20%(y=0.0682)のときの赤色蛍光体の発光量積分値、およびピーク波長を示す。また、
図12に、これら赤色蛍光体の発光スペクトルを示す。
【0078】
図9および
図10に示すように、メラミン量(y=0.0739)を固定してカルシウム(Ca)の含有量(α/(α+β))の値を増加させると、発光量積分値が低下する傾向となった。しかし、
図11、12に示すように、カルシウム(Ca)の含有量(α/(α+β))の増加に伴い、メラミン量を増加させると(y=0.0739→y=0.0785)、発光量積分値が高くなることが分かった。
【0079】
[C含有量(y)に対するピーク波長、および輝度の評価]
次に、カルシウム(Ca)の含有量(α/(α+β))が、0%、10%および20%の赤色蛍光体(m=3.6、x=0.135、γ=0)について、メラミン量を変化させたときのピーク波長、および輝度について、分光光度計(SPEX社製FLUOROLOG3)を用い、450nmの励起光を照射して測定した。
【0080】
図13に、カルシウム(Ca)の含有量(α/(α+β))が10%の赤色蛍光体についてメラミン量を変化させたときのピーク波長を示し、
図14に、その輝度を示す。また、
図15に、カルシウム(Ca)の含有量(α/(α+β))が20%の赤色蛍光体についてメラミン量を変化させたときのピーク波長を示し、
図16に、その輝度を示す。また、
図17に、カルシウム(Ca)の含有量(α/(α+β))が0%の赤色蛍光体についてメラミン量を変化させたときのピーク波長を示し、
図18に、その輝度を示す。
【0081】
図13、
図15および
図17から分かるように、カルシウム(Ca)の含有量(α/(
α+β))が増加するに従って、ピーク波長が長波長側にシフトする傾向が見られた。ま
た、メラミン量に起因する炭素(C)の含有量(y)が増加するに従って、ピーク波長が
短波長側にシフトする傾向が見られた。すなわち、カルシウム(Ca)の含有量(α/(
α+β))と炭素(C)の含有量(y)により、ピーク波長を調整可能であることが分か
った。
【0082】
また、
図14、
図16および
図18から分かるように、カルシウム(Ca)の含有量(α/(α+β))が増加するに従って、輝度が低下する傾向が見られた。また、メラミン量に起因する炭素(C)の含有量(y)が増加するに従って、輝度が高くなる傾向が見られた。
【0083】
[C含有量(y)とPLEとの関係]
PLE(Photoluminescence Excitation)スペクトルは、ある特定のエネルギーのPL発光強度に着目して、その強度が励起波長を変化させたとき、どのように変わるかを示すスペクトルである。本発明者らは、良好な発光効率を得るために蛍光体に含有すべき炭素(C)の含有量が、PLEスペクトルの所定の発光特性と関係するという知見を得た。
【0084】
図19は、カルシウム(Ca)の含有量(α/(α+β))が10%の赤色蛍光体(m=3.6、x=0.135、γ=0)の励起波長400nmの発光強度を1としたときにおけるPLEスペクトルである。この
図19では、メラミン量に起因する炭素(C)の含有量(y)が、0.0506、0.0656および0.0876の各赤色蛍光体のPLEスペクトルを示す。また、
図20は、カルシウム(Ca)の含有量(α/(α+β))が20%の赤色蛍光体(m=3.6、x=0.135、γ=0)の励起波長400nmの発光強度を1としたときにおけるPLEスペクトルである。この
図20では、メラミン量に起因する炭素(C)の含有量(y)が、0.0506、0.0579および0.0785の各赤色蛍光体のPLEスペクトルを示す。また、
図21は、カルシウム(Ca)の含有量(α/(α+β))が0%の赤色蛍光体(m=3.6、x=0.135、γ=0)の励起波長400nmの発光強度を1としたときにおけるPLEスペクトルである。この
図21では、メラミン量に起因する炭素(C)の含有量(y)が、0.0506および0.0736の各赤色蛍光体のPLEスペクトルを示す。
【0085】
図19〜
図21に示すPLEスペクトルにおいて、励起波長400nmの発光強度を1としたときにおける励起波長550nmの発光強度の相対値は、メラミン量に起因する炭素(C)の含有量(y)が増加するに従って低下する傾向にある。すなわち、PLEスペクトルにおいて、励起波長400nmの発光強度を1としたときにおける励起波長550nmの発光強度の相対値が0.82以下0.70以上の範囲は、メラミン量に起因する炭素(C)の含有量(y)が0.012以上0.10以下の範囲に換算することが可能である。
【0086】
つまり、PLEスペクトルにおいて、励起波長400nmの発光強度を1としたときにおける励起波長550nmの発光強度の相対値が0.82以下、好ましくは0.82以下0.70以上の範囲であることにより、高い発光量積分値を得ることができることが分かった。
【0087】
[赤色蛍光体の構造]
図22および
図23には、組成式(1)で表される各赤色蛍光体(α=0)をXDR分析した結果を示す。これらの図に示すように炭素(C)の含有量(原子数比y)によって、各回折角(2θ)に現れるピーク位置がシフトすることが分かる。例えば、回折角2θ=35.3付近のピークは、炭素(C)の含有量(原子数比y)の増加にともなって、回折角(2θ)が小さくなる方向にシフトした後、回折角(2θ)が大きくなる方向にシフトする。
【0088】
図22および23の結果から、組成式(1)で表される各赤色蛍光体は、斜方晶系空間点群Pmn21におけるa軸およびc軸が炭素(C)の含有量(原子数比y)によって伸び縮みし、これにより格子体積が膨張及び収縮することが確認された。なお、b軸はほとんど変化していない。
【0089】
これにより、赤色蛍光体内に存在する炭素(C)が、上述した単結晶内の一部を構成するようにシリコン(Si)と置き換わったため、単結晶における格子間隔が変化していることが分かる。つまり、上述した単結晶からなる赤色蛍光体内には、単結晶の一部を構成するように炭素(C)が存在していることが確認された。また、作製した赤色蛍光体は、リートベルト解析でたてた斜方晶系空間点群Pmn21のモデルと良好な一致を示した。
【0090】
なお、これらの結果は、組成式(1)において、カルシウム(Ca)を含有しない赤色蛍光体(α=0)であるが、カルシウム(Ca)を含有する赤色蛍光体(α>0)についても同様な結果が得られる。