特許第5696036号(P5696036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5696036微生物の培養方法、及び微生物による物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5696036
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】微生物の培養方法、及び微生物による物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20150319BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20150319BHJP
   C12N 1/16 20060101ALI20150319BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20150319BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20150319BHJP
   C12P 7/62 20060101ALI20150319BHJP
   C12R 1/01 20060101ALN20150319BHJP
   C12R 1/19 20060101ALN20150319BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12N1/00 F
   C12N1/00 A
   C12N1/00 P
   C12N1/16 A
   C12N1/16 E
   C12N1/20 A
   C12N1/21
   C12P7/62
   C12P7/62
   C12R1:01
   C12P7/62
   C12R1:19
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-507028(P2011-507028)
(86)(22)【出願日】2010年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2010002354
(87)【国際公開番号】WO2010113497
(87)【国際公開日】20101007
【審査請求日】2013年2月27日
(31)【優先権主張番号】特願2009-86736(P2009-86736)
(32)【優先日】2009年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤木 哲也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊輔
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−340078(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/033670(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/050277(WO,A1)
【文献】 特開平10−108682(JP,A)
【文献】 Biotechnology Letters,2005年,Volume 27,pp 1405-1410
【文献】 Appl. Microbiol. Biotechnol., ,2008年,Vol.78,pp.955-961
【文献】 日本化学会第89春季年会講演予稿集II,2009年 3月13日,p.1242,4H2-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C12N 1/00
C12P 7/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成物のいずれかを含む炭素源の存在下で、微生物を培養する工程を含む、微生物の培養方法。
(1)ラウリン酸含有率30〜70重量%、ミリスチン酸含有率5〜30重量%、パルミチン酸含有率5〜30重量%、オレイン酸含有率10〜30重量%である脂肪酸組成物。
(2)ラウリン酸含有率30〜70重量%、ミリスチン酸含有率5〜30重量%、パルミチン酸含有率5〜30重量%、オレイン酸含有率10〜30重量%である脂肪酸(なお、各脂肪酸の含有率は油脂を除いた含有率である)、並びに、油脂を含み、前記脂肪酸の含有率が50重量%以上である混合組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸組成物又は前記混合組成物は、上昇融点が、培養温度+10℃以下である、請求項1記載の培養方法。
【請求項3】
前記微生物が、細菌である請求項1記載の培養方法。
【請求項4】
前記微生物が、Cupriavidus属又はEsherichia属に属する微生物である請求項に記載の培養方法。
【請求項5】
前記微生物が、Cupriavidus属に属する微生物である請求項に記載の培養方法。
【請求項6】
前記微生物が、Cupriavidus necatorである請求項に記載の培養方法。
【請求項7】
前記微生物が、
配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードするポリヒドロキシアルカノエート合成酵素遺伝子、又は、
前記アミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有し、且つ、ポリヒドロキシアルカノエート合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヒドロキシアルカノエート合成酵素遺伝子、
が組み込まれたCupriavidus necatorである請求項に記載の培養方法。
【請求項8】
前記微生物が、Esherichia属に属する微生物である請求項に記載の培養方法。
【請求項9】
前記微生物が、Esherichia coliである請求項に記載の培養方法。
【請求項10】
前記微生物が、酵母である請求項1記載の培養方法。
【請求項11】
下記組成物のいずれかを含む炭素源の存在下で、微生物を培養する工程、及び
培養された前記微生物が産生した代謝産物を回収する工程、を含む、微生物代謝産物の製造方法。
(1)ラウリン酸含有率30〜70重量%、ミリスチン酸含有率5〜30重量%、パルミチン酸含有率5〜30重量%、オレイン酸含有率10〜30重量%である脂肪酸組成物。
(2)ラウリン酸含有率30〜70重量%、ミリスチン酸含有率5〜30重量%、パルミチン酸含有率5〜30重量%、オレイン酸含有率10〜30重量%である脂肪酸(なお、各脂肪酸の含有率は油脂を除いた含有率である)、並びに、油脂を含み、前記脂肪酸の含有率が50重量%以上である混合組成物。
【請求項12】
前記微生物代謝産物が、ポリヒドロキシアルカノエートである請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記ポリヒドロキシアルカノエートが、3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシヘキサン酸の共重合体である請求項12に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長鎖脂肪酸を、微生物が好適に資化できる炭素源として利用して、微生物の培養や微生物による物質の生産を工業的に効率よく行う方法に関する。また、上記炭素源を用いて、工業的に効率よく微生物にポリヒドロキシアルカノエート(以下PHAともいう)を産生させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題、食糧問題、健康及び安全に対する意識の高まり、天然又は自然志向の高まりなどを背景に、微生物の培養や微生物による物質の製造(発酵生産、バイオ変換など)の意義及び重要性が益々高まっている。
【0003】
微生物の培養や微生物による物質の製造においては、微生物によって好適に資化される炭素源(培養、発酵などのための炭素源)が必要である。その炭素源の代表的なものとして、糖質、油脂、短鎖脂肪酸などが挙げられる。
【0004】
近年、炭素源として、環境問題などを背景に、再生可能な炭素源(特に非石油由来炭素源)、より好ましくは、食糧と競合しない炭素源(所謂、非可食の炭素源)が益々望まれてきている。
【0005】
この観点から、長鎖脂肪酸(例えば、植物由来の長鎖脂肪酸)は、好適な炭素源の候補の一つとして考えられている。長鎖脂肪酸は、例えば、やし、パーム(パーム核を含む)などから得ることができる。やし、パームなどの植物は、油脂中の構成脂肪酸として、長鎖脂肪酸を含むことが知られている。これらの植物に由来する代表的な長鎖脂肪酸としては、炭素数12のラウリン酸、炭素数14のミリスチン酸、炭素数16のパルミチン酸などの長鎖飽和脂肪酸や、炭素数18のオレイン酸などの長鎖不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0006】
これら長鎖脂肪酸は、界面活性剤、石鹸、化粧品などの工業原料として利用されている。しかしながら、微生物を利用する産業では広範に利用されていない。特に、これらを微生物の培養及び微生物による物質の製造のための炭素源として利用する研究は充分には進んでいない。
【0007】
ラウリン酸又はオレイン酸を単独で炭素源として用いて、Aeromonas hydrophilaを培養し、PHAを生産した例(非特許文献1を参照)が報告されている。しかし、オレイン酸を単独で炭素源として用いたものが主に検討されており、ミリスチン酸及びパルミチン酸は検討されていない。
【0008】
また、ラウリン酸又はミリスチン酸を単独で炭素源として用いて、Ralstonia eutrophaを培養し、PHAを生産した例(特許文献1を参照)が報告されているが、PHAの生産量は1g/L以下と極めて低い。また、パルミチン酸は利用されていない。
【0009】
さらに、ラウリン酸ナトリウムなどの塩を単独で炭素源として用いて、Escherichia coliを培養し、PHAを生産した例(非特許文献2を参照)が報告されている。しかし、ミリスチン酸及びパルミチン酸は利用されていない。
【0010】
以上の研究は、培養スケールが数ml〜数Lという小規模での実施にとどまっていた。
【0011】
以上のように、種々の長鎖脂肪酸を、微生物の培養や微生物による物質の製造のための炭素源として工業的に好適に利用できる目処は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0086377号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Lee S.、et.al.、Biotechnol.Bioeng.、67:240−244(2000)
【非特許文献2】Regina V.、et.al.、FEMS MICROBIOLOGY LETTERS、111−117(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、これまで必ずしも有効に産業利用されているとはいえない長鎖脂肪酸を有効に利用する方法を提供することを課題とする。具体的には、上記長鎖脂肪酸を、微生物が好適に資化できる炭素源として利用して、微生物の培養及び微生物による物質の製造を、工業的に効率よく行う方法を提供することを課題とする。また、上記炭素源を用いて、工業的に効率よくPHAを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、ラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸のそれぞれを単独で炭素源として用いて大腸菌を培養することで、微生物による各脂肪酸の資化性を予備的に検討した。その結果、ミリスチン酸及びパルミチン酸各々の資化性は極めて低く、これらを炭素源として利用するのは極めて難しいと考えられた。また、ラウリン酸も必ずしも満足できる資化性を示さなかった。
【0016】
そこで本発明者らは、微生物による資化性が充分ではない長鎖脂肪酸であるラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸を微生物の培養や微生物による物質の製造で好適に利用するための検討を鋭意行った。
【0017】
その結果、複数の長鎖脂肪酸を含有する組成物、又は、長鎖脂肪酸と油脂との混合組成物が、微生物の培養及び微生物による物質の製造(例えば、PHA製造)のための炭素源として極めて好適に利用できることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
すなわち本発明は、下記組成物のいずれかを含む炭素源の存在下で、微生物を培養する工程を含む、微生物の培養方法である。
(1)ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びオレイン酸からなる群より選択される少なくとも2種の脂肪酸を含む脂肪酸組成物。
(2)ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びオレイン酸からなる群より選択される少なくとも1種の脂肪酸、並びに、油脂を含み、前記脂肪酸の含有率が10重量%以上である混合組成物。
【0019】
前記脂肪酸組成物が、ラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸からなるより選択される少なくとも1種、並びに、オレイン酸を含み、
前記混合組成物が、ラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸からなるより選択される少なくとも1種、オレイン酸、並びに、油脂を含むことが好ましい。
【0020】
前記脂肪酸組成物が、ラウリン酸、及び、オレイン酸を含み、
前記混合組成物が、ラウリン酸、オレイン酸、及び、油脂を含むことが好ましい。
【0021】
前記脂肪酸組成物が、パルミチン酸、及び、オレイン酸を含み、
前記混合組成物が、パルミチン酸、オレイン酸、及び、油脂を含むことが好ましい。
【0022】
前記脂肪酸組成物が、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びオレイン酸からなる群より選択される少なくとも3種を含み、
前記混合組成物が、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びオレイン酸からなる群より選択される少なくとも3種、並びに、油脂を含むことが好ましい。
【0023】
前記脂肪酸組成物が、ラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸からなるより選択される少なくとも2種、並びに、オレイン酸を含み、
前記混合組成物が、ラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸からなるより選択される少なくとも2種、オレイン酸、並びに、油脂を含むことが好ましい。
【0024】
前記脂肪酸組成物が、ラウリン酸、パルミチン酸、及び、オレイン酸を含み、
前記混合組成物が、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、及び、油脂を含むことが好ましい。
【0025】
前記脂肪酸組成物が、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、及び、オレイン酸を含み、
前記混合組成物が、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、及び、油脂を含むことが好ましい。
【0026】
前記脂肪酸組成物又は前記混合組成物に含まれる長鎖脂肪酸中の長鎖飽和脂肪酸の含有率が20重量%以上であることが好ましい。
【0027】
前記脂肪酸組成物又は前記混合組成物に含まれる長鎖脂肪酸中のミリスチン酸及びパルミチン酸の合計含有率が5重量%以上であることが好ましい。
【0028】
前記脂肪酸組成物又は前記混合組成物は、上昇融点が、培養温度+10℃以下であることが好ましい。
【0029】
前記混合組成物中の脂肪酸の含有率が、45重量%以上であることが好ましい。
【0030】
前記微生物が、細菌であることが好ましい。
【0031】
前記微生物が、Cupriavidus属又はEsherichia属に属する微生物であることが好ましい。
【0032】
前記微生物が、Cupriavidus属に属する微生物であることが好ましい。
【0033】
前記微生物が、Cupriavidus necatorであることが好ましい。
【0034】
前記微生物が、
配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードするポリヒドロキシアルカノエート合成酵素遺伝子、又は、
前記アミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有し、且つ、ポリヒドロキシアルカノエート合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヒドロキシアルカノエート合成酵素遺伝子、
が組み込まれたCupriavidus necatorであることが好ましい。
【0035】
前記微生物が、Esherichia属に属する微生物であることが好ましい。
【0036】
前記微生物が、Esherichia coliであることが好ましい。
【0037】
前記微生物が、酵母であることが好ましい。
【0038】
さらに本発明は、前記組成物のいずれかを含む炭素源の存在下で、微生物を培養する工程、及び
培養された前記微生物が産生した代謝産物を回収する工程、を含む、微生物代謝産物の製造方法にも関する。
【0039】
前記微生物代謝産物が、ポリヒドロキシアルカノエートであることが好ましい。
【0040】
前記ポリヒドロキシアルカノエートが、3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシヘキサン酸の共重合体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0041】
本発明により、これまで必ずしも有効に産業利用されているとはいえない長鎖脂肪酸、特に長鎖飽和脂肪酸を有効に利用することが可能になる。具体的には、上記長鎖脂肪酸、特に上記長鎖飽和脂肪酸を、微生物が好適に資化できる炭素源として利用することにより、微生物の培養及び微生物による物質の製造を、工業的に効率よく行うことが可能になる。また、上記炭素源を用いて、工業的に効率よくPHAを製造することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0043】
微生物の培養及び微生物による物質の製造では、一般に、グルコースやシュークロースなどの糖質が炭素源として広く利用されている。これら糖質は水への溶解度が高いため、通常の培養条件において微生物が生育している培養液等の液中に溶解しており、炭素源としての利用効率が高い。一方、一般に、水への溶解度が低い炭素源は、微生物による利用効率(資化性)が低くなる。本発明者らは、水への溶解度が極めて低い長鎖脂肪酸、特に長鎖飽和脂肪酸(中でも、ミリスチン酸及びパルミチン酸)は、微生物による資化性が著しく低いことを確認した。
【0044】
加えて、ラウリン酸、ミリスチン酸又はパルミチン酸と油脂との混合物の資化性を検討したところ、混合物中の脂肪酸の含量が高くなるに従い資化性が低下することが認められた。
【0045】
しかしながら、本発明によれば、これらの脂肪酸を炭素源として極めて有効に利用できる。
【0046】
本発明における炭素源は、下記組成物のいずれかを含む。
(1)ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びオレイン酸からなる群より選択される少なくとも2種の脂肪酸を含む脂肪酸組成物。
(2)ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びオレイン酸からなる群より選択される少なくとも1種の脂肪酸、並びに、油脂を含み、前記脂肪酸の含有率が10重量%以上である脂肪酸−油脂混合組成物。
【0047】
本発明では、炭素源として資化性が低い各種脂肪酸や油脂を組み合わせて使用することで、資化性を改善することができ、しかも、これら脂肪酸の有効利用を可能とした点で極めて意義深い。
【0048】
前記脂肪酸−油脂混合組成物(2)で使用できる油脂は特に限定されないが、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸又はオレイン酸を構成成分として含む油脂が好ましい。具体的には、例えば、パーム由来の油脂、やし由来の油脂、コーン由来の油脂、大豆由来の油脂、ナタネ由来の油脂、オリーブ由来の油脂、ヤトロファ由来の油脂等が挙げられる。
【0049】
前記脂肪酸−油脂混合組成物(2)中の脂肪酸の含有率は、資化性を高めると共に、脂肪酸を有効利用する観点から、10重量%以上である。好ましくは20重量%以上であり、より好ましくは30重量%以上であり、さらに好ましくは40重量%であり、特に好ましくは45重量%以上であり、最も好ましくは50重量%以上である。前記含有率の上限は限定されず、100重量%未満であればよい。ここで、脂肪酸の含有率とは、脂肪酸と油脂の合計量に対する脂肪酸(ここでの「脂肪酸」は、前記油脂を構成する脂肪酸を含まない概念である。)の重量比を指す。
【0050】
本発明の好適な一実施形態によると、前記脂肪酸組成物(1)又は前記混合組成物(2)は、オレイン酸を含み、かつ、ラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む。長鎖不飽和脂肪酸であるオレイン酸は、これ自体、微生物による資化性が高いだけではなく、長鎖飽和脂肪酸であるラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸の資化性を高める効果を有している。そのため、オレイン酸と前記長鎖飽和脂肪酸とを併用することにより、長鎖飽和脂肪酸の有効利用が可能となるだけではなく、相乗的に高い資化性を達成することができる。
【0051】
長鎖飽和脂肪酸の有効利用の観点から、前記脂肪酸組成物(1)又は前記混合組成物(2)中において、長鎖脂肪酸(長鎖飽和脂肪酸と長鎖不飽和脂肪酸の合計)に対し長鎖不飽和脂肪酸の含有率は、20重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましく、40重量%以上がさらに好ましく、50重量%以上が特に好ましい。ここで、長鎖脂肪酸に対する長鎖不飽和脂肪酸の含有率とは、前記脂肪酸組成物(1)又は前記混合組成物(2)に使用した長鎖飽和脂肪酸と長鎖不飽和脂肪酸の合計量に対する長鎖飽和脂肪酸の重量比を指す。なお、前記含有率の算出に際し、前記油脂を構成する長鎖飽和脂肪酸及び長鎖不飽和脂肪酸は考慮しない。ここで、長鎖飽和脂肪酸とはラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸を指し、長鎖不飽和脂肪酸とはオレイン酸を指す。
【0052】
より好適には、前記脂肪酸組成物(1)又は前記混合組成物(2)は、オレイン酸を含み、かつ、ラウリン酸又はパルミチン酸を含む。
【0053】
本発明の好適な他の実施形態によると、前記脂肪酸組成物(1)又は前記混合組成物(2)は、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びオレイン酸からなる群より選択される少なくとも3種の脂肪酸を含む。より好適には、前記脂肪酸組成物(1)又は前記混合組成物(2)は、オレイン酸を含み、かつ、ラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸からなる群より選択される少なくとも2種を含む。さらに好適には、前記脂肪酸組成物(1)又は前記混合組成物(2)は、ラウリン酸、パルミチン酸、及び、オレイン酸を含み、特に好適には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、及び、オレイン酸を含む。
【0054】
特に資化性が低いミリスチン酸及びパルミチン酸を有効利用する観点から、前記脂肪酸組成物(1)又は前記混合組成物(2)は、ミリスチン酸及び/又はパルミチン酸を含有することが好ましい。この場合、前記脂肪酸組成物(1)又は前記混合組成物(2)に含まれる長鎖脂肪酸中のミリスチン酸及びパルミチン酸の合計含有率が5重量%以上であることが好ましい。より好ましくは10重量%以上であり、さらに好ましくは15重量%以上である。前記合計含有率の上限は特に限定されず、資化性をより高くするため、70重量%以下が好ましく、65重量%以下がより好ましく、60重量%以下がさらに好ましく、55重量%以下が特に好ましい。
【0055】
本発明の好適なさらに別の実施形態によると、本発明の脂肪酸組成物(1)又は混合組成物(2)は、その上昇融点が、微生物の培養温度+10℃以下である。より好ましくは、微生物の培養温度+9℃以下であり、さらに好ましくは、微生物の培養温度+8℃以下であり、特に好ましくは、微生物の培養温度+7℃以下である。工業的に利用される微生物の多くは、一般に生育適温が37℃以下である。したがって、多くの場合、本発明の脂肪酸組成物(1)又は混合組成物(2)の上昇融点は47℃以下であることが好ましい。より好ましくは46℃以下であり、さらに好ましくは45℃以下であり、特に好ましくは44℃以下である。しかし、本発明に用いる組成物の上昇融点は上記に限定されない。微生物の培養温度に応じて適切に上昇融点を設定し、これを満たす組成物を選択し得る。上昇融点の下限は特に規定されない。
【0056】
本発明者らは、長鎖飽和脂肪酸の上昇融点が、ラウリン酸:約43℃、ミリスチン酸:約52℃、パルミチン酸:約62℃であり、長鎖不飽和脂肪酸であるオレイン酸の上昇融点が約12℃であることを明らかにした。本発明によれば、上記脂肪酸を複数含有することで、組成物の上昇融点を微生物の生育温度に合わせて適切に調節し、微生物による資化性を高めることができる。上昇融点の高いミリスチン酸やパルミチン酸の場合においても、本発明の効果が好適に発揮される。驚くべきことに、培養温度において固体状態である組成物であっても炭素源として有効に利用できる。
【0057】
本発明において、脂肪酸組成物(1)又は混合組成物(2)の上昇融点は以下の方法で測定する事ができる。
(1)両端が開いている毛細管(内径1mm、外径2mm以下、長さ50〜80mm)の一端を完全に融解した試料に浸し、約10mmの高さまで試料を満たし、速やかに氷片等で毛細管内部の試料を固化させる。
(2)固化した試料を含む毛細管を、10℃以下で24h、又は氷上で1h放置した後試験に供する。
(3)上昇融点測定器(ELEX SCIENTIFIC社製 EX‐871A)に毛細管をセットする。
(4)予想される融点よりも約20℃低い温度の水を満たした容器に毛細管を浸し、温度計の下端を水面下30mmの深さに置く。
(5)容器内の水を適当な方法でかき混ぜながら、最初は2℃/min.ずつ水温が上昇するように加熱する。
(6)予想される融点の10℃下に達した後は0.5℃/min.ずつ水温が上昇するように加熱する。
(7)試料が毛細管中で上昇を始める温度を上昇融点とする。
【0058】
本発明の脂肪酸組成物(1)及び混合組成物(2)の具体的な組成は、使用する微生物の種類、微生物が産生する物質の種類、培養の諸条件(培地成分、pH、培養温度など)などによって異なり、必ずしも一律に規定できない。しかしながら、いくつかの好適な組成を示すことができる。好適な組成の一つは、ラウリン酸含有率30〜70重量%、ミリスチン酸含有率5〜30重量%、パルミチン酸含有率5〜30重量%、オレイン酸含有率10〜30重量%である。好適な組成の一つは、ラウリン酸含有率10〜40重量%、ミリスチン酸0〜10重量%、パルミチン酸20〜40重量%、オレイン酸30〜50重量%である。好適な組成の一つは、ラウリン酸含有率15〜45重量%、パルミチン酸含有率15〜45重量%、オレイン酸含有率20〜50重量%である。以上の含有率の数値は、組成物中に含まれる脂肪酸(ここでの「脂肪酸」は、前記油脂を構成する脂肪酸を含まない概念である。)の合計量に対する割合を示す。混合組成物(2)に関しては、油脂を除いた含有率である。
【0059】
しかしながら、上記組成はあくまで好適な組成の例であり、本発明は上記組成に限定されない。また、上記組成物には必要に応じて油脂を加えても良い。
【0060】
本発明の脂肪酸組成物(1)又は混合組成物(2)を含む炭素源は、さらに他の脂肪酸や、糖質、タンパク質、アミノ酸等を含んでもよい。
【0061】
本発明により微生物を培養して微生物に産生させる微生物代謝物質としては、例えば、エタノール、ブタノール、プロパノールなどのアルコール類、乳酸、酢酸、アミノ酸、核酸などの酸類、脂質類、油脂類やポリヒドロキシアルカノエート(PHA)などが挙げられる。PHAは、多くの微生物種の細胞にエネルギー蓄積物質として産生・蓄積される熱可塑性ポリエステルであり、生分解性を有している。現在、環境への意識の高まりから非石油由来のプラスチックが注目されるなか、特に、微生物が菌体内に産生し蓄積するPHAは、自然界の炭素循環プロセスに取り込まれることから生態系への悪影響が小さいと予想されており、その実用化が切望されている。そのため、PHAは、本発明を用いて生産する物質の好例の一つである。
【0062】
PHAの種類としては、微生物が生産するPHAであれば特に限定されないが、好ましくは、炭素数4〜16の3−ヒドロキシアルカン酸から選択される1つのモノマーが重合して形成されるPHAや、炭素数4〜16の3−ヒドロキシアルカン酸から選択される2種以上のモノマーが共重合して形成される共重合PHAである。例えば、炭素数4の3−ヒドロキアルカン酸からなるポリヒドロキシブチレート(PHB)、炭素数4と6の3−ヒドロキシアルカン酸からなるポリヒドロキシブチレートヘキサノエート(PHBH)、炭素数4と5の3−ヒドロキシアルカン酸からなるポリヒドロキシブチレートバレレート(PHBV)、炭素数4〜14の3−ヒドロキシアルカン酸からなるポリヒドロキシアルカノエート(PHA)などが挙げられる。
【0063】
本発明の微生物の培養、及び、微生物による有用物質の製造に用いられる微生物としては特に限定はないが、天然から単離された微生物や、遺伝子操作された微生物等を好適に使用できる。具体的にはラルストニア(Ralstonia)属、カピリアビダス(Cupriavidus)属、ワウテルシア(Wautersia)属、アエロモナス(Aeromonas)属、エシェリキア(Escherichia)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、ノカルデイア(Nocardia)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属、コマモナス(Comamonas)属等の細菌類や、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ヤロウィア(Yarrowia)属、キャンディダ(Candida)属等の酵母類を使用することが好ましい。勿論、前記微生物を人工的突然変異処理して得られる変異株、及び、遺伝子工学的手法により変異処理された菌株も使用できる。
【0064】
PHAの製造に用いる微生物としては、例えばカピリアビダス・ネケータ(Cupriavidus necator)等のカピリアビダス属、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latas)等のアルカリゲネス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・レジノボランス(Pseudomonas resinovorans)、シュードモナス・オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)等のシュードモナス属、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)等のバチルス属、アゾトバクター属、ノカルディア属、アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)、アエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonaso hydrophila)等のアエロモナス属、ラルストニア(Ralstonia)属、ワウテルシア(Wautersia)属、コマモナス(Comamonas)属などが挙げられる(Microbiological Reviews、450−472項、1990年)。遺伝子工学的な手法を用いて、PHA合成酵素遺伝子等を導入することにより、人為的にPHAを生産させる改変を施した生物細胞を用いることもできる。例えばエシェリキア(Esherichia)属等のグラム陰性の細菌、バチルス(Bacillus)属等のグラム陽性の細菌、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ヤロウィア(Yarrowia)属、キャンディダ(Candida)属等の酵母類、植物などの高等生物細胞も利用できるが、多量のPHAを蓄積できる点で微生物を用いることが好ましい。
【0065】
PHAの1種である3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシヘキサン酸の共重合体(PHBH)を生産するには、例えばAeromonas caviaeやAeromonas hydrophilaなど元来PHBHを生産する微生物を用いたり、元来PHBHを生産しない微生物に遺伝子工学的な手法を用いて、ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素遺伝子等を導入することにより、人為的にPHBHを生産させる改変を施した生物細胞を用いることもできる。遺伝子を導入するホスト微生物としては、たとえばCupriavidus necatorを好適に用いることができる。また、ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素遺伝子としてはAeromonas caviae又はAeromonas hydrophila由来のポリヒドロキシアルカノエート合成酵素遺伝子や、それらの改変体などを用いることができる。改変体としては、天然のポリヒドロキシアルカノエート合成酵素においてアミノ酸基が欠失、付加、挿入、若しくは置換されたポリヒドロキシアルカノエート合成酵素をコードする塩基配列などを用いることができる。具体的には、配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードするポリヒドロキシアルカノエート合成酵素遺伝子、又は、前記アミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有し、且つ、ポリヒドロキシアルカノエート合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヒドロキシアルカノエート合成酵素遺伝子、が組み込まれたCupriavidus necatorを用いることができる。
【0066】
本発明により微生物を培養するには、培地に炭素源を添加する方法を用いる。培地組成、炭素源の添加方法、培養スケール、通気攪拌条件や培養温度、培養時間については、培養する微生物の種類に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。連続的又は間欠的に培地に炭素源を添加することが好ましい。本発明における炭素源は、培地に添加する際にすでに混合物であっても良いし、各構成成分を別々に添加して培地内で混合しても良い。
【0067】
本発明のPHA等の微生物代謝産物の製造方法は、上述した培養方法によって微生物内に微生物代謝産物を蓄積させ、その後、周知の方法を用いて菌体から微生物代謝産物を回収すれば良い。微生物代謝産物がPHAである場合、例えば、次のような方法により行うことができる。培養終了後、培養液から遠心分離機等で菌体を分離し、その菌体を蒸留水及びメタノール等の有機溶剤により洗浄し、乾燥させる。この乾燥菌体から、クロロホルム等の有機溶剤を用いてPHAを抽出する。このPHAを含んだ溶液から、濾過等によって菌体成分を除去し、そのろ液にメタノールやヘキサン等の貧溶媒を加えてPHAを沈殿させる。さらに、濾過や遠心分離によって上澄み液を除去した後、PHAを乾燥させて回収することができる。
【0068】
本発明者らは、本発明が2.5L規模の培養で好適に実施でき、更に16000L以上の規模でも好適に再現できることを確認した。この5000倍以上のスケールアップの達成は、より大きな工業的規模での製造において、本発明の効果が好適に、かつ、最大限に発揮されることを意味する。
【0069】
本発明において、前記脂肪酸組成物(1)又は前記混合組成物(2)を炭素源として使用することによる資化性向上とは、資化しにくい長鎖飽和脂肪酸(ラウリン酸、ミリスチン酸又はパルミチン酸)を複数種類含有すること、あるいは、資化しにくい前記長鎖飽和脂肪酸と資化しやすい長鎖不飽和脂肪酸(オレイン酸)とを含有することによって、資化しにくい前記長鎖飽和脂肪酸の資化性がそれらを単独で使用する場合よりも向上することを意味する。あるいは、資化しにくい前記長鎖飽和脂肪酸と油脂とを含有することによって、資化しにくい前記長鎖飽和脂肪酸の資化性がそれらを単独で使用する場合よりも向上することを意味する。また、本発明において、資化性の向上とは、時間当たりの炭素源の消費量が増加し、その結果、微生物菌体の生産量や微生物が産生する物質の生産量が増加することを意味する。
【0070】
微生物菌体の生産量は、吸光度法、乾燥菌体重量測定法などの公知の方法で測定できる。微生物が産生する物質の生産量は、GC法、HPLC法などの公知の方法で測定できる。細胞中に蓄積されたPHAの含量は、加藤らの方法(Appl.MicroBiol.Biotechnol.,45巻、363頁、(1996);Bull.Chem.Soc.,69巻、515頁(1996))に従い、培養細胞からクロロホルムなどの有機溶媒を用いて抽出し、乾燥することで測定できる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0072】
各組成物の上昇融点は上述した方法により算出した。
【0073】
(実施例1)大腸菌の培養
種々の炭素源を用いて、E.coli HB101株(タカラバイオ社製)を培養した。前培地としてはLB培地(10g/L Bacto−tryptone、5g/L Bacto−yeast extract、5g/L NaCl)を用いた。生育試験にはM9培地(6g/L Na2HPO4、3g/L KH2PO4、0.5g/L NaCl、1g/L NH4Cl、1mM MgSO4、0.001w/v% Thiamine、0.1mM CaCl2)を用いた。
【0074】
E.coliのグリセロールストックを前培地に接種して37℃にて12時間培養し、前培養を行なった。その後、前培養液を、50mlのM9培地を入れた500ml用の坂口フラスコに2v/v%で接種した。次に、炭素源として、表1に示した各種脂肪酸組成物を0.25w/v%の濃度にて坂口フラスコに入れ、37℃で96時間振とう培養した。炭素源は坂口フラスコ内に一括添加した。培養終了後、遠心分離によって菌体を回収し、メタノールで洗浄した後、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。結果を表1に示した。
【0075】
【表1】
【0076】
(比較例1)
各種脂肪酸組成物の代わりに、炭素源として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、又は、オレイン酸を用いた以外は実施例1と同じ条件にて、大腸菌を培養し、乾燥菌体重量を測定した。結果を表1に示した。
【0077】
(実施例2)C.necator PHB−4株の培養
種々の炭素源を用いて、Cupriavidus necator PHB−4株(DSM541、DSMZより入手)を培養した。この株はPHAを合成しない株である。
【0078】
前培地の組成は、1w/v% Meat−extract、1w/v% Bacto−tryptone、0.2w/v% Yeast−extract、0.9w/v% Na2HPO4・12H2O、0.15w/v% KH2PO4とし、pHは6.8とした。
【0079】
生育試験培地の組成は、1.1w/v% Na2HPO4・12H2O、0.19w/v% KH2PO4、1.29w/v% (NH42SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、0.5v/v%微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v% CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v% CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl2・6H2Oを溶かしたもの)とした。
【0080】
Cupriavidus necator PHB−4株のグリセロールストックを前培地に接種して30℃にて12時間培養し、前培養を行なった。その後、前培養液を、50mlの生育試験培地を入れた500ml用の坂口フラスコに2v/v%で接種した。次に、炭素源として、表2に示した各種脂肪酸組成物を1.0w/v%の濃度にて坂口フラスコに入れ、30℃で24時間振とう培養した。炭素源は坂口フラスコ内に一括添加した。培養終了後、遠心分離によって菌体を回収し、メタノールで洗浄した後、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。結果を表2に示した。
【0081】
【表2】
【0082】
(比較例2)
各種脂肪酸組成物の代わりに、炭素源として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、又は、オレイン酸を用いた以外は実施例2と同じ条件にて、C.necator PHB−4株を培養し、乾燥菌体重量を測定した。結果を表2に示した。
【0083】
(実施例3)Pseudomonas resinovoransの培養によるPHA生産
種々の炭素源を用いて微生物を培養することで、PHAの生産を行なった。
【0084】
微生物としては、Pseudomonas resinovorans ATCC14235株(ATCCより入手)を用いた。
【0085】
種母培地の組成は、1w/v% Meat−extract、1w/v% Bacto−tryptone、0.2w/v% Yeast−extract、0.9w/v% Na2HPO4・12H2O、0.15w/v% KH2PO4とし、pHは6.8とした。
【0086】
前培養培地の組成は、1.1w/v% Na2HPO4・12H2O、0.19w/v% KH2PO4、1.29 w/v%(NH42SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、2.5w/v% パームオレインオイル、0.5v/v%微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v% CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v% CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl2・6H2Oを溶かしたもの)とした。前培養培地での炭素源であるパームオレインオイルは10g/Lの濃度で一括添加した。
【0087】
PHA生産培地の組成は、0.385w/v% Na2HPO4・12H2O、0.067w/v% KH2PO4、0.291w/v%(NH42SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、0.5v/v%微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v% CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v% CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl2・6H2Oを溶かしたもの)、0.05w/v% BIOSPUREX200K(消泡剤:コグニスジャパン社製)とした。
【0088】
まず、Pseudomonas resinovorans ATCC14235株のグリセロールストック(50μl)を種母培地(10ml)に接種して24時間培養し、種母培養を行なった。その後、種母培養液を、1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−300型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度30℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/min.とし、pHを6.7〜6.8の間でコントロールしながら24時間培養し、前培養を行なった。pHコントロールには7%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0089】
次に、前培養液を、6Lの生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−1000型)に5.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度30℃、攪拌速度650rpm、通気量8.1L/min.とし、pHを6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。炭素源は断続的に添加した。使用した炭素源を表3に示した。油脂としてはパームオレインオイルを使用した。培養は48時間行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収し、メタノールで洗浄した後、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0090】
得られた乾燥菌体約1gに100mlの酢酸エチルを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が約30mlになるまで濃縮した後、約100mlのメタノールを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置してPHAを析出させた。析出したPHAをメタノール及び酢酸エチルから分離し、50℃で3時間真空乾燥した。乾燥PHAの重量を測定し、菌体内のPHA含量を算出した。乾燥菌体重量、PHA含量、及びPHA生産量を表3に示した。
【0091】
【表3】
【0092】
生産されたPHAのモノマー組成は以下のようにガスクロマトグラフィーによって分析した。乾燥PHAの約20mgに2mlの硫酸−メタノール混液(15:85)と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱することでPHA分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中のPHA分解物のモノマー組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフは島津製作所GC−17Aを用い、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND−1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μlを注入した。温度条件は、初発温度を100℃とし、100℃から200℃までは8℃/分の速度で昇温し、さらに200℃から290℃までは30℃/分の速度で昇温した。上記条件にて分析した結果、実施例3で生産されたPHAが、炭素数4〜14の3−ヒドロキシアルカン酸モノマーから構成されるPHAであることを確認した。
【0093】
(比較例3)
各種脂肪酸組成物又は混合組成物の代わりに、炭素源として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、又は、パームオレインオイルを単独で用いた以外は実施例3と同じ条件にて、Pseudomonas resinovorans ATCC14235株を培養し、乾燥菌体重量、PHA含量、及びPHA生産量を測定した。結果を表3に示した。
【0094】
(実施例4)C.maltosaの培養によるPHA生産
種々の炭素源を用いて微生物を培養することで、PHAの生産を行なった。
【0095】
微生物として、C.maltosa AHU−71 pARR−149/171NSx2−phbB株(国際公開第2005/085415号公報を参照)を用いた。
【0096】
前培地にはYNB培地(0.67w/v% Yeast Nitrogen base without amino acid、2w/v% Glucose)を用いた。PHA生産培地には、M2培地(12.75g/L (NH42SO4、1.56g/L KH2PO4、0.33g/L K2HPO4・3H2O、0.08g/L KCl、0.5g/L NaCl、0.41g/L MgSO4・7HO、0.4g/L Ca(NO32・4H2O、0.01g/L FeCl3・4H2O)に、0.45ml/Lの微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1g/mL FeSO4・7H2O、8g/mL ZnSO4・7H2O、6.4g/mL MnSO4・4H2O、0.8g/mL CuSO4・5H2Oを溶かしたもの)を添加した培地を用いた。
【0097】
C.maltosa AHU−71 pARR−149/171NSx2−phbB株のグリセロールストックを、50mlの前培地を入れた500ml用の坂口フラスコに500μl接種した。これを培養温度30℃で20時間培養した。得られた培養液を、300mlのPHA生産培地を入れた2L用の坂口フラスコに10v/v%で接種した。さらに、炭素源として、表4に示した各種脂肪酸組成物又は混合組成物を2w/v%の濃度にて坂口フラスコに入れ、30℃で48時間振とう培養した。炭素源は坂口フラスコ内に一括添加した。培養終了後、遠心分離によって菌体を回収し、メタノールで洗浄した後、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0098】
得られた乾燥菌体約1gに100mlのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が約30mlになるまで濃縮し、その後、約90mlのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置してPHAを析出させた。析出したPHAをろ別後、50℃で3時間真空乾燥した。乾燥PHAの重量を測定し、菌体内のPHA含量を算出した。乾燥菌体重量、PHA含量、及びPHA生産量を表4に示した。
【0099】
【表4】
【0100】
生産されたPHAのモノマー組成を実施例3と同様の方法にて分析した。その結果、実施例4で生産されたPHAが、炭素数4の3−ヒドロキシ酪酸と炭素数6の3−ヒドロキシヘキサン酸の共重合体(PHBH)であることを確認した。
【0101】
(比較例4)
各種脂肪酸組成物又は混合組成物の代わりに、炭素源として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、又は、パームオレインオイルを用いた以外は実施例4と同じ条件にて、C.maltosa AHU−71 pARR−149/171NSx2−phbB株を培養し、乾燥菌体重量、PHA含量、及びPHA生産量を測定した。結果を表4に示した。
【0102】
(実施例5)KNK−005株の培養によるPHA生産
微生物として、KNK−005株(米国特許第7384766号明細書を参照)を用いた。
【0103】
種母培地の組成は、1w/v% Meat−extract、1w/v% Bacto−tryptone、0.2w/v% Yeast−extract、0.9w/v% Na2HPO4・12H2O、0.15w/v% KH2PO4とし、pHは6.8とした。
【0104】
前培養培地の組成は、1.1w/v% Na2HPO4・12H2O、0.19w/v% KH2PO4、1.29w/v%(NH42SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、2.5w/v%パームオレインオイル、0.5v/v%微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v% CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v% CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl2・6H2Oを溶かしたもの)とした。前培養培地での炭素源であるパームオレインオイルは10g/Lの濃度で一括添加した。
【0105】
PHA生産培地の組成は、0.385w/v% Na2HPO4・12H2O、0.067w/v% KH2PO4、0.291w/v% (NH42SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、0.5v/v%微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v% CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v% CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl2・6H2Oを溶かしたもの)、0.05w/v%BIOSPUREX200K(消泡剤:コグニスジャパン社製)とした。
【0106】
まず、KNK−005株のグリセロールストック(50μl)を種母培地(10ml)に接種して24時間培養し種母培養を行なった。次に種母培養液を、1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−300型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/min.とし、pHを6.7〜6.8の間でコントロールしながら28時間培養し、前培養を行なった。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0107】
次に、前培養液を、2.5Lの生産培地を入れた5Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDS−U50型)に5.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度420rpm、通気量2.1L/min.とし、pHを6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。炭素源は断続的に添加した。使用した炭素源を表5に示した。油脂としてはパームオレインオイルを使用した。培養は64時間行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収し、メタノールで洗浄した後、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0108】
得られた乾燥菌体1gに100mlのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が30mlになるまで濃縮した後、90mlのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置してPHAを析出させた。析出したPHAをろ別後、50℃で3時間真空乾燥した。乾燥PHAの重量を測定し、菌体内のPHA含量を算出した。乾燥菌体重量、PHA含量、及びPHA生産量を表5に示した。
【0109】
生産されたPHAのモノマー組成を実施例3と同様の方法にて分析した。その結果、実施例5で生産されたPHAが、炭素数4の3−ヒドロキシ酪酸と炭素数6の3−ヒドロキシヘキサン酸の共重合体(PHBH)であることを確認した。
【0110】
【表5】
【0111】
(比較例5)
各種脂肪酸組成物又は混合組成物の代わりに、炭素源として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、及びパームオレインオイルを用いた以外は実施例5と同じ条件にて、KNK−005株を培養し、乾燥菌体重量、PHA含量、及びPHA生産量を測定した。結果を表5に示した。
【0112】
(実施例6)実施例5における炭素源19、23、24及び25を用いたスケールアップの検証
実施例5にて、長鎖飽和脂肪酸単独の使用と比較して微生物の生育量及びPHAの生産量が向上した、複数の長鎖脂肪酸と油脂とを含有する炭素源(炭素源19、23、24及び25)を用い、スケールアップの検証を行なった。
【0113】
微生物としては、実施例5と同様、KNK−005株を用いた。
【0114】
種母培地(第1世代、第2世代)の組成は、1w/v% Meat−extract、1w/v% Bacto−tryptone、0.2w/v% Yeast−extract、0.9w/v% Na2HPO4・12H2O、0.15w/v% KH2PO4とし、pHは6.8とした。
【0115】
前培養培地の組成は、1.1w/v% Na2HPO4・12H2O、0.19w/v% KH2PO4、1.29w/v%(NH42SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、2.5w/v%パームオレインオイル、0.5v/v%微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v% CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v% CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl2・6H2Oを溶かしたもの)とした。前培養培地での炭素源であるパームオレインオイルは10g/Lの濃度で一括添加した。
【0116】
PHA生産培地の組成は、0.385w/v% Na2HPO4・12H2O、0.067w/v% KH2PO4、0.291w/v% (NH42SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v% CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v% CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl2・6H2Oを溶かしたもの)、0.05w/v%BIOSPUREX200K(消泡剤:コグニスジャパン社製)とした。
【0117】
第1世代培養として、まず、KNK−005株のグリセロールストックを、50mlの種母培地を入れた500ml用の坂口フラスコに500μl接種した。これを培養温度30℃で20時間培養した。次に第2世代培養として、第1世代培養液を、500mlの種母培地を入れた2L用の坂口フラスコに10v/v%で接種し、培養温度30℃で24時間培養した。次に種母培養として、第2世代培養液を、400Lの前培養培地を入れた容量1000Lの培養槽に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度270rpm、通気量200L/min.とし、pHを6.7〜6.8の間でコントロールしながら24時間培養し、前培養を行なった。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0118】
次に、本培養として、前培養液を、16000LのPHA生産培地を入れた容量400000Lの培養槽に2.5v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度86rpm、通気量5000L/min.とし、pHを6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。炭素源は断続的に添加した。培養は65時間行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収し、メタノールで洗浄した後、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0119】
得られた乾燥菌体1gに100mlのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が30mlになるまで濃縮した後、90mlのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置してPHAを析出させた。析出したPHAをろ別後、50℃で3時間真空乾燥した。乾燥PHAの重量を測定し、菌体内のPHA含量を算出した。乾燥菌体重量、PHA含量、及びPHA生産量を表6に示した。
【0120】
【表6】
【配列表】
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