【実施例】
【0094】
実施例1
サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)(S.セレビジエ(S.cerevisiae))pol3ミューテーターベクターの生成
S.セレビジエにおけるPOL3遺伝子は、2つの機能性ドメイン、3’〜5’エキソヌクレアーゼおよび5’〜3’ポリメラーゼドメイン、を含有する酵母DNAポリメラーゼデルタの触媒性サブユニットをコードする(参照により本明細書に組み込まれる、Bouletら,「Structure and function of Saccharomyces cerevisiae CDC2 gene encoding the large subunit of DNA polymerase III」,EMBO J.,1989 Jun;8(6):1849−54)。これらのエキソヌクレアーゼおよびポリメラーゼ活性は、染色体複製、修復および組換えに必要とされる。さらに、POL3の3’〜5’エキソヌクレアーゼは、ミスマッチ修復および岡崎フラグメント突然変異ならびにDNA合成中のプルーフリーディングに関与する(参照により本明細書に組み込まれる、Jinら,「Multiple Biological Roles of 3’to 5’Exonuclease of Saccharomyces cerevisiae DNA polymerase delta Require Switching between the Polymerase and Exonuclease Domains」,Mol.Cell.Biol.2005 Jan.,25(1):461−471)。
【0095】
以前の研究において、エキソヌクレアーゼモチーフEXO I、EXO II、およびEXO IIIの予測活性部位で部位特異的突然変異誘発により突然変異が引き起こされ、S.セレビジエに導入された。野生型POL3を有さずD321A(アミノ酸321でのアスパラギン酸からアラニンへの変化)またはE323A(アミノ酸323でのグルタミン酸からアラニンへの変化)アミノ酸置換を有する突然変異体株は、野生型株よりおおよそ370倍高い突然変異率を示した。一方、野生型POL3を有するエキソヌクレアーゼ欠損突然変異体は、野生型株より5倍突然変異率しか示さなかった。これらの結果は、DNA複製および修復中、野生型POL3が優性に機能し、突然変異を制限することを示唆している(参照により本明細書に組み込まれる、Simonら,「The 3’to 5’exonuclease activity located in the POL3 is required for accurate replication」,EMBO J.,1991,10(8):2165−70、Morrisonら,「Pathway correcting DNA replication errors in Saccharomyces cerevisiae」EMBO J.1993 Apr;12(4):1467−73、Murphyら,「A method to select for mutator DNA polymerase deltas in Saccharomyces cerevisiae」,Genome,2006,49:403−410)。
【0096】
D321AおよびE323A突然変異は、エキソヌクレアーゼ機能の金属結合能力の欠損の一因となると考えられる。酵母におけるD321AおよびE323A突然変異がヒトPolデルタにおけるD316AおよびE318Aアミノ酸置換に対応することも特に参照しておく(Shevelev,IV and U.Hubscher,「The 3’−5’exonucleases」,Nat.Rev.Mol.Cell Biol.,2002 May;3(5):364−76)。
【0097】
以前の研究において説明されたもう1つのpol3突然変異体酵母株、pol3−L612Mは、アミノ酸612でのロイシンからメチオニンの変化を含み、およびDNAポリメラーゼ忠実度に影響を及ぼすと考えられる(参照により本明細書に組み込まれる、Liら,「Sensitivity to Phosphonoacetic Acid:A New Phenotype to Probe DNA Polymerase delta in Saccharomyces cerevisiae」,Genetics,2005 Jun.;170:569−580、Venkatesanら,「Mutator phenotypes caused by substitution at a conserved motif A residue in eukaryotic DNA polymerase delta」,J.Biol.Chem.,2006 Feb.17;281(7):4486−94)。LieらおよびVenkatesanらの実験において、pol3−L612M突然変異体株は、野生型酵母株を基準にしておおよそ1.6から7.0倍高い突然変異率を示した。
【0098】
以前の研究におけるpol3−L612M突然変異体株は、部位特異的組み込み法(targeted integration)によりまたはプラスミドシャッフリング法により染色体POL3遺伝子にpol3−L612M対立遺伝子を組み込み、それにより内在性POL3遺伝子を破壊することによって構築された。突然変異体株を野生型突然変異率に回復させるには、その内在性野生型POL3を別のオレゴヌクレオチド媒介突然変異誘発によって回復させる必要があるだろう。ミューテータープラスミドの使用は、内在性野生型POL3の連続発現を可能にし、およびそのミューテータープラスミドからのその酵母株のキュアリングにより野生型突然変異率の効率的な回復に備える。このようにして、所望の形質を獲得したら生物の突然変異率増加を停止して、他の形質の望ましくない突然変異を防止する。
【0099】
A.YCplac111ミューテーター・プラスミド・ベクターの構築
コーディング配列(3291bp)および非コーディング配列(1000bp上流で500bp下流)を含む野生型ゲノムPOL3遺伝子のDNAフラグメント(配列番号:1)を、プライマー、ScPOL3pro−S:5’−AGTCGAGTCGACTGTTTTCCTTGATGGCACGGT(配列番号:2)、およびScPOL3ter−AS:5’−AGTCGAGAATTCTGGAGTGCTGGTGTCATATTA(配列番号:3)を使用するPCR法によって、S.セレビジエゲノムDNAからクローニングした。増幅されたDNAフラグメントを、YCplac111のマルチクローニング部位(SalIおよびEcoRI)に挿入して、YCplac111/POL3プラスミドベクターを構築した。エキソヌクレアーゼ欠損pol3(pol3−01)プラスミドベクターについては、QuikChange Kit(Stratagene)とプライマー、Scpol3−01:5’−GCGTATCATGTCCTTTGCTATCGCGTGTGCTGGTAGGATTG(配列番号:4)を使用してYCplac33/POL3プラスミドにおいてD321A置換(アミノ酸321でのアスパラギン酸からアラニンアミノ酸への変化)およびE323A置換(アミノ酸323でのグルタミン酸からアラニンへの置換)を生じさせ、結果として、YCplac111/pol3−01プラスミドベクターを得た。
【0100】
YCplac111/pol3−01+L612Xプラスミドベクターの構築については、QuikChange Kit(Stratagene)および以下のプライマーを使用することにより、YCplac111/pol3−01プラスミドにおいてアミノ酸612におけるロイシンを、表1に示すように、所望のアミノ酸に変化させ、生成した:
Scpol3L612A:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTGCTTATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:5)、
Scpol3L612C:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTTGTTATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:6)、
Scpol3L612D:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTGATTATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:7)、
Scpol3L612E:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTGAGTATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:8)、
Scpol3L612F:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTTTCTATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:9)、
Scpol3L612G:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTGGATATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:10)、
Scpol3L612H:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTCATTATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:11)、
Scpol3L612I:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTATATATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:12)、
Scpol3L612K:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTAAGTATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:13)、
Scpol3L612M:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTATGTATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:14)、
Scpol3L612N:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTAATTATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:15)、
Scpol3L612P:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTCCATATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:16)、
Scpol3L612Q:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTCAGTATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:17)、
Scpol3L612R:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTCGTTATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:18)、
Scpol3L612S:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTTCTTATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:19)、
Scpol3L612T:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTACTTATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:20)、
Scpol3L612V:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTGTTTATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:21)、
Scpol3L612W:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTTGGTATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:22)、
Scpol3L612Y:
5’−GCAACTTTGGATTTCAATTCTTACTATCCAAGTATTATGATGGCG(配列番号:23)
【0101】
B.YCplac33ミューテーター・プラスミド・ベクターの構築
YCplac111/pol3−01またはYCplac111/pol3−01+L612Mプラスミドのそれぞれを2つの制限酵素、SalIおよびEcoRI、で消化した。ゲノムpol3突然変異遺伝子のDNAフラグメントを精製し、その後、YCplac33プラスミドのマルチクローニング部位(SalIおよびEcoRI)に挿入して、YCplac33/pol3−01およびYCplac33/pol3−01+L612Mプラスミドベクターを構築した。
【0102】
C.YEplac195ミューテーター・プラスミド・ベクターの構築
YCplac111/pol3−01またはYCplac111/pol3−01+L612Mプラスミドのそれぞれを2つの制限酵素、SalIおよびEcoRI、で消化した。ゲノムpol3突然変異遺伝子のDNAフラグメントを精製し、その後、YEplac195プラスミドのマルチクローニング部位(SalIおよびEcoRI)に挿入して、YEplac195/pol3−01およびYEplac195/pol3−01+L612Mプラスミドベクターを構築した。
【0103】
YIplac33ミューテーターベクターの構築
YCplac33ベクターを2つの制限酵素、SpeIおよびNheI、で消化し、その後、それらのDNAフラグメントをT4 DNAポリメラーゼで処理してそれらのDNAフラグメントに平滑末端を生じさせた。それらの平滑末端DNAフラグメントをT4 DNAリガーゼでライゲートして、YIplac33ベクターを生じさせた。YCplac111/pol3−01またはYCplac111/pol3−01+L612Mプラスミドのそれぞれを2つの制限酵素、SalIおよびEcoRI、で消化した。ゲノムpol3突然変異遺伝子のDNAフラグメントを精製し、その後、YIplac33プラスミドのマルチクローニング部位(SalIおよびEcoRI)に挿入して、YIplac33/pol3−01およびYIplac33/pol3−01+L612Mプラスミドベクターを構築した。
【0104】
E.YCplac33/Gal1pガラクトース誘導性ミューテーター・プラスミド・ベクターの構築
プライマー、GAL1U1:5’−ATACTGCAAGCTTACGGATTAGAAGCCGCCGAG(配列番号:24)およびGALlDl:5’−CCCTATCTGCAGGGGGTTTTTTCTCCTTGACG(配列番号:25)を使用するPCRにより、S.セレビジエゲノムDNAからGAL1プロモーター領域(450bp)をクローニングした。増幅されたDNAフラグメントを2つの制限酵素、HindIIIおよびPstI、で消化し、その後、YCplac33プラスミドのマルチクローニング部位(HindIIIおよびPstI)に挿入して、YCplac33/Gal1pプラスミドベクターを構築した。プライマー、SCPD AESAL1:5’−ATACGCGTCGACATGAGTGAAAAAAGATCCCTTC(配列番号:26)およびSCPD AISAC1:5’−GCCACCGAGCTCGAAGGAACAGATCTTACAAGC(配列番号:27)を使用するPCRによって、YCplac111/pol3−01+L612Mプラスミドからpol3−01+L612Mコーディング配列のDNAフラグメントを増幅した。増幅されたDNAフラグメントを2つの制限酵素、SalIおよびSacI、によって消化し、その後、YCplac33/Gal1pプラスミドのマルチクローニング部位(SalIおよびSacI)に挿入して、YCplac33/Gal1p/pol3−01+L612Mプラスミドベクターを構築した。
【0105】
実施例2
ミューテーター株を生成するためのS.セレビジエの形質転換
この実施例では2つの酵母株を使用した:SYD62D−1A(MATalpha、ura3−52、his3−デルタ300、trp1−デルタ90、leu2−3、112、lys2−801、ade2−2)および2倍体株、YPH501(MATa/alpha ura3−52/ura3−52 lys2−801/lys2−801 ade2−101/ade2−101 trp1−デルタ63/trp1−デルタ63 his3−デルタ200/his3−デルタ200 leu2−デルタ/leu2−デルタ1)。これらの酵母株のそれぞれをYPD培地(1%酵母エキス、2%ポリペプトン、2%グルコース)で成長させ、Frozen EZ Yeast Tranformation II(ZymoResearch)を使用することによりコンピテント細胞を調製した。
【0106】
A.YCplac111ミューテーター株
YCplac111/pol3−01またはYCplac111/pol3−01+L612Xミューテーター・プラスミド・ベクター(200ng DNA)のそれぞれを、Frozen EZ Yeast Tranformation II(ZymoResearch)を使用することにより10uLのSYD62D−1Aコンピテント細胞に導入した。それらの細胞を合成完全培地、ロイシン削除、寒天プレート(SC/−Leu:0.67%イースト・ナイトロジェン・ベース(アミノ酸不含)、0.69g/L CSM−Leu(FORMEDIUM(商標))、2%グルコース、2%寒天)に塗布し、3日間、摂氏30度でインキュベートした。それらの形質転換体それぞれを単離し、YCplac111/pol3−01またはYCplac111/pol3−01+L612Xミューテーター株(Xは、所望のアミノ酸残基を表す)と呼んだ。これらの形質転換体の内在性野生型POL3遺伝子は、無傷および活性のままであった。
【0107】
B.YCplac33ミューテーター株
YCplac33/pol3−01またはYCplac33/pol3−01+L612Mミューテーター・プラスミド・ベクター(200ng DNA)のそれぞれを、Frozen EZ Yeast Tranformation II(ZymoResearch)を使用することにより10uLのSYD62D−1Aコンピテント細胞に導入した。それらの細胞を合成完全培地、ウラシル削除、寒天プレート(SC/−Leu:0.67%イースト・ナイトロジェン・ベース(アミノ酸不含)、0.77g/L CSM−Ura(FORMEDIUM(商標))、2%グルコース、2%寒天)に塗布し、3日間、摂氏30度でインキュベートした。それらの形質転換体それぞれを単離し、YCplac33/pol3−01またはYCplac33/pol3−01+L612Mミューテーター株と呼んだ。これらの形質転換体の内在性野生型POL3遺伝子は、無傷および活性のままであった。
【0108】
C.YEplac195ミューテーター株
YEplac195/pol3−01またはYEplac195/pol3−01+L612Mミューテーター・プラスミド・ベクター(200ng DNA)のそれぞれを、Frozen EZ Yeast Tranformation II(ZymoResearch)を使用することにより10uLのSYD62D−1Aコンピテント細胞に導入した。それらの細胞をSC/−Uraに塗布し、3日間、摂氏30度でインキュベートした。それらの形質転換体それぞれを単離し、YEplac195/pol3−01またはYEplac195/pol3−01+L612Mミューテーター株と呼んだ。これらの形質転換体の内在性野生型POL3遺伝子は、無傷および活性のままであった。
【0109】
D.YIplac33ミューテーター株
YIplac195/pol3−01またはYEplac195/pol3−01+L612Mミューテーター・プラスミド・ベクターのそれぞれを制限酵素、KpnI、で消化してそれらのベクターを線形化した。それらの線形化ベクター(1000ng)のそれぞれを、Frozen EZ Yeast Tranformation II(ZymoResearch)を使用することにより、100uLのSYD62D−1Aコンピテント細胞に導入した。それらの細胞をSC/−Uraに塗布し、3日間、摂氏30度でインキュベートした。それらの形質転換体それぞれを単離し、プライマー、M13YCp:5’−ACGTTGTAAAACGACGGCCAG(配列番号:28)およびScPOL3IC1:5’−TTTACGGTGACACTGATTCCG(配列番号:29)を使用するPCRによって遺伝子型を判定して、ミューテーターベクターがPOL3遺伝子座に組み込まれていることを確認した。陽性形質転換体のそれぞれをYIplac33/pol3−01またはYIplac33/pol3−01+L612Mミューテーター株と呼んだ。これらの形質転換体の内在性野生型POL3遺伝子は、無傷および活性のままであった。
【0110】
E.YCplac33/Gal1pミューテーター株
YCplac33/Gal1p/pol3−01またはYCplac33/Gal1p/pol3−01+L612Mミューテーター・プラスミド・ベクター(200ng DNA)のそれぞれを、Frozen EZ Yeast Tranformation II(ZymoResearch)を使用することにより10uLのYPH501コンピテント細胞に導入した。それらの細胞をSC/−Uraに塗布し、3日間、摂氏30度でインキュベートした。それらの形質転換体それぞれを単離し、YCplac33/Gal1p/pol3−01+L612Mミューテーター株と呼んだ。ミューテーターpol3遺伝子を発現させるために、それらの形質転換体をSC/−Ura/ガラクトース(2%グルコースの代わりに2%ガラクトースに)寒天プレートに移し、5から数日間、摂氏30度で培養した。それらの形質転換体の内在性野生型POL3遺伝子は、無傷および活性のままであった。
【0111】
S.セレビジエにおけるCAN1遺伝子座での突然変異率のゆらぎ解析
カナバニン耐性(Can
R)正突然変異に対して感受性のカナバニン(Can
S)を検出するように設計されたCAN1正突然変異アッセイを、それぞれのプレートからの5つの独立したコロニーに対して行った。
【0112】
突然変異率、すなわち1分裂(または世代)あたりの細胞ごとの突然変異の確率、を研究する実験的方法をゆらぎ解析と呼ぶ。ゆらぎ解析において培養あたりの突然変異数から突然変異率を推定するための当業者に公知の様々な数学的手法がある。これらの数学的手法は、多数の並行培養において観察された分布を用いて培養あたりの突然変異の推定数を推定すること、およびその突然変異の推定数を用いて突然変異率を計算することを含む。
【0113】
この実施例では、CAN1遺伝子座での突然変異率(MR)は、培養(N)における総細胞数で割った突然変異係数(m)に等しい、すなわち、MR=m/N。突然変異係数は、m=r0/(r0/m)と定義することができ、この式中のr0は、それぞれのクローンについてのCan
R耐性コロニー数である。量r0/mの値は、LeaおよびCoulson,「The distribution of the number of mutants in bacterial populations」J.Genet.1948,vol.49,264−285に記載されているようなLea−Coulson指数を用いて見いだせる。
【0114】
CAN1正突然変異アッセイをそれぞれのプレートについて3回繰り返し、平均突然変異率を決定した。結果を表1、2および3に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0115】
表1を参照して、野生型突然変異率、すなわち、ミューテータープラスミドを有さない1倍体酵母株(SYD62D−1A)のCAN1突然変異率は、おおよそ2.4×10
−7であった。YCplac111/pol3−01ミューテーター株のCAN1遺伝子座での突然変異率は、平均しておおよそ1.5×10
−6であり、野生型より6.3倍しか大きくなかった。一方、pol3−01+L612Xミューテーター株L612A、L612G、L612M、L612Q、L612VおよびL612Wのサブセットは、野生型株より58倍から230にわって大きい増加された突然変異率を示した。pol3−01+L612Xミューテーター株L612C、L612FおよびL612Yは、致死性表現型を示した。ミューテーター・プラスミド・ベクターYCplac111/pol3−01+L612C、L612FおよびL612Yを2倍体酵母株(YPH501)に導入して、それらの突然変異体株が生存可能であるのかないのかを確認した。結果は、YCplac111/pol3−01+L612C、L612FおよびL612Y 2倍体株が生存可能であることを示した(データは示さない)。これは、これらの突然変異体がYCplac111/pol3−01+L612Qのものより強いミューテーター表現型を有するようであることを示唆している。さらに、突然変異体株pol3−01+L612H、L612I、L612K、L612RおよびL612Tのサブセットは、pol3−01単一突然変異体を基準にして同様のまたはより少ない突然変異率を示した。これらの結果は、YCplac111/pol3−01+L612Xミューテーターベクターが、野生型株を基準にして2倍から230倍を超える範囲にわたる様々な突然変異率をもたらすことができることを示している。
【0116】
従って、単一ミューテーターベクターにおけるpol3−01とL612X(A、G、M、Q、VおよびW)突然変異体のサブセットとの組み合わせ(表1)は、個々にpol3−01またはL612X(A、G、M、Q、VおよびW)突然変異のものの突然変異率より相乗的に高い突然変異率を生じさせた。さらに、ミューテータープラスミド上のpol3−01+L612X(A、G、M、Q、VおよびW)遺伝子型は、野生型POL3発現に対してドミナントネガティブに作用するようである。すなわち、野生型POL3は、依然として無傷であり、発現されるが、ミューテーターベクターから発現されるpol3突然変異体は、内在性DNAポリメラーゼデルタの競合的阻害剤である可能性が高く、その結果、全DNA複製忠実度を低下させる。
【0117】
表2を参照して、様々なタイプのミューテーターベクター、例えば、YCplac33、YEplac195およびYIplac33は、1倍体または2倍体酵母株に強いミューテーター表現型をもたらすことができる。これらのベクターは、細胞をそれらのミューテーターベクターのキュアリング(実施例3において詳細に説明する)後に単離するために有用であるURA3選択マーカーを含有する。野生型突然変異率、すなわち、ミューテータープラスミドを有さないSYD62D−1A酵母クローンのCAN1突然変異率は、おおよそ2.4×10
−7であった。pol3−01株のCAN1遺伝子座での突然変異率は、平均しておおよそ9.6×10
−7であり、野生型より4.0倍しか大きくなかった。しかし、ゆらぎ解析により、YCplac33およびYEplac195プラスミドベクターと共に用いるpol3−01突然変異とL612M突然変異の組み合わせが、単独のpol3−01突然変異を基準してCAN1遺伝子座での突然変異率のおおよそ10倍増加を生じさせることが明らかになった。YIplac33ベクターを使用すると、pol3−01+L612Mの組み合わせは、単独のpol3−01突然変異の使用より50倍を超えて大きい突然変異率を示す。
【0118】
加えて、野生型突然変異率と比較したとき、YCplac33/pol3−01+L612Mミューテータープラスミドの突然変異率は、71倍高かった。YEplac195/pol3−01+L612Mミューテータープラスミドについては、突然変異率が野生型のものの120倍であった。YIplac33/pol3−01+L612Mミューテータープラスミドについては、突然変異率が野生型のものの220倍であった。
【0119】
表3に示したように、ガラクトース誘導性ミューテーターベクターYCplac33/Gal1p/pol3−01+L612Mは、酵母株に強い一過性ミューテーター表現型をもたらすことができる。野生型突然変異率、すなわち、ミューテーター・プラスミド・ベクターを有さない2倍体酵母株YPH501のCAN1突然変異率は、おおよそ5.2×10
−8であった。対照的に、YPH501酵母株におけるYCplac33/Gal1p/pol3−01+L612Mミューテーターベクターは、野生型株のものよりおおよそ330倍大きい突然変異率を示した。
【0120】
実施例3
酵母における野生型突然変異率の回復
突然変異酵母において所望の形質が達成されたら、YCplac33およびYEplac195タイプのプラスミドで形質転換されたその酵母の突然変異率を野生型突然変異率に回復させることができる。突然変異酵母において所望の形質を遺伝的に固定するために、および望ましくない場合があるその酵母におけるさらなる突然変異を回避するために、野生型突然変異率を回復させる。1g/Lの5−フルオロオロチン酸(5−FOA)を含有するSC培地(機能性URA3遺伝子を一切発現しない細胞の成長のみを可能にする選択培養基)でその酵母を培養することによりYCplac33およびYEplac195ミューテーター・プラスミド・ベクターから形質転換酵母細胞をキュアリングすることによって、野生型突然変異率を回復させる。
【0121】
YIplac33組み込みタイプのミューテーターベクターで形質転換された酵母細胞の場合、そのミューテーターベクターを相同組み換えによりその酵母のゲノムのPOL3遺伝子座から切除し、それによってそれらの細胞を野生型突然変異率に戻すことができる。YIplac33ミューテーターベクターをその形質転換体からキュアリングするために、少なくとも107の細胞をSC/5−FOAに塗布し、生存酵母コロニーの遺伝子型を判定して野生型POL3の回復を確認する。
【0122】
実施例4
Pold1突然変異体発現ベクターの生成
DNAポリメラーゼデルタの触媒性サブユニットは、Pold1遺伝子によってコードされる。この実施形態では、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞cDNAライブラリーを作製し、Pold1 cDNAを単離した(配列番号:87)。D398A(アミノ酸398でのアスパラギン酸からアラニンへの変化)突然変異をPol1 3’〜5’エキソヌクレアーゼ活性部位に導入し、L602M(アミノ酸602でのロイシンからメチオニンへの変化)突然変異をPold1ポリメラーゼドメインに導入した(参照により本明細書に組み込まれる、Goldsbyら,「Defective DNA polymerase delta proofreading causes cancer susceptibility in mice」,Nat Med.,2001 Jun:7(6),638−9、Goldsbyら,「High incidence of epithelial cancers in mice deficient for DNA polymerase proofreading」,PNAS,November 26,2002,vol.99(24),15560−15565、Venkatesanら,「Mutation at the polymerase active site of mouse DNA polymerase delta increases genomic instability and accelerates tumorigenesis」,Mol Cell Biol.2007 Nov;27(21):7669−82)。オレゴヌクレオチド5’−GGCTATAATATTCAGAACTTTGCCCTCCCATACCTCATCTCGCGC(配列番号:30(アラニンアンチコドンにアンダーラインを引く)および5’−CCCTGGATTTCTCCTCTATGTACCCATCCATCATG(配列番号:31)(メチオニンアンチコドンにアンダーラインを引く)、それぞれ(Quikchange,Stratagene)、を使用して突然変異を導入し、それによってPold1+D398A突然変異体およびPold1+D398A+L602M突然変異体を得た。D398A突然変異は、Shevelev,IV and U.Hubscher,「The 3’5’exonucleases」,Nat.Rev.Mol.Cell Biol.,2002 May;3(5):364−76において論じられているようなヒトPolデルタにおけるD401Aアミノ酸置換に対応する。
【0123】
Pold1突然変異体のクローニングおよび発現には、pCMV−Script(Stratagene)哺乳動物発現ベクターを使用した。Pold1+D398A突然変異体およびPold1+D398A+L602Mをその発現ベクターのサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(G418耐性)の後に挿入して、Pol1+D398AおよびPodl1+D398A+L602M発現ベクターを構築した。2つのloxP部位をその構築物に挿入し、それによって、CreリコンビナーゼでのCHO細胞ゲノムからのPold1突然変異体の切除を可能にした。
【0124】
実施例5
CHO細胞におけるOua
R遺伝子座での突然変異率のゆらぎ解析
標準的なトランスフェクション法を用いて、Pold1+D398A突然変異体発現ベクターおよびPold1+D398A+L602M突然変異体発現ベクターをCHO−DXB11細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション後、安定なPld1突然変異体発現細胞系、DXB11/Pold1+D398AおよびDXB11/Pold1+D398A+L602Mを得た。CHO−DXB11(ベクター不含)、CXB11/Pold1+D398A、およびDXB11/Pold1+D398A+L602M細胞を、2mMのウアバインを含む標準培養基内に配置した。既存のウアバイン耐性細胞を除去するために、細胞数1,000から細胞数5×10
7に成長させた細胞集団を使用した。
【0125】
14日の培養後に出現したウアバイン耐性(Oua
R)コロニーの数および播種した細胞の総数(1〜3×10
7)を用いて、前に論じたようなLea Coulson指数に従って突然変異率を決定した。それぞれの細胞培養物についてゆらぎ解析を3回繰り返し、平均突然変異率を決定した。CHO細胞におけるOua
R遺伝子座での突然変異率のゆらぎ解析の結果を表4に示す。
【表4】
【0126】
ベクターを有さないCHO細胞におけるOua
R遺伝子座での野生型突然変異率は、平均しておおよそ3.6×10
−8であった。Pold1+D398A突然変異を有するCHO細胞は、野生型突然変異率より1.6倍大きい、おおよそ5.8×10
−8の突然変異率を明示した。しかし、Pold1+D398A+L602M突然変異を有するCHO細胞は、おおよそ1.3×10
−6の突然変異率、すなわち、野生型突然変異率の36倍を有した。
【0127】
実施例6
CHO細胞における野生型突然変異率の回復
loxP部位の2つのコピー間の領域を、Cre−リコンビナーゼにより触媒される部位特異的組換えによって切除する。野生型突然変異率を回復させるために、CHOミューテーター細胞をCre−リコンビナーゼ発現ベクター(ピューロマイシン耐性)でトランスフェクトする。ピューロマイシンの存在下で選択されるこれらのCHO細胞は、回復された野生型突然変異率を有する細胞である。Cre−loxP部位特異的組換えによってゲノムからPold1突然変異体を切除して、その野生型突然変異率を回復させる。
【0128】
実施例7
クロトリマゾール(CTZ)耐性酵母の生成
Taiken 396のura3欠失突然変異体(Taiken 396 ura3−)であるS.セレビジエ株にYCplac33/pol3−01+L612Mベクターを導入して、Taiken396ミューテーター酵母株を生じさせた。そのTaiken 396ミューテーター株をSD培地(0.67%イースト・ナイトロジェン・ベース(アミノ酸不含)、2%グルコール)で成長させ、振盪しながら(180rpm)24時間、摂氏30度で培養した。その後、25mg/Lのクロトリマゾール(CTZ)を含有するSD寒天培地にその培養物をプレーティングし、3日間、摂氏30度で培養した。親酵母株Taiken 396は、25mg/LのCTZを含有するSD寒天培地では通常、生き残れない。所望の生存形質、すなわち、25mg/LのCTZの存在下で生き残る形質、を有する突然変異酵母コロニーを単離した。
【0129】
酵母ゲノムにおいてそのクロトリマゾール耐性形質を固定し、YCplac33/pol3−01+L612Mベクターを除去するために、1g/Lの5−フルオロオロチン酸を含有するSC寒天培地(0.67%イースト・ナイトロジェン・ベース(アミノ酸不含)、0.079%完全サプリメントミックス、2%グルコール、2%寒天)に、単離した酵母クローンをプレーティングし、3日間、摂氏30度で培養した。生存クローンを単離し、CTZ耐性形質について固定し、ミューテーターベクターは固定しなかった。CTZ耐性株のura3欠失を奪回するために、コンピテント細胞を相同組み換えによって無傷URA3遺伝子のDNAフラグメントで形質転換し、3日間、摂氏30度でSD寒天培地にプレーティングした。陽性クローンを単離し、CTZ耐性および非栄養要求性を確認した。
【0130】
実施例8
発酵能力試験
野生型株およびTaiken 396のCTZ耐性株をYPD培地(1%酵母エキス、2%ポリペプトン、2%グルコース)に接種し、振盪しながら(180rpm)24時間、摂氏30度で培養した。
【0131】
培養した細胞のそれぞれをYPD培地から回収し、蒸留水ですすぎ、その後、2×10
6細胞/mLの最終濃度で20mLのYPS培地(1%酵母エキス、2%ポリペプトン、2%スクロース)に接種した。それらの細胞のそれぞれをYPS培地において摂氏30度で1日2回攪拌しながら成長させた。YPS培地中のエタノール濃度および野生型株またはCTZ耐性株の細胞生存率を接種後3日および4日の時点で測定した。
【0132】
CTZ耐性株は、3および4日の培養後に野生型株のものより高いエタノール耐性を示した(
図1A)。CTZ耐性株は、3日後、野生型株のものよりおおよそ20%高い生存率、および4日後、おおよそ10%高い生存率も示した(
図1B)。
【0133】
実施例9
タバコ植物への除草剤耐性の付与
A.タバコDNAポリメラーゼデルタ遺伝子の単離
タバコ植物タバコ(Nicotiana tobacum)cv.株Bright Yellow2(「タバコBY−2」)を使用して、植物の進化を方向づけるミューテーター遺伝子の能力を調査した。
【0134】
タバコBY−2のDNAポリメラーゼデルタ(Pold1)遺伝子の触媒性サブユニットを単離するために、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)およびダイズ(Glycine max)(双子葉植物)、イネ(Oryza sativa)(単子葉植物)、ならびにクロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)(青緑色細菌)のPold遺伝子配列を入手し、多数の配列アラインメントをそれらのpoldアミノ酸配列で行った。この配列アラインメントは、S.セレビジエのPOL3のアミノ酸との比較も含んだ(すなわち、
図3参照)。配列アラインメント後、それらのpold配列の高保存領域を特定し、PCRプライマー、PBOXl−Fw:5’−GT(G/T)CA(C/T)GG(A/C/G)TTGA(A/G)CC(A/C)TA(C/T)TT(C/T)TAC(配列番号:32)およびPBOX9−Rv:5’−CA(A/G)(A/G)CC(A/C)GC(A/G)TA(C/G/T)C(G/T)CTTCTT(配列番号:33)の設計に用いて、タバコBY−2Pold遺伝子配列(配列番号:88)を単離した。
【0135】
ReveTraAce(日本、大阪の東洋紡績株式会社(Toyobo,Osaka,Japan))とオリゴ(dT)プライマー、およびタバコBY−2から精製した全RNAを使用して、逆転写(RT)によってBY−2細胞のcDNAを調製した。Fusion DNAポリメラーゼ(FINZYME(商標))、プライマー(PBOX1−FwおよびPBOX9−Rv)、ならびにテンプレートとしてBY−2 RNAを使用してRT−PCRにより、BY−2 pold1 cDNAの部分フラグメントをクローニングした。3’−RACEおよび5’−RACEを使用して全タバコBY−2 Pold1遺伝子を単離するためのプライマーを構築するために、そのcDNA配列を使用した。
【0136】
B.3’〜5’エキソヌクレアーゼ領域およびポリメラーゼ忠実領域の修飾
タバコBY−2 DNAポリメラーゼの3’〜5’エキソヌクレアーゼ領域および/またはポリメラーゼ忠実領域において1つ以上の突然変異を生じさせるように、タバコBY−2遺伝子のヌクレオチド配列を修飾した。より詳細には、Ntpold1
exo−と称する、D275A(アミノ酸275でのアスパラギン酸からアラニンへの変化)およびE277A(アミノ酸277でのグルタミン酸からアラニンへの変化)アミノ酸変化を含むエキソヌクレアーゼ欠損突然変異を生じさせるように、Pold1遺伝子の3’〜5’エキソヌクレアーゼ領域を修飾した。Ntpold1
exo−+L567Mと称する、L567D(アミノ酸567でのロイシンからアスパラギン酸への変化)アミノ酸変化と共にD275AおよびE277Aアミノ酸変化を含むエキソヌクレアーゼ欠損突然変異および低忠実度突然変異を生じさせるように、Pold1遺伝子の3’〜5’エキソヌクレアーゼ領域およびポリメラーゼ忠実領域を修飾した。タバコPold1のエキソヌクレアーゼ領域におけるD257AおよびE277A突然変異は、ヒトPolデルタにおけるD316AおよびE318アミノ酸置換に対応する(Shevelev,IV and U.Hubscher,「The 3’ 5’exonucleases」,Nat.Rev.Mol.Cell Biol.,2002 May;3(5):364−76)。
【0137】
C.タバコ細胞の形質転換
Ntpold1
exo−突然変異体遺伝子をpBI121植物形質転換ベクターに挿入して、pBI/Ntpold1
exo−突然変異体ベクターを生成した。Ntpold1
exo−+L567M突然変異体遺伝子をpBI121ベクターに挿入して、pBI/Ntpold1
exo−+L567M突然変異体ベクターも作った。pBI/Ntpold1
exo−突然変異体ベクターおよびpBI/Ntpold1
exo−+L567M突然変異体ベクターをアグロバクテリウムGV3101に導入し、アグロバクテリウムとタバコBY−2細胞の同時培養によってタバコBY−2培養細胞への形質転換を行った。同時培養後、カナマイシンおよびクラフォランを含有する選択培地において形質転換体を選択した。
【0138】
対照として、pBI121のCaMV35Sプロモーターの下流への遺伝子挿入を有さない、Pold1ミューテーター遺伝子を含有しないpBI121ベクター、pBI/空、をタバコBY−2細胞に形質転換させた。
【0139】
D.除草剤耐性タバコ株の獲得
300mLフラスコを用いて130rpmで振盪しながら摂氏27度で100mLの液体懸濁培地(NH
4NO
3 1,650mg/L、KNO
3 1,900mg/L、CaCl
2−2H
2O 440mg/L、MgSO
4−7H
2O 370mg/L、H
3BO
3 6.2mg/L、MnSO
4−4H
2O 22.3mg/L、ZnSO
4−7H
2O 8.6mg/L、KI 0.83mg/L、Na
2MoO
4−2H
2O 0.25mg/L、CuSO
4−5H
2O 0.025mg/L、CoCl
2−6H
2O 0.025mg/L、Na
2−EDTA 37.3mg/L、FeSO
4−7H
2O 27.8mg/L、チアミンHCl 1.0mg/L、ミオイノシトール 100mg/L、スクロース 30g/L、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸 0.2mg/L)においてそれぞれのタイプの形質転換BY−2細胞(pBI/空、pBI/Ntpold1
exo−およびpBI/Ntpold1
exo−+L567M)をそれぞれ別々に培養した。活発に成長している細胞を新鮮な液体培地に接種した。4日成長させた後、おおよそ50mLの形質転換細胞懸濁液を試験管に写し、200×gで5分間、室温で遠心分離した。上清を除去し、ペレット化した細胞を新たな液体培地に再び懸濁させて細胞をすすいだ。それらの細胞を3回遠心分離してすすいだ。
【0140】
すすいだ後、その液体培地中の形質転換細胞の濃度を、pBI/空、pBI/Ntpold1
exo−およびpBI/Ntpold1
exo−+L567M突然変異体細胞系のそれぞれにわたって等しくした。それらの細胞懸濁液のそれぞれについて、2.5uMの2,6−ジクロロベンゾニトリル(DBN)除草剤を有する固体培養基の8つのプレートを作製し、2mLの細胞懸濁液を接種した。それらのDBN培養プレートを摂氏27度の暗所に放置して成長させた。1か月の細胞培養の後、形質転換タバコ細胞がDBNに対する耐性を獲得したことを示す生長タバコカルスの存在について、それらのDBNプレートをスクリーニングした。
【0141】
図2を参照して、1カ月の培養後、pBI/空対照ベクター(対照としてのEM)およびpBI/Ntpold1
exo−突然変異体ベクターで形質転換させたタバコ細胞は、DBNプレート上でタバコカルスを発生させなかった。しかし、pBI/Ntpold1
exo−+L567M突然変異体ベクター(D275A、E277AおよびL567Mアミノ酸変化)で形質転換させたタバコ細胞を接種したDBNプレートのうちの2つは、生長タバコカルスを含有した(矢印はプレート上のタバコカルスを示す)。従って、Pold1ミューテーター遺伝子の使用は、DBN除草剤に対して耐性の所望の形質を発生させるように植物細胞の進化を方向づけることに成功した。
【0142】
実施例10
所望の形質を有する生物の選択
ミューテーター遺伝子で突然変異させた生物を、当分野において公知であるものなどのスクリーニング法を用いて、所望の形質についてスクリーニングする。所望の形質についてスクリーニングする1つの方法では、突然変異させた生物を特定の選択条件なしで成長させる。特定の選択条件がないと、ミューテーター遺伝子を有する生物は、遺伝的変異を積み重ね、その結果、所望の形質を有する生物を生じさせる。その後、生物がより効率的に成長するかまたは所望の産物もしくは新たな産物をより良好に生産することなどの所望の形質を明示する生物を選択する。
【0143】
所望の形質を有する生物を選択条件下での成長によっても選択する。選択条件は、物理的成長条件、一定の化学物質の存在、特定の生物学的条件、またはこれらの組み合わせから選択する。
【0144】
物理的成長条件は、その生物の成長中に経験される、特定のpH条件、一定の温度、所望の気圧、または他の物理的条件およびそれらの組み合わせから選択する。
【0145】
化学物質、例えば有機溶媒、抗生物質、ハロゲン化化合物、芳香族化合物、類似体、または他の化合物もしくは化学的調合物(formulas)、の存在をはじめとする化学的選択条件を用いる。
【0146】
高い生物密度をはじめとする生物学的選択条件に生物を暴露することにより、または生物を他の種もしくはタイプの生物の存在に暴露することにより、所望の生物学的形質を有する突然変異生物を選択する。その後、高い個体群密度に耐えるそれらの能力または高い個体群密度にもかかわらず医薬化合物などの所望の産物を生産するそれらの能力に従って生物を選択する。
【0147】
突然変異生物を、異なる種の生物または病原体の存在下で生き残るかまたは医薬化合物などの所望の産物を生産する能力についてもスクリーニングする。これらの生物学的選択条件下で生き残る生物は、限られた資源に対する競争に勝つことができるため、および/または周囲の生物と相互依存的にもしくは協力して成長するため、生き残る。所望の形質を明示する突然変異生物をさらなる研究および使用のために選択し、単離することができる。
【0148】
突然変異生物の遺伝子修飾とミューテーター遺伝子の併用により、所望の形質の選択が可能となる。ミューテーター遺伝子で形質転換された生物をそれらの生物のゲノムにおける所望の位置で遺伝子修飾する。それらの遺伝子修飾された生物を、より効率的な成長および所望の産物または化合物の生産をはじめとする所望の形質についてスクリーニングする。
【0149】
実施例11
大腸菌ミューテーターベクターの構築
大腸菌のDNAポリメラーゼII(POLII)は、polB遺伝子(配列番号:84)の産物である。POLIIエキソヌクレアーゼおよびポリメラーゼドメインの構造は、真核生物POLデルタのエキソヌクレアーゼおよびポリメラーゼドメインに似ている。pUC/polIIプラスミドを含む大腸菌ミューテーターベクターの構築のために、野生型POLIIコーディング領域およびプロモーターのPCR産物をpUC−oriベクターのマルチクローニング部位に挿入した。PCRプライマーの設計に用いたpolB配列は、EcpolBEcoU1:GCTTGAATTCGCGCGAAGGCATATTACGGGC(配列番号:85)およびEcpolBD1:TCAAGCATGCGTACTGGATGGCAAAGCATTCGTC(配列番号:86)であった。エキソヌクレアーゼ欠損polIIプラスミドについては、D155A(アミノ酸155でのアスパラギン酸からアラニンへの変化)およびE157A(アミノ酸157でのグルタミン酸からアラインへの変化)突然変異を生じさせた。QuikChange Kit(Stratagene)を使用してpol3−01タイプの突然変異をPOLIIコーディング配列内で生じさせ、その結果、polII
exo−コーディング配列を得た。QuikChange Kit(Stratagene)を使用してそのpolII
exo−コーディング配列にL422G(アミノ酸422でのロイシンからグリシンへの変化)を含むミューテーター遺伝子を作るようにpolII遺伝子の3’〜5’エキソヌクレアーゼ領域およびポリメラーゼ忠実領域を修飾し、その結果、polII
exo−+L422Gミューテーター遺伝子コーディング配列を得た。標準的な方法を用いて、コンピテント大腸菌細胞(MG1655株)を成長させ、調製した。それらのコンピテント細胞をpUC/polII
exo−またはpUC/polII
exo−+L422Gプラスミドで形質転換させて、pUC/polII
exo−またはpUC/polII
exo−+L422G大腸菌株を生じさせた。それらの形質転換体の内在性野生型POLII遺伝子は、無傷および活性のままであった。
【0150】
大腸菌におけるリファンピシン耐性遺伝子座での突然変異率のゆらぎ解析
pUC/polII野生型またはpUC/polII
exo−もしくはpUC/polII
exo−+L422Gを有する大腸菌形質転換体をアッセイして、リファンピシン耐性の獲得により測定して突然変異率を決定した。それらの形質転換体のそれぞれをLB液体培地において定常期まで成長させた。その後、100ug/mLのリファンピシンを含むLB固体培地上にそれぞれの培養物の50から100uLを配置し、摂氏37度で18時間インキュベートした。前に説明したとおりLea Coulson指数に従って、発生したリファンピシン耐性(リファンピシン
R)コロニーの数から突然変異率を決定した。それぞれの細胞培養物についてゆらぎ解析を5回繰り返し、最高数および最低数を除外して平均突然変異率を決定した。結果を表5に示す。
【表5】
ベクターを有さない大腸菌におけるリファンピシン
Rでの野生型突然変異率は、平均しておおよそ1.5×10
−8であった。ベクターを用いる野生型POLIIを有する大腸菌におけるリファンピシン
Rでの突然変異率は、平均しておおよそ2.2×10
−8であり、ベクターのない野生型より1.4倍しか大きくなかった。野生型の突然変異率および野生型POLIIベクターの突然変異率は、ほぼ同じであった。polII
exo−ミューテーターの突然変異率は、おおよそ2.9×10
−7であった。これもまた、ベクターのない野生型の突然変異率より19倍しか大きくなかった。しかし、polII
exo−+L422Gミューテーター株は、おおよそ5.5×10
−5であり、ベクターのない野生型より3500倍を超えて大きかった。
【0151】
実施例12
グラム陽性菌ミューテーターベクターの構築
グラム陽性菌、例えば枯草菌(Bacillus.subtilis(B.subtilis))、のDNAポリメラーゼIII(POLIII)は、polC遺伝子の産物である(配列番号:89)。グラム陽性菌ミューテーターベクターの構築のために、野生型POLIIIコーディング領域およびプロモーターのEcoRI/BamHIフラグメントを、グラム陽性菌における複製起点活性を有するプラスミドのマルチクローニング部位:例えばpUB110、pAMalpha1、pC194またはpBC16、に挿入する。エキソヌクレアーゼ欠損polCプラスミドについては、例えばpAMalpha1プラスミドを用いて、3’〜5’エキソヌクレアーゼ活性の原因となるアミノ酸残基の1つ以上を不活化アミノ酸残基に変えることができる。3’〜5’エキソヌクレアーゼ活性の原因となるアミノ酸残基は、例えば、ExoI領域内のD425、E427、G430、およびExoII領域内のD510である。3’〜5’エキソヌクレアーゼ欠損を生じさせる結果となるこれらのアミノ酸残基の変化は、例えば、非酸性アミノ酸へのD(酸性アミノ酸)425の変化、例えば、D425A(アミノ酸425でのアスパラギン酸からアラニンへの変化)である。エキソヌクレアーゼ欠損を生じさせる結果となるもう1つのアミノ酸変化は、例えば、非酸性アミノ酸へのE(酸性アミノ酸)427の変化、例えばE427A(アミノ酸427でのグルタミン酸からアラニンへの変化)またはE427Q(アミノ酸427におけるグルタミン酸からグルタミンへの変化)である。3’〜5’エキソヌクレアーゼ欠損を生じさせる結果となるさらにもう1つのアミノ酸変化は、例えば、非天然アミノ酸へのG(天然アミノ酸)430の変化、例えば、G430E(アミノ酸430でのグリシンからグルタミン酸への変化)である。3’〜5’エキソヌクレアーゼ欠損を生じさせる結果となるさらにもう1つのアミノ酸変化は、例えば、非酸性アミノ酸へのD(酸性アミノ酸)510の変化、例えば、D510N(アミノ酸510でのアスパラギン酸からアスパラギンへの変化)、D510A(アミノ酸510でのアスパラギン酸からアラインへの変化)、またはD510G(アミノ酸510でのアスパラギン酸からグリシンへの変化)である。QuikChange Kit(Stratagene)を使用して上のPOLIIIコーディング配列において突然変異を果たして、pAMalpha1/polCexo−を生じさせる。エキソヌクレアーゼ欠損活性と低減された忠実活性の両方を有するpolCプラスミドを得るために、上記3’〜5’エキソヌクレアーゼ活性の修飾に加えて、ポリメラーゼ忠実度の原因となるアミノ酸の1つ以上の変化を不活性化する。ポリメラーゼ忠実度を生じさせる結果となるアミノ酸残基の変化は、例えば、非天然アミノ酸へのS(天然アミノ酸)972の変化、例えば、S972P(アミノ酸972でのセリンからプロリンへの変化)である。低減されたポリメラーゼ忠実度を生じさせる結果となるもう1つのアミノ酸変化は、例えば、非天然アミノ酸へのL(天然アミノ酸)1177の変化、例えば、L1177W(アミノ酸1177でのロイシンからトリプトファンの変化)である。低減されたポリメラーゼ忠実度を生じさせる結果となるさらにもう1つのアミノ酸変化は、例えば、非芳香族アミノ酸へのF(芳香族アミノ酸)1264の変化、例えば、F1264S(アミノ酸1264でのフェニルアラニンからセリンへの変化)である。QuikChange Kit(Stratagene)を使用して突然変異(単数または複数)を果たし、結果として、pAMalpha1/polCexo−&忠実度−を生じさせることができる。標準的な方法を用いて、枯草菌を成長させ、コンピテント細胞用に調製する。それらのコンピテント細胞をpAMalpha1/polCexo−またはpAMalpha1/polCexo−&忠実度−プラスミドで形質転換させて、pAMalpha1/polCexo−またはpAMalpha1/polCexo−&忠実度−枯草菌細胞を生じさせる。それらの形質転換体の内在性野生型POLIII遺伝子は、無傷および活性のままである。
【0152】
枯草菌におけるリファンピシン耐性遺伝子座での突然変異頻度
pAMalpha1/polCexo−またはpAMalpha1/polCexo−&忠実度−を有する形質転換体をアッセイして、リファンピシン耐性の獲得により測定して突然変異率頻度を決定する。それらの形質転換体のそれぞれの5つのコロニーをLB液体培地において定常期まで成長させる。その後、10ug/mLのリファンピシンを含むLB固体培地上にそれらの培養物のそれぞれの10uLを配置し、摂氏37度で18時間インキュベートする。発生したリファンピシン耐性コロニーの数から突然変異頻度を決定する。
【0153】
形質転換体は、その親株を基準にして突然変異率のおおよそ2倍増加から最大で100,000倍の増加にわたる突然変異頻度を有する。より具体的には、ミューテータープラスミドは、その親株の突然変異率よりおおよそ10、20、30、40、50、60、70,80、100、120、140、160、170、190、200、250、300、350、および400倍大きく増加された突然変異率をもたらす。他の形質転換体の場合、ミューテーター遺伝子は、DNA複製あたり、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10のミスマッチ塩基、または少なくとも15、20、25、50および100のミスマッチ塩基を生じさせる。
【0154】
通常の当業者には明らかであろうように、上で説明した実施形態の詳細に、本発明の基礎原理を逸脱することなく、多くの変更を加えることができる。従って、本発明の範囲は、唯一以下の特許請求の範囲によって決定されるべきものである。