【実施例1】
【0012】
図2は、本実施例に係わる冷凍サイクル装置100、例えばルームエアコンなどの構成図の例である。ここで、1は圧縮機、2は第1熱交換器、3は膨張弁、4は冷媒分流器、5は第2熱交換器、6は四方弁である。これらの要素機器は冷媒配管によって接続され冷凍サイクル装置100を構成している。
【0013】
第1熱交換器2が凝縮器、第2熱交換器5が蒸発器として作用し、冷媒が圧縮機1→第1熱交換器2→膨張弁3→冷媒分流器4→第2熱交換器5→圧縮機1の順(実線矢印で表示)に冷凍サイクル装置100内を循環した場合、膨張弁3を通過した冷媒は気液二相状態となり、膨張弁3と冷媒分流器4を接続する冷媒配管90を経由して、冷媒分流器4により分流される。
【0014】
冷媒配管90を流れる気液二相流の流動状態は、冷凍サイクル装置100の使用条件、配管90の設置姿勢や形状などに大きく影響される。多くの場合、この気液二相流は、小さい気泡を含む液体スラグと気体プラグが交互に存在するスラグ流やフロス流、または管壁に液膜が存在し気相の管断面中心部に多数の液滴を同伴している環状流であり、密度および流速の分布が不均一な状態にある。これは、気液二相流が冷媒分流器4で分流される際に各分岐への質量流量や乾き度(全質量流量中で気相が占める割合)が異なる大きな要因となる。
【0015】
一方、冷媒分流器4での冷媒分流が適切でない場合、蒸発器として作用する第2熱交換器5ひいては冷凍サイクル装置100の性能低下や圧縮機1への過剰な液戻りなどの問題が生じる恐れがあるため、気液二相流の分流が重要な課題である。
【0016】
また、冷凍サイクル装置100は、四方弁6により冷媒の流れ方向を切り替えることができる。この場合、第1熱交換器2が蒸発器、第2熱交換器5が凝縮器として作用し、冷媒は圧縮機1→第2熱交換器5→冷媒分流器4→膨張弁3→第1熱交換器2→圧縮機1の順(破線矢印で表示)に冷凍サイクル装置100内を循環する。それに伴って、冷媒分流器4は冷媒を分流させる機能をしなくなり、代わりに凝縮器の第2熱交換器5を通過した液冷媒を合流させ、冷媒配管90を介して膨張弁3へ送る。ただし、冷媒にゴミなどが混入した場合、これらの異物は膨張弁3へ侵入することによって、膨張弁詰まりひいては冷凍サイクル装置100の故障が発生する可能性があるため、冷媒分流器4と膨張弁3との間にフィルタを設置する必要がある。
【0017】
次に、上記課題を解決する手段について
図1を用いて説明する。
【0018】
図1は膨張弁3と冷媒分流器4との接続形態を示す部分断面図の例である。ここで、実線矢印は冷媒分流器4が冷媒を分流させる機能を果たした場合の冷媒流れを示している。また、70は異物の膨張弁3への侵入を防ぐフィルタであり、80aと80bと80cと80dは冷媒分流器4により分流された冷媒を第2熱交換器5へ送り出す分岐管である。
【0019】
膨張弁3は、弁本体33と、弁本体33と第1熱交換器2を接続する第1接続管31と、弁本体33と冷媒分流器4を接続する第2接続管32から構成されている。
【0020】
弁本体33の内部には、弁孔34と、駆動装置の動作により軸方向に移動できるニードル35が内蔵されている。この弁孔34とニードル35との間に、ドーナツ状の絞り域300は形成されており、ここで第1接続管31から流入した液冷媒が減圧され、気液二相状態となる。また、絞り域300の流路面積は、冷凍サイクル装置100の使用条件に応じて、ニードル35を動かすことによって調節できる。
【0021】
冷媒分流器4は絞り加工で作製されており、膨張弁3に接続する第1連結部41と、第1連結部の下流側に設けられた直管部42と、直管部42の下流側に設けられた第2連結部43と、第2連結部43の下流側に設けられた分岐部44から構成されている。また、第2連結部43と分岐部44との間に、冷媒が分かれる分岐域400は形成されている。
【0022】
第1連結部41は、膨張弁3の第2接続管32に整合するように形成されており、この中に挿入した第2接続管32とろう付けで接合される。直管部42は、第2接続管32と等しい内径を有し、この中にフィルタ70がかしめにて固定される。第2連結部43は、直管部42から分岐部44に向かって流路面積が徐々に拡大する。分岐部44は、三つ葉状をなし、この中に挿入した分岐管80aと80bと80cと80dとろう付けで接合される。なお、本実施例では、分岐管80dは冷媒分流器4と同軸上に設置されており、この外側に分岐管80aと80bと80cが冷媒分流器4の軸を中心とした円周上に等間隔に設けられている。
【0023】
さらに
図1では、Lは膨張弁3の絞り域300から冷媒分流器4の分岐域400までの距離を、Dは膨張弁3の第2接続管32の内径を表している。
【0024】
本発明では、膨張弁3と冷媒分流器4は、L/D
<1.2G
0.36を満たすように配置することが望ましい。ただし、Gは膨張弁3の第2接続管32を流れる冷媒の質量速度である。以下、その理由について
図3から
図8を用いて説明する。
【0025】
図3および
図4は、膨張弁下流における気液二相流について、管内冷媒の質量速度Gを変化させ可視化実験を行った結果である。なお、可視化実験では、冷媒にR410Aを使用し、その流れを垂直下降流とした。また、ガラス管の内径Dは8mmである。
【0026】
図3は、可視化実験結果の一例であり、質量速度G=180kg/(m
2s)、乾き度x=0.15の実験条件下での観察結果を示す。
図3に示したように、膨張弁3の絞り域300から60mmほど下流までの領域において、気液二相流は旋回噴流状態にあり、白濁した様相を呈している。この場合、冷媒の気相と液相がよく混合しているため、この状態で冷媒を分流させると良好な分流特性は実現する可能性がある。これに対して、絞り域300から約60mm以降の領域においては、気液二相流は気泡環状流となり、管壁に液膜が形成し多数の微小気泡を同伴する様相を呈している。この場合、冷媒は気相と液相が分離した状態にあり、しかも管壁に沿う液膜の厚さが一様ではないため、良好な分流特性は期待できない。
【0027】
そして
図4は、以上のような観察結果に基づき、管内気液二相流の流動状態が遷移した膨張弁3の絞り域300からの距離L
t(以下遷移距離)と、管内径Dと、管内冷媒の質量速度Gとの関係を整理した結果を示す。ここで、横軸は質量速度G[kg/(m
2s)]、縦軸は遷移距離L
t[m]と管内径D[m]との比率を示している。また、図中の△印は可視化実験の観察結果を表しており、破線は観察結果に基づいた累乗近似曲線である。
【0028】
図4より、遷移距離L
tは質量速度Gの増大に伴い長くなる傾向にあり、L
t/D=1.2G
0.36を満足することがわかる。
【0029】
上記の可視化実験結果によれば、膨張弁下流における冷媒の気相と液相がよく混合した状態を利用して、良好な分流特性を得るために、膨張弁3と冷媒分流器4はL/D
<1.2G
0.36を満たすように設置することが望ましい。
【0030】
また、冷凍サイクル装置100の使用条件によって質量速度Gが変動する場合、この質量速度の最小値G
minに合わせて、膨張弁3と冷媒分流器4はL/D
<1.2G
min0.36を満たすように設置することが望ましい。これにより、全ての使用条件下で、良好な分流特性は実現可能となる。
【0031】
図5から
図8は、
図1に示した構造を持つ絞り加工の冷媒分流器4(4分岐)を用いて、管内冷媒の質量速度Gを変化させ(180〜530kg/(m
2s))分流特性を測定した結果の一部を示す。
【0032】
図5と
図6は、質量速度G=530kg/(m
2s)、乾き度x=0.15の実験条件下での測定結果であり、各分岐への冷媒の質量流量比(分岐iへの質量流量と全質量流量との比)および乾き度の偏差を示す。そして
図7と
図8は、質量速度G=180kg/(m
2s)、乾き度x=0.15の実験条件下での測定結果であり、各分岐への冷媒の質量流量比および乾き度の偏差を示す。なお、質量流量比の偏差とは、分岐iへ流れる冷媒の実際流量比と等流量分配時の理想流量比(すなわち25%)との差を意味する。乾き度の偏差とは、分岐iへ流れる冷媒の実際乾き度と等乾き度分配時の理想乾き度との差を意味する。
【0033】
また、
図5から
図8では、●印はL/D=7.5、θ=0°の条件下での結果を、○印はL/D=7.5、θ=15°の条件下での結果を、◆印はL/D=37.5、θ=0°の条件下での結果を、◇印はL/D=37.5、θ=15°の条件下での結果を示している。ただし、L/D=7.5は、質量速度G=180kg/(m
2s)、乾き度x=0.15の実験条件下における冷媒流動状態の遷移位置(
図3参照)であり、全ての実験条件に対してL/D
<1.2G
0.36を満たしている。しかし、L/D=37.5は、全ての実験条件に対してL/D
<1.2G
0.36を満たさない。また、θは冷媒分流器4の軸が鉛直方向に対して傾いた角度を示しており、θ=15°の場合には分岐管80aが鉛直方向において一番下になる。
【0034】
図5から
図8に示したように、冷媒分流器4の設置姿勢が鉛直の場合、L/D=7.5(●)としたときはL/D=37.5(◆)としたときよりも、分岐間の質量流量比および乾き度の差異が小さい。また、冷媒分流器4が鉛直方向に対して15°傾いた場合、L/D=37.5(◇)としたときには分流特性が大きく変化するのに対して、L/D=7.5(○)としたときには分流特性の変化がほとんど見られなかった。
【0035】
これらの結果から、膨張弁下流における管内冷媒の質量速度Gに対応した遷移距離L
tないしはそれ以下の距離で冷媒分流器4を設け、気液二相流を気液がよく混合した状態で分流させることによって、簡単な構造を持つ絞り加工の分流器を用いたとしても,分流器の設置姿勢などの影響を受けずに、幅広い使用条件下で良好な分流特性は得られることがわかる。したがって、膨張弁3と冷媒分流器4はL/D
<1.2G
0.36を満たすように設置することが望ましい。
【0036】
また、本発明では、膨張弁3と冷媒分流器4はL/D
>1.5を満たすように配置することが望ましい。これにより、膨張弁3と冷媒分流器4をろう付けする際、加熱箇所が第2接続管32にあり、弁本体33と一定の距離をとることができるため、熱による弁孔などの変形が発生することを防止できる。それと同時に、冷媒分流器4の直管部42内に異物の膨張弁3への侵入を防ぐフィルタ70の設置も可能となる。
【0037】
また、本発明では、冷媒分流器4の内部に形成された複数の流路のうち少なくとも一つは他の流路よりも内側に設けられることが望ましい。これにより、冷媒分流器4をコンパクトに作製できるため、設置スペースを削減できるうえに、製品の原価低減にも寄与できる。しかも、
図5から
図8に示したように、冷媒分流器4と同軸上に設置された分岐管80dへの冷媒は、円周上に等間隔に設けられた分岐管80aと80bと80cへの冷媒と、質量流量および乾き度がほぼ同じであるため、分流特性を害する心配がない。
【0038】
以上の実施例では、4分岐の冷媒分流器4を用いた場合について述べた。しかし、本発明に係わる冷媒分流器4の分岐数に制限がなく、二つ以上であればよい。例えば、
図9に示したような12分岐のものでもよい。また、冷媒分流器4の作製方法について、安価な絞り加工のほうが望ましいが、切削加工やプレス加工などでもよい。