【実施例1】
【0024】
図1及び
図2に、本発明の放射線測定装置の実施例1であるPSF測定装置を示す。
【0025】
該図に示す如く、本実施例のPSF測定装置は、環境中の被測定対象物の放射線レベルに応じて本数が変えられ、さまざまな有感体積を持つカセット式に取替可能で、かつ、放射線を検出し光信号に変換するPSFを束ねて後述するポリ塩化ビニル(PVC)で被覆されたバンドル(以下、PSFバンドル1とする)と、PSFバンドル1で発生した光信号を電気信号に変換・増幅するPMT2と、信号処理装置への入力前に電気信号を増幅するプリアンプ3と、時間分解能向上のためのCFD4と、スタート信号とストップ信号の時間間隔調整用のディレイ装置5と、時間間隔を出力の大小に変換するTAC6と、出力信号を信号の強度に応じて分別するMCA7と、PSF測定装置の各構成要素である電子機器に電力を供給する電源装置8と、出力信号を可視化するPC等の出力装置9とから概略構成されている。このうち、
図2に示す如く、PMT2とプリアンプ3はユニット1(10)、CFD4、ディレイ装置5、TAC6、MCA7及び電源装置8はユニット2(11)に纏めた構成となっている。
【0026】
そして、本実施例のPSF測定装置は、被測定対象物の放射線レベルに応じて,PSFの本数を調整することで有感体積を任意に変更にすることを可能にしている。即ち、放射線レベルが未知の被測定対象物を測定する場合であっても、さまざまな感度を有するPSF測定装置の一式を準備することなく対応を可能にするため、複数の感度を有するPSFバンドル(放射線検出器)1をあらかじめ準備し、放射線レベルに応じて交換して使用できる構成となっている。
【0027】
次に、実施例1のPSF測定装置における放射線測定方法を
図3を用いて説明する。
【0028】
該図に示す如く、本実施例のPSF測定装置における放射線測定方法は、環境中の被測定対象物の放射線レベルに応じて本数が変えられ、さまざまな有感体積を持つカセット式に取替可能なPSFバンドル1で、放射線を検知して光信号に変更するステップ(S1)と、ユニット1(10)のPMT2で、PSFバンドル1で発生した光信号を電気信号に変換・増幅するステップ(S2)と、ステップ(S2)からの電気信号を、プリアンプ3で信号処理装置への入力前に電気信号を増幅するステップ(S3)と、ステップ(S3)で増幅された電気信号を、ユニット2(11)のCFD4で時間分解能向上のために信号波形前処理を行うステップ(S4)と、一方の系統のステップ(S4)からの信号を、ディレイ装置5でスタート信号とストップ信号の時間間隔調整のための信号遅延処理を行うステップ(S5)と、一方のステップ(S5)と他方のステップ(S4)の信号が入力されたTAC6で、時間間隔を出力の大小に変換する入力時間差波高変換がおこなわれるステップ(S6)と、ステップ(S6)からの信号を、MCA7で信号の強度に応じて分別する多重波高分析が行われるステップ(S7)と、ステップ(S7)での結果に基づいて、出力装置9には、検出位置情報表示(ステップ(S8))及び放射線量率表示(ステップ(S9))が行われる。
【0029】
尚、
図3において、電源装置8Aの電池13は、位置測定装置(例えば、GPS)14へ電気を供給し、位置測定装置14の出力(東経北緯情報)は、最終的にPSFの線量率測定結果の出力と合体して、出力装置9に測定位置情報15として表示される。
【0030】
ところで、高線量場に有感面積が大きい(PSF本数が多い)測定装置を使用する場合、大量の光信号が発生し処理装置が飽和することで測定不能になる問題が発生する。一方、低線量場に有感面積が小さい(PSF本数が少ない)測定装置を使用する場合、放射線を十分感知できずに、現実的な測定時間で統計的な信頼性を有するだけの最低限必要な計数率が得られない問題が発生する。
【0031】
そこで、PSF断面積(PSF本数)当たりの適切な放射線レベルを実験により調査し、環境中の放射性物質で汚染された被測定対象物に適したPSF断面積(PSF本数)を決定した。
【0032】
放射線レベルとPSF断面積(PSF本数)の適切な組合せを表1に示す。この表1に示す組合せは、今回始めて、本発明者等が行った放射線計測器用校正施設における照射実験によって決定された数値であり、従来は得られていなかった知見である。
【0033】
また、PSFの長さについても、得られる光信号のPSF内での減衰を考慮した数値であり、信頼できる測定結果を得られることを確認している。
【0034】
【表1】
【0035】
尚、上記を達成する場合の信号処理系の仕様は以下のとおりである。
・PMT:立ち上がり時間 1ns以下
・プリアンプ:立ち上がり時間 1ns以下
・TAC:レンジ300ns
・MAC:最大計数率 10kcps
この結果に基づき、最適なPSF断面積(PSF本数)を有するPSFバンドルを、被測定対象物の放射線レベルに応じて付け替え可能とし、PSFから出力される光信号を常に一定とすることで、検出器以降の信号処理装置の負荷も常に一定とすることが可能になり、検出器以外の信号処理系装置は1つだけ準備すれば、どのような放射線レベルの測定に対しても対応が可能になった。
【0036】
尚、バンドル数と対応した放射線レベルは、表1に記載された数値と範囲に限定される値ではなく、それ以外の組み合わせについては、内外挿により求めた
図5に示す放射線レベル(μSv/h)とPSF断面積(mm
2)の関係により確認することができる。
【0037】
図5は、3件の実験データより内外挿によって求めた、PSF断面積に応じた測定可能範囲を示すものである。これに基づき、測定したい線量領域に応じたPSFの本数や外径などを決める目安にする。
【0038】
図5の測定下限は、1秒測定時に測定結果の誤差が1σと定義された場合、その統計誤差が10%に収まるのに必要になる最低の信号検出数100カウントが必要な線量率より決めている。また、
図5の測定上限は、検出信号数が多すぎて信号処理系(
図1のユニット2)がオーバーフローすることにより、処理不能になる限界を示す。これについては、上述した信号処理系の仕様に応じて決まる。
【0039】
次に、本実施例のPSF測定装置において、環境中の被測定対象物の放射線レベルに応じて本数が変えられ、さまざまな有感体積を持つカセット式に取替可能で、かつ、放射線を検出し光信号に変換するPSFバンドル1とPMT2の接続構成について、
図6a乃至
図9を用いて説明する。
【0040】
図6a及び
図6bに、PSFバンドル1が1本差込まれる1本用プラグ16を示す。該図に示す如く、真鍮から成る円柱状の1本用プラグ16は、その略中央部に、1本差込み用のPSF差込口16Aが形成され、このPSF差込口16Aに1本のPSFバンドル1が差込まれるものである。
【0041】
図7a及び
図7bに、PSFバンドル1が7本差込まれる7本用プラグ17を示す。該図に示す如く、真鍮から成る円柱状の7本用プラグ17は、その略中央部に、7本差込み用のPSF差込口17Aが形成され、このPSF差込口17Aに7本のPSFバンドル1が差込まれる(中央に1本のPSFバンドル1が配置され、その周囲を6本のPSFバンドル1が取り囲むように配置される)ものである。
【0042】
図8a及び
図8bに、PSF差込口17Aに7本のPSFバンドル1が差込まれた7本用プラグ17が、PMT2に接続された状態を示す。
【0043】
該図に示す如く、PSF差込口17Aに7本のPSFバンドル1が差込まれた7本用プラグ17が、PMT2側のソケット18の開口部18Aから挿入され、PSFバンドル1とPMT2が接続部19で接続されるものである。ソケット18は、開口部18Aの外側を囲むように、上方に突出した円筒状の案内部18Bが形成されていると共に、その案内部18BとPSFバンドル1の間にはスプリング20が配置され、しかも、案内部18Bの外周側にはねじが切られており、内側にねじが切られ、かつ、ステンレス鋼から成るキャップ21を、案内部18Bの外周部にねじ込むことで、ソケット18と7本用プラグ17が一体化されている。つまり、この7本用プラグ17とソケット18は、7本用プラグ17のキャップ21を、案内部18Bの外周部にねじ込むだけで、両者を一体化できるカセット式になっている。
【0044】
ところで、複数種類(PSFの本数或いは外径が異なるPSFの集まり)のPSFバンドル1を準備することで、PSFバンドル1側の接続プラグの外径も複数種類になるが、信号処理装置側のソケット18は、1種類で対応させることが要求される。
【0045】
よって、プラグは、最大PSF本数のバンドルに併せて作成する必要があるが、この場合、1本のPSFバンドル1の1本用プラグ16では、11本分の不必要なスペースが、12本バンドルと比較して発生する。この余分なスペースの存在は、光学的ノイズの原因となる測定に無関係の光進入リスクを高めるため、従来技術と同様の遮光対策では不十分であった。
【0046】
そこで、本実施例でのPSFバンドル1は、バンドル数に対応した内径のポリ塩化ビニル(PVC)チューブ22で被覆され(先端部分は被覆されていない裸)、プラグは予めPSF本数分の穴加工を施しておき、不要スペースを最小化すると共に、放射線測定分野では、使用実績が無かった黒色シリコン材23を使用し、この黒色シリコン材23を残留する隙間に注射器で注入することで遮光し、無用な光の進入リスクを低減している。本実施例では、7本用プラグ17の差込み口17Aに差込まれたPSFバンドル1と7本用プラグ17の間に、黒色シリコン材23が充填されている(黒色シリコン材23が充填されているのは、7本用プラグ17の上端までとする)。
【0047】
尚、PVCチューブ22や黒色シリコン材23は、遮光性能が十分である一方、加工性が悪い問題があり、複雑な形状を有するPSFバンドル1とPMT2の接合部分に即座に適用することはできない。
【0048】
そこで、7本用プラグ17には予めPVCチューブ22を挿入するスペースと、黒色シリコン材23を充填するスペースを確保して遮光加工を容易にすることで、従来技術では実現できなかった高い遮光性能を確保している。また、7本用プラグ17とPMT2の密着性を増加させる目的で、キャップ21とソケット18の隙間に、ばね定数0.03kg/mmのスプリング20を設置することで、7本用プラグ17の鍔をPMT2側に加圧する工夫を実施している。
【0049】
また、PSF測定装置では、PSFと電気信号のケーブルが必要であるが、これらも含めてバンドル化することで、1本のケーブルとして取扱いが可能となり、移動に要する時間を更に低減させている。
【0050】
図9に、
図8aの7本用プラグ17とソケット18の組立状態からの分解状態を示す。
図9の状態からの7本用プラグ17とソケット18の組立順は、先ず、PSFにPVCチューブ22を被覆し(先端部分は被覆されていない裸)、そのPSFバンドル1の先端に接着剤を塗布し、その後、被覆付きPSFバンドル1をキャップ21、スプリング20を通して7本用プラグ17に挿入する。接着剤が乾燥した後、7本用プラグ17の内面とPSFバンドル1の隙間に黒色シリコン材23を充填する。接着剤除去とPSFバンドル1の切断面の手入れを目的として、7本用プラグ17の先端(PMT2側)を研磨したあと、キャップ21をねじ込むことで、ソケット18と7本用プラグ17が一体化され、組立が完了する。
【0051】
このような本実施例とすることにより、放射線レベルが未知の被測定対象物を測定する場合であっても、さまざまな感度を有するPSF測定装置の一式を準備することなく対応が可能であるため、複数の感度を有する検出器(PSF)をあらかじめ準備し、放射線レベルに応じて交換して使用できる。
【0052】
また、放射線レベルに応じて交換して使用できる装置構成とする際に、発生するPSFとPMTの接合部分の遮光に対する課題が解決でき、遮光性能を向上させることができる。
【0053】
更に、PSF測定装置の構成要素である精密機器間の接続端子を削減するため、個々の精密機器を可能な限りユニット化すると共に、省電力化、軽量化により装置全体のコンパクト化を図ることで持ち運びを容易にし、サーベイメータ同様の可搬性を実現することで、作業者が手で運搬しながら測定することが可能となる。
【実施例3】
【0057】
次に、GPSにより測定結果と測定位置を簡単・正確に記録するための実施例を、以下に説明する。
【0058】
即ち、環境放射線の被測定対象物は非常に広範囲に分布しており、個々の測定結果は局所的な放射線情報に過ぎない。よって、除染作業等で活用可能な有力インプットとして測定結果を使用する場合には、非常に大量の測定結果を測定位置毎に管理する必要があった。
【0059】
一方、環境の放射線状況を一目瞭然にするためには、マッピングによる測定結果の可視化が有効であったため、PSF測定装置に高性能なGPSを組み込むことで、広域的な放射線率分布を可視化するためのマッピングシステムとのインターフェースを確立できる。その際、高性能のGPSを搭載すれば、使用電力量の増加、装置の物理的強度低下、装置外形の肥大化が懸念されるため、GPS精度をマッピングシステムの有効測定単位にあわせた精度にすることで、性能の最適化を図った。
【0060】
測定結果には、位置情報、測定線量率、ホットスポットの有無などを記録し、CSV形式で出力可能な機能を出力装置に持たせることで、さまざまなマッピングシステムとの連携を可能にできる。
【0061】
この実施例によれば、PSF測定装置にGPSを内蔵させて、出力処理時にアウトプットに位置情報を付加するインターフェースを用いることで、測定結果の確認作業労力の削減、測定結果の品質向上が実現できる。
【0062】
また、PSF測定装置に高性能なGPSを組み込むことで、測定結果に位置情報を付加した出力を可能にし、広域的な放射線率分布を可視化するためのマッピングシステムとのインターフェースを確立することにより、測定結果の他システムへの受け渡しの信頼性向上と入力作業の削減を実現できる。