【実施例】
【0083】
(試験例1:癌幹細胞に対する効果)
癌幹細胞様集団(CSCs : Cancer Stem-like cells)に対するアルクチゲニンの効果を調べた。
【0084】
(培地および試薬調製)
グルコース含有培地は、4.75gダルベッコ変法イーグル培地2(日水製薬)を水に溶解し、12.5ml 1M HEPES pH7.4(DOJINDO、342-01375)および1g Glucoseを加えて滅菌後、18.5ml 10% NAHCO
3、10ml L-glutamine(SIGMA)、5ml Anti-Anti(Life technologies)、5ml MEM NON-ESSENTIAL AMINO ACID SOLUTION(SIGMA)、56℃で30分温浴にて非動化させた50ml FETAL BOVINE SERUM(biowest)および10000x Plasmocin(invivogen)を加え、最終的に500mlにして作製した。
【0085】
グルコース阻害培地は、グルコース含有培地に終濃度20mMの2-Deoxy-Glucose(2-DG)(東京化成工業)を添加して作製した。
【0086】
3μMアルクチゲニンを含む培地は、グルコース含有培地またはグルコース阻害培地に、終濃度3μMのアルクチゲニン(クラシエ製薬)を添加して作製した。
【0087】
FACSバッファーは、10g Bovine serum albumin Protease free(和光純薬工業)を1LのPBS(-)に溶解し、終濃度0.1%のアジ化ナトリウムを加え、濾過滅菌にて作製した。
【0088】
FACS分析用の蛍光標識抗体は、CD44(338803または338807, biolegend), CD24(311117, biolegend), ESA(324205, biolegend),c-Met(11-8858, e-bioscience)を使用した。また染色行程は、製品添付のデータシートに従い行った。
【0089】
(試験方法および結果)
膵臓癌細胞PANC-1(ATCC No. CRL-1469)をグルコース含有培地に播種して一晩インキュベートした後、グルコース含有培地、グルコース阻害培地、3μMアルクチゲニンを含むグルコース含有培地および3μMアルクチゲニンを含むグルコース阻害培地のそれぞれにおいて24時間培養した。細胞を回収した後、定法にしたがってPI染色(死細胞染色)および癌幹細胞マーカー染色を行い、フローサイトメトリー(FACS)にて解析を行った。マーカーとしては、膵臓癌の幹細胞マーカーとして報告のあるCD44、CD24およびESA(CD326)の3重陽性、またはCD44陽性、c−Met強陽性の2重陽性を用いた。
【0090】
PI染色および癌幹細胞マーカー(CD44
+、CD24
+およびESA
+(CD326)の3重陽性)の染色の結果を
図1に示す。PI染色の結果、細胞の生存率は、グルコース含有条件では78.20%、グルコース阻害条件では68.53%、およびグルコース含有条件における3μMアルクチゲニン存在下では69.50%であったのに対し、グルコース阻害条件での3μMアルクチゲニン存在下では生存率が35.71%であった。
【0091】
また、癌幹細胞マーカー染色の結果、膵臓癌幹細胞を指し示すCD44
+ESA
+CD24
+細胞の割合(生存数)は、全分析細胞中の、グルコース含有条件では4.41%(441個)、グルコース阻害条件では6.51%(651個)、およびグルコース含有条件における3μMアルクチゲニン存在下では5.01%(501個)であったのに対し、グルコース阻害条件での3μMアルクチゲニン存在下では0.98%(98個)であった。したがって、アルクチゲニンは、グルコース飢餓条件において膵臓癌幹細胞を殺傷する効果を有することが示された。
【0092】
PI染色および癌幹細胞マーカー(CD44
+、c-Met
High の2重陽性)の染色結果を
図2に示す。PI染色の結果、細胞の生存率は、グルコース含有条件では84.70%、グルコース阻害条件では88.80%、およびグルコース含有条件における3μMアルクチゲニン存在下では83.30%であったのに対し、グルコース阻害条件での3μMアルクチゲニン存在下では生存率が27.50%であった。
【0093】
強力な造腫瘍能を指標とした癌幹細胞の新たなマーカーとして、CD44陽性でc-Met強陽性の細胞集団が報告されている。CD44陽性c-Met強陽性(CD44
+,c-Met
High)細胞の膵臓癌細胞株における陽性割合(生存数)は、グルコース含有条件では0.63%(38個)、グルコース阻害条件では0.78%(47個)、およびグルコース含有条件における3μMアルクチゲニン存在下では0.52%(31個)であったのに対し、グルコース飢餓条件での3μMアルクチゲニン存在下では0.22%(13個)であった。したがって、アルクチゲニンは、グルコース飢餓条件において、これらの幹細胞マーカーを発現する細胞に対しても、これを殺傷もしくは変質させる効果を有することが示された。
【0094】
(試験例2:癌幹細胞のALDH活性に対する効果)
多くの癌幹細胞様集団(CSCs : Cancer Stem-like cells)に共通する高いALDH(aldehyde dehydrogenase)活性を幹細胞マーカーとして用い、アルクチゲニンの幹細胞活性に与える効果を調べた。
【0095】
(培地および試薬調製)
グルコース飢餓培地は、3.51gグルコース不含ダルベッコ変法イーグル培地(Sigma)を水に溶解し、12.5ml 1M HEPES pH7.4(DOJINDO、342-01375)、10ml L-glutamine(SIGMA)、5ml Anti-Anti(Life technologies)、5ml MEM NON-ESSENTIAL AMINO ACID SOLUTION(SIGMA)、10 ng/mL bFGF (Militenyi biotech)、20 ng/mL EGF (Militenyi biotech)、1XITS Media Supplement (Sigma)、0.4% BSAおよび10000x Plasmocin(invivogen)を加え、最終的に500mlに調整後に濾過滅菌して作製した。
【0096】
グルコース含有培地は、グルコース飢餓培地に終濃度1g/Lのグルコースを添加して作製した。
【0097】
アルクチゲニンを含む培地は、グルコース含有培地またはグルコース飢餓培地に、終濃度2-4μMのアルクチゲニン(クラシエ製薬)を添加して作製した。
【0098】
(試験方法および結果)
膵臓癌細胞MiaPaca-2(ATCC No. CRL-1420)をグルコース含有培地に播種して一晩インキュベートした後、グルコース含有培地、グルコース飢餓培地、アルクチゲニンを含むグルコース含有培地およびアルクチゲニンを含むグルコース飢餓培地のそれぞれにおいて24時間培養した。細胞を回収した後、定法にしたがってPI染色(死細胞染色)およびALDEFLUOR KIT(Stemcell Technologies)を使ったBAAによるALDH活性染色を、製品添付のデータシートに従って行いフローサイトメトリー(FACS)にて解析を行った。マーカーの評価は、ALDH阻害剤DEAB併用時のALDH活性を陰性領域とし、ALDH活性陽性細胞の中でも特に高い活性を持つ集団(SSC
Low, ALDH
bright)を評価に用いた。
【0099】
PI染色およびALDH活性染色の結果を
図3に示す。PI染色の結果、細胞の生存率は、グルコース含有条件では92.11%、グルコース飢餓条件では88.25%、およびグルコース含有条件における4μMアルクチゲニン存在下では96.11%であったのに対し、グルコース飢餓条件での2μM、3μM、4μMアルクチゲニン存在下では、生存率がそれぞれ64.45%、54.31%、 37.84%であった。
【0100】
また、ALDH活性染色の結果、膵臓癌幹細胞を指し示すSSC
Low,ALDH
bright細胞の割合(生存数)は、全分析細胞中の、グルコース含有条件では2.71%(2709個)、グルコース飢餓条件では3.43%(3428個)、およびグルコース含有条件における4μMアルクチゲニン存在下では2.89%(2892個)であったのに対し、グルコース飢餓条件での2、3、4μMアルクチゲニン存在下では、それぞれ1.35%(1348個)、1.14%(1139個)、0.43%(429個)であった。したがって、アルクチゲニンは、グルコース飢餓条件において膵臓癌幹細胞を殺傷する、もしくは幹細胞性維持に重要なALDH活性を低下させる効果を有することが示された。
【0101】
(試験例3: BMI-1および幹細胞関連経路の発現に対する効果)
膵臓癌においては、Sonic HedgeHog(sHH)経路およびNotch-1,Notch-2経路が、癌細胞の上皮間葉移行や幹細胞化の誘導、および自己複製や癌組織の再構築などの幹細胞特性の維持に重要な役割を果たすことが報告されている (非特許文献:Cancer Res. 2009:69 2400-2407, AntiCancer Res. 2011:31 1105-1114, PLosONE 2011:6 e27306, Int J Cancer 2012:131 30-40)。また、これらの経路によって誘導・制御されるBMI-1は、膵臓癌幹細胞の有効なマーカーとして報告がなされている(非特許文献:Chemotherapy 2011:57 488-496, PLoSONE 2013:8 e55820)。また、これらの経路においては、他の多くの癌においても抗癌幹細胞治療のための創薬ターゲットとして、多くの報告がなされている。そこで、これらの因子の発現に与えるアルクチゲニンの効果を調べた。
【0102】
(培地および試薬調製)
グルコース飢餓培地は、3.51gグルコース不含ダルベッコ変法イーグル培地(Sigma)を水に溶解し、12.5ml 1M HEPES pH7.4(DOJINDO、342-01375)、10ml L-glutamine(SIGMA)、5ml Anti-Anti(Life technologies)、5ml MEM NON-ESSENTIAL AMINO ACID SOLUTION(SIGMA)、10 ng/mL bFGF (Militenyi biotech)、20 ng/mL EGF (Militenyi biotech)、1XITS Media Supplement (Sigma)、0.4% BSAおよび10000x Plasmocin(invivogen)を加え、最終的に500mlに調整後に濾過滅菌して作製した。
【0103】
グルコース含有培地は、グルコース飢餓培地に終濃度1g/Lのグルコースを添加して作製した。
【0104】
アルクチゲニンを含む培地は、グルコース含有培地またはグルコース飢餓培地に、終濃度1〜3μMのアルクチゲニン(クラシエ製薬)を添加して作製した。
【0105】
(試験方法および結果)
膵臓癌細胞MiaPaca-2(ATCC No. CRL-1420)をグルコース含有培地に播種して一晩インキュベートした後、グルコース含有培地、グルコース飢餓培地、アルクチゲニンを含むグルコース含有培地およびアルクチゲニンを含むグルコース飢餓培地のそれぞれにおいて24時間培養した。回収した細胞からRNeasy Mini Kit (Qiagen)を用いて全RNAを抽出し、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover (TOYOBO)を用いて、回収したRNAをcDNAに合成した。各遺伝子の発現定量は、定法に従ってFast SYBR Green Master Mix (ABI)および以下のプライマーを用いて、StepOne Plus(ABI)リアルタイムPCR機を用いて行った。なお、各遺伝子はGAPDHの発現量によって補正した。
BMI-1:5'-GGAGACCAGCAAGTATTGTCCTTTTG-3'(配列番号1)および
5'-CATTGCTGCTGGGCATCGTAAG-3'(配列番号2);
SHH:5'-GGACAGGCTGATGACTCAGA-3'(配列番号3)および
5'-GCCCTCGTAGTGCAGAGACT-3'(配列番号4);
Notch-2:5'-GGTCCCCATTGCCTTAATGGT-3'(配列番号5)および
5'-ATCTGGGGACACACATCGAC-3'(配列番号6);
Notch-1:5'-TTGGGGAGTTCCAGTGCATC-3'(配列番号7)および
5'-AGGCACTTGGCACCATTCTT-3'(配列番号8);
GLI1:5’-AGGGAGGAAAGCAGACTGAC-3’ (配列番号9) および
5-CCAGTCATTTCCACACCACT-3’ (配列番号10);
GAPDH: 5’- GTGAAGGTCGGAGTCAACG-3’ (配列番号11) および
5’- TGAGGTCAATGAAGGGGTC-5’ (配列番号12)
【0106】
各遺伝子の発現量を
図4に示す。膵臓癌幹細胞の存在を示すBMI-1の発現量は、グルコース飢餓条件下では、グルコース含有条件に比べて上昇傾向を示し、一方で2μM以上のアルクチゲニンを含む培地条件においては、10分の1程度に有意に低下していた。また同様に、Sonic Hegehog (sHH)リガンドおよびGLI1、並びにNotch-1およびNotch-2の発現量も、2μM以上のアルクチゲニンを含む培地条件においては、それぞれ半分以下に有意な低下が認められた。これらの結果より、アルクチゲニンが幹細胞の特性維持に重要な、Sonic HedgehogやNotch経路を抑制し、また、有意に膵臓癌幹細胞を殺傷もしくは変質させることが示された。
【0107】
(試験例4:膵臓癌幹細胞に対する既存化学療法剤との比較試験)
アルクチゲニンと、膵臓癌に対する既存の標準化学療法剤の一つであるゲムシタビンについて、膵臓癌幹細胞に対する殺傷効果の比較を行った。
【0108】
(培地および試薬調製)
グルコース飢餓培地は、3.51gグルコース不含ダルベッコ変法イーグル培地(Sigma)を水に溶解し、12.5ml 1M HEPES pH7.4(DOJINDO、342-01375)、10ml L-glutamine(SIGMA)、5ml Anti-Anti(Life technologies)、5ml MEM NON-ESSENTIAL AMINO ACID SOLUTION(SIGMA)、10 ng/mL bFGF (Militenyi biotech)、20 ng/mL EGF (Militenyi biotech)、1XITS Media Supplement (Sigma)、0.4% BSAおよび10000x Plasmocin(invivogen)を加え、最終的に500mlに調整後に濾過滅菌して作製した。
【0109】
グルコース含有培地は、グルコース阻害培地に終濃度1g/Lのグルコースを添加して作製した。
【0110】
アルクチゲニンを含む培地は、グルコース含有培地またはグルコース飢餓培地に、終濃度4μMのアルクチゲニン(クラシエ製薬)を添加して作製した。
【0111】
(試験方法および結果)
膵臓癌細胞Capan-1(ATCC No. HTB-79)をグルコース含有培養培地に播種して一晩インキュベートした後、グルコース含有培地、グルコース飢餓培地、4μMアルクチゲニンを含むグルコース含有培地および4μMアルクチゲニンを含むグルコース飢餓培地において24時間培養した。またグルコース含有培地、グルコース飢餓培地において、ゲムシタビンの標準的な処理手順に従い4μMゲムシタビン(GEM:Sigma)を含む培地において72時間培養した。細胞を回収した後、定法にしたがってPI染色(死細胞染色)および癌幹細胞マーカーの染色を行い、フローサイトメトリー(FACS)にて解析を行った。マーカーとしては、膵臓癌の幹細胞マーカーとして報告のあるCD44、CD24およびESA(CD326)の3重陽性を用いた。
【0112】
PI染色および癌幹細胞マーカーの染色結果を
図5に示す。PI染色の結果、細胞の生存率は、グルコース含有条件では88.64%、グルコース飢餓条件では87.99%、およびグルコース含有条件における4μMアルクチゲニン存在下では88.00%であったのに対し、グルコース飢餓条件での4μMアルクチゲニン存在下では30.38%であった。一方で、グルコース含有条件における4μMゲムシタビン存在下では53.74%であり、グルコース飢餓条件で4μMゲムシタビン存在下では72.69%であった。
【0113】
また、癌幹細胞マーカー染色の結果、膵臓癌幹細胞を指し示すCD44
+ESA
+CD24
+細胞の割合(生存数)は、全細胞中で分析すると、グルコース含有条件では10.31%(928個)、グルコース飢餓条件では14.41%(1297個)、およびグルコース含有条件における4μMアルクチゲニン存在下では11.63%(1047個)であったのに対し、グルコース飢餓条件での4μMアルクチゲニン存在下では1.61%(145個)であり、一方で、グルコース含有条件における4μMゲムシタビン存在下では9.28%(835個)であり、グルコース飢餓条件での4μMゲムシタビン存在下では9.96(896個)であった。
【0114】
一方で、生存細胞中で分析すると、グルコース含有条件では11.63%、グルコース飢餓条件では16.38%、およびグルコース含有条件における4μMアルクチゲニン存在下では13.22%であったのに対し、グルコース阻害条件での4μMアルクチゲニン存在下では5.30%であった。一方で、グルコース含有条件におけるゲムシタビン存在下では17.26%、グルコース飢餓条件での4μMゲムシタビン存在下では13.70%であり、アルクチゲニンはゲムシタビンで殺傷することが困難なCD44
+ESA
+CD24
+陽性膵臓癌幹細胞を殺傷する効果を有することが示された。
【0115】
(試験例5:マウス移植膵臓癌の膵臓癌幹細胞の評価)
マウス皮下移植膵臓癌モデルに対する、ゲムシタビンまたは実施例9のゴボウシ抽出物を投与治療後の腫瘍組織内癌細胞の比率を評価した。
【0116】
(試験方法および結果)
5X10
6/200μlの膵臓癌細胞株Miapaca-2を、BALB/cAJcl nu/nuマウス(日本クレア)の皮下に注入し、約2週間程度飼育した。125mm
2程度に腫瘍が増大したマウスを選択した。マウスを未治療群または実施例9のゴボウシ抽出物250mg/kgを連日経口投与する群または100mg/kgのゲムシタビン(イーライリリー)を隔日投与する群の3群に分けた。3週間治療を継続した。治療後のマウス皮下から腫瘍を回収し、細断後、Liberase (商標)(Roche) 13U/mlを加えた。次いで、37℃で20分間インキュベートし単細胞化した。Red blood lysis buffer(sigma)で赤血球を除去後、FACSバッファーに懸濁した。細胞数を調整後、定法に従って死細胞をSytoxRed dead cell stain (invitrogen)で除去し、また腫瘍に浸潤しているマウス由来の細胞を、Mouse H-2K
d, Mouse CD31, Mouse lineage Cocktail (biolegend, 133306, 102422, 116616)で除去後、FcRブロッキング(militenyi)を行い、それぞれのIsotype Control Ig(biolegend)を併用して、膵臓癌幹細胞マーカーCD24, CD44, ESA(CD326)で膵臓癌幹細胞を染色した。次いで、フローサイトメーターで癌幹細胞の比率を評価した。
【0117】
SytoxRed染色および癌幹細胞マーカーの染色結果を
図6に示す。各治療後の膵臓癌腫瘍内に存在する癌幹細胞数は、未治療では全分析ヒト膵臓癌細胞中(括弧内はヒト膵臓癌細胞中の全生存細胞中)の0.59%(0.89%)、ゲムシタビン治療後では0.93%(1.17%)、ゴボウシ抽出物治療後では0.14%(0.26%)であった。 これらの結果より、アルクチゲニンは、実際の腫瘍の中でも、ゲムシタビンで殺傷することが困難なCD44
+ESA
+CD24
+陽性の膵臓癌幹細胞様集団を減少させる効果を有することが示された。
【0118】
試験例1、2、3、4および5の結果から、アルクチゲニンは、体内において癌細胞が置かれている環境に近い栄養飢餓条件において、癌細胞を供給し腫瘍組織を再構築する能力を有する癌幹細胞に作用してこれを殺傷する効果を有することが強く示唆された。
【0119】
〔ゴボウシからのアルクチゲニン抽出〕
本発明者らは、簡便かつ安全にアルクチゲニンを得るために、ゴボウシからアルクチゲニンを高含量で含有するゴボウシ抽出物を得ることを試みた。しかし、通常、ゴボウシ中のアルクチゲニン含量は約0.6%と低い。また、水に溶け難い。このため、従来利用されている熱水抽出法では、アルクチゲニンを高含量で含有するゴボウシ抽出物を製造することがきわめて困難であった。
【0120】
また、癌治療などに使用するにあたり、有効成分であるアルクチゲニンが一定の含有量となるゴボウシ抽出物の提供が望まれているが、上記のとおり、アルクチゲニン高含有ゴボウシ抽出物の製造において、アルクチインをアルクチゲニンに変換し、水に溶け難いアルクチゲニンを一定の含有量となるように制御することは困難であった。
【0121】
さらに、癌治療などに使用するにあたり、アルクチゲニンが主要な有効成分であるとともに、アルクチゲニンおよびアルクチインを一定含量で含むゴボウシ抽出物は、特に抗癌効果が優れていることが分かってきている。このため、アルクチゲニン高含有ゴボウシ抽出物の製造において、アルクチゲニンおよびアルクチインを一定の含有量となるように制御することができる製造方法が望まれる。
【0122】
本発明者らは、以下に示すように、原料とするゴボウシ内在のβ−グルコシダーゼ酵素活性、ゴボウシを切裁する粒径、アルクチインをアルクチゲニンに酵素変換する際の温度およびゴボウシからアルクチゲニンおよびアルクチインを抽出する際の温度を調整することにより、アルクチゲニンを一定の含有量とする技術、並びにアルクチゲニンおよびアルクチインの含有比を調節する技術を見出した。
【0123】
ゴボウシの酵素活性および酵素変換条件(温度と時間)が、アルクチゲニン含有量およびアルクチゲニン/アルクチイン(重量比)に及ぼす影響、すなわち両者の因果関係を検証した。
【0124】
(酵素活性の測定)
産地やロットが異なるゴボウシをウイレー氏粉砕機により粉砕し、このゴボウシ粉砕品0.1gを10mLの水で希釈し、試料溶液とした。
【0125】
基質溶液として、p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド0.15gに水を加えて25mLに定容し、20mmol/L p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド水溶液を調製した。0.1mol/L酢酸緩衝液1mLに20mmol/L p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド水溶液0.5mLを加えて、反応混液を調製し、37℃で約5分予備加熱を行った。
【0126】
反応混液に試料溶液0.5mL加えて37℃で15分反応させた後、反応停止液である0.2mol/L炭酸ナトリウム水溶液を2mL加えて反応を停止させた。この液の400nmにおける吸光度を測定し、酵素反応を行わないブランク溶液からの変化量から下式により酵素活性を求めた。
【0127】
酵素活性(U/g)=(試料溶液の吸光度-ブランク溶液の吸光度)×4mL×1/18.1(p-ニトロフェノールの上記測定条件下でのミリモル分子吸光係数:cm
2/μmol)×1/光路長(cm)×1/反応時間(分)×1/0.5mL×1/試料溶液濃度(g/mL)
表1に示すように各ゴボウシの酵素活性が0.12〜8.23U/gであることを確認した。
【0128】
(試験例6)
酵素活性が0.12、0.27、0.40U/g(試料1〜3)である切裁したゴボウシ1gに水7mLを加えて、酵素反応温度15℃、20℃の温度条件でそれぞれの反応温度での反応時間を30分に設定し、反応後エタノールを加え80℃で抽出を行い、得られた抽出物のアルクチゲニン及びアルクチインを定量し、アルクチゲニン/アルクチイン重量比を求めた。
結果を表1の比較例1〜2、実施例1に示す。
【0129】
酵素活性が0.40U/gの試料3は、酵素反応温度20℃、反応時間30分で、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.82のゴボウシ抽出物が得られた。
【0130】
一方、酵素反応温度15℃、反応時間30分では、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.69であり、酵素反応温度は20℃以上であることが好ましい。
【0131】
また、酵素活性が0.40U/g未満の試料1及び2は、酵素反応温度20℃であってもアルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.70以上を満たすことができないことから、ゴボウシの酵素活性は0.40U/g以上であることが好ましい。
【0132】
(試験例7)
酵素活性が4.03U/g(試料5)である切裁したゴボウシ1gに水7mLを加えて、酵素反応温度30℃、40℃、50℃、60℃の温度条件でそれぞれの反応温度での反応時間を15分、30分(30℃と60℃のみ)に設定し、反応後エタノールで抽出を行い、得られた抽出物のアルクチゲニン及びアルクチインを定量し、アルクチゲニン/アルクチイン重量比を求めた。
【0133】
結果を表1の実施例3に示す。酵素反応温度30℃、反応時間15分で、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.7、酵素反応温度30℃、反応時間30分で、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=1.0、酵素反応温度40℃、反応時間15分で、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=1.2、酵素反応温度50℃、反応時間15分で、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=1.2のゴボウシ抽出物が得られた。
【0134】
一方、酵素反応温度60℃、反応時間15分では、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.4、酵素反応温度60℃、反応時間30分では、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.5であった。
以上のことから、酵素反応温度は60℃未満が好ましい。
【0135】
(試験例8)
酵素活性が1.42U/g(試料4)である切裁したゴボウシ1gに水を7mL加えて、酵素反応温度25℃の温度条件で反応時間を10分、30分に設定し、反応後エタノールで抽出を行い、得られた抽出物のアルクチゲニン及びアルクチインを定量し、アルクチゲニン/アルクチイン重量比を求めた。
【0136】
結果を表1の実施例2に示す。酵素反応温度25℃、反応時間10分で、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.74、同じく反応時間30分でアルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.85のゴボウシ抽出物が得られた。
以上のことから酵素活性1.42U/gであっても所望の結果を得ることができた。
【0137】
(試験例9)
酵素活性が7.82U/g(試料6)および8.23U/g(試料7)である切裁したゴボウシ1gそれぞれに水を7mL加えて、酵素反応温度30℃の温度条件で反応時間を30分に設定し、反応後エタノールで抽出を行い、得られた抽出物のアルクチゲニン及びアルクチインを定量し、アルクチゲニン/アルクチイン重量比を求めた。
【0138】
結果を表1の実施例4および5に示す。試料6ではアルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.93のゴボウシ抽出物(実施例4)、試料7ではアルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.89(実施例5)のゴボウシ抽出物が得られた。
【0139】
【表1】
【0140】
(実施例6 ゴボウシ抽出物の製造1)
ゴボウシ(酵素活性8.23U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを29〜33℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した。次いで、エタノール265Lを加えて85℃に昇温し、さらに60分間加熱還流した。この溶液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン20%を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.2%および7.1%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.89のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0141】
(実施例7 ゴボウシ抽出物の製造2)
ゴボウシ(酵素活性8.23U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30〜33℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した後、エタノール265Lを加えて85℃に昇温し、さらに30分間加熱還流した。この溶液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン20%を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.0%および6.8%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.87のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0142】
(実施例8 ゴボウシ抽出物の製造3)
ゴボウシ(酵素活性7.82U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30〜32℃に保温した水560Lに加えて40分間攪拌した後、60分後にエタノール258Lを加えて85℃に昇温し、さらに30分間加熱還流した。この液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン20%を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.2%および6.7%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.93のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0143】
(実施例9 ゴボウシ抽出物の製造4)
ゴボウシ(酵素活性7.82U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30〜32℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した後、エタノール253Lを加えて85℃に昇温し、さらに40分間加熱還流した。この液を遠心分離し、得られた抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン25%を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.4%および7.2%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.89のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン25%含有)が得られた。
【0144】
【表2】
【0145】
上記の実施例6〜9の結果から、酵素変換工程において、およそ30℃において酵素変換することにより、アルクチゲニン:アルクチイン(重量比)が約1:1となり、アルクチゲニン含有量の高いゴボウシ抽出物が得られることがわかった。通常、酵素による反応は、温度および時間に依存的に反応が進行するが、この温度であれば酵素変換時間にかかわらず、アルクチゲニン含有量の高いゴボウシ抽出物が得られることが分かった。
【0146】
また、上記の実施例6〜9の結果から、加熱還流工程において、およそ85℃に温度を上昇させて加熱還流することにより、アルクチゲニン:アルクチイン(重量比)が約1:1となり、アルクチゲニン含有量の高いゴボウシ抽出物が得られることが分かった。通常、加熱還流して抽出物を得る場合、抽出物中の含有物の量は、温度および時間に依存して変化するが、この温度であれば加熱還流時間にかかわらず、アルクチゲニン含有量の高いゴボウシ抽出物が得られることが分かった。
【0147】
(実施例10 ゴボウシ抽出物粉末配合顆粒剤)
(1)実施例7のゴボウシ抽出物粉末 33.3%
(2)乳糖 65.2%
(3)ヒドロキシプロピルセルロース 1.5%
合計 100%
【0148】
(製造方法)
「日局」製剤総則、顆粒剤の項に準じて顆粒剤を製造する。すなわち上表に記載の(1)〜(3)までの成分をとり、顆粒状に製した。これを1.5gずつアルミラミネートフィルムに充填し、1包あたりゴボウシ抽出物粉末を0.5g含有する顆粒剤を得た。
【0149】
(実施例11 ゴボウシ抽出物粉末配合顆粒剤)
(1)実施例7のゴボウシ抽出物粉末 66.7%
(2)乳糖 30.3%
(3)ヒドロキシプロピルセルロース 3.0%
合計 100%
【0150】
(製造方法)
「日局」製剤総則、顆粒剤の項に準じて顆粒剤を製造する。すなわち上表に記載の(1)〜(3)までの成分をとり、顆粒状に製した。これを3.0gずつアルミラミネートフィルムに充填し、1包あたりゴボウシ抽出物粉末を2g含有する顆粒剤を得た。
【0151】
(実施例12 ゴボウシ抽出物粉末配合錠剤)
(1)実施例7のゴボウシ抽出物粉末 37.0%
(2)結晶セルロース 45.1%
(3)カルメロースカルシウム 10.0%
(4)クロスポピドン 3.5%
(5)含水二酸化ケイ素 3.4%
(6)ステアリン酸マグネシウム 1.0%
合計 100%
【0152】
(製造方法)
「日局」製剤総則、錠剤の項に準じて錠剤を製造する。すなわち上表に記載の(1)〜(6)成分をとり、錠剤を得た。