特許第5696191号(P5696191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5696191
(24)【登録日】2015年2月13日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】抗癌幹細胞剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/365 20060101AFI20150319BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   A61K31/365
   A61P35/00
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-200104(P2013-200104)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2014-224085(P2014-224085A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2014年7月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-94829(P2013-94829)
(32)【優先日】2013年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306018343
【氏名又は名称】クラシエ製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】独立行政法人国立がん研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 礼路
(74)【代理人】
【識別番号】100174849
【弁理士】
【氏名又は名称】森脇 理生
(72)【発明者】
【氏名】江角 浩安
(72)【発明者】
【氏名】池田 公史
(72)【発明者】
【氏名】土原 一哉
(72)【発明者】
【氏名】千葉 殖幹
(72)【発明者】
【氏名】与茂田 敏
(72)【発明者】
【氏名】川島 孝則
(72)【発明者】
【氏名】大窪 敏樹
(72)【発明者】
【氏名】手塚 康弘
【審査官】 吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/043549(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/109961(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/045282(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/146734(WO,A1)
【文献】 三好千香 他,Cytotoxic effects of arctigenin on pancreatic tumor growth,日本癌学会学術総会記事,2009年 8月31日,Vol.68th,P.464,P-1091
【文献】 Xiangyang Yao et al.,Arctigenin enhances chemosensitivity of cancer cells to cisplatin through inhibition of the STAT3 si,J.Cell.Biochem.,2011年,Vol.112,P.2837-2849
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/365
A23L 1/30
A61K 31/18
A61K 36/28
A61P 35/00
C12N 15/09
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルクチゲニンを含有する、癌の治療後の転移または再発防止剤。
【請求項2】
前記アルクチゲニンがゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウト、若ゴボウまたはレンギョウ由来である、請求項1に記載の転移または再発防止剤。
【請求項3】
アルクチゲニンを1日あたりの摂取量が10mg以上となるように含有する、請求項1または2に記載の転移または再発防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌幹細胞剤および抗癌幹細胞作用のために用いる容器詰食品に関する。
【背景技術】
【0002】
癌幹細胞は、自己複製能と多分化能を有し、少数の細胞からでも高率に癌を形成する強い造腫瘍能を有する細胞である。
【0003】
癌幹細胞は、薬剤や放射線などに抵抗性で、そのために治療後の再発の最大の原因になり癌治療がなかなか治癒に結びつかない原因と考えられている。これらは、がんの特殊な微小環境、特に低酸素とグルコース欠乏という特異的なニッチに存在すると考えられている。
【0004】
したがって、癌幹細胞を標的にした治療法の開発は、抗癌治療に大きな貢献をもたらすと考えられる。
【0005】
癌幹細胞を優先的に死滅させる薬剤としては、メトホルミンが知られている(非特許文献1)。インスリンおよびインスリン様成長因子-1(IGF-1)は、PI3K/Akt/mTORシグナル伝達系のmTORを活性化することにより、癌細胞の増殖を促進させると考えられている。メトホルミンは、AMPKを活性化することによりmTORを抑制することによって、癌細胞を死滅させ、癌細胞の放射線感受性を高めるとともに、放射線抵抗性の癌幹細胞を根絶することが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Song CW, Lee H, Dings RP, Williams B, Powers J, Santos TD, Choi BH, Park HJ., Sci Rep., 2012, 2:362。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
癌幹細胞を標的とした治療法は、まだほとんど確立されていない。そこで本発明は、新規な抗癌幹細胞剤および抗癌幹細胞作用のために用いる容器詰食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、グルコース代謝阻害条件においてアルクチゲニン存在下で癌細胞を培養したところ、アルクチゲニン非存在下と比較して、癌幹細胞マーカー陽性の細胞の生存率が非常に低くなることを見出した。グルコース含有条件では、このような効果は見られなかった。これらの結果から、本発明者らは、アルクチゲニンが、栄養飢餓条件において癌幹細胞を殺傷する抗癌幹細胞作用を有することを見出した。
【0009】
アルクチゲニンが癌幹細胞に直接作用するということは、これまで知られておらず、新規の知見である。癌幹細胞は通常、癌細胞と同様に栄養飢餓条件において存在するため、栄養飢餓条件において抗癌幹細胞作用をもつアルクチゲニンは、高い抗癌活性を発揮することが予想された。
【0010】
これらの新たに得られた知見から、本発明者らは、癌の発生、再発および転移巣の出現に深く関与すると考えられる癌幹細胞に直接作用してこれを死滅させるアルクチゲニンを利用することにより、癌の発症、転移および再発を防止することができると考えた。本発明は、これらの知見に基づき完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、アルクチゲニンを含有する、抗癌幹細胞剤を提供する。
【0012】
また、本発明は、アルクチゲニンがゴボウシ由来である、上記抗癌幹細胞剤を提供する。
【0013】
また、本発明は、アルクチゲニンを含有する、抗癌幹細胞作用のために用いる容器詰食品を提供する。
【0014】
また、本発明は、アルクチゲニンを1日あたりの摂取量が10mg以上となるように含有する、上記容器詰食品を提供する。
【0015】
また、本発明は、上記アルクチゲニンが、ゴボウ、ゴボウスプラウト、若ゴボウまたはレンギョウ由来である、上記容器詰食品を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、栄養飢餓条件において抗癌幹細胞作用を有するアルクチゲニンを含有するため、副作用が少なく、効果的に癌幹細胞に作用する新規な抗癌幹細胞剤、および抗癌幹細胞作用のために用いる容器詰食品を提供することができる。本発明の抗癌幹細胞剤および容器詰食品は、癌細胞を供給し腫瘍組織を再構築する能力を有する癌幹細胞を死滅させることにより、癌細胞を減少させるとともに、新たな癌細胞の発生および癌の転移を防止することができる。したがって、本発明は、癌の発症、転移および再発の防止に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】癌幹細胞に対するPI染色および膵臓癌幹細胞マーカー(CD44, CD24, ESA)染色の結果を示す図。
図2】癌幹細胞に対するPI染色および膵臓癌幹細胞マーカー(CD44, c-Met)染色の結果を示す図。
図3】癌幹細胞に対するPI染色およびALDH活性測定の結果を示す図。
図4】膵臓癌幹細胞マーカーBMI-1および幹細胞関連因子の発現評価の結果を示す図。
図5】癌幹細胞に対するPI染色および膵臓癌幹細胞マーカー染色の結果(ゲムシタビン処理との比較)を示す図。
図6】マウス移植膵臓癌に対するゲムシタビンまたはゴボウシ抽出物による治療後の腫瘍内膵臓癌幹細胞の染色の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。開示する条件は一例であり、これに限定されるものではない。
【0019】
〔抗癌幹細胞剤〕
本発明の抗癌幹細胞剤は、抗癌幹細胞作用を有する薬剤であり、有効成分としてアルクチゲニンを含有する。抗癌幹細胞作用とは、癌幹細胞の数を減少させる作用をいう。アルクチゲニンは、後述する実施例において示されるように、癌幹細胞殺傷する効果を有する。
【0020】
癌幹細胞は、癌細胞のうち幹細胞性を有する細胞をいい、自己複製能力と、前駆細胞を供給する能力とを備えている。癌幹細胞は、癌細胞を供給し腫瘍組織を再構築する能力を有する。本発明の抗癌幹細胞剤は、癌幹細胞の数を減少させることにより、癌の発症、転移および再発の防止に貢献することができる。
【0021】
本発明の抗癌幹細胞剤は、アルクチゲニンを1日あたりの投与量が100mg以上となるように含有することができる。後述する実施例において示されるように、アルクチゲニンの1日あたりの投与量が100mg以上である場合、より高い高腫瘍活性を得ることができる。
【0022】
アルクチゲニンは、アルクチゲニンを含有する植物由来であってもよく、たとえばゴボウシ由来であってもよい。すなわち、本発明の抗癌幹細胞剤は、植物からの抽出物、たとえばゴボウシから得たゴボウシ抽出物を含有することにより、このゴボウシ抽出物に含まれるアルクチゲニンを有効成分として含有してもよい。
【0023】
アルクチゲニンを含有する植物は、特に限定されないが、たとえばゴボウ(スプラウト・葉・根茎・ゴボウシ)、ベニバナ、ヤグルマギク、アメリカオニアザミ、サントリソウ(ギバナアザミ)、カルドン、ゴロツキアザミ、アニウロコアザミ、アイノコレンギョウ、チョウセンレンギョウ、レンギョウ、シナレンギョウ、ゴマ、モミジヒルガオ、シンチクヒメハギ、チョウセンテイカカズラ、テイカカズラ、ムニンテイカカズラ、ヒメテイカカズラ、トウキョウチクトウ、ケテイカカズラ、リョウカオウ、オオケタデ、ヤマザクラ、シロイヌナズナ、アマランス、クルミ、エンバク、スペルタコムギ、軟質コムギ、メキシコイトスギおよびカヤなどを含む。なかでも、ゴボウ(特にゴボウシ)およびレンギョウは、アルクチゲニン含有量が高いため好ましい。
【0024】
ゴボウシは、日局16でゴボウ Arctium lappa Linne (Compositae)の果実であると規定されている。また、ゴボウシは、銀翹散、駆風解毒湯、消風散などに処方される生薬であり、専ら医薬品として使用される成分本質に分類される。ゴボウシは、リグナン配糖体に分類されるアルクチインを約7%およびそのアグリコンであるアルクチゲニンを約0.6%含む。
【0025】
本発明において、アルクチゲニンがゴボウシ由来である場合には、後述するゴボウシ抽出物の製造方法を用いて得られるゴボウシ抽出物を用いることができる。そのため、製造時の生産性を向上させることができ、安価にかつ簡便に抗癌幹細胞剤を調製することができる。また、ゴボウシ以外の植物を用いる場合にも、後述する製造方法を利用することにより、アルクチゲニンを含有する抽出物を容易に得ることが可能である。
【0026】
後述するゴボウシ抽出物の製造方法によって得られる抽出物粉末は、アルクチゲニンを高含量で含有する。したがって、このゴボウシ抽出物の製造方法によって得られる抽出物粉末は、従来のゴボウシ抽出物と比較して、優れた効果を有する本発明の抗癌幹細胞剤として使用することができる。
【0027】
また、本発明の抗癌幹細胞剤は、さらにアルクチインを含有してもよい。アルクチインは、アルクチインを含有する植物由来であってもよく、たとえばゴボウシ由来であってもよい。すなわち、本発明の抗癌幹細胞剤は、植物からの抽出物、たとえばゴボウシから得たゴボウシ抽出物を含有することにより、このゴボウシ抽出物に含まれるアルクチインをさらに含有してもよい。
【0028】
本発明の抗癌幹細胞剤は、アルクチゲニンおよびアルクチインを、アルクチゲニン/アルクチインの重量比が0.7以上となるように含有してもよい。アルクチゲニン/アルクチインの重量比は、特に限定されないが、1.3以下であってもよい。本発明の抗癌幹細胞剤は、アルクチゲニンおよびアルクチインを、アルクチゲニン/アルクチイン=0.7〜1.3の重量比にて含有する植物の抽出物、たとえばゴボウシ抽出物を含有してもよい。また、本発明の抗癌幹細胞剤は、アルクチゲニンを3%以上含有するゴボウシ抽出物を含有してもよい。このようなゴボウシ抽出物は、後述するゴボウシ抽出物の製造方法により得ることができる。抗癌幹細胞剤は、後述するゴボウシ抽出物の製造方法により得られたゴボウシ抽出物を含有することにより、従来のゴボウシ抽出物を含有する場合よりも高い抗癌幹細胞効果を提供することができる。
【0029】
本発明の抗癌幹細胞剤は、さらに任意の成分を含むことができる。たとえば、本発明の抗癌幹細胞剤は、薬学的に許容される基剤、担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤および着色剤などを含む形態にて提供することができる。
【0030】
抗癌幹細胞剤に使用する担体および賦形剤の例には、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、デキストリン、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムおよび結晶セルロースなどを含む。
【0031】
また、結合剤の例には、デンプン、ゼラチン、シロップ、トラガントゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースなどを含む。
【0032】
また、崩壊剤の例には、デンプン、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースカルシウムなどを含む。
【0033】
また、滑沢剤の例には、ステアリン酸マグネシウム、水素添加植物油、タルクおよびマクロゴールなどを含む。また、着色剤は、医薬品に添加することが許容されている任意の着色剤を使用することができる。
【0034】
また、抗癌幹細胞剤は、必要に応じて、白糖、ゼラチン、精製セラック、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレートおよびメタアクリル酸重合体などで一層以上の層で被膜してもよい。
【0035】
また、必要に応じて、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤および可溶化剤などを添加してもよい。
【0036】
また、抗癌幹細胞剤は、任意の形態の製剤として提供することができる。たとえば、抗癌幹細胞剤は、経口投与製剤として、糖衣錠、バッカル錠、コーティング錠およびチュアブル錠等の錠剤、トローチ剤、丸剤、散剤およびソフトカプセルを含むカプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、ドライシロップを含むシロップ剤、ならびにエリキシル剤等の液剤であることができる。
【0037】
また、抗癌幹細胞剤は、非経口投与のために、静脈注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射、経皮投与、経鼻投与、経肺投与、経腸投与、口腔内投与および経粘膜投与などの投与のための製剤であることができる。たとえば、注射剤、経皮吸収テープ、エアゾール剤および坐剤などであることができる。また、抽出物粉末が特有のえぐみを有することから、抽出物粉末をマスキングする製剤としたり、被覆剤で被覆するフィルムコート剤としたりすることができる。
【0038】
また、本発明の抗癌幹細胞剤は、他の抗癌剤と組み合わせて併用投与されることができる。他の抗癌剤には、特に限定されず公知の抗癌剤を用いることができ、たとえばゲムシタビン、Ts-1、シスプラチン、イリノテカン、パクリタキセル、および種々の分子標的薬などを用いることができる。本発明の抗癌幹細胞剤をこのような種々の抗癌剤と組み合わせることにより、癌細胞および癌幹細胞の両方を同時に抑制することができるため、抗癌剤のみを用いる場合より高い高腫瘍活性を得ることができる。また、本発明の抗癌幹細胞剤は、非常に毒性が低いため、併用剤とした場合でも副作用が増加するおそれが非常に低い。
【0039】
また、本発明の抗癌幹細胞剤は、病者用食品、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品およびサプリメントなどの形態であってもよい。
【0040】
一方、後述するゴボウシ抽出物の製造方法によって得られた抽出物粉末は、そのままの形で抗癌幹細胞剤として使用することもできる。
【0041】
本発明の抗癌幹細胞剤は、精製したアルクチゲニンおよび他の成分を混合して製造してもよいし、以下に記述する方法により製造されるゴボウシ抽出物を用いて製造してもよい。
【0042】
〔ゴボウシ抽出物の製造方法〕
本発明の抗癌幹細胞剤に適したゴボウシ抽出物は、生薬切裁工程、抽出工程(酵素変換工程および有機溶媒による抽出工程)、固液分離工程、濃縮工程および乾燥工程を経て製造される。
【0043】
(生薬切裁工程)
生薬切裁工程では、原料とするゴボウシを抽出に適した大きさに切裁する。原料となる生薬は、植物の様々な部位や鉱物、動物など種々の大きさ、形状、固さがあり、その特質に応じた切裁が必要となる。
ゴボウシは、当業者に公知の任意の手段を使用して切裁することができる。たとえば、市販の切裁機を使用することができる。
【0044】
本発明に適したゴボウシ抽出物の製造方法では、ゴボウシに内在する酵素であるβ-グルコシダーゼの活性を事前に測定し、適したゴボウシを選択することができる。
【0045】
β-グルコシダーゼの活性を測定する方法としては、たとえばp-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド(C12H15NO8:分子量301.25)(SIGMA-ALDRICH社製)を基質として、ゴボウシ粉砕品を作用させることで生成するp-ニトロフェノールを400nmの吸光度の変化を測定することにより、酵素活性を測定できる。酵素活性を表す単位として1分間に1マイクロモルのp-ニトロフェノールを生成する酵素量を1単位(U)として表すことができる。
【0046】
本発明に適したゴボウシ抽出物を得るためには、ゴボウシに内在するβ-グルコシダーゼの活性が、たとえば0.4U/g以上、好ましくは1U/g以上のゴボウシを用いることができる。
0.4U/g未満の場合は、加水分解が不十分となり、アルクチゲニンの重量比が下がり、所望のゴボウシ抽出物を効率的に得られなくなる。
【0047】
また、本発明に適したゴボウシ抽出物の製造方法では、任意の粒径に切裁されたゴボウシを使用することができる。切裁されたゴボウシの粒径が小さいほど酵素変換が促進され、抽出物収率も上昇すると考えられる。その反面、粒径が小さすぎると、酵素変換が速過ぎてプロセス管理が困難になったり、後の工程において正確な固液分離に支障が生じたりすることがある。
【0048】
本発明に適したゴボウシ抽出物を得るためには、以下の実施例に示したように、ゴボウシは、9.5mm以下の粒径に、たとえば9.5mmの篩を全通するように切裁される。
【0049】
また、本発明に適したゴボウシ抽出物を得るためには、ゴボウシの粒径が、9.5mm篩を全量通過し、たとえば0.85mmの篩に60〜100%が分布するように、さらに好ましくは0.85mmの篩に65〜80%が分布するように切裁されることが望ましい。
【0050】
(抽出工程)
抽出工程は、生薬抽出物粉末製造工程中で、品質上最も重要な工程である。この抽出工程により、生薬抽出物粉末の品質が決まる。本発明の抗癌幹細胞剤に用いるのに適したゴボウシ抽出物の製造方法では、ゴボウシ抽出物を抽出するために、酵素変換工程と有機溶媒による抽出工程の2段階に分けて抽出を行う。
【0051】
(酵素変換工程)
酵素変換工程は、本発明に適したゴボウシ抽出物の製造方法において重要な工程である。酵素変換工程は、ゴボウシに内在する酵素であるβ-グルコシダーゼにより、ゴボウシに含まれているアルクチインをアルクチゲニンに酵素変換する工程である。
【0052】
具体的には、上記工程で準備したゴボウシ切裁物を、適切な温度に保持することによりβ-グルコシダーゼを作用させて、アルクチインからアルクチゲニンへの反応を進行させる。たとえば、切裁したゴボウシに水などの任意の溶液を加えて、30℃付近の温度にて攪拌することなどにより、ゴボウシを任意の温度に保持することができる。
【0053】
本発明に適したゴボウシ抽出物を得るためには、切裁したゴボウシを30℃付近の温度、たとえば20〜50℃の間の温度に保持する。
【0054】
20℃未満の場合は、加水分解が不十分となり、アルクチゲニンの重量比が下がり、所望のゴボウシ抽出物を効率的に得られなくなる。一方、50℃より高温の場合は、酵素が失活し、アルクチゲニンの重量比が下がり、所望のゴボウシ抽出物を効率的に得られなくなる。
【0055】
また、保持時間は、上記温度において保持する限り特に限定されず、たとえば約30分保持させることができる。20〜50℃の間に保持することにより、保持時間にかかわらず、適切な量のアルクチインがアルクチゲニンに酵素変換され、本発明に適したゴボウシ抽出物を得ることができる。
【0056】
(有機溶媒による抽出工程)
有機溶媒による抽出工程は、任意の適切な有機溶媒を使用して、ゴボウシからアルクチゲニンおよびアルクチインを抽出する工程である。すなわち、上記の酵素変換工程によりアルクチゲニンが高含量となった状態で、適切な溶媒を添加して、ゴボウシ抽出物を抽出する工程である。たとえば、ゴボウシ抽出物に適切な溶媒を添加して、適切な時間加熱攪拌してゴボウシ抽出物を抽出する。また、加熱攪拌以外にも、加熱還流、ドリップ式抽出、浸漬式抽出または加圧式抽出法などの当業者に公知の任意の抽出法を使用して、ゴボウシ抽出物を抽出することができる。
【0057】
アルクチゲニンは水難溶性であることから、有機溶媒を添加することにより、アルクチゲニンの収率を向上させることができる。有機溶媒は、任意の有機溶媒を使用することができる。たとえば、メタノール、エタノールおよびプロパノールなどのアルコール、並びにアセトンを使用することができる。安全性の面を考慮すると、本発明に適したゴボウシ抽出物の製造方法では、有機溶媒としてエタノールを使用することが好ましい。
【0058】
加熱攪拌によってゴボウシ抽出物を抽出する場合、加熱攪拌は、任意の温度にて行うことができるが、本発明に適したゴボウシ抽出物を得るためには、80℃以上の温度、たとえば80〜90℃の間の温度に保持する。
【0059】
また、加熱攪拌する時間は、上記温度において加熱攪拌する限り、特に限定されず、約30分間、たとえば30〜60分間加熱攪拌することにより、溶媒中にゴボウシからアルクチゲニンおよびアルクチインを抽出させることができる。
【0060】
アルクチゲニンおよびアルクチインの收率は、加熱攪拌の時間が長いほど向上する。しかし、加熱攪拌の時間が長いと、不要な油脂類が多く溶け出し、濃縮工程の負荷が大きくなってしまう。したがって、加熱攪拌の時間は、状況に応じて適宜決定すればよい。
【0061】
また、アルクチゲニンおよびアルクチインの收率は、エタノール量が多いほどアルクチゲニンおよびアルクチインの溶解度が高くなるため、収率も向上する。しかし、エタノール量が多いと、不要な油脂類も多く溶け出し、濃縮工程の負荷が大きくなってしまう。したがって、投入量は、状況に応じて適宜決定すればよい。なおこの工程での加熱攪拌により、同時にゴボウシ抽出物を滅菌および殺菌することができる。
【0062】
(固液分離工程)
固液分離工程は、抽出の終わったゴボウシを抽出液から分離する工程である。固液分離は、当業者に公知の任意の方法を使用して行うことができる。固液分離法には、たとえば濾過法、沈降法および遠心分離法などがある。工業的には、遠心分離法が望ましい。
【0063】
(濃縮工程)
濃縮工程は、乾燥に先立ちゴボウシ抽出液から溶媒を除去する工程である。ゴボウシ抽出液からの溶媒の除去は、当業者に公知の任意の方法を使用して行うことができる。
【0064】
しかし、上記工程によって得られたゴボウシからの抽出液が、さらに高温に長時間曝されることがないようにすることが好ましい。
【0065】
たとえば、減圧濃縮法を使用することにより、高温に長時間曝されることなく、ゴボウシ抽出液を濃縮することができる。
【0066】
ゴボウシ抽出液の濃縮は、所望の濃度のゴボウシ抽出物が得ることができる濃度まで濃縮することができる。
【0067】
たとえば、以下の乾燥工程において乾燥を適正に行うことができる程度まで濃縮することが望ましい。また、以下の工程においてゴボウシ抽出物を乾燥させて粉末製剤にした場合に、適切な製剤特性が得られる濃度まで濃縮を行うことが望ましい。
【0068】
アルクチゲニンおよびアルクチインは、水難溶性であるため、アルクチゲニンおよびアルクチインが以下の乾燥工程における製造装置内に付着する量が多く、最終的な収率が大幅に低下する。そこで、製造装置にアルクチゲニンおよびアルクチインが付着するのを防止するために、この濃縮工程で得られたゴボウシ抽出液にデキストリンを添加することができる。デキストリンの添加量は、たとえば濃縮液の固形分に対して15〜30%程度が望ましい。
【0069】
(乾燥工程)
上記工程によって得られたゴボウシ抽出物を粉末状に仕上げる工程である。乾燥は、当業者に公知の任意の方法を使用して行うことができる。たとえば、乾燥法として、凍結乾燥および噴霧乾燥などが知られているが、実験室レベルであれば前者、量産レベルであれば後者を用いるのが一般的である。
【0070】
以上の製造工程により、アルクチゲニンを高含量にて含有するゴボウシ抽出物を得ることができる。このゴボウシ抽出物の製造方法は、20℃〜50℃の温度で酵素変換を行う工程を含まなければならないが、その他の工程の全てを含む必要はない。
【0071】
また、以上の製造工程により、アルクチゲニンの濃度が高いゴボウシ抽出物を、安価にかつ簡便に得ることができる。したがって、この方法により得られたゴボウシ抽出物を用いることによって、本発明の抗癌幹細胞剤を安価にかつ簡便に製造することができる。
【0072】
また、以上の製造工程により得られるゴボウシ抽出物のアルクチゲニン濃度が高いため、従来のゴボウシ抽出物を用いた場合と比較して、抗癌幹細胞剤の1日当たりの全体量を少なくすることができる。したがって、患者の負担を軽減させることができる。
【0073】
〔容器詰食品〕
また、本発明は、アルクチゲニンを含有する、抗癌幹細胞作用のために用いる容器詰食品を提供する。本発明の容器詰食品は、抗癌幹細胞作用を有するアルクチゲニンを含有するため、癌幹細胞を減少または根絶させることができ、癌の発症、転移および再発の防止に有用である。本発明の容器詰食品は、病者用食品、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品およびサプリメントなどであることができる。また、本発明の容器詰食品は、癌幹細胞を減少させる旨の表示が付されたものであってもよい。
【0074】
本発明の容器詰食品に用いる容器は、一般に食品に用いられる容器を用いることができ、たとえばレトルトパウチ、紙パック、ポリエチレンテレフタラート(PET)からなる容器、金属缶およびガラス瓶などであってもよい。
【0075】
本発明の容器詰食品は、アルクチゲニンを1日あたりの摂取量が1mg以上、好ましくは10mg以上となるように含有してもよい。これにより、より高い抗癌幹細胞効果を得ることが期待できる。また、本発明の容器詰食品は、さらにアルクチインを含有してもよい。また、本発明の容器詰食品は、アルクチゲニンおよびアルクチインをアルクチゲニン/アルクチイン=0.7〜1.3の重量比となるように含有してもよい
【0076】
本発明の容器詰食品に含有されるアルクチゲニンは、植物由来であってもよい。植物としては、上述したアルクチゲニンを含有する植物を用いることができ、たとえばゴボウ(たとえば葉および根)、若ゴボウ、ゴボウスプラウト、ならびにレンギョウ(たとえば葉)などを用いることができる。本発明の容器詰食品は、アルクチゲニンを含有する植物そのものを含んでもよいし、植物の加工物または抽出物などを含んでもよい。
【0077】
本発明の容器詰食品は、必要に応じて、さらに任意の成分を含むことができる。たとえば、本発明の容器詰食品は、抗癌幹細胞剤について上述した担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤および着色剤などを含んでいてもよい。また、本発明の容器詰食品は、食品に利用可能な各種添加物、ビタミン成分、アミノ酸類、ペプチド類、ミネラル類、核酸、多糖類、脂肪酸類および生薬などを含んでいてもよい。
【0078】
本発明の容器詰食品は、特に限定されないが、たとえばレトルトパウチ食品、缶詰および冷凍食品などであってもよい。本発明の容器詰食品は、たとえばアルクチゲニンを含有する植物を通常の調理方法で調理加工した食品であってもよいし、各種飲食品(たとえばスープおよび粥などの流動食、米飯、副食および惣菜などの一般的な食品、菓子類、ならびに飲料など)であってもよい。また、本発明の容器詰食品は、糖衣錠、バッカル錠、コーティング錠およびチュアブル錠等の錠剤、トローチ剤、丸剤、散剤およびソフトカプセルを含むカプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、ドライシロップを含むシロップ剤、ドリンク剤、ならびにエリキシル剤等の液剤であることができる。
【0079】
本発明の容器詰食品は、癌の治療のための食事療法に使用されることができる。本発明の容器詰食品は、他の抗癌剤の投与と組み合わせて使用されてもよい。本発明の容器詰食品を他の抗癌剤の投与と組み合わせることにより、抗癌剤による治療に加えて抗癌幹細胞効果を期待することができるため、抗癌剤のみを用いる場合より高い高腫瘍活性を得ることができる。また、本発明の容器詰食品は、癌の治療中および治療後における癌の転移および再発を防止するための食事療法に使用されることができる。
【0080】
以上のように、本発明は、有効成分としてアルクチゲニンを含有する抗癌幹細胞剤および容器詰食品の提供が可能である。以下の試験例1〜5において、アルクチゲニンが癌幹細胞に対し殺傷効果を有することが示された。このように、本発明の抗癌幹細胞剤および容器詰食品は、癌細胞を供給し腫瘍組織を再構築する癌幹細胞を減少または根絶させる効果を有するため、癌の発症、転移および再発の防止に対する効果が期待できる。また、本発明の抗癌幹細胞剤は、腫瘍本体に作用して腫瘍を縮小させる効果をも有し、高い抗腫瘍活性を有するため、抗癌剤として有用である。
【0081】
また、以下の試験例1〜5において、アルクチゲニンは、特に腫瘍内部の環境に近い栄養飢餓条件において癌幹細胞を選択的に殺傷する効果を有することが示された。したがって、本発明の抗癌幹細胞剤および容器詰食品は、栄養飢餓条件において癌幹細胞を減少させることができるため、体内において癌幹細胞に効果的に作用することができる。
【0082】
また、アルクチゲニンおよびアルクチインを含有する顆粒剤は毒性が非常に低いので、本発明の抗癌幹細胞剤は、非常に少ない副作用で高い抗癌幹細胞効果を提供することができる。
【実施例】
【0083】
(試験例1:癌幹細胞に対する効果)
癌幹細胞様集団(CSCs : Cancer Stem-like cells)に対するアルクチゲニンの効果を調べた。
【0084】
(培地および試薬調製)
グルコース含有培地は、4.75gダルベッコ変法イーグル培地2(日水製薬)を水に溶解し、12.5ml 1M HEPES pH7.4(DOJINDO、342-01375)および1g Glucoseを加えて滅菌後、18.5ml 10% NAHCO3、10ml L-glutamine(SIGMA)、5ml Anti-Anti(Life technologies)、5ml MEM NON-ESSENTIAL AMINO ACID SOLUTION(SIGMA)、56℃で30分温浴にて非動化させた50ml FETAL BOVINE SERUM(biowest)および10000x Plasmocin(invivogen)を加え、最終的に500mlにして作製した。
【0085】
グルコース阻害培地は、グルコース含有培地に終濃度20mMの2-Deoxy-Glucose(2-DG)(東京化成工業)を添加して作製した。
【0086】
3μMアルクチゲニンを含む培地は、グルコース含有培地またはグルコース阻害培地に、終濃度3μMのアルクチゲニン(クラシエ製薬)を添加して作製した。
【0087】
FACSバッファーは、10g Bovine serum albumin Protease free(和光純薬工業)を1LのPBS(-)に溶解し、終濃度0.1%のアジ化ナトリウムを加え、濾過滅菌にて作製した。
【0088】
FACS分析用の蛍光標識抗体は、CD44(338803または338807, biolegend), CD24(311117, biolegend), ESA(324205, biolegend),c-Met(11-8858, e-bioscience)を使用した。また染色行程は、製品添付のデータシートに従い行った。
【0089】
(試験方法および結果)
膵臓癌細胞PANC-1(ATCC No. CRL-1469)をグルコース含有培地に播種して一晩インキュベートした後、グルコース含有培地、グルコース阻害培地、3μMアルクチゲニンを含むグルコース含有培地および3μMアルクチゲニンを含むグルコース阻害培地のそれぞれにおいて24時間培養した。細胞を回収した後、定法にしたがってPI染色(死細胞染色)および癌幹細胞マーカー染色を行い、フローサイトメトリー(FACS)にて解析を行った。マーカーとしては、膵臓癌の幹細胞マーカーとして報告のあるCD44、CD24およびESA(CD326)の3重陽性、またはCD44陽性、c−Met強陽性の2重陽性を用いた。
【0090】
PI染色および癌幹細胞マーカー(CD44+、CD24+およびESA+(CD326)の3重陽性)の染色の結果を図1に示す。PI染色の結果、細胞の生存率は、グルコース含有条件では78.20%、グルコース阻害条件では68.53%、およびグルコース含有条件における3μMアルクチゲニン存在下では69.50%であったのに対し、グルコース阻害条件での3μMアルクチゲニン存在下では生存率が35.71%であった。
【0091】
また、癌幹細胞マーカー染色の結果、膵臓癌幹細胞を指し示すCD44+ESA+CD24+細胞の割合(生存数)は、全分析細胞中の、グルコース含有条件では4.41%(441個)、グルコース阻害条件では6.51%(651個)、およびグルコース含有条件における3μMアルクチゲニン存在下では5.01%(501個)であったのに対し、グルコース阻害条件での3μMアルクチゲニン存在下では0.98%(98個)であった。したがって、アルクチゲニンは、グルコース飢餓条件において膵臓癌幹細胞を殺傷する効果を有することが示された。
【0092】
PI染色および癌幹細胞マーカー(CD44+、c-MetHigh の2重陽性)の染色結果を図2に示す。PI染色の結果、細胞の生存率は、グルコース含有条件では84.70%、グルコース阻害条件では88.80%、およびグルコース含有条件における3μMアルクチゲニン存在下では83.30%であったのに対し、グルコース阻害条件での3μMアルクチゲニン存在下では生存率が27.50%であった。
【0093】
強力な造腫瘍能を指標とした癌幹細胞の新たなマーカーとして、CD44陽性でc-Met強陽性の細胞集団が報告されている。CD44陽性c-Met強陽性(CD44+,c-MetHigh)細胞の膵臓癌細胞株における陽性割合(生存数)は、グルコース含有条件では0.63%(38個)、グルコース阻害条件では0.78%(47個)、およびグルコース含有条件における3μMアルクチゲニン存在下では0.52%(31個)であったのに対し、グルコース飢餓条件での3μMアルクチゲニン存在下では0.22%(13個)であった。したがって、アルクチゲニンは、グルコース飢餓条件において、これらの幹細胞マーカーを発現する細胞に対しても、これを殺傷もしくは変質させる効果を有することが示された。
【0094】
(試験例2:癌幹細胞のALDH活性に対する効果)
多くの癌幹細胞様集団(CSCs : Cancer Stem-like cells)に共通する高いALDH(aldehyde dehydrogenase)活性を幹細胞マーカーとして用い、アルクチゲニンの幹細胞活性に与える効果を調べた。
【0095】
(培地および試薬調製)
グルコース飢餓培地は、3.51gグルコース不含ダルベッコ変法イーグル培地(Sigma)を水に溶解し、12.5ml 1M HEPES pH7.4(DOJINDO、342-01375)、10ml L-glutamine(SIGMA)、5ml Anti-Anti(Life technologies)、5ml MEM NON-ESSENTIAL AMINO ACID SOLUTION(SIGMA)、10 ng/mL bFGF (Militenyi biotech)、20 ng/mL EGF (Militenyi biotech)、1XITS Media Supplement (Sigma)、0.4% BSAおよび10000x Plasmocin(invivogen)を加え、最終的に500mlに調整後に濾過滅菌して作製した。
【0096】
グルコース含有培地は、グルコース飢餓培地に終濃度1g/Lのグルコースを添加して作製した。
【0097】
アルクチゲニンを含む培地は、グルコース含有培地またはグルコース飢餓培地に、終濃度2-4μMのアルクチゲニン(クラシエ製薬)を添加して作製した。
【0098】
(試験方法および結果)
膵臓癌細胞MiaPaca-2(ATCC No. CRL-1420)をグルコース含有培地に播種して一晩インキュベートした後、グルコース含有培地、グルコース飢餓培地、アルクチゲニンを含むグルコース含有培地およびアルクチゲニンを含むグルコース飢餓培地のそれぞれにおいて24時間培養した。細胞を回収した後、定法にしたがってPI染色(死細胞染色)およびALDEFLUOR KIT(Stemcell Technologies)を使ったBAAによるALDH活性染色を、製品添付のデータシートに従って行いフローサイトメトリー(FACS)にて解析を行った。マーカーの評価は、ALDH阻害剤DEAB併用時のALDH活性を陰性領域とし、ALDH活性陽性細胞の中でも特に高い活性を持つ集団(SSCLow, ALDHbright)を評価に用いた。
【0099】
PI染色およびALDH活性染色の結果を図3に示す。PI染色の結果、細胞の生存率は、グルコース含有条件では92.11%、グルコース飢餓条件では88.25%、およびグルコース含有条件における4μMアルクチゲニン存在下では96.11%であったのに対し、グルコース飢餓条件での2μM、3μM、4μMアルクチゲニン存在下では、生存率がそれぞれ64.45%、54.31%、 37.84%であった。
【0100】
また、ALDH活性染色の結果、膵臓癌幹細胞を指し示すSSCLow,ALDHbright細胞の割合(生存数)は、全分析細胞中の、グルコース含有条件では2.71%(2709個)、グルコース飢餓条件では3.43%(3428個)、およびグルコース含有条件における4μMアルクチゲニン存在下では2.89%(2892個)であったのに対し、グルコース飢餓条件での2、3、4μMアルクチゲニン存在下では、それぞれ1.35%(1348個)、1.14%(1139個)、0.43%(429個)であった。したがって、アルクチゲニンは、グルコース飢餓条件において膵臓癌幹細胞を殺傷する、もしくは幹細胞性維持に重要なALDH活性を低下させる効果を有することが示された。
【0101】
(試験例3: BMI-1および幹細胞関連経路の発現に対する効果)
膵臓癌においては、Sonic HedgeHog(sHH)経路およびNotch-1,Notch-2経路が、癌細胞の上皮間葉移行や幹細胞化の誘導、および自己複製や癌組織の再構築などの幹細胞特性の維持に重要な役割を果たすことが報告されている (非特許文献:Cancer Res. 2009:69 2400-2407, AntiCancer Res. 2011:31 1105-1114, PLosONE 2011:6 e27306, Int J Cancer 2012:131 30-40)。また、これらの経路によって誘導・制御されるBMI-1は、膵臓癌幹細胞の有効なマーカーとして報告がなされている(非特許文献:Chemotherapy 2011:57 488-496, PLoSONE 2013:8 e55820)。また、これらの経路においては、他の多くの癌においても抗癌幹細胞治療のための創薬ターゲットとして、多くの報告がなされている。そこで、これらの因子の発現に与えるアルクチゲニンの効果を調べた。
【0102】
(培地および試薬調製)
グルコース飢餓培地は、3.51gグルコース不含ダルベッコ変法イーグル培地(Sigma)を水に溶解し、12.5ml 1M HEPES pH7.4(DOJINDO、342-01375)、10ml L-glutamine(SIGMA)、5ml Anti-Anti(Life technologies)、5ml MEM NON-ESSENTIAL AMINO ACID SOLUTION(SIGMA)、10 ng/mL bFGF (Militenyi biotech)、20 ng/mL EGF (Militenyi biotech)、1XITS Media Supplement (Sigma)、0.4% BSAおよび10000x Plasmocin(invivogen)を加え、最終的に500mlに調整後に濾過滅菌して作製した。
【0103】
グルコース含有培地は、グルコース飢餓培地に終濃度1g/Lのグルコースを添加して作製した。
【0104】
アルクチゲニンを含む培地は、グルコース含有培地またはグルコース飢餓培地に、終濃度1〜3μMのアルクチゲニン(クラシエ製薬)を添加して作製した。
【0105】
(試験方法および結果)
膵臓癌細胞MiaPaca-2(ATCC No. CRL-1420)をグルコース含有培地に播種して一晩インキュベートした後、グルコース含有培地、グルコース飢餓培地、アルクチゲニンを含むグルコース含有培地およびアルクチゲニンを含むグルコース飢餓培地のそれぞれにおいて24時間培養した。回収した細胞からRNeasy Mini Kit (Qiagen)を用いて全RNAを抽出し、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover (TOYOBO)を用いて、回収したRNAをcDNAに合成した。各遺伝子の発現定量は、定法に従ってFast SYBR Green Master Mix (ABI)および以下のプライマーを用いて、StepOne Plus(ABI)リアルタイムPCR機を用いて行った。なお、各遺伝子はGAPDHの発現量によって補正した。
BMI-1:5'-GGAGACCAGCAAGTATTGTCCTTTTG-3'(配列番号1)および
5'-CATTGCTGCTGGGCATCGTAAG-3'(配列番号2);
SHH:5'-GGACAGGCTGATGACTCAGA-3'(配列番号3)および
5'-GCCCTCGTAGTGCAGAGACT-3'(配列番号4);
Notch-2:5'-GGTCCCCATTGCCTTAATGGT-3'(配列番号5)および
5'-ATCTGGGGACACACATCGAC-3'(配列番号6);
Notch-1:5'-TTGGGGAGTTCCAGTGCATC-3'(配列番号7)および
5'-AGGCACTTGGCACCATTCTT-3'(配列番号8);
GLI1:5’-AGGGAGGAAAGCAGACTGAC-3’ (配列番号9) および
5-CCAGTCATTTCCACACCACT-3’ (配列番号10);
GAPDH: 5’- GTGAAGGTCGGAGTCAACG-3’ (配列番号11) および
5’- TGAGGTCAATGAAGGGGTC-5’ (配列番号12)
【0106】
各遺伝子の発現量を図4に示す。膵臓癌幹細胞の存在を示すBMI-1の発現量は、グルコース飢餓条件下では、グルコース含有条件に比べて上昇傾向を示し、一方で2μM以上のアルクチゲニンを含む培地条件においては、10分の1程度に有意に低下していた。また同様に、Sonic Hegehog (sHH)リガンドおよびGLI1、並びにNotch-1およびNotch-2の発現量も、2μM以上のアルクチゲニンを含む培地条件においては、それぞれ半分以下に有意な低下が認められた。これらの結果より、アルクチゲニンが幹細胞の特性維持に重要な、Sonic HedgehogやNotch経路を抑制し、また、有意に膵臓癌幹細胞を殺傷もしくは変質させることが示された。
【0107】
(試験例4:膵臓癌幹細胞に対する既存化学療法剤との比較試験)
アルクチゲニンと、膵臓癌に対する既存の標準化学療法剤の一つであるゲムシタビンについて、膵臓癌幹細胞に対する殺傷効果の比較を行った。
【0108】
(培地および試薬調製)
グルコース飢餓培地は、3.51gグルコース不含ダルベッコ変法イーグル培地(Sigma)を水に溶解し、12.5ml 1M HEPES pH7.4(DOJINDO、342-01375)、10ml L-glutamine(SIGMA)、5ml Anti-Anti(Life technologies)、5ml MEM NON-ESSENTIAL AMINO ACID SOLUTION(SIGMA)、10 ng/mL bFGF (Militenyi biotech)、20 ng/mL EGF (Militenyi biotech)、1XITS Media Supplement (Sigma)、0.4% BSAおよび10000x Plasmocin(invivogen)を加え、最終的に500mlに調整後に濾過滅菌して作製した。
【0109】
グルコース含有培地は、グルコース阻害培地に終濃度1g/Lのグルコースを添加して作製した。
【0110】
アルクチゲニンを含む培地は、グルコース含有培地またはグルコース飢餓培地に、終濃度4μMのアルクチゲニン(クラシエ製薬)を添加して作製した。
【0111】
(試験方法および結果)
膵臓癌細胞Capan-1(ATCC No. HTB-79)をグルコース含有培養培地に播種して一晩インキュベートした後、グルコース含有培地、グルコース飢餓培地、4μMアルクチゲニンを含むグルコース含有培地および4μMアルクチゲニンを含むグルコース飢餓培地において24時間培養した。またグルコース含有培地、グルコース飢餓培地において、ゲムシタビンの標準的な処理手順に従い4μMゲムシタビン(GEM:Sigma)を含む培地において72時間培養した。細胞を回収した後、定法にしたがってPI染色(死細胞染色)および癌幹細胞マーカーの染色を行い、フローサイトメトリー(FACS)にて解析を行った。マーカーとしては、膵臓癌の幹細胞マーカーとして報告のあるCD44、CD24およびESA(CD326)の3重陽性を用いた。
【0112】
PI染色および癌幹細胞マーカーの染色結果を図5に示す。PI染色の結果、細胞の生存率は、グルコース含有条件では88.64%、グルコース飢餓条件では87.99%、およびグルコース含有条件における4μMアルクチゲニン存在下では88.00%であったのに対し、グルコース飢餓条件での4μMアルクチゲニン存在下では30.38%であった。一方で、グルコース含有条件における4μMゲムシタビン存在下では53.74%であり、グルコース飢餓条件で4μMゲムシタビン存在下では72.69%であった。
【0113】
また、癌幹細胞マーカー染色の結果、膵臓癌幹細胞を指し示すCD44+ESA+CD24+細胞の割合(生存数)は、全細胞中で分析すると、グルコース含有条件では10.31%(928個)、グルコース飢餓条件では14.41%(1297個)、およびグルコース含有条件における4μMアルクチゲニン存在下では11.63%(1047個)であったのに対し、グルコース飢餓条件での4μMアルクチゲニン存在下では1.61%(145個)であり、一方で、グルコース含有条件における4μMゲムシタビン存在下では9.28%(835個)であり、グルコース飢餓条件での4μMゲムシタビン存在下では9.96(896個)であった。
【0114】
一方で、生存細胞中で分析すると、グルコース含有条件では11.63%、グルコース飢餓条件では16.38%、およびグルコース含有条件における4μMアルクチゲニン存在下では13.22%であったのに対し、グルコース阻害条件での4μMアルクチゲニン存在下では5.30%であった。一方で、グルコース含有条件におけるゲムシタビン存在下では17.26%、グルコース飢餓条件での4μMゲムシタビン存在下では13.70%であり、アルクチゲニンはゲムシタビンで殺傷することが困難なCD44+ESA+CD24+陽性膵臓癌幹細胞を殺傷する効果を有することが示された。
【0115】
(試験例5:マウス移植膵臓癌の膵臓癌幹細胞の評価)
マウス皮下移植膵臓癌モデルに対する、ゲムシタビンまたは実施例9のゴボウシ抽出物を投与治療後の腫瘍組織内癌細胞の比率を評価した。
【0116】
(試験方法および結果)
5X106/200μlの膵臓癌細胞株Miapaca-2を、BALB/cAJcl nu/nuマウス(日本クレア)の皮下に注入し、約2週間程度飼育した。125mm2程度に腫瘍が増大したマウスを選択した。マウスを未治療群または実施例9のゴボウシ抽出物250mg/kgを連日経口投与する群または100mg/kgのゲムシタビン(イーライリリー)を隔日投与する群の3群に分けた。3週間治療を継続した。治療後のマウス皮下から腫瘍を回収し、細断後、Liberase (商標)(Roche) 13U/mlを加えた。次いで、37℃で20分間インキュベートし単細胞化した。Red blood lysis buffer(sigma)で赤血球を除去後、FACSバッファーに懸濁した。細胞数を調整後、定法に従って死細胞をSytoxRed dead cell stain (invitrogen)で除去し、また腫瘍に浸潤しているマウス由来の細胞を、Mouse H-2Kd, Mouse CD31, Mouse lineage Cocktail (biolegend, 133306, 102422, 116616)で除去後、FcRブロッキング(militenyi)を行い、それぞれのIsotype Control Ig(biolegend)を併用して、膵臓癌幹細胞マーカーCD24, CD44, ESA(CD326)で膵臓癌幹細胞を染色した。次いで、フローサイトメーターで癌幹細胞の比率を評価した。
【0117】
SytoxRed染色および癌幹細胞マーカーの染色結果を図6に示す。各治療後の膵臓癌腫瘍内に存在する癌幹細胞数は、未治療では全分析ヒト膵臓癌細胞中(括弧内はヒト膵臓癌細胞中の全生存細胞中)の0.59%(0.89%)、ゲムシタビン治療後では0.93%(1.17%)、ゴボウシ抽出物治療後では0.14%(0.26%)であった。 これらの結果より、アルクチゲニンは、実際の腫瘍の中でも、ゲムシタビンで殺傷することが困難なCD44+ESA+CD24+陽性の膵臓癌幹細胞様集団を減少させる効果を有することが示された。
【0118】
試験例1、2、3、4および5の結果から、アルクチゲニンは、体内において癌細胞が置かれている環境に近い栄養飢餓条件において、癌細胞を供給し腫瘍組織を再構築する能力を有する癌幹細胞に作用してこれを殺傷する効果を有することが強く示唆された。
【0119】
〔ゴボウシからのアルクチゲニン抽出〕
本発明者らは、簡便かつ安全にアルクチゲニンを得るために、ゴボウシからアルクチゲニンを高含量で含有するゴボウシ抽出物を得ることを試みた。しかし、通常、ゴボウシ中のアルクチゲニン含量は約0.6%と低い。また、水に溶け難い。このため、従来利用されている熱水抽出法では、アルクチゲニンを高含量で含有するゴボウシ抽出物を製造することがきわめて困難であった。
【0120】
また、癌治療などに使用するにあたり、有効成分であるアルクチゲニンが一定の含有量となるゴボウシ抽出物の提供が望まれているが、上記のとおり、アルクチゲニン高含有ゴボウシ抽出物の製造において、アルクチインをアルクチゲニンに変換し、水に溶け難いアルクチゲニンを一定の含有量となるように制御することは困難であった。
【0121】
さらに、癌治療などに使用するにあたり、アルクチゲニンが主要な有効成分であるとともに、アルクチゲニンおよびアルクチインを一定含量で含むゴボウシ抽出物は、特に抗癌効果が優れていることが分かってきている。このため、アルクチゲニン高含有ゴボウシ抽出物の製造において、アルクチゲニンおよびアルクチインを一定の含有量となるように制御することができる製造方法が望まれる。
【0122】
本発明者らは、以下に示すように、原料とするゴボウシ内在のβ−グルコシダーゼ酵素活性、ゴボウシを切裁する粒径、アルクチインをアルクチゲニンに酵素変換する際の温度およびゴボウシからアルクチゲニンおよびアルクチインを抽出する際の温度を調整することにより、アルクチゲニンを一定の含有量とする技術、並びにアルクチゲニンおよびアルクチインの含有比を調節する技術を見出した。
【0123】
ゴボウシの酵素活性および酵素変換条件(温度と時間)が、アルクチゲニン含有量およびアルクチゲニン/アルクチイン(重量比)に及ぼす影響、すなわち両者の因果関係を検証した。
【0124】
(酵素活性の測定)
産地やロットが異なるゴボウシをウイレー氏粉砕機により粉砕し、このゴボウシ粉砕品0.1gを10mLの水で希釈し、試料溶液とした。
【0125】
基質溶液として、p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド0.15gに水を加えて25mLに定容し、20mmol/L p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド水溶液を調製した。0.1mol/L酢酸緩衝液1mLに20mmol/L p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド水溶液0.5mLを加えて、反応混液を調製し、37℃で約5分予備加熱を行った。
【0126】
反応混液に試料溶液0.5mL加えて37℃で15分反応させた後、反応停止液である0.2mol/L炭酸ナトリウム水溶液を2mL加えて反応を停止させた。この液の400nmにおける吸光度を測定し、酵素反応を行わないブランク溶液からの変化量から下式により酵素活性を求めた。
【0127】
酵素活性(U/g)=(試料溶液の吸光度-ブランク溶液の吸光度)×4mL×1/18.1(p-ニトロフェノールの上記測定条件下でのミリモル分子吸光係数:cm2/μmol)×1/光路長(cm)×1/反応時間(分)×1/0.5mL×1/試料溶液濃度(g/mL)
表1に示すように各ゴボウシの酵素活性が0.12〜8.23U/gであることを確認した。
【0128】
(試験例6)
酵素活性が0.12、0.27、0.40U/g(試料1〜3)である切裁したゴボウシ1gに水7mLを加えて、酵素反応温度15℃、20℃の温度条件でそれぞれの反応温度での反応時間を30分に設定し、反応後エタノールを加え80℃で抽出を行い、得られた抽出物のアルクチゲニン及びアルクチインを定量し、アルクチゲニン/アルクチイン重量比を求めた。
結果を表1の比較例1〜2、実施例1に示す。
【0129】
酵素活性が0.40U/gの試料3は、酵素反応温度20℃、反応時間30分で、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.82のゴボウシ抽出物が得られた。
【0130】
一方、酵素反応温度15℃、反応時間30分では、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.69であり、酵素反応温度は20℃以上であることが好ましい。
【0131】
また、酵素活性が0.40U/g未満の試料1及び2は、酵素反応温度20℃であってもアルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.70以上を満たすことができないことから、ゴボウシの酵素活性は0.40U/g以上であることが好ましい。
【0132】
(試験例7)
酵素活性が4.03U/g(試料5)である切裁したゴボウシ1gに水7mLを加えて、酵素反応温度30℃、40℃、50℃、60℃の温度条件でそれぞれの反応温度での反応時間を15分、30分(30℃と60℃のみ)に設定し、反応後エタノールで抽出を行い、得られた抽出物のアルクチゲニン及びアルクチインを定量し、アルクチゲニン/アルクチイン重量比を求めた。
【0133】
結果を表1の実施例3に示す。酵素反応温度30℃、反応時間15分で、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.7、酵素反応温度30℃、反応時間30分で、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=1.0、酵素反応温度40℃、反応時間15分で、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=1.2、酵素反応温度50℃、反応時間15分で、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=1.2のゴボウシ抽出物が得られた。
【0134】
一方、酵素反応温度60℃、反応時間15分では、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.4、酵素反応温度60℃、反応時間30分では、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.5であった。
以上のことから、酵素反応温度は60℃未満が好ましい。
【0135】
(試験例8)
酵素活性が1.42U/g(試料4)である切裁したゴボウシ1gに水を7mL加えて、酵素反応温度25℃の温度条件で反応時間を10分、30分に設定し、反応後エタノールで抽出を行い、得られた抽出物のアルクチゲニン及びアルクチインを定量し、アルクチゲニン/アルクチイン重量比を求めた。
【0136】
結果を表1の実施例2に示す。酵素反応温度25℃、反応時間10分で、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.74、同じく反応時間30分でアルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.85のゴボウシ抽出物が得られた。
以上のことから酵素活性1.42U/gであっても所望の結果を得ることができた。
【0137】
(試験例9)
酵素活性が7.82U/g(試料6)および8.23U/g(試料7)である切裁したゴボウシ1gそれぞれに水を7mL加えて、酵素反応温度30℃の温度条件で反応時間を30分に設定し、反応後エタノールで抽出を行い、得られた抽出物のアルクチゲニン及びアルクチインを定量し、アルクチゲニン/アルクチイン重量比を求めた。
【0138】
結果を表1の実施例4および5に示す。試料6ではアルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.93のゴボウシ抽出物(実施例4)、試料7ではアルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.89(実施例5)のゴボウシ抽出物が得られた。
【0139】
【表1】
【0140】
(実施例6 ゴボウシ抽出物の製造1)
ゴボウシ(酵素活性8.23U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを29〜33℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した。次いで、エタノール265Lを加えて85℃に昇温し、さらに60分間加熱還流した。この溶液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン20%を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.2%および7.1%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.89のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0141】
(実施例7 ゴボウシ抽出物の製造2)
ゴボウシ(酵素活性8.23U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30〜33℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した後、エタノール265Lを加えて85℃に昇温し、さらに30分間加熱還流した。この溶液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン20%を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.0%および6.8%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.87のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0142】
(実施例8 ゴボウシ抽出物の製造3)
ゴボウシ(酵素活性7.82U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30〜32℃に保温した水560Lに加えて40分間攪拌した後、60分後にエタノール258Lを加えて85℃に昇温し、さらに30分間加熱還流した。この液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン20%を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.2%および6.7%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.93のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0143】
(実施例9 ゴボウシ抽出物の製造4)
ゴボウシ(酵素活性7.82U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30〜32℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した後、エタノール253Lを加えて85℃に昇温し、さらに40分間加熱還流した。この液を遠心分離し、得られた抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン25%を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.4%および7.2%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.89のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン25%含有)が得られた。
【0144】
【表2】
【0145】
上記の実施例6〜9の結果から、酵素変換工程において、およそ30℃において酵素変換することにより、アルクチゲニン:アルクチイン(重量比)が約1:1となり、アルクチゲニン含有量の高いゴボウシ抽出物が得られることがわかった。通常、酵素による反応は、温度および時間に依存的に反応が進行するが、この温度であれば酵素変換時間にかかわらず、アルクチゲニン含有量の高いゴボウシ抽出物が得られることが分かった。
【0146】
また、上記の実施例6〜9の結果から、加熱還流工程において、およそ85℃に温度を上昇させて加熱還流することにより、アルクチゲニン:アルクチイン(重量比)が約1:1となり、アルクチゲニン含有量の高いゴボウシ抽出物が得られることが分かった。通常、加熱還流して抽出物を得る場合、抽出物中の含有物の量は、温度および時間に依存して変化するが、この温度であれば加熱還流時間にかかわらず、アルクチゲニン含有量の高いゴボウシ抽出物が得られることが分かった。
【0147】
(実施例10 ゴボウシ抽出物粉末配合顆粒剤)
(1)実施例7のゴボウシ抽出物粉末 33.3%
(2)乳糖 65.2%
(3)ヒドロキシプロピルセルロース 1.5%
合計 100%
【0148】
(製造方法)
「日局」製剤総則、顆粒剤の項に準じて顆粒剤を製造する。すなわち上表に記載の(1)〜(3)までの成分をとり、顆粒状に製した。これを1.5gずつアルミラミネートフィルムに充填し、1包あたりゴボウシ抽出物粉末を0.5g含有する顆粒剤を得た。
【0149】
(実施例11 ゴボウシ抽出物粉末配合顆粒剤)
(1)実施例7のゴボウシ抽出物粉末 66.7%
(2)乳糖 30.3%
(3)ヒドロキシプロピルセルロース 3.0%
合計 100%
【0150】
(製造方法)
「日局」製剤総則、顆粒剤の項に準じて顆粒剤を製造する。すなわち上表に記載の(1)〜(3)までの成分をとり、顆粒状に製した。これを3.0gずつアルミラミネートフィルムに充填し、1包あたりゴボウシ抽出物粉末を2g含有する顆粒剤を得た。
【0151】
(実施例12 ゴボウシ抽出物粉末配合錠剤)
(1)実施例7のゴボウシ抽出物粉末 37.0%
(2)結晶セルロース 45.1%
(3)カルメロースカルシウム 10.0%
(4)クロスポピドン 3.5%
(5)含水二酸化ケイ素 3.4%
(6)ステアリン酸マグネシウム 1.0%
合計 100%
【0152】
(製造方法)
「日局」製剤総則、錠剤の項に準じて錠剤を製造する。すなわち上表に記載の(1)〜(6)成分をとり、錠剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明は、抗癌幹細胞剤ならびに容器詰食品、たとえば病者用食品、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品およびサプリメントなどに利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]