(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5696321
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】押湯効率の高い押湯の形状及び鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22C 9/08 20060101AFI20150319BHJP
B22C 9/06 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
B22C9/08 C
B22C9/06 M
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-122829(P2014-122829)
(22)【出願日】2014年5月28日
【審査請求日】2014年5月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】309010896
【氏名又は名称】有限会社ファンドリーテック・コンサルティング
(72)【発明者】
【氏名】五家 政人
【審査官】
川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−059775(JP,A)
【文献】
米国特許第03602292(US,A)
【文献】
米国特許第03566952(US,A)
【文献】
スイス国特許発明第00241965(CH,A5)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造に用いる押湯の構造であって、堰の部分を除いた押湯の基本構造が、鋳型の見切面に平行な方向のX及びY方向の半径をそれぞれA及びBとし、見切面に直角な方向のZ(高さ)方向の半径をCとするとき、X2/A2+Y2/B2+Z2/C2=1で定義される楕円体であり、かつB=(0.8〜1.3)A及びC=(0.8〜1.3)Aであることを特徴とする押湯の構造。
【請求項2】
請求項1記載のX2/A2+Y2/B2+Z2/C2=1で定義される楕円体において、押湯の基本構造が、B=0.8A、C=0.8Aで示される楕円体Pと、B=1,3A、C=1.3Aで示される楕円体Qの間に構成される任意の構造であることを特徴とする押湯の構造。
【請求項3】
請求項1記載のX2/A2+Y2/B2+Z2/C2=1で定義される楕円体において、押湯の基本構造が、A=B=Cすなわち球状体であることを特徴とする押湯の構造。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載の押湯の構造を用いて溶湯を注湯するにあたり、注湯量を、全キャビティーの体積から注湯口である湯口カップの体積の1/2を差し引いた体積以下とすることによって、湯口カップの溶湯高さを低くすることで、押湯にかかる溶湯ヘッドを低くすることを特徴とする鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
鋳造に用いる押湯の形状であって、押湯効率の高い押湯の形状及び鋳造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳造においては、製品部の健全性を高めるため製品部の適宜の個所に押湯を設け、押湯から製品部の凝固収縮を補給することが行われており、一般的には製品部の上部に設ける揚り押湯や側面に設けるサイド押湯が用いられている。しかし、いずれの場合も、押湯が鋳込重量に占める割合は、通常20〜40%であり、その結果、製品部重量/鋳込重量で示される鋳造歩留りが低いという問題点がある。したがって、押湯の適正な形状、大きさの決定は鋳造コストを左右する鋳造歩留りを向上させるための重要な課題である。
【0003】
鋳造方法には、注湯方向と模型の見切面方向の関係で平込め鋳造と縦型鋳造がある。注湯方向と模型の見切面方向が直角な場合が平込め鋳造であり、平行な場合が縦型鋳造である。縦型鋳造においては、製品部と押湯の配置の関係から比較的自由な形状の押湯を用いることができるが、それでも効率の高い押湯形状は定まっていない。一方、平込め鋳造では、製品部と押湯の配置の自由度が小さいので、用いられる押湯の形状は後述するようにかなり制限されるため、効率の高い押湯形状がなく、鋳造歩留りを高めることができないという問題点がある。本発明は平込め鋳造にも縦型鋳造にも適用できる押湯効率の高い押湯の形状を提供するものであるが、特に平込め鋳造において高い効果をもたらすものである。
【0004】
従来から鋳造に用いられている押湯の基本形状は、ほとんどが直径D、高さHの円柱を基本形状(以下、円柱状と称す)とするもので、通常H=(1.5〜2)D程度の形状となっている。そして、この基本形状に、製品部と押湯の基本形状をつなぐ部分に相当する堰の部分(堰部ともいう)が設けられている。すなわち、押湯は基本形状と堰の部分から構成されている。本発明においても同様である。また、押湯には造型時の型上り性を考慮して適宜の抜け勾配及び角R、隅Rなどが付けられている。基本形状として円柱状が使われるのは、形状が簡単で模型製作が容易であること及び、製品部の高さに対応して適宜の高さを作り易いという理由からである。これが押湯形状の従来技術である。
【0005】
従来技術の事例を
図11及び
図12示す。
図11は、製品部4の上部に揚り押湯15を設けた鋳型の状態を示す。
図12は、製品4の側面にサイド押湯16を設けた鋳型の状態を示す。このように設けた押湯15及び16から堰の部分3を通して製品部4の凝固収縮を補給することで、製品部4の健全性を確保することが一般的に行われている。
【0006】
この円柱状の押湯の欠点は、押湯側面及び上下面の表面積が大きく、これが冷却面(放熱面)となり凝固の進行が速いことである。そのため、製品部に対して大きな体積の押湯となり、鋳込み重量に占める割合が20〜40%と大きくなり、結果として鋳造歩留りが低くなるのである。製品部の体積に対する押湯の比率で表すと、一般的に40〜100%である。
【0007】
押湯の効率は簡便には、体積/表面積で示される凝固モジュラスなる指標を用いて評価できる。すなわち凝固モジュラスが大きいものは凝固が遅く、製品部の凝固に対応して長時間、凝固収縮を補給することができる。従来用いられている円柱状の押湯の欠点はここにある。つまり、上述のように、円柱状の押湯は側面及び上下面の表面積が大きく、そのため体積が大きい割に凝固モジュラスが小さくなり、押湯の効率が低いのである。そのため、押湯の体積を大きくして、製品部の凝固モジュラスよりも大きな値を得るようにしていることが鋳造歩留りが低い原因となっている。
【0008】
従来技術について、特許文献をキーワード「鋳造×押湯」で検索した結果のうちから押湯を用いた主要な鋳造方案の例を下記に示す。
【特許文献1】特開2008−221285
【特許文献2】特開2007−111741
【特許文献3】特開2005−144461
【特許文献4】特開平10−221333
【特許文献5】特開平10−43836
【特許文献6】特開平9−314308
【特許文献7】特開平8−290254
【特許文献8】特開平8−93204
【特許文献9】特開平5−104195
【特許文献10】特開平5−69108
【0009】
上記のような従来技術の問題点を整理すると次のようになる。鋳造コストを左右する重要な指標である鋳造歩留りが低いひとつの理由は、鋳込重量の20〜40%を占める押湯の形状に、円柱を基本形状として用いていることである。これは凝固モジュラスが小さくなり、そのために大きな体積の押湯を用いることになり、鋳造歩留りの低迷をもたらしている。
【0010】
上記のような問題点に鑑み、本発明では、従来にない新規な押湯の形状を提供することを目的とする。これによって、鋳造歩留りが大幅に改善され、鋳物製品の大きなコストダウンが得られる。
【0011】
(手段1)
鋳造に用いる押湯の形状であって、押湯の堰の部分を除いた押湯の基本形状が、鋳型の見切面に平行な方向のX及びY方向の半径をそれぞれA及びBとし、見切面に直角な方向のZ(高さ)方向の半径をCとするとき、X
2/A
2+Y
2/B
2+Z
2/C
2=1で定義される楕円体であり、かつB=(0.8〜1.3)A及びC=(0.8〜1.3)Aであることを特徴とする押湯の形状である。本手段においても、従来技術同様、押湯は基本形状と堰の部分から構成されるものとする。
【0012】
本手段では、従来の基本の形状が円柱状の押湯に代わって、X
2/A
2+Y
2/B
2+Z
2/C
2=1で示される楕円体を基本の形状とする押湯を用いた。この形状式は、断面が楕円で与えられる形状全般を示したものである。特殊な場合として、A=Bのときは、Aを半径とする回転体で、高さがCの楕円体の押湯を与える。また、A=B=Cのときは、球状体の押湯を与える。
【0013】
押湯の基本形状としては、一般に用いられる円柱状の他にも種々の形状が考えられるが、球状体が最も表面積が小さく、すなわち放熱面が小さく、保温性が高い。しかし、製品部の形状、高さなどによっては、球状体では十分対応できない場合があるので、本手段ではB寸法及びC寸法を、B=(0.8〜1.3)A及びC=(0.8〜1.3)Aとした。この範囲であれば球状体に近い小さな表面積で、高い保温性が得られる。
【0014】
押湯の効率は、先に述べたように、一次的には凝固モジュラスで評価できるが、これをさらに単位体積当りの凝固モジュラスでみると、単位体積でどれだけの値の凝固モジュラスを得ることができるかがわかる。つまり、これが単位体積当たりの効率で見た真の押湯の効率である。
【0015】
そこで、従来技術の基本形状が円柱状の押湯と、本手段の楕円体形状の押湯の凝固モジュラス及び単位体積当りの凝固モジュラスを比較してみることにする。例えば、円柱状の押湯の最も一般的な形状として、直径をDとし、高さH=1.5Dの場合と、楕円体形状の押湯として、最小半径A=0.5D、B=1.2A=0.6D、C=1.2A=0.6Dの場合を例にとって比較してみることにする。
【0016】
まず、円柱状の押湯では、体積V1=π/4×D
2×1.5D=1.18D
3、表面積S1=2πD
2=6.28D
2であり、したがって、凝固モジュラスM1=体積/表面積=0.188Dとなり、単位体積当りの凝固モジュラスK1=凝固モジュラスM1/体積=1/表面積=1/2πD
2=0.159/D
2となる。
【0017】
次に基本形状が楕円体の押湯では、体積V2=4/3×πABC=4/3×π×0.5D×0.6D×0.6D=0.754D
3、表面積は複雑な計算になるが、表面積S2=4π[(A
PB
P+A
PC
P+B
PC
P)/3]
1/Pである。ここで概略計算としてP=1.6としても誤差は1%程度であることがわかっているので、この値を使って計算すると、表面積S2=4.03D
2となる。
したがって、凝固モジュラスM2=体積/表面積=0.187D、単位体積当りの凝固モジュラスK2=凝固モジュラスM2/体積=1/表面積=0.248/D
2となる。
【0018】
ここで従来技術の円柱状の押湯と、本手段の楕円体形状の押湯の凝固モジュラス及び単位体積当りの凝固モジュラスを比較してみると、V2/V1=0.754/1.18=0.64、M2/M1=0.187/0.188=1.00、K2/K1=0.248/0.159=1.56となる。本手段の楕円体形状の押湯を用いることで、円柱状の押湯に比べ、凝固モジュラスは同じ、つまり押湯としての保温性、すなわち押湯効果は同等で、体積を従来技術の円柱状の押湯に比べ約36%削減できることがわかる。つまり、従来技術の円柱状の押湯に比べ、これだけ小さい押湯で同等以上の保温性を有する押湯を得ることができるのである。
また、最小半径A=0.5D、B=1.3A=0.65D、C=1.3A=0.65Dの場合、削減率は25%程度となり低下するので、これを限度として規定した。具体的には実施例1において説明する。
【0019】
このように、本発明の楕円体形状の押湯の保温性は、従来技術の押湯の形状に比べて極めて優れていることがわかる。これによって、製品部に対応する適正な体積の凝固モジュラスを有する楕円体形状の押湯を用いることで、従来の押湯に比べ小さな体積の押湯で十分な押湯効果を得ることができる。したがって、問題であった鋳造歩留りを大幅に改善することができる。
【0020】
ここで、本発明における「押湯の基本形状」について説明する。一般に使われている円柱状の押湯であれ、いかなる種類の形状の押湯であっても、その基本の形状がそのまま使われることはない。通常は、基本の形状に鋳造模型として使い易いように適宜の形状の修整変形が施されて用いられている。例えば、造型の型抜き性のために適宜の抜け勾配、角R、隅Rなどを付す、押湯頂部の引け誘発のために押湯頂部に円錐穴やV溝などを設けるあるいはウィリアムスコアを設ける、又は製品部との関係から押湯形状の一部を削る、余肉を付けるなどである。場合によっては、押湯の基本形状の上に高さすなわち溶湯ヘッド(溶湯圧)を付与するために押湯直径よりも小さい直径の棒状の部分を追加して設けることもある。しかし、基本の押湯の形状はその形から明らかである。したがって、本発明における押湯の基本形状も、このような適宜の修整変形を施して用いられるものである。
【0021】
(手段2)
手段1記載のX
2/A
2+Y
2/B
2+Z
2/C
2=1で定義される楕円体において、押湯の基本形状が、B=0.8A、C=0.8Aで示される楕円体Pと、B=1.3A、C=1.3Aで示される楕円体Qの間に構成される任意の形状であることを特徴とする押湯の形状である。
【0022】
手段1では、押湯の形状を楕円体として規定したが、実際の鋳造においては、製品部の形状、高さが種々異なっている場合や、または複数の製品部に1個の押湯を用いるなどの場合が多いので、現実的にはそれらの条件に対応した押湯の形状として用いる必要がある。そこで本手段では、手段1に示した楕円体の保温効果を保ちながら、形状をある範囲内で修整変形させて用いるようにしたものである。
【0023】
すなわち、楕円体としての保温効果が確保できる許容範囲として、押湯の形状が、B=0.8A、C=0.8Aで示される楕円体Pと、B=1.3A、C=1.3Aで示される楕円体Qとの間に構成される任意の押湯の形状とした。これによって、楕円体に近い保温効果を保ちながら、現実の種々の鋳造条件に適用できる押湯効率の高い押湯の形状を提供することができる。詳細は実施例2において説明する。
【0024】
(手段3)
手段1記載のX
2/A
2+Y
2/B
2+Z
2/C
2=1で定義される楕円体において、押湯の基本形状が、ほぼA=B=Cすなわち球状体であることを特徴とする押湯の形状である。
【0025】
これは既述のごとく、楕円体のひとつの特殊な形状であって、これが最も表面積が小さく、単位体積当りの凝固モジュラスが大きくなり、保温効果が最大である。ただし、押湯の高さが制限されるので、製品部の形状、高さによっては適用が限定される場合もある。
【0026】
ここで、ほぼA=B=Cの球状体としたのは、実際に球状体を押湯として用いるにあたり、押湯の見切面位置の変更や、抜け勾配の付け方などの面から多少の修整変形を必要とする場合があるからである。
【0027】
(手段4)
手段1乃至3記載の押湯の形状を用いて溶湯を注湯するにあたり、注湯量を、全キャビティーの体積から注湯口である湯口カップの体積の1/2を差し引いた体積以下とすることを特徴とする鋳造方法である。
【0028】
本手段は、実際に本発明の押湯を用いるにあたり、さらに溶湯削減が可能な方法を提供するものである。すなわち、従来の円柱状の押湯の高さH=(1.5〜2)Dに比べて、本発明の押湯では、手段1及び2で説明したように押湯高さCを、押湯半径Aに対して、高さC=(0.8〜1.3)Aと低く目にしたので、注湯するにあたり、注湯量を減らして、注湯口である湯口カップと湯口棒によって付与される溶湯ヘッドを低くした方が押湯頂部の引け誘発に効果的であることがわかった。
【0029】
これは、押湯が低くなったことで、高い溶湯ヘッドが押湯にかかると、押湯頂部が鋳型キャビティーに強く密着して凝固が促進されるため、押湯頂部の引け誘発が阻害され、その結果、押湯効果が低下すると推定される。したがって、注湯後に湯口カップの上面の溶湯高さを湯口カップの体積の1/2以下にすることで低くし、押湯にかかる溶湯ヘッドを低くすることが本発明の押湯には有効である。勿論、注湯量の減量の上限値は、製品部の高さから決められる。すなわち、湯口カップの上面の溶湯高さが製品部の高さを下回らないようにすることは当然である。
【0030】
手段1乃至3では、楕円体を基本とする保温性の高い押湯の形状、すなわち小さい体積で押湯効果の大きな押湯の形状を提供した。また、手段4では、さらに押湯効果を高めながら溶湯削減が可能な方法として注湯量を減量する方法を提案した。これらによって、従来技術の問題点であった鋳造歩留りを大幅に向上することができるようになった。この結果、押湯に必要な溶湯を大きく削減することができ、溶解のための消費電力及び溶湯処理費等を大幅に削減できるようになった。またCO
2削減にも大きく貢献するものである。
【0031】
以下に本発明を詳細に説明するが、これら実施例によって本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
図1〜
図4に手段1を用いた実施例1を示す。本例では、堰の部分を除いた押湯の基本形状が、鋳型の見切面に平行な方向のX及びY方向の半径をそれぞれA及びBとし、見切面に直角な方向のZ(高さ)方向に相当する半径をCとするとき、X
2/A
2+Y
2/B
2+Z
2/C
2=1で定義される楕円体であり、かつB=(0.8〜1.3)A及びC=(0.8〜1.3)Aであることを特徴とする押湯の形状について具体的に説明する。
【0033】
図1は、最小半径をA=4cmとして、B=1.3A=5.2cm、C=1.3A=5.2cmの場合の楕円体の押湯1の形状の立体透視図を示したものである。押湯の左側に製品部があり、押湯の基本形状1と製品部4をつなぐ堰の部分3が設けられるが、本図には示していない。これについては
図4に示す。堰の部分3の形状は製品部4と押湯の基本形状1をつなぐ適宜の形状とするが、この部分の凝固モジュラスは押湯から製品部に十分な溶湯補給ができるように決定される。一般的な製品部と堰部と押湯の基本形状の凝固モジュラスの比は、1:0.5:1〜1.2程度が適していると言われているが、実用的には製品部の形状、高さなどの諸条件を考慮して決められる。
【0034】
楕円体の押湯の基本形状1の形状において、鋳型の上下型の想定される見切面2は本図では高さ方向の中心としているが、製品部の形状、高さなどに応じて見切面の位置を上下に調整して用いるのが実用的である。その時に、造型時の型抜けのために必要であれば適宜の抜け勾配を付すようにする。また、製品部との関係で押湯の形状を適宜に修整変形することは差し支えない。具体的な方法は後述の実施例3の
図8に示す。
【0035】
このような楕円体の押湯形状と比較のために、従来技術の円柱状の押湯の形状を、直径8cm、高さ12cmとして計算してみる。従来技術の押湯形状では、体積V1=604cm
3、表面積S1=402cm
2、凝固モジュラスM1=604/402=1.50cm、単位体積当たりの凝固モジュラスK1=2.48×10
−3(cm/cm
3)となる。
【0036】
楕円体の押湯の形状では、A=4cm、B=1.3A=5.2cm、C=1.3A=5.2cmを用いて、体積V2=453cm
3、表面積S2=287cm
2、凝固モジュラスM2=453/287=1.58cm、単位体積当たりの凝固モジュラスK2=3.48×10
−3(cm/cm
3)となる。したがって、楕円体の押湯形状と円柱状の押湯形状をその比で比較すると、体積比V2/V1=453/604=0.75、凝固モジュラス比M2/M1=1.05、単位体積当たりの凝固モジュラスの比K2/K1=1.40となる。
【0037】
つまり、楕円体の押湯の形状では、円柱状の押湯の形状に比べ凝固モジュラスはほぼ同等で、押湯体積は約25%削減される。また単位体積当たりの凝固モジュラスでみると、その比は1.4倍になっており、楕円体の押湯の形状が単位体積当たりの押湯効率ではるかに優れていることがわかる。このことによって、楕円体の押湯の形状を用いることで、従来技術の円柱状の押湯の形状に比べ、小さい体積で同等またはそれ以上の押湯効果を得ることができた。この結果、大幅な鋳造歩留りの向上が達成された。
【0038】
また、B=1.2A、C=1.2Aの場合についても計算結果を示すと、楕円体の押湯形状と円柱状の押湯形状をその比は、体積比V2/V1=386/604=0.64、凝固モジュラス比M2/M1=1.0、単位体積当たりの凝固モジュラスの比K2/K1=1.56となる。つまり、この場合には、楕円体の押湯の形状では、円柱状の押湯の形状に比べ凝固モジュラスは同等で、押湯体積は約36%削減される。また単位体積当たりの凝固モジュラスでみると、その比は1.56倍になっており、楕円体の押湯の形状が単位体積当たりの押湯効率ではるかに優れていることが理解できる。この結果は、楕円体の形状が球状体、すなわちA=B=Cに近づけば近づくほど、押湯効率が高くなることを意味している。つまり、球状体が押湯効率が最大であることがわかる。いずれの形状を採用するかは、製品部の形状、高さなどを考慮して決める。
【0039】
図2は、A=4.0(1.0)、B=5.2(1.3)、C=3.2(0.8)の場合の図である。また、
図3は、A=4.0(1.0)、B=3.2(0.8)、C=3.2(0.8)の場合の図であり、
図4は、A=4.0(1.0)、B=4.0(1.0)、C=5.2(1.3)の場合の図である。このように、A、B、Cを適宜変化させることで任意の形状の楕円体形状の押湯をつくることができる。また、
図4には、堰の部分3、製品部4も表示しており、これが実際の押湯の用い方である。
図1〜3の基本形状もこれと同じ構成で用いる。なお、本実施例では、サイド押湯として用いたが、揚り押湯においても同様に用いることができる。
【実施例2】
【0040】
次に、手段2を用いた押湯の基本形状について説明する。計算の比較対象は同じく従来技術の円柱状の押湯の形状を直径8cm、高さ12cmとした。これに対して、A、B、Cの寸法比を種々変えた時の楕円体形状の押湯の形状基本の特徴を円柱状の押湯と比較した結果を
図5に示した。添字1が従来技術の円柱状押湯、添字2が本発明名の楕円体押湯を示す。この計算では、凝固モジュラス比M2/M1がほぼ1.0になるようにA、B、Cの寸法を変化させている。
【0041】
この図からわかるように、BをB=(0.8〜1.3)Aの範囲で、CをC=(0.8〜1.3)Aの範囲で変化させても、適宜の大きさのA、B、Cの寸法を選定すれば、従来の円柱状の押湯形状に対して、約33〜39%の押湯の削減が得られることがわかる。つまり、このA、B、Cの寸法比の範囲の任意の形状の押湯の形状であれば大きな押湯の削減が達成できるのである。したがって、A、B=0.8A、C=0.8Aで表示される楕円体P(5)と、A、B=1.3A、C=1.3Aで表示される楕円体Q(6)の間の任意の形状の押湯はP、Qとほぼ同等保温性で、同様に大きな押湯の削減が得られることになる。つまり、押湯効率が高い押湯の形状である。この楕円体P(5)と楕円体Q(6)の形状を
図6に示す。この2つの楕円体P、Qの間に形成される任意形状の押湯の基本形状は、種々の製品部の形状や、方案配置などに対応して適切な押湯の形状を用いることができることを意味しており、手段1よりも実用性が高い押湯の形状である。
【実施例3】
【0042】
図7に手段3を用いた実施例3を示す。本例では、手段1記載の楕円体において、押湯の形状が、A=B=Cすなわち球状体である押湯の形状について説明する。本例は、X
2/A
2+Y
2/B
2+Z
2/C
2で定義される楕円体の最も特殊な形状であって、球状体を意味する。
【0043】
この場合についても、A=B=C=4.5cmとして実施例1と同様な計算をして、従来技術の円柱状の押湯の形状との比較値を示すと次のようになる。体積V2=381cm
3、表面積S2=254cm
2、凝固モジュラスM2=381/254=1.50cm、単位体積当たりの凝固モジュラスK2=3.94×10
−3(cm/cm
3)となる。したがって、楕円体の押湯形状と円柱状の押湯形状をその比で比較すると、体積比V2/V1=381/604=0.63、凝固モジュラス比M2/M1=1.0、単位体積当たりの凝固モジュラスの比K2/K1=1.60となる。
【0044】
つまり、球状体の押湯の基本形状では、円柱状の押湯の形状に比べ凝固モジュラスはほぼ同等で、押湯体積は約37%削減される。また単位体積当たりの凝固モジュラスでみると、その比は1.6倍になっており、楕円体の押湯の形状が単位体積当たりの押湯効率ではるかに優れていることが理解できる。このことによって、球状体の押湯の形状を用いることで、従来技術の円柱状の押湯の形状に比べ、小さい体積で同等またはそれ以上の押湯効果を得ることができた。この結果、大幅な鋳造歩留りの向上が達成された。
【0045】
なお、上記計算はA=B=Cとして、完全な球体状の押湯の形状の場合の計算を示したが、実際の適用の場合には、形状が完全な球体状からある程度調整されたものでも押湯の効果は同じであるので、この範囲でほぼ球状体であればよいものとする。また、押湯の模型での見切面は、球状体の中心とする必要はなく、適宜上下させてよい。通常は、見切面を下方にして、上型を高く、下型を低くする方が溶湯ヘッドを高める上で有利である。
【0046】
図8は
図7のYZ平面の断面図を示す。本図では、球状体の押湯1を実用的に用いる例として、鋳型の見切面2の位置を球状体の高さ方向の中心線7より下方に下げている。そして、適宜の抜け勾配8を付けている。また、押湯頂部9には押湯の引けを誘発するためのV溝10が設けられている。このように、本発明の押湯の基本形状は適宜の修整を加えて用いられるのが通常である。また、押湯高さが不足の場合には、適宜の大きさの円柱を押湯の基本形状の上部に設けることもある。これは、従来技術の円柱状の押湯においても全く同様なことである。
【実施例4】
【0047】
図9及び
図10に手段4を用いた実施例4を示す。本例では、手段1乃至3記載の押湯の形状を用いて溶湯を注湯するにあたり、注湯量を、全キャビティーの体積から注湯口である湯口カップの体積の1/2を差し引いた体積以下とすることを特徴とする鋳造方法について説明する。
【0048】
図9は、従来技術において用いられている円柱状の押湯を用いて、全キャビティーが製品部4、堰部3、押湯1、湯道11、湯口棒12、湯口カップ13から構成された鋳型に、通常通り溶湯14を注湯した状態を示す。この場合には、溶湯はほぼ湯口カップの上面まで注湯されている。この場合、製品部4及び押湯の基本形状1に作用する溶湯ヘッドはおよそH1で示される。
図10は本発明の球状体の押湯1を用いて、溶湯14を削減して注湯した状態を示す。この注湯量は、全キャビティーの体積から注湯口である湯口カップの体積の1/2を差し引いた体積以下としている。この場合、製品部14及び押湯の基本形状に作用する溶湯ヘッドはおよそH2で示され、H2はH1より小さくなっている。
【0049】
従来の押湯では円柱状の押湯で、高さHは直径の1.5〜2倍と高く設定されていたので、湯口カップ13の溶湯の上面は押湯より低くならないようにすること、及び押湯に十分な溶湯ヘッドを効かせることを基本的な考え方として、注湯量は湯口カップをほぼ充満するように注湯されていた。一方、本手段の溶湯では、押湯高さは、直径の0.8〜1.3倍と低くなったので、湯口カップを満たす高さを低くして押湯にかかる溶湯ヘッド低くして、押湯頂部の引けを誘発し、大気圧を十分効かせるようにしている。これは、あまり高い溶湯ヘッドでは押湯頂部9が鋳型に強く押し付けられて密着し、熱伝達が促進されて凝固が速くなり、その結果、押湯頂部の引け誘発が阻害されてかえって押湯効果が低下することがわかったためである。
【0050】
したがって、この溶湯ヘッドをある一定値以下に保った方がよいのである。これが本発明のひとつの特徴である。その目安が、全キャビティーの体積から注湯口である湯口カップの体積の1/2を差し引いた体積以下とする値である。勿論、減量する体積の上限値は、当然、製品部の高さ、押湯の形状高さでおのずから決定される。
【0051】
このように、本発明の押湯を用いるときは、注湯量を削減して注湯することができ、押湯の形状による溶湯削減に加えて湯口カップ部の溶湯削減も可能になり、大きな溶湯削減が達成された。
【0052】
以上説明した通り、本発明は、従来技術の円柱状の押湯形状に対して、新規な楕円体を基本とする押湯の形状を提供することで、従来技術の円柱状の押湯形状と凝固モジュラス、すなわち押湯としての保温性を同等にしながら、大幅な溶湯削減が可能になり、鋳造歩留りの大きな向上が得られた。その結果、鋳造業界で緊急の問題となっている電力削減に多いに貢献することができた。
【図面の簡単な説明】
【
図1】 本発明の実施例1を示す立体透視図である。
【
図2】 本発明の実施例1を示す別の立体透視図である。
【
図3】 本発明の実施例1を示す別の立体透視図である。
【
図4】 本発明の実施例1を示す別の立体透視図である。
【
図5】 本発明の実施例2の効果を示す計算結果である。
【
図6】 本発明の実施例2を示す立体透視図である。
【
図7】 本発明の実施例3を示す立体透視図である。
【
図9】 本発明の実施例4に対比する従来技術の実施例を示す図である。
【
図11】 従来技術の揚り押湯の一例を示す図である。
【
図12】 従来技術のサイド押湯の一例を示す図である。
【符号の説明】
1 押湯の基本形状 2 見切面 3 堰の部分 4 製品部
5 楕円体P 6 楕円体Q 7 球状体の高さ方向の中心線 8 抜け勾配
9 押湯頂部 10 V溝 11 湯道 12 湯口棒 13 湯口カップ
14 溶湯 15 揚り押湯 16 サイド押湯
【要約】
【課題】従来の円柱を基本とする押湯に比べ押湯効率の高い押湯の形状を提供する。
【解決手段】楕円体で定義される形状を基本とする押湯形状とする。
【選択図】
図4