【実施例】
【0040】
以下、試験例により本発明を更に詳細に説明する。
実施例1:検査用組成物
浸透圧調整剤、ヨード化合物、及び消化管機能促進剤を含む液状のCTコロノグラフィ検査用組成物を以下のよう調製する。
塩化ナトリウム2.93g、塩化カリウム1.49g、炭酸水素ナトリウム3.37g、無水硫酸ナトリウム11.37g、ポリエチレングリコール118g、アミドトリゾ酸
59.74g、水酸化ナトリウム629mg、メグルミン15.92g、エデト酸カルシウムニナトリウム10mg、サッカリンナトリウム200mg、クエン酸モサプリド20mg及びオレンジ香料を水に溶解して2Lとし液状のCTコロノグラフィ検査用組成物を調製する。
【0041】
実施例2:消化管造影剤調製用キット
塩化ナトリウム2.93g、塩化カリウム1.49g、炭酸水素ナトリウム3.37g、無水硫酸ナトリウム11.37g及びポリエチレングリコール118gの各粉末を混合し混合末とする。
【0042】
他方、クエン酸モサプリド100mg、アミドトリゾ酸59.74g、水酸化ナトリウム629mg、メグルミン15.92g、エデト酸カルシウムニナトリウム10mg、サッカリンナトリウム200mg、及びオレンジ香料を水に溶解して100mLのアミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン及びクエン酸モサプリド配合液を調製する。
【0043】
400mLの水溶液が収容できる内容積を有する酸素及び炭酸ガス難透過性のプラスチック容器本体に前記混合末27.43gを充填し、容器本体のキャップ部に設けられた小室に前記アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン液20mLを充填し破断可能なフィルムで密封する。この多室プラスチック容器には、本発明の消化管造影用の粉末成分と液状成分が分離収容されており、また水を充填できる充填口が具備されている。用時に充填口から所定量の水を充填し粉末成分を溶解した後、キャップ部を押圧することによりアミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン液が充填された密封フィルムを破断しアミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン及びクエン酸モサプリド配合液と粉末成分の溶解液が容器内で混合できるよう構成されている。
【0044】
実施例3:検査用組成物
クエン酸マグネシウム75.6g、クエン酸モサプリド40mg、塩化ナトリウム2.93g、塩化カリウム1.49g、炭酸水素ナトリウム3.37g、無水硫酸ナトリウム11.37g、アミドトリゾ酸59.74g、水酸化ナトリウム629mg、メグルミン15.92g、エデト酸カルシウムニナトリウム10mg、サッカリンナトリウム200mg、及びオレンジ香料を水に溶解し2Lとした。この溶液を4500mLの内容積を有する酸素及び炭酸ガス難透過性のプラスチック容器に充填密封し加熱殺菌する。
【0045】
実施例4:消泡性組成物
消泡性組成物としては、ジメチルポリシロキサン80mgを含有する市販の消化管内ガス駆除剤「ガスコン
(R)錠」(キッセイ薬品工業製)を用意した。
【0046】
試験例1:消化管機能促進剤による各大腸区分の液状残渣(%)の減少
(1)消化管運動機能改善剤を服用しない対照例のCTコロノグラフィ検査
CTコロノグラフィ検査において、消化管運動機能改善剤が大腸内全域にわたり液状残渣の減少効果を有するか調べた。イレウス症状のない67歳から81歳の大腸がん検査が必要な高齢者7名について、経口腸管洗浄剤(商品名「ニフレック」味の素ファルマ社製)137.16gを水に溶解して2Lとして、そのうち1600mLを約3時間かけて経口投与した後、水溶性ヨード造影剤(商品名「ガストログラフィン」シェーリング社製)を内服する。続いて経口腸管洗浄剤400mLを服用したら、最後にさらに水溶性ヨード造影剤を服用した。
なお、水溶性ヨード造影剤と腸管洗浄剤の双方を配合した400mlの調製液を服用しても良いが、調製液中のヨード含有量は15mg/ml以上となるように調製するのが良い。
腸管洗浄剤及び水溶性ヨード造影剤すべてを服用してから、排泄液が透明になった時点
でMDCT撮影を行なった。MDCTはマルチスライスCT装置(東芝メディカルズ社製)を使用した。3次元画像処理ソフトウエアーを用いて、3次元画像処理を行ない、経肛門的に炭酸ガス注入し撮像したデータから、ガス像と、ヨード造影像双方を構築し、両画像データを合成した。また、2次元像としてアキシャル像(
図1)とサジタル像(
図2)を構築し液状残渣領域を計測した。
液状残渣領域の測定は、大腸を盲腸・上行結腸(AC)、横行結腸(T)、下行結腸(D)、S状結腸(S)、直腸(R)の5つの区分に分類して行った。このうち、TとSではアキシャル像(
図1)で、それぞれの区分の面積が一番大きく表示される1スライスを選択し、ガスの領域および液状残渣部分の面積(mm
2)を計測した。計測には2D計測ツールの多角形計測を使用した。AC, D, Rに対してはサジタル像(
図2)で同様に液状残渣部分の面積を計測した。
なお、アキシャル像とサジタル像はそれぞれ任意の断面の観察が可能で腸管内の隆起性病変等の観察において重要な情報であり、精度高く両像が描写できることが診断において必須となる。
【0047】
(2)消化管運動機能改善剤を服用した場合のCTコロノグラフィ検査
イレウス症状のない62歳から74歳の大腸癌検査が必要な高齢者6名について、(1)における腸管洗浄剤1600mlの服用開始時にクエン酸モサプリド20mg(商品名「ガスモチン」大日本住友製薬社製)を腸管洗浄液180mlとともに服用し、同洗浄剤を引き続き約3時間をかけて服用した時点で(腸管洗浄剤の服用量は1600ml)、水溶性ヨード造影剤を服用し、続いて残りの腸管洗浄液400ml、水溶性ヨード造影剤の順に服用する。最後にクエン酸モサプリド20mgを少量の水で服用した。(1)と同様に排泄液が透明になった時点でMDCT撮影を行ない液状残渣領域を計測した。
【0048】
撮像結果の比較
大腸内腔の液状残渣がしめる二次元画像領域の面積を指標として、消化管運動機能改善剤を服用した場合と服用しない場合で比較し、その結果を表1に示した。
【0049】
【表1】
【0050】
CTコロノグラフィ検査において、水溶性のヨード造影剤と経口腸管洗浄剤を配合した
調製液を腸管洗浄の終了前に服用することで、液状残渣部位を撮像することができる。前記試験結果から、さらに消化管運動機能改善剤を配合した場合、消化管運動機能改善剤を使用しない場合に比べて、大腸の10区分のうち7区分で著名な減少効果を得ることができた。
ガス像とヨード造影剤双方の合成画像は、進行癌を含めた大腸癌に対する腹腔鏡手術が急速に広まりつつある現状からは、同手術では病変を触って確認できないため、術前の部位診断に基くスコープや操作用かん子を挿入するために孔(ポート)の挿入位置、小開腹創の部位と長さ、腸切除の長さ、人口肛門の位置などを精度高く決める必要があり、大腸区分全体の描写精度の高い画像が有用となる。さらに、アキシャル像とサジタル像を精度高く描写することが可能となり、断面観察が容易となる。
【0051】
試験例2:消化管機能促進剤による大腸全領域の液状残渣体積総量(mm
3)の減少
(1)消化管運動機能改善剤を服用しない対照例のCTコロノグラフィ検査
CTコロノグラフィ検査において、消化管運動機能改善剤が大腸内全域にわたり液状残渣の減少効果を有するか、液状残渣の体積を画像上実際に計測することで調べた。イレウス症状のない60歳から81歳の大腸がん検査が必要な10名について、経口腸管洗浄剤(商品名「ニフレック」味の素ファルマ社製)137.16gを水に溶解して2Lとして、そのうち1600mLを約3時間かけて経口投与した後、水溶性ヨード造影剤(商品名「ガストログラフィン」シェーリング社製)を内服する。続いて経口腸管洗浄剤400mLを服用したら、最後にさらに水溶性ヨード造影剤を服用した。
なお、水溶性ヨード造影剤と腸管洗浄剤の双方を配合した400mlの調製液を服用しても良いが、調製液中のヨード含有量は15mg/ml以上となるように調製するのが良い。
腸管洗浄剤及び水溶性ヨード造影剤すべてを服用してから、排泄液が透明になった時点でMDCT撮影を行なった。MDCTはマルチスライスCT装置(東芝メディカルシステムズ社製)を使用した。経肛門的に炭酸ガス注入し撮像したデータにおいて、大腸内の液状残渣は水溶性ヨード造影剤により高いCT値で白く標識されている。大腸内の標識されている液状残渣領域は、診断における3次元読影の際にブラインドとなる領域である。大腸内のブラインドとなる領域のボリュームを体積計測ソフトウエアーにて計測した。体積計測ソフトウエアーは、大腸内の高いCT値(200HU〜4096HU)領域の例えば
図5、
図6のように白く標識されている大腸内残液部分を、CTデータの全スライスにわたって体積を計測するように設定した。従来の残渣領域計測は、読影医が主観的に段階評価していたため精度が低かったが、造影剤で標識された領域を体積計測ソフトウエアーで計測することにより、客観的で精度の高い計測が可能となった。
【0052】
(2)消化管運動機能改善剤を服用した場合のCTコロノグラフィ検査
イレウス症状のない55歳から88歳の大腸がん検査が必要な10名について、(1)における腸管洗浄剤1600mlの服用開始時にクエン酸モサプリド20mg(商品名「ガスモチン」大日本住友製薬社製)を腸管洗浄液180mlとともに服用し、同洗浄剤を引き続き約3時間をかけて服用した時点で(腸管洗浄剤の服用量は1600ml)、水溶性ヨード造影剤を服用し、続いて残りの腸管洗浄液400ml、水溶性ヨード造影剤の順に服用する。最後にクエン酸モサプリド20mgを少量の水で服用した。(1)と同様に排泄液が透明になった時点でMDCT撮影を行ない、液状残渣領域を体積計測ソフトウエアーで計測した。
【0053】
撮像結果の比較
大腸内腔の液状残渣がしめる画像領域の体積を指標として、消化管運動機能改善剤を服用しない場合(表2)と服用した場合(表3)で比較検討した。これらについてWilcoxonの順位和検定を行ったところ両側P値が0.0185(<0.05)で、統計学的に有意に残液が減少した。
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
前記試験例2の結果から、消化管運動機能改善剤を配合した場合(平均約14万mm
3)は、消化管運動機能改善剤を使用しない場合(平均約27.8万mm
3)に比べて、大腸全域の液状残渣の総量が約半量となり著名な減少効果を得ることができた。
前記の試験例1及び試験例2の結果より、浸透圧調整剤を含む経口腸管洗浄液に、ヨード造影剤等の水溶性の消化管造影剤とさらに消化管運動機能改善剤を配合した前処置剤を服用することで、大腸区分全体にわたり有意に液状残渣量が少ないことが示され(試験例1)、さらに大腸内の液状残渣の総量を著しく減少させる効果が認められた(試験例2)
。
このように本願発明は、CTコロノグラフィにおいて読影が容易な3次元画像領域を増加させることにより、これまでの長い読影時間と診断技術の習得、読影者の読影経験を要していた問題を解決するものである。
【0057】
試験例3:ジメチルポリシロキサンを用いた液状残渣の消泡
(1)試験例2の(2)と同様に、腸管洗浄剤1600mlの服用開始時にクエン酸モサプリド20mg(商品名「ガスモチン」大日本住友製薬社製)を腸管洗浄液180mlとともに服用し、同洗浄剤を引き続き約3時間をかけて服用した時点で(腸管洗浄剤の服用量は1600ml)、水溶性ヨード造影剤を服用し、続いてジメチルポリシロキサン80mgを含有する市販の消化管内ガス駆除剤「ガスコン
(R)錠」(キッセイ薬品工業製)および残りの腸管洗浄液400ml、水溶性ヨード造影剤の順に服用する。最後にクエン酸モサプリド20mgを少量の水で服用した。
試験例2の(2)と同様に排泄液が透明になった時点でMDCT撮影を行なった。
試験例2の(2)の試験では有泡性粘液が存在した部位(大腸管腔内)の映像(
図3)と、ジメチルポリシロキサンを投与したときの同じ部位(
図4)の映像を比べると、前者では、大腸管腔内の液状残渣の有泡による波打ち状態が観察されるのに対して、後者では、泡が完全に消失し、大腸管腔内の液状残渣が無泡のため平坦になっていることが判る。これにより、病変の読み取り精度および読み取り効率を改善できることが明らかである。