【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するためになされたものであって、原フィラメントの送出手段を有するP1気圧下の原フィラメント供給室と、この原フィラメント供給室に配設されており、原フィラメントがその中を通過するオリフィスと、オリフィスによって原フィラメント供給室と接続されており、このオリフィスを通過してきた原フィラメントが炭酸ガスレーザービームにより加熱されることによって延伸されるP2気圧下(P1>P2)の延伸室と、炭酸ガスレーザービームを放射する炭酸ガスレーザー発振装置とを具備している、極細フィラメントの製造装置において、原フィラメントが供給される多錘の原フィラメント供給手段と、炭酸ガスレーザー発振装置から照射される炭酸ガスレーザービーム形状を整形し、多錘の原フィラメントへ照射させるビーム整形素子と、延伸室において延伸されたフィラメントが集積される集積装置と、を有することを特徴とする、極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、前記オリフィスの出口における原フィラメントの流れる方向をz軸とし、前記ビーム整形素子を通過した前記炭酸ガスレーザービームの照射方向をy方向とした場合、ビーム整形素子によってもたらされるビームが、y方向とは直角方向(x方向)に少なくとも3倍に幅広いこと、即ち、z方向のビームの広がりをBz、x方向のビームの広がりをBxとすると、Bz<3Bxとするビーム整形素子である、前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、原フィラメントの送出手段を有するP1気圧下の原フィラメント供給室と、この原フィラメント供給室に配設されており、原フィラメントがその中を通過するオリフィスと、このオリフィスによって原フィラメント供給室と接続されており、オリフィスを通過してきた原フィラメントが炭酸ガスレーザービームにより加熱されることによって延伸されるP2気圧下(P1>P2)の延伸室と、炭酸ガスレーザービームを放射する炭酸ガスレーザー発振装置とを具備している、極細フィラメントの製造装置において、原フィラメントが供給される多錘の原フィラメント供給手段と、炭酸ガスレーザー発振装置から照射される炭酸ガスレーザービームを、オリフィスの出口における原フィラメントの流れる方向と直角方向に横切らせ、多錘の原フィラメントに照射させるポリゴンミラーと、延伸室において延伸されたフィラメントが集積される集積装置と、を有することを特徴とする、極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、原フィラメントの送出手段を有するP1気圧下の原フィラメント供給室と、原フィラメント供給室に配設されており、原フィラメントがその中を通過するオリフィスと、オリフィスによって原フィラメント供給室と接続されており、オリフィスを通過してきた原フィラメントが炭酸ガスレーザービームにより加熱されることによって延伸されるP2気圧下(P1>P2)の延伸室と、炭酸ガスレーザービームを放射する炭酸ガスレーザー発振装置とを具備している、極細フィラメントの製造装置において、原フィラメントが供給される多錘の原フィラメント供給手段と、炭酸ガスレーザー発振装置から照射される該炭酸ガスレーザービームをオリフィスの出口における原フィラメントの流れる方向と直角方向に横切らせ、多錘の原フィラメントに照射させるガルバノミラーと、延伸室において延伸されたフィラメントが集積される集積装置と、を有することを特徴とする、極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、原フィラメントの送出手段を有するP1気圧下の原フィラメント供給室と、原フィラメント供給室に配設されており、原フィラメントがその中を通過するオリフィスと、オリフィスによって原フィラメント供給室と接続されており、オリフィスを通過してきた原フィラメントが炭酸ガスレーザービームにより加熱されることによって延伸されるP2気圧下(P1>P2)の延伸室と、炭酸ガスレーザービームを放射する炭酸ガスレーザー発振装置とを具備している、極細フィラメントの製造装置において、原フィラメントが供給される多錘の原フィラメント供給手段と、炭酸ガスレーザー発振装置から照射される炭酸ガスレーザービームを複数回反射させ、多錘の原フィラメントに照射させる、平行に設置されている一対のミラーと、延伸室において延伸されたフィラメントが集積される集積装置と、を有することを特徴とする、極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、前記レーザービームが平行に設置されている前記一対のミラーへ入射される側の反対側の端に直角ミラーを設け、反射されてくるレーザービームをさらにこの平行ミラー側に戻し、入射してくるレーザービームと、直角ミラーによって反射されてくるレーザービームとの交点に前記多錘の原フィラメントが配置されている、前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、前記レーザービームが平行に設置されている前記一対のミラーへ入射される側の反対側の端に、新たな炭酸ガスレーザー発振装置を設け、この発振装置から照射される炭酸ガスレーザービームがこの一対のミラーに斜めに入射されて該平行ミラーによって複数回反射され、最初に入射してくるレーザービームと、新たな炭酸ガスレーザー発振装置から照射されてくるレーザービームとの交点に前記多錘の原フィラメントが配置されている、前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、原フィラメントの送出手段を有するP1気圧下の原フィラメント供給室と、この原フィラメント供給室に配設されており、原フィラメントがその中を通過するオリフィスと、オリフィスによって該原フィラメント供給室と接続されており、オリフィスを通過してきた原フィラメントが炭酸ガスレーザービームにより加熱されることによって延伸されるP2気圧下(P1>P2)の延伸室と、炭酸ガスレーザービームを放射する炭酸ガスレーザー発振装置とを具備している、極細フィラメントの製造装置において、原フィラメントが供給される多錘の原フィラメント供給手段と、延伸室において延伸されたフィラメントが回転軸を中心に巻き取られる巻取機と、この回転軸の外側に多錘の延伸されたフィラメント群が降下してくる巾に対応した巾を有し、回転軸に沿って湾曲している捕集ガイドと、を有することを特徴とする、極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、前記延伸されたフィラメントの集積装置がウェブの巻取機である、前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、前記延伸されたフィラメントの集積装置が延伸室で走行しているコンベアである、前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、前記延伸室全体が、水平面のX−Y軸、及び高さ方向のZ軸方向の少なくとも一方向に移動可能、又は面X−Y水平面で回転可能な微調整移動台座上にある、前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、前記延伸されたフィラメントの集積装置の前段階に、これらの延伸されたフィラメント群を集束する集束具を有する、前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、オリフィスの出口における原フィラメントの流れる方向をz軸とし、前記炭酸ガスレーザービームの照射方向をy方向とし、z方向とy方向とは直角方向をx方向とした場合、前記延伸室がx方向に揺動されることにより、前記フィラメントの集積装置に前記延伸されたフィラメントが揺動されながら集積される、前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、オリフィスの出口における原フィラメントの流れる方向をz軸とし、前記炭酸ガスレーザービームの照射方向をy方向とし、z方向とy方向とは直角方向をx方向とした場合、前記フィラメントの集積装置をx方向に揺動されることにより、前記フィラメントの集積装置に前記延伸されたフィラメントが揺動されながら集積される、前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、前記延伸されたフィラメントが、揺動する反射板に反射されつつ、前記フィラメントの集積装置に集積される、前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、前記レーザービームがビーム整形素子によって整形されている、前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、前記コンベア上に集積された延伸された多錘の原フィラメント群が熱処理されてシートが形成される熱処理ロールと、この延伸室内において熱処理された該シートを巻き取るシート巻取装置と、を有する、前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、前記コンベア上に集積された延伸された多錘の原フィラメント群が熱処理されてシートが形成される熱処理ロールと、前記延伸室内において熱処理された該シートを集束し繊維束とする集束具と、この繊維束を巻き取る巻取装置と、を有する前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。前記オリフィスの前後におけるP1とP2の気圧の差が、P1≧2P2である、前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、前記オリフィス内の流速が150m/sec以上であるように圧力差が設けられている、前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、前記原フィラメント供給室が大気下にあり、前記延伸室が減圧下にある、前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。また本発明は、前記炭酸ガスレーザービーム照射装置からのビームの中心が、前記オリフィスの出口より30mm以内で前記原フィラメントに照射されるように構成されている、前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。さらに本発明は、前記炭酸ガスレーザービーム照射装置からのビームが、前記原フィラメントの中心でフィラメントの軸方向に沿って上下4mm以内の範囲に照射されるように構成されている、前記極細フィラメントのマルチ(多錘)延伸装置に関する。
【0008】
本発明は、原フィラメントが延伸されることによって、ナノフィラメントの領域までに極細化される延伸装置を提供するものである。本発明における原フィラメントとは、既にフィラメントとして製造されて、リール等に巻き取られたものである。また紡糸過程において、溶融または溶解フィラメントが冷却や凝固によりフィラメントとなったものを紡糸過程に引き続き使用され、本発明の原フィラメントとなる。ここでフィラメントとは、実質的に連続した繊維であり、数ミリメータから数十ミリメータの長さである短繊維とは区別される。原フィラメントは、単独で存在することが望ましいが、数本ないし数十本に集合されていても使用することができる。
【0009】
本発明において延伸されたフィラメントは、全てフィラメントと表現するが、延伸された結果、上記ファイバーの領域に属するものも含まれる。本発明における延伸されたフィラメントは、殆どの場合、延伸切れすることなく数分以上延伸されるので、フィラメントの長さも数m以上であり、フィラメント径dが小さいことを考慮すると、実質的に連続フィラメントと見なすことができる場合が殆どである。しかし、条件によっては、上記ファイバーの領域に属する短繊維も製造することができる。
【0010】
本発明におけるフィラメントは、一本のフィラメントからなるシングルフィラメントである場合と、複数のフィラメントからなるマルチフィラメントである場合が含められる。一本のフィラメントにかかる張力等では、「単糸あたり」と表現するが、一本のフィラメントでは、「その一本のフィラメントあたり」を意味し、マルチフィラメントでは、それを構成する「個々のフィラメント一本あたり」を意味する。
【0011】
本発明における原フィラメントは、複屈折で測定した配向度が30%、あるいは50%以上といった、高度に分子配向したフィラメントでも使用できることに特徴があり、このような高度に配向した原フィラメントからでも、数百倍といった超高延伸倍率が実現できる点においても、他の延伸法と際だって異なる点である。このように原フィラメントが高配向している場合は、延伸開始点において、原フィラメント径以上の膨張部をもって延伸されることが多い。
【0012】
本発明の原フィラメントは、ポリエチレンテレフタレート、脂肪族ポリエステルおよびポリエチレンナフタレートを含むポリエステル、ナイロン(含むナイロン6、ナイロン66)を含むポリアミド、ポリプロピレンやポリエチレンを含むポリオレフィン、ポリビニルアルコール系ポリマー、アクリロニトリル系ポリマー、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などを含むフッ素系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、スチレン系ポリマー、ポリオキシメチレン、エーテルエステル系ポリマーなどの熱可塑性ポリマーからなるフィラメントであれば使用することができる。特に、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン(含むナイロン6、ナイロン66)、ポリプロピレンは、延伸性もよく、分子配向性もよく、本発明の極細フィラメントや極細フィラメントからなる不織布の製造に特に適する。また、ポリ乳酸やポリグリコール酸等の生分解性ポリマーや生体内分解吸収性ポリマー等、さらにポリアリレートやアラミド等の高強度、高弾性ポリマーなども本発明の赤外線ビームによる延伸性もよく、本発明による極細フィラメントや極細不織布の製造に特に適する。また原フィラメントには、これらのポリマーからなる芯鞘型フィラメントなどの複合フィラメントも使用することができる。なお、上記ポリマーを85%(重量パーセント)以上含む場合は、ポリエステル「系」やポリエステルを「主成分」とするなどと表現する場合がある。
【0013】
本発明においは、フィラメントの送出手段から送り出された原フィラメントについて延伸が行われる。送出手段は、ニップローラや数段の駆動ローラの組み合わせなどの一定の送出速度でフィラメントを送り出すことが出来るものであれば種々のタイプのものが使用できる。
【0014】
本発明において、送出手段から送り出されてくる原フィラメントは、マルチ(多錘)であることを特徴とする。マルチ(多錘)とは、独立して行動するフィラメント又はフィラメントの束が複数本存在することを意味する。複数本は、2本から数100本を意味する。
【0015】
フィラメントの送出手段より送り出された多錘の原フィラメントは、さらにオリフィスを通して、オリフィス中を原フィラメントの走行方向に流れる気体によって送られる。原フィラメントがこのフィラメント送出手段を経てオリフィスに送り込まれるまでは、P1気圧の雰囲気下で行われ、P1気圧下の状態に保たれている場所を原フィラメント供給室とする。P1が大気圧のときは、特に圧力を一定にする囲いは必要ない。P1が加圧下や減圧下の場合は、その圧力を保つための囲い(部屋)が必要であり、加圧ポンプまたは減圧ポンプも必要となる。なお本発明では、オリフィス入口部がP1であることが必要であるが、原フィラメントの貯蔵部、原フィラメントの送り出し部分は、必ずしもP1気圧である必要はない。しかし、それらを別々の部屋を設けるのは煩雑であるので、それらの部分が同一気圧であることが好ましい。
【0016】
オリフィスの出口以降は、P2気圧下に保たれ、オリフィスから出てきた原フィラメントを炭酸ガスレーザービームによって加熱することによって延伸される延伸室となる。原フィラメントは、P1気圧の原フィラメント供給室とP2気圧下の延伸室との圧力差(P1−P2)によって生じるオリフィス中を流れる空気の流れによってオリフィス中を送られていく。P2が大気圧のときは、特に圧力を一定にする囲いは必要ないが、P2が加圧下や減圧下の場合は、その圧力を保つための囲い(部屋)が必要であり、加圧ポンプまたは減圧ポンプも必要となる。
【0017】
P1とP2の気圧の差は、P1>P2である。そして、実験の結果、P1≧2P2であることが好ましく、さらに好ましくはP1≧3P2、P1≧5P2であることが最も好ましいことがわかった。
【0018】
本発明は、P2が減圧下(大気圧未満の圧力)で行われることが望ましい。そうすることにより、P1を大気圧で実施でき、装置を著しく簡便に出来、また、減圧は比較的簡便な手段であるからである。さらに、オリフィスからエアーが減圧下に噴出されることにより、通常存在する大気圧のエアーに邪魔されることないので、噴出されるエアーも、それに伴うフィラメントも非常に安定し、その結果、延伸性が安定し、ナノフィラメント領域までの延伸が可能になるものと思われる。このような簡便な手段で、ナノミクロン領域のフィラメントが得られることに本発明の特徴がある。
【0019】
なおP1またはP2は、通常室温の空気が使用される。しかし、原フィラメントを予熱したい場合や、延伸したフィラメントを熱処理したい場合は、加熱エアーが使用される。また、フィラメントが酸化されるのを防ぐ場合は、窒素ガス等の不活性ガスが使用され、水分の飛散を防ぐ場合は、水蒸気や水分を含む気体も使用される。
【0020】
本発明における原フィラメント供給室と延伸室は、オリフィスによってつながっている。オリフィス中では、原フィラメントとオリフィス内径との間の狭い隙間に、P1>P2の圧力差で生じた高速気体の流れが生じる。この高速気体の流れを生じるために、オリフィスの内径Dと繊維の径dとは、あまり大きくかけはなれてはならない。実験結果、D>dであって、D<30d、好ましくはD<10d、さらに好ましくはD<5dであってD<2dであることが最も好ましい。
【0021】
上記におけるオリフィス内径Dは、オリフィスの出口部における径をいう。但し、オリフィス断面が円では無い場合、一番狭い部分の径をDとする。同様に、フィラメントの径も、断面が円ではない場合、一番小さい径の値をdとし、断面の最も小さい箇所を基準に10カ所を測定して算術平均する。また、オリフィスの内径は、均一な径ではなく、テーパ状で出口において狭くなる形状も好ましい。なお、オリフィスの出口は、通常、原フィラメントが上から下へ通過するので、縦に配置されたオリフィスの下方が出口となるが、下から上へ原フィラメントが通過する場合は、オリフィスの上方に出口がある。同様に、オリフスが横に配置されて、原フィラメントが横方向に通過する場合は、オリフィスの横方向に出口がある。
【0022】
上記のように、オリフィス内を高速の気体が流れるので、オリフィスの内部は抵抗の少ない構造が望ましい。本発明のオリフィスの形状は、1本1本独立したものも使用されるが、板状物に多数の孔を開けて多錘のオリフィスとすることもできる。オリフィスの内部の断面も円形のものが望ましいが、複数のフィラメントを通過させる場合や、フィラメントの形状が楕円やテープ状の場合には、断面が楕円や矩形のものも使用される。また、オリフィス入り口では、原フィラメントを導入しやすいように大きく、出口部分のみ狭い形状が、フィラメントの走行抵抗を小さくし、オリフィスの出口からの風速も大きくできるので好ましい。
【0023】
本発明におけるオリフィスは、本発明人らによる従来の延伸前の送風管とは役割を異にしている。従来の送風管は、レーザーをフィラメントの定位置に当てる役目であり、できるだけ抵抗少なく、定位置に原フィラメントを搬送する役目であった。本発明はそれにプラスすることの、高速の整流気体が原フィラメント供給室の気圧P1と延伸室の気圧P2の気圧差で発生する点で異なる。なお、通常のスパンボンド不織布製造においては、エアーサッカー等によって溶融フィラメントに張力を与えられる。しかし、スパンボンド不織布製造におけるエアーサッカーと本発明におけるオリフィスとは、その作用機構と効果が全く異なる。スパンボンド法では、溶融フィラメントをエアーサッカー内の高速流体で送られ、エアーサッカー内でそのフィラメント径の細化の殆どが完了する。それに対して、本発明では固体の原フィラメントがオリフィスで送られ、オリフィス内ではフィラメントの細化は始まらず、オリフィスを出た所でレーザービームが照射されることによって、始めて延伸が開始される。またスパンボンド法では、エアーサッカー内に高圧エアーを送りこむことにより高速流体を発生させるが、本発明では、オリフィス前後における部屋の気圧差でオリフィス内の高速流体を発生させる点で異なる。またその効果も、スパンボンド法では、せいぜい10μm前後のフィラメント径しか得られないのに対して、本発明では1μm未満のナノフィラメントが得られるという大きな効果が得られる点が異なる。
【0024】
本発明は、延伸が音速域で行われることが好ましい。オリフィス中の流速vは、下記の式で表される(Graham' theorem)。ここで、ρはエアー密度を表す。
v={2(P1−P2)/ρ}
1/2
ここで、P1を大気圧とし、P2を変化させて計算させると、表1となる。このことより、本発明の減圧域P2が30kPa、20kPa、6kPaでは、流速vは音速域(340−400m/sec)にあることがわかる。音速との比(マッハM)を計算した結果も表に示した。Mが0.98以上を音速域とすると、オリフィス内での流速vを、これらの音速域にすることにより、本発明では延伸して得られたフィラメント径をナノメータ域までの極細フィラメントを得ることができた。また、フッ素系樹脂やポリオレフィン樹脂等など、樹脂の種類によっては、150m/sec以上の亜音速域でも、充分に高倍率に延伸できることがわかった。
【0025】
【表1】
【0026】
本発明においては、オリフィス内での流速は、150m/sec以上であることが好ましく、200m/sec以上であることがさらに好ましく、最も好ましくは、342m/sec以上である。これらの流速は、原料フィラメントの素材、目的とするフィラメント径等によって決められる。
【0027】
オリフィスから送り出されてきた原フィラメントは、オリフィスの出口で、炭酸ガスレーザービームによって加熱され、オリフィスからの高速流体によってフィラメントに与えられる張力によって、原フィラメントは延伸される。オリフィスの直下とは、実験結果、炭酸ガスレーザービームの中心がオリフィス先端より30mm以下、好ましくは10mm以下、5mm以下であることが最も好ましい。オリフィスから離れると、原フィラメントが振れ、定位置に収まらず、炭酸ガスレーザービームに安定して捉えられないからである。またオリフィスからの高速気体によってフィラメントに与えられる張力が、オリフィスから離れることによって弱くなり、また安定性も小さくなるからと思われる。
【0028】
本発明は、原フィラメントが炭酸ガスレーザービームによって加熱されて延伸されることを特徴とする。本発明の炭酸ガスレーザービームは、10.6μmの波長を有している。レーザーは、照射範囲(ビーム)を小さく絞り込むことが可能であり、また、特定の波長に集中しているので、無駄なエネルギーも少ない。本発明の炭酸ガスレーザーは、パワー密度が50W/cm
2以上、好ましくは100W/cm
2以上、最も好ましくは、180W/cm
2以上である。狭い延伸領域に高パワー密度のエネルギーを集中することによって、本発明の超高倍率延伸が可能となるからである。
【0029】
炭酸ガスレーザー発振装置から照射される炭酸ガスレーザービームは、通常、ビームの中心部で一番照射強度が高く、周辺部に行くにしたがい段々と減衰していき、その強度分布は、ガウス分布しているガウスビーム(Gaussian beam)である。本発明においては、炭酸ガスレーザー発振装置から照射される炭酸ガスレーザービームを、光学部品であるビーム整形素子を通過させることによって、ビーム強度分布を二つの点で改善して用いることができる。その一つは、ビームの中心部から周辺部にわたって、ほぼ同じ照射強度を有するフラットトップビーム(Flat-top beam)とすることができる。他の一つは、必ずしもフラットトップビームでなくともよいが、原フィラメントの流れる方向に対して、直角方向にライン状のビームにすることができる。
【0030】
ビーム整形素子とは、ビームシェイパー、またはビームホモジナイザーとも呼ばれる光学素子で、レーザー発振装置から発信してくるレーザービームの強度分布を変化させて、目的とする強度分布のビームに変える素子である。ビーム整形素子は、回折格子、集光レンズ、拡散レンズ、プリズム、ミラー等、またはそれらを組み合わせて使用される。
【0031】
このビーム整形素子によってつくり出されるビーム形状は、さらに、原フィラメントの通過する方向に短く、それと直角方向に長いライン状(Line beam)(又はリニアビーム)であることが望ましい。すなわち、ビームはオリフィスの出口における原フィラメントの流れる方向をz軸とし、ビーム整形素子を通過した炭酸ガスレーザービームの照射方向をy方向とした場合、ビーム整形素子によってもたらされるビームが、y方向とは直角方向(x方向)に幅広いことが望ましく、この横長のビームに多錘の原フィラメントが通過し、多錘の原フィラメントの延伸を可能にする。また、z方向のビームの広がりをBz、x方向のビームの広がりをBxとすると、Bz<3Bxとするビーム整形素子であることがさらに好ましく、さらに好ましくは、Bz<5Bxであり、もっとも好ましくは、Bz<10Bxである。このように極端に横長のビームとすることで、さらに多錘の原フィラメントの延伸が可能になる。
【0032】
炭酸ガスレーザー発振装置から照射される炭酸ガスレーザービームが、ポリゴンミラーによって、オリフィスの出口における原フィラメントの流れる方向と直角方向に横切るように走行することによって、多錘の原フィラメントに照射せることができる。ポリゴンミラーとは、回転多面鏡ともいい、回転軸に平行または傾いて設けられた多数のミラー面を持っており、それが回転軸を中心に高速で回転することにより、鏡面に入射してきたビームを反射して、横方向に走査させる鏡である。本発明においては、この横方向に走査される領域に、多錘の原フィラメントを走行させ、当たったレーザービームで多錘の原フィラメントを延伸させる。原フィラメントの走行速度に対して、レーザーの走査速度が桁違いに速い必要がある。
【0033】
炭酸ガスレーザー発振装置から照射される炭酸ガスレーザービームが、ガルバノミラーによって、オリフィスの出口における原フィラメントの流れる方向と直角方向に横切るように走行することによって、多錘の原フィラメントに照射せることができる。ガルバノミラーとは、ミラーに軸を取り付け、ガルバノメータのようにミラーを振動させて、入射してくるビームを、そのミラーで反射させて、横方向に走査させる。本発明においては、この横方向に走査される領域に、多錘の原フィラメントを走行させ、当たったレーザービームで多錘の原フィラメントを延伸させる。原フィラメントの走行速度に対して、レーザーの走査速度が桁違いに速い必要がある。
【0034】
本発明においては、炭酸ガスレーザー発振装置から照射される炭酸ガスレーザービームを、平行に設置された一対のミラーに複数回反射させ、多錘のフィラメントに照射させる手段をとることもできる。平行に設置された二つのミラーに斜め方向からビームを照射させることによって、二つのミラー間で複数回反射し、そのビームの通過過程に多錘の原フィラメントが通過することで、多錘延伸が可能となる。この場合、二つの平行に設置されたミラーのビームが入射してくる側とは反対側に、二つの平行なミラーの平行軸に対して直角軸に直角ミラーを置くことにより、平行ミラー間を複数回反射してきたビームは、この直角ミラーで反射されて、再び平行ミラー間で反射されていく。このように反射されていく往路と復路のビームの多数の交点に、それぞれ原フィラメントの流れを置くことで、多錘の延伸を可能にすることができる。また、二つの平行に設置されたミラーのビームが入射してくる側とは反対側に、別のビームを斜めに入射させ、復路のビームとすることもできる。
【0035】
なお、この平行ミラー方式における炭酸ガスレーザービームの照射は、原フィラメントに対して複数箇所から照射されるので、原フィラメントに対して均一に加熱される。フィラメントの片側のみからの加熱は、そのポリマーの融解温度が高い場合や、溶融が困難な場合、また、もともと延伸が困難なフィラメントの場合は、非対称加熱になり、延伸が困難になるからである。
【0036】
前記ポリゴンミラー、ガルバノミラー方式又は平行ミラー方式等におけるレーザービームにおいても、ビーム整形素子によって整形されているビームであることが好ましい。但し、必ずしもリニアフラットトップビームである必要はなく、サーキュラーフラットトップビームやスクエアーフラットトップビームであってもよく、また、必ずしも拡大されたビームである必要はなく、むしろ縮小されたビーム径であってもよい。
【0037】
本発明の原フィラメントは、炭酸ガスレーザービームにより延伸適温に加熱されるが、延伸適温に加熱される範囲がフィラメントの中心でフィラメントの軸方向に沿って、上下4mm(長さ8mm)以内であることが好ましく、さらに好ましくは上下3mm以下、最も好ましくは上下2mm以下で加熱される。このビームの径は、走行するフィラメントの軸方向に沿って測定する。本発明においては、原フィラメントが複数本であるので、原フィラメントの軸方向で測定される。本発明は、狭い領域で急激に延伸されることにより、高度に極細化され、ナノ領域までに細くした延伸を可能にし、しかも超高倍率延伸であっても、延伸切れを少なくすることができた。なお、この炭酸ガスレーザービームが照射されるフィラメントがマルチフィラメントである場合は、上記のフィラメントの中心は、マルチフィラメントのフィラメント束の中心を意味する。
【0038】
本発明によって延伸された多錘の延伸されたフィラメントは、延伸室内で集積させて取り出すこともできるが、通常、フィラメントの集積装置によって捕集され、集積される。集積装置は、巻取機やコンベアが使用されるが、篭、缶、筒などに集積させてもよい。
【0039】
本発明の延伸されたフィラメントの集積装置の前段階に、これらの延伸されたフィラメント群を集束する集束具を設け、延伸されたフィラメント群を束状にまとめて、集束装置に送り込むことができる。そのように束ねられたフィラメント群は、紐やトウとして使用することができる。集束具としては、コームや糸ガイド等が使用される。
【0040】
本発明の延伸されたフィラメントの集積装置として、フィラメント群やシート等の巻取装置が使用される。延伸されて下降してくるフィラメント群の巾に相当した紙管やアルミ管の管状物が回転軸として取り付けられた巻取機で、これらの管状物の上に延伸されたフィラメントは集積され、捕集されて巻き取られていく。
【0041】
本発明の集積装置として巻取機を用いた場合、巻取軸に沿って湾曲している壁からなる捕集ガイドを設けることが望ましい。この捕集ガイドは、回転軸の外側に多錘の該延伸されたフィラメント群が降下してくる巾に対応した巾を持つ。対応した巾とは、フィラメント群が下降して巾より広く、好ましくは50mm前後、さらに好ましくは100mm前後に両側に広いことが最も好ましい。オリフィスから高速エアーと共に走行してくる延伸されたフィラメントが巻取軸に巻きつかれて行く場合、高速エアーが巻取軸で反射して周囲へ飛散し、巻取軸上のフィラメントの集積状態が乱れる場合があるが、この捕集ガイドの壁によって高速エアーが巻取機の回転軸方向に曲げられ、延伸されたフィラメントの飛散を防ぐことができる。巻取軸から捕集ガイドの壁までの距離は、500mm以下、好ましくは200mm以下、100mm以下であることが最も好ましい。
【0042】
本発明の延伸されたフィラメントの集積装置として、走行するコンベアが使用される。コンベア上に集積され、積層されることによって、極細フィラメントの集積体または不織布として巻き取ることもできる。このようにすることにより、ナノフィラメントからなる不織布を製造することができる。本発明のコンベアとして、網状の移動体が通常使用されるが、ベルトやシリンダ上に集積させてもよい。
【0043】
また、本発明によって延伸された多錘の極細フィラメントは、走行している布状物上に集積されることによって、この布状物と積層された積層体を製造することができる。特に、ナノフィラメントからなる集積体または不織布は、構成するフィラメントが非常に細いために取り扱いが困難であるが、このように布状物と積層されることにより取り扱いが安定する。また用途においても、市販のスパンボンド不織布等と積層されることにより、フィルター等の用途にそのまま使用することもできる。布状物として、織物、編物、不織布、フェルト、紙などが使用される。また、フィルムを走行させてその上に集積させてもよい。
【0044】
コンベア上に集積された延伸された多錘の原フィラメントは、熱処理ロールによって熱処理されてシートを形成されることが望ましい。このように熱処理されることにより寸法安定性と熱安定性を備えた不織布シートとすることができる。そして、この不織布シートは、延伸室内に設けられているシート巻取装置に巻き取られることが望ましい。また、コンベア上で赤外線ヒータによる加熱や熱風吹きつけによる熱処理や、それらを熱処理に際しての予熱として使用することができる。
【0045】
本発明における熱処理ロール等の温度は、その樹脂の軟化点であり、樹脂の種類や製品の用途によって最適値が定められる。通常、合成繊維の熱処理温度の範囲から選択される。また、製造された極細フィラメントやナノファイバーを部分的に融着させたい場合もあり、その場合は融点近傍の温度も使用される。
【0046】
コンベア上に集積され、熱処理されたシートが、コームやガイド等の集束具で集束され、繊維束とされることで、糸状物を製造することも出来る。この糸状物は、延伸室内に設けられている糸状物巻取装置に巻き取られることが望ましい。
【0047】
本発明の延伸室全体が、水平面のX−Y軸、及び高さ方向のZ軸方向の少なくとも一方向に移動可能、又は水平面X−Y上で回転可能な微調整移動台座上にあることが望ましい。本発明における多錘延伸装置では、レーザーの照射位置と個々のノズル配置等に微妙な位置調整が必要であるが、このような微調整移動台座を設けることにより、多錘延伸装置としての運転が安定し、得られた製品の品質が高まった。回転は、ビーム軸がフィラメントの配列軸との誤差を調整することに用いられる。微調整範囲は、数ミクロンメータから数ミリメータが用いられる。回転角度も1−2度以下の微調整である。
【0048】
オリフィスの出口における原フィラメントの流れる方向をz軸とし、前記炭酸ガスレーザービームの照射方向をy方向とし、z方向とy方向とは直角方向をなす芳香をx方向とした場合、本発明の延伸室がx方向に揺動されることにより、フィラメントの集積装置に延伸されたフィラメントが揺動されながら集積されることが望ましい。揺動範囲は、数ミリメータから10ミリメータ前後が用いられる。このように延伸されたフィラメント群が揺動されながら集積装置に巻き取られることにより、得られた不織布の地合が良くなり、品質が高まる。揺動は、延伸室を台座に乗せ、カムやクランク等で周期的に振動させる方式をとることもできるが、揺動範囲が小さいので、バイブレータにより揺動させるのが簡便である。
【0049】
延伸されたフィラメントが集積装置へ揺動されながら集積される他の手段として、集積装置がx方向に揺動されることによっても目的を達成することができる。さらに他の手段として、延伸されたフィラメントの走行範囲に揺動する反射板を設け、延伸されたフィラメントがこの反射板で反射されつつ集積装置に集積される方式をとることもできる。
【0050】
本発明は炭酸ガスレーザービームによって、原フィラメントを超高倍率に延伸することによって、極細フィラメントを製造することを目的とする。本発明における極細フィラメントは、原フィラメントが100倍以上に延伸されて極細化されたフィラメントをいう。その極細フィラメントのうち、フィラメント径が1μm以下のものを特にナノフィラメントという。本発明においては、原フィラメントを延伸倍率が10,000倍以上にすることにより、100μm以上の径の原フィラメントからでもナノフィラメントが得ることができる点に特徴がある。
【0051】
本発明における延伸倍率λは、原フィラメントの径doと延伸後のフィラメントの径dより、下記の式で表される。この場合、フィラメントの密度は一定として計算する。繊維径の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)で、原フィラメントは350倍、延伸されたフィラメントは1000倍またはそれ以上の倍率での撮影写真に基づき、100点の平均値で行う。
λ=(do/d)
2
【0052】
本発明における延伸フィラメントは、フィラメント径が揃っていることを特徴とする。フィラメント径分布は、上記SEM写真から測長用ソフトでフィラメント径を100箇測定して求めた。またそれらの測定値より、標準偏差を求め、フィラメント径分布の尺度とした。
【0053】
本発明における延伸フィラメントは延伸されることにより分子配向し、熱的にも安定している。本発明の延伸フィラメントはフィラメント径が非常に小さいので、フィラメントの分子配向を測定することは困難である。本発明の延伸フィラメントは、単に細くなっただけではなく、分子配向も生じていることが、熱分析の結果により示唆されている。原フィラメントや延伸フィラメントの示差熱分析(DSC)測定は、株式会社リガク製THEM PLUS2 DSC8230Cにより、昇温速度10℃/minで測定した。
【0054】
本発明で得られる不織布は、延伸されたフィラメントを揺動するなどの手段を用いることができるので、地合が均一であることを特徴とする。地合とは、不織布の各場所における坪量(単位面積当たりの重さ)の均一性をいう。本発明における地合とは、得られた不織布の巾方向に5箇所で縦方向に100mm間隔に3箇所で、巾方向に5箇所で、縦横30mm角の大きさで試料片採取し、その重量の標準偏差で測定する。