【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人科学技術振興機構「戦略的創造研究推進事業/高感度な可視光水分解光触媒の創製」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
橘田太樹,新規機構を指向した二段階励起に基づく可視光分解光触媒の創製,山梨大学工学部応用化学科卒業論文発表会要旨集,日本,山梨大学,2010年 3月 1日
【文献】
Yongjing LIN, et al.,TiO2/TiSi2 Heterostructures for High-Efficiency Photoelectrochemical H2O Splitting,Journal of American Chemical Society,米国,ACS Publications,2009年11月 2日,Vol 131 Iss 8,pp2772-2773
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対標準水素電極電位において伝導帯の下端が0Vよりも負の電位をもつ物質であり、かつ、3.0eV以下のバンドギャップエネルギーを持つ物質で構成された、光が照射されることにより水を分解して水素を発生させる水素発生光触媒と、
対標準水素電極電位において価電子帯の上端が1.23Vよりも正の電位をもつ物質であり、かつ、3.0eV以下のバンドギャップエネルギーを持つ物質で構成された、光が照射されることにより水を分解して酸素を発生させる酸素発生光触媒と、
を接合して構成され、
対標準水素電極電位で比較すると、前記酸素発生光触媒のフェルミ準位よりも前記水素発生光触媒のフェルミ準位のほうが負側もしくは同等である光触媒組成物。
【背景技術】
【0002】
人口増加による世界のエネルギー消費量は年々増加しており、人類の生活はエネルギー資源なしでは成り立たない。現在主力のエネルギー源として石油、天然ガス、石炭などの化石燃料が使用されており、これらを利用した内燃機関は工業的利用や広く一般へ普及されている。しかしながら、その依存度の高さ故に、人類は大気汚染や地球温暖化などの環境問題、化石燃料の枯渇によるエネルギー問題など様々な問題に直面している。
【0003】
有限の資源であり近い将来枯渇することが懸念されている石油に関しては、我が国では国内消費量全体の99.7%を輸入に頼っており、さらにそのうち90%以上を中東地域からの輸入に依存している。中東地域が政治的に不安定であることも考慮するとエネルギーの安定供給や持続的な経済発展という観点から石油依存への認識を改める必要がある。
【0004】
一方、太陽光エネルギーは無限に降り注ぐエネルギーであるため、化石燃料の代替エネルギーとして注目されている。太陽光エネルギーの大気上層部での強度は太陽定数と呼ばれ、年間を通してほぼ一定の1.40 kW/m
2である。地球全体に毎時入射する太陽光エネルギーはこれと地球の断面積との積である1.73×10
17W、年間では5.5×10
24 Jとなる。大気層において吸収反射により約半分のエネルギーが失われることを加味しても、1時間あたりに地表に到達する太陽エネルギーは人類が1年間に消費するエネルギー総量を十分に上回る。
【0005】
また、クリーンなエネルギー源として水素が注目されている。例えば、燃料電池においては燃料として水素と酸素を使用し、生成物は水のみである。化石燃料の燃焼時に見られるCO
2などの環境負荷物質を生成しないという点で水素エネルギーの利用は環境問題に対応するエネルギーシステムである。
【0006】
現在の主な水素製造方法は、化石燃料使用によるものと非化石資源使用によるものに大別できる。非化石燃料を使用するものに関しては、実証レベルでバイオマス転換法や熱化学分解の技術開発が進んでいる。化石燃料を使用するものに関しては、水蒸気改質法、部分酸化法、自己熱改質法などがある。この中でも天然ガスの水蒸気改質は世界的に広く実用化されており、全水素生産の約50%を占めている。しかし、化石燃焼利用の水素製造法は、副生成物のCO
2を排出するという問題がある。
【0007】
CnHm + n H2O → n CO + (m/2 + n) H
2
CO + H
2O → CO
2 + H
2
光触媒は太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換する触媒である。1972年Natureにて陽極に酸化チタンを、陰極に白金を用いた電気化学セルにおいて、酸化チタン電極へ紫外線を照射することにより水分解反応が起こり、酸化チタン電極から酸素が白金電極から水素が発生する現象が報告された。この現象は発見者の名前をとって本多−藤嶋効果と呼ばれている。この反応系では白金極へ0.5 Vほどのバイアス電圧を印加しているが、水の電気分解に必要な電位差1.23 Vより十分に低いことから水分解反応には光子エネルギーが使われていることがわかる。
【0008】
このように、光触媒を用いて太陽光と水から直接水素を製造できれば、上述の環境問題やエネルギー問題を解決するための究極のクリーンエネルギーシステムとなる。
【0009】
しかしながら、太陽光スペクトル中で、波長380nm以下の紫外光は、太陽光線中にわずか3%しか含まれておらず、紫外光領域しか使用しない光触媒では、太陽光の使用効率が極めて悪いものであった。
【0010】
そこで、近年、太陽光スペクトル全体の40%以上を占める波長400nm〜760nmの可視光領域を使用して水を分解できる光触媒の研究開発が行われている。例えば、特許文献1に記載された光触媒は、助触媒なしにおいてもより活性な水素生成反応を示し、長波長の可視光で水分解活性を有するZnSを用いた光触媒を提供することを目的として、(ZnS)
1−Y(CuX)
Y(ここでYは0.01≦Y≦0.2であり、Xはハロゲン元素である)の組成の太陽光照射下で還元剤を含む水溶液の光水分解により水素を生成する活性を有する固溶体からなることを特徴にしている。これにより、硫黄化合物を犠牲薬とする水素生成光触媒活性の高い光触媒が得られるとしている。
【0011】
また、Zスキームと呼ばれる2段階励起を利用した光触媒が知られている。これは、可視光線により水を分解して酸素を発生させる酸素発生触媒と、可視光線により水を分解して水素を発生させる水素発生触媒と、酸化還元媒体と、を組み合わせた触媒である。これにより、酸素発生触媒で水の還元に寄与しない電子が、酸化還元媒体を還元し、この還元された酸化還元媒体は、水素発生触媒で水の酸化に寄与しない正孔により酸化されて還元される前の酸化還元媒体に戻る、というサイクルを繰り返すことにより、水の完全分解(水素:酸素=2:1(量論比))が出来るとしている。このようなZスキームについては、例えば、非特許文献1に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。本明細書中で、数値範囲を“ 〜 ”を用いて表す場合は、“ 〜 ”で示される上限、下限の数値も数値範囲に含むものとする。
【0024】
<光触媒組成物の構成>
本発明の光触媒組成物は、可視光線を吸収し水を分解して酸素を発生させる酸素発生光触媒と、可視光線を吸収し水を分解して水素を発生させる水素発生光触媒と、を接合して構成され、対標準水素電極電位で比較すると、前記酸素発生光触媒のフェルミ準位よりも前記水素発生光触媒のフェルミ準位のほうが負側もしくは同等であることを特徴としている。
【0025】
本発明の光触媒組成物に含まれる酸素発生光触媒(以下、単に酸素発生光触媒と称する。)と、本発明の光触媒組成物に含まれる水素発生光触媒(以下、単に水素発生光触媒と称する。)とは、それぞれ3.0eV以下のバンドギャップエネルギーを持つ物質で構成されている。ここで、可視光線またはそれよりも長波長の光線を吸収するために必要なバンドギャップエネルギーは、Eg=3.0eV以下なので、酸素発生光触媒と、水素発生光触媒は、可視光線またはそれよりも長波長の光線を吸収することが出来る。
【0026】
また、酸素発生光触媒と、水素発生光触媒とは、バンドギャップエネルギーが、それぞれ1.0eV〜3.0eVの範囲である物質で構成されても良い。この場合は、酸素発生光触媒と、水素発生光触媒は、可視光線のみを吸収することが出来る。
【0027】
次に、
図1を参照して説明する。
図1は、種々の半導体のバンド構造と水の酸化還元電位を表す図である。
図1には、物質ごとに、伝導帯の下端と、価電子帯の上端と、バンドギャップエネルギーの値と、が示されている。酸素発生光触媒は、価電子帯の上端が酸素発生電位である1.23Vよりも正である(
図1の縦軸の下方向)物質で構成されている。これにより、水を酸化して酸素を発生させることが出来る。
【0028】
また、水素発生光触媒は、伝導帯の下端が水素発生電位である0Vよりも負である(
図1の縦軸の上方向)物質で構成されている。これにより、水を還元して水素を発生させることが出来る。
【0029】
図1中において、上述したバンドギャップエネルギー、伝導帯の下端位置、価電子帯の上端位置の条件を満たすものは、GaP, ZrO
2, Si, CdSc, TiO
2, Fe
2O
3, WO
3がある。よって、これらは、光触媒組成物を構成しうるものであるが、更に、以下の条件を満たす必要がある。ここで、
図1中に記載された物質中で、本発明を構成しうるものを示したが、
図1に記載された物質に、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0030】
水素発生光触媒と、酸素発生光触媒とは、対標準水素電極電位で比較した場合、酸素発生光触媒のフェルミ準位よりも水素発生光触媒のフェルミ準位のほうが負側になるように、もしくは同じフェルミ準位になるように構成され、さらに水素発生光触媒と酸素発生光触媒とは、互いに接合されて構成される。なお、本発明の説明において酸素発生光触媒のフェルミ準位と、水素発生光触媒のフェルミ準位とを比較する場合、全て耐標準水素電極電位で比較した場合の正側、負側について示している。
【0031】
これにより、水素発生光触媒と酸素発生光触媒とは、オーミック接合されるので、水を分解することに寄与しない、水素発生光触媒中の正孔と酸素発生光触媒中の電子とが、このオーミック接合により互いに結合する。よって、従来のZスキームでは、酸化還元剤により処理する必要があった水分解に寄与しない正孔と電子を、酸化還元剤を必要とすることなく容易に処理することが可能になった。
【0032】
更に、酸化還元剤を使用した場合、正孔と電子の授受効率が良くなかったため、水の分解に寄与できる電子と正孔とが、水の分解に寄与しない正孔と電子とに、それぞれの触媒中で再結合し水分解に寄与できなくなってしまい、水の分解効率が良くなかった。しかしながら、本発明においては、水素発生光触媒と酸素発生光触媒とをオーミック接合しているため、水分解に寄与しない正孔と電子を処理する効率が高く触媒中に水分解に寄与しない正孔と電子がほとんど存在しないので、水の分解が阻害されることなく、水の分解効率が良好になった。
【0033】
<オーミック接合について>
次に、水素発生光触媒と、酸素発生光触媒とのオーミック接合について
図2を参照して更に詳しく説明する。
図2は、半導体接合及び光照射によるバンドの変化を表した図である。
図2は、酸素発生光触媒として用いられるn型半導体と、水素発生光触媒として用いられるp型半導体を接合させたときのバンド状態を表している。図中の、E
vac、E
CBM、E
F、E
VBMは、それぞれ真空準位、伝導帯下端、フェルミ準位、価電子帯上端を示す。ここで、
図2においては、酸素発生光触媒としてn型半導体、水素発生光触媒としてp型半導体を例にとって説明しているが、本発明は、この組み合わせに限定されるものではない。
【0034】
図2の左側は、酸素発生光触媒(n型半導体)と水素発生光触媒(p型半導体)についてのバンドの状態を表している。
図2の左側に示すように、酸素発生光触媒(n型半導体)のフェルミ準位よりも水素発生光触媒(p型半導体)のフェルミ準位の方が正側(
図2において縦軸の下側)にある。これは、整流性pn接合として知られた状態であり、酸素発生光触媒(n型半導体)と水素発生光触媒(p型半導体)の接合界面は、空乏層になる。
【0035】
光照射中は、価電子帯の電子が励起されて伝導帯に移動するが、電子はエネルギー的に安定な状態になるべく、
図2の左側である酸素発生光触媒(n型半導体)に移動し、価電子帯の電子が励起されて伝導帯に移動することによって生じた価電子帯の正孔は、エネルギー的に安定な状態になるべく
図2の右側である水素発生光触媒(p型半導体)に移動する。このため、酸素発生光触媒は、正孔が不足して水を酸化する力が不足し、水素発生光触媒は、電子が不足して水を還元する力が不足する。さらに、水素発生光触媒側に移動した正孔は酸化力が低下し、水を酸化する力が不足し、酸素発生光触媒側に移動した電子は還元力が低下し、水を還元する力が不足する。
【0036】
また、Zスキームにおいては酸素発生光触媒(n型半導体)と水素発生光触媒(p型半導体)は、接合されていないので、酸素発生光触媒、水素発生光触媒の間で電子、正孔の移動は発生しない。そのため、Zスキームにおいては、酸化還元剤を使用して、酸素発生光触媒(n型半導体)側で水の還元に寄与しない電子と、水素発生光触媒(p型半導体)で水の酸化に寄与しない正孔とを中和している。
【0037】
図2の右側は、本発明の酸素発生光触媒(n型半導体)と水素発生光触媒(p型半導体)についてのバンドの状態を表している。
図2の右側に示すように、酸素発生光触媒(n型半導体)のフェルミ準位よりも水素発生光触媒(p型半導体)のフェルミ準位の方が負側(
図2において縦軸の上側)にある。
【0038】
これにより、酸素発生光触媒(n型半導体)と水素発生光触媒(p型半導体)を接合すると、
図2に示すように接合界面はオーミック接合になり、電子と正孔の移動が可能になる。ここで、フェルミ準位が上記条件を満たすn型半導体とp型半導体であるIn
2O
3とCu
2Oを接合するとオーミック接合になることが、H. Tanaka et al, Thin Solid Films, 469-470, 80-85(2004)に記載されている。このように、オーミック接合になることによって、酸化還元剤を使用しなくても、酸素発生光触媒(n型半導体)側で水の還元に寄与しない電子と、水素発生光触媒(p型半導体)で水の酸化に寄与しない正孔とを直接中和させることが出来る。
【0039】
また、
図2に示すように、酸素発生光触媒(n型半導体)側で余った電子は、エネルギー的に安定な状態になるために水素発生光触媒(p型半導体)との接合部に移動し、水素発生光触媒(p型半導体)で余った正孔は、エネルギー的に安定な状態になるために酸素発生光触媒(n型半導体)との接合部に移動する。そして、接合部においてこれら水の還元と酸化に寄与しない電子と正孔は再結合で消滅する。このように、水の還元と酸化に寄与しない電子と正孔との中和を効率良く行うことが出来る。
【0040】
このため、酸素発生光触媒(n型半導体)側には、水の還元に寄与しない電子(伝導帯電子)が存在しないため、水を酸化して酸素を発生させるための正孔(価電子帯正孔)が、この伝導帯電子と再結合し消滅することがほとんど無いので、正孔が多く存在し、水を分解して酸素を発生させる効率がよい。同様に、水素発生光触媒(p型半導体)側には、水の酸化に寄与しない正孔(価電子帯正孔)が存在しないため、水を還元して水素を発生させるための電子が、この価電子帯正孔と再結合して消滅することがほとんど無いので、電子が多く存在し、水を還元して水素を発生させる効率がよい。
【0041】
更に、
図2の光照射中の図に示されるように、本発明においては、従来のpn接合で発生する伝導帯での電子の酸素発生光触媒(n型半導体)側への移動、価電子帯での正孔の水素発生光触媒(p型半導体)側への移動が発生しないため、酸素発生光触媒(n型半導体)での正孔の酸化力の低下、水素発生光触媒(p型半導体)での電子の還元力の低下が発生しない。これにより、水の分解効率の低下を防ぐことが出来る。
【0042】
ここで、酸素発生光触媒と水素発生光触媒のフェルミ準位が同じであっても、上述したのと同様であるので説明は省略するが、上述したのと同様にオーミック接合になり、同様の作用効果を得ることが出来る。ただし、酸素発生光触媒と水素発生光触媒のフェルミ準位が同じ場合よりも、水素発生光触媒(p型半導体)が、酸素発生光触媒のフェルミ準位より負側にある場合の方が、バンドの湾曲が正孔・電子の拡散の駆動力になるため、正孔・電子の移動に有利である。このため、水の還元と酸化に寄与しない電子と正孔を効率よく再結合で消滅させることが出来るので、酸素発生光触媒と水素発生光触媒のフェルミ準位が同じ場合よりも、水素発生光触媒が、酸素発生光触媒のフェルミ準位より負側にある場合の方が水を分解して酸素と水素を発生させる効率が良好になる。
【0043】
<水分解反応機構>
次に、光触媒組成物の水分解機構について、
図3を参照して更に詳しく説明する。
図3は、光触媒組成物の水分解反応機構を説明する説明図である。
図3の縦軸は、標準水素電極電位を基準にした電位ポテンシャルである。
【0044】
図3に示すように、酸素発生光触媒は、価電子帯の上端が1.23Vよりも正の電位(
図3の縦軸では、下側が正の電位)である物質で構成されている。これにより、水を分解して酸素を発生することができる。また、水素発生光触媒は、伝導帯の下端が0Vより負の電位(
図3の縦軸では、上側が負の電位)である物質で構成されている。これにより、水を分解して水素を発生することが出来る。
【0045】
この酸素発生光触媒と水素発生光触媒とを接合することにより、バンド構造が変化して、接合界面は、
図3に示すようにオーミック接合になる。この互いに接合された酸素発生光触媒と水素発生光触媒とに可視光線を照射することにより、酸素発生光触媒の価電子帯の電子が励起されて、価電子帯に正孔が発生し、この正孔が水を酸化して酸素を発生させ、水素発生光触媒の価電子帯の電子が励起されて伝導帯に移動し、伝導帯に移動した電子が水を還元して水素を発生させる。酸素発生光触媒の伝導帯に発生した電子と、水素発生光触媒の価電子帯に発生した正孔は、オーミック接合部分で再結合して消滅する。
【0046】
次に、本発明の光触媒組成物を構成する酸素発生光触媒、水素発生光触媒の一例を
図4に示す。
図4は、本発明の光触媒組成物を構成する物質の例を表す図である。
図4においては、各物質ごとに価電子帯の下端、伝導帯の上端、バンドギャップエネルギーの値が示されている。また、縦軸は、標準水素電極電を基準にした電位ポテンシャルを示している。図中に、水素と酸素の電位ポテンシャルの位置を点線で表している。
【0047】
図4に示すように、ここに示された物質は、TiO
2を除いてバンドギャップエネルギーは、3.0eV以下なので、可視光線を吸収して価電子帯の電子が伝導帯に励起する。また、Fe
2O
3、WO
3、In
2O
3、は、価電子帯の下端が酸素の電位ポテンシャルである1.23Vよりも正の電位(
図4の縦軸の下側)なので、酸素発生光触媒になりうる。Cu
2O、Siは、伝導帯の下端が水素の電位ポテンシャルである0Vよりも負の電位(
図4の縦軸の上側)なので、水素発生光触媒になりうる。ここで、TiO
2は、バンドギャップエネルギーが3.2eVですこし3.0eVよりも大きい。よって、可視光より少し短波長の光を吸収することになるが、それを容認するならば本発明の酸素発生光触媒または水素発生光触媒として用いることも可能である。
【0048】
<本発明の光触媒組成物評価>
本発明の光触媒組成物について、可視光線を用いた水の分解について評価を行うための評価を行った。光触媒組成物は、以下に記載するように、水素発生光触媒と酸素発生光触媒を混合し、接合させることによって作製した。
【0049】
(1)準備及び評価方法
ここで準備したものは、これから記載する評価に使用される。試料は、スターバーストミニ(HJP025001、スギノマシン製)を用いて粉砕し、微粒子化した。試料の接合(酸素発生光触媒と水素発生光触媒の接合)前後の形状観察は、走査型電子顕微鏡(SEM、S-4500、日立製)を用いて行った。光を照射する光源には、林時計工業製のキセノンランプ(LA-410UV)を使用した。このキセノンランプの照射光のスペクトルを
図5に示す。水分解装置としては、幕張理化学硝子製作所製のCLS-1370-PSWGを用いた。水分解により発生した酸素、水素は、ガスクロマトグラフ(GC-8A、島津製作所製)を用いて分析を行った。
【0050】
水素発生光触媒としては、Si(4N、>99.99%、関東化学製)、Cu
2O(3N、>99.99%、関東化学製)を用い、酸素発生光触媒としては、WO
3(2N、>99%、関東化学製)、In
2O
3(3N、>99.99%、関東化学製)を用いた。Cu
2Oは、粉砕、微粒子化せずに使用した。Siは、粉砕の程度によって2種類の試料(Si-1、Si-2)を準備した。最終的な光触媒組成物は、SiとWO
3を接合することにより調製した。接合は、遊星ボールミル(セラミックボール60g)を用いて、SiとWO
3を50rpmで10分間混合することにより行った。
【0051】
試料粉砕前後の各試料の粒径をレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-910W型を用いて測定した。測定結果を
図6に示す。
図6は、試料粉砕前後の各試料の粒径を示す表である。また、試料の粉砕前後のSEM画像を
図7、
図8に、試料の接合後のSEM画像を
図9に示す。
図7は、Siの粉砕前後のSEM画像と、WO
3の粉砕後のSEM画像である。
図8は、In
2O
3とFe
2O
3の粉砕前後のSEM画像である。
図9は、Si-2とWO
3をwt%で、Si-2:WO
3=1:6になるように混合し接合した試料のSEM画像である。
図9のSEM画像から、Si粒子上にWO
3粒子が担持されていることが分かる。
【0052】
(2)事前評価(拡散反射スペクトル測定)
事前評価として、SiとWO
3の拡散反射スペクトルを測定した。測定結果を
図10に示す。
図10は、SiとWO
3の拡散反射スペクトルを示す図である。この図において、横軸は、波長(nm)を表し、左側の縦軸は、1から反射率を引いたもの(吸収率)を、右側の縦軸は、光の波長を表す。この拡散反射スペクトルから次のようにしてSiとWO
3の吸収光子数の比を求めた。
【0053】
照射光の波長1 nm毎に対して光強度が分かっているので、照射光の波長1 nm毎に対する照射光子数を計算した。照射光子数に対してSiとWO
3の吸収率が
図10の拡散反射スペクトルから求まっているため、それぞれの波長1 nm毎の吸収光子数を次式によって求めた。
【0054】
(波長1 nm毎の吸収光子数)=(照射光の波長1 nm毎に対する照射光子数)×(吸収率)
波長1 nm毎の吸収光子数を積分することによって、SiとWO
3の吸収光子数が算出し、SiとWO
3の吸収光子数の比を求めた。
【0055】
このようにして求めたSiとWO
3の吸収光子数の比は、Si:WO
3=2:1である。よって、キセノンランプのスペクトルに対して吸収光子数を同じにするためには、光触媒組成物を構成するSiとWO
3の体積比は、Si:WO
3=1:2になることが必要である。ここで、Si:WO
3の密度はそれぞれ、2.33g/cm
3、7.16g/cm
3なのでSi/WO
3接合系の試料調製の割合を質量比1:6と見積もった。このようにして求められた1:6(Si:WO
3)の質量比で、(1)準備及び評価方法で記載したように、SiとWO
3をボールミルで混合して光触媒組成物を作製した。このとき、Siは、試料Si-2を用いた。
【0056】
(3)本発明の光触媒組成物を構成する触媒の個別評価
水素発生光触媒と酸素発生光触媒を混合することなく、個別に犠牲剤(HCHO及びAg
+、Fe
3+)の存在下で光照射による水の分解評価を行った。水素発生光触媒としては、Si(Si-1)、Cu
2Oを用い、酸素発生光触媒としては、WO
3、In
2O
3を用いた。
【0057】
この評価は、水素発生光触媒については、犠牲剤としてHCHOaqを添加した蒸留水12ml中で、酸素発生光触媒については、犠牲剤としてFe
3+(WO
3)またはAg
+(In
2O
3)を添加した蒸留水12ml中で、試料60mgをマグネチックスターラーと撹拌子を用いて撹拌させながら光源から光を試料に向かって照射し、発生する気体の種類、量を測定することにより行った。また、光触媒反応は、蒸留水中の残留気体除去のため、反応容器中の試料溶液を真空引きし、アルゴンガス(50kPa)で置換後に行った。
【0058】
結果を
図11、
図12に示す。
図11は、水素発生光触媒に光を照射したときの水素発生量を示す図である。
図11の横軸は、光照射時間を示し、縦軸は、水素発生光触媒の単位重量あたりの水素発生量(μmol/g)を示す。
図12は、酸素発生光触媒に光を照射したときの酸素発生量を示す図である。
図12の横軸は、光照射時間を示し、縦軸は、酸素発生光触媒の単位重量あたりの酸素発生量(μmol/g)示す。
【0059】
図11、
図12に示されるように、Si(Si-1)、Cu
2Oは、水を分解して水素を発生させた。また、WO
3、In
2O
3は、水を分解して酸素を発生させた。Siの水素発生量は、直線的に増加し、Cu
2Oは、カーブを描く傾向を示した。WO
3においては、酸素発生が2時間経過以降減衰しているが、これは投入したFe
3+濃度を考えると、犠牲剤が全て消費されたため、即ち、犠牲剤であるFe
3+がすべて還元されてFe
2+になったためと考えられる。
【0060】
(4)本発明の光触媒組成物の評価
上述したように、Si(Si-2)とWO
3を混合して作製した光触媒組成物は、蒸留水12ml中で、光触媒組成物60mgをマグネチックスターラーと撹拌子を用いて撹拌させながら光源から光を試料に向かって照射し、発生する気体の種類、量を測定することにより行った。また、光触媒反応は、蒸留水中の残留気体除去のため、反応容器中の試料溶液を真空引きし、アルゴンガス(50kPa)で置換後に行った。
【0061】
結果を
図13に示す。
図13は、光触媒組成物に光を照射したときの水素発生量と酸素発生量を示す図である。
図13の横軸は、光照射時間を示し、縦軸は、光触媒組成物の単位重量あたりの水素発生量(μmol/g)示す。
【0062】
図13に示されるように、光触媒組成物は、犠牲剤を添加することなく、水を分解して酸素と水素を発生させた。ここで、使用した水は、蒸留水のみでありpH調製なども行っていない。
【0063】
水素と酸素の発生量は、化学量論的には2:1になるはずであるが、2:1になっていない。これは、以下の理由からである。
図13に示すように、WO
3のみでは、蒸留水中(犠牲剤無し)で酸素は発生しない。Siのみの場合は、蒸留水中(犠牲剤無し)で水素が発生することを実験において確認した。これより、遊星ボールミルを用いた接合では、部分的にSiとWO
3は、分離していると考えられ、分離したSi、即ちWO
3と接合していないSiは、それ単独でも水素を発生させるが、分離したWO
3、即ちSiと接合していないWO
3は、酸素を発生しないため化学量論比よりも水素が多く発生していると考えられる。これは、遊星ボールミルでの接合条件が最適化されていないためであると考えられる。
【0064】
<オーミック特性評価>
次にオーミック特性評価について説明する。この評価は、Si(i型、p型)とWO
3を接合し、電流電圧特性を測定することによりオーミック接合されているか否かを評価するものである。
【0065】
(1)サンプル作成
Siとして、i型のSiウエハとp型のSiウエハとを準備し、それぞれのウエハをRCA洗浄し、その後にスパッタでWO
3膜を成膜した。スパッタ条件を、下記の表1に示す。
【0066】
【表1】
上記表1に示す条件で、下記に示すようにプレスパッタ、本スパッタを実施した。プレスパッタは、Ar100%で5min実施後、Ar60%、O
240%で1min実施した。
・プレスパッタ Ar100% 5min → Ar60% O
240%
・本スパッタ Ar60% O
240% 16min
成膜は、膜厚200nmを目標にして、成膜レートが12.6nm/minなので、16min本スパッタを行った。
【0067】
(2)電流電圧特性評価
成膜後のSiウエハ表面と、Siウエハに成膜されたWO
3膜表面に電極としてPtを25minスパッタした。このサンプルについて
図14を用いて更に説明する。
図14は、オーミック特性評価用サンプルの概略側面図である。
【0068】
スライドガラス10の上には、Siウエハ20が貼付されている。Siウエハ20の一部には、WO
3膜30が成膜されており、WO
3膜30上には、Pt膜40が形成されている。また、Si膜30上には、Pt膜50が形成されている。
【0069】
Pt膜40とPt膜50には、それぞれ銀ペースト60、70によって、Cu線80、90が接続されている。Cu線80にプラス端子、Cu線90にマイナス端子を接続し、オートマチックポラリゼーションシステム(HSV-110、北斗電工株式会社)を用いて電流電圧特性を測定した。電流電圧特性の測定は、光がSiウエハに当たらないように暗い状態(以下、暗時と称する。)での測定と、光をSiウエハに照射しながら(以下、照射時と称する。)の測定と、を行った。
【0070】
(3)評価結果
測定結果を
図15、
図16に示す。
図15は、WO
3を成膜したi型Siウエハの電流電圧特性を示した図であり、
図16は、WO
3を成膜したp型Siウエハの電流電圧特性を示した図である。
図15、
図16いずれも、横軸が電圧を示し、縦軸が電流を示す。
【0071】
図15に示すように、WO
3を成膜したi型Siウエハにおいては、暗時、照射時とも電流-電圧の関係は直線になっており、WO
3とi型Siを接合するとオーミック接合されることが分かる。また、暗時よりも照射時の方が、電流が大きくなっている。これは、電子が光励起によって生成し、電流増加に寄与しているということを示す。
【0072】
また、
図16に示すように、WO
3を成膜したp型Siウエハにおいては、電圧を正側に印加したときには電流が流れにくく、負側に印加したとき電流が流れることから、整流性があることが分かる。即ち、WO
3とp型Siを接合するとオーミック接合にはならない。この理由は、p型Siのフェルミ準位よりもWO
3のフェルミ準位の方が負側にあるためと考えられる。
【0073】
なお、この評価では実施しなかったが、WO
3とn型Siとを接合するとオーミック接合になると考えられる。その理由は、n型Siのフェルミ準位よりもWO
3のフェルミ準位の方が正側だからである。
【0074】
<本発明の光触媒組成物を構成する酸素発生光触媒と水素発生光触媒>
酸素発生光触媒と水素発生光触媒は、これまでに述べた条件を満たすものであれば、本発明の光触媒組成物を構成することが出来るが、以下に、その例を挙げる。
【0075】
(1)水素発生光触媒
Si、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、Cu
2O、ZnRh
2O
4、ABO
2ただし、A = Cu, Ag (1価イオン), B = Al, Ga, In, Fe, Cr, Co (3価イオン)
(2)酸素発生光触媒
Fe
2O
3、WO
3、In
2O
3、A, BドープTiO
2ただし、A=W
6+, Mo
6+, V
5+、B=Al
3+, Ga
3+
ここで、Aイオンは、TiO
2の伝導帯下端を正側の電位にシフトするものである。また、Ti
4+であるため、電気的中性条件を満足するようにカウンタードーパントとしてBイオンが選択されるものとする。また、電気的中性条件はTi
3+の生成でもよいので、Bイオンがなくてもよい。
【0076】
以上列挙したものは、例であって、本発明の範囲はこれにより限定されるものではない。