特許第5696381号(P5696381)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5696381巻線形誘導機の始動制御方法及び始動制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5696381
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】巻線形誘導機の始動制御方法及び始動制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 9/00 20060101AFI20150319BHJP
   H02P 9/08 20060101ALI20150319BHJP
   H02P 23/00 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   H02P9/00 E
   H02P9/08 A
   H02P7/635 A
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-152600(P2010-152600)
(22)【出願日】2010年7月5日
(65)【公開番号】特開2012-16227(P2012-16227A)
(43)【公開日】2012年1月19日
【審査請求日】2013年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】安木 隆太
(72)【発明者】
【氏名】大沢 博
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 以久也
【審査官】 高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−063988(JP,A)
【文献】 米国特許第04481455(US,A)
【文献】 特開昭53−012020(JP,A)
【文献】 特開昭64−050794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 9/00
H02P 9/08
H02P 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の開閉手段を介して第1の電源系統に接続され、かつ、第2の開閉手段を介して第1の電源系統よりも低圧の第2の電源系統に接続される固定子巻線と、電力変換器を介して第1の電源系統に接続される回転子巻線と、を備えた巻線形誘導機の始動制御方法において、
前記誘導機の回転子を停止させた状態で、第1,第2の開閉手段をオフして前記固定子巻線を開放した状態で前記電力変換器により前記回転子巻線に電圧を印加し、前記固定子巻線の誘起電圧と第2の電源系統の電圧とを同期させてから第2の開閉手段をオンして第2の電源系統を前記固定子巻線に接続する第1の同期投入モードと、
前記電力変換器により前記回転子巻線に電力を供給して前記誘導機を所定速度まで加速し、その後、第2の開閉手段をオフして前記固定子巻線を開放する第1の加速モードと、
前記固定子巻線の誘起電圧と第1の電源系統の電圧とを同期させてから第1の開閉手段をオンして第1の電源系統を前記固定子巻線に接続する第2の同期投入モードと、
を順次実行して前記誘導機を始動することを特徴とする巻線形誘導機の始動制御方法。
【請求項2】
第1の電源系統と巻線形誘導機の固定子巻線との間に接続された第1の開閉手段と、
第1の電源系統よりも低圧の第2の電源系統と前記固定子巻線との間に接続された第2の開閉手段と、
第1の電源系統と巻線形誘導機の回転子巻線との間に接続された電力変換器と、
第1,第2の開閉手段及び前記電力変換器を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記誘導機の回転子を停止させた状態で、第1,第2の開閉手段をオフして前記電力変換器により前記回転子巻線に電圧を印加すると共に、前記固定子巻線の誘起電圧と第2の電源系統の電圧とを同期させて第2の開閉手段をオンし、第2の電源系統を前記固定子巻線に接続する第1の同期投入モードと、
前記電力変換器により前記回転子巻線に電力を供給して前記誘導機を加速してから第2の開閉手段をオフし、前記固定子巻線を開放する第1の加速モードと、
前記固定子巻線の誘起電圧と第1の電源系統の電圧とを同期させて第1の開閉手段をオンし、第1の電源系統を前記固定子巻線に接続する第2の同期投入モードと、
を順次実行して前記誘導機を始動することを特徴とする巻線形誘導機の始動制御装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子巻線に接続された電力変換器により巻線形誘導機の入出力電力を制御可能とした巻線形誘導機の始動制御方法、及び、この方法を実施するための始動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
巻線形誘導機の回転子巻線に入出力される電力は、電源系統に接続された固定子巻線に入出力される電力と誘導機のすべりとの積にほぼ比例する特性がある。このため、巻線形誘導機をすべりが小さな範囲で可変速制御する用途では、回転子巻線に接続された小容量の電力変換器により、可変速制御するための大きな電力を制御できるという特徴がある。しかるに、このためには巻線形誘導機をすべりが小さな速度、すなわち同期速度近傍まで加速するための始動手段が別途、必要になる。
【0003】
このような巻線形誘導機の始動制御方法として、特許文献1には、[従来の技術]として、巻線形誘導機の固定子巻線を短絡し、回転子巻線に接続された電力変換器を用いて巻線形誘導機をかご形誘導機として始動する方法が記載されており、更に、回転子座標上の直交2軸量に変換した電源系統の電圧に固定子巻線端子電圧の振幅、位相、周波数を一致させて固定子巻線を電源系統に同期投入する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ブースタトランスと称する変圧器を回転子巻線と2台の電力変換器との間に接続し、これらの電力変換器を運転して回転子巻線の電圧を上昇させる方法が記載されている。以下、この従来技術について詳述する。
【0005】
図9は、この従来技術に係る巻線形誘導機の始動制御装置を示している。図9において、50は巻線形誘導機(巻線形誘導発電電動機)であり、51は遮断器61を介して電源系統60に接続された固定子巻線、52は回転子巻線である。
回転子巻線52は、遮断器71,73を介して電力変換器76,77にそれぞれ接続されている。また、回転子巻線52は、ブースタトランス75及び遮断器72を介して前記電力変換器76に接続されると共に、ブースタトランス75及び遮断器74を介して前記電力変換器77に接続されている。
なお、78は交流出力電力変換装置、79,80,81は電源系統60と電力変換装置78との間に接続されたトランス、91は誘導機50の回転子に取り付けられた回転位相角検出器、92は同じく回転速度検出器、101は遮断器、102は誘導機50の固定子巻線51を短絡するための三相短絡器である。
【0006】
この動作を説明すると、誘導機50の始動時に三相短絡器102により固定子巻線51を短絡した状態において、遮断器71,73をオフし、遮断器72,74をオンすることによって電力変換器76,77をブースタトランス75に接続する。この状態で、電力変換器76,77をベクトル制御等の方法により運転する。
これにより、回転子巻線52には電力変換器76の出力電圧と電力変換器77の出力電圧とが重畳して印加されるため、特許文献1記載の従来技術に比べて出力電圧が増加する。従って、誘導機50からは高速運転時に大きな始動トルクを得ることができ、例えば発電機水車の水中始動に適した始動制御装置を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−198297号公報(第1頁右下欄第6行〜第3頁左上欄第8行、第2図,第3図等)
【特許文献2】特開平7−7995号公報(段落[0019]〜[0021]、図2等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、特許文献2に記載された従来技術は、巻線形誘導機を起動する方法として、何れも固定子巻線を短絡し、回転子巻線に接続された比較的小容量の電力変換器により巻線形誘導機をかご形誘導機として始動する点で一致する。
一方、巻線形誘導機では、固定子巻線の巻数と回転子巻線の巻数との比(巻数比)がほぼ1に設計されることが多い。この場合、すべりが0.1程度の範囲で可変速制御する場合、電源系統の電圧が例えば3.3[kV]であるとすると、回転子巻線の電圧は最大で約330[V]となり、標準的な400[V]定格の電力変換器を回転子巻線に接続して使用することができる。すなわち、電力変換器の定格電圧は低くてよいため、電力変換器の必要容量も小さくて済むという特徴がある。
【0009】
ところで、巻線形誘導機の回転子巻線または固定子巻線のいずれか一方を短絡し、他方の巻線から電力を供給して誘導機を加速する場合、誘導機が出力可能な最大トルク(停動トルク)は、誘導機に印加される電圧の2乗にほぼ比例することが知られている。従って、例えば回転子巻線を短絡し、固定子巻線に印加される電圧の上限値を定格電圧の1/10にすると、同期速度時の最大トルクは定格トルクの1/100まで低下するという問題がある。
【0010】
ここで、図10は、下記の等価回路定数を用いて、固定子巻線を短絡したときの速度−トルク特性の計算結果を示している。
定格出力:1000[kW]
定格速度:600[r/min]
電源系統:3.3[kV],50[Hz]
極数:10
固定子巻線抵抗:2[%](0.183[Ω])
回転子巻線抵抗:2[%](0.183[Ω])
固定子漏れインダクタンス:10[%](2.92[mH])
回転子漏れインダクタンス:10[%](2.92[mH])
励磁インダクタンス:200[%](18.3[mH])
固定子巻線の電圧上限値:400[V]
巻数比:1.3
【0011】
図10によれば、特許文献1に係る従来技術(特性線B1とする)では、同期速度(電源周波数ω)での最大トルクは定格トルクの約3.5[%]となる。誘導機の等価回路から計算した最大トルクには、機械損及び鉄損の影響は考慮されていない。従って、回転速度の上昇に伴って大きくなる機械損及び鉄損の影響を考慮すると、同期速度近傍まで加速できないという問題や、同期速度近傍まで加速する時間(加速時間)が許容できないほど長くなる等の問題が生じる。
なお、図10において、特性線B2は特許文献2に係る従来技術の速度−トルク特性、特性線Aは本発明の実施例による速度−トルク特性であり、これらの特性線A,B1,B2の比較結果については後述することとする。
【0012】
一方、特許文献2では、上記問題を解決するため、ブースタトランス75等を追加して回転子巻線52に印加される最大電圧を大きくしているが、誘導機50を始動するためにブースタトランス75や各2台の電力変換器76,77及び変圧器79,80が必要であり、装置体積の大型化や重量化、高コスト化を招くという問題がある。
【0013】
そこで、本発明の解決課題は、巻線形誘導機の始動トルクを改善し、装置全体の小型軽量化、低コスト化を可能にした巻線形誘導機の始動制御方法及び始動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、請求項1に係る始動制御方法は、第1の開閉手段を介して第1の電源系統に接続され、かつ、第2の開閉手段を介して第1の電源系統よりも低圧の第2の電源系統に接続される固定子巻線と、電力変換器を介して第1の電源系統に接続される回転子巻線と、を備えた巻線形誘導機の始動制御方法において、
前記誘導機の回転子を停止させた状態で、第1,第2の開閉手段をオフして前記固定子巻線を開放した状態で前記電力変換器により前記回転子巻線に電圧を印加し、前記固定子巻線の誘起電圧と第2の電源系統の電圧とを同期させてから第2の開閉手段をオンして第2の電源系統を前記固定子巻線に接続する第1の同期投入モードと、
前記電力変換器により前記回転子巻線に電力を供給して前記誘導機を所定速度まで加速し、その後、第2の開閉手段をオフして前記固定子巻線を開放する第1の加速モードと、
前記固定子巻線の誘起電圧と第1の電源系統の電圧とを同期させてから第1の開閉手段をオンして第1の電源系統を前記固定子巻線に接続する第2の同期投入モードと、
を順次実行して前記誘導機を始動するものである。
【0015】
請求項2に係る始動制御装置は、第1の電源系統と巻線形誘導機の固定子巻線との間に接続された第1の開閉手段と、
第1の電源系統よりも低圧の第2の電源系統と前記固定子巻線との間に接続された第2の開閉手段と、
第1の電源系統と巻線形誘導機の回転子巻線との間に接続された電力変換器と、
第1,第2の開閉手段及び前記電力変換器を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記誘導機の回転子を停止させた状態で、第1,第2の開閉手段をオフして前記電力変換器により前記回転子巻線に電圧を印加すると共に、前記固定子巻線の誘起電圧と第2の電源系統の電圧とを同期させて第2の開閉手段をオンし、第2の電源系統を前記固定子巻線に接続する第1の同期投入モードと、
前記電力変換器により前記回転子巻線に電力を供給して前記誘導機を加速してから第2の開閉手段をオフし、前記固定子巻線を開放する第1の加速モードと、
前記固定子巻線の誘起電圧と第1の電源系統の電圧とを同期させて第1の開閉手段をオンし、第1の電源系統を前記固定子巻線に接続する第2の同期投入モードと、
を順次実行して前記誘導機を始動するものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1または請求項に係る発明によれば、特許文献1に係る従来技術に対しては、高速時の始動トルク特性を改善し、また、特許文献2に係る従来技術に対しては、ブースタトランスや2台の電力変換器を用いることなく巻線形誘導機を始動可能として、装置全体の小型軽量化、低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1に係る始動制御装置の構成図である。
図2】実施例1に係る始動制御方法の操作手順を示すフローチャートである。
図3】実施例1における誘導機の時間−速度特性図である。
図4】従来技術に係る始動制御方法の操作手順を示すフローチャートである。
図5】従来技術における誘導機の時間−速度特性図である。
図6】実施例2に係る始動制御装置の構成図である。
図7】実施例2に係る始動制御方法の操作手順を示すフローチャートである。
図8】実施例2における誘導機の時間−速度特性図である。
図9】特許文献2に係る従来技術の構成図である。
図10】従来技術及び本発明の実施例による誘導機の速度−トルク特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
本発明の実施形態は、誘導機の始動時に、巻線形誘導機の固定子巻線を低圧の電源系統に接続すると共に、回転子巻線に接続された電力変換器によって誘導機の入出力電力を制御することにより、従来技術に比べて速度−トルク特性を改善するものである。この実施形態を具体化した実施例1,2を、以下に説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は、請求項1,に対応する実施例1の構成図であり、例えば三相の電源系統に接続された三相巻線形誘導機の始動制御装置を単線図によって表したものである。
図1において、10は三相巻線形誘導機、11はその固定子巻線、12は回転子巻線、13は回転子であり、回転子13には、速度検出器14が取り付けられている。
【0022】
また、21は第1の交流電源系統であり、この電源系統21には、開閉器31を介して誘導機10の固定子巻線11が接続されている。ここで、「開閉器」は、故障時の大電流の遮断能力を持たない開閉手段であり、大電流の遮断能力を持つ「遮断器」と区別されるが、本発明では大電流の遮断能力の有無を問わず、単に電路を開閉する開閉手段として機能すればよいため、開閉器、遮断器の何れであっても良い。以下、各実施例における「開閉器」は開閉器、遮断器を総称した意味で用いることとする。
22は、電源系統21よりも低圧の第2の交流電源系統であり、この電源系統22には、開閉器32を介して誘導機10の固定子巻線11が接続されている。
なお、第2の電源系統22としては、下記の降圧トランス33の低圧巻線(二次巻線)を、開閉器32を介して固定子巻線11に接続して構成することも可能である。すなわち、第2の電源系統22は、必ずしも第1の電源系統21と独立した別個の電源系統である必要はなく、第1の電源系統21を降圧して構成してもよい。
【0023】
電源系統21には降圧トランス33の一次側が接続され、その二次側はインバータやマトリクスコンバータ等の電力変換器34を介して誘導機10の回転子巻線12に接続されている。
本実施例では、第1の電源系統21に接続された電力変換器34によって回転子巻線12への供給電力を制御することにより、第2の電源系統22に接続された固定子巻線11の入出力電力を制御する。ここで、図1では回転子13の軸に速度検出器14を取り付けて速度をフィードバック制御する例を示しているが、本発明は、速度を検出せずにV/f一定制御や速度センサレス制御などによって始動する場合にも適用可能である。
なお、第1,第2の開閉器31,32の開閉制御及び電力変換器34の駆動制御を行うための制御装置は、図示を省略してある。
【0024】
次に、この実施例1における誘導機10の始動制御方法を、図2図3を参照しつつ説明する。図2は、始動制御方法の操作手順を示すフローチャートであり、図3は、誘導機10の時間−速度特性図である。
【0025】
始めに、時刻tにて開閉器31,32をオフしておくことにより、初期状態とする(ステップS1)。
【0026】
次に、期間tの第1の同期投入モードにおいて、まず、電力変換器34によって回転子巻線12に電圧を印加すると共に、開閉器31,32のオフにより固定子巻線11を開放した状態で固定子巻線11に誘起電圧を発生させ、この誘起電圧を第2の電源系統22の電圧に同期させる制御を行う(ステップS2)。
すなわち、後に開閉器32をオンする前に固定子巻線11の誘起電圧と電源系統22の電圧との振幅及び位相を一致させることで、開閉器32をオンした際のショックを低減する。なお、電圧の振幅及び位相を制御する方法は、電圧のフィードバック制御やPLL制御など各種公知であるため、ここでは説明を省略する。
そして、固定子巻線11の誘起電圧の振幅及び位相が、電源系統22の電圧の振幅及び位相と等しくなったら開閉器32をオンし、固定子巻線11を電源系統22に接続して同期投入する(ステップS3)。
【0027】
次に、期間tの第1の加速モードにおいて、電力変換器34を用いた公知のベクトル制御により、回転子巻線12に電圧を印加して回転子13を加速する(ステップS4)。回転速度が、同期速度に相当するωになったら、開閉器32をオフし、固定子巻線11を開放する(ステップS5)。
【0028】
次いで、期間tの第2の同期投入モードにおいて、第1の同期投入モードと同様に、固定子巻線11を開放した状態で固定子巻線11の誘起電圧を電源系統21の電圧に同期させる制御を行った後に、開閉器31をオンし、固定子巻線11を電源系統21に接続する(ステップS6,S7)。
【0029】
その後、期間tの第2の加速モードにおいて、第1の加速モードと同様に電力変換器34のベクトル制御により、回転子13を更に加速する。ここでは、定格電力によって回転子13を加速することができる。そして、図3に示すごとく、回転速度がωに達したら、始動終了とする。
【0030】
以下、この実施例1と対比するために、前述した特許文献2に係る従来技術(図9参照)の始動制御方法を説明する。図4は、この従来技術による始動制御方法の手順を示すフローチャートであり、図5は誘導機の時間−速度特性図である。
従来技術では、まず、時刻tの初期状態として、図9における遮断器71,73をオフし、遮断器72,74をオンし、電力変換器76,77をブースタトランス75に接続する(ステップS31)。また、遮断器61をオフすると共に遮断器101をオンして三相短絡器102により固定子巻線51を短絡し、誘導機50を一般的な誘導電動機として構成する。
【0031】
次に、期間tの加速モードにおいて、電力変換器76,77を運転し、これらの出力電圧をブースタトランス75を介し重畳して誘導機50の回転子巻線52に印加することにより誘導機50を加速する(ステップS32)。
その後、回転速度がωになったら、遮断器101をオフし(ステップS33)、以後は図2における第2の同期投入モード、第2の加速モードと同様に、期間tの同期投入モード、期間tの加速モードを順次実行する(ステップS34〜S36)。
【実施例2】
【0032】
図6、実施例2の構成図であり、図1に示した実施例1と同様な部分は同一符号を付して説明を省略し、以下では実施例1と異なる部分を中心に説明する。
この実施例2では、誘導機10の固定子巻線11が開閉器35を介して三相短絡器36に接続されている。
【0033】
実施例2に係る始動制御装置は、回転子13が静止している状態から回転速度がω図8参照)になるまで三相短絡器36により固定子巻線11を短絡して始動するものである。この実施例2による始動制御方法を、図7のフローチャート及び図8の時間−速度特性図を参照しつつ以下に説明する。
【0034】
まず、時刻tの初期状態として、回転子13が静止している状態で、開閉器31,32をオフ、開閉器35をオンとする(ステップS11)。
【0035】
次に、期間tの初期加速モードにおいて、上述した如くオン状態の開閉器35及び三相短絡器36によって固定子巻線11を短絡することにより、巻線形誘導機10を一般的な誘導電動機として構成する。その後、電力変換器34を用いた公知のベクトル制御により、回転子巻線12に給電し、回転子13を加速する(ステップS12)。回転子13の回転速度がωになったら開閉器35をオフし、短絡されていた固定子巻線11を開放する(ステップS13)。
【0036】
以下、回転速度ωの状態で、実施例1と同様にして期間tの第1の同期投入モードに移行し(ステップS14,S15)、固定子巻線11を第2の電源系統22に同期投入する。以後の操作(ステップS16〜S20)は実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0037】
ここで、図10は、特許文献1,2に係る従来技術(特性線をそれぞれB1,B2とする)、及び、本発明の実施例1(特性線をAとする)による誘導機の速度−トルク特性図であり、ある巻線形誘導機の回路定数を用いてそれぞれの始動制御装置を用いた場合のものである。
特許文献1に係る従来技術(特性線B1)では、電力変換器の電圧制限により、高速時では回転速度とトルクとがほぼ反比例しており、前述したように、電源周波数ω付近ではトルクが3.5[%]程度になっている。このため、誘導機の摩擦損や機械損が大きいと電源周波数まで加速することができない恐れがある。
また、特許文献2に係る従来技術(特性線B2)では、ブースタトランスによって電力変換器の電圧を回転子巻線に重畳することにより、トルクを増加させることが可能になっているが、高速になるほその効果が小さくなっていることが明らかである。
【0038】
これに対して、本発明の実施例1(特性線A)では、低速時では電力変換器の電圧制限の影響が現れるものの、少なくとも7[%]程度のトルクが得られるため、始動不能に陥る可能性は低くなる。
また、高速時には、固定子巻線の電圧と回転子巻線の電圧とのベクトル和が誘導機に作用すると共に、回転子巻線の電圧周波数が小さくなるのでリアクタンスによる損失が少なくなり、結果的に大きなトルクが得られている。
総じて、本発明によれば、高速時の始動トルク特性を改善し、ブースタトランスや複数台の電力変換器を必要とせずに小型軽量かつ低コストの装置構成によって巻線形誘導機を始動可能であると共に、静止状態から高速回転時までのトルク特性を改善してスムーズな加速を実現することができる。
【符号の説明】
【0039】
10:巻線形誘導機
11:固定子巻線
12:回転子巻線
13:回転子
14:速度検出器
21,22:交流電源系統
31,32,35:開閉器
33:降圧トランス
34:電力変換器
36:三相短絡器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10