【実施例1】
【0021】
図1は、請求項1,
2に対応する実施例1の構成図であり、例えば三相の電源系統に接続された三相巻線形誘導機の始動制御装置を単線図によって表したものである。
図1において、10は三相巻線形誘導機、11はその固定子巻線、12は回転子巻線、13は回転子であり、回転子13には、速度検出器14が取り付けられている。
【0022】
また、21は第1の交流電源系統であり、この電源系統21には、開閉器31を介して誘導機10の固定子巻線11が接続されている。ここで、「開閉器」は、故障時の大電流の遮断能力を持たない開閉手段であり、大電流の遮断能力を持つ「遮断器」と区別されるが、本発明では大電流の遮断能力の有無を問わず、単に電路を開閉する開閉手段として機能すればよいため、開閉器、遮断器の何れであっても良い。以下、各実施例における「開閉器」は開閉器、遮断器を総称した意味で用いることとする。
22は、電源系統21よりも低圧の第2の交流電源系統であり、この電源系統22には、開閉器32を介して誘導機10の固定子巻線11が接続されている。
なお、第2の電源系統22としては、下記の降圧トランス33の低圧巻線(二次巻線)を、開閉器32を介して固定子巻線11に接続して構成することも可能である。すなわち、第2の電源系統22は、必ずしも第1の電源系統21と独立した別個の電源系統である必要はなく、第1の電源系統21を降圧して構成してもよい。
【0023】
電源系統21には降圧トランス33の一次側が接続され、その二次側はインバータやマトリクスコンバータ等の電力変換器34を介して誘導機10の回転子巻線12に接続されている。
本実施例では、第1の電源系統21に接続された電力変換器34によって回転子巻線12への供給電力を制御することにより、第2の電源系統22に接続された固定子巻線11の入出力電力を制御する。ここで、
図1では回転子13の軸に速度検出器14を取り付けて速度をフィードバック制御する例を示しているが、本発明は、速度を検出せずにV/f一定制御や速度センサレス制御などによって始動する場合にも適用可能である。
なお、第1,第2の開閉器31,32の開閉制御及び電力変換器34の駆動制御を行うための制御装置は、図示を省略してある。
【0024】
次に、この実施例1における誘導機10の始動制御方法を、
図2、
図3を参照しつつ説明する。
図2は、始動制御方法の操作手順を示すフローチャートであり、
図3は、誘導機10の時間−速度特性図である。
【0025】
始めに、時刻t
0にて開閉器31,32をオフしておくことにより、初期状態とする(ステップS1)。
【0026】
次に、期間t
2の第1の同期投入モードにおいて、まず、電力変換器34によって回転子巻線12に電圧を印加すると共に、開閉器31,32のオフにより固定子巻線11を開放した状態で固定子巻線11に誘起電圧を発生させ、この誘起電圧を第2の電源系統22の電圧に同期させる制御を行う(ステップS2)。
すなわち、後に開閉器32をオンする前に固定子巻線11の誘起電圧と電源系統22の電圧との振幅及び位相を一致させることで、開閉器32をオンした際のショックを低減する。なお、電圧の振幅及び位相を制御する方法は、電圧のフィードバック制御やPLL制御など各種公知であるため、ここでは説明を省略する。
そして、固定子巻線11の誘起電圧の振幅及び位相が、電源系統22の電圧の振幅及び位相と等しくなったら開閉器32をオンし、固定子巻線11を電源系統22に接続して同期投入する(ステップS3)。
【0027】
次に、期間t
3の第1の加速モードにおいて、電力変換器34を用いた公知のベクトル制御により、回転子巻線12に電圧を印加して回転子13を加速する(ステップS4)。回転速度が、同期速度に相当するω
2になったら、開閉器32をオフし、固定子巻線11を開放する(ステップS5)。
【0028】
次いで、期間t
4の第2の同期投入モードにおいて、第1の同期投入モードと同様に、固定子巻線11を開放した状態で固定子巻線11の誘起電圧を電源系統21の電圧に同期させる制御を行った後に、開閉器31をオンし、固定子巻線11を電源系統21に接続する(ステップS6,S7)。
【0029】
その後、期間t
5の第2の加速モードにおいて、第1の加速モードと同様に電力変換器34のベクトル制御により、回転子13を更に加速する。ここでは、定格電力によって回転子13を加速することができる。そして、
図3に示すごとく、回転速度がω
3に達したら、始動終了とする。
【0030】
以下、この実施例1と対比するために、前述した特許文献2に係る従来技術(
図9参照)の始動制御方法を説明する。
図4は、この従来技術による始動制御方法の手順を示すフローチャートであり、
図5は誘導機の時間−速度特性図である。
従来技術では、まず、時刻t
0の初期状態として、
図9における遮断器71,73をオフし、遮断器72,74をオンし、電力変換器76,77をブースタトランス75に接続する(ステップS31)。また、遮断器61をオフすると共に遮断器101をオンして三相短絡器102により固定子巻線51を短絡し、誘導機50を一般的な誘導電動機として構成する。
【0031】
次に、期間t
1の加速モードにおいて、電力変換器76,77を運転し、これらの出力電圧をブースタトランス75を介し重畳して誘導機50の回転子巻線52に印加することにより誘導機50を加速する(ステップS32)。
その後、回転速度がω
2になったら、遮断器101をオフし(ステップS33)、以後は
図2における第2の同期投入モード、第2の加速モードと同様に、期間t
4の同期投入モード、期間t
5の加速モードを順次実行する(ステップS34〜S36)。
【実施例2】
【0032】
図6は
、実施例2の構成図であり、
図1に示した実施例1と同様な部分は同一符号を付して説明を省略し、以下では実施例1と異なる部分を中心に説明する。
この実施例2では、誘導機10の固定子巻線11が開閉器35を介して三相短絡器36に接続されている。
【0033】
実施例2に係る始動制御装置は、回転子13が静止している状態から回転速度がω
1(
図8参照)になるまで三相短絡器36により固定子巻線11を短絡して始動するものである。この実施例2による始動制御方法を、
図7のフローチャート及び
図8の時間−速度特性図を参照しつつ以下に説明する。
【0034】
まず、時刻t
0の初期状態として、回転子13が静止している状態で、開閉器31,32をオフ、開閉器35をオンとする(ステップS11)。
【0035】
次に、期間t
1の初期加速モードにおいて、上述した如くオン状態の開閉器35及び三相短絡器36によって固定子巻線11を短絡することにより、巻線形誘導機10を一般的な誘導電動機として構成する。その後、電力変換器34を用いた公知のベクトル制御により、回転子巻線12に給電し、回転子13を加速する(ステップS12)。回転子13の回転速度がω
1になったら開閉器35をオフし、短絡されていた固定子巻線11を開放する(ステップS13)。
【0036】
以下、回転速度ω
1の状態で、実施例1と同様にして期間t
2の第1の同期投入モードに移行し(ステップS14,S15)、固定子巻線11を第2の電源系統22に同期投入する。以後の操作(ステップS16〜S20)は実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0037】
ここで、
図10は、特許文献1,2に係る従来技術(特性線をそれぞれB1,B2とする)、及び、本発明の実施例1(特性線をAとする)による誘導機の速度−トルク特性図であり、ある巻線形誘導機の回路定数を用いてそれぞれの始動制御装置を用いた場合のものである。
特許文献1に係る従来技術(特性線B1)では、電力変換器の電圧制限により、高速時では回転速度とトルクとがほぼ反比例しており、前述したように、電源周波数ω
2付近ではトルクが3.5[%]程度になっている。このため、誘導機の摩擦損や機械損が大きいと電源周波数まで加速することができない恐れがある。
また、特許文献2に係る従来技術(特性線B2)では、ブースタトランスによって電力変換器の電圧を回転子巻線に重畳することにより、トルクを増加させることが可能になっているが、高速になるほその効果が小さくなっていることが明らかである。
【0038】
これに対して、本発明の実施例1(特性線A)では、低速時では電力変換器の電圧制限の影響が現れるものの、少なくとも7[%]程度のトルクが得られるため、始動不能に陥る可能性は低くなる。
また、高速時には、固定子巻線の電圧と回転子巻線の電圧とのベクトル和が誘導機に作用すると共に、回転子巻線の電圧周波数が小さくなるのでリアクタンスによる損失が少なくなり、結果的に大きなトルクが得られている。
総じて、本発明によれば、高速時の始動トルク特性を改善し、ブースタトランスや複数台の電力変換器を必要とせずに小型軽量かつ低コストの装置構成によって巻線形誘導機を始動可能であると共に、静止状態から高速回転時までのトルク特性を改善してスムーズな加速を実現することができる。