(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5696385
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】液化天然ガスの熱量算出システムおよび液化天然ガスの熱量算出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/20 20060101AFI20150319BHJP
G05B 13/04 20060101ALI20150319BHJP
G05B 17/02 20060101ALI20150319BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20150319BHJP
G06F 19/00 20110101ALI20150319BHJP
【FI】
G01N25/20 J
G05B13/04
G05B17/02
G05B23/02 P
G06F19/00 110
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-158710(P2010-158710)
(22)【出願日】2010年7月13日
(65)【公開番号】特開2012-21837(P2012-21837A)
(43)【公開日】2012年2月2日
【審査請求日】2013年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柏 良輔
(72)【発明者】
【氏名】仲矢 実
【審査官】
遠藤 孝徳
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−212334(JP,A)
【文献】
特開2005−332360(JP,A)
【文献】
特開2010−8165(JP,A)
【文献】
特開2010−26842(JP,A)
【文献】
特開2006−47071(JP,A)
【文献】
特開2008−65588(JP,A)
【文献】
特開2000−162956(JP,A)
【文献】
特開2010−79464(JP,A)
【文献】
特開平10−38827(JP,A)
【文献】
特開2000−328073(JP,A)
【文献】
特許第3299019(JP,B2)
【文献】
特公平5−22815(JP,B2)
【文献】
特開2007−193420(JP,A)
【文献】
特表2008−503605(JP,A)
【文献】
特許第4447639(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00 − 25/72
G05B 13/00 − 13/04
G05B 17/00 − 17/02
G05B 23/00 − 23/02
G06F 19/00 − 19/28
C10L 3/00 − 3/12
G01K 17/00 − 17/20
G01N 33/00 − 33/46
G09B 9/00 − 9/56
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントにおける液化天然ガスの熱量を算出する熱量算出システムにおいて、
複数種類の液化天然ガスを混合するプラントのデータを逐次収集する収集手段と、
前記収集手段により収集されるデータを、前記プラントを模擬するモデルに入力することにより、前記プラントの特定箇所における液化天然ガスの成分分率、温度、および圧力を逐次算出するシミュレーション手段と、
前記シミュレーション手段により算出される前記特定箇所における前記液化天然ガスの成分分率、温度、および圧力に基づいて前記特定箇所における前記液化天然ガスの熱量を逐次算出する熱量算出手段と、
を備え、
前記収集手段により収集されるデータには、前記プラントで使用されている制御信号が含まれ、
前記特定箇所では、複数種類の前記液化天然ガスが混合されていることを特徴とする熱量算出システム。
【請求項2】
前記熱量算出手段により算出された熱量に応じた制御を、前記プラントに対して実行する制御手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の熱量算出システム。
【請求項3】
前記シミュレーション手段により算出される液化天然ガスの窒素含有量を監視する監視手段を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の熱量算出システム。
【請求項4】
前記収集手段で収集される前記データに代えて、プラントの仮想データを前記シミュレーション手段に与える仮想データ入力手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱量算出システム。
【請求項5】
プラントにおける液化天然ガスの熱量を算出する熱量算出方法において、
複数種類の液化天然ガスを混合するプラントのデータを逐次収集する収集ステップと、
前記収集ステップにより収集されるデータを、前記プラントを模擬するモデルに入力することにより、前記プラントの特定箇所における液化天然ガスの成分分率、温度、および圧力を逐次算出するシミュレーションステップと、
前記シミュレーションステップにより算出される前記特定箇所における前記液化天然ガスの成分分率、温度、および圧力に基づいて前記特定箇所における前記液化天然ガスの熱量を逐次算出する熱量算出ステップと、
を備え、
前記収集ステップにより収集されるデータには、前記プラントで使用されている制御信号が含まれ、
前記特定箇所では、複数種類の前記液化天然ガスが混合されていることを特徴とする熱量算出方法。
【請求項6】
前記熱量算出ステップにより算出された熱量に応じた制御を、前記プラントに対して実行する制御ステップを備えることを特徴とする請求項5に記載の熱量算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントにおける液化天然ガスの熱量を算出する熱量算出システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
LNG(液化天然ガス)の熱量を計測する方法として、液体クロマトグラフによる方法と、特開2006−047071号公報に開示された方法がある。
【0003】
液体クロマトグラフは通常、分析装置あるいは精製装置として使用され、液体クロマトグラフにより、物質の化学的相互作用や分子の大きさの違いなどによって混合成分を分離、定量することが可能である。
【0004】
また、特開2006−047071号公報には、液密度の計測値を温度、圧力の計測値で補正し、予め求めておいた液密度と熱量との関係から熱量を算出する手法、さらに算出された熱量を窒素含有率で補正する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−047071号公報
【特許文献2】特開2005−332360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、液体クロマトグラフにより熱量を計測する方法では計測に時間がかかり、例えば、計測結果をLNGプラントでの制御に利用することができない。
【0007】
また、特開2006−047071号公報に開示された方法では、液密度と熱量の関係を予め求める必要がある。また、窒素含有率によって熱量計算値の補正を行っているが、成分のばらつきによる補正は行っていない。しかし、液体密度と熱量の間の相関は気体密度と熱量の間の相関に比べて低くなるため、成分比率が大きく異なるLNGを新たに導入した場合、両者の関係を定義しなおす必要があるが、これは煩雑な作業が要求され現実的でない。つまり、熱量が異なるLNGやLPGを混入する場合には、正確に熱量計測ができなくなる。
【0008】
近年ではLNGの低熱量化などにより、気化する前に高熱量のLNGやLPGを混合し、ある程度の高い熱量の液に調整してから気化するなどの制御が検討されるようになってきている。このため、複雑な制御が行われるLNGプラントにおいても迅速かつ正確に熱量を算出でき、算出結果をプラントでの制御に利用できるようなシステムの開発が望まれている。
【0009】
本発明の目的は、迅速かつ正確にプラントにおけるLNGの熱量を算出できる液化天然ガスの熱量算出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の熱量算出システムは、プラントにおける液化天然ガスの熱量を算出する熱量算出システムにおいて、複数種類の液化天然ガスを混合するプラントのデータを逐次収集する収集手段と、前記収集手段により収集されるデータを、前記プラントを模擬するモデルに入力することにより、前記プラント
の特定箇所における液化天然ガスの成分分率、温度、および圧力を逐次算出するシミュレーション手段と、前記シミュレーション手段により算出される
前記特定箇所における前記液化天然ガスの成分分率、温度、および圧力に基づいて
前記特定箇所における前記液化天然ガスの熱量を逐次算出する熱量算出手段と、を備え、前記収集手段により収集されるデータには、前記プラントで使用されている制御信号が含まれ
、前記特定箇所では、複数種類の前記液化天然ガスが混合されていることを特徴とする。
この熱量算出システムによれば、逐次シミュレーションされる液化天然ガスの成分分率、温度、および圧力に基づいて液化天然ガスの熱量を逐次算出するので、迅速かつ正確にプラントにおけるLNGの熱量を算出できる。
【0011】
前記熱量算出手段により算出された熱量に応じた制御を、前記プラントに対して実行する制御手段を備えてもよい。
【0012】
前記シミュレーション手段により算出される液化天然ガスの
窒素含有量を監視する監視手段を備えてもよい。
【0013】
前記収集手段で収集される前記データに代えて、プラントの仮想データを前記シミュレーション手段に与える仮想データ入力手段を備えてもよい。
【0014】
本発明の熱量算出方法は、プラントにおける液化天然ガスの熱量を算出する熱量算出方法において、複数種類の液化天然ガスを混合するプラントのデータを逐次収集する収集ステップと、前記収集ステップにより収集されるデータを、前記プラントを模擬するモデルに入力することにより、前記プラント
の特定箇所における液化天然ガスの成分分率、温度、および圧力を逐次算出するシミュレーションステップと、前記シミュレーションステップにより算出される
前記特定箇所における前記液化天然ガスの成分分率、温度、および圧力に基づいて
前記特定箇所における前記液化天然ガスの熱量を逐次算出する熱量算出ステップと、を備え、前記収集ステップにより収集されるデータには、前記プラントで使用されている制御信号が含まれ
、前記特定箇所では、複数種類の前記液化天然ガスが混合されていることを特徴とする。
この熱量算出方法によれば、逐次シミュレーションされる液化天然ガスの成分分率、温度、および圧力に基づいて液化天然ガスの熱量を逐次算出するので、迅速かつ正確にプラントにおけるLNGの熱量を算出できる。
【0015】
前記熱量算出ステップにより算出された熱量に応じた制御を、前記プラントに対して実行する制御ステップを備えてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱量算出システムによれば、逐次シミュレーションされる液化天然ガスの成分分率、温度、および圧力に基づいて液化天然ガスの熱量を逐次算出するので、迅速かつ正確にプラントにおけるLNGの熱量を算出できる。
【0017】
本発明の熱量算出方法によれば、逐次シミュレーションされる液化天然ガスの成分分率、温度、および圧力に基づいて液化天然ガスの熱量を逐次算出するので、迅速かつ正確にプラントにおけるLNGの熱量を算出できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明による熱量算出システムの一実施形態について説明する。
【0020】
図1は、本実施形態の熱量算出システムの構成を示すブロック図である。
【0021】
図1に示すように、LNG(液化天然ガス)をガス化するLNGプラント1は、プラント制御装置2により制御される。
【0022】
LNGプラント1に配置された測定器で取得されたデータや、LNGプラント1で使用される制御信号等のデータは、ネットワークおよびデータ収集装置3を介してトラッキングシミュレータ5に逐次、送られる。
【0023】
図1に示すように、トラッキングシミュレータ5は、物理化学モデルを用いてLNGプラント1を擬似するプラントモデル5Aに、データ収集装置3を介して送られてくる上記データを入力、演算することにより、LNGプラント1をシミュレーションするシミュレーション部51と、シミュレーション部51におけるシミュレーション結果とLNGプラント1から得られるデータとを比較することにより、プラントモデル5Aのモデルパラメータを調整してプラントモデル5Aを実プラント(LNGプラント1)の動作に合わせ込むモデル調整部52と、を備える。
【0024】
また、トラッキングシミュレータ5には、シミュレーション部51から熱量の算出に必要なデータ(シミュレーション結果)を取得し、そのデータを用いてLNGガスの熱量を算出する熱量算出部53が設けられている。熱量算出部53において算出された熱量は、熱量表示装置6に送られて表示される。
【0025】
ここで、シミュレーション部51から得られる熱量の算出に必要なデータ(シミュレーション結果)には、熱量計算を行う位置におけるLNG成分分率(濃度)、その位置における現在温度および現在圧力が含まれる。また、熱量算出部53には、熱量の算出に必要なデータとして、各LNG成分の標準生成熱、各LNG成分が持つ熱容量(定圧比熱)、その他の定数が予め与えられる。
【0026】
以下、標準生成熱を利用した熱量算出の手順について説明する。この手順は、熱量算出部53により実行される。
【0027】
LNGはメタンやエタンなどの炭素化合物や窒素等の成分を含んでおり、産地によってその成分の種類、割合は異なっている。ここで、炭素、水素、酸素および窒素からなる分子式で表される化合物の熱量は燃焼熱であるため、燃焼時の反応は燃焼生成物を二酸化炭素、水および窒素とする燃焼反応式として表現することができる。例えばメタンCH
4の燃焼反応式は以下のように示すことができる。
【0028】
CH
4(g)+2O
2(g)→CO
2(g)+2H
2O(l)
ここで、(g)は気体、(l)は液体を示す。
【0029】
次に、メタンCH
4の熱量を総発熱量(高位発熱量)とすると、
【0030】
【数1】
で表すことができ、各物質の
【0031】
【数2】
を用いて以下のように計算することができる。
【0033】
なお、ここで用いた各物質の標準生成熱(標準生成エンタルピー変化)は化学便覧等に記載されており、以下の通りである。これらの数値は予めトラッキングシミュレータ5に与えられ、計算に使用される。
【0035】
同様に、真発熱量(低位発熱量)を求める場合は、以下のように水の標準生成熱を気体のものに置換することで計算できる。
【0037】
これらの数値は標準温度、標準圧力の熱量であるので、シミュレーション部51から得られる現在温度および現在圧力に基づいて以下の演算を行う。
【0039】
最終的なLNG液熱量は以上の手順により計算される各成分の熱量に、シミュレーション部51から得られる成分分率を乗じて加算したものとなり、熱量算出部53により算出される。また、その算出結果は熱量表示装置6に表示される。
【0040】
例えば、対象とするLNGの成分分率がメタンCH4・85%、エタンC2H6・10%、プロパンC3H8・5%であったとすると、LNGの熱量Δ
cH
LNGは以下のように計算される。
【0042】
以上のように、本実施形態の熱量算出システムでは、トラッキングシミュレータを用いて計測位置における成分分率、温度、圧力を推定し、これに基づいてLNGの液熱量を算出するため、プラント内の任意の位置における熱量を推定することが可能となる。例えば、産地が異なり熱量が異なるような複数のLNGを液のまま混合して使用する場合でも、任意の位置における熱量を算出できる。
【0043】
また、トラッキングシミュレータのデータを利用した数値計算により熱量を算出できるため、高速で熱量を算出でき、算出結果をプラント制御装置2による制御に利用することもできる。
【0044】
さらに、密度計を用いた熱量計測のように、密度と熱量の相関関係を予め求める必要もない。
【0045】
なお、上記実施形態では、液体における熱量を算出する例を示しているが、気体での熱量を算出することもできる。この場合においても、トラッキングシミュレータを用いて任意の計測位置における成分分率、温度、圧力を推定し、これに基づいて熱量を算出することができる。
【0046】
トラッキングシミュレータによりLNGの成分分率が推定できるため、LNGの品質の指標としてLNGの成分分率を使用することができる。例えば、品質を低下させるような成分(例えば窒素等)の分率をシミュレーション部51において監視し、この値が基準値を超えた場合に警報を発するようにしてもよい。その他、成分分率に関する指標値を設定し、この指標値を提示するようにしてもよい。
【0047】
例えば、LNGの減熱調整を行うとき、主に窒素を混入して熱量を下げるが、窒素の含有率が一定値以下である必要があるため、熱量についての監視以外に別途監視が必要である。窒素の分率をトラッキングシミュレータにより監視することにより、熱量と窒素含有率の両者を同時に監視することができるため、窒素の混入量を容易に調整可能となる。また、窒素含有率を測定するための設備コストを削減できる。
【0048】
窒素以外に成分の基準が定められている場合についてもトラッキングシミュレータにより推定される成分分率を有効に利用できる。
【0049】
上記実施形態では、実プラントから得られるデータに基づいて熱量を算出することで、実プラント内におけるLNGの熱量を推定しているが、
図1に示すように仮想データ入力装置7を設け、実プラントからのデータに代えて、仮想データをシミュレーション部71に与えるようにしてもよい。
【0050】
例えば、プラントシミュレータに入力するLNGの成分分率を、仮想データ入力装置7を用いて変えることで、産地(成分分率)の異なるLNGを受け入れた場合を考慮した熱量シミュレーションが可能となる。これにより、様々な産地のLNGの導入検討を行うことが可能となり、プラント全体でどのような熱量調整が必要かを事前に検討することができる。
【0051】
以上説明したように、本発明の熱量算出システムおよび熱量算出方法によれば、逐次シミュレーションされる液化天然ガスの成分分率、温度、および圧力に基づいて液化天然ガスの熱量を逐次算出するので、迅速かつ正確にプラントにおけるLNGの熱量を算出できる。
【0052】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、プラントにおける液化天然ガスの熱量を算出する熱量算出システム等に対し、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
2 プラント制御装置(制御手段)
3 データ収集装置(収集手段)
51 シミュレーション部(シミュレーション手段、監視手段)
53 熱量算出部(熱量算出手段)