特許第5696410号(P5696410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5696410
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】回転電機装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/20 20060101AFI20150319BHJP
   B60K 6/26 20071001ALI20150319BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20150319BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20150319BHJP
   B60K 6/405 20071001ALI20150319BHJP
   F16D 25/12 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   H02K5/20
   B60K6/26
   H02K9/19 A
   H02K9/19 B
   B60K6/48
   B60K6/405
   F16D25/12 B
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-207710(P2010-207710)
(22)【出願日】2010年9月16日
(65)【公開番号】特開2012-65458(P2012-65458A)
(43)【公開日】2012年3月29日
【審査請求日】2013年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(72)【発明者】
【氏名】磯谷 成孝
(72)【発明者】
【氏名】大村 雅洋
【審査官】 鈴木 重幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−137406(JP,A)
【文献】 特開2006−242365(JP,A)
【文献】 特開2010−007792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/00− 1/34
H02K 5/00− 9/28
F16H57/00−57/12
F16D25/00−39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングの内部に固定されたステータと、
前記ハウジング内に収容され、前記ステータに対して径方向に対向して設けられ、前記ステータに対して回転可能なロータと、
前記ハウジング内のうち前記ステータおよび前記ロータの中心軸より下方に貯留され、前記ハウジング内において冷却油、潤滑油および作動油の少なくとも一種として機能する油と、
を備える回転電機装置において、
前記ハウジングの内周壁面には、前記ステータおよび前記ロータの中心軸より下方に、かつ、法線方向が上向きとなるように平面状座面が形成され、
前記平面状座面には、前記ハウジングの外部へ前記油が排出可能な油排出口が形成され
前記ハウジングのうち前記ステータの軸方向端面に対向する軸端壁部には、前記ハウジング内の前記油を貯留する領域において、前記軸端壁部の端面から軸方向に沿って延びる貯留凹所が形成され、
前記貯留凹所の上方側境界は、前記平面状座面より上方に形成される回転電機装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記平面状座面は、前記ステータの中心軸に平行である回転電機装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記回転電機装置は、
前記ハウジングに回転可能に支持され、内燃機関の駆動力が伝達される入力軸と、
前記ハウジング内に収容され、前記ロータと前記入力軸との連結を断続可能なクラッチ装置と、
を備え、
前記油は、少なくとも前記クラッチ装置の断続を行うための作動油として機能する回転電機装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジング内にステータとロータを収容し、ハウジング内に油を貯留する回転電機装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハウジング内にステータとロータを収容し、ハウジング内に油を貯留する回転電機装置について、特開2008−286247号公報(特許文献1)に記載されたものがある。特許文献1には、ハウジング内に貯留されている油量が多くなると、ロータによる攪拌抵抗が増大することが記載されている。攪拌抵抗の増大は、回転電機装置の効率の低下につながる。一方、ハウジング内に貯留されている油量が少なくなると、油による目的を十分に発揮することができなくなる。例えば、油による冷却能力、潤滑能力または作動圧が低下することがある。そこで、ハウジング内に貯留される油量は、一定の範囲に調整されることが重要となる。
【0003】
ところで、特許文献1や、回転電機装置についてではないが特許文献2,3には、油を貯留する領域を複数形成することが記載されている。主の貯留領域(ステータおよびロータが配置されている領域)とは別の貯留領域を形成することで、主の貯留領域における油量を一定の範囲となるように調整をすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−286247号公報
【特許文献2】特開2000−203293号公報
【特許文献3】特開2005−201316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3に記載されているような別の貯留領域を設けない場合には、ハウジング内部の底から所定の高さに、ハウジングに油排出口を形成することが考えられる。この油排出口を例えばハウジングの内周壁面に形成した場合には、油排出口が斜めに開口しているため、高精度に油排出口を形成しなければ、ハウジング内の油量を一定の範囲にすることは困難であった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、別の貯留領域(リザーブ)を設けない場合においても、簡易にかつ高精度にハウジング内の油量を一定の範囲にすることができる回転電機装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明の特徴は、ハウジングと、前記ハウジングの内部に固定されたステータと、前記ハウジング内に収容され、前記ステータに対して径方向に対向して設けられ、前記ステータに対して回転可能なロータと、前記ハウジング内のうち前記ステータおよび前記ロータの中心軸より下方に貯留され、前記ハウジング内において冷却油、潤滑油および作動油の少なくとも一種として機能する油と、を備える回転電機装置において、前記ハウジングの内周壁面には、前記ステータおよび前記ロータの中心軸より下方に、かつ、法線方向が上向きとなるように平面状座面が形成され、前記平面状座面には、前記ハウジングの外部へ前記油が排出可能な油排出口が形成され、前記ハウジングのうち前記ステータの軸方向端面に対向する軸端壁部には、前記ハウジング内の前記油を貯留する領域において、前記軸端壁部の端面から軸方向に沿って延びる貯留凹所が形成され、前記貯留凹所の上方側境界は、前記平面状座面より上方に形成されることである。
【0008】
請求項2に係る発明の特徴は、前記平面状座面は、前記ステータの中心軸に平行であることである。
【0011】
請求項3に係る発明の特徴は、前記回転電機装置は、前記ハウジングに回転可能に支持され、内燃機関の駆動力が伝達される入力軸と、前記ハウジング内に収容され、前記ロータと前記入力軸との連結を断続可能なクラッチ装置と、を備え、前記油は、少なくとも前記クラッチ装置の断続を行うための作動油として機能することである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、法線方向が上向きとなる平面状座面に油排出口を形成することにより、油排出口の端面(開口部)の高さは、平面状座面の高さに依存することになる。そして、平面状座面は、金型により十分に高精度に形成でき、必要であれば切削加工により表面をより高精度に形成することができる。そして、油排出口そのものの形成精度が高精度でないとしても、平面状座面の高さを高精度に形成すれば、油排出口の端面(開口部)の高さは一定の範囲となる。従って、油排出口の端面(開口部)の高さを高精度に形成することができる。その結果、油排出口から油が排出される状態になるまでハウジング内に油を注入した場合に、ハウジング内に貯留されている油量は所望の範囲内とすることができる。つまり、本発明によれば、別の貯留領域(リザーブ)を設けなくても、十分に油量を一定の範囲にすることができる。つまり、油による目的を確実に発揮することができ、かつ、回転電機装置の効率の低下を抑制できる。
また、回転電機装置を動作すると、ステータなどに生じる熱によってハウジング内に貯留されている油が温められる。その結果、油が膨張する。油の膨張によって油の体積が増加することにより、ハウジング内の油面の高さが高くなる。ただし、請求項1に係る発明によれば、油が貯留されているハウジングの軸端壁部には貯留凹所が形成されており、当該貯留凹所の上方側境界は、平面状座面より上方に形成されている。これにより、油の膨張によって油の体積が増加したとしても、油面を貯留凹所の形成されている範囲内にすることができる。従って、油面の上昇を抑えることができ、回転電機装置の効率の低下を抑制できる。貯留凹所の高さを上記のようにすることは、上述した油排出口を平面状座面に形成することと併せ持つことにより、より効果を発揮する。すなわち、油膨張前の状態の油面高さを高精度にすることができるため、貯留凹所の上方側境界の位置は、上記効果を確実に発揮できる位置とすることができる。
【0013】
ところで、一般的に、ハウジング内に油を注入する際には、ステータの中心軸が水平となるようにハウジングを保持した状態(以下、「水平状態」と称する)にしている。また、ハウジングを取付部材に固定した状態においては、ステータの中心軸が水平方向から所定角度傾斜した状態(以下、「傾斜状態」と称する)になる。ステータの中心軸が傾斜状態においても、ハウジング内に油を貯留する構成であるため、ステータの中心軸は水平状態に近い状態となる。このように構成される回転電機装置において、請求項2に係る発明によれば、平面状座面は、その法線方向を上向きとし、かつ、ステータの中心軸に平行としている。これにより、ステータの中心軸が水平状態においても、かつ、傾斜状態においても、油の注入時において、高精度にハウジング内の油量を一定の範囲にすることができる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、ハウジングの中にクラッチ装置が収容されている場合に、ハウジング内に貯留されている油をクラッチ装置の断続を行うための作動油として機能させるものに適用できる。つまり、車両の駆動源として内燃機関と回転電機装置とを備えるハイブリッド車両に適用し、クラッチ装置はそれぞれの駆動源の伝達力を制御するために用いられる。なお、貯留されている油は、クラッチ装置の作動油の目的の他に、回転電機装置のステータの冷却油、ハウジングに各部材を回転可能に支持するための軸受の冷却油、潤滑油などの目的を有することもある。

【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ハイブリッド車両用駆動装置を備えたハイブリッド車両のパワートレーンの概略を示す図である。
図2】回転電機装置の軸方向断面図である。
図3】模式化した第一ハウジングを軸方向から見た図である。
図4図3のA−A断面図である。
図5図3のB−B断面図である。
図6図4のC−C断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(車両のパワートレーンの概略)
本発明の回転電機装置をハイブリッド車両用駆動装置に適用した場合について説明する。まず、当該ハイブリッド車両用駆動装置を備えた車両のパワートレーンの概略について、図1を参照して説明する。図1において、太実線は車両の機械的な連結を示し、細実線による矢印は装置間をつなぐ油圧配管を示し、細破線による矢印は制御用の信号線を示している。
【0018】
図1に示すように、車両のパワートレーンは、ハイブリッド車両用駆動装置として、内燃機関2と電動モータ50とを備える。内燃機関2と電動モータ50とは、湿式多板クラッチを有するクラッチ装置60を介して直列に接続されている。また、電動モータ50には、車両のトランスミッション4が直列に接続されており、トランスミッション4には、ディファレンシャル装置5を介して、車両の右駆動輪6Rおよび左駆動輪6L(以下、単に「駆動輪6R,6L」という)が接続されている。
【0019】
内燃機関2は、炭化水素系の燃料により出力を発生させる通常の内燃機関である。電動モータ50は、車輪駆動用の同期モータである。トランスミッション4は、公知の自動変速機である。また、クラッチ装置60は、普段は内燃機関2と電動モータ50との間を接続しているノーマリクローズタイプのクラッチ装置であり、内燃機関2とトランスミッション4との間のトルク伝達を断続する。
【0020】
このようなパワートレーンを用いた車両は、内燃機関2により走行する場合、内燃機関2がトランスミッション4を介して駆動輪6R,6Lを回転させる。また、電動モータ50により走行する場合、電動モータ50がトランスミッション4を介して駆動輪6R,6Lを回転させる。そして、電動モータ50のみで走行するときは、内燃機関2を停止させ、クラッチ装置60をレリーズさせて、内燃機関2と電動モータ50との間の接続を解除している。さらに、電動モータ50は、クラッチ装置60により内燃機関2との連結を遮断された状態で、駆動輪6R,6L側から駆動され、発電機としても機能する。
【0021】
クラッチ装置60の油圧室PC(図2に示す)には、電動ポンプ7の吐出口が接続されており、電動ポンプ7には、コントローラ8が電気的に接続されている。コントローラ8は、電動ポンプ7を作動させてクラッチ装置60の油圧室PCに圧油を供給し、クラッチ装置60の接続状態を制御している。また、コントローラ8には内燃機関2および電動モータ50が接続されるとともに、車両のアクセル開度センサ、車速センサ、トランスミッション4のシフトスイッチ(いずれも図示せず)からの検出信号が入力されている。コントローラ8は、アクセル操作量等に基づいて、電動モータ50、内燃機関2およびクラッチ装置60の作動を制御している。
【0022】
(回転電機装置の詳細構成)
上述した電動モータ50およびクラッチ装置60は、回転電機装置としてのユニットを構成している。そこで、以下に、回転電機装置の詳細構成について、図2を参照して説明する。なお、以下の説明において、軸方向とは、電動モータ50の中心軸Cの方向、すなわちステータ51およびロータ52の中心軸Cの方向を意味する。ただし、この回転電機装置を車両に搭載した状態(内燃機関2に固定した状態)においては、電動モータ50の中心軸Cの方向は水平状態ではなく、水平状態から僅か(5°以下)に傾斜した状態としている。なお、回転電機装置の製造時には、電動モータ50の軸方向が水平となるように回転電機装置を保持して行われる。
【0023】
図2に示すように、回転電機装置は、第一ハウジング10と、第二ハウジング20と、入力軸30と、出力軸40と、電動モータ50と、クラッチ装置60と、回転位置センサ70とを備えて構成される。
【0024】
第一ハウジング10は、例えばアルミニウム合金などにより、カップ状に形成されている。詳細には、第一ハウジング10は、外周筒部11と、内周ボス部12と、外周筒部11と内周ボス部12とを連結するための円盤部13とを備えて一体的に構成される。第一ハウジング10の内周ボス部12の中心には、円形孔12aが形成されている。また、第二ハウジング20は、浅底カップ状に形成され、中心に円形孔20aが形成されている。
【0025】
そして、図2に示すように、第一ハウジング10の外周筒部11のカップ開口側(図2の左側)の端面と第二ハウジング20の外周縁のカップ開口側(図2の右側)の端面とを接合することにより、内部に空間を形成している。この内部空間は、入力軸30および出力軸40を第一ハウジング10または第二ハウジング20に取り付けた状態で、密閉空間を構成する。以下、第一ハウジング10と第二ハウジング20とにより形成される内部空間を、「ハウジング内部空間」と称する。
【0026】
そして、ハウジング内部空間には、電動モータ50、クラッチ装置60および回転位置センサ70が収容されている。また、第二ハウジング20の車両前方(図2の左側)には、内燃機関2(図1に示す)が配置され、第一ハウジング10の車両後方(図2の右側)には、トランスミッション4(図1に示す)が配置されている。そして、第一ハウジング10および第二ハウジング20は、内燃機関2に固定されることにより、車両本体に固定される。
【0027】
ここで、回転電機装置の製造時において、第一ハウジング10と第二ハウジング20とを図2に示すようにほぼ水平方向から接合する。そのため、回転電機装置の製造時において、ハウジング内部空間の上下方向は、図2の上下方向に一致する。ただし、上述したが、回転電機装置を内燃機関2に取り付けた状態においては、図2に示す状態に対して、図2の右側(車両後方、第一ハウジング10側)が約4〜5°程度下方となるように傾斜した状態となる。
【0028】
さらに、図2に示すように、ハウジング内部空間の下方(重力作用方向)には、油Dが貯留される。また、第一ハウジング10には、貯留されている油Dを、冷却油、潤滑油、作動油を目的として用いるために、当該油Dを所望の位置へ流通させる油路16,17などが適宜形成されている。油路16は、ハウジング内部空間の下方である貯留部から第一ハウジング10の中心部の内周ボス部12を通過して油圧室PCへ、電動ポンプ7(図1に示す)により、油Dを流通させる油路である。つまり、油路16を介して油圧室PCへ供給される油は、クラッチ装置60の作動油として機能する。また、油路17は、油路16を介して後述する軸受81へ油Dを供給する油路である。つまり、油路17を介して軸受81に供給される油は、軸受81の潤滑油および冷却油として機能する。
【0029】
ここで、ハウジング内部空間に油を注入し、ハウジング内部空間に所定量の油を貯留する必要がある。そのために、第一ハウジング10には、油注入口18および油排出口19が形成されている。油注入口18および油排出口19の詳細は、後述する。
【0030】
入力軸30は、内燃機関2の出力側部材(例えば、フライホイール)に連結され、内燃機関2の駆動力が伝達される。入力軸30は、軸本体31と、軸本体31の一端側(図2の右側)に一体形成され径方向外方に延びる円盤部32と、円盤部32の外周縁に一体形成された筒状のクラッチインナ33とを備えて構成される。軸本体31は、第二ハウジング20の円形孔20aに軸受82を介して回転可能に支持されている。クラッチインナ33の外周面には、全周に亘って、軸方向に延びる溝が形成されている。そして、入力軸30の軸本体31により、第二ハウジング20の円形孔20aを閉塞し、入力軸30の円盤部32およびクラッチインナ33は、ハウジング内部空間に配置されている。
【0031】
出力軸40は、トランスミッション4に連結される軸部材であり、第一ハウジング10の内周ボス部12の内周面に、軸受81を介して回転可能に支持される。この出力軸40は、第一ハウジング10の内周ボス部12の円形孔12aを閉塞する部材として機能する。
【0032】
電動モータ50は、ステータ51と、ロータ52とにより構成される。ステータ51は、円環状に形成され、第一ハウジング10の外周筒部11の内周側に固定されている。ステータ51は、複数の珪素鋼板により形成されたコアと、コアに巻回されたコイルとを備えて構成される。ここで、ステータ51の中心軸Cは、図2においては、水平方向として図示している。ステータ51の中心軸Cが水平状態となるのは、回転電機装置の製造時における状態である。これに対して、図示しないが、回転電機装置を内燃機関2に固定した状態においては、ステータ51の中心軸Cは水平状態から僅かに(4〜5°)、図2の右側が図2の下方となるように傾斜した状態となる。つまり、第一ハウジング10および第二ハウジング20は、ステータ51の中心軸が僅かに(4〜5°)傾斜した状態として、内燃機関2に固定される。
【0033】
ロータ52は、円環状に形成され、ステータ51の内周面に対して半径方向内方に対向して設けられる。ロータ52は、ステータ51に対して同軸上にて回転可能となるように、クラッチアウタ61を介して第一ハウジング10に対して回転可能に支持される。ロータ52は、積層された複数の鋼板を固定ピンによりかしめて形成されると共に、複数の界磁極用マグネットを備える。
【0034】
クラッチ装置60は、電動モータ50の駆動力をそのまま出力軸40に伝達すると共に、内燃機関2の駆動力をクラッチ係合力に応じて出力軸40に伝達する。クラッチ装置60は、電動モータ50のロータ52の内周面と出力軸40の外周面との径方向隙間に配置されている。このクラッチ装置60は、クラッチアウタ61と、固定部材62と、駆動ディスク63と、従動プレート64と、ピストン部材65と、スプリング66とを備えて構成される。
【0035】
クラッチアウタ61は、ロータ52の内周面に一体的に連結されている。さらに、クラッチアウタ61は、出力軸40の外周面にスプライン嵌合により連結され、第一ハウジング10の内周ボス部12の内周側に軸受81を介して回転可能に支持されている。つまり、ロータ52の駆動力によって、クラッチアウタ61は回転し、出力軸40へ駆動力を伝達する。クラッチアウタ61の外周筒部611のうち内周面には、全周に亘って、軸方向に延びる溝が形成されている。また、クラッチアウタ61の外周筒部611の内周面は、入力軸30のクラッチインナ33の外周面に対して、径方向に対向するように配置されている。さらに、クラッチアウタ61のうち外周筒部611の外周壁面とする環状凹溝612を形成している。
【0036】
固定部材62は、クラッチアウタ61の環状凹溝612のうち開口側(図2の左側)の内方部分を閉塞するように、クラッチアウタ61に固定されている。
【0037】
複数の駆動ディスク63は、薄板環状に形成され、入力軸30のクラッチインナ33の外周面に中心軸C方向に重ねられて配置されている。複数の駆動ディスク63は、クラッチインナ33に対して中心軸C方向に摺動可能で、かつ、回転規制された状態で配置されている。
【0038】
複数の従動プレート64は、薄板環状に形成され、クラッチアウタ61の内周面に中心軸C方向に重ねられて配置されている。複数の従動プレート64は、クラッチアウタ61に対して中心軸C方向に摺動可能で、かつ、回転規制された状態で配置されている。さらに、それぞれの従動プレート64は、駆動ディスク63の間に挟まれて配置されている。つまり、駆動ディスク63と従動プレート64とは、中心軸C方向に交互に配置されている。
【0039】
ピストン部材65は、クラッチアウタ61の環状凹溝612に、クラッチアウタ61に対して中心軸C方向に摺動可能に設けられている。このピストン部材65の外周側の一部分は、クラッチアウタ61の外周筒部611の開口側のうち固定部材62との隙間から、図2の左側へ突出可能となるように形成されている。さらに、ピストン部材65とクラッチアウタ61のうち環状凹溝612の溝底との軸方向隙間には、スプリング66が配置されている。このスプリング66は、ピストン部材65に対して、中心軸Cの一方向(図2の左方向)に付勢力を発生するように配置されている。従って、ピストン部材65は、スプリング66の付勢力により、図2の左側へ移動しようとする。
【0040】
一方、ピストン部材65と固定部材62との軸方向隙間(油圧室)PCには、電動ポンプ7(図1に示す)により、油路16を介して圧油が供給される。この圧油は、ハウジング内部空間の下方に貯留されている油Dが用いられる。この油圧室PCに供給される油Dの圧力は、ピストン部材65に対して、中心軸Cの他方向(図2の右方向)に付勢力を発生するように機能する。従って、ピストン部材65は、油圧室PCに供給される油Dの圧力により、図2の右側へ移動しようとする。つまり、電動ポンプ7(図1に示す)により油圧室PCに供給される油Dの圧力を調整することにより、クラッチアウタ61に対するピストン部材65の中心軸C方向の位置を制御することができる。
【0041】
また、ピストン部材65の外周側の一端(図2の左端)は、従動プレート64または駆動ディスク63の端面に当接可能となる。つまり、ピストン部材65は、クラッチアウタ61に対して中心軸Cの一方方向(図2の左側)に移動することにより、駆動ディスク63と従動プレート64との摩擦係合力を増大させるように機能する。一方、ピストン部材65は、クラッチアウタ61に対して中心軸Cの他方向(図2の右側)に移動することにより、駆動ディスク63と従動プレート64との摩擦係合力を低減させるように機能する。
【0042】
回転位置センサ70は、クラッチアウタ61に形成された可動体71と、第一ハウジング10の円盤部13に設けられた検出体72とから構成される。そして、回転位置センサ70は、第一ハウジング10に対するクラッチアウタ61、すなわちロータ52の回転位置を検出する。
【0043】
上述した回転電機装置の動作について説明する。クラッチ装置60における油圧室PCに供給している油Dの圧力が低い場合には、ピストン部材65が、スプリング66の付勢力によって図2の左側へ移動する。そうすると、ピストン部材65は、駆動ディスク63または従動プレート64を押圧し、駆動ディスク63と従動プレート64との摩擦係合力が増大する。この摩擦係合力に応じて、内燃機関2の駆動力が出力軸40に伝達される。同時に、電動モータ50のロータ52が駆動されている場合には、ロータ52の駆動力がクラッチアウタ61を介して、出力軸40に伝達される。
【0044】
一方、クラッチ装置60における油圧室PCに供給する油Dの圧力を高くすると、スプリング66の付勢力に抗して、ピストン部材65が図2の右側へ移動する。そうすると、駆動ディスク63と従動プレート64との摩擦係合力が低減する。油Dの圧力を最大にすると、駆動ディスク63と従動プレート64との摩擦係合は解除される。従って、この状態において、内燃機関2が駆動しているとしても、内燃機関2の駆動力は出力軸40に伝達されない。一方、電動モータ50のロータ52が駆動されている場合には、ロータ52の駆動力が、クラッチアウタ61にそのまま伝達されて、出力軸40を回転させる。
【0045】
ここで、電動モータ50のロータ52は、ハウジング内部空間に貯留されている油Dの中に僅かに浸かっている。そのため、ロータ52の回転に伴って、ロータ52に付着する油Dがハウジング内部空間の上方へ飛ばされる。この油Dにより、クラッチ装置60の駆動ディスク63と従動プレート64との係合解除が確実に行われるようになる。
【0046】
(第一ハウジングの油注入口および油排出口に関する詳細構成)
次に、第一ハウジング10のうち油注入口18および油排出口19に関する部分について、図3図6を参照して詳細に説明する。ここで、図3図6において、第一ハウジング10の油注入口18および油排出口19に関する部分について説明を容易にするために、第一ハウジング10を模式的に図示している。そのため、図3図6に示す第一ハウジング10は、図2に示す第一ハウジング10に対して形状が一致しない部分がある。
【0047】
図3および図4に示すように、第一ハウジング10の内周壁面111のうち最上部には、外部と連通する油注入口18が形成されている。この油注入口18は、ハウジング内部空間への油Dの注入を許容する部分である。さらに、図3図6に示すように、第一ハウジング10の内周壁面111のうち電動モータ50の中心軸Cより下方に、かつ、法線方向が上向きとなるように、平面状座面112が形成されている。より詳細には、平面状座面112は、電動モータ50の中心軸Cに平行な平面状に形成されている。この平面状座面112には、所定量のハウジング内部空間に貯留された油の第一ハウジング10の外部への排出を許容する油排出口19が形成されている。つまり、油排出口19の開口部(「油排出口の端面」に相当する)は、平面状座面112を通る平面上に位置している。従って、油排出口19の開口部は、電動モータ50の中心軸Cを水平状態とした状態において、ほぼ同じ水平平面上に位置している。
【0048】
従って、例えば、製造時において電動モータ50の中心軸Cが水平となるように第一ハウジング10および第二ハウジング20を保持した状態にして、油注入口18から油を注入すると、貯留された油Dの表面が平面状座面112の高さに到達したときに、油排出口19から油が排出される。この時点で、油注入口18からの油の注入を遮断して、油注入口18および油排出口19に栓をする。これにより、ハウジング内部空間に貯留される油Dの量を、所定の一定の範囲に高精度にすることができる。
【0049】
ところで、平面状座面112は、金型により十分に高精度に形成でき、必要であれば切削加工により表面をより高精度に形成することができる。従って、油排出口19そのものの形成精度が高精度でないとしても、平面状座面112の高さを高精度に形成すれば、油排出口19の開口部の高さは一定の範囲にできる。つまり、油排出口19の開口部の高さを高精度に形成することができる。その結果、油排出口19から油が排出される状態になるまでハウジング内部空間内に油を注入した場合に、ハウジング内部空間内に貯留されている油Dの量は確実に一定の範囲内とすることができる。特に、別の貯留領域(リザーブ)を設けなくても、十分に油Dの量を一定の範囲にすることができる。これにより、油による冷却油、潤滑油、作動油などの目的を確実に発揮することができ、かつ、回転電機装置の効率の低下を抑制できる。
【0050】
また、図3図5に示すように、第一ハウジング10の軸端壁部113(ステータ51およびロータ52の軸方向端面に対向する壁面)には、第一ハウジング10内の油Dを貯留する領域において、軸端壁部113の壁面から軸方向(図4の右側)に延びる貯留凹所114が形成される。すなわち、貯留凹所114は、軸方向外方(図4の右側)に向かって凹状に形成されている。そして、図3および図5に示すように、この貯留凹所114の上方側境界は、平面状座面112より上方に形成されている。
【0051】
電動モータ50を動作すると、ステータ51などに生じる熱によってハウジング内部空間に貯留されている油Dが温められる。その結果、油Dが膨張する。油Dの膨張によって油Dの体積が増加することにより、ハウジング内部空間に貯留されている油Dの表面の高さが高くなる。ただし、油Dが貯留されている第一ハウジング10の軸端壁部113には貯留凹所114が形成されており、当該貯留凹所114の上方側境界は、平面状座面112より上方に形成されている。これにより、油Dの膨張によって油Dの体積が増加したとしても、油Dの表面を貯留凹所114の形成されている範囲内にすることができる。従って、油Dの表面の上昇を抑えることができ、回転電機装置の効率の低下を抑制できる。
【0052】
また、油排出口19を平面状座面112に形成することにより、油排出口19の開口部の高さを高精度に形成することで、貯留凹所114の高さを油排出口19の開口部の高さよりも所定量だけ高い位置に高精度に形成することができるようになる。すなわち、油膨張前の状態の油面高さを高精度にすることができるため、貯留凹所114の上方側境界の位置は、上記効果を確実に発揮できる位置とすることができる。
【符号の説明】
【0053】
2:内燃機関、 4:トランスミッション、 5:ディファレンシャル装置
6R,6L:駆動輪、 7:電動ポンプ、 8:コントローラ
10:第一ハウジング、 11:外周筒部、 12:内周ボス部、 12a:円形孔
13:円盤部、 16,17:油路、 18:油注入口、 19:油排出口
20:第二ハウジング、 20a:円形孔
30:入力軸、 31:軸本体、 32:円盤部、 33:クラッチインナ
40:出力軸、 50:電動モータ、 51:ステータ、 52:ロータ
60:クラッチ装置、 61:クラッチアウタ、 62:固定部材
63:駆動ディスク、 64:従動プレート、 65:ピストン部材
66:スプリング
70:回転位置センサ、 71:可動体、 72:検出体
81,82:軸受
111:内周壁面、 112:平面状座面、 113:軸端壁部、 114:貯留凹所
611:外周筒部、 612:環状凹溝
C:中心軸、 D:油、 PC:油圧室
図1
図2
図3
図4
図5
図6