(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5696425
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】DME自動車における過熱DME過給システム
(51)【国際特許分類】
F02B 39/08 20060101AFI20150319BHJP
F02M 25/07 20060101ALI20150319BHJP
F02M 21/08 20060101ALI20150319BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
F02B39/08
F02M25/07 580E
F02M21/08
F02M21/02 X
F02M21/02 U
F02M21/02 P
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-231679(P2010-231679)
(22)【出願日】2010年10月14日
(65)【公開番号】特開2012-82799(P2012-82799A)
(43)【公開日】2012年4月26日
【審査請求日】2013年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】岡本 毅
【審査官】
佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−239513(JP,A)
【文献】
特開2009−185625(JP,A)
【文献】
特開2010−174692(JP,A)
【文献】
特開平06−346745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/08
F02M 21/02
F02M 21/08
F02M 25/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DMEを貯留する燃料タンク内のインタンクポンプの吐出側から前記燃料タンクの戻し口にかけ、EGRクーラ、スーパーチャージャのタービン、冷却器を順次設置して、DMEの循環による過給のためのサイクルを構成し、循環するDMEで前記EGRクーラの廃熱を回収すると共に前記スーパーチャージャのタービンを駆動して過給を行い、且つ、排気により吸気を過給するターボチャージャのコンプレッサの下流側から前記スーパーチャージャのコンプレッサの下流側に合流する吸気流路を設置すると共に前記吸気流路の途中であって前記吸気流路が前記スーパーチャージャのコンプレッサの下流側に合流する部分よりも上流側に前記ターボチャージャで過給された吸気を冷却するインタークーラを設置することを特徴とするDME自動車における過熱DME過給システム。
【請求項2】
前記燃料タンク内のDMEは、前記インタンクポンプで送液されると共に加圧された後、前記EGRクーラで加熱されて蒸発すると共に更に過熱されて気化膨張し、前記スーパーチャージャのタービンを駆動した後、前記冷却器で冷却されて前記燃料タンク内に戻される請求項1に記載のDME自動車における過熱DME過給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンク内のDMEを用いて過給を行うDME自動車における過熱DME過給システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ディーゼルエンジンの分野では、軽油の代替燃料としてジメチルエーテル(DME:DiMethyl Ether)を燃料とするディーゼルエンジンの開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。DMEは、天然ガスやバイオガスから合成され、排ガスによる汚染の原因となる硫黄や窒素、芳香炭化水素等の物質を含まないことから、エンジンで燃焼しても煤等が排出されず排ガスがクリーンである。
【0003】
DMEは常温で気体であるが、DMEを常温で0.5MPa程度に加圧すると液化するため、ディーゼルエンジンで使用する場合、燃料タンクには高圧ボンベを用い、また、燃料供給ライン内で燃料が気化しないように、高圧ボンベ内に設置されたインタンクポンプを用いて燃料を2.2〜2.7MPa程度に加圧してエンジンに供給している。
【0004】
ところで、自動車においては、燃費向上のため、過給システムとして排ガスを利用したターボチャージャが用いられている。ターボチャージャは、エンジンの排気エネルギを利用して排気タービンを駆動し、この力で吸気を圧縮してシリンダ内に高密度の空気を押し込み、吸気量を増やすことで燃焼効率を向上させるものである。
【0005】
一方、自動車の排ガス低減方法に、エンジンからの排気の一部を吸気に戻す方法(EGR:Exhaust Gas Recirculation)がある。EGRを行うことでNO
Xの排出量を低減することができるため、現在のエンジンで一般的に使用されている。
【0006】
これらの一般的な技術が、DME自動車にも用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−115916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、EGRでは、高温の排気を直接吸気すると吸気温度が上昇して、吸気充填効率の低下を招いてしまうことから、排ガスはEGRクーラで一旦冷却されてから吸気に投入されるため、排ガスの熱の一部がEGRクーラにより排熱され、その分の熱エネルギが無駄に捨てられている。
【0009】
また、ターボチャージャは、排ガスのエネルギを利用しているため、負荷がある程度ないと効率良く過給することができない。低負荷時の過給にはスーパーチャージャがあるが、動力源がエンジンであるため、機械損失の原因となってしまう。
【0010】
そこで、本発明の目的は、EGRクーラで捨てられている熱エネルギを利用して過給を行うことで、廃熱を再利用して燃費低減を図ることができ、且つ、低負荷時においても過給が行えるDME自動車における過熱DME過給システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために創案された本発明は、DMEを貯留する燃料タンク内のインタンクポンプの吐出側から前記燃料タンクの戻し口にかけ、EGRクーラ、スーパーチャージャのタービン、冷却器を順次設置して、DMEの循環による過給のためのサイクルを構成し、循環するDMEで前記EGRクーラの廃熱を回収すると共に前記スーパーチャージャのタービンを駆動して過給を行
い、且つ、排気により吸気を過給するターボチャージャのコンプレッサの下流側から前記スーパーチャージャのコンプレッサの下流側に合流する吸気流路を設置すると共に前記吸気流路の途中であって前記吸気流路が前記スーパーチャージャのコンプレッサの下流側に合流する部分よりも上流側に前記ターボチャージャで過給された吸気を冷却するインタークーラを設置するDME自動車における過熱DME過給システムである。
【0012】
前記燃料タンク内のDMEは、前記インタンクポンプで送液されると共に加圧された後、前記EGRクーラで加熱されて蒸発すると共に更に過熱されて気化膨張し、前記スーパーチャージャのタービンを駆動した後、前記冷却器で冷却されて前記燃料タンク内に戻されると良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、EGRクーラで捨てられている熱エネルギを利用して過給を行うことで、廃熱を再利用して燃費低減を図ることができ、且つ、低負荷時においても過給が行える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係るDME自動車における過熱DME過給システムを示す概略図である。
【
図2】本実施の形態におけるサイクル配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0016】
図1は、本発明の好適な実施の形態に係るDME自動車における過熱DME過給システムを示す概略図であり、
図2は、そのサイクル配置図である。
【0017】
図1,2に示すように、本実施の形態に係るDME自動車における過熱DME過給システム10は、DMEを貯留する燃料タンク11内のインタンクポンプ12の吐出側から燃料タンク11の戻し口にかけ、EGRクーラ13、スーパーチャージャ14のタービン15、冷却器16を順次設置して、DMEの循環による過給のためのサイクルを構成し、循環するDMEでEGRクーラ13の廃熱を回収すると共にタービン15を駆動して過給を行うシステムである。
【0018】
本システムを搭載するDME自動車においては、エンジン17からの排気の一部を吸気に戻すEGRを行うことでNO
Xの排出量を低減している。この際、高温の排気を直接吸気すると吸気温度が上昇して、吸気充填効率の低下を招いてしまうことから、排ガスはEGRクーラ13で一旦冷却されてから吸気に投入される。EGRクーラ13では、冷媒を導入し、冷却機構で吸収した熱をラジエータにより排熱することで排ガスを冷却する。
【0019】
また、本システムを搭載するDME自動車においては、排ガスでターボチャージャ18のタービン19を駆動し、この力で吸気をコンプレッサ20により圧縮してシリンダ内に高密度の空気を押し込み、吸気量を増やすことで燃焼効率を向上させている。このターボチャージャ18はインタークーラ付ターボチャージャであり、ターボチャージャ18で圧縮され高温になった吸気をインタークーラ21にて一気に冷却した後、シリンダ内に送り込むようになっている。
【0020】
エンジン17は、DMEを燃料とするディーゼルエンジンであり、自動車の駆動用として車両に搭載される。このエンジン17は、複数気筒(
図1では4気筒)のコモンレール式とされ、コモンレール22に蓄圧したDMEを噴射ノズルである各インジェクタ23に供給するようになっている。そのため、エンジン17には、コモンレール22にDMEを所定の圧力、例えば、60MPa程度に加圧して圧送する高圧ポンプ24が設けられる。
【0021】
燃料タンク11は、燃料としてのDMEを液体として貯留する高圧ボンベからなり、この燃料タンク11内には、燃料タンク11内のDMEの温度、圧力、水位等を計測するセンサや、燃料タンク11内のDMEを燃料供給ライン25を通じてエンジン17側の高圧ポンプ24に供給する、或いは冷媒DME流路26を通じてEGRクーラ13と燃料タンク11との間でDMEを循環させるインタンクポンプ12が設けられる。燃料供給ライン25を構成する燃料配管は、その一端が燃料タンク11の底部を気密に貫通してインタンクポンプ12に接続される。インタンクポンプ12には、これを駆動する電動モータが接続される。電動モータは、エンジン17を動力としている。
【0022】
また、燃料タンク11には、DMEを充填する燃料充填部、気化したDMEを所定の圧力以上で大気に放出する安全弁等が設けられる。なお、燃料タンク11内の圧力は、タンク内温度(燃料タンク11内の温度)に対応する蒸気圧となっている。
【0023】
図3に示すように、DMEを高圧ポンプ24に供給する場合、液体で供給しなければならず、高圧ポンプ24内の燃料通路の温度が80℃であれば、DMEをその温度の蒸気圧2.2MPaよりも高い圧力にすれば、DMEの気化を防止することができる。また、高圧ポンプ24内の燃料通路の温度が90℃であれば、DMEをその温度の蒸気圧2.7MPaよりも高い圧力にする必要がある。
【0024】
さて、本実施の形態に係る過熱DME過給システム10は、EGRクーラ13の廃熱を再利用して燃費低減を図るべくなした発明であり、EGRクーラ13の廃熱を利用して過給を行うものである。
【0025】
そのため、過熱DME過給システム10には、コンプレッサ27とそのコンプレッサ27に接続されたタービン15を備えたスーパーチャージャ14が搭載される。このスーパーチャージャ14を用いて過給を行うためには、スーパーチャージャ14のタービン15を駆動する必要があり、タービン15に蒸気エネルギを供給する必要がある。EGRクーラ13の廃熱を蒸気エネルギに変換する方法としては、EGRクーラ13の廃熱で冷媒を気化させる方法がある。
【0026】
ところで、通常ディーゼルエンジンにおける低負荷時の排ガスの温度は100℃以上であり、EGRクーラ13の廃熱の温度は80〜90℃程度である。従来の構成では、冷媒としてエンジン17の冷却水の一部を分流してEGRクーラ13に導入していたため(
図1の旧EGR冷却水流路参照)、冷却水を廃熱の温度で気化させることは困難であった。
【0027】
そこで、本発明者は、DME自動車の燃料であるDMEに着目し、これをEGRクーラ13の冷媒として用いようと考えた。DMEの沸点は、−24.9℃であるのでEGRクーラ13の廃熱で容易に気化させることが可能である。
【0028】
スーパーチャージャ14のタービン15と燃料タンク11との間には、タービン15の駆動に用いられたDMEを冷却する冷却器16が設けられ、冷却器16で冷却されたDMEを燃料タンク11に戻すようにされる。冷却器16は、例えば、フィンからなる空冷装置である。
【0029】
このサイクルを図示したP−s線図を
図4に示す。
【0030】
図2,4に示すように、燃料タンク11内のDMEは、インタンクポンプ12で送液されると共に加圧された後(図中(3)→(4)へ状態遷移)、EGRクーラ13で加熱されて蒸発する(図中(4)→(5)へ状態遷移)と共に更に過熱されて気化膨張し(図中(5)→(1)へ状態遷移)、スーパーチャージャ14のタービン15を駆動した後(図中(1)→(2)へ状態遷移)、冷却器16で冷却されて(図中(2)→(3)へ状態遷移)燃料タンク11内に戻される。
【0031】
そのため、過熱DME過給システム10では、燃料タンク11からEGRクーラ13に導入されたDMEは、EGRクーラ13の廃熱により容易に気化し、気化した際の蒸発潜熱で排ガスの冷却を行い、気化膨張したDMEはコンプレッサ27に接続されたタービン15へと導かれ、過給が行われる。つまり、DMEは、その総量を減少させることなく過給に用いられ、燃料の損失は無い。
【0032】
このような構成の過熱DME過給システム10によれば、EGRで廃棄されている熱を利用してスーパーチャージャ14を動作させることで、エンジン17の動力補助とし、燃費を低減することが可能である。
【0033】
また、ターボチャージャ18で効率良く過給することができない低負荷時であっても、過給を行うことが可能となる。
【0034】
以上要するに、本発明によれば、EGRクーラで捨てられている熱エネルギを利用して過給を行うことで、廃熱を再利用して燃費低減を図ることができ、且つ、低負荷時においても過給が行える。
【符号の説明】
【0035】
10 DME自動車における過熱DME過給システム
11 燃料タンク
12 インタンクポンプ
13 EGRクーラ
14 スーパーチャージャ
15 タービン
16 冷却器
17 エンジン
18 ターボチャージャ
19 タービン
20 コンプレッサ
21 インタークーラ
22 コモンレール
23 インジェクタ
24 高圧ポンプ
25 燃料供給ライン
26 冷媒DME流路
27 コンプレッサ