(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5696432
(24)【登録日】2015年2月20日
    
      
        (45)【発行日】2015年4月8日
      
    (54)【発明の名称】空気入りランフラットタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C  13/00        20060101AFI20150319BHJP        
   B60C  17/00        20060101ALI20150319BHJP        
【FI】
   B60C13/00 G
   B60C17/00 B
【請求項の数】3
【全頁数】8
      (21)【出願番号】特願2010-244136(P2010-244136)
(22)【出願日】2010年10月29日
    
      (65)【公開番号】特開2012-96603(P2012-96603A)
(43)【公開日】2012年5月24日
    【審査請求日】2013年10月3日
      
        
          (73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
          (74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
          (74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川  信一
          (74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口  賢照
          (74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間  孝良
          (74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤  謙二
          (74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井  功
          (74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤  正夫
          (74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下  和彦
        
      
      
        (72)【発明者】
          【氏名】兼平  尚樹
              
            
        
      
    
      【審査官】
        岡▲さき▼  潤
      
    (56)【参考文献】
      
        【文献】
          国際公開第2009/103733(WO,A1)    
        
        【文献】
          特開平07−232511(JP,A)      
        
        【文献】
          特開平11−227427(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2001−080318(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2009−035029(JP,A)      
        
        【文献】
          米国特許第04234030(US,A)      
        
        【文献】
          特開2011−079360(JP,A)      
        
      
    (58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C    13/00        
B60C    17/00        
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
  左右一対のビード部にカーカス層を装架すると共に、サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向内側に断面が三日月状の補強ゴム層を配置した空気入りランフラットタイヤにおいて、
  前記サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向外側にアラミド繊維の下撚り糸とナイロン繊維の下撚り糸とを撚り合わせて構成された複合コードからなるサイド補強層を配置し、下記(1)式で表わされる前記複合コードの上撚り係数N1が1300≦N1≦2500の範囲にあると共に、前記複合コードの上撚り数T1と前記アラミド繊維の下撚り糸の下撚り数TaとがT1≧Taの関係であり、かつ前記複合コードの上撚り数T1と前記ナイロン繊維の下撚り糸の下撚り数TnとがT1≧Tnの関係であり、かつ前記複合コードの上撚り数T1が15回/10cm以上かつ35回/10cm以下であることを特徴とする空気入りランフラットタイヤ。
    N1=T1×D11/2   ・・・(1)
(式中、T1は複合コードの上撚り数[回/10cm]、D1は複合コードの総繊度[dtex]である。)
【請求項2】
  下記(2)式で表わされる前記アラミド繊維の下撚り糸の下撚り係数Naと下記(3)式で表わされる前記ナイロン繊維の下撚り糸の下撚り係数NnとがNa≧Nnの関係であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りランフラットタイヤ。
    Na=Ta×Da1/2   ・・・(2)
    Nn=Tn×Dn1/2   ・・・(3)
(式中、Taはアラミド繊維の下撚り糸の下撚り数[回/10cm]、Tnはナイロン繊維の下撚り糸の下撚り数[回/10cm]、Daはアラミド繊維の下撚り糸の繊度[dtex]、Dnはナイロン繊維の下撚り糸の繊度[dtex]である。)
【請求項3】
  前記複合コードが3本撚り構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りランフラットタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本発明は、サイドウォール部に断面三日月状の補強ゴム層を有する空気入りランフラットタイヤに関し、更に詳しくは、通常走行時の乗心地性を良好に維持すると共に、ランフラット走行時の耐久性を向上することを可能にした空気入りランフラットタイヤに関する。
 
【背景技術】
【0002】
  近年、サイドウォール部の内面側に断面三日月状の硬質の補強ゴム層を配置したランフラットタイヤにおいて、ランフラット走行時における耐久性を確保するために、アラミド繊維やポリベンゾオキサゾール繊維等の高強度高弾性の繊維コードによる補強が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
  しかしながら、このような高強度高弾性の繊維コードは耐疲労性が低いため、ランフラット走行時に通常走行時の数倍の動荷重を受けることによりサイドウォール部に撓みが繰り返し生じる際に、その撓みに耐えることが出来ず、ランフラット走行時の耐久性向上の効果が充分でないという問題がある。また、このような繊維を用いたタイヤはサイド剛性の増加によって通常走行時の乗心地性が悪化するという問題がある。
 
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−047441号公報
 
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
  本発明の目的は、上述する問題点を解決するもので、サイドウォール部に断面三日月状の補強ゴム層を有する空気入りランフラットタイヤにおいて、通常走行時の乗心地性を良好に維持すると共に、ランフラット走行時の耐久性を向上することを可能にした空気入りランフラットタイヤを提供することにある。
 
【課題を解決するための手段】
【0006】
  上記目的を達成するための本発明の空気入りランフラットタイヤは、左右一対のビード部にカーカス層を装架すると共に、サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向内側に断面が三日月状の補強ゴム層を配置した空気入りランフラットタイヤにおいて、前記サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向外側にアラミド繊維の下撚り糸とナイロン繊維の下撚り糸とを撚り合わせて構成された複合コードからなるサイド補強層を配置し、下記(1)式で表わされる前記複合コードの上撚り係数N1が1300≦N1≦2500の範囲にあると共に、前記複合コードの上撚り数T1と前記アラミド繊維の下撚り糸の下撚り数TaとがT1≧Taの関係であり、かつ前記複合コードの上撚り数T1と前記ナイロン繊維の下撚り糸の下撚り数TnとがT1≧Tnの関係であ
り、かつ前記複合コードの上撚り数T1が15回/10cm以上かつ35回/10cm以下であることを特徴とする。
    N1=T1×D1
1/2   ・・・(1)
(式中、T1は複合コードの上撚り数[回/10cm]、D1は複合コードの総繊度[dtex]である。)
 
【発明の効果】
【0007】
  本発明では、サイドウォール部におけるカーカス層のタイヤ幅方向外側にアラミド繊維の下撚り糸とナイロン繊維の下撚り糸とを撚り合わせて構成された複合コードからなるサイド補強層を配置し、その上撚り係数N1を1300≦N1≦2500の範囲にすると共に、複合コードの上撚り数T1とアラミド繊維の下撚り糸の下撚り数TaとをT1≧Taの関係にし、かつ複合コードの上撚り数T1とナイロン繊維の下撚り糸の下撚り数TnとをT1≧Tnの関係にしたので、通常走行時の乗心地性を良好に維持すると共にランフラット走行時の耐久性を向上することが出来る。即ち、通常走行時には弾性率が低く柔軟性の高いナイロン繊維の物性が発揮され乗心地性を良好に維持することが出来、ランフラット走行時には高強度高弾性のアラミド繊維の物性が発揮され、かつナイロン繊維の柔軟性によりサイドウォール部の撓みに耐えることが出来るため、耐久性を向上することが出来る。
【0008】
  本発明においては、下記(2)式で表わされるアラミド繊維の下撚り糸の下撚り係数Naと下記(3)式で表わされるナイロン繊維の下撚り糸の下撚り係数NnとがNa≧Nnの関係であることが好ましい。
    Na=Ta×Da
1/2   ・・・(2)
    Nn=Tn×Dn
1/2   ・・・(3)
(式中、Taはアラミド繊維の下撚り糸の下撚り数[回/10cm]、Tnはナイロン繊維の下撚り糸の下撚り数[回/10cm]、Daはアラミド繊維の下撚り糸の繊度[dtex]、Dnはナイロン繊維の下撚り糸の繊度[dtex]である。)
【0009】
  こうすることで、通常走行時の乗心地性とランフラット走行時の耐久性をより高度に両立することが出来る。
【0010】
  本発明においては、複合コードが3本撚り構造であることが好ましい。こうすることで、通常走行時の乗心地性とランフラット走行時の耐久性をより高度に両立することが出来る。
 
 
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りランフラットタイヤを示す子午線方向半断面図である。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0012】
  以下、本発明の構成について、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなる空気入りランフラットタイヤを示すものである。
 
【0013】
  図1において、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。左右一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されている。また、カーカス層4の外周側には複数枚のベルト層6が配置されている。そのベルト層6の外周側にはベルト層6全体を覆うフルカバーと両端部のみを覆うエッジカバーから構成されるベルトカバー層7が配置されている。
 
【0014】
  更に、サイドウォール部2において、タイヤ幅方向最内側に位置するカーカス層4のタイヤ幅方向内側に断面が三日月状の補強ゴム層8が挿入されている。補強ゴム層8は、その厚さがタイヤ径方向の中央部からトレッド側及びビード側に向けて漸減している。この補強ゴム層8の形状は特に限定されず空気入りランフラットタイヤにおいて一般的な形状を採ることが出来る。
 
【0015】
  本発明の空気入りランフラットタイヤにおいて、サイドウォール部2におけるカーカス層4のタイヤ幅方向外側には、アラミド繊維の下撚り糸とナイロン繊維の下撚り糸とを撚り合わせて構成された複合コードからなるサイド補強層9が配置されている。サイド補強層9のコードはカーカス層4のコードと同一方向に配向している。
 
【0016】
  サイド補強層9を構成する複合コードは、下記(1)式で表わされる複合コードの上撚り係数N1が1300≦N1≦2500の範囲にあると共に、複合コードの上撚り数T1とアラミド繊維の下撚り糸の下撚り数TaとがT1≧Taの関係であり、かつ前記複合コードの上撚り数T1と前記ナイロン繊維の下撚り糸の下撚り数TnとがT1≧Tnの関係であるように設定されている。
    N1=T1×D1
1/2   ・・・(1)
(式中、T1は複合コードの上撚り数[回/10cm]、D1は複合コードの総繊度[dtex]である。)
 
【0017】
  このように構成されたサイド補強層9を配置することにより、通常走行時の乗心地性を良好に維持すると共にランフラット走行時の耐久性を向上することが出来る。即ち、通常走行時には弾性率が低く柔軟性の高いナイロン繊維の物性が発揮され乗心地性を良好に維持することが出来、ランフラット走行時には高強度高弾性のアラミド繊維の物性が発揮されると共に、ナイロン繊維の柔軟性によりサイドウォール部の撓みに耐えることが出来るため、耐久性を向上することが出来る。
 
【0018】
  ここで、複合コードがアラミド繊維のみで構成されると、通常走行時の乗心地性が低下し、またランフラット走行時のサイドウォール部2の撓みに耐えることが困難になるため耐久性が低下する。複合コードがナイロン繊維のみで構成されると、弾性率が低過ぎるためランフラット走行時の耐久性を向上することが出来ない。複合コードの上撚り係数N1がN1<1300の範囲にあるとランフラット走行時の耐久性が低下する。複合コードの上撚り係数N1がN1>2500の範囲にあると通常走行時の乗心地性が悪化する。
 
【0019】
  複合コードの上撚り数T1とアラミド繊維の下撚り糸の下撚り数TaとがT1<Taの関係であるとランフラット走行時の耐久性が低下する。複合コードの上撚り数T1とナイロン繊維の下撚り糸TnとがT1<Tnの関係であると通常走行時の乗心地性が低下する。
 
【0020】
  また、この複合コードにおいて、上撚り数T1
は15回/10cm以上かつ35回/10cm以下であ
る。上撚り数T1が15回/10cmより小さいとランフラット走行時の耐久性を向上する効果が充分に得られない。上撚り数T1が35回/10cmより大きいと通常走行時の乗心地を改善する効果が充分に得られない。
 
【0021】
  本発明において、下記(2)式で表わされるアラミド繊維の下撚り糸の下撚り係数Naと下記(3)式で表わされるナイロン繊維の下撚り糸の下撚り係数NnとがNa≧Nnの関係であることが好ましい。
    Na=Ta×Da
1/2   ・・・(2)
    Nn=Tn×Dn
1/2   ・・・(3)
(式中、Taはアラミド繊維の下撚り糸の下撚り数[回/10cm]、Tnはナイロン繊維の下撚り糸の下撚り数[回/10cm]、Daはアラミド繊維の下撚り糸の繊度[dtex]、Dnはナイロン繊維の下撚り糸の繊度[dtex]である。)
 
【0022】
  アラミド繊維の下撚り係数Naとナイロン繊維の下撚り係数NnとがNa<Nnの関係であるとランフラット走行時の耐久性を向上する効果が充分に得られない。
 
【0023】
  本発明において、複合コードが3本撚り構造であることが好ましい。複合コードの撚り構造を3本撚り構造にすることで通常走行時の乗心地性とランフラット走行時の耐久性をより高度に両立することが出来る。このような3本撚り構造を構成する下撚り糸の選択は特に限定されず、1本のアラミド繊維の下撚り糸と2本のナイロン繊維の下撚り糸とを撚り合わせた3本撚り構造、又は2本のアラミド繊維の下撚り糸と1本のナイロン繊維の下撚り糸とを撚り合わせた3本撚り構造にすることが出来る。好ましくは、2本のアラミド繊維の下撚り糸と1本のナイロン繊維の下撚り糸とを撚り合わせた3本撚り構造にすると良い。
 
【0024】
  サイド補強層9はサイドウォール部2におけるカーカス層4のタイヤ幅方向外側に配置すればどのように配置してもよいが、好ましくはサイド補強層9のトレッド側端部が最内周側のベルト層6の内周側まで延長すると共に、サイド補強層9のビード側端部がビードコア5の下端まで延長すると良い。このようにサイド補強層9の両端部を変動の少ない部位に配置することでランフラット走行時の耐久性をより向上することが出来る。
 
【実施例】
【0025】
タイヤサイズを225/45ZR17で共通にし、サイド補強層の仕様を表1のように異ならせた比較例1〜5、
参考例1、実施例1〜
6の12種類の試験タイヤを製作した。
【0026】
  これら12種類の試験タイヤについて、下記の評価方法により通常走行時の乗心地性及びランフラット走行時の耐久性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0027】
      乗心地性
  試験タイヤをリムサイズ17×9JJのホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとし、2500ccクラスの国産乗用車に装着し、ドライバーがフィーリング試験を行った。評価結果は比較例1を100とする指数で示した。指数値が大きいほど乗心地性が良好であることを意味する。
【0028】
      耐久性
  試験タイヤを38±3℃の雰囲気温度中でリムサイズ17×9JJのホイールに組み付けて、所定の空気圧にてリム組みした後、バルブコアを取り除き空気圧を完全に抜いた。その後、最大荷重の65%を負荷し、時速81kmで直径1707mmの回転ドラム上で走行させ、タイヤが故障するまでの走行距離を測定した。測定結果は比較例1を100とする指数で示した。指数値が大きいほど耐久性が良好であることを意味する。
【0029】
【表1】
【0030】
  比較例1が基準である。比較例2及び4は上撚り係数N1が大き過ぎるため通常走行時の乗心地性が低下した。比較例3及び5は上撚り係数N1が小さ過ぎるためランフラット走行時の耐久性が低下した。
【0031】
  一方、実施例1〜
6はいずれも通常走行時の乗心地性を向上すると共に、ランフラット走行時の耐久性を向上することが出来た。
 
 
【符号の説明】
【0032】
  1  トレッド部
  2  サイドウォール部
  3  ビード部
  4  カーカス層
  5  ビードコア
  6  ベルト層
  7  ベルトカバー層
  8  補強ゴム層
  9  サイド補強層