(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、一実施形態に係る拡底杭10を示す立面断面図である。この図に示すように、拡底杭10は、地下街や高架下等の頭上に構造物1が存在する空間(即ち、低空頭部)で地盤2に施工される大深度且つ高耐力の場所打ちコンクリート杭であり、支持層3まで延びている。
【0013】
図2(A)は、拡底杭10を示す斜視図であり、
図2(B)は、拡底杭10を示す平面図である。これらの図に示すように、拡底杭10は、平断面の形状が一様に長方形状である(即ち長方柱状の)軸部12と、平断面の形状が円状で上側にかけて次第に縮径する(即ち円錐形状もしくは円錐台形状の)拡底部14とを備えている。ここで、拡底部14の底端部の直径(最大直径)Dは、軸部12の平断面の対角線長Lよりも長く設定されており、拡底部14は、軸部12の底部における全周に亘って側方に拡大されている。また、拡底部14は、支持層3内に形成されている。なお、軸部12の短辺の長さは600〜2500mm、長辺の長さは2400〜3200mm、拡底部14の最大直径Dは、3000〜5000mmに設定すればよい。
【0014】
図3〜
図8は、拡底杭10の構築方法を説明するための立面断面図である。これらの図に示すように、本実施形態では、まず、軸部12を構築するための長方柱状の孔13を、低空頭対応の水平多軸型掘削機(ハイドロフレーズ掘削機(商標))20を使用して掘削し、拡底部14を構築するために拡径した孔底部15を、リバースサーキュレーション型掘削機40を使用して掘削する。
【0015】
図3に示すように、水平多軸型掘削機20も、リバースサーキュレーション型掘削機であり、矩形柱状の掘削機本体22と、掘削機本体22を吊り下げて支持するクローラー式の専用櫓24を備える。掘削機本体22には、左右一対のカッター21、揚泥ポンプ23、姿勢検出装置25、姿勢修正装置27等が備えられている。また、専用櫓24には、ホースリール29、ケーブルリール31、油圧ユニット33等が備えられている。
【0016】
左右一対のカッター21は、掘削機本体22の下端に配された水平2軸のロータリーカッターであり、油圧ユニット33に動力ケーブルを介して接続されており、油圧ユニット33の駆動力で回転して土砂をほぐす。また、揚泥ポンプ23はホースを介して不図示の土砂分離機に接続されており、孔内から孔内水と共に土砂を吸い上げて土砂分離機へ送る。また、ホースは、ホースリール29により巻き取られたり巻き出されたりする。
【0017】
ここで、掘削機本体22は、全高が約5mである専用櫓24から吊り下げられて支持されており、これにより、水平多軸型掘削機20の低空頭部での使用が可能となっている。
【0018】
姿勢検出装置25は、光ファイバージャイロスコープであり、掘削機本体22の鉛直軸に対する傾きを検出する。姿勢修正装置27は、掘削機本体22の上下にそれぞれ4組ずつ配された油圧ジャッキ(不図示)及び支圧板35を備えている。この油圧ジャッキは、水平方向に伸縮可能に配され、油圧ユニット33の駆動力で動作する。また、支圧板35は、油圧ジャッキの先端に取付けられており、油圧ジャッキが伸長すると、掘削機本体22の外側へ移動して、孔壁に当接する。これにより、掘削機本体22の姿勢が変化する。
【0019】
姿勢検出装置25の検出信号は、掘削管理用コンピュータに送信され、オペレータ室の操作パネルに、掘削機本体22の傾き等に関する情報が表示される。オペレータは、掘削機本体22の傾きが補正されるように、操作パネルに表示された情報に基づいて、姿勢修正装置27の各油圧ジャッキの伸縮量を設定することになる。
【0020】
以上のような構成の水平多軸型掘削機20を使用し、孔13内に安定液を注入しながら、軸部12を形成するための長方柱状の孔13を、支持層3まで掘削する工程を実施する。この工程では、姿勢修正装置27で掘削機本体22の姿勢を調整しながら、削孔を進めることで、孔13の鉛直性を確保する。
【0021】
図4に示すように、リバースサーキュレーション型掘削機40は、掘削機本体42と、専用櫓44とを備えている。掘削機本体42は、専用櫓44に回転可能に支持されたロッド46の先端に取付けられている。掘削機本体42には、左右一対の拡幅ビット41、左右一対の拡幅ガイド43、駆動機構45、孔底整形ビット47、排土管49等が設けられている。また、専用櫓44には、ポンプ等が設けられている。
【0022】
拡幅ガイド43は、下側へかけて外周側に傾斜しており、拡幅ビット41は、この拡幅ガイド43に摺動可能に支持されている。このため、拡幅ビット41は、油圧ジャッキ等の駆動機構45により下降されると、各幅ガイド43に沿って外周側へ変位する。この状態で掘削機本体42が回転されることで、孔底が拡径される。
【0023】
孔底成形ビット47は、掘削機本体42の底部に設けられており、孔底を掘削する。また、排土管49は、ホースを介して専用櫓44のポンプに接続されており、排土管49から孔内水と共に土砂が吸い上げられる。
【0024】
ここで、拡幅ビット41の回転半径の最小値は、孔13の厚み(短辺の長さ)より小さく、一方、拡幅ビット41の回転半径の最大値は、孔13の厚みより大きい。また、ロッド46は、複数の軸を接続した構成になっており、接続する軸の数を増やしロッド46を延長することにより、掘削機本体42を下降させる。これにより、大深度の拡底杭10を構築することに対応できる。
【0025】
以上のような構成のリバースサーキュレーション掘削機40を使用し、孔13に安定液を注入しながら、拡底部14を構築するための拡径した孔底部15を、支持層3に構築する工程を実施する。この工程では、拡幅ビット41の回転半径が最小となるように、各幅ビット41を昇降範囲の最高位に位置させた状態で、拡径掘削機本体42を、孔底部15まで下降させる。そして、拡幅ビット41を、拡幅ガイド43に沿って徐々に下降させることにより、回転半径を拡大させながら回転させることで、下側にかけて徐々に拡径する孔底部15を構築する。その後、孔13の鉛直性や孔底部15の形状を測定したり、底浚えを実施したり、スライム処理を実施したりする。
【0026】
次に、
図5に示すように、予め組み立てられている鉄筋籠16を、孔13内に建て込む工程を実施する。この工程では、鉄筋籠16を、クレーンで吊り下げて支持し、孔底部15まで下降させる。
【0027】
次に、
図6に示すように、トレミー管17を、孔13内に建て込む工程を実施する。この工程では、トレミー管17を、クレーンで吊り下げて支持し、鉄筋籠16の中を通して孔底部15まで下降させる。そして、再度のスライム処理を実施する。
【0028】
次に、
図7に示すように、孔11内にコンクリートを打設する工程を実施する。この工程では、トレミー管17を通して生コンクリートを孔底部15から孔13の上部まで充填する。その後、トレミー管17を孔13から撤去する。
【0029】
次に、
図8に示すように、硬化前のコンクリート中に、逆打ち支柱18を建て込む。この工程では、逆打ち支柱18の上部を軸部12の上面から上方に突出させる。逆打ち支柱18は、拡底杭10の上に構築される構造物の床や梁等を支持することになる。
【0030】
以上のような工程を経て構築された拡底杭10は、軸部12が長方柱形状であることから、軸部12の長辺の方向に作用する地震時の水平力に対する耐力を効率よく増大させることができる。また、軸部12の断面積を拡大させるのではなく、軸部12の全周が埋没されるまでに拡底部14の断面積を拡大させることにより、杭の軸力を増大させている。これにより、杭の体積の拡大、即ちコンクリートの打設量を抑えたうえで杭の軸力を効果的に増大させることができ、以って、工期の短縮や工費の抑制や環境負荷の抑制等を図ることができる。
【0031】
ここで、
図9に示すように、本実施形態に係る拡底杭10と同じ断面積を得るために軸部12の底部に複数の拡底部19を構築する場合には、拡底工程を複数回実施することを要する。これに対し、本実施形態に係る拡底杭10のように長方柱状(矩形柱状)の軸部12の全周が埋没されるような大径の拡底部14を備える拡底杭10を構築するためには、軸部12を形成するための長方柱状の孔13を掘削する工程を実施した後、その孔13の底部(孔底部15)を拡径させる工程を1回実施すれば足りる。従って、本実施形態に係る拡底杭10及びその構築方法によれば、工数を抑制したうえで杭の軸力を効率よく増大させることができる。
【0032】
ここで、アースドリル工法を用いて拡底杭を形成するための孔及び拡底部を掘削する場合、バケットを、その中が土砂で埋まる度にケリーバーで地上まで引き上げなければならないところ、大深度の拡底杭に対応するケリーバーは長尺である。このため、低空頭部では、アースドリル工法を用いて大深度の拡底杭を施工することは困難である。これに対し、本実施形態に係る拡底杭10の構築方法では、低空頭部に対応する水平多軸型掘削機20を使用して軸部12を形成するための長方柱状の孔13を掘削し、リバースサーキュレーション型掘削機40を使用して拡底部14を形成するための拡径した孔底部15を形成することにより、低空頭部での大深度の拡底杭10の施工を可能としている。
【0033】
また、アースドリル工法を用いて拡底杭を形成するための孔及び拡底部を掘削する場合、回転しているバケットの姿勢を検出することは容易ではないことから、大深度の孔の鉛直性を確保することは容易ではない。これに対し、本実施形態に係る拡底杭10の構築方法では、姿勢検出装置25と姿勢修正装置27とを備える水平多軸型掘削機20を使用して軸部12を形成するための孔13を掘削することにより、大深度の孔13の鉛直性を確保することを可能とし、大深度の拡底杭10に逆打ち支柱18を建て込むことをも可能としている。
【0034】
図10は、他の実施形態に係る拡底杭100を示す斜視図である。この図に示すように、拡底杭100は、上述の拡底杭10の軸部12と比して断面積が小さい軸部102と、上述の拡底杭10の拡底部14と同一形状、同一寸法の拡底部104と、軸部102の中間部を側方に拡大させた節部106とを備える。ここで、拡底部104の底端の断面積は拡底部14と同一であることにより、杭の軸力を低下させることなく、コンクリートの打設量を抑制して工費の抑制や環境負荷の抑制等を図ることができる。
【0035】
なお、本実施形態では、軸部102の平断面の長辺を、軸部12よりも短くすることにより、軸部102の断面積を軸部12よりも小さくし、軸部102の体積を軸部12よりも小さくしているが、軸部12、102の平断面の寸法は、水平力に対する耐力の要求度に応じて適宜設定すればよい。
【0036】
節部106は、平断面の形状が円状で下側にかけて次第に拡径する形状(即ち、円錐形状もしくは円錐台形状)であり、軸部106の全周に亘って側方に拡大されている。これにより、杭の引抜き抵抗力を効率的に増大させることができる。
【0037】
図11は、他の実施形態に係る拡底杭110を示す立面図である。この図に示すように、拡底杭110は、軸部102の中間部を側方に拡大させた節部116を備える。節部116の上部は、上に凸の円錐形状もしくは円錐台形状に形成され、節部116の下部は、下に凸の円錐形状もしくは円錐台形状に形成され、節部116の中央部は、円柱形状に形成されている。即ち、節部116は、そろばんの珠のような形状をしている。
【0038】
なお、上述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、上述の実施形態では、拡底杭10、100の軸部12、102を、平断面の全体形状が矩形状であり、断面の長辺および短辺が直線であるように構成した。しかし、
図12〜
図14に示すように、拡底杭の軸部の構成は適宜変更できる。
【0039】
図12に示すように、拡底杭200の軸部202は、平断面の形状が矩形状の矩形柱部202Aと、矩形柱部202Aの長辺から隆起した半円形状のリブ部202Bとを備える。また、
図13に示すように、拡底杭300の軸部302は、平断面の形状が矩形状の矩形柱部302Aと、平断面の形状が矩形状の矩形柱部302Bとを備えており、これらが互に直交することにより、軸部302の平断面の形状は十字状である。ここで、
図12、
図13に示すように、拡底杭の軸部は、全体形状が矩形柱状であることは必須ではなく、矩形柱状の部分を含んでいればよい。
【0040】
また、
図14に示すように、拡底杭400の軸部402の平断面の形状は、略矩形状であるが、長辺および短辺が曲率を持つ。ここで、この図に示すように、拡底杭の軸部の平断面の長辺及び短辺が直線であることは 必須ではなく、湾曲していてもよい。また、軸部の平断面の角部は円弧状であってもよい。
【0041】
また、上述の実施形態では、拡底部14、104を円錐形状又は円錐台形状に形成したが、平断面の形状が円状であればよく、円柱状に形成してもよい。また、拡底部14、104の平断面の形状は真円であることは必須ではなく、楕円でもよい。
【0042】
また、上述の実施形態では、拡底部14を形成するための孔底部15を、リバースサーキュレーション工法を用いて掘削したが、アースドリル工法等の他の工法を用いて掘削してもよい。また、上述の実施形態では、軸部12を形成するための孔13を、低空頭部対応型の水平多軸型掘削機20を使用したが、低空頭部で矩形柱状の孔を掘削できる他の掘削機を使用してもよい。また、低空頭部で施工を実施しない場合には、低空頭部対応型の掘削機を使用する必要はない。さらに、上述の実施形態では、逆打ち支柱18を拡底杭10に設けたが必須ではない。