特許第5696557号(P5696557)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5696557ポリイミドフィルムの製造方法およびポリイミドフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5696557
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルムの製造方法およびポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20150319BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20150319BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20150319BHJP
   H05K 3/28 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   C08J5/18CFG
   C08G73/10
   H05K1/03 610N
   H05K3/28 B
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-69997(P2011-69997)
(22)【出願日】2011年3月28日
(65)【公開番号】特開2012-201860(P2012-201860A)
(43)【公開日】2012年10月22日
【審査請求日】2014年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(74)【代理人】
【識別番号】100129610
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 暁子
(72)【発明者】
【氏名】加峯 哲治
(72)【発明者】
【氏名】上木戸 健
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−199264(JP,A)
【文献】 特開昭57−039926(JP,A)
【文献】 特開昭60−244507(JP,A)
【文献】 特開平08−100072(JP,A)
【文献】 特開平08−120098(JP,A)
【文献】 特開平08−134234(JP,A)
【文献】 特開平08−143688(JP,A)
【文献】 特開平08−283411(JP,A)
【文献】 特開平08−134232(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/146637(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00− 5/02;5/12− 5/22
C08L 1/00−101/14
C08G 73/00−73/26
B29C 55/00−55/30
B29C 41/00−41/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(工程1)テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させて得られるポリアミック酸溶液と、
前記ポリアミック酸溶液100重量部に対して、0.00025重量部以上、0.001重量部未満のリン酸エステルおよび/またはその塩と
を含むポリアミック酸溶液を、支持体上に流延し、これを乾燥して自己支持性フィルムを得る工程と、
(工程2)この自己支持性フィルムを加熱する工程と
を有する、ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記自己支持性フィルムの加熱減量(重量%)が26〜37%であることを特徴とする、請求項1記載のポリイミドフィルムの製造方法。
ここで、加熱減量(重量%)={(W−W)/W}×100
(Wは加熱前の自己支持性フィルムの重量、Wは加熱後溶剤が除去された自己支持性フィルムの重量)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のポリイミドに比べ光透過率に優れたポリイミドフィルムの製造方法およびポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは耐熱性、寸法安定性、力学特性、電気的性質、耐環境特性、耐薬品性、難燃性、機械的強度などの各種物性に優れ、しかも柔軟性を有しているため、電気・電子デバイス分野、半導体分野などで広く使用されている。例えば、フレキシブルプリント基板(FPC)やテープ・オートメイティド・ボンディング(TAB)用基板等の素材として、半導体集積回路を実装する際に広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、高耐熱性、高寸法性を示すポリイミドとして、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸とパラフェニレンジアミンとから得られるポリイミドが記載されている。
【0004】
また、特許文献2にはリン酸エステル又はリン酸エステルの塩をポリアミック酸溶液に加え、このポリアミック酸溶液を、基体上に流延し、これを加熱して自己支持性フィルムを製造し、基体からこの自己支持性フィルムを剥離し、更に該フィルムを加熱する事でポリイミドフィルムを得る方法が記載されている。そして、リン酸エステル又はリン酸エステルの塩をポリアミック酸溶液に加えたことにより、自己支持性フィルムの剥離が容易になったことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−264028号公報
【特許文献2】特開昭60−244507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示されるような従来のポリイミドは一般に茶褐色の着色を示す。そのため、従来のポリイミドは耐熱性、機械特性等に加えて透明性が要求される用途には十分適用できるには至っていなかった。例えば、ディスプレイに使用する場合は、可視光領域の光の吸収が弱いものが必要となる。また、太陽電池の太陽電池セルを保護するためのカバーフィルムに用いる場合も透明性が必要となる。そして、太陽電池用のカバーフィルムに通常用いられているPET等は、耐熱性、耐薬品性、機械的強度の点で十分な物性を有していないという問題がある。従って、現在、耐熱性等の物性に優れ、かつ透明性の高い材料の開発が求められている。
【0007】
ポリイミドの着色の原因は、ポリイミドの構造に由来する電荷移動錯体の形成にあるとされている。このため、その電荷移動錯体の形成を抑える、または無くすような検討が多数実施されている。例えば、フッ素を導入したモノマー、脂環式モノマーの使用等による透明なポリイミドが提案されている。しかし、このようなポリイミドフィルムは、分子内、分子間の相互作用が一般的なポリイミドフィルムに比べて弱く、電荷移動錯体の形成を抑えることはできるが、一般的なポリイミドフィルムに比べて耐熱性が不十分であるという問題がある。
【0008】
特許文献2には、リン酸エステル又はリン酸エステルの塩の添加範囲は、ポリアミック酸溶液100重量部に対して0.001〜2重量部、好ましくは0.005〜1重量部と記載されている。そして、該範囲よりリン酸エステルまたはリン酸エステルの塩の添加量が少ないと、自己支持性フィルムの剥離性を向上させる効果はないと記載されている。
【0009】
本発明は、耐熱性等の物性が損なわれることなく、着色が抑制され光透過率が向上したポリイミドフィルムの製造方法と、そのポリイミドフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、酸成分、ジアミン成分およびリン酸エステル又はリン酸エステルの塩等のポリイミドを製造するための原料の種類や量に着目し鋭意検討した。その結果、ポリイミドフィルムの製造工程において、リン酸エステルまたはその塩の使用量を制御することにより、望外にもポリイミドフィルムの着色を抑制し、光透過率を向上させることができることを見出した。
【0011】
本発明は以下の事項に関する。
【0012】
1.(工程1)テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させて得られるポリアミック酸溶液と、
前記ポリアミック酸溶液100重量部に対して、0.00025重量部以上、0.001重量部未満のリン酸エステルおよび/またはその塩と
を含むポリアミック酸溶液を、支持体上に流延し、これを乾燥して自己支持性フィルムを得る工程と、
(工程2)この自己支持性フィルムを加熱する工程と
を有する、ポリイミドフィルムの製造方法。
【0013】
2.前記自己支持性フィルムの加熱減量(重量%)が26〜37%であることを特徴とする、上記1記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0014】
ここで、加熱減量(重量%)={(W−W)/W}×100
(Wは加熱前の自己支持性フィルムの重量、Wは加熱後溶剤が除去された自己支持性フィルムの重量)である。
【0015】
3.上記1または2記載の製造方法により製造されたポリイミドフィルム。
【0016】
4.全光線透過率が78%以上である上記3に記載のポリイミドフィルム。
【0017】
5.厚みが7μm〜15μmである上記3または4に記載のポリイミドフィルム。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、耐熱性等の物性を損なうことなく、光透過率が従来のポリイミドフィルムより向上したポリイミドフィルムを製造することができる。また、本発明は、自己支持性フィルムを製造する際、リン酸エステルまたはその塩を用いる量が従来の使用量より少ないが、これにより自己支持性フィルムの剥離性が損なわれることもない。これにより、本発明によるポリイミドフィルムを、例えば、太陽電池のカバーフィルム等に用いることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<ポリイミドフィルムの製造方法>
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、
(工程1)テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させて得られるポリアミック酸溶液と、前記ポリアミック酸溶液100重量部に対して、0.00025〜0.001重量部未満のリン酸エステルおよび/またはその塩とを含むポリアミック酸溶液を、支持体上に流延し、これを乾燥して自己支持性フィルムを得る工程と、
(工程2)この自己支持性フィルムを加熱する工程と
を有する。以下、各工程について説明する。
【0020】
<(工程1)>
本発明は、上記(工程1)において、ポリアミック酸溶液と、このポリアミック酸溶液100重量部に対して、0.00025〜0.001重量部未満のリン酸エステルおよび/またはその塩とを含む溶液を用いて自己支持性フィルムを製造することを特徴とする。まず、(工程1)に用いる各化合物について説明する。
【0021】
<リン酸エステルまたはその塩>
本発明に用いられるリン酸エステルは、特に限定はされないが、例えば、下記式(1)で表されるリン酸エステルが挙げられる。
【0022】
【化1】
式(1)中、
水素原子、炭素数6〜18のアルキル基、または下記式(2)で示される基を表し、
は、炭素数6〜18のアルキル基、または下記式(2)で示される基を表す。
【0023】
【化2】
式(2)中、
は、炭素数が5〜18のアルキル基を表し、
nは2〜30の整数を表す。
【0024】
上記式(1)で表されるリン酸エステルとしては、例えば、モノカプロイルリン酸エステル、モノオクチルリン酸エステル、モノカプリルリン酸エステル、モノラウリルリン酸エステル、モノミリスチルリン酸エステル、モノセチルリン酸エステル、モノステアリルリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノネオペンチルエーテルのモノリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのモノリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのモノリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのモノリン酸エステル、ジカプロイルリン酸エステル、ジオクチルリン酸エステル、ジカプリルリン酸エステル、ジラウリルリン酸エステル、ジミリスチルリン酸エステル、ジセチルリン酸エステル、ジステアリルリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノネオペンチルエーテルのジリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのジリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのジリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのジリン酸エステル等のリン酸エステルが挙げられる。
【0025】
リン酸エステルの塩としては、特に限定はされないが、例えば、上記リン酸エステルと下記式(3)で示されるアミンとの塩が挙げられる。
【0026】
【化3】
式(3)中、R、R、Rは、水素原子、ヒドロキシエチル基または炭素数が1〜4のアルキル基を表す。
【0027】
上記式(3)で表されるアミンとしては、アンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0028】
本発明に用いられるリン酸エステルの塩としては、例えば、モノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩、ジオクチルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、リン酸エステルアミン塩が好ましい。
【0029】
これらリン酸エステルおよび/またはその塩は、単独でも2種類以上を組み合わせても使用できる。
【0030】
<ポリアミック酸溶液>
本発明に用いるポリアミック酸は、公知の方法により、テトラカルボン酸成分(以下、「酸成分」と表記することもある。)とジアミン成分とから得られる。
【0031】
<テトラカルボン酸成分>
テトラカルボン酸成分の具体例としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)およびピロメリット酸二無水物(PMDA)が挙げられ、その他に、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物などを挙げることができる。これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。これらは、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。
【0032】
上記のうち、s−BPDAおよび/またはPMDAを主成分として含むテトラカルボン酸成分がより好ましい。例えば、テトラカルボン酸成分として、s−BPDA及びPMDAから選ばれる酸成分1種以上を、特に好ましくはs−BPDAを、50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、特に好ましくは75モル%以上含むカルボン酸成分を用いると、得られるポリイミドフィルムが、機械的特性などに優れるため好ましい。
【0033】
<ジアミン成分>
ジアミン成分の具体例としては、
1)パラフェニレンジアミン(1,4−ジアミノベンゼン;PPD)、1,3−ジアミノベンゼン、2,4−トルエンジアミン、2,5−トルエンジアミン、2,6−トルエンジアミンなどのベンゼン核1つのジアミン、
2)4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル類、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシドなどのベンゼン核2つのジアミン、
3)1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−4−トリフルオロメチルベンゼン、3,3’−ジアミノ−4−(4−フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジ(4−フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(3−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼンなどのベンゼン核3つのジアミン、
4)3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンなどのベンゼン核4つのジアミン、
などを挙げることができる。これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。これらは、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。
【0034】
上記のうち、PPDおよび/またはジアミノジフェニルエーテル類を主成分として含むジアミン成分が好ましい。例えば、ジアミン成分として、PPD及びジアミノジフェニルエーテル類から選ばれるジアミン成分を、好ましくはPPD、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、および3,4’−ジアミノジフェニルエーテルから選ばれるいずれか1種以上を、特に好ましくはPPDを、50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、特に好ましくは75モル%以上含むジアミン成分を用いると、得られるポリイミドフィルムが機械的特性などに優れるために好ましい。
【0035】
本発明のポリイミド得るための酸成分とジアミン成分との組み合わせの例として、次のものが挙げられる。
1)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)と、p−フェニレンジアミン(PPD)と、必要により4,4−ジアミノジフェニルエーテル(DADE)を含む組み合わせ。この場合、PPD/DADE(モル比)は100/0〜85/15であることが好ましい。
2)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物(PMDA)と、p−フェニレンジアミンと必要により4,4−ジアミノジフェニルエーテルを含む組み合わせ。この場合、BPDA/PMDAは0/100〜90/10であることが好ましい。PPDとDADEを併用する場合、PPD/(DADEは、例えば90/10〜10/90が好ましい。
3)ピロメリット酸二無水物と、p−フェニレンジアミン及び4,4−ジアミノジフェニルエーテルの組み合わせ。この場合、DADE/PPDは90/10〜10/90であることが好ましい。
4)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとを主成分(合計100モル%中の50モル%以上)として得られるものを挙げることができる。
【0036】
上記1)の組み合わせは、特に耐熱性に優れ、弾性率が高くフィルムが薄くなった場合のハンドリング性に優れるために好ましい。
【0037】
上記1)〜4)において、4,4−ジアミノジフェニルエーテル(DADE)の一部又は全部を、目的に応じて3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、又は上に挙げた他のジアミンに置き換えても良い。
【0038】
<ポリアミック酸溶液の製造>
本発明のポリイミドフィルムを製造するためには、まず、上記テトラカルボン酸成分と、ジアミン成分とを反応させて、ポリアミック酸(以下、「ポリイミド前駆体」と表記することもある。)を合成する。本発明においては、上記リン酸エステルおよび/またはその塩を含むポリアミック酸溶液を製造する。以下詳しく説明する。
【0039】
ポリイミド前駆体の合成は、公知の方法で行うことができ、例えば、有機溶媒中で、略等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物などの酸成分とジアミン成分とを、約100℃以下、好ましくは20〜60℃の温度で反応させる。これにより、酸成分とジアミン成分とがランダム重合またはブロック重合され、ポリアミック酸の溶液(ポリアミック酸と有機溶媒の混合物、その他の添加物を含むこともある)を得ることができる。また、予めどちらかの成分が過剰である2種類以上のポリイミド前駆体を合成しておき、各ポリイミド前駆体溶液を一緒にした後反応条件下で混合してもよい。
【0040】
本発明においては、ポリアミック酸とリン酸エステルおよび/またはその塩とを含むポリアミック酸溶液を調製する。リン酸エステルおよび/またはその塩は、ポリアミック酸溶液を支持体上にキャストする前であって、ポリアミック酸と、リン酸エステルおよび/またはその塩とを、均一に混合することができればいずれの時点で混合してもよい。例えば、酸成分とジアミン成分とを反応させる前にリン酸エステルおよび/またはその塩と混合させて、その後重合反応を行ってもよいし、酸成分とジアミン成分との重合反応中にリン酸エステルおよび/またはその塩をその反応液に添加してもよいし、または、酸成分とジアミン成分とを重合反応させた後の溶液中にリン酸エステルおよび/またはその塩を添加してもよい。また、リン酸エステルおよび/またはその塩は、複数回に分けて添加してもよい。
【0041】
リン酸エステルおよび/またはその塩の使用量は、ポリアミック酸溶液100重量部に対して、0.0001重量部以上、0.001重量部未満であることが好ましく、0.00025重量部以上、0.001重量部未満であることがより好ましく、0.00025重量部以上、0.0008重量部以下であることがさらに好ましく、0.00025重量部以上、0.0005重量部以下であることがさらに好ましい。本発明の発明者らは、このリン酸エステルおよび/またはその塩の使用量が従来の使用量より少ない使用量であっても、得られる自己支持性フィルムを支持体から容易に剥離できることを見出した。
【0042】
このようにして得られた、リン酸エステルおよび/またはその塩を含むポリアミック酸溶液はそのまま、あるいは必要であれば溶媒を除去または加えて、自己支持性フィルムの製造に使用することができる。
【0043】
ポリイミド前駆体溶液の有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
ポリイミド前駆体溶液には、必要に応じてイミド化触媒、無機微粒子や有機微粒子などの微粒子などを加えてもよい。
【0045】
イミド化触媒としては、置換もしくは非置換の含窒素複素環化合物、該含窒素複素環化合物のN−オキシド化合物、置換もしくは非置換のアミノ酸化合物、ヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素化合物または芳香族複素環状化合物が挙げられ、特に1,2−ジメチルイミダゾール、N−メチルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、5−メチルベンズイミダゾールなどの低級アルキルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾールなどのベンズイミダゾール、イソキノリン、3,5−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、4−n−プロピルピリジンなどの置換ピリジンなどを好適に使用することができる。イミド化触媒の使用量は、ポリアミック酸のアミド酸単位に対して0.01〜2倍当量、特に0.02〜1倍当量程度であることが好ましい。イミド化触媒を使用することによって、得られるポリイミドフィルムの物性、特に伸びや端裂抵抗が向上することがある。
【0046】
無機微粒子としては、微粒子状の二酸化チタン粉末、二酸化ケイ素(シリカ)粉末、酸化マグネシウム粉末、酸化アルミニウム(アルミナ)粉末、酸化亜鉛粉末などの無機酸化物粉末、微粒子状の窒化ケイ素粉末、窒化チタン粉末などの無機窒化物粉末、炭化ケイ素粉末などの無機炭化物粉末、および微粒子状の炭酸カルシウム粉末、硫酸カルシウム粉末、硫酸バリウム粉末などの無機塩粉末を挙げることができる。これらの無機微粒子は二種以上を組合せて使用してもよい。これらの無機微粒子を均一に分散させるために、それ自体公知の手段を適用することができる。
【0047】
また、化学イミド化を意図する場合には、通常、脱水閉環剤と有機アミンを組み合わせた化学イミド化剤をポリイミド前駆体溶液中に含有させる。脱水閉環剤としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、および無水酢酸、無水プロピオン酸、無水吉草酸、無水安息香酸、トリフルオロ酢酸二無水物等の酸無水物が挙げられ、有機アミンとしては、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
上記で得たポリイミド前駆体溶液は、支持体上にキャストすることができ、自己支持性フィルムを支持体より剥離でき、その後の工程で必要により少なくとも一方向に延伸することのできる自己支持性フィルムが形成できるものであれば、ポリマーの種類、重合度、濃度など、溶液に必要に応じて配合する各種の添加剤の種類、濃度など、ポリイミド前駆体溶液の粘度などは適宜設定することができる。
【0049】
ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体の濃度(固形分濃度)は、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは10〜25質量%、さらに好ましくは15〜20質量%である。ポリイミド前駆体溶液の溶液粘度は、100〜10000ポイズ、好ましくは400〜5000ポイズ、さらに好ましくは1000〜3000ポイズが好ましい。
【0050】
また、本発明のポリイミドフィルムは、組成の異なるポリイミド層が積層された積層体を構成していてもよい。この場合、上記ポリアミック酸溶液は、各ポリイミド層用の酸成分とジアミン成分とを反応させて合成する。
【0051】
<自己支持性フィルムの製造>
ポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムは、上記のように製造したポリアミック酸溶液を支持体上に流延塗布し、自己支持性となる程度(通常のキュア工程前の段階を意味する)、例えば支持体上より剥離することができる程度にまで加熱して製造される。積層体の構成を有する自己支持性フィルムを製造するときは、共押出し−流延製膜法(単に、多層押出法ともいう。)等を用いることができる。
【0052】
自己支持性フィルム作製時の加熱温度および加熱時間は適宜決めることができ、熱イミド化では、例えば、温度100〜180℃で1〜60分間程度加熱すればよい。
【0053】
支持体としては、ポリイミド前駆体溶液をキャストできる物であれば特に限定されないが、平滑な基材を用いることが好ましく、例えばステンレスなどの金属製のドラムやベルトなどが使用される。
【0054】
自己支持性フィルムは、支持体上より剥離することができる程度にまで溶媒が除去され、および/または、イミド化されていれば特に限定されない。例えば、加熱減量が、特に熱イミド化の場合は、20〜50質量%であることが好ましく、25〜45%であることがより好ましく、26〜37%であることがさらに好ましい。また、イミド化率が4〜55%の範囲にあることがさらに好ましく、8〜55%範囲にあることがさらに好ましい。自己支持性フィルムの加熱減量が20〜50質量%であり、イミド化率が8〜55%であれば、自己支持性フィルムの力学的性質が十分となる。
【0055】
また、自己支持性フィルムの加熱減量およびイミド化率が上記範囲内であれば、自己支持性フィルムの上面に後述のようにカップリング剤の溶液を塗工する場合には、カップリング剤溶液をきれいに塗布しやすくなり、イミド化後に得られるポリイミドフィルムに発泡、亀裂、クレーズ、クラック、ひびワレなどの発生が観察されない。
【0056】
なお、上記の自己支持性フィルムの加熱減量とは、測定対象のフィルムを400℃で30分間乾燥し、乾燥前の重量W1と乾燥後の重量W2とから次式によって求めた値である。
【0057】
加熱減量(重量%)={(W1−W2)/W1}×100
また、上記の自己支持性フィルムのイミド化率は、特開平9−316199記載のカールフィッシャー水分計を用いる手法、IRによる手法で求めることができる。
【0058】
IRによる自己支持性フィルムのイミド化率は、IR(ATR)で測定し、フィルム
とフルキュア品との振動帯ピーク面積または高さの比を利用して算出することができる。振動帯ピークとしては、イミドカルボニル基の対称伸縮振動帯やベンゼン環骨格伸縮振動帯などを利用することができる。
【0059】
加熱処理は、熱風炉、赤外線加熱炉などの公知の種々の装置を使用して行うことができる。
【0060】
このようにして得られた自己支持性フィルムの片面または両面には、必要に応じてカップリング剤やキレート剤などの表面処理剤の溶液を塗布してもよい。
【0061】
表面処理剤としては、シランカップリング剤、ボランカップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、アルミニウム系キレート剤、チタネート系カップリング剤、鉄カップリング剤、銅カップリング剤などの各種カップリング剤やキレート剤などの接着性や密着性を向上させる処理剤を挙げることができる。特に、表面処理剤としては、シランカップリング剤などのカップリング剤を用いることが好ましい。
【0062】
シラン系カップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン系、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン系、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン系、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン系、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等が例示される。また、チタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジ−トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート等が挙げられる。
【0063】
カップリング剤としてはシラン系カップリング剤、特にγ−アミノプロピル−トリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピル−トリエトキシシラン、N−(アミノカルボニル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−[β−(フェニルアミノ)−エチル]−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシランカップリング剤が好適で、その中でも特にN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0064】
カップリング剤やキレート剤などの表面処理剤の溶液の溶媒としては、ポリイミド前駆体溶液の有機溶媒(自己支持性フィルムに含有されている溶媒)と同じものを挙げることができる。有機溶媒は、ポリイミド前駆体溶液と相溶する溶媒であることが好ましく、ポリイミド前駆体溶液の有機溶媒と同じものが好ましい。有機溶媒は2種以上の混合物であってもよい。
【0065】
カップリング剤やキレート剤などの表面処理剤の有機溶媒溶液は、表面処理剤の含有量が0.5質量%以上、より好ましくは1〜100質量%、特に好ましくは2〜60質量%、さらに好ましくは3〜55質量%であるものが好ましい。また、水分の含有量は20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下であることが好ましい。表面処理剤の有機溶媒溶液の回転粘度(測定温度25℃で回転粘度計によって測定した溶液粘度)は1〜500センチポイズであることが好ましい。
【0066】
表面処理剤溶液の塗布は、公知の方法で行うことができ、例えば、グラビアコート法、スピンコート法、シルクスクリーン法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などの公知の塗布方法を挙げることができる。
【0067】
上記により得られた自己支持性フィルムを支持体から剥離し、次の(工程2)において、この自己支持性フィルムをイミド化する。本発明においては、上述のとおり、リン酸エステルおよび/またはその塩を含むポリイミド前駆体溶液を用いたことにより、自己支持性フィルムを支持体から剥離する際、自己支持性フィルムが裂けたり傷ついたりすることなく容易に剥離することが可能である。
【0068】
<(工程2)>
(工程2)においては、(工程1)の乾燥工程に続いて、自己支持性フィルムは加熱される。自己支持性フィルムは、連続的または断続的に前記自己支持性フィルムの少なくとも一対の両端縁を連続的または断続的に前記自己支持性フィルムと共に移動可能な固定装置などで固定した状態で、加熱される。加熱温度は、前記の乾燥温度より高く、具体的には200〜550℃の範囲内、好ましくは300〜505℃の範囲内であり、全光線透過率がより高いポリイミドフィルムを得ることができる。
【0069】
また、加熱時間は、好ましくは1〜100分間、特に好ましくは1〜10分間である。これにより、最終的に得られるポリイミドフィルム中の有機溶媒および生成水等からなる揮発物の含有量が1重量%以下になるように、自己支持性フィルムから溶媒などを充分に除去するとともに自己支持性フィルムを構成しているポリマーのイミド化を充分に行って、ポリイミドフィルムを形成することができる。
【0070】
前記の自己支持性フィルムの固定装置としては、例えば、多数のピンまたは把持具などを等間隔で備えたベルト状またはチェーン状のものを、連続的または断続的に供給される前記固化フィルムの長手方向の両側縁に沿って一対設置し、そのフィルムの移動と共に連続的または断続的に移動させながら前記フィルムを固定できる装置が好適である。また、前記の固化フィルムの固定装置は、熱処理中のフィルムを幅方向および/または長手方向に適当な伸び率または収縮率(特に好ましくは0.5〜5%程度の伸縮倍率)で伸縮することができる装置であってもよい。
【0071】
なお、前記において製造されたポリイミドフィルムを、再び好ましくは4N以下、特に好ましくは3N以下の低張力下あるいは無張力下に、100〜400℃の温度で、好ましくは0.1〜30分間熱処理すると、特に寸法安定性が優れたポリイミドフィルムとすることができる。また、製造された長尺のポリイミドフィルムは、適当な公知の方法でロール状に巻き取ることができる。
【0072】
上記製造方法により得られるポリイミドフィルムの厚みは特に限定されるものではないが、例えば、5〜20μmが好ましく、5〜15μmがより好ましく、7〜15μmがさらに好ましい。前述のように、本発明の発明者らは、リン酸エステルおよび/またはその塩の使用量が、従来の使用量より少量であっても、得られる自己支持性フィルムの剥離性が良好であることを見出したが、特に、ポリイミドフィルムの厚みが上記範囲内のとき、良好な剥離性を有する自己支持性フィルムが製造でき、かつ、これをイミド化することにより、光透過率が向上したポリイミドフィルムを得ることができる。一方、ポリイミドフィルムの厚みが厚すぎると、自己支持性フィルムを製造した後、支持体から剥離しにくくなる。
【0073】
本発明により得られるポリイミドフィルムは、厚みが15μm以下において全光線透過率は、70%以上であることが好ましく、76%以上であることがより好ましく、78%以上であることが更に好ましい。本発明のポリイミドフィルムは、従来のポリイミドフィルムより光の透過率が高いことを特徴とする。
【0074】
本発明により得られるポリイミドフィルムの物性は、特に限定されないが、例えば、
熱収縮率が0.05%以下であることが好ましい。また、ガラス転移温度が300℃以上であることが好ましく、330℃以上であることがより好ましく、確認不可能であることがさらに好ましい。本発明のポリイミドフィルムは、上記のとおり、その製造の際、従来から用いられている芳香族テトラカルボン酸および芳香族ジアミンとを使用できるため、耐熱性や寸法安定性等のポリイミドの優れた特性は損なわれない。
【0075】
本発明のポリイミドフィルムは太陽電池のカバーフィルム等、光の透過率が必要とされる製品に好適に用いることができる。
【0076】
また、本発明のポリイミドフィルムを用いて、接着剤、感光性素材、熱圧着性素材などが付いた(積層した)ポリイミドフィルムを得ることもできる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
以下の実施例において、ポリイミドフィルムの評価は次のように行った。
【0079】
(自己支持性フィルムの剥離性)
後述する方法により自己支持性フィルムを製造した後、支持体から剥離する際に判定した。判定基準は以下のとおりである。
○:支持体より自然剥離
△:支持体より剥離可能
×:支持体より剥離不可能
尚、剥離はステンレス基板上にて10cm×10cmの大きさの自己支持性フィルムを製造し、剥離可能かを判定した。
【0080】
(弾性率)
引張り試験機を用いて、ASTM D882に準拠して測定した。
【0081】
(全光線透過率)
JIS K7353に従い測定した。
測定装置はスガ試験機製 HGM−2DPを用い、光源はC光源を使用した。
【0082】
(光透過率測定)
ポリイミドフィルムの光透過率を、日立社製U−2800形分光光度計を用いて測定した。
【0083】
(実施例1)
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と当モル量のp−フェニレンジアミンとをN,N‘−ジメチルアセトアミド中で、30℃、3時間重合して、18重量%濃度のポリアミック酸溶液を得た。このポリアミック酸溶液に、ポリアミック酸溶液100重量部に対して0.0005重量部のモノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩、次いでポリアミック酸100重量部に対して0.5重量部のシリカフィラー(平均粒径0.08μm、日産化学社製ST−ZL)を添加して均一に混合して、ポリイミド前駆体溶液(A)を得た。
【0084】
ポリイミド前駆体溶液(A)を、ステンレス基板(支持体)上に連続的に流延し、140℃の熱風で5分間乾燥をおこない、支持体から剥離して自己支持性フィルム(B)を得た。この自己支持性フィルム(B)の剥離性を上記の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0085】
自己支持性フィルム(B)を加熱炉で100℃から500℃に徐々に昇温して溶媒を除去し、自己支持性フィルムを構成する組成物をイミド化してポリイミドフィルム(C)を得た。得られたポリイミドフィルム(C)の厚みは、15μmであった。尚、自己支持性フィルム(B)の加熱減量は29.4%であった。結果を表1に示す。
【0086】
(実施例2)
モノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩の添加量をポリアミック酸溶液100重量部に対して0.00025重量部にしたこと以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例3)
ステンレス基板上にポリアミック酸溶液を流延した後に、120℃の熱風で乾燥を行った以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0088】
(比較例1)
モノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩をポリアミック酸溶液に添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に行った。自己支持性フィルムを製造後、これをステンレス基板から剥離することができず、ポリイミドフィルムを得る事はできなかった。結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
実施例1〜3および比較例1により、リン酸エステルの添加量が、特許文献2に記載されている使用量より少量でも、自己支持性フィルムの剥離は可能であることが明らかとなった。
【0091】
(実施例4)
実施例1と同様に自己支持性フィルム(B)を製造した。その後、この自己支持性フィルム(B)を加熱炉で100℃から406℃に徐々に昇温して溶媒を除去し、イミド化してポリイミドフィルム(C)を得た。得られたポリイミドフィルム(C)の厚みは、12μmであった。このポリイミドフィルム(C)の全光線透過率を上記方法により測定したところ、80.6%であった。結果を表2に示す。
【0092】
(実施例5)
イミド化する際、加熱炉で100℃から505℃に徐々に加熱したこと以外は、実施例4と同様に行った。結果を表2に示す。
【0093】
(比較例2)
モノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩の添加量を0.002重量部にした以外は、実施例4と同様に行った。結果を表2に示す。
【0094】
(比較例3)
イミド化する際、加熱する温度を505℃までにしたこと以外は、比較例2と同様に行った。結果を表2に示す。
【0095】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のポリイミドフィルムは、透明性を要求される太陽電池のカバーフィルム等として有用である。