【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
〔実施例1〜7および比較例1〜9〕
表1および表2に示される組成を有する鋼材それぞれを所定形状に加工して、転がり軸受としての複列円錐ころ軸受装置1の外輪2を構成する第1外輪部材2aおよび第2外輪部材2b、内輪3を構成する内輪部材3aならびに円錐ころ4それぞれの素形材を製造した。第1外輪部材2a、第2外輪部材2bおよび内輪部材3aは、それぞれ、軌道面2a1,2b1,3a1を形成する部分に研磨取代を有する。また、転動体である円錐ころ4は、転動面を形成する部分に研磨取代を有する。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
つぎに、得られた素形材に、熱処理を施した(表1、表2ならびに
図3〜8参照)。熱処理後の各中間素材(外輪部材、内輪部材)の前記軌道面を形成する部分および熱処理後の中間素材(転動体)の前記転動面を形成する部分それぞれに研磨加工を施して、実施例1〜7および比較例1〜9それぞれの転がり摺動部材〔第1外輪部材2a、第2外輪部材2b、内輪部材3aおよび円錐ころ4〕を得た。そして、実施例1〜7および比較例1〜9それぞれの転がり摺動部材を用い、複列円錐ころ軸受装置を製造した。実施例1〜7における熱処理条件〔表1に示される条件(A)〕を
図3に示す。比較例1における熱処理条件〔表2に示される条件(B)〕を
図4に示す。比較例2における熱処理条件〔表2に示される条件(C)〕を
図5に示す。比較例3および4における熱処理条件〔表2に示される条件(D)〕を
図6に示す。比較例5および6における熱処理条件〔表2に示される条件(E)〕を
図7に示す。比較例7〜9における熱処理条件〔表2に示される条件(F)〕を
図8に示す。
【0050】
図3に示される熱処理条件は、素形材を、浸炭炉内にセットし、この浸炭炉内に雰囲気の酸素分圧3.0×10
-15Paの空気を供給しながら、当該素形材を昇温速度0.08℃/秒で860℃まで加熱し、つぎに、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、960℃で25時間加熱し、その後、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、880℃で0.5時間加熱し、100℃に油冷し(浸炭)、その後、660℃で5時間の加熱(中間焼鈍)、840℃で1時間の加熱(2次焼入れ)、180℃で2時間の加熱(焼もどし)を行なうものである。かかる
図3に示される熱処理条件は、前述した本発明の転がり摺動部材の製造方法における熱処理条件を満たすものである。
図4に示される熱処理条件は、素形材を、浸炭炉内で、カーボンポテンシャル1.4の浸炭雰囲気中において、960℃で25時間加熱し、その後、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、880℃で0.5時間加熱し、100℃に油冷し(浸炭)、その後、660℃で5時間の加熱(中間焼鈍)、840℃で1時間の加熱(2次焼入れ)、180℃で2時間の加熱(焼もどし)を行なうものである。
図5に示される熱処理条件は、素形材を、浸炭炉内で、カーボンポテンシャル1.2の浸炭雰囲気中において、960℃で20時間加熱し、その後、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、880℃で0.5時間加熱し、100℃に油冷し(浸炭)、その後、660℃で5時間の加熱(中間焼鈍)、820℃で1時間の加熱(2次焼入れ)、180℃で2時間の加熱(焼もどし)を行なうものである。
図6に示される熱処理条件は、素形材を、浸炭炉内で、カーボンポテンシャル1.4の浸炭雰囲気中において、960℃で25時間加熱し、その後、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、880℃で0.5時間加熱し、100℃に油冷し(浸炭)、その後、660℃で5時間の加熱(中間焼鈍)、820℃で1時間の加熱(2次焼入れ)、180℃で2時間の加熱(焼もどし)を行なうものである。
図7に示される熱処理条件は、素形材を、浸炭炉内にセットし、この浸炭炉内の雰囲気の酸素分圧を3.0×10
-15Paに維持しながら、当該素形材を昇温速度0.07℃/秒で860℃まで加熱し、つぎに、浸炭炉内で、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、960℃で25時間加熱し、その後、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、880℃で0.5時間加熱し、100℃に油冷し(浸炭)、その後、660℃で5時間の加熱(中間焼鈍)、840℃で1時間の加熱(2次焼入れ)、180℃で2時間の加熱(焼もどし)を行なうものである。
図8に示される熱処理条件は、素形材を、浸炭炉内にセットし、この浸炭炉内の雰囲気の酸素分圧を3.0×10
-15Paに維持しながら、当該素形材を昇温速度0.07℃/秒で860℃まで加熱し、つぎに、浸炭炉内で、カーボンポテンシャル1.1の浸炭雰囲気中において、960℃で25時間加熱し、その後、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、880℃で0.5時間加熱し、100℃に油冷し(浸炭)、その後、660℃で5時間の加熱(中間焼鈍)を行なうものである。
【0051】
〔試験例1〕
実施例1〜7および比較例1〜9それぞれの方法で得られた転がり摺動部材(円錐ころ)について、表面から0.05mmまでの範囲の表面層における炭素の含有量(以下、「表面炭素含有量」という)、前記表面から0.1mmの深さの位置での硬さ(以下、「表面硬さ」という)、前記表面から0.1mmの深さの位置での残留オーステナイト量(以下、「表面残留オーステナイト量」という)、前記表面から0.03mmの深さの位置における炭化物の面積率(以下、「表面炭化物面積率」という)、断面中央部における硬さ(以下、「内部硬さ」という)、断面中央部におけるマルテンサイト変態率(以下、「内部マルテンサイト変態率」という)を調べた。
【0052】
前記表面炭素含有量は、実施例1〜7および比較例1〜9それぞれの方法で得られた転がり摺動部材(円錐ころ)を、転走面の表面から深さ方向に切断した後、前記表面から0.05mmまでの範囲の表面層における炭素の含有量を測定することにより求めた。
前記表面硬さは、実施例1〜7および比較例1〜9それぞれの方法で得られた転がり摺動部材(円錐ころ)を、転走面の表面から深さ方向に切断した後、前記表面から0.1mmの深さの位置にビッカース圧子をあてて測定した。また、ロックウェルC硬さは、測定されたビッカース硬さを変換することにより求めた。
前記表面残留オーステナイト量は、実施例1〜7および比較例1〜9それぞれの方法で得られた転がり摺動部材(円錐ころ)それぞれの転走面の表面から0.1mmの深さまでを電解研磨し、電解研磨された表面の残留オーステナイト量を測定することにより求めた。
前記表面炭化物面積率は、実施例1〜7および比較例1〜9それぞれの方法で得られた転がり摺動部材(円錐ころ)の転走面の表面から深さ方向に0.03mmの部分で切断し、5質量%ピクラール腐食液に10秒間浸漬して腐食させ、走査型電子顕微鏡〔(株)島津製作所製、商品名:RPMA−1600、倍率3000倍〕により、切断面のSE像(1000μm
2)を撮影し、SE像の面積に対する炭化物の面積の割合を調べることにより算出した。
内部硬さは、実施例1〜7および比較例1〜9それぞれの方法で得られた転がり摺動部材(円錐ころ)を、転走面の表面から深さ方向に切断した後、断面中央部にビッカース圧子をあてて測定した。また、ロックウェルC硬さは、測定されたビッカース硬さを変換することにより求めた。
内部マルテンサイト変態率は、前記断面中央部について、〔(株)島津製作所製、商品名:RPMA−1600、倍率1000倍〕により、研削面のSE像(3〜5視野、36000〜60000μm
2)を撮影し、マルテンサイトに相当する部分を塗りつぶし、SE像の面積に対する塗りつぶされた部分の面積の割合を調べることにより算出した。
【0053】
試験例1において、表面炭素含有量、表面硬さ、表面残留オーステナイト量、表面炭化物面積率、内部硬さおよび内部マルテンサイト変態率を調べた結果を表3および4に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
また、実施例1〜7および比較例1〜9それぞれの方法で得られた転がり摺動部材(円錐ころ)の耐食性(耐錆性)を評価した。耐錆性の評価には、実施例1〜7および比較例1〜9それぞれの方法で作製した試験片を用いた。試験片は、以下のように作製した。まず、実施例1〜7および比較例1〜9それぞれで用いられた鋼材(表1および表2に示される組成を有する鋼材)からなる直径32mmの円柱状の素形材それぞれに対して、表1に示される実施例1〜7および表2に示される比較例1〜9それぞれと同じ熱処理条件の熱処理を施した。つぎに、熱処理後の素形材を研削して、20mm×30mm×8mmの小片を得た。得られた小片の20mm×30mmの表面に対して、平均粗さが0.4μmとなるように研磨仕上げを施し、耐錆性を評価するための試験片(以下、「試験片A」と表記する)を得た。なお、得られた試験片Aは、表3および4に示された各転がり摺動部材の表面品質と同じ表面品質を有する。
得られた試験片Aを、相対湿度95体積%の雰囲気中、50℃で96時間維持した。その後、実施例1〜7および比較例1〜9それぞれの方法で得られた試験片の表面のマクロ像(600mm
2)を撮影し、マクロ像の面積に対する錆の面積の割合(発錆面積率)を算出した。
【0057】
さらに、実施例1〜7および比較例1〜9それぞれの方法で得られた転がり摺動部材(円錐ころ)の寿命を評価した。寿命の評価には、実施例1〜7および比較例1〜9それぞれの方法で作製した試験片を用いた。試験片は、以下のように作製した。まず、実施例1〜7および比較例1〜9それぞれで用いられた鋼材(表1および表2に示される組成を有する鋼材)からなる直径32mmの円柱状の素形材それぞれに対して、表1に示される実施例1〜7および表2に示される比較例1〜9それぞれと同じ熱処理条件の熱処理を施した。つぎに、熱処理後の素形材を研削して、直径が20mmであり、高さが36mmである円柱状の試験片(以下、「試験片B」と表記する)を得た。なお、かかる試験片Bは、表3および4に示された各転がり摺動部材の表面品質と同じ表面品質を有する。
得られた試験片Bを
図9に示される試験機に取り付け、以下の条件で試験機を運転し、試験片Bが剥離を生じる状態となるまでの寿命を調べた。そして、比較例1に用いられた鋼材から得られた試験片Bの平均寿命に対する各試験片の平均寿命の相対値を求めた。
最大接触応力:5.8GPa
繰返し速度 :285Hz
潤滑 :タービン油VG68 循環
油温 :60℃
試験片数 :5
なお、試験機においては、駆動輪101と従動輪102との間に、駆動輪101側から順に試験片Bと2つの鋼球103a,103bとが配置されている。試験片Bは、駆動輪101と、2つの鋼球103a,103bとに摺接している。前記2つの鋼球103a,103bは、互いに一定の距離を隔てて位置するように、従動輪104a,104b間に摺動可能に配置されている。
【0058】
また、実施例1〜7および比較例1〜9それぞれの方法で試験片を作製し、試験片は、以下のように作製した。実施例1〜7および比較例1〜9それぞれの方法で得られた転がり摺動部材(円錐ころ)の耐割損性(破壊靱性)を調べた。内部の破壊靱性の評価には、実施例1〜7および比較例1〜9それぞれの方法で作製した試験片を用いた。試験片は、以下のように作製した。まず、実施例1〜7および比較例1〜9それぞれで用いられた鋼材(表1および表2に示される組成を有する鋼材)からなる直径90mmの素材に対して、表1に示される実施例1〜7および表2に示される比較例1〜9それぞれと同じ条件の熱処理を施した。熱処理後の素材の中周部から、ASTM E399−78に準拠した形状の小型引張試験用の試験片(25.4mm×63.5mm×61mm、以下、「試験片C」と表記する)を採取した。なお、かかる試験片Cは、表3および4に示された各転がり摺動部材の内部品質を有する。
得られた試験片について、ASTM E399−78に従って破壊靱性試験を行ない、平面ひずみ破壊靭性値(K
IC)を測定した。その後、内部の破壊靱性値(評価対象の試験片のK
IC/比較例1の試験片のK
IC)を求めた。
【0059】
試験例1において、発錆面積率、平均寿命および破壊靱性値を算出した結果を表5に示す。耐食性、寿命および耐割損性は、以下の評価基準にしたがって評価することができる。
〔評価基準〕
(耐食性)
発錆面積率が4以下である場合、転がり摺動部材として十分な耐食性を有する。
発錆面積率が4を超える場合、耐食性が不十分である。
(寿命)
平均寿命が2.00以上である場合、転がり摺動部材として十分な寿命を有する。
平均寿命が2.00未満である場合、転がり摺動部材として十分な寿命を有していない。
(耐割損性)
破壊靱性値が1.2以上である場合、転がり摺動部材として十分な耐割損性を有する。
破壊靱性値が1.2未満である場合、耐割損性が不十分である。
【0060】
【表5】
【0061】
表5に示された結果から、実施例1〜7それぞれの方法で得られた試験片において、発錆面積率が4以下、平均寿命が2.00以上および破壊靱性値が1.2以上であることがわかる。かかる結果から、実施例1〜7それぞれの方法で得られた試験片は転がり摺動部材として十分な耐食性、寿命および耐割損性を有することがわかる。これに対し、比較例1〜9それぞれの方法で得られた試験片の耐食性、寿命および耐割損性のいずれかが、不十分であることがわかる。
【0062】
実施例1〜7の方法に用いられた鋼材は、0.16〜0.19質量%の炭素と、0.15〜0.55質量%のケイ素と、0.20〜1.55質量%のマンガンと、2.4〜3.2質量%のクロムとを含有し、残部が
鉄および不可避不純物であり、不可避不純物としてのニッケルを0.01〜0.2質量%、不可避不純物としてのモリブデンを0.001質量%以上0.1質量%未満含有し、かつ前記式(I)で表される焼入れ性指数が5.4以上であるという条件〔「鋼材条件」という〕を満たす鋼材である。かかる鋼材は、ニッケルおよびモリブデンの含有量が0.1質量%未満であるため、安価である。
一方、比較例1〜9の方法に用いられた鋼材は、前記鋼材条件を満たしていない。
したがって、これらの結果から、転がり軸受である複列円錐ころ軸受装置において、鋼材として、前記条件を満たす鋼材を用い、本発明の転がり摺動部材の製造方法における熱処理条件を満たす条件の熱処理を施すことにより、転がり摺動部材を安価に製造することができ、かつ転がり軸受の耐食性および耐割損性の向上ならびに長寿命化を図ることができることが示唆される。
【0063】
(試験例2)
表5に示される組成を有する鋼材それぞれを所定形状に加工して、転がり軸受としての複列円錐ころ軸受装置1の円錐ころの素形材を製造した。なお、表5において、鋼材Aは実施例3で用いられた鋼材、鋼材Bは実施例1で用いられた鋼材、鋼材Cは比較例5で用いられた鋼材、鋼材Dは実施例2で用いられた鋼材である。
【0064】
【表6】
【0065】
つぎに、得られた素形材に、
図10〜
図15に示される熱処理を施した。熱処理後の各中間素材の転走面を形成する部分それぞれに研磨加工を施して、転がり摺動部材(円錐ころ)を得た。
【0066】
図10に示される熱処理条件は、素形材を、浸炭炉内にセットし、この浸炭炉内に雰囲気の酸素分圧1.03×10
-15Paの空気を供給しながら、当該素形材を昇温速度1℃/秒で860℃まで加熱し、つぎに、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、960℃で3時間加熱し、その後、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、880℃で0.5時間加熱し、100℃に油冷し(浸炭)、その後、660℃で5時間の加熱(中間焼鈍)、840℃で1時間の加熱(2次焼入れ)、180℃で2時間の加熱(焼もどし)を行なうものである。
図11に示される熱処理条件は、素形材を、浸炭炉内にセットし、この浸炭炉内に雰囲気の酸素分圧4.23×10
-15Paの空気を供給しながら、当該素形材を昇温速度1℃/秒で860℃まで加熱し、つぎに、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、960℃で3時間加熱し、その後、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、880℃で0.5時間加熱し、100℃に油冷し(浸炭)、その後、660℃で5時間の加熱(中間焼鈍)、840℃で1時間の加熱(2次焼入れ)、180℃で2時間の加熱(焼もどし)を行なうものである。
図12に示される熱処理条件は、素形材を、浸炭炉内にセットし、この浸炭炉内に雰囲気の酸素分圧1.06×10
-13Paの空気を供給しながら、当該素形材を昇温速度1℃/秒で860℃まで加熱し、つぎに、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、960℃で3時間加熱し、その後、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、880℃で0.5時間加熱し、100℃に油冷し(浸炭)、その後、660℃で5時間の加熱(中間焼鈍)、840℃で1時間の加熱(2次焼入れ)、180℃で2時間の加熱(焼もどし)を行なうものである。
図13に示される熱処理条件は、素形材を、浸炭炉内にセットし、この浸炭炉内に雰囲気の酸素分圧8.75×10
-16Paの空気を供給しながら、当該素形材を昇温速度0.4℃/秒で860℃まで加熱し、つぎに、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、960℃で3時間加熱し、その後、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、880℃で0.5時間加熱し、100℃に油冷し(浸炭)、その後、660℃で5時間の加熱(中間焼鈍)、840℃で1時間の加熱(2次焼入れ)、180℃で2時間の加熱(焼もどし)を行なうものである。
図14に示される熱処理条件は、素形材を、浸炭炉内にセットし、この浸炭炉内に雰囲気の酸素分圧7.94×10
-15Paの空気を供給しながら、当該素形材を昇温速度0.4℃/秒で860℃まで加熱し、つぎに、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、960℃で3時間加熱し、その後、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、880℃で0.5時間加熱し、100℃に油冷し(浸炭)、その後、660℃で5時間の加熱(中間焼鈍)、840℃で1時間の加熱(2次焼入れ)、180℃で2時間の加熱(焼もどし)を行なうものである。
図15に示される熱処理条件は、素形材を、浸炭炉内にセットし、この浸炭炉内に雰囲気の酸素分圧4.67×10
-14Paの空気を供給しながら、当該素形材を昇温速度0.4℃/秒で860℃まで加熱し、つぎに、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、960℃で3時間加熱し、その後、カーボンポテンシャル0.9の浸炭雰囲気中において、880℃で0.5時間加熱し、100℃に油冷し(浸炭)、その後、660℃で5時間の加熱(中間焼鈍)、840℃で1時間の加熱(2次焼入れ)、180℃で2時間の加熱(焼もどし)を行なうものである。
【0067】
試験例1と同様の操作を行ない、得られた転がり摺動部材について、表面炭素含有量を求めた。試験例2において、鋼材Aを用いた場合における酸素分圧と表面炭素含有量との関係を調べた結果を
図16に示す。試験例2において、鋼材Bを用いた場合における酸素分圧と表面炭素含有量との関係を調べた結果を
図17に示す。試験例2において、鋼材Cを用いた場合における酸素分圧と表面炭素含有量との関係を調べた結果を
図18に示す。試験例2において、鋼材Dを用いた場合における酸素分圧と表面炭素含有量との関係を調べた結果を
図19に示す。なお、浸炭時間を15時間以上とする場合においては、最初の3時間で、表面炭素含有量が0.6質量%以上であれば、十分に浸炭を行なうことができることが経験上わかっている。そこで、表面炭素含有量が0.6質量%以上である場合、「浸炭阻害なし」と判断し、表面炭素含有量が0.6質量%未満である場合、「浸炭阻害あり」と判断した。
【0068】
図16、
図17および
図19それぞれに示された結果から、鋼材A、鋼材Bおよび鋼材Dそれぞれを用いた場合、浸炭処理を行なう際の酸素分圧を4.2×10
15以上とすることにより、浸炭阻害を抑制することができることがわかる。これにより、安価な鋼材が用いられているにもかかわらず、試験例1の結果(鋼材A:実施例3、鋼材B:実施例1、鋼材D:実施例2)に示されるような、優れた性質を有する転がり摺動部材を得ることができる。
【0069】
一方、
図18に示された結果から、鋼材Cを用いた場合、浸炭処理を行なう際の酸素分圧の如何を問わず、浸炭阻害を抑制することができることがわかる。しかしながら、かかる鋼材Cを用いた場合には、試験例1の結果(比較例5)にも示されるように、寿命や靱性が不十分である。
【0070】
以上の結果から、転がり軸受である複列円錐ころ軸受装置において、鋼材として、前記条件を満たす鋼材を用い、本発明の転がり摺動部材の製造方法における熱処理条件を満たす条件の熱処理を施すことにより、耐食性および耐割損性に優れ、かつ十分な寿命を確保することができる転がり摺動部材を安価に製造することができることが示唆される。