特許第5696661号(P5696661)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 不二製油株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5696661
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】練製品の製造法
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/325 20060101AFI20150319BHJP
   A23L 1/317 20060101ALI20150319BHJP
   A23J 3/16 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   A23L1/325 101C
   A23L1/317 A
   A23J3/16
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-513380(P2011-513380)
(86)(22)【出願日】2010年5月13日
(86)【国際出願番号】JP2010058132
(87)【国際公開番号】WO2010131719
(87)【国際公開日】20101118
【審査請求日】2013年2月22日
(31)【優先権主張番号】特願2009-116665(P2009-116665)
(32)【優先日】2009年5月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西浦 元章
(72)【発明者】
【氏名】釘谷 博文
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−245710(JP,A)
【文献】 特開2009−022176(JP,A)
【文献】 特開2004−283173(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/094608(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0228463(US,A1)
【文献】 特開平04−079842(JP,A)
【文献】 特開平10−165106(JP,A)
【文献】 特許第2629886(JP,B2)
【文献】 特開2002−112741(JP,A)
【文献】 特許第2814533(JP,B2)
【文献】 特開平08−224063(JP,A)
【文献】 平成10年度食肉に関する助成研究調査成果報告書,1999年,Vol.17,pp.307-314
【文献】 Meat Science,2003年,Vol.63,pp.191-197
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/31−1/318
A23L 1/325
A23L 1/48
A23J 3/16
JSTPlus(JDreamIII)
CA/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS(STN)
FSTA(DIALOG)
Foodline(DIALOG)
Food Adlibra(DIALOG)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介肉及び大豆蛋白素材を含む練製品の製造法において、
予め大豆蛋白素材の乾燥重量に対して1重量倍以上9重量倍未満の水の存在下において大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素を混合し、次いで酵素反応させてゲル状の混合物を得る工程、
ゲル状混合物と魚介肉を混合して練生地とする工程を含み、
大豆蛋白素材の添加量が魚介肉に対して10〜25重量%であり、
該練製品中にはゲル状の混合物由来の粒が存在する
ことを特徴とする練製品の製造法。
【請求項2】
該練製品中に含まれるゲル状の混合物由来の粒の平均粒子径が、1mm以下である、請求項1記載の練製品の製造法。
【請求項3】
該ゲル状混合物がゼラチンを含む場合を除く、請求項1又は2記載の練製品の製造法。
【請求項4】
該ゲル状混合物を魚介肉と混合する前において、該混合物中の蛋白質架橋酵素が失活していない、請求項1〜3の何れか1項記載の練製品の製造法。
【請求項5】
該練製品が、かまぼこ類である、請求項1〜4の何れか1項記載の練製品の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水産練製品や畜肉練製品等の練製品の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
畜産物や水産物などを原料とした食品には、焼肉・煮魚・フィッシュフライ・するめなど様々なものがある。これらの食品の中には、原料から採取した畜肉や魚肉などをサイレントカッターやニーダーなどで練り、必要に応じ塩溶性蛋白の結着力を利用して、消費者に嗜好される食感が付与されて定着してきたものがある。具体的には、ソーセージやミートボールなどの畜産練製品や、蒲鉾や魚肉ソーセージなどの水産練製品などである。
これら練製品は、畜産物や水産物をそのまま加熱した食品にありがちな粗くて方向性のある繊維感ではなく、生地が練られていることに由来する比較的均質な構造を感じながらも、口腔内にて微細なヘテロ感を心地よく感じることができる複雑な食感を有する。この微細なヘテロ感とは、粗い粒状の肉粒感や、ざらついた異物感や、もさつきのある繊維感や、人工的なゲル食感や、べたつきのある不快感などの、練製品らしくない食感とは区別される。
【0003】
例えば、細挽きの畜肉ソーセージや、細挽きのミートボールや、成型蒲鉾や、薩摩揚や、竹輪や、魚肉ソーセージなどの比較的均一な練製品を食した場合は、肉粒感に邪魔されにくいので、微細なヘテロ感を感じ易くなる。微細なヘテロ感とは、具体的には、多糖類や蛋白質などのようなゲル化素材の添加によって人工的に作り出された食感ではなく、本来の練製品らしい自然な食感を有しているものとして口腔内で感じることができる食感覚である。もちろん、その食品が練製品であるという最終的な認知に至るには、食感だけではなく、練製品の有する味や香りも重要な因子ではあるが、練製品らしい味や香りを伴っても、練製品と異なる異質な食感であると、一般的な練製品であるとは認知され難い。
【0004】
微細なヘテロ感とは、より具体的には、練製品を食した際、噛み出しはやや均質で一体感のある構造を全体的に感じるものの(硬さとたわみ)、口腔内で徐々に砕かれてゆくに従い、それらが練製品らしい緻密な構造から成り立っていると想像させる食感覚であって、練製品が有する心地よい食感覚である。この微細なヘテロ感は、生地が練られることによって形成される製品の全体的な均一感の中に、原料肉に含まれる細かいスジや細胞膜片や繊維状物といった不均一な構成物などが生地に馴染みながら点在していることに由来しているものと考えられる。練製品らしい食感を特徴付けるその微細なヘテロ感を物性測定装置による物理的指標で表現することは現状難しいが、官能評価では感知可能なものである。
【0005】
さて、練製品の生地に配合される副原料には、澱粉・蛋白素材・油脂・塩類・野菜類・調味料・着色料・着香料等があり、蛋白素材に関しては従来から大豆蛋白素材が利用されてきた。大豆蛋白素材が配合されてきた主な目的は物性面(結着性・乳化性・ゲル形成性など)であったが、経済面(安定供給・コストなど)や栄養面(蛋白質栄養・健康志向など)などのニーズの高まりとともに、練製品の生地に大豆蛋白素材をより多く配合したいというニーズが高まっていた。ところが大豆蛋白素材の配合率を高めるにつれ、練製品の食感は大豆蛋白素材由来の食感を感じやすいものとなり、練製品らしい食感が失われてゆくといった致命的な問題があった。
【0006】
大豆蛋白素材由来の食感とは、水和・乳化・凝集・加熱などによって発生する物理特性に由来し、べたついた食感や粘土的食感や豆腐的食感や均質なゲル食感やゴム的食感などといった食感であって、本来の練製品とは異質な食感覚である。その食感変化を利用して新食感の練惣菜などが開発されたことがあったが、それらは練製品の食感とは異なる新食感の練惣菜の創出であって、本来の練製品の食感とは異なるものであった(特許文献1〜4)。
【0007】
従い、新食感の練惣菜といったジャンルではない一般的な練製品(従来から消費者に嗜好され定着してきた市販の練製品群)の食感を可能な限り損わずに、経済面や栄養面などのニーズを満たすべく大豆蛋白素材の配合率を高めることは、大きな課題として残されていた。
【0008】
そのため、今もなお練製品に添加される粉末状大豆蛋白素材の量は、練製品本来の食感が損なわれない程度の量に制限される場合が多く、魚肉等の原料肉100重量部あたり5重量部程度が一般的であった。そして添加量が10重量部を超える場合はあっても練製品本来の食感から外れるものであった(特許文献3,5)。例えば特許文献3には粉末状大豆蛋白素材の添加量を増やしていくにつれ、本来の蒲鉾的食感であったものが柔らかく、弾力があり、滑らかで歯切れの良い揚げ天様のものとなり、さらに増やしていくとしっかりした食感を有する厚揚的食感に近づいていくことが記載されている(実施例1より)。
以上のように、大豆蛋白素材の配合率を高めても本来の練製品らしい食感が得られるような有効手段は十分に見出されているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭50−46862号公報
【特許文献2】特開昭53−88354号公報
【特許文献3】特開昭63−167765号公報
【特許文献4】特許第3508373号公報
【特許文献5】特許第3282468号公報
【特許文献6】特開2002−112741号公報
【特許文献7】特開平1−27471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、経済面や栄養面などのニーズを鑑み、大豆蛋白素材の配合率を高めても本来の練製品らしい食感を有する練製品、及びその製造法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題につき鋭意研究を行った結果、肉類、大豆蛋白素材及び蛋白質架橋酵素を単に一緒に混合して均一にするのでなく、予め水の存在下において大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素を混合し、その後に肉類と混合することが本来の練製品らしい食感を付与するために非常に重要である知見を得、本発明を完成させるに至った。蛋白質架橋酵素を練製品の生地の全体に添加するという知見は従来示されてはいたものの(特許文献6)、本発明のように該酵素を生地中の大豆蛋白素材に優先的に作用させる思想とは異なるものである。
【0012】
すなわち本発明は、
(1)肉類及び大豆蛋白素材を含む練製品の製造法において、予め水の存在下において大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素を混合し混合物を得る工程、該混合物と肉類を混合して練生地とする工程を含むことを特徴とする練製品の製造法、
(2)大豆蛋白素材の添加量が肉類に対して10〜25重量%である、前記(1)記載の練製品の製造法、
(3)該混合物が、大豆蛋白素材の乾燥重量に対して1重量倍以上3重量倍未満の水を加えたものである、前記(1)記載の練製品の製造法、
(4)該混合物が、大豆蛋白素材の乾燥重量に対して3重量倍以上6重量倍未満の水を加えたものである、前記(1)記載の練製品の製造法、
(5)該混合物が、大豆蛋白素材の乾燥重量に対して1重量倍以上9重量倍未満の水を加えて酵素反応させたものであって、ゲル状である、前記(1)記載の練製品の製造法、
(6)該練製品中に含まれるゲル状の混合物由来の粒の平均粒子径が、1mm以下である、前記(5)記載の練製品の製造法、である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、大豆蛋白素材の配合率を高めても本来の練製品らしい食感を有する練製品、及びその製造法が提供されることにより、経済的・栄養的に優れた練製品の提供が可能となる。
特に水産練製品においては、噛み出しの硬さとたわみ、さらには微細なヘテロ感を付与することができ、魚肉のみで製造した本来の水産練製品に匹敵する練製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の練製品の製造法は、肉類及び大豆蛋白素材を含む練製品の製造法において、予め水の存在下において大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素を混合し混合物を得る工程、該混合物と肉類を混合して練生地とする工程を含むことを特徴とするものである。以下、本発明について具体的な実施形態を詳細に説明する。
【0015】
(練製品)
まず本発明において練製品とは、魚介類の肉や畜肉等の肉類を原材料とし、これを練り合わせて得たペースト状の肉を成形し、加熱凝固させて得られる食品である。大きくは畜産練製品と水産練製品に分けられるが、畜肉と魚介類の肉を組み合わせた製品も含む。畜産練製品としては、ソーセージ、ウインナー、ハンバーグ、ミートボール等が挙げられ、水産練製品としては、竹輪類、かまぼこ類、はんぺん類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉ハンバーグ等が挙げられる。また、これらの練製品は、プラスチック製のカップや、ケーシングチューブ等に充填される場合もある。
本発明は練製品に噛み出し時の硬さ・噛み出し時のたわみ・微細なヘテロ感といった物性を付与する効果が高く、そのため当該物性の付与が望ましい水産練製品においてより有効に利用することができ、特にかまぼこ類における利用がより好ましい。
【0016】
(大豆蛋白素材)
本発明の練製品に用いる大豆蛋白素材は、典型的には減脂大豆や脱脂大豆などを原料として、ホエー成分やオカラ成分を除去して得られる、蛋白質含量が高まった素材であり、その粗蛋白質含量(乾物換算)は60重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0017】
特に大豆蛋白素材としては、濃縮大豆蛋白や粗蛋白質含量が90重量%以上である分離大豆蛋白が好ましく、これらは乾燥粉末化した粉末状のものが好ましい。
【0018】
また、大豆蛋白素材としては、分離大豆蛋白や濃縮大豆蛋白などから脂質親和性蛋白質(Lipophilic Proteins)を多く含む画分を除去もしくは低減し、β−コングリシニン又はグリシニン等のグロブリン含量を高めた分画大豆蛋白素材であることもできる。
【0019】
ただし、大豆蛋白素材であってもゲル化性を有しないタイプのもの、例えばプロテアーゼによる加水分解によって、0.22Mトリクロロ酢酸可溶率(以下、単に「TCA可溶率」と称する場合あり。)が30%以上になった大豆蛋白加水分解物や、NSI(水溶性窒素指数、Nitrogen Solubility Index)が60未満の水可溶性を低下させた大豆蛋白素材は、練製品に添加しても大豆蛋白の肉類代替としての機能であるゲル化性を発揮しにくい。
したがって、ゲル化性を有する大豆蛋白素材であることが好ましい。ここで、ゲル化性を有するか否かは、大豆蛋白素材の12%水溶液を折径38mmの塩化ビニリデンケーシングに充填し、湯煎(80℃)にて30分間加熱した時にゲルを形成するか否かで判断することができる。
なお、TCA可溶率は全蛋白質量に対する0.22Mのトリクロロ酢酸溶液に可溶の蛋白質量の割合をケルダール法により測定し、100を乗じた値(%)とする。またNSIは試料中の全窒素含有量に対する同試料の水抽出物中の窒素含有量の割合を意味し、前者を100としたときの値で表わされる。通常は「基準油脂分析試験法」(日本油化学協会編)1.1.4,6に記載の測定法により求めることができる。
【0020】
大豆蛋白素材を高配合して、従来の練製品の食感とは異なる新食感を付与しているもの(特許文献1〜5など)は別として、一般的な練製品に配合される大豆蛋白素材の量は、肉類に対して、通常1〜10重量%程度である(特許文献3、6など)。
しかしながら本発明の方法によれば、例えば、肉類に対して、10〜25重量%配合しても、練製品と同等の食感にすることができる。無論、従来通り10重量部以下の量を添加することを妨げるものではない。
【0021】
(蛋白質架橋酵素)
本発明の練製品に用いる蛋白質架橋酵素は、蛋白質の分子どうしを架橋することができる架橋酵素であって、天然物に含まれている他、微生物によっても産生されることで知られている。典型的にはトランスグルタミナーゼが例示される。トランスグルタミナーゼの活性単位(ユニット)は、特開平1−27471号公報(特許文献7)の第3頁第5欄に記載される<活性測定法>で測定され、かつ定義される。市販のトランスグルタミナーゼ製剤を使用する場合、例えば「アクティバTG」(味の素(株)製)を使用することができる。
【0022】
本発明における蛋白質架橋酵素の添加量は、架橋酵素の種類にもよるが、トランスグルタミナーゼの場合では大豆蛋白素材の粗蛋白質1gに対して0.01ユニット以上10ユニット未満が適当である。酵素量が0.01ユニットよりも少ない場合は、酵素による大豆蛋白質の架橋効果が発揮されにくく、製品がべたついた食感となる。酵素量の上限は10ユニット未満で十分であり、かつ経済的である。
【0023】
(大豆蛋白素材と酵素との混合)
本発明の練製品の製造において蛋白質架橋酵素の使用は必須であるが、単に練生地中に均一に分散させて酵素を作用させるのではなく、予め水の存在下において上述の大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素を優先的に混合しておく工程が必須である。これにより、湿潤した大豆蛋白素材と酵素との混合物(以下、「大豆蛋白・酵素湿潤物」と称する。)を形成させ、かかる酵素を、後に混合する肉類よりも大豆蛋白素材に優先的に作用させる状態とすることが重要である。
【0024】
水の存在下における大豆蛋白素材と蛋白質架橋酵素との混合は、サイレントカッター、ステファンカッターやロボクープ等の攪拌機に、冷水ないし氷、粉末状大豆蛋白素材及び蛋白質架橋酵素を投入し攪拌するなどの方法で例えば行うことができる。なお、大豆蛋白素材に水を加えてから蛋白質架橋酵素を加えるよりも、予め蛋白質架橋酵素を水に溶解してから粉末状大豆蛋白素材と混ぜた方が作業性が良く好ましい。
【0025】
一方、蛋白質架橋酵素が添加されていない大豆蛋白湿潤物(例えば大豆蛋白ペーストや大豆蛋白エマルジョンカード)を肉類と混ぜて練生地とし、成形後加熱殺菌しても、べたついた食感になってしまい、練製品らしい食感に仕上げることが困難となる。また、蛋白質架橋酵素が添加されていない大豆蛋白湿潤物を肉類と混合してから蛋白質架橋酵素を添加して練生地とし、成形、酵素反応し、加熱殺菌しても、均一なゲル食感になってしまい、これも練製品らしい食感に仕上げることが困難となる。
【0026】
また、大豆蛋白・酵素湿潤物は流動性が高い性状であると、容易に肉類と均質化してしまい、酵素が優先的に大豆蛋白素材に作用する状態とはなり難い。したがって、少なくとも大豆蛋白・酵素湿潤物は粘土状やゲル状のような、流動性が低い、あるいは流動性のない性状であることも重要である。かかる性状のものは、大豆蛋白・酵素湿潤物における加水量の調整や、該湿潤物のゲル化の有無等によって得られる。以下に、かかる性状となすための大豆蛋白・酵素湿潤物の調製態様を示す。
【0027】
(1)態様1
大豆蛋白素材の乾燥重量に対して1重量倍以上3重量倍未満の水を加え、上述の方法により大豆蛋白・酵素湿潤物を得る。得られた該混合物はゲル化はしていないものの、流動性を有さない硬い粘土状の性状を呈する。これによって大豆蛋白素材は酵素と共に水を保持した状態となる。
【0028】
(2)態様2
大豆蛋白素材の乾燥重量に対して3重量倍以上6重量倍未満の水を加え、上述の方法により大豆蛋白・酵素湿潤物を得る。得られた該混合物はゲル化はしておらず、態様1よりもやや柔らかい性状であるものの、流動性は極めて低い、軟粘土状の性状を呈する。ここでも大豆蛋白素材は酵素と共に水を保持した状態となる。一方、6重量倍以上の水を加えると流動性を呈するスラリー状となり、大豆蛋白素材に保持されない自由水が存在する状態となる。この場合、酵素が大豆蛋白素材に十分接触した状態とならないため好ましくない。
【0029】
(3)態様3
大豆蛋白素材の乾燥重量に対して、1重量倍以上9重量倍未満の水を加え、上述の方法により大豆蛋白素材及び蛋白質架橋酵素を混合し、次いで予め酵素反応させておくことによっても大豆蛋白・酵素湿潤物を得られる。得られた該混合物は流動性を有さないゲル化した性状を呈する。
【0030】
(油脂の添加)
本発明の大豆蛋白・酵素湿潤物には、副原料として油脂も添加しておくことできる。すなわち予め大豆蛋白・酵素湿潤物を調製する際に油脂を添加し、乳化させることにより、該混合物は、白濁による白さが付与され、練製品の設計次第では望ましい。油脂の添加量は大豆蛋白素材の乾燥重量に対して50〜100重量%が好ましい。
【0031】
(肉類)
本発明における肉類は、アクチンやミオシンなどのような塩溶性の蛋白質を有する肉類であればよく、例えば、牛、豚、鶏、羊などの鳥獣肉(畜肉)や、タラ、グチ、エソ、イカやホタテなどの魚介肉などを用いることができる。典型的には、皮や骨などの不要物を取り除き、必要に応じて水さらしし、ペースト状とし、冷凍等して加工したものが、種々の練製品の原料となる。練製品においてはこのペースト状の肉が他の原料を結着させる「つなぎ」の役目を果たし、畜肉においてはミンチ、魚介肉においてはすり身などと称されている。
【0032】
(副原料)
本発明における副原料は、例えば、油脂、澱粉、食塩・香辛料・アミノ酸等の調味料など、練製品に一般的に使用される副原料を使用することができる。
【0033】
(練生地の調製)
この肉類を必要により副原料と共に、前記の大豆蛋白・酵素湿潤物と混合し、攪拌機で練り合わせることによって練生地を得る。
【0034】
例えば上記の(態様3)において得られたゲル状の大豆蛋白・酵素湿潤物の場合、サイレントカッターやステファンカッターなどの攪拌機でゲルを破砕しながら、そこに肉類と副原料とを混合して練生地とすることができる。練製品中のゲル状の大豆蛋白・酵素湿潤物由来の粒の平均粒子径は1mm以下が望ましい。大きすぎると肉粒感を感じ易く、視覚的にも違和感が生じ易い。平均粒子径の下限は練製品の微細なヘテロ感が損なわれない程度であればよく、0.1mm以上が好ましい。
なお、(態様3)でいう「平均粒子径」は、以下のようにして求めるものとする。
【0035】
<平均粒子径の測定方法>
練製品を約1mmの厚みにスライスし、その切断面を光学顕微鏡で観察し、ゲル状の大豆蛋白・酵素湿潤物由来の粒を10個無作為に選定し、各々の粒の最大径を測定し、その値の平均値を求める。
【0036】
(態様3)のゲル状の大豆蛋白・酵素湿潤物は、砕く前はこんにゃくゲル様のたわみを有するが、砕いた後は離水が殆ど発生しない点においてこんにゃくゲルとは異なる。こんにゃくなどの多糖類ゲルは、肉類や大豆蛋白素材のような蛋白質の栄養を有していない点で望ましくない。
ゲル状の大豆蛋白・酵素湿潤物は、予め殺菌しておくことができ、粗く砕いておくこともでき、冷蔵や冷凍で保存することができる。ただし、殺菌した場合は、大豆蛋白・酵素湿潤物に含まれる蛋白質架橋酵素が失活してしまうため、練製品中におけるゲル状の大豆蛋白・酵素湿潤物由来の粒が、肉類由来のつなぎ部に十分接着していないためか、こんにゃくなどの多糖類ゲルほどではないが、剥がれやすく、練製品らしい食感がやや低下する傾向にある。
そのため、ゲル状の大豆蛋白・酵素湿潤物に含まれる蛋白質架橋酵素を肉類と混合する前に失活していないことが好ましく、これによって肉類由来のつなぎ部がゲル状の大豆蛋白・酵素湿潤物の粒の表面と酵素反応によって接着し、練製品らしい食感が得られる。
【0037】
(成形)
上記により得られた練生地を製品の種類に適した所望の大きさ、形状に成形する。成形には一般に使用されている成形機を使用することができる。
【0038】
(酵素反応)
本発明における酵素反応は大豆蛋白素材に蛋白質架橋酵素を作用させることをいい、当該反応は練製品の製造工程中において加熱殺菌をして酵素を失活させる前の何れかの段階にて行われればよい。
例えば、上記の態様1,2で得られた混合物では、すでに大豆蛋白素材と蛋白質架橋酵素が接触しているものの、全く酵素が作用していないか、ないしは反応は徐々に開始しているが十分に作用していない状態にある。そのため、練生地を調製する際、あるいは練生地を成形した後に、使用する酵素の至適条件において一定時間酵素反応させることが必要である。
もっとも、上記態様3のゲル状の混合物の場合には、すでに酵素反応工程を経たものであるため、練生地の成形後に再度酵素反応工程を加えることは必須ではない。
酵素反応工程における反応条件は、用いる蛋白質架橋酵素に適する反応条件(温度・時間・pHなど)を参考に適宜設定すればよい。例えば、反応温度を25〜55℃、反応時間を10〜60分、pHを6.5〜8.5のようにして反応させることができる。
【0039】
(加熱殺菌)
得られた成形後の練生地を加熱殺菌する。この工程によって練生地中の雑菌の死滅と酵素の失活を図ると共に、練生地を凝固させて練製品を得る。
加熱殺菌の条件は練製品で通常行われる条件であればよいが、通常は80〜120℃、4〜60分間の範囲で行うことができる。加熱殺菌の装置も練製品の製造に一般に使用されている装置を使用することができ、蒸し機、レトルト殺菌機、フライヤー、焼成機等を使用することができる。
【0040】
従来のように、蛋白質架橋酵素が添加されていない大豆蛋白湿潤物と肉類と副原料とを混ぜて、そこに蛋白質架橋酵素を混ぜて練生地とし、成形・酵素反応・加熱殺菌するのでは、得られる製品を練製品らしい食感に仕上げることは困難である。
一方、本発明の製造法のように、予め水の存在下において大豆蛋白素材と蛋白質架橋酵素とを混合し、該混合物に酵素を肉類よりも大豆蛋白素材に優先的に作用させる状態とすることで、練製品中の大豆蛋白素材の配合率が従来よりも高い領域であっても練製品らしい食感にすることが可能となる。
【実施例】
【0041】
以下、試験例A〜Fを示すことによって本発明を更に具体的に説明する。これらのうち試験例A〜Dは「実施例」であり、試験例E〜Fは「比較例」である。以下、「%」や「部」単位は特段断りのない限り、「重量%」や「重量部」単位を意味するものとする。
【0042】
(試験例の概略)
試験例Aでは、各々の材料を手法Aで組み立て、練生地Aを得た。次いで練生地Aを減圧下にて除泡してケーシングに詰め(成形工程)、37℃で60分間温水浴にて加熱し(酵素反応工程)、90℃で30分間温水浴にて加熱して(殺菌工程)、加工済の試作品Aを得た。
次いで試作品Aを、水冷して一晩冷蔵保存を行った後、室温(23℃)に戻してケーシング剥離し、練製品らしい食感についての評価を行った。試験例B〜Fについても同様にして、手法B〜Fによって練生地B〜Fを得、それらを加工して試作品B〜Fを得、練製品らしい食感の評価を行った。
【0043】
(材料の説明)
練生地の材料について、以降の説明を簡便にすべく、7つのパーツに分けて下記に示した。後述するように、配合する順序や、冷水と氷や、蛋白質架橋酵素の有無などに若干の違いがある以外は、いずれの練生地も同じ配合であり、各々練生地(308重量部)はこれら7つのパーツの全量を用いて組み立てた。一般的な練製品に配合される粉末状大豆蛋白素材の量が、肉類100重量部あたり5重量部程度であるが、本発明の課題を達成すべく、ここでは原料肉100重量部あたり25重量部配合した。なお、用いた粉末状大豆蛋白の粗蛋白質含量は乾燥重量あたり92重量%、NSIは90、0.22MTCA可溶率は30%以下であり、またこの12%水溶液を折径38mmの塩化ビニリデンケーシングに充填し、湯煎(80℃)にて30分間加熱した時に、ゲル状となるものであった。
【0044】
(表1)
【0045】
(手法の説明)
上述のパーツ1〜7を練生地A〜Fに組み立てる手法A〜Fを、下記に示した。
【0046】
<手法A> −軟粘土状の大豆蛋白・酵素湿潤物の使用−
ステファンカッターに、パーツ1(油)、パーツ2(冷水)及びパーツ7(蛋白質架橋酵素液)を入れ、パーツ3(大豆蛋白素材)を入れて30秒間攪拌し、大豆蛋白・酵素湿潤物を得た。すなわち大豆蛋白素材の乾燥重量に対して4.6倍の水を加えたことになるが、大豆蛋白素材は冷水と共に酵素液を吸収しており、この性状はゲル化しておらず柔らかくざらつきがあるものであったが液体のような流動性はなく、軟らかい粘土状であった。
このようにして得られた軟粘土状の大豆蛋白・酵素湿潤物にパーツ4(すり身、冷水)を加えて60秒間攪拌した。続いてパーツ5(食塩)を入れて60秒間攪拌した。続いて、パーツ6(砂糖、MSG、冷水)を入れて60秒攪拌し、練生地A(308部)を得た。
【0047】
<手法B> −硬粘土状の大豆蛋白・酵素湿潤物の使用−
手法Aと同様にして大豆蛋白・酵素湿潤物を得た。但し、パーツ2は冷水ではなく氷を用いたため、パーツ7を入れ、パーツ3を入れて30秒間攪拌して大豆蛋白・酵素湿潤物を得た直後は、約半分量の氷が融けずに残っていた。従い、大豆蛋白素材の乾燥重量に対して約2.3倍の融解した水を与えたことになるが、大豆蛋白素材が氷の表面から半分程度溶け出した冷水と酵素液を吸っており、その性状はゲル化していないものの流動性を有しておらず、硬くざらつきのある状態であり、硬い粘土状であった。
このようにして硬粘土状の大豆蛋白・酵素湿潤物を得た後は、手法Aと同様にして、練生地B(308部)を得た。
【0048】
<手法C> −ゲル状の大豆蛋白・酵素湿潤物の使用−
手法Aと同様にして、軟粘土状の大豆蛋白・酵素湿潤物を得た。これを減圧脱泡し、55℃で30分間加熱して(酵素反応工程)架橋反応を起こさせ、冷水で冷却し、弾力が非常に大きくてべたつきのない「ゲル状の大豆蛋白・酵素湿潤物」とした。
このようにしてゲル状の大豆蛋白・酵素湿潤物を得た後は、手法Aと同様にして、練生地C(308部)を得た。
【0049】
<手法D> −ゲル状の大豆蛋白・酵素湿潤物(加熱殺菌済)の使用−
手法Cと同様にして、ゲル状の大豆蛋白・酵素湿潤物を得た。続いて、レトルト袋に充填し減圧脱泡後、90℃で30分間加熱(殺菌工程)した後、冷水で冷却し、1週間冷蔵保存して、弾力が大きくてべたつきのない「ゲル状の大豆蛋白・酵素湿潤物(加熱殺菌済)」を得た。この後、手法Aと同様にして、練生地D(308重量部)を得た。
【0050】
<手法E> −軟粘土状の蛋白湿潤物の使用(蛋白質架橋酵素は後添加)−
手法Aと同様にして、但しパーツ7(蛋白質架橋酵素)を加えずに、軟粘土状の蛋白湿潤物を得た。この後、手法Aと同様にして、ただし、パーツ6を入れて30秒攪拌後にパーツ7を入れて、練生地E(308部)を得た。
【0051】
<手法F> −軟粘土状の蛋白湿潤物の使用(蛋白質架橋酵素無添加)−
手法Eと同様にして、練生地F(308重量部)を得た。但し、パーツ7は架橋酵素を含まない冷水として入れた。
【0052】
(試作品と評価方法)
上述のようにして得られた練生地A〜Fは、各々、減圧下にて除泡してケーシングに詰め(成形工程)、37℃で60分間の加温処理(酵素反応工程)し、90℃で30分間処理(殺菌工程)して、加工済の試作品A〜Fを得た。なお、上記成形工程・酵素反応工程・殺菌工程のうち、酵素反応工程については、酵素活性の有無に関係なく、加温条件を同一にして処理を行なった。従い、練生地Cの酵素反応工程としては二度目の酵素反応工程となり、練生地Dの酵素反応工程としては、トランスグルタミナーゼが失活した状態での加温処理とした。次いで各々を水冷して一晩冷蔵保存を行った後、室温に戻してケーシングを剥離し、各試作品の練製品としての品質(練製品らしい食感)について評価を行った。
【0053】
練製品らしい食感の品質評価は、専門パネラー3名による食感の官能評価によって行った。各試作品は魚肉のすり身をベースにしたものであったので、具体的な食感の官能評価項目としては、表2に示した3つのプラス側面(練製品的)と、2つのマイナス側面(非練製品的)とした。これら5つの側面について3名の専門パネラーが3段階(あり:+1点、ややあり:0点、なし:−1点)で点数付けを行なった。
【0054】
集計に際しては、プラス側面に対してプラスの点数が付けられた場合はプラスの得点を獲得するものとし、プラスの側面に対してマイナスの点数が付けられた場合はマイナスの得点を獲得するものとし、マイナスの側面に対してプラスの点数が付けられた場合はマイナスの得点を獲得するものとし、マイナスの側面に対してマイナスの点数が付けられた場合はプラスの得点を獲得するものとした。
各々の試作品が、水産練製品における「練製品らしい食感」に仕上がったか否かは、各々の側面で獲得した点数を集計した数値の大小を比較することで客観的に評価を行った。
【0055】
(評価結果)
上述の「評価方法」に従い試作品A〜Fを評価した結果を、表2に示した。表中の各々の食感項目の各々の段階で獲得した得点であって、( )内の数値はその項目に票を投じた専門パネラーの人数であって、「練製品らしい食感」は得点を合計して算出した。
【0056】
(表2)
【0057】
なお、別途試作品C,Dについてはゲル状の大豆蛋白・酵素湿潤物に由来する粒の平均粒子径を測定したところ、試作品Cでは0.6mm、試作品Dでは0.4mmであった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明により、一般的な練製品の食感を損なわずに大豆蛋白素材の配合率を高め得た練製品を提供することが可能となる。特に以下の利用可能性が挙げられる。
(1)魚や肉などの比較的高値の動物性蛋白原料の安定的な確保に関するリスク対策の一環として、世界的に重要で安定的な供給が見込める蛋白資源である大豆を多く使用した練製品を安定的に提供できる。
(2)従来から嗜好されてきた「練製品らしい食感」を損うことなく、食の嗜好の保守性にも対応した練製品を違和感なく提供できる。
(3)従来よりも経済面(安定供給・コストなど)や栄養面(蛋白栄養・健康志向など)などに優れた練製品を幅広く提供できる。