特許第5696794号(P5696794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5696794ポリビニリデンフルオライド水性分散液の製造方法及びポリビニリデンフルオライド水性分散液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5696794
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】ポリビニリデンフルオライド水性分散液の製造方法及びポリビニリデンフルオライド水性分散液
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/26 20060101AFI20150319BHJP
   C08F 14/22 20060101ALI20150319BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20150319BHJP
   C08K 5/11 20060101ALI20150319BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20150319BHJP
   C09D 127/16 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   C08F2/26 Z
   C08F14/22
   C08L27/16
   C08K5/11
   C08K5/14
   C09D127/16
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-216(P2014-216)
(22)【出願日】2014年1月6日
(65)【公開番号】特開2014-141673(P2014-141673A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2014年1月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-287794(P2012-287794)
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 真由美
(72)【発明者】
【氏名】中野 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】井本 克彦
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−119204(JP,A)
【文献】 特開2004−359870(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/043831(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/063827(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/132368(WO,A1)
【文献】 特開2007−045970(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/026822(WO,A1)
【文献】 特開2005−171250(JP,A)
【文献】 特開2006−188703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/26
C08F 14/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1000ppmの添加量における表面張力が55mN/m以下である界面活性剤、有機過酸化物及び水の存在下に、ビニリデンフルオライドを乳化重合することによって、ポリビニリデンフルオライドを含有する水性分散液を得るものであり、
前記界面活性剤は、一般式(1):
【化1】
(式中、R及びRは独立に炭素数1〜14のアルキル基又はハロゲン化アルキル基を表し、前記アルキル基又はハロゲン化アルキル基は炭素数が2〜14の場合、炭素−炭素原子間に酸素原子を含んでもよい。RはH又は−(CH−COOMを表す。Rは−SO又は−(CH−COOMを表す。vは0〜3の整数を表す。M及びMは独立にH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。)で表される界面活性剤、
一般式(2):
【化2】
(式中、R及びRは独立に炭素数1〜14のアルキル基又はハロゲン化アルキル基を表し、前記アルキル基又はハロゲン化アルキル基は炭素数が2〜14の場合、炭素−炭素原子間に酸素原子を含んでもよい。2つのMは独立にH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。)で表される界面活性剤、及び、
一般式(3):
【化3】
(式中、R及びRは独立に炭素数1〜14のアルキル基又はハロゲン化アルキル基を表し、前記アルキル基又はハロゲン化アルキル基は炭素数が2〜14の場合、炭素−炭素原子間に酸素原子を含んでもよい。Rは−SO又は−COOMを表す。M及びMは独立にH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。wは0〜3の整数を表す。)で表される界面活性剤、
からなる群より選択される少なくとも1種の界面活性剤である
ことを特徴とするポリビニリデンフルオライド水性分散液の製造方法。
【請求項2】
界面活性剤は、一般式(4):
2n+1−OOC−CH(SO)−CH−COO−C2m+1
(式中、n及びmは独立に3〜10の整数を表し、X及びXは独立にH、F、Cl、Br又はIを表す。MはH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。)で表される界面活性剤である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ビニリデンフルオライドのみを乳化重合する請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
有機過酸化物は、ジ−t−ブチルパーオキシド、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−t−ヘキシルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、及び、t−ブチルパーオキシイソブチレートからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1、2又は3記載の製造方法。
【請求項5】
一般式(1):
【化4】
(式中、R及びRは独立に炭素数1〜14のアルキル基又はハロゲン化アルキル基を表し、前記アルキル基又はハロゲン化アルキル基は炭素数が2〜14の場合、炭素−炭素原子間に酸素原子を含んでもよい。RはH又は−(CH−COOMを表す。Rは−SO又は−(CH−COOMを表す。vは0〜3の整数を表す。M及びMは独立にH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。)で表される界面活性剤、
一般式(2):
【化5】
(式中、R及びRは独立に炭素数1〜14のアルキル基又はハロゲン化アルキル基を表し、前記アルキル基又はハロゲン化アルキル基は炭素数が2〜14の場合、炭素−炭素原子間に酸素原子を含んでもよい。2つのMは独立にH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。)で表される界面活性剤、及び、
一般式(3):
【化6】
(式中、R及びRは独立に炭素数1〜14のアルキル基又はハロゲン化アルキル基を表し、前記アルキル基又はハロゲン化アルキル基は炭素数が2〜14の場合、炭素−炭素原子間に酸素原子を含んでもよい。Rは−SO又は−COOMを表す。M及びMは独立にH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。wは0〜3の整数を表す。)で表される界面活性剤、
からなる群より選択される少なくとも1種の界面活性剤、水、及び、ポリビニリデンフルオライドを含み、
前記ポリビニリデンフルオライドは、ビニリデンフルオライドに由来するビニリデンフルオライド単位からなり、主鎖の末端に有機過酸化物に由来する官能基を有する
ことを特徴とするポリビニリデンフルオライド水性分散液。
【請求項6】
界面活性剤は、一般式(4):
2n+1−OOC−CH(SO)−CH−COO−C2m+1
(式中、n及びmは独立に3〜10の整数を表し、X及びXは独立にH、F、Cl、Br又はIを表す。MはH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。)で表される界面活性剤である請求項記載のポリビニリデンフルオライド水性分散液。
【請求項7】
ポリビニリデンフルオライドは、ビニリデンフルオライドに由来するビニリデンフルオライド単位のみからなる請求項又は記載のポリビニリデンフルオライド水性分散液。
【請求項8】
有機過酸化物は、ジ−t−ブチルパーオキシド、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−t−ヘキシルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、及び、t−ブチルパーオキシイソブチレートからなる群より選択される少なくとも1種である請求項又は記載のポリビニリデンフルオライド水性分散液。
【請求項9】
請求項又は記載のポリビニリデンフルオライド水性分散液から得られる塗料。
【請求項10】
請求項又は記載のポリビニリデンフルオライド水性分散液から得られる塗膜を有する塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニリデンフルオライド水性分散液の製造方法及びポリビニリデンフルオライド水性分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニリデンフルオライドは、耐熱性、耐薬品性等に優れると同時に、融点と熱分解温度との差が大きく、加工が容易であることから、幅広い用途に使用されている。
【0003】
ポリビニリデンフルオライドに限るものではないが、フルオロポリマーの製造方法としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合等が知られている。このうち、乳化重合は、界面活性剤の存在下にフルオロモノマーを重合させて、フルオロポリマーの水性分散液を得る方法である。
【0004】
従来は、上記界面活性剤として、パーフルオロオクタン酸(PFOA)及びパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)が使用されてきたが、これらは環境に悪影響を与える可能性が懸念されている。
【0005】
そこで、特許文献1には、式:A−R−B (I)
[式中、AおよびBは互いに等しいかまたは異なって、−(O)CFX−COOM(ここで、M=NH、アルカリ金属、H;
X=F、CF
pは、0または1に等しい整数である)であり;Rは、(I)の数平均分子量が300ないし1,800、好ましくは500ないし1,600、より好ましくは600ないし1,200となるような直鎖の、または分岐したパーフルオロアルキル鎖または(パー)フルオロポリエーテル鎖である]で表される2官能性のフッ素化界面活性剤を使用して、フルオロポリマー水性分散液を製造することが記載されている。
【0006】
特許文献2には、一般式(1):
Y’−(P−CH(Y)−(Pn’−Y”(1)
(式中:Y、Y’およびY”は、アニオンまたはノニオン基であるが、但しY、Y’またはY”の少なくとも1つはアニオン基であり、かつ残りのY、Y’およびY”の少なくとも1つはノニオン基であり;PおよびPは、同一または異なって、任意に1以上の不飽和を有していてもよい、炭素数1〜10、好ましくは1〜6の直鎖状または分岐状のアルキレン基であり;
nおよびn’は同一または異なって、0または1である)
を有する1以上のアニオン界面活性剤を使用して、フッ素化ポリマーの分散液を製造することが記載されている。
【0007】
特許文献3には、下記一般式(1)
X−(CF−Y (1)
(式中、XはH又はFを表し、mは3〜5の整数を表し、Yは−SOM、−SOM、−SOR、−SOR、−COOM、−PO、−PO(MはH、NH又はアルカリ金属を表し、Rは炭素数1〜12のアルキル基を表す。)を表す。)で表される含フッ素化合物と、更に、ラジカル重合で反応可能な官能基と親水基とを有する反応性化合物との存在下に乳化重合を行うことによって、低分子量ポリテトラフルオロエチレンを製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−286379号公報
【特許文献2】特開2005−171250号公報
【特許文献3】国際公開第2009/020187号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ポリビニリデンフルオライドを含有する水性分散液を高い生産性で製造することができ、得られる水性分散液の分散安定性が高く、更に得られるポリビリニデンフルオライドの結晶性及び融点を容易に調整することができる製造方法を提供することを課題とする。本発明は、また、分散安定性が高い水性分散液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、1000ppmの添加量における表面張力が55mN/m以下である界面活性剤、有機過酸化物及び水の存在下に、ビニリデンフルオライドを乳化重合することによって、ポリビニリデンフルオライドを含有する水性分散液を得ることを特徴とするポリビニリデンフルオライド水性分散液の製造方法である。
【0011】
上記製造方法において、界面活性剤は、一般式(1):
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、R及びRは独立に炭素数1〜14のアルキル基又はハロゲン化アルキル基、を表し、上記アルキル基又はハロゲン化アルキル基は炭素数が2〜14の場合、炭素−炭素原子間に酸素原子を含んでもよい。RはH又は−(CH−COOMを表す。Rは−SO又は−(CH−COOMを表す。vは0〜3の整数を表す。M及びMは独立にH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。)で表される界面活性剤、一般式(2):
【0014】
【化2】
【0015】
(式中、R及びRは独立に炭素数1〜14のアルキル基又はハロゲン化アルキル基を表し、上記アルキル基又はハロゲン化アルキル基は炭素数が2〜14の場合、炭素−炭素原子間に酸素原子を含んでもよい。2つのMは独立にH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。)で表される界面活性剤、及び、一般式(3):
【0016】
【化3】
【0017】
(式中、R及びRは独立に炭素数1〜14のアルキル基又はハロゲン化アルキル基を表し、上記アルキル基又はハロゲン化アルキル基は炭素数が2〜14の場合、炭素−炭素原子間に酸素原子を含んでもよい。Rは−SO又は−COOMを表す。M及びMは独立にH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。wは0〜3の整数を表す。)で表される界面活性剤であることが好ましい。
【0018】
上記製造方法において、ビニリデンフルオライドのみを乳化重合することが好ましい。
【0019】
本発明は、一般式(1):
【0020】
【化4】
【0021】
(式中、R及びRは独立に炭素数1〜14のアルキル基又はハロゲン化アルキル基を表し、上記アルキル基又はハロゲン化アルキル基は炭素数が2〜14の場合、炭素−炭素原子間に酸素原子を含んでもよい。RはH又は−(CH−COOMを表す。Rは−SO又は−(CH−COOMを表す。vは0〜3の整数を表す。M及びMは独立にH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。)で表される界面活性剤、一般式(2):
【0022】
【化5】
【0023】
(式中、R及びRは独立に炭素数1〜14のアルキル基又はハロゲン化アルキル基を表し、上記アルキル基又はハロゲン化アルキル基は炭素数が2〜14の場合、炭素−炭素原子間に酸素原子を含んでもよい。2つのMは独立にH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。)で表される界面活性剤、及び、一般式(3):
【0024】
【化6】
【0025】
(式中、R及びRは独立に炭素数1〜14のアルキル基又はハロゲン化アルキル基を表し、上記アルキル基又はハロゲン化アルキル基は炭素数が2〜14の場合、炭素−炭素原子間に酸素原子を含んでもよい。Rは−SO又は−COOMを表す。M及びMは独立にH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。wは0〜3の整数を表す。)で表される界面活性剤、からなる群より選択される少なくとも1種の界面活性剤、水、及び、ポリビニリデンフルオライドを含み、上記ポリビニリデンフルオライドは、ビニリデンフルオライドに由来するビニリデンフルオライド単位からなり、主鎖の末端に有機過酸化物に由来する官能基を有することを特徴とするポリビニリデンフルオライド水性分散液でもある。
【0026】
ポリビニリデンフルオライドは、ビニリデンフルオライドに由来するビニリデンフルオライド単位のみからなることが好ましい。
【0027】
界面活性剤は、一般式(4):
2n+1−OOC−CH(SO)−CH−COO−C2m+1
(式中、n及びmは独立に3〜10の整数を表し、X及びXは独立にH、F、Cl、Br又はIを表す。MはH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。)で表される界面活性剤であることが好ましい。
【0028】
有機過酸化物は、ジ−t−ブチルパーオキシド、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−t−ヘキシルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、及び、t−ブチルパーオキシイソブチレートからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0029】
本発明はまた、本発明のポリビニリデンフルオライド水性分散液から得られる塗料でもある。
本発明はまた、本発明のポリビニリデンフルオライド水性分散液から得られる塗膜を有する塗装物品でもある。
【発明の効果】
【0030】
本発明の製造方法は、高い生産性でポリビニリデンフルオライドを含有する水性分散液を製造することができ、得られる水性分散液の分散安定性が高く、更に得られるポリビリニデンフルオライドの結晶性及び融点を容易に調整することができる。本発明の水性分散液は、高い分散液安定性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0032】
本発明の製造方法は、ビニリデンフルオライド〔VDF〕を乳化重合することによって、ポリビニリデンフルオライド〔PVDF〕を含有する水性分散液を得る製造方法である。
【0033】
本発明の製造方法において、ラジカル重合性モノマーとして、VDFのみを重合してもよいし、VDF及びVDFと共重合可能な他のフッ素化単量体又は非フッ素化単量体を重合してもよいが、生産性の観点から、ビニリデンフルオライドのみを重合することが好ましい。
【0034】
本発明の製造方法は、1000ppmの添加量における表面張力が55mN/m以下である界面活性剤、有機過酸化物及び水の存在下に、VDFを乳化重合させることに特徴がある。表面張力が55mN/m以下である界面活性剤を使用することにより、高い生産性でポリビニリデンフルオライドを含有する水性分散液を製造することができる。界面活性剤の表面張力の上限は、54mN/mであることが好ましく、53mN/mであることがより好ましく、50mN/mであることが更に好ましい。界面活性剤の表面張力の下限は、5mN/mであることが好ましく、7mN/mであることがより好ましく、10mN/mであることが更に好ましい。
【0035】
上記表面張力は、例えば、表面張力計により測定することができる。
【0036】
上記界面活性剤は、下記の一般式(1)〜(3)で表される界面活性剤の少なくとも1種であることが好ましい。一般式(1)〜(3)で表される2鎖型の界面活性剤を使用することにより、高い生産性でポリビニリデンフルオライドを含有する水性分散液を製造することができる。
【0037】
一般式(1):
【0038】
【化7】
【0039】
(式中、R及びRは独立に炭素数1〜14のアルキル基又はハロゲン化アルキル基を表し、上記アルキル基又はハロゲン化アルキル基は炭素数が2〜14の場合、炭素−炭素原子間に酸素原子を含んでもよい。RはH又は−(CH−COOMを表す。Rは−SO又は−(CH−COOMを表す。vは0〜3の整数を表す。M及びMは独立にH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。)で表される界面活性剤。
【0040】
一般式(2):
【0041】
【化8】
【0042】
(式中、R及びRは独立に炭素数1〜14のアルキル基又はハロゲン化アルキル基を表し、上記アルキル基又はハロゲン化アルキル基は炭素数が2〜14の場合、炭素−炭素原子間に酸素原子を含んでもよい。2つのMは独立にH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。)で表される界面活性剤。
【0043】
一般式(3):
【0044】
【化9】
【0045】
(式中、R及びRは独立に炭素数1〜14のアルキル基又はハロゲン化アルキル基を表し、前記アルキル基又はハロゲン化アルキル基は炭素数が2〜14の場合、炭素−炭素原子間に酸素原子を含んでもよい。Rは−SO又は−COOMを表す。M及びMは独立にH、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。wは0〜3の整数を表す。)で表される界面活性剤。
【0046】
一般式(2)において、R及びRは、直鎖または分岐したアルキル基又はハロゲン化アルキル基であってよい。一般式(2)で表される界面活性剤としては、2,2−ジオクチルマロン酸アンモニウムが挙げられる。
【0047】
一般式(3)において、R及びRは、直鎖または分岐したアルキル基又はハロゲン化アルキル基であってよい。一般式(3)で表される界面活性剤としては、9−ヘプタデカスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0048】
上記有機過酸化物は重合開始剤として使用される。有機過酸化物以外の重合開始剤、例えば過硫酸塩を使用して、高温でVDFを重合させると、生成物がゲル状となり水性分散液が得られない。更に、得られたPVDFが加熱により着色してしまい、高温での使用ができない。
【0049】
上記有機過酸化物としては、ジ−t−ブチルパーオキシド、ジ−t−ヘキシルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド;1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;イソブチルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、スクシニックアシッドパーオキサイド、ビス(ω−ハイドロドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−2−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジエチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート;1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート等のパーオキシエステル等が挙げられる。
なかでも、加熱しても発泡しにくいポリマーが製造できることから、ジ−t−ブチルパーオキシド、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−t−ヘキシルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、及び、t−ブチルパーオキシイソブチレートからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
必要に応じて、ロンガリット、アスコルビン酸、酒石酸、二亜硫酸ナトリウム、イソアスコルビン酸、硫酸第一鉄などの還元剤を併用してもよい。
【0050】
上記有機過酸化物の使用量は、水に対して1〜10000ppmであることが好ましく、300〜3500ppmであることがより好ましい。これらの使用量はいずれも重合開始時に存在する有機過酸化物の量である。上記有機過酸化物を重合開始後に更に追加してもよい。
【0051】
また、一般式(1)〜(3)で表される界面活性剤を使用することも、高温での乳化重合を実現するためには重要である。例えば、特許文献3の開示に従って、パーフルオロヘキサン酸アンモニウムと反応性化合物とを使用しても、分散安定性に優れたPVDF水性分散液を得ることはできない。
【0052】
一般式(1)〜(3)で表される界面活性剤の使用量は、水に対して10〜30000ppmであることが好ましく、50〜10000ppmであることがより好ましい。
【0053】
一般式(1)〜(3)で表される界面活性剤及び有機過酸化物の存在下に重合を行うことによって、高温での乳化重合が可能となり、生産性が向上するだけでなく、得られるPVDFに目的に応じた結晶性、融点を付与することができる。
【0054】
上記界面活性剤は、一般式(4):
2n+1−OOC−CH(SO)−CH−COO−C2m+1
(式中、n及びmは独立に3〜10の整数を表し、X及びXは独立にH、F、Cl,Br又はIを表す。Mは、H、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。)で表される界面活性剤であることがより好ましい。
【0055】
M、M及びMは、それぞれ独立に、H、NR又はアルカリ金属であり、4つのRは独立にH又は炭素数が1〜3のアルキル基を表す。4つのRのうち、少なくとも1つはHであることが好ましく、アルキル基としてはメチル基が好ましい。M、M及びMは、H、NH、Na又はLiであることが好ましく、NH、Na又はLiであることがより好ましい。
【0056】
一般式(4)で表される界面活性剤の使用量は、水に対して10〜30000ppmであることが好ましく、50〜10000ppmであることがより好ましい。
【0057】
上記重合は、重合槽に、水、上記界面活性剤、及び、VDF等のモノマーを仕込んだ後、有機過酸化物を添加して、攪拌しながら行うことができる。重合時間は、1〜30時間であってよい。上記乳化重合の圧力は、0.5〜5.0MPaであることが好ましく、1.0〜4.5MPaであることがより好ましい。
【0058】
上記乳化重合の温度は、開始剤の選定を行うことによって、目的とするポリマーの物性に応じて変更することができる。乳化重合の温度は10〜200℃であってよい。
【0059】
本発明の製造方法において、さらに分子量調整剤などを添加してもよい。分子量調整剤は、初期に一括して添加してもよいし、連続的または分割して添加してもよい。
【0060】
分子量調整剤としては、たとえばマロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、コハク酸ジメチルなどのエステル類のほか、イソペンタン、イソプロパノール、アセトン、各種メルカプタン、四塩化炭素、シクロヘキサン、モノヨードメタン、1−ヨードメタン、1−ヨードプロパン、ヨウ化イソプロピル、ジヨードメタン、1,2−ジヨードメタン、1,3−ジヨードプロパンなどがあげられる。
【0061】
そのほか緩衝剤などを適宜添加してもよいが、その量は本発明の効果を損なわない範囲で用いることが好ましい。
緩衝剤としては、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、オルソリン酸ナトリウム、第1リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ホウ酸−水酸化ナトリウム、ホウ酸−炭酸ナトリウム、燐酸二水素カリウム−水酸化ナトリウム等の無機塩が挙げられる。
さらに生成ポリマーの重合槽への付着軽減等のためパラフィンを適宜追加してもよい。
【0062】
本発明は、一般式(1)〜(3)で表される界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種、水、及び、PVDFを含むPVDF水性分散液も本発明の1つである。本発明のPVDF水性分散液は、本発明の製造方法により好適に製造することができる。
【0063】
上記PVDFは、VDFに由来するVDF単位からなり、主鎖の末端に有機過酸化物に由来する官能基を有する。上記PVDFは、VDFに由来するVDF単位のみから主鎖が構成されていることが好ましい。
【0064】
有機過酸化物に由来する官能基としては、CH−CH−CF−CF−、CH−CF−CH−CF−、C(CH−CF−CH−CF−、C(CH−CH−CF−等が挙げられる。主鎖の末端に存在する官能基の種類は、H−NMRによる測定によって、特定することができる。
【0065】
界面活性剤及び有機過酸化物については、本発明の製造方法において説明したとおりである。
【0066】
上記水性分散液に含まれるPVDFは、平均粒子径が40〜1000nmであることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることが更に好ましく、150nm以上であることが特に好ましく、800nm以下であることがより好ましく、600nm以下であることが更に好ましい。上記平均粒子径は、HONEYWELL社製のマイクロトラックUPAを用いて測定することができる。
【0067】
上記水性分散液に含まれるPVDFは用途によるが、メルトフローレート(MFR)が0〜100g/10分であってよい。塗料用途の場合、MFRが0〜10g/10分であることが好ましく、0.5〜5g/10分であることがより好ましく、水処理用途の場合、分子量20万以上が好ましく、20万〜100万であることがより好ましい。上記MFRは、水性分散液から得られるPVDFのファインパウダーASTM D1238に準拠し、温度230℃、荷重10kgで測定して得られる値であり、分子量はGPCにより測定した値である。
【0068】
上記水性分散液に含まれるPVDFは、融点が120〜185℃であることが好ましい。融点は、160℃以上であることがより好ましく、180℃以下であることがより好ましい。上記融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて測定することができる。
【0069】
上記PVDFの固形分濃度は、PVDF水性分散液に対して、3〜50質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましい。上記固形分濃度(P)は、試料約1g(X)を直径5cmのアルミカップにとり、150℃、1時間で乾燥した後、得られる加熱残分(Z)に基づき、式:P=Z/X×100(%)にて決定したものである。
【0070】
上記界面活性剤の含有量は、PVDF水性分散液に対して、10〜10000ppmであることが好ましく、30〜3000ppmであることがより好ましい。
【0071】
本発明のPVDF水性分散液から、PVDFファインパウダーを得ることができる。本発明のPVDF水性分散液及び上記PVDFファインパウダーは、塗料、ライニング材料、シート、フィルム、パイプ、継手、バルブ、ポンプ、丸棒、厚板、ボルト、ナット、絶縁材、電線被覆材、圧電体、焦電体、釣り糸、電池の電極用バインダー、水処理膜、建築建材、石油掘削材等に好適に利用することができる。本発明はまた、本発明のPVDF水性分散液から得られる塗料でもある。
【0072】
本発明のPVDF水性分散液及び上記PVDFファインパウダーは、さらにライザー管、地中、地上、海底を問わず、原油や天然ガスの流体移送金属配管の最内面および最外面のコーティング材料、ライニング材料としても好適に使用できる。本発明はまた、本発明のPVDF水性分散液から得られる塗膜を有する塗装物品でもある。最内面にコーティング、ライニングにより塗膜を形成する目的は原油や天然ガス中には金属配管の腐食の原因となる二酸化炭素や硫化水素が含まれており、これをバリアーし、金属配管の腐食を抑制したり、高粘度の原油の流体摩擦を低減したりするためである。最外面も同じく海水や酸性水等による腐食を抑制するためである。最内面、最外面にライニング、コーティングする際には本発明のフッ素樹脂の剛性や強度をさらに向上させるために、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド樹脂、マイカ、シリカ、タルク、セライト、クレー、酸化チタン等を充填してもよい。また、金属と接着させるため接着剤を使用したり金属表面を荒らしたりする処理を施してもよい。
【0073】
更に、以下の成形体の成形材料としても好適に利用できる。
【0074】
上記成形体としては、例えば、
食品包装用フィルム、食品製造工程で使用する流体移送ラインのライニング材、パッキン、シール材、シート等の食品製造装置用流体移送部材;
薬品用の薬栓、包装フィルム、薬品製造工程で使用される流体移送ラインのライニング材、パッキン、シール材、シート等の薬液移送部材;
化学プラントや半導体工場の薬液タンクや配管の内面ライニング部材;
自動車の燃料系統並びに周辺装置に用いられるO(角)リング・チューブ・パッキン、バルブ芯材、ホース、シール材等、自動車のAT装置に用いられるホース、シール材等の燃料移送部材;
自動車のエンジン並びに周辺装置に用いられるキャブレターのフランジガスケット、シャフトシール、バルブステムシール、シール材、ホース等、自動車のブレーキホース、エアコンホース、ラジエーターホース、電線被覆材等のその他の自動車部材;
半導体製造装置のO(角)リング、チューブ、パッキン、バルブ芯材、ホース、シール材、ロール、ガスケット、ダイヤフラム、継手等の半導体装置用薬液移送部材;
塗装設備用の塗装ロール、ホース、チューブ、インク用容器等の塗装・インク用部材;
飲食物用のチューブ又は飲食物用ホース等のチューブ、ホース、ベルト、パッキン、継手等の飲食物移送部材、食品包装材、ガラス調理機器;
廃液輸送用のチューブ、ホース等の廃液輸送用部材;
高温液体輸送用のチューブ、ホース等の高温液体輸送用部材;
スチーム配管用のチューブ、ホース等のスチーム配管用部材;
船舶のデッキ等の配管に巻き付けるテープ等の配管用防食テープ;
電線被覆材、光ファイバー被覆材、太陽電池の光起電素子の光入射側表面に設ける透明な表面被覆材および裏面剤等の各種被覆材;
ダイヤフラムポンプのダイヤフラムや各種パッキン類等の摺動部材;
農業用フィルム、各種屋根材・側壁等の耐侯性カバー;
建築分野で使用される内装材、不燃性防火安全ガラス等のガラス類の被覆材;
家電分野等で使用されるラミネート鋼板等のライニング材;
等が挙げられる。
【0075】
上記自動車の燃料系統に用いられる燃料移送部材としては、更に、燃料ホース、フィラーホース、エバポホース等が挙げられる。上記燃料移送部材は、耐サワーガソリン用、耐アルコール燃料用、耐メチルターシャルブチルエーテル・耐アミン等ガソリン添加剤入燃料用の燃料移送部材として使用することもできる。
【0076】
上記薬品用の薬栓・包装フィルムは、酸等に対し優れた耐薬品性を有する。また、上記薬液移送部材として、化学プラント配管に巻き付ける防食テープも挙げることができる。
【0077】
上記成形体としては、また、自動車のラジエータタンク、薬液タンク、ベロース、スペーサー、ローラー、ガソリンタンク、廃液輸送用容器、高温液体輸送用容器、漁業・養魚タンク等が挙げられる。
【0078】
上記成形体としては、更に、自動車のバンパー、ドアトリム、計器板、食品加工装置、調理機器、撥水撥油性ガラス、照明関連機器、OA機器の表示盤・ハウジング、電照式看板、ディスプレイ、液晶ディスプレイ、携帯電話、プリント基盤、電気電子部品、雑貨、ごみ箱、浴槽、ユニットバス、換気扇、照明枠等に用いられる部材も挙げられる。
【実施例】
【0079】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0080】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0081】
表面張力
協和界面科学株式会社製表面張力計SURFACE CBVP−A3を用いて、水と界面活性剤のみを混ぜて1000ppmにした水溶液を用いて測定した。
【0082】
NMR分析
次の装置及び条件により実施した。
NMR測定装置:VARIAN社製
H−NMR測定条件:400MHz(テトラメチルシラン=0ppm)
19F−NMR測定条件:376MHz(トリクロロフルオロメタン=0ppm)
【0083】
異常結合率の測定
19F−NMR分析より求めた。具体的には、−114〜117ppm付近のピーク面積(異常結合由来)の合計(=n2)と、−90〜−96ppm付近のピーク面積(−CF−CH−由来)(=n1)から下記の計算式により算出した。
異常結合率(%)={n2/(n1+n2)}×100 /2
【0084】
融点
示差走査熱量計(メトラートレド社製、DSC822e)を使用して測定した。
70℃〜220℃ RATE 20℃/min 1st run 1st down 2nd run
【0085】
結晶化度(Xc)
X線回折装置(リガク社製、RINT2000)を使用してX線回折測定を行い、得られたX線回折パターンに基づき、2θ(deg)8〜25のピーク面積(X)、16〜19のピーク面積(Y)、19〜21.5のピーク面積(Z)から下記の計算式で算出した。
Xc=(Y+Z)/X
【0086】
平均粒子径
HONEYWELL社製のマイクロトラックUPAを用いて測定した。
【0087】
PVDFの固形分濃度(P)
試料約1g(X)を直径5cmのアルミカップにとり、150℃、1時間で乾燥した後、得られる加熱残分(Z)に基づき、式:P=Z/X×100(%)にて決定した。
【0088】
実施例1
3.0Lステンレス製オートクレーブに純水1700g、H−(CFCF−CH−O−CO−CHCH(−SONa)−CO−O−CH−(CFCF−H(表面張力22mN/m)0.85g(対重合水500ppm)、パラフィン17gを入れ窒素置換し、フッ化ビニリデン(VDF)150gを加え、槽内を115℃まで昇温した。これに撹拌下、アセトン0.51g、ジ−t−ブチルパーオキシド5.6gを加え反応を開始した。槽内が4.0MPaに保たれるようフッ化ビニリデンを9時間かけて427g追加、途中H−(CFCF−CH−O−CO−CHCH(−SONa)−CO−O−CH−(CFCF−H 1.45g(対重合水850ppm)を追加し、安定なPVDFエマルション 2112.45g(固形分濃度20.6質量%)を得た。得られたPVDFエマルションに関して、下記の方法で安定性試験を行った。結果を表1に示す。
【0089】
得られたポリマーの融点は160.8℃、平均粒子径は171nm、異常結合率は5.5モル%、結晶化度は0.28であった。
【0090】
H−NMR(270MHz,DMF−d7)により、ポリマー末端:1.885ppm(CCH−CF);3.634ppm(C−O);6.577ppm(HCF−CH)が確認された。
【0091】
実施例2
3.0Lステンレス製オートクレーブに純水1700g、H−(CFCF−CH−O−CO−CHCH(−SONa)−CO−O−CH−(CFCF−H(表面張力21mN/m)0.85g(対重合水500ppm)、パラフィン17gを入れ窒素置換し、フッ化ビニリデン(VDF)150gを加え、槽内を115℃まで昇温した。これに撹拌下、アセトン0.51g、ジ−t−ブチルパーオキシド5.6gを加え反応を開始した。槽内が4.0MPaに保たれるようフッ化ビニリデンを15.2時間かけて732g追加、途中H−(CFCF−CH−O−CO−CHCH(−SONa)−CO−O−CH−(CFCF−H 1.45g(対重合水850ppm)、アセトン0.34gを追加し、安定なPVDFエマルション2311.49g(固形分濃度30.7質量%)を得た。得られたPVDFエマルションに関して、下記の方法で安定性試験を行った。結果を表1に示す。
【0092】
得られたポリマーの融点は162.03℃、平均粒子径は185nm、異常結合率は5.6モル%、結晶化度は0.33であった。
【0093】
H−NMR(270MHz,DMF−d7)により、ポリマー末端:1.988ppm(CCH−CF);3.646ppm(C−O);6.568ppm(HCF−CH)が確認された。
【0094】
実施例3
3.0Lステンレス製オートクレーブに純水1700g、H−(CFCF−CH−O−CO−CHCH(−SONa)−CO−O−CH−(CFCF−H(表面張力22mN/m)0.85g(対重合水500ppm)、パラフィン17gを入れ窒素置換し、フッ化ビニリデン(VDF)150gを加え、槽内を115℃まで昇温した。これに撹拌下、アセトン0.51g、ジ−t−ブチルパーオキシド5.6gを加え反応を開始した。槽内が4.0MPaに保たれるようフッ化ビニリデンを15.2時間かけて425g追加、安定なPVDFエマルション2020g(固形分濃度20.1質量%)を得た。得られたPVDFエマルションに関して、下記の方法で安定性試験を行った。結果を表1に示す。
【0095】
得られたポリマーの融点は161℃、平均粒子径は206nm、異常結合率は5.6モル%、結晶化度は0.34であった。
【0096】
H−NMR(270MHz,DMF−d7)により、ポリマー末端:1.988ppm(CCH−CF);3.636ppm(C−O);6.577ppm(HCF−CH)が確認された。
【0097】
実施例4
3.0Lステンレス製オートクレーブに純水1700g、F−(CFCF−CH−CH−O−CO−CHCH(−SONa)−CO−O−CH−CH−(CFCF−F(表面張力24mN/m)0.51g(対重合水300ppm)、パラフィン17gを入れ窒素置換し、フッ化ビニリデン(VDF)150gを加え、槽内を115℃まで昇温した。これに撹拌下、アセトン0.51g、ジ−t−ブチルパーオキシド2.8gを加え反応を開始した。槽内を4.0MPaに保ちながら4時間加熱撹拌し、安定なPVDFエマルション 1728.18g(固形分濃度2.7質量%)を得た。得られたPVDFエマルションに関して、下記の方法で安定性試験を行った。結果を表1に示す。
【0098】
得られたポリマーの融点は161℃、平均粒子径は50nm、異常結合率は5.5モル%、結晶化度は0.34であった。
【0099】
H−NMR(270MHz,DMF−d7)により、ポリマー末端:1.986ppm(CCH−CF);3.658ppm(C−O);6.572ppm(HCF−CH)が確認された。
【0100】
実施例5
3.0Lステンレス製オートクレーブに純水1700g、CF―CHF―CF−CH−O−CO−CHCH(−SONa)−CO−O−CH−CF2―CHF―CF(表面張力54mN/m)0.85g、パラフィン17gを入れ窒素置換し、フッ化ビニリデン(VDF)150gを加え、槽内を115℃まで昇温した。これに撹拌下ジ−t−ブチルパーオキシド5.6gを加え反応を開始した。4時間後安定なPVDFエマルション1758g(固形分濃度4.8質量%)を得た。得られたPVDFエマルションに関して、下記の方法で安定性試験を行った。結果を表1に示す。
【0101】
得られたポリマーの融点は161℃、平均粒子径は200nm、異常結合率は5.4モル%、結晶化度は0.35であった。
【0102】
H−NMR(270MHz,DMF−d7)により、ポリマー末端:1.9ppm(CCH−CF);3.6ppm(C−O);6.6ppm(HCF−CH)が確認された。
【0103】
実施例6
3.0Lステンレス製オートクレーブに純水1400g、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム(表面張力45mN/m)0.88gを入れ窒素置換し、フッ化ビニリデン(VDF)198gを加え、槽内を80℃まで昇温した。これに撹拌下ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート1.1gを加え反応を開始した。30分後ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート1.1gを追加し、1.5時間後安定なPVDFエマルション1399g(固形分濃度3.1質量%)を得た。得られたPVDFエマルションに関して、下記の方法で安定性試験を行った。結果を表1に示す。
【0104】
得られたポリマーの融点は168℃、平均粒子径は111nm、異常結合率は5.1モル%、結晶化度は0.37であった。
【0105】
H−NMR(270MHz,DMF−d7)により、ポリマー末端:1.1ppm(CCHCH−O−CO−O−CFCH);1.9ppm(CHCH−O−CO−O−CFCH);2.0ppm(CCH−CF);4.3ppm(CHCH−O−CO−O−CHCF);4.7ppm(CHCHCH−O−CO−O−CCF)が確認された。
【0106】
実施例7
3.0Lステンレス製オートクレーブに純水1700g、H−(CFCF−CH−O−CO−CHCH(−SONa)−CO−O−CH−(CFCF−H(表面張力54mN/m)0.85g、パラフィン17gを入れ窒素置換し、フッ化ビニリデン(VDF)150gを加え、槽内を80℃まで昇温した。これに撹拌下t−ブチルパーオキシイソブチレート5.6gを加え反応を開始した。2時間後安定なPVDFエマルション1730g(固形分濃度4.5質量%)を得た。得られたPVDFエマルションに関して、下記の方法で安定性試験を行った。結果を表1に示す。
【0107】
得られたポリマーの融点は167℃、平均粒子径は98nm、異常結合率は5.1モル%、結晶化度は0.36であった。
【0108】
H−NMR(270MHz,DMF−d7)により、ポリマー末端:1.9ppm(CCH−CF);3.6ppm(C−O);6.6ppm(HCF−CH)が確認された。
【0109】
実施例8
3.0Lステンレス製オートクレーブに純水2000g、H−(CFCF−CH−O−CO−CH(CHCOONH)CH(CHCOONH)−CO−O−CH−(CFCF−H(表面張力28mN/m)4g、パラフィン20gを入れ窒素置換し、フッ化ビニリデン(VDF)111gを加え、槽内を125℃まで昇温した。これに撹拌下ジ−t−ブチルパーオキシド6.6gを加え反応を開始した。槽内が4.0MPaに保たれるようフッ化ビニリデンを3時間かけて147g追加し、安定なPVDFエマルション 2100g(固形分濃度6.5質量%)を得た。得られたPVDFエマルションに関して、下記の方法で安定性試験を行った。結果を表1に示す。
【0110】
得られたポリマーの融点は158.8℃、平均粒子径は390nm、異常結合率は5.6モル%、結晶化度は0.30であった。
【0111】
H−NMR(270MHz,DMF−d7)により、ポリマー末端:1.8ppm(CCH−CF);3.6ppm(C−O);6.5ppm(HCF−CH)が確認された。
【0112】
実施例9
3.0Lステンレス製オートクレーブに純水1700g、CH(CH−CH(−SONa)(CH−CH(クラリアント社ホスタパーSAS93)(表面張力30mN/m)3g、パラフィン17gを入れ窒素置換し、フッ化ビニリデン(VDF)150gを加え、槽内を125℃まで昇温した。これに撹拌下ジt−ブチルパーオキサイド5.6gを加え反応を開始した。2時間後安定なPVDFエマルション1735g(固形分濃度4.0質量%)を得た。得られたPVDFエマルションに関して、下記の方法で安定性試験を行った。結果を表1に示す。
【0113】
得られたポリマーの融点は156℃、平均粒子径は105nm、異常結合率は5.6モル%、結晶化度は0.33であった。
【0114】
H−NMR(270MHz,DMF−d7)により、ポリマー末端:1.9ppm(CCH−CF);3.6ppm(C−O);6.6ppm(HCF−CH)が確認された。
【0115】
実施例10
3.0Lステンレス製オートクレーブに純水1700g、F(CF−O−CFCF−O−CF−CH−O−CO−CHCH(−SONa)−CO−O−CH−CF−O−CFCF−O−(CFF(表面張力22mN/m)0.85g、パラフィン17gを入れ窒素置換し、フッ化ビニリデン(VDF)150gを加え、槽内を125℃まで昇温した。これに撹拌下ジt−ブチルパーオキサイド5.6gを加え反応を開始した。1.5時間後安定なPVDFエマルション1748g(固形分濃度4.0質量%)を得た。得られたPVDFエマルションに関して、下記の方法で安定性試験を行った。結果を表1に示す。
【0116】
得られたポリマーの融点は158℃、平均粒子径は102nm、異常結合率は5.6モル%、結晶化度は0.33であった。
【0117】
H−NMR(270MHz,DMF−d7)により、ポリマー末端:2.0ppm(CCH−CF);3.6ppm(C−O);6.6ppm(HCF−CH)が確認された。
【0118】
実施例11
3.0Lステンレス製オートクレーブに純水2000g、CF(CF−CHCHC(COONHCHCH(CFCF 4g(表面張力40mN/m)、パラフィン20gを入れ窒素置換し、フッ化ビニリデン(VDF)111gを加え、槽内を125℃まで昇温した。これに撹拌下ジ−t−ブチルパーオキシド6.6gを加え反応を開始した。槽内が4.0MPaに保たれるようフッ化ビニリデンを3時間かけて130g追加し、安定なPVDFエマルション2085g(固形分濃度5.5質量%)を得た。得られたPVDFエマルションに関して、下記の方法で安定性試験を行った。結果を表1に示す。
【0119】
得られたポリマーの融点は158℃、平均粒子径は380nm、異常結合率は5.6モル%、結晶化度は0.31であった。
【0120】
H−NMR(270MHz,DMF−d7)により、ポリマー末端:1.8ppm(CCH−CF);3.6ppm(C−O);6.5ppm(HCF−CH)が確認された。
【0121】
比較例1
3.0Lステンレス製オートクレーブに純水2560g、CF−CF−CF−CF−CF−CF−CF−COONH(表面張力62mN/m)を1.6g、ジ−t−ブチルパーオキシド4.2gを入れ窒素置換し、フッ化ビニリデン(VDF)64gを加え、槽内を115℃まで昇温した。5時間後PVDFエマルションが2590g(固形分濃度2.4質量%)を得た。得られたPVDFエマルションに関して、下記の方法で安定性試験を行った。結果を表1に示す。
【0122】
得られたポリマーの融点は157℃、平均粒子径は199nm、異常結合率は6.1モル%、結晶化度は0.34であった。
【0123】
H−NMR(270MHz,DMF−d7)により、ポリマー末端:1.9ppm(CCH−CF);3.55ppm(C−O);6.468ppm(HCF−CH)が確認された。
【0124】
比較例2
3.0Lステンレス製オートクレーブに純水1700g、パラフィン17g,CF−CF−CF−CF−CF−CF−CF−COONH(表面張力63mN/m)を1.1g、ジ−t−ブチルパーオキシド2.7gを入れ窒素置換し、フッ化ビニリデン(VDF)130gを加え、槽内を125℃まで昇温した。槽内が4.0MPaに保たれるようフッ化ビニリデンを3.5時間かけて301g追加し、PVDFエマルションが1802g(固形分濃度12.9質量%)を得た。得られたPVDFエマルションに関して、下記の方法で安定性試験を行った。結果を表1に示す。
【0125】
得られたポリマーの融点は157℃、平均粒子径は518nm、異常結合率は6.2モル%、結晶化度は0.33であった。
【0126】
H−NMR(270MHz,DMF−d7)により、ポリマー末端:1.9ppm(CCH−CF);3.5ppm(C−O);6.5ppm(HCF−CH)が確認された。
【0127】
比較例3
3.0Lステンレス製オートクレーブに純水2000g、CF−CF−CF−CF−CF−COOH(表面張力64mN/m)を8.3g、ジ−t−ブチルパーオキシド4.2gを入れ窒素置換し、フッ化ビニリデン(VDF)172gを加え、槽内を125℃まで昇温した。槽内が4.0MPaに保たれるようフッ化ビニリデンを4時間かけて90g追加し、PVDFエマルションが1980g(固形分濃度4.6質量%)と沈降ポリマーが78g生成した。得られたPVDFエマルションに関して、下記の方法で安定性試験を行った。結果を表1に示す。
【0128】
得られたポリマーの融点は160℃、平均粒子径は597nm、異常結合率は6.0モル%結晶化度は0.33であった。
【0129】
H−NMR(270MHz,DMF−d7)により、ポリマー末端:1.885ppm(CCH−CF);3.546ppm(C−O);6.468ppm(HCF−CH)が確認された。
【0130】
安定性試験
エマルションの安定性を比較するため、エマルション1Lを常温(20℃)で一定時間(1日及び1か月)静置し、状態を確認した。
【0131】
【表1】
【0132】
実施例12
実施例1によって得られたエマルションを凝析、乾燥し、PVDF粉末を得た。
得られたPVDF粉末を7g、パラロイドB44(ダウケミカル社製)を3g、酸化チタンR960(デュポン社製)を6g、イソホロンを24g配合して塗料を作成し、アルミ板に塗装し、240℃15分焼付けた後、塗板を得た。得られた塗板に関して、下記の方法で塗膜物性を評価した。また、得られた塗板に関して、1年間沖縄にて暴露試験を行ったところ、高い光沢保持率を示した。結果を表2に示す。
【0133】
光沢
光沢計(日本電色工業社製 VG7000)を用いて60度で測定した。
【0134】
塗膜硬度
鉛筆硬度試験によって測定した。
【0135】
乾燥塗膜密着性
塗膜にJIS K 5600−5−6:1999に規定された1cm角あたり100マスの碁盤目をカッターで引き、この面にセロテープ(登録商標)(ニチバン(株)製の粘着テープ)を充分に密着させ、ただちに引き剥がし、剥離のない場合を〇とした。
【0136】
湿潤塗膜密着性
乾燥塗膜密着性試験後、38℃のイオン交換水に24時間浸漬し、試験面にセロテープ(登録商標)(ニチバン(株)製の粘着テープ)を充分に密着させ、ただちに引き剥がし、剥離のない場合を〇とした。
【0137】
沸騰水密着
乾燥塗膜密着性試験後、99℃の沸騰水に20分浸漬、試験面にセロテープ(登録商標)(ニチバン(株)製の粘着テープ)を充分に密着させ、ただちに引き剥がし、剥離のない場合を〇とした。
【0138】
耐薬品性塩酸試験
10%の塩酸を10滴垂らして10分間放置し、その後、目視で観察した。変化がない場合を〇とした。
【0139】
耐薬品性硝酸試験
70%硝酸に30分浸漬、1時間放置し、試験前後の色差(ΔE)を測定した。
【0140】
【表2】