(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5696878
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】キセノンショートアークランプ
(51)【国際特許分類】
H01J 61/54 20060101AFI20150319BHJP
【FI】
H01J61/54 F
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-256436(P2010-256436)
(22)【出願日】2010年11月17日
(65)【公開番号】特開2012-109095(P2012-109095A)
(43)【公開日】2012年6月7日
【審査請求日】2013年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106862
【弁理士】
【氏名又は名称】五十畑 勉男
(72)【発明者】
【氏名】下里 昌広
(72)【発明者】
【氏名】河野 洋一
【審査官】
佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−135067(JP,A)
【文献】
特開平02−199766(JP,A)
【文献】
特開平02−210750(JP,A)
【文献】
特開2007−242586(JP,A)
【文献】
実開平02−092660(JP,U)
【文献】
特開2009−289454(JP,A)
【文献】
特開2005−011671(JP,A)
【文献】
特開2005−044562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/30−65/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極が対向配置された発光管と、この発光管の両端の封止管と、該封止管内に支持された保持用筒体とよりなり、該保持用筒体の外周には金属箔が巻装され、該保持用筒体に前記陽極および陰極の芯棒が貫通されて支持されるとともに、点灯始動時に交流高電圧が印加されるキセノンショートアークランプにおいて、
前記電極の一方と電気的に接続されたトリガワイヤーが、他方の電極側の封止管における前記保持用筒体の金属箔と対向する位置よりも発光管側の外表面に位置して巻回されていることを特徴とするキセノンショートアークランプ。
【請求項2】
前記トリガワイヤーは、前記他方の電極側の封止管における発光管の立ち上がり部に巻回されていることを特徴とする請求項1に記載のキセノンショートアークランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば投射型プロジェクタ装置などの投影装置に搭載されるキセノンショートアークランプに関するものであり、特に、封止管内に電極を支持する保持用筒体を備えてなるキセノンショートアークランプに係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、投射型プロジェクタ装置などの投影装置に搭載される光源としてキセノンショートアークランプが用いられている。
このキセノンショートアークランプは、石英ガラスからなる球形や楕円球形をした発光管内にキセノンガスが封入されるとともに、陰極と陽極が対向配置され、この陰極および陽極の芯棒が発光管の両側に続く封止管の端部でシールされている。
そして、該シール部に過剰な付加が掛かることを回避するために、陰極及び陽極の芯棒を封止管で支持する構造が一般に採用されていて、この陰極および陽極の芯棒を保持する構造として、封止管の発光管側の端部を加熱して縮径した絞り込み部を形成している。
しかし、封止管の絞り込み部で陰極および陽極の電極芯棒を直接保持するためには、絞り込み量をかなり大きくする必要があって、この絞り込み量が大きいと、該絞り込み作業が困難となり、かつ封止管の変形が大きいと当該個所に応力が発生して破損することもあり、好ましいものではない。
【0003】
このため、封止管内に石英ガラス製の保持用筒体を配置して、該保持用筒体に陰極および陽極の芯棒を挿通してこれを保持し、前記封止管を保持用筒体の方向に縮径して絞り込むことにより、その絞り込み量を小さくする構造が採用されている。
ところが、封止管に絞り込み部を形成する際、この絞り込み部と保持用筒体の両方の部材が溶融して一体化してしまうと、保持用筒体の発光管側の端部側からクラックが入り、封止管が破損する恐れがあるため、これを回避すべく、保持用筒体の外周面に金属箔が巻装された構造が採用されている。これにより、絞り込み部と保持用筒体の両部材が溶着一体化することが防止されるので、封止管に不所望の応力が働くことがなく、クラックが発生しない構造となる。
このようなキセノンショートアークランプの構造は、特許第3430887号公報(特許文献1)に記載されている。
【0004】
ところで、最近では、投射映像の明るさをより明るくすることが強く要求されるようになってきており、このため、封入されるキセノンガスのガス量が多くなる傾向にあって、必然的にブレークダウン電圧が高くなる傾向にある。このブレークダウン電圧を下げるために、発光管の外表面にトリガワイヤーを配設した構造が知られている。
このようなキセノンショートアークランプの構造は、特開2009−289454号公報(特許文献2)に記載されている。
【0005】
図3にその構造が示されており、キセノンショートアークランプ1は、石製ガラス製の発光管2と、その両端の封止管3、3とからなり、発光管2内には陰極4と陽極5とが対向配置されている。
前記封止管3、3内には石英ガラス製の保持用筒体6、6が配置され、前記陰極4の芯棒4aおよび陽極5の芯棒5aがそれぞれ挿通され、これによって電極4、5が支持されている。
この保持用筒体6、6は封止管3、3を加熱して絞り込み部7、7を形成して、これにより支持されている。該保持用筒体6の外周面には金属箔10が巻装されていて、封止管3の絞り込み部7と溶着しないようにされている。
そして、一端が陽極5と電気的に接続されたトリガワイヤー8が封止管3および発光管2に沿って設けられ、その反対端のリング9が発光管2に巻回されて配置されている。
【0006】
このようなキセノンショートアークランプでは、イグナイターによって電極間に交流高電圧を印加して始動するものであるが、上記構成によればトリガワイヤー8のリング9を、電極間、又は、陰極4の付近に配置しても、光出力を高めるために発光管内に封入されるキセノンガスの封入圧が高くなると、電極間の電界を十分大きく歪ませることができず、電極間に交流高電圧を印加しても、ランプが始動しない場合があった。
このような不具合を解消するために、
図4に示すように、一方の電極と電気的に接続されたトリガワイヤーの先端を、絞り込み部に巻回する構造が開発されている。
即ち、
図4に示すように、陽極5に電気的に接続されたトリガワイヤー8の他端側のリング9は、陰極4を支持する保持用筒体6の外周に形成される封止管3の絞り込み部7に巻回されている。
このような構造にすることによって、トリガワイヤー8のリング9が陰極4から離れ、電極間からも離れることになり、電極間の電界を十分大きく歪ませることができるものである。
【0007】
しかしながら、この構造においては別の問題が生じることが判明した。
トリガワイヤー8は、一方の電極(陽極)5と電気的に接続されているために、始動時には該トリガワイヤー8にも交流高電圧が印加される。
図5に示す状態は、トリガワイヤー8に+の高電圧が印加された状態であり、このトリガワイヤー8と接している封止管3の外表面3aは−の電荷に帯電し、封止管3の内表面3bは+の電荷に帯電している。
一方、+の電荷に帯電している封止管3の内表面3b近傍にある保持用筒体6の外表面に巻装された金属箔10の表面にはクーロン力により−の電荷が誘起される。
つまり、封止管3の内表面3bは+の電荷に帯電し、金属箔10は−の電荷が帯電した状態になっているので、その間に存在するキセノンガスを介して、封止管3の内表面3bと金属箔10との間で、異常放電11が発生する。
次いで、イグナイターから印加されている高電圧の極性が反転して陰極4に+の高電圧が印加され、トリガワイヤー8が−極性になると、封止管3の内表面3bは−の電荷に帯電し、金属箔10は+の電荷が帯電した状態となり、封止管3の内表面3bと金属10との間で、次の異常放電11が発生する。
【0008】
このように、始動時に電極間に交流高電圧を印加しても、そのエネルギーの一部が封止管の内表面と金属箔との間で発生する異常放電で費やされて、電極間に印加されるエネルギーが減少してしまい、ランプが確実に始動しないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3430887号公報
【特許文献2】特開2009−289454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて、陽極と陰極が対向配置された発光管と、この発光管の両端の封止管と、該封止管内に支持された保持用筒体とよりなり、該保持用筒体の外周には金属箔が巻装され、該保持用筒体に前記陽極および陰極の芯棒が挿通されて支持されるとともに、点灯始動時に交流高電圧が印加されるキセノンショートアークランプにおいて、前記電極の一方と電気的に接続されたトリガワイヤーに始動時に交流電圧が印加されたとき、封止管と保持用筒体表面の金属箔との間で異常放電が起きることを防止して、確実な始動ができるようにした構造を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、この発明では、前記電極の一方と電気的に接続されたトリガワイヤーが、他方の電極側の封止管における前記保持用筒体の金属箔と対向する位置よりも発光管側の外表面に位置して巻回されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電極の一方と電気的に接続されたトリガワイヤーの他端部が、保持用筒体の金属箔とは発光管側にずれた位置に巻回されているので、該トリガワイヤー端部の位置と保持用筒体外表面の金属箔との距離が大きくなり、始動時に交流高電圧が印加されても、封止管内表面と保持用筒体の金属箔との間で異常放電が発生することがなく、印加電圧のエネルギーを全て始動のために利用できて確実な始動ができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るキセノンショートアークランプの全体図。
【
図5】
図4の従来技術の不具合を説明する拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1において、キセノンショートアークランプ1は、発光管2と封止管3、3とからなり、発光管2内には陰極4と陽極5とが配置され、封止管3、3内には保持用筒体6、6が配置されて前記陰極4の芯棒4aおよび陽極5の芯棒5aがそれぞれ挿通され支持されており、該保持用筒体6の外表面には金属箔10が巻装されていて、封止管3の絞り込み部7によって支持されていることは、従来例と同様である。
そして、陽極5と電気的に接続されたトリガワイヤー8が発光管2に沿うように配設されている。
図2に詳細が示されるように、前記トリガワイヤー8の陰極4側の他方端のリング12は、前記封止管3において、前記保持用筒体6に巻装された金属箔10と対向する位置よりも発光管2側の外表面に位置して巻回されている。
その位置は、前記金属箔10とはできるだけ離れていることが好ましく、封止管3における発光管2の立ち上がり部2aに巻回することが好適である。
【0015】
上記構成とすることによって、トリガワイヤー8の先端のリング12が位置する地点と、保持用筒体6外表面の金属箔10との距離Xが大きく取れて、その間での異常放電を防止できるものである。
なお、上記においては、トリガワイヤー8は、一端が陽極5に電気的に接続され、他端を電気的に自由端としたものを説明したが、逆であってもよく、一端が陰極4に電気的に接続され、他端が自由端となっているものであってもよい。その場合、陽極5側の端部のリングが、陽極側の封止管3において、前記保持用筒体6に巻装された金属箔10と対向する位置よりも発光管2側の外表面に位置するように巻回されていればよい。
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、一端が一方の電極に電気的に接続され、発光管に沿って配設されたトリガワイヤーの他方の電極側の他端部を、封止管における保持用筒体の金属箔よりも発光管側に位置させたので、トリガワイヤーと金属箔との距離を大きく取れて、その間での異常放電の発生を防止できるものである。それにより、始動時に交流高電圧が印加されたとき、そのエネルギーが不所望の異常放電によって費やされることがなく、確実な始動がなされる。
【符号の説明】
【0017】
1 キセノンショートアークランプ
2 発光管
2a 発光管立ち上がり部
3 封止管
3a 封止管外表面
3b 封止管内表面
4 陰極
4a 陰極芯棒
5 陽極
5a 陽極芯棒
6 保持用筒体
7 絞り込み部
8 トリガワイヤー
9 トリガワイヤーのリング
10 金属箔
11 異常放電
12 (トリガワイヤーの)リング