【実施例1】
【0024】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。
図1は本発明の実施例に係る電動工具1の接続構成を示す模式図である。電動工具1は、装着されるバッテリパック(図示せず)から供給される電力を利用してモータ2を駆動し、モータ2によって先端工具を駆動し、六角ソケット等の図示しない先端工具を回転させてナット締めやボルト締め等の所定の作業を行う。
【0025】
電動工具1に含まれるモータ2は、例えば永久磁石を有する回転子と、鉄心に巻かれた巻線をもつ固定子を有する公知のブラシレス直流モータである。モータ2には、回転子の回転位置を検出するための回転位置検出素子(図示せず)が搭載され、検出された位置に基づいてコントローラ4によって、モータ2の回転制御が行われる。電動工具1には、トランジスタやMOSFETなどの半導体素子によって構成されるインバータ回路3を含み、これらにコントローラ4からパルス幅変調信号(PWM信号)を供給し、信号のパルス幅(デューティ比)を変化させることによってモータ2への電力供給量を調整し、モータ2を所望の回転速度で回転させる。
【0026】
電動工具1のグリップ部には、トリガスイッチ5が配設され、トリガスイッチ5を引いた量に比例する信号が、コントローラ4に伝達される。電動工具1は、例えば電子クラッチ機構や締め付けトルク値を可変に設定できるインパクトドライバであって、複数の動作モード、例えばドリルモード、インパクトモード、クラッチモードを有する。インパクトモードとクラッチモードにおいては、それぞれ締め付けトルク値を複数レベルに設定できるようにすると好ましい。トリガスイッチ5が引かれてモータ2が起動すると、コントローラ4はトリガスイッチ5の引いた量及び設定された締め付けトルク値に応じてモータ2の目標回転数を設定し、モータ2が目標回転数で回転するようにPWM信号のパルス幅(デューティ比:%)を計算する。
【0027】
コントローラ4には、図示しないマイコン(演算部)が含まれる。マイコン(
図2で後述)は、処理プログラムとデータに基づいて駆動信号を出力するための中央処理装置(CPU)、処理プログラムや制御データを記憶するためのROM、データを一時記憶するためのRAM、時計機能をもつタイマ等を含んで構成される。
【0028】
図1は電動工具1からのバッテリパック(図示せず)を取り外した状態を示しており、バッテリパックを取り外すとコントローラ4から延びるケーブル6が外部に露出する。ケーブル6の先端には着脱可能なコネクタ7が取り付けられている。図示しないバッテリパックを電動工具1に装着する場合は、ケーブル6及びコネクタ7が電動工具1のハウジングの内部空間に収容し、バッテリパックにて内部空間の開口部を覆うようにする。このように構成したのでケーブル6の引き出しが電動工具の作業性に影響を与えることはない。また、バッテリパックを取り外さないとケーブル6を外部装置側と接続することができないので、外部装置側と接続中に誤ってトリガスイッチを引いたとしてもモータ2が起動してしまう恐れがない。
【0029】
コネクタ7には、USB(Universal Serial Bus)コネクタ9との変換を行うためのアダプタ8が接続される。このようにアダプタ8を介することによって、電動工具1に搭載されるコントローラ4に対して外部のPC(Personal Computer)50からUSBケーブル48を介してデータ通信が行えるようになる。USBケーブル48は、広く用いられるUSB(Aタイプ)のUSBコネクタ51を持つパーソナルコンピュータにUSB(Aタイプ)のUSBコネクタ9を持つアダプタ8を接続するケーブルであるか、又は、USB(Aタイプ)のUSBコネクタ51を持つパソコンにUSB(Bタイプ又はミニBタイプ)のUSBコネクタ9を持つアダプタ8を接続するケーブルである。
【0030】
次に、モータ2の駆動制御系の構成と作用を
図2に基づいて説明する。
図2はモータ2の駆動制御系の構成を示すブロック図であり、本実施例では、モータ2は3相のブラシレス直流モータで構成される。このブラシレス直流モータは、いわゆるインナーロータ型であって、複数組(本実施例では2組)のN極とS極を含む永久磁石(マグネット)を含んで構成されるロータ(回転子)2aと、スター結線された3相の固定子巻線U、V、Wから成るステータ2bと、ロータ2aの回転位置を検出するために周方向に所定の間隔毎、例えば角度60°毎に配置された3つの回転位置検出素子28を有する。これら回転位置検出素子28からの位置検出信号に基づいてマイコン31によって固定子巻線U、V、Wへの通電方向と通電時間の比率(デューティ比)が制御され、モータ2が回転する。
【0031】
インバータ回路3に含まれる電子素子には、3相ブリッジ形式に接続されたFETなどの6個のスイッチング素子Q1〜Q6を含む。コントローラ4にはマイコン31及びその周辺回路が含まれ、スイッチング素子Q1〜Q6の駆動制御を行う。ブリッジ接続された6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートは、制御信号出力回路32に接続され、6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ドレインまたは各ソースは、スター結線された固定子巻線U、V、Wに接続される。これによって、6個のスイッチング素子Q1〜Q6は、制御信号出力回路32から入力されたスイッチング素子駆動信号(H4、H5、H6等の駆動信号)によってスイッチング動作を行い、インバータ回路3に印加されるバッテリパックの直流電圧を3相(U相、V相及びW相)電圧Vu、Vv、Vwとして固定子巻線U、V、Wに電力を供給する。
【0032】
6個のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートを駆動するスイッチング素子駆動信号(3相信号)のうち、3個の負電源側スイッチング素子Q4、Q5、Q6をパルス幅変調信号(PWM信号)H4、H5、H6として供給し、コントローラ4上に搭載されたマイコン31によって、トリガスイッチ5の操作量(ストローク)の検出信号に基づいてPWM信号のパルス幅(デューティ比)を変化させることによってモータ2への電力供給量を調整し、モータ2の起動/停止と回転速度を制御する。
【0033】
ここで、PWM信号は、インバータ回路3の正電源側スイッチング素子Q1〜Q3または負電源側スイッチング素子Q4〜Q6の何れか一方に供給され、スイッチング素子Q1〜Q3またはスイッチング素子Q4〜Q6を高速スイッチングさせることによってバッテリパック等の直流電源11から各固定子巻線U、V、Wに供給する電力を制御する。尚、本実施例では、負電源側スイッチング素子Q4〜Q6にPWM信号が供給されるため、PWM信号のパルス幅を制御することによって各固定子巻線U、V、Wに供給する電力を調整してモータ2の回転速度を制御することができる。
【0034】
電動工具1には、モータ2の回転方向を切り替えるための正逆切替レバー12が設けられ、回転方向設定回路36は正逆切替レバー12の変化を検出するごとに、モータ2の回転方向を切り替えて、その制御信号をマイコン31に送信する。マイコン31は、図示していないが、処理プログラムとデータに基づいて駆動信号を出力するための中央処理装置(CPU)、処理プログラムや制御データを記憶するためのROM、データを一時記憶するためのRAM、タイマ等を含んで構成される。また、マイコン31には、データを不揮発的に記録するEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read−Only Memory)41が接続される。マイコン31は、ケーブル6を介して外部接続端子42であるコネクタ7と接続される。マイコンから外部接続端子42側へと、EEPROM41に格納された作業履歴等を出力することができる。また、外部接続端子42側からマイコン31へと、プログラム等の最適な制御内容などを入力できる。外部接続端子42は、アダプタ8を介してUSBコネクタ9と接続される。
【0035】
電動工具1には、複数の動作モードのうちいずれか一つを選択する動作モード設定スイッチ14が設けられる。動作モード設定スイッチ14が操作されると、動作モード検出回路37は、選択された動作モードをマイコン31に出力し、マイコン31は選択された動作モードに従ってモータ2の駆動を行う。
【0036】
マイコン31は、スイッチ操作検出回路34からの出力によりトリガスイッチ5が引かれたことを検出したら、回転方向設定回路36と回転子位置検出回路39及び回転角度検出回路40の出力信号に基づいて所定のスイッチング素子Q1〜Q6を交互にスイッチングするための駆動信号を形成し、その駆動信号を制御信号出力回路32に出力する。これによって固定子巻線U、V、Wの所定の巻線に交互に通電し、ロータ2aを設定された回転方向に回転させる。この場合、負電源側スイッチング素子Q4〜Q6に印加する駆動信号は、印加電圧設定回路35の出力制御信号に基づいてPWM変調信号として出力される。モータ2に供給される電流値は、電流検出回路33によって測定され、その値がマイコン31にフィードバックされることにより、設定された駆動電力となるように調整される。尚、PWM信号は正電源側スイッチング素子Q1〜Q3に印加しても良い。
【0037】
動作時に発熱の大きいインバータ回路3にはサーミスタ等の温度検出素子29が設けられ、温度検出回路38は所定の時間間隔毎にインバータ回路3の温度を測定してマイコン31に出力する。尚、温度検出素子29はインバータ回路3だけでなく、モータ2やその他の発熱部材の任意の箇所に設けても良い。
【0038】
図3は、本実施例においてEEPROM41に記憶されるデータの詳細を示す図である。本実施例においては、マイコン31はモータ2の制御を行う際に、その制御の詳細を示す情報をEEPROM41に格納するようにした。格納される情報には、大きく分けて6つのカテゴリーに分けられる。カテゴリーNo.1が、トリガスイッチ5をオンした回数である。マイコン31は、トリガスイッチ5がオンされた回数をカウントして、その積算回数をEEPROM41に格納する。この格納エリアとして3バイト確保してあるので約1677万回まで回数をカウントできる。
【0039】
EEPROM41に記憶されるデータのカテゴリーNo.2が、電動工具1の複数の動作モードのうち、いずれのモードが使用されたかを示す情報である。本実施例においては動作モードとして例えばモード1〜12までの12段階ある。マイコン31は、トリガスイッチ5がオンにされた時の動作モードを検出し、その動作モードに対応する使用回数の積算値をカウントアップする。
【0040】
EEPROM41に記憶されるデータのカテゴリーNo.3が、電動工具1に対して電池(バッテリパック)を接続した回数(装着した回数)である。取り外していたバッテリパックを装着する毎に1回とカウントし、その積算値を格納する。
【0041】
EEPROM41に記憶されるデータのカテゴリーNo.4が、電動工具1のトリガスイッチ5をオンにしていたインターバル(間隔)の統計情報である。例えば、電動工具1のトリガスイッチ5がオンにされて、10秒の作業後にトリガスイッチ5がオフにされた場合は、インターバルが20秒以内の分類に該当するので、20秒以内の回数をカウントアップする。測定する温度をどの部位の温度とするか、また温度範囲の分類をどのように分けるかは、PC50でこれらを読み出して利用する際のニーズに合わせて適宜設定すれば良い。本実施例では、トリガスイッチ5をオンにしていた際の温度が、20秒未満、20秒以上1分未満、1分以上の3段階に分けて格納するようにした。
【0042】
EEPROM41に記憶されるデータのカテゴリーNo.5が、電動工具1のトリガスイッチ5がオンにされたときの使用温度状況である。これは発熱する部分のうち最も高温になるインバータ回路3のスイッチング素子の周囲温度を温度検出素子29(
図2参照)で測定したものである。この温度範囲の分類をどのようにするかは、PC50でこれらを読み出して利用する際のニーズに合わせて適宜設定すれば良い。本実施例では、トリガスイッチ5をオンにされたときの使用温度が、0〜60℃未満、60℃以上、0℃未満の3段階に分けて格納するようにした。
【0043】
EEPROM41に記憶されるデータのカテゴリーNo.6が、電動工具1のトリガスイッチ5がオンにされている際の実効電流の大きさである。この実効電流は電流検出回路33(
図2参照)の出力によって判定でき、実効電流が0〜10A未満の範囲、10A以上20A未満、20A以上の範囲にあった回数をそれぞれ累積してカウントする。尚、実効電流の大きさはトリガがオンにされている際の平均実効電流とすれば良いが、これに限られずにモータ始動直後の大電流分を除いた範囲の平均実効電流としても良い。この場合は、トリガスイッチ5がオンされたら所定の不感時間を設け、その不感時間以外の平均実効電流を算出する。さらに、平均実効電流でなくピーク実効電流を用いて分類するように構成しても良い。
【0044】
次に
図4のフローチャートを用いて本実施例に係る電動工具1の制御手順を説明する。その制御はマイコン31がコンピュータプログラムを実行することによってソフトウェア的に実行可能である。
図4において、電動工具1にバッテリパックを装着すると
図4のフローチャートに示す手順の制御が開始される。まず、マイコン31は、バッテリパックが装着された回数データを更新する(ステップ61)。次に、マイコン31は、作業者によりトリガスイッチ5が引かれたかどうかを判断する(ステップ62)。引かれていなければ待機し、引かれたらマイコン31は、トリガスイッチ5がONにされた回数のデータを1追加することにより更新する(ステップ63)。次に、マイコン31は、動作モード設定スイッチ14(
図2参照)により設定されている動作モードを識別し、対応する動作モード(
図3のデータのカテゴリーNo.3)の使用回数を更新する(ステップ65)。次に、マイコン31はモータ2を設定された動作モードに合わせて駆動をする。
【0045】
次に、マイコン31はトリガスイッチ5がONにされている時間T
onのカウントを開始し(ステップ67)、電流検出回路33(
図2参照)を用いてモータ2に流れる電流値Iを検出する。この電流値は、(T
on=0から)所定時間毎に加算され、I
adとして記憶される。尚、この電流値は、平均電流を求めるために算出しており、平均電流=(I
1+I
2+・・+I
Ton)/T
onで表される。次に、マイコン31は、温度検出素子29によって測定された温度を検出し、その最大値を保持する(ステップ68)。次に、マイコン31はトリガスイッチ5がOFFにされたか否かを判定し、OFFにされていなかったらステップ67に戻る。トリガスイッチ5がOFFにされたら、マイコン31は、更新されたトリガスイッチ5がオンされていた時間T
onから、
図3のデータのカテゴリーNo.4の該当するインターバル(間隔)毎の回数を1増やすことにより更新し(ステップ71)、ステップ68で検出されたI
adと時間T
onから平均電流Iad/Tonを求め(ステップ72)、その電流データの範囲に相当する回数(
図3のカテゴリーNo.6)を更新する(ステップ73)。次に、ステップ69で検出して保持した温度データの最大値から、マイコン31は
図3のデータのカテゴリーNo.5の該当する温度範囲の回数を1増やすことにより更新する(ステップ74)。最後に、検出されたトリガスイッチ5がON時間T
on、電流値Iad、温度の最大値のカウンタをリセットすることによりクリアしてステップ62に戻る(ステップ75)。
【0046】
以上のように、電動工具1を稼働させる度にマイコン31は各種データを取得して分類し、分類されたデータの積算値をEEPROM41に格納するように構成した。このようなEEPROM41へのデータの格納は、先端工具を駆動する作業にはなんら悪影響を与えないので、作業効率を低下させることなく作業履歴情報を取得して格納することができる。
【0047】
次に
図5のフローチャートを用いて本実施例に係る電動工具1から外部のPC50にEEPROM41の読み出し及び書き込みをする動作手順を説明する。
図5のフローチャートは、外部のPC50に含まれるマイクロプロセッサがコンピュータプログラムを実行し、電動工具1のマイコン31と通信しながら実行するものである。
図5のフローチャートを実行するためには、電動工具1からバッテリパックを取り外し、ケーブル6を引き出し、アダプタ8とUSBケーブル48を介して
図1のように接続しておくことが必要である。
【0048】
まず、PC50はEEPROM41から格納されたデータを読み出す(ステップ81)。読み出されるデータは
図3で説明した内容である。次に、PC50は表示部52(
図1参照)に、EEPROM41から取得されたデータを表示する(ステップ82)。次に、PC50は、取得されたデータを分析し(ステップ83)、分析の結果最適と思われる制御をリストアップしてPC50の画面に表示する(ステップ84)。この分析の方法は種々考えられるが、本実施例ではどのような分析方法を用いても良い。次に、分析者は表示された制御のうちいずれか一つの制御を選択する。PC50は、分析者によって制御の書き換えが選択されたかを判断し(ステップ85)、書き換えが選択された場合は、選択された制御の内容(更新ソフトウェア、更新パラメータ)をUSBケーブル48を介して電動工具1に送信することにより、EEPROM41に格納されている制御プログラム又は各種パラメータを更新する(ステップ86)。更新が完了したらPC50は、PCによる接続履歴(ログ情報)を更新して(ステップ88)、電動工具1との接続を解除して処理を終了する(ステップ88)。
【0049】
以上、説明したように本実施例によれば、分析者は作業者がどんな使い方をしているかを容易に掴むことが可能となり、電動工具1を使用する各々の顧客の作業情報を容易に入手することができる。また、作業者がどの動作モードをどのくらい、何回くらい使っているかを知ることができる。さらに、その作業情報に基づいた最適な制御、特に温度上昇、締め付けスピード、作業量の最適化を図ることができ、作業者にとって使いやすい電動工具に調整又は変更できる。この分析者による制御内容(更新ソフトウェア、更新パラメータ)の変更は、メインテナンスのために製造メーカに戻ってきた場合に実施することが好ましいが、ユーザ側で分析可能として、適宜制御内容を変更できるように構成しても良い。
【0050】
以上、本発明を示す実施例に基づき説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、本実施例では電動工具1のモータ2としてブラシレス直流モータを用いたが、これだけに限られずにその他のモータを用いた電動工具や動力工具であっても同様に適用できる。また、上述した実施例では作業情報をEEPROM41に格納していたが、着脱可能なフラッシュメモリを用いて、そのフラッシュメモリに格納するようにしても良い。その場合は、ケーブルを用いてPC50を接続するのではなく、不揮発メモリを電動工具から取り外してPC50のカードリーダに装着しても良い。さらに、EEPROM41に格納される情報は、上述した内容だけでなく必要に応じて様々なデータを格納するように構成しても良い。
【0051】
本実施例においては、バッテリによって駆動される電気モータを用いた電動工具を用いて説明したが、本発明は他の構成を取り得ることができる。例えば、エンジンを用いたエンジン工具において、その作業履歴をエンジン工具の外部へと出力できるように構成しても良い。また、このような動力工具として、空気動工具・ガスによって駆動されるガス工具を用いるようにしても良い。