(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
物品を収容する収容域の四隅に立設した支柱と、前記収容域の両側となる支柱から収容域に向けて突設した一対の腕木とを備え、前記物品が載置されたパレットを前記収容域の前方から前記収容域に入れ、前記パレットを前記一対の腕木に載置して支持するラックを適用対象とし、制振装置によって前記ラックの揺れを抑制するラックの制振構造であって、
前記制振装置は、下端部を前記一対の腕木に載置可能な寸法に構成し、
前記支柱の間には、互いの支柱を連結しかつ前記制振装置の上端部に固定される固定部材を設け、
前記制振装置を前記一対の腕木に載置した状態で前記腕木に固定するとともに、前記制振装置の上端部を前記固定部材に固定したことを特徴とするラックの制振構造。
前記制振装置と前記腕木との間、及び前記固定部材と前記支柱との間は、それぞれUボルトを用いたボルト接合で固定したことを特徴とする請求項1に記載のラックの制振構造。
【背景技術】
【0002】
物品を保管する倉庫には、物品が載置されたパレットを立体的に収容するラックを備えたラック倉庫がある。このラックは、物品を収容する収容域の四隅に立設した支柱と、収容域の両側となる支柱から収容域に向けて突設した一対の腕木とを備えている。このラックでは、パレットを一対の腕木に載置して支持している。またこのラックは、収容域を横方向に複数連ねるとともに、それぞれの収容域に対して一対の腕木を高さ方向に複数段設けることで、パレットの立体的な収容を可能にしている。
【0003】
この種のラック倉庫では、地震などでラックが水平方向に揺れると、ラック上部に収容されている物品が荷崩れまたは落下する恐れがある。物品が荷崩れまたは落下すると、物品の破損による損害や、復旧作業にともなう損害が発生する。このような損害は、特に、倉庫建屋内に複数のラックを並設しているラック倉庫で大きくなる。
【0004】
上記の損害を防ぐ方法として、制振装置をラックの最上部に設置し、地震などでラックの揺れた場合にその揺れを抑制する方法が近年提案されている。制振装置の設置方法の1つとして、ラックの上に設けた梁部材に制振装置を吊り下げて固定する方法がある(たとえば、特許文献1を参照。)。この設置方法は、制振装置を梁部材に固定するだけなので、既に業務が行われているラック倉庫におけるラックの制振対策としても有効である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記梁部材に制振装置を吊り下げて固定する作業は、ラックの上で行われる。しかしながら、既に業務が行われているラック倉庫では、ラックと倉庫建屋の天井との間隔が狭い場合もある。その場合、制振装置の固定作業を行うのに十分な高さの作業スペースを確保することが難しくなる等、制振装置をラックに設置する作業が難しくなる恐れがある。
【0007】
また、梁部材に制振装置を吊り下げて固定する場合、その作業は、制振装置を固定位置まで持ち上げた状態で行う。そのため、制振装置を固定位置に保持しておく手段が必要になる等、制振装置の設置に要するコストが増大する恐れがある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、制振装置をラックに設置する作業を容易に行えかつ設置コストを低減することが可能なラックの制振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係るラックの制振構造は、物品を収容する収容域の四隅に立設した支柱と、前記収容域の両側となる支柱から収容域に向けて突設した一対の腕木とを備え、前記物品が載置されたパレットを前記収容域の前方から前記収容域に入れ、前記パレットを前記一対の腕木に載置して支持するラックを適用対象とし、制振装置によって前記ラックの揺れを抑制するラックの制振構造であって、前記制振装置は、下端部を前記一対の腕木に載置可能な寸法に構成し、前記支柱の間には、互いの支柱を連結しかつ前記制振装置の上端部に固定される固定部材を設け、前記制振装置を前記一対の腕木に載置した状態で前記腕木に固定するとともに、前記制振装置の上端部を前記固定部材に固定したことを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2に係るラックの制振構造は、上記請求項1に係るラックの制振構造において、前記制振装置と前記腕木との間、及び前記固定部材と前記支柱との間は、それぞれUボルト等を用いたボルト接合で固定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るラックの制振構造によれば、制振装置を一対の腕木に載置した状態で腕木に固定するとともに、制振装置の上端部を固定部材に固定している。そのため、制振装置と腕木との固定作業、及び固定部材と支柱との固定作業を、ラック内で行うことができる。したがって、これらの固定作業を行うための作業スペースを容易に確保でき、制振装置を容易に設置することができる。
【0012】
また、これらの固定作業は、制振装置を一対の腕木に載置した状態で行うことができるので、制振装置を固定位置に保持しておくための手段を別途設ける必要がない。さらに、制振装置を一対の腕木に載置する作業は、パレットを一対の腕木に載置する作業と同じ要領で行うことができる。そのため、本発明に係るラック装置の制振構造は、制振装置の設置コストを低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るラックの制振構造の実施の形態を詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】
図1は、本発明に係るラックを備えるラック倉庫の概略構成を示す立面図である。
図2は、
図1に示したラック倉庫の側面図である。
【0016】
本実施の形態のラック倉庫1は、
図1及び
図2に示すように、ラック2とスタッカクレーン3とを備える。なお、
図1には1台のスタッカクレーン3のみを示しているが、
図1に示したラック倉庫1の場合、列方向に並んだ4台のスタッカクレーン3を備える。また、以下の説明における列方向、連方向及び高さ方向は、それぞれ
図1及び
図2に示した方向とする。
【0017】
ラック2は、物品が載置されたパレットを立体的に収容して物品を保管するものであり、複数の支柱4と、複数のラック梁5と、複数のブレース材6と、複数の腕木7とを備える。支柱4は、物品を収容する収容域の四隅となる位置に立設している。それぞれの支柱4は、所定の剛性を得られるようラック梁5及びブレース材6で隣接する支柱4と連結している。なお、
図1において、列方向に並んだ8基のラック2のうち右から5基分のラック2では、ブレース材6を省略している。すなわち、右から5基分のラック2も、左から3基分のラック2のようにブレース材6を備えている。
【0018】
腕木7は、収容域に収容したパレットを載せて支持する荷受材である。パレットは、収納域の同じ高さ位置であり、かつ連方向における両側となる支柱4から収容域に向けて突設した一対の腕木7に載せて支持する。
【0019】
本実施の形態のラック2では、
図2に示すように、収容域を連方向に複数連ねるとともに、それぞれの収容域に対して一対の腕木7を高さ方向に複数段設けることで、パレットの立体的な収容を可能にしている。
【0020】
また、列方向に並設した8基のラック2の上には、
図2に示すように、これらのラック2に渡した上部梁8が設けられている。上部梁8はそれぞれのラック2に固定されており、これによりラック2の水平剛性を高めている。
【0021】
さらに、ラック2における最上段の腕木7のうち所定の腕木7には、制振装置9を載置しており、その制振装置9の上には固定部材10を載置している。
【0022】
スタッカクレーン3は、パレットをラック2に収容する一方で、ラック2に収容されたパレットを取り出すものであり、荷台11と、昇降ガイドフレーム12と、レール13とを備える。荷台11は、パレットを載せるものであり、昇降ガイドフレーム12に沿って昇降する。荷台11には、ラック2との間でパレットの受け渡しを行うためのフォーク装置が設けられている。荷台11及び昇降ガイドフレーム12は、パレットの出し入れを行う面が対向した2基のラック2の間に配設され、連方向に延びるレール13上を走行する。
【0023】
本実施の形態におけるラック2及びスタッカクレーン3は、それぞれ周知の構成のいずれかであればよい。そのため、ラック2及びスタッカクレーン3に関するより詳細な構成及び動作の説明は省略する。
【0024】
次に、ラック2に収容された制振装置9及び固定部材10について、
図3及び
図4を参照しながら説明する。
【0025】
図3は、制振装置及び固定部材の概略構成を示す分解斜視図である。
図4は、
図1に示したラックに収容された制振装置及び固定部材の概略構成を示す立面図である。
図5は、
図4の右側面図である。
【0026】
制振装置9は、ラック2の水平方向の揺れを抑制するものであり、
図3に示すように、下部部材901a〜901dと、上部部材902a〜902dと、柱部材903と、制振機構904とを備える。
【0027】
下部部材901a〜901dは、制振機構904を保持する保持枠の下枠部分を構成する部材であり、一対の腕木7に載置可能な寸法に枠組みしている。下部部材901a,901bは、連方向に延在するH形鋼である。この下部部材901a,901bは、
図4及び
図5に示すように、一対の腕木7に渡すことが可能であり、かつ腕木7に設けたずれ防止金具16の間隔よりも短い寸法にしている。下部部材901c,901dは、列方向に延在する溝形鋼であり、腕木7の上方となる位置で下部部材901a,901bを連結している。なお、ずれ防止金具16は、
図4に示すように、物品14が載置されたパレット15の連方向のずれを防止するものである。
【0028】
上部部材902a〜902dは、制振機構904を保持する保持枠の上枠部分を構成する部材である。上部部材902a〜902dは、いずれもH形鋼であり、
図3に示すように、列方向に延在する上部部材902a,902bと連方向に延在する上部部材902c,902dとを枠組みしている。
【0029】
柱部材903は、制振機構904を保持する保持枠の下枠部分と上枠部分とを連結する部材である。柱部材903は、角形鋼管であり、下端を下部部材901aまたは901bに溶接し、上端を上部部材902aまたは902bに溶接している。
【0030】
制振機構904は、
図4及び
図5に示すように、下部部材901a〜901d、上部部材902a〜902d及び柱部材903で構成される保持枠に収容されている。この制振機構904は、TMD(Tuned Mass Damper)等の、ラック2が水平方向に揺れた場合に、その揺れを抑制するよう構成されたものである。制振機構904は、周知の構成のいずれかであればよい。そのため、制振機構904に関する詳細な構成及び動作の説明は省略する。
【0031】
この制振装置9は一対の腕木7に載置され、下部部材901a,901bと腕木7とが、Uボルト17を用いたボルト接合で固定される。
【0032】
一方、制振装置9の上に配設された固定部材10は、
図3に示すように、第1固定部材1001と、第2固定部材1002と、第3固定部材1003と、第4固定部材1004とを備える。
【0033】
第1固定部材1001及び第2固定部材1002は、
図3及び
図4に示すように、いずれも連方向に延在するH形鋼である。第1固定部材1001は、ラック2の前面側にある2本の支柱4を連結する。第2固定部材1002は、ラック2の後面側にある2本の支柱4を連結する。この第1固定部材1001及び第2固定部材1002は、
図5に示すように、フランジを支柱4に当接させた状態で、Uボルト18を用いたボルト接合により支柱4に固定される。
【0034】
第3固定部材1003及び第4固定部材1004は、
図3及び
図5に示すように、第1固定部材1001と第2固定部材1002とを連結するH形鋼である。第3固定部材1003は、フランジが制振装置9の上部部材902aに当接する向き及び位置で、第1固定部材1001及び第2固定部材1002を連結している。また、第3固定部材1003は、
図4に示すように、ボルト19を用いたボルト接合で制振装置9の上部部材902aに固定される。第4固定部材1004は、フランジが制振装置9の上部部材902bに当接する向き及び位置で、第1固定部材1001及び第2固定部材1002を連結している。この第4固定部材1004は、第3固定部材1003と同様、ボルト接合で制振装置9の上部部材902bに固定される。
【0035】
このように、本実施の形態の制振装置9は、ラック2の最上段にある腕木7に載置して支持するとともに、下端部(下部部材901a,901b)を腕木7に固定している。また、制振装置9の上には固定部材10を載置している。固定部材10は、第1固定部材1001及び第2固定部材1002をラック2の支柱4に固定しており、第3固定部材1003及び第4固定部材1004を制振装置9の上端部(上部部材902a,902b)に固定している。
【0036】
制振装置9が上記TMDのような共振現象を利用したものである場合、制振装置9がラック2に強固に固定されていないと、可動質量904aの振動をラック2に十分に伝えることができず制振効果が弱まる。これに対し、本実施の形態の制振装置9は、上述のように下端部及び上端部がラック2に固定されている。そのため、本実施の形態の制振装置9は、十分な制振効果を発揮できる。
【0037】
次に、制振装置9及び固定部材10をラック2に設置する手順の一例を簡単に説明する。
【0038】
制振装置9及び固定部材10をラック2に設置する場合、まず、スタッカクレーン3を用いて制振装置9をラック2の所定の腕木7に載置して支持させる。次に、腕木7で制振装置9を支持した状態で、Uボルト17を用いて制振装置9の下部部材901a,901bを腕木7に固定する。次に、制振装置9の上に固定部材10を載置し、ボルト19を用いて、制振装置9の上部部材902a,902bと、固定部材10の第3固定部材1003及び第4固定部材1004とを、それぞれ固定する。最後に、Uボルト18を用いて、固定部材10の第1固定部材1001及び第2固定部材1002をラック2の支柱4に固定する。
【0039】
このように、本実施の形態における制振装置9は、腕木7に載置した状態で、腕木7及びラック2の支柱4に固定される。制振装置9の固定に用いる腕木7及び固定部材10は、
図4及び
図5に示したように、どちらもラック2の頂上部に設けたラック梁5よりも下方にある。そのため、制振装置9を腕木7に固定する作業、制振装置9と固定部材10とを固定する作業、及び固定部材10をラック2の支柱4に固定する作業は、いずれもラック2内で行うことができる。したがって、ラック2と倉庫建屋の天井との間隔が狭い場合でも、制振装置9をラック2に設置する作業を行う作業スペースを十分に確保できる。
【0040】
また、制振装置9を設置する作業は、制振装置9を腕木7に載置した状態で行うことができるので、制振装置9を所定の固定位置に保持しておく手段が不要である。さらに制振装置9は、パレット15と同様にスタッカクレーン3で腕木7に載置することができる。そのため、制振装置9の設置に要するコストを低減できる。
【0041】
加えて、制振装置9及び固定部材10は、Uボルト17,18やボルト19を用いたボルト接合で固定している。すなわち、ラック2内における制振装置9及び固定部材10を固定する作業は、火を使わずに行うことができる。そのため、既に業務が行われているラック倉庫1のラック2に対して、業務を続けながら制振装置9を設置することもできる。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態で示したラック2の制振構造は、制振装置9をラック2に設置する作業を容易に行えかつ設置コストを低減できる。
【0043】
なお、制振装置9及び固定部材10は、
図3から
図5までに示した構成に限らず、適宜変更可能であることはもちろんである。
【0044】
図6は、固定部材の変形例を示す分解斜視図である。
【0045】
固定部材10は、制振装置9の上端部とラック2の支柱4とをボルト等で固定できればよい。そのため、固定部材10は、
図6に示すように、第5固定部材1005と、第6固定部材1006と、第7固定部材1007と、図示しない第8固定部材とで構成してもよい。
【0046】
第5固定部材1005及び第6固定部材1006は、いずれも連方向に延在するH形鋼である。この第5固定部材1005及び第6固定部材1006は、ボルト20を用いたボルト接合で、制振装置9の上端部(上部部材902a,902b)にそれぞれ固定される。
【0047】
第7固定部材1007は、列方向に並んだ2本の支柱4に渡して固定する山形鋼である。第7固定部材1007と前面側の支柱4との固定は、第1固定金具21aと、第2固定金具21bと、ボルト21cと、ナット21dとで行う。第1固定金具21a及び第2固定金具21cは、一方の辺が第7固定部材1007に固定されたアングルであり、他方の辺同士の間隔を支柱4の寸法と略一致させている。第1固定金具21a、支柱4及び第2固定金具21bには、ボルト21cを挿通させるボルト挿通孔を設けておく。また、第7固定部材1007と後面側の支柱4との固定は、Uボルト22aと、ナット22bとで行う。この第7固定部材1007を支柱4に固定する際には、第7固定部材1007のうち収容域に突出する側の辺の高さ位置を、制振装置9に固定した第5固定部材1005及び第6固定部材1006の下端の高さ位置と略一致させる。
【0048】
第5固定部材1005及び第6固定部材1006と第7固定部材1007との固定は、ボルト23aと、ナット23bとで行う。
【0049】
なお、第7固定部材1007は、制振装置9に固定した第5固定部材1005及び第6固定部材1006の上端に固定してもよい。