【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業 「ナノバイオ・インテグレーション研究拠点」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
KABILANA, K., et al,Holographic glucose sensors,Biosensors and Bioelectronics,2005年,Vol.20, No.8,p.1602-1610
【文献】
MATSUMOTO,A., et al,Glucose-Responsive Polymer Gel BearingPhenylborate Derivative as a Glucose-Sensing Moiety Operatingat the Physiological pH,Biomacromolecules,2004年,Vol.5, No.3,p.1038-1045
【文献】
YAN, J., et al ,The relationship among pKa, pH, and bindingconstants in the interactions between boronic acids and diols-itis not as simple as it appears,Tetrahedron,2004年,Vol.60,No.49,p.11205-11209
【文献】
KATAOKA, K., et al,Totally Synthetic Polymer Gels Responding to External Glucose Concentration: Their Preparation and Application to On−Off Regulation of Insulin Release,J. Am. Chem. Soc.,1998年,Vol.120, No.48,p.12694-12695
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。
【0024】
(1)本発明の糖応答性ゲルに含有させるフェニルボロン酸系単量体
本発明による糖応答性ゲルに含有させるフェニルボロン酸系単量体は、下記一般式(5)で表される。
【0026】
(RはH又はCH
3であり、Fは独立に存在し、nが1、2、3又は4のいずれかであり、R
1は2価の連結基を示す)
【0027】
R
1で表される2価の連結基としては、カルバモイル結合、アミド結合、アルキル結合、エーテル結合、エステル結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、スルホンアミド結合、ウレタン結合、スルホニル結合、イミン結合、ウレア結合、チオウレア結合等のうち少なくとも1又2以上の結合を含む連結基が挙げられる。
【0028】
このようにフェニルボロン酸系単量体は、フェニルボロン酸基のフェニル環上の水素が、単数又は複数のフッ素に置換されたフッ素化フェニルボロン酸基を有する。また、このフェニルボロン酸系単量体は、フェニル環に連結基R
1が結合し、不飽和結合している炭素が連結基R
1に結合されている。
【0029】
このようなフェニルボロン酸系単量体は、高い親水性を有しており、またフェニル環がフッ素化されていることにより、pKaを生体レベルの7.4以下に設定し得る。さらに、このフェニルボロン酸系単量体は、生体環境下での糖認識能を獲得するのみならず、不飽和結合により後述するゲル化剤や、架橋剤との共重合が可能となり、糖応答性ゲルとなり得る。
【0030】
因みに、上記一般式(5)で表したフェニルボロン酸系単量体において、nを1として、フェニル環上の1つの水素がフッ素に置換されているとき、F及びB(OH)
2の導入箇所は、オルト、メタ、パラのいずれでも良い。
【0031】
ここで、連結基R
1としてカルバモイル基を適用した場合、上述した一般式(5)は下記一般式(6)で表される(mは0又は1以上の整数である)。
【0033】
このようにフェニルボロン酸系単量体は、フェニルボロン酸基のフェニル環上の水素が、単数又は複数のフッ素に置換されたフッ素化フェニルボロン酸基を有し、当該フェニル環にアミド基の炭素が結合した構造を有する。
【0034】
また、フェニルボロン酸系単量体は、mが0のとき、アミド基の窒素に、他のアミド基の窒素が直接結合し、当該他のアミド基部分を含んだアクリルアミドまたはメタクリルアミド構造を有する。一方、フェニルボロン酸系単量体は、mが1以上のとき、アミド基の窒素に、単数又は複数の炭素を介して他のアミド基の窒素が結合し、当該他のアミド基部分を含んだアクリルアミドまたはメタクリルアミド構造を有する。なお、mを1以上としたときのフェニルボロン酸系単量体は、mを0としたときのフェニルボロン酸系単量体に比べて、pKaを低くすることができる。そして、このようなフェニルボロン酸系単量体であっても、上述した一般式(5)で表されるフェニルボロン酸系単量体と同様の効果を得ることができる。
【0035】
上記一般式(6)の一例としては、nを1とし、フェニルボロン酸基のフェニル環上の1つの水素をフッ素に置換し、mを2(スペーサとなる炭素が2つ)であるフェニルボロン酸系単量体があり、下記一般式(7)で示される(RはH又はCH
3である)。
【0037】
(2)フェニルボロン酸系重合体
ここで、上記一般式(5)で表したフェニルボロン酸系単量体同士が重合したフェニルボロン酸系重合体は、下記一般式(8)で表される。
【0039】
(RはH又はCH
3であり、Fは独立に存在し、nが1、2、3又は4のいずれかであり、lは2以上の整数であり、R
1は2価の連結基を示す)
また、2価の連結基の一例としてカルバモイル結合を含んだ連結基を適用した場合、上述した一般式(8)は下記一般式(9)で表される(mは0又は1以上の整数である)。
【0041】
また、上記一般式(7)で表されるフェニルボロン酸系単量体同士が重合することで、下記一般式(10)で示されるフェニルボロン酸系重合体が得られる(RはH又はCH
3であり、lは2以上の整数である)。
【0043】
(3)フェニルボロン酸系単量体の製造方法
ここで、上記一般式(7)で示されるフェニルボロン酸系単量体は、
図1に示すような合成スキームにより製造される。先ず、
図1に示す一般式(11)で示されるカルボキシフッ素フェニルボロン酸に、塩化チオニル(Thionyl chloride)を添加して還流により反応させ、一般式(12)で示される酸クロリド化合物を合成する。
【0044】
次いで、上記一般式(12)で示される酸クロリド化合物をテトラヒドフラン(THF)に溶解させ、塩基性触媒としてトリエチルアミン(TEA)を加えた後、下記一般式(13)で表される化合物を添加して反応させ、一般式(14)(
図1)で示される中間体を合成する。
【0046】
次いで、水素ガスの存在下、一般式(14)で示される中間体を、パラジウム炭素触媒(Pd/C)を用いて還元反応させ、一般式(15)(
図1)で表される中間体を合成する。次いで、ショッテン・バウマン法により、一般式(15)で示される中間体と塩化アクリル(Acryloyl Chloride)を混合することで、一般式(16)(
図1)で示されるフェニルボロン酸系単量体を合成することができる。
【0047】
(4)フェニルボロン酸系単量体の検証
(4−1)本発明の糖応答性ゲルに含有させるフェニルボロン酸系単量体
次に、
図1に示した合成スキームに従って、本発明の糖応答性ゲルに含有させるフェニルボロン酸系単量体を合成した。具体的には、フェニルボロン酸系単量体の一例である4-(2-アクリルアミドエチルカルバモイル)-3-フルオロフェニルボロン酸(以下、これをサンプル1と呼ぶ)を、以下のようにして合成した。
【0048】
先ず、27mmolのカルボキシフッ素フェニルボロン酸(一般式(11))に、50mlの塩化チオニルを加え、90℃(オイルバス)の条件で還流し、溶液を生成した。次いで、反応後余剰の塩化チオニルを留去した後、テトラヒドフラン(THF)90mLに溶解し、そこに上述した一般式(13)で表される化合物を40mmol加え、さらに氷冷下トリエチルアミン(TEA)200mmolを加えて、室温で一昼夜攪拌した。
【0049】
これにより生成された溶液に希塩酸飽和食塩水を加えて洗浄・分液操作を行い、THFを留去した。それをエタノール400mLに溶解し、10%パラジウム炭素触媒1gを添加し、40℃の条件で水素還元した後、パラジウム炭素触媒を濾過し、これにより得られた濾液から一般式(15)(
図1)で表される中間体を得た。次に、この得られた中間体に、50mmolの塩化アクリロイルと、150mlの炭酸塩緩衝液(100mM、pH10)とを添加し、攪拌することにより実施例となるサンプル1を合成した。
【0050】
(4−2)第1比較例及び第2比較例
次に、第1比較例として、
図2に示すような一般式(17)で表される3-アクリルアミドフェニルボロン酸(和光純薬、以下、これを比較サンプル1と呼ぶ)を用意した。
【0051】
次に、第2比較例として、
図2に示すような一般式(18)で表される4-(2-アクリルアミドエチルカルバモイル)フェニルボロン酸(以下、これを比較サンプル2と呼ぶ)を用意した。この比較サンプル2は、上記サンプル1で用いたカルボキシフッ素フェニルボロン酸の代わりにカルボキシフェニルボロン酸を出発原料とし、以後、上述したサンプル1と全く同様の操作を行うことで調製した。
【0052】
(4−3)pKaの測定
次に、上述したサンプル1、比較サンプル1及び比較サンプル2に対し、種々グルコース濃度条件(0g/L、1g/L、3g/L、5g/L、10g/L)において、酸塩基滴定を行うことにより、グルコース濃度と各みかけのpKa変化の関係を導出した。
【0053】
その結果を
図2に示した。本発明の糖応答性ゲルに含有させるフェニルボロン酸系単量体(サンプル1)を使用した試料a1〜a5は、
図2に示すように、各グルコース濃度全てにおいて、pKaが生体レベルである7.4よりも低く、かつグルコース濃度が高くなるに従ってpKaの下降する程度が、従来の比較サンプル1及び比較サンプル2を使用した試料b1〜b5、c1〜c5よりも格段に優れているということが確認できた。
【0054】
(5)本発明による糖応答性ゲル
次に、上述した「(1)本発明の糖応答性ゲルに含有させるフェニルボロン酸系単量体
」にて説明したフェニルボロン酸系単量体や、「(2)フェニルボロン酸系重合体」にて説明したフェニルボロン酸系重合体を含有した本発明の糖応答性ゲルについて説明する。このような糖応答性ゲルは、生体内において生体機能に有毒作用や有害作用が生じない性質(生体適合性)でなるゲル化剤と、上述した一般式(5)に示すフェニルボロン酸系単量体と、架橋剤とからなるゲル組成物から作製され得る。
【0055】
そして、本発明の糖応答性ゲルは次にようにして製造できる、先ず始めに、ゲルの主鎖となるゲル化剤と、上述した一般式(5)に示すフェニルボロン酸系単量体と、架橋剤とを、後述する所定の仕込みモル比で調整してゲル組成物を作製し、これを混合し反応させることによりゲル状のゲル本体を製造する。次いで、インスリン等の所定の薬剤が所定濃度で含まれたリン酸緩衝水溶液中に、ゲル本体を浸すことによりゲル本体内に薬剤を拡散させる。次いで、リン酸緩衝水溶液から取り出したゲル本体を、塩酸中に所定時間浸すことで、ゲル本体の表面に薄い脱水収縮層(これを、スキン層とも呼ぶ)を形成することにより、薬剤を内包(ローディング)させた本発明の糖応答性ゲルを製造できる。
【0056】
ここで、ゲル組成物は、ゲル化剤と、上述した一般式(5)に示すフェニルボロン酸系単量体と、架橋剤との仕込みモル比(ゲル化剤/フェニルボロン酸系単量体/架橋剤)が例えば92.5/7.5/1に調整され得る。因みに、この実施の形態に場合、ゲル化剤/フェニルボロン酸系単量体/架橋剤の仕込みモル比を92.5/7.5/1とした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ゲル化剤、フェニルボロン酸系単量体及び架橋剤を含むゲル組成物によって形成できるゲル本体が、グルコース濃度に応答して膨張又は収縮し得るとともに、pKa7.4以下の特性を維持でき、ゲル状に形成することができれば、ゲル化剤/フェニルボロン酸系単量体/架橋剤の仕込みモル比を、その他種々の数値に調合するようにしてもよい。
【0057】
ここで、ゲル化剤としては、生体適合性を有し、かつゲル化し得る生体適合性材料であればよく、例えば生体適合性のあるアクリルアミド系が挙げられる。具体的には、N-イソプロピルメタクリルアミド(NIPMAAm)、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミドが挙げられる。
【0058】
また、架橋剤としては、同じく生体適合性を有し、モノマーを架橋できる物質であればよく、例えばN,N'-メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレート、N,N'-メチレンビスメタクリルアミドその他種々の架橋剤が挙げられる。
【0059】
また、ここで薬剤としては、例えばインスリンなどのペプチドホルモン、タンパク、抗体、核酸、種々合成系の薬剤などが挙げられる。
【0060】
(6)糖応答性ゲルの各種検証
(6−1)グルコース濃度に応じた糖応答性ゲルの状態変化
次に、
図3に示すように、ゲル化剤として一般式(19)で表すN-イソプロピルメタクリルアミド(NIPMAAm)と、実施例である本発明のフェニルボロン酸系単量体のサンプル1(FPBA)と、架橋剤として一般式(20)で表すN,N'-メチレンビスアクリルアミドとを仕込みモル比92.5/7.5/1で調合し、円柱形状(反応溶媒であるジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide:DMSO中)での直径が1mm)からなるゲル状のゲル本体を生成した。次いで、蛍光色素のFITC(fluorescein isothiocyanate)を修飾させた(ウシ由来)インスリン(以下、単にFITC修飾インスリンと呼ぶ)を0.5mg/1mLの濃度で含むpH7.4のリン酸緩衝水溶液(155mM NaCl)中に、ゲル本体を浸して4℃で24時間保持し、ゲル本体にFITC修飾インスリンを拡散させた。
【0061】
次いで、ゲル本体をリン酸緩衝水溶液から取り出し、これを37℃の0.01M塩酸中に1時間浸すことで、ゲル本体の表面に薄い脱水収縮層(スキン層)を形成させて、ゲル本体にFITC修飾インスリンを内包(ローディング)させた糖応答性ゲルを製造した。
【0062】
次いで、pH7.4、イオン強度0.15、グルコース濃度を0.5g/L、1g/L、3g/L、5g/L、10g/Lにそれぞれ調整したリン酸緩衝水溶液(155mM NaCl)中に、この糖応答性ゲルを浸し、さらに各グルコース濃度が異なるリン酸緩衝水溶液をそれぞれ34℃〜45℃まで温度を調整した。そして、各グルコース濃度における所定温度での各糖応答性ゲルの膨潤度(d/do)
3をそれぞれ測定していった。その結果、
図3に示すような計測結果が得られた。
【0063】
因みに、ここでの膨潤度は、グルコース濃度が0g/Lのリン酸緩衝水溶液における各温度での糖応答性ゲルの直径をdoとし、所定のグルコース濃度としたリン酸緩衝水溶液における各温度での糖応答性ゲルの直径をdとし、各温度毎にこれらd及びdoの比を取り、これを3乗した値とした。そして、膨潤度が1よりも大きい値の場合には、糖応答性ゲルが膨潤したことを意味し、膨潤度が1よりも小さい値の場合には、糖応答性ゲルが収縮したことを意味する。
【0064】
ここでは、グルコース濃度が1g/Lのリン酸緩衝水溶液と、グルコース濃度が5g/Lのリン酸緩衝水溶液にそれぞれ浸した糖応答性ゲルについて、温度37℃としたときにおける状態を光学顕微鏡で撮像したところ、
図3に示すように、グルコース濃度が高いほど膨潤することを示す写真が得られた。
【0065】
また、
図3に示すグラフからも、この糖応答性ゲルは、一般的な生体温度(35℃〜37℃)付近で、グルコース濃度が高くなるほど、大きく膨潤することが確認できた。これにより本発明の糖応答性ゲルは、生体温度下において、グルコース濃度の高低変化に応じ、外郭形状が変化し、膨張又は収縮し得ることが確認できた。
【0066】
(6−2)グルコース濃度変化に応じたインスリン放出制御
ここでは、上述した「(6−1)グルコース濃度に応じた糖応答性ゲルの状態変化」にて作製した糖応答性ゲル(ゲル本体の表面に薄い脱水収縮層(スキン層)を形成させて、ゲル本体にFITC修飾インスリンを内包(ローディング)させた糖応答性ゲル)を用いて、グルコース濃度変化に応じたインスリン放出制御について検証試験を行った。
【0067】
このようなインスリン放出制御の検証試験は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて行った。具体的には、移動相(溶媒)にpH7.4のリン酸緩衝水溶液(155mM NaCl)を用い、グルコース濃度が1g/Lのリン酸緩衝水溶液をポンプ1に充填するとともに、グルコース濃度が5g/Lのリン酸緩衝水溶液をポンプ2に充填し、これらの混合比を連続的に変化又は保持させながら1mL/分の流速においてHPLCカラム内のグルコース濃度の調整を行った。
【0068】
そして、FITC修飾インスリンを脱水収縮層内に内包(ローディング)させた糖応答性ゲルを、1g/Lグルコース濃度のリン酸緩衝水溶液で満たしたHPLCカラム内に封入してHPLC流路系に設置し、上記流速(1mL/分)、37℃において24時間安定化させた。
【0069】
次いで、
図4(A)に示すように、HPLCカラム内におけるリン酸緩衝水溶液のグルコース濃度が1g/Lから5g/L、5g/Lから1g/Lに所定間隔で繰り返し変化するようにポンプ1及びポンプ2を制御し、そのとき糖応答性ゲルから放出されるFITC修飾インスリンの蛍光強度(励起、蛍光波長はそれぞれ495nm及び520nm)を測定した。なお、
図4(A)の下段には、HPLCカラムを流れたリン酸緩衝水溶液のグルコース濃度を示しているが、このグルコース濃度は、予めキャリブレーションされたリン酸緩衝水溶液の屈折率変化から求めた実測値を示している。
【0070】
このように、pH7.4、温度37℃としたリン酸緩衝水溶液のグルコース濃度を変化させ、この際に、糖応答性ゲルから放出されるFITC修飾インスリンの量を、蛍光強度の変化を基に観測したところ、正常血糖値とされるグルコース濃度が1g/Lでは、蛍光強度が弱く、糖応答性ゲルからのFITC修飾インスリンの放出が抑制されていることが確認できた。これに対して、グルコース濃度が5g/Lになると、蛍光強度が急激に高くなり、FITC修飾インスリンが糖応答性ゲルから放出されていることが確認できた。
【0071】
また、グルコース濃度の立ち上がりタイミング及び蛍光強度の立ち上がりタイミングと、グルコース濃度の立ち下がりタイミング及び蛍光強度の立ち下がりタイミングとについて、さらに詳細に検証したところ、
図4(B)に示すような結果が得られた。
図4(B)に示すように、蛍光強度は、グルコース濃度を上げたときから、急激に強くなり、グルコース濃度を上げた状態で一定に維持すると、次第に強くなってゆき、グルコース濃度を下げ始めたときに、蛍光強度が最大となり、その後次第に弱くなってゆくことが確認できた。また、グルコース濃度変化のタイミングに同期した上記スキン層形成によるものと考えられるスパイクも観測されている。
【0072】
このことから、糖応答性ゲルは、リン酸緩衝水溶液中のグルコース濃度が上がると、これとほぼ同時にFITC修飾インスリンを急激に放出し始め、グルコース濃度が高い状態のまま一定に維持されると、FITC修飾インスリンを放出し続けることが分かった。また、糖応答性ゲルでは、グルコース濃度を下げ始めたときに、FITC修飾インスリンの放出量が最大になり、グルコース濃度が下がり始めると、これに追従してFITC修飾インスリンの放出量も次第に減ってゆくことが分かった。さらに、糖応答性ゲルでは、グルコース濃度の高低変化の繰り返しにより蛍光強度のピークが低くなっていることから、内包したFITC修飾インスリンが減っていることが分かる。
【0073】
次に、グルコース濃度が2g/Lのリン酸緩衝水溶液を新たにポンプ2に充填し、混合比を連続的に変化又は保持させながら1mL/分の流速においてHPLCカラム内のグルコース濃度の調整を行った。実際上、
図5(A)に示すように、HPLCカラム内におけるリン酸緩衝水溶液のグルコース濃度が1g/Lから2g/L、2g/Lから1g/Lに所定間隔で繰り返し変化するようにポンプ1及びポンプ2を制御し、上述と同様に、pH7.4、温度37℃としたリン酸緩衝水溶液中で、糖応答性ゲルから放出されるFITC修飾インスリンの蛍光強度を測定した。ここでグルコース濃度1g/Lは正常血糖値に相当し、2g/Lは糖尿病診断の基準値に該当する。
【0074】
この場合でも、蛍光強度の高低から糖応答性ゲルは、リン酸緩衝水溶液のグルコース濃度が上がると、これに追従してFITC修飾インスリンを放出し始め、グルコース濃度が下がると、これに追従してFITC修飾インスリンの放出量が次第に減ってゆくことが分かった。また、
図4(A)及び
図5(A)に示す蛍光強度のピークから、グルコース濃度が高いほど、単位時間当たりのFITC修飾インスリンの放出量が増えることが分かった。
【0075】
このことから、糖応答性ゲルでは、正常血糖値とされるグルコース濃度1g/Lのとき、インスリンが全く放出されないのに対し、糖尿病診断時の閾値となるグルコース濃度2g/Lのとき、インスリンが放出されることが確認でき、グルコース濃度に応答した自律的なインスリン投与が実現できることが分かる。
【0076】
次に、
図5(B)に示すように、HPLCカラム内におけるリン酸緩衝水溶液のグルコース濃度を1g/Lから2g/L、2g/Lから1g/Lに所定間隔で緩やかな立ち上がり及び立ち下りで繰り返し変化するようにポンプ1及びポンプ2を制御し、上述と同様に、pH7.4、温度37℃としたリン酸緩衝水溶液中で、糖応答性ゲルから放出されるFITC修飾インスリンの蛍光強度を測定した。この場合でも、グルコース濃度の緩やかな立ち上がりに追従して、FITC修飾インスリンの放出量も増えてゆき、一方、グルコース濃度の緩やかな立ち下がりに追従して、FITC修飾インスリンの放出量も少なくなることが確認できた。
【0077】
また、グルコース濃度が3g/Lのリン酸緩衝水溶液を新たにポンプ2に充填し、混合比を連続的に変化又は保持させながら1mL/分の流速においてHPLCカラム内のグルコース濃度の調整を行った。実際上、
図5(C)に示すように、HPLCカラム内におけるリン酸緩衝水溶液のグルコース濃度が1g/Lから3g/L、3g/Lから1g/Lに所定間隔で繰り返し変化するようにポンプ1及びポンプ2を制御し、上述と同様に、pH7.4、温度37℃としたリン酸緩衝水溶液中で、糖応答性ゲルから放出されるFITC修飾インスリンの蛍光強度を測定した。
【0078】
この場合でも、グルコース濃度の急激な立ち上がりに追従して、FITC修飾インスリンの放出量が多くなり、一方、グルコース濃度の急激な立ち下がりに追従して、FITC修飾インスリンの放出量が少なくなることが確認できた。また、グルコース濃度を高血糖値状態にある3g/Lとした際には、グルコース濃度が2g/Lのときに比べて、単位時間当たりのインスリンの放出量が2μgから20μgとなり、およそ10倍に増えたことが確認できた。
【0079】
以上、当該ゲルを用いたインスリン放出制御においては、可逆的なスキン層形成が重要な役目を果たすものと考えられるが、これをより直接的に観測するために次のような実験を行った。pH7.4、温度37℃、グルコース濃度を2g/Lに調整したリン酸緩衝水溶液に、円柱形状に形成した糖応答性ゲルを浸し、グルコース濃度を2g/Lから1g/Lに下げ、
図6に示すように、5分後、10分後、30分後、3時間後、24時間後の状態を観察した(ステップSP1及びステップSP2)。なお、
図6は、上段に糖応答性ゲル5の透過光画像を示し、下段に糖応答性ゲル5から発する蛍光画像を現した写真を示す。
【0080】
因みに、糖応答性ゲルのゲル本体に拡散させたFITC修飾インスリンにおいて、蛍光プローブ分子としては8-アニリノ-1-ナフタレンスルホン酸を用いた。この試薬は、局所環境における誘電率変化に応じて蛍光強度を著しく変化させる性質を持つものである。すなわち、スキン層が形成された後にもたらされる低誘電率環境を蛍光強の増加として可視化することができる。
【0081】
図6に示すような結果から、糖応答性ゲル5は、グルコース濃度を2g/Lから1g/Lに下げ時間が経過すると、その表面において蛍光強度が次第に強くなってゆき、ゲル表面にスキン層が形成されていく様子が観測された。
【0082】
また、これとは別に、pH7.4、温度37℃、グルコース濃度を2g/Lに調整したリン酸緩衝水溶液に、円柱形状に形成した糖応答性ゲル5を浸して、
図6に示すように、当該リン酸緩衝水溶液のグルコース濃度を2g/Lから1g/Lに下げ(ステップSP1)、30分経過後にグルコース濃度を1g/Lから再び2g/Lに戻し、35分後、60分後、70分後の状態を観察した(ステップSP3)。
【0083】
図6に示すような結果から、糖応答性ゲル5は、グルコース濃度を1g/Lに下げると、その表面における蛍光強度が次第に強くなってゆき、ゲル表面にスキン層が形成されることが確認できたが、グルコース濃度を再び2g/Lに上げると、その表面における蛍光強度が次第に弱くなってゆき、ゲル表面のスキン層が迅速に消失することが確認できた。
【0084】
(7)作用及び効果
以上の構成において、糖応答性ゲルでは、上記一般式(5)に表すように、フェニルボロン酸基におけるフェニル環上の水素が、単数又は複数のフッ素に置換されたフッ素化フェニルボロン酸基を有するフェニルボロン酸系単量体を含有していることから、pKaを生体レベルの7.4以下に設定できる。
【0085】
また、糖応答性ゲルでは、フェニルボロン酸系単量体の不飽和結合によりゲル化剤と共重合してゲル本体を形成し、当該ゲル本体にインスリンを拡散させるとともに、ゲル本体の表面を脱水収縮層で取り囲む構成とした。これにより糖応答性ゲルでは、pKa7.4以下、温度35℃〜40℃の生体条件下、グルコース濃度が高くなると、これに応じてゲル本体が膨張して脱水収縮層が消失し、ゲル本体内のインスリンを外部へ放出させることができる。
【0086】
一方、糖応答性ゲルでは、この状態からグルコース濃度が再び低くなると、膨張していたゲル本体が収縮してゲル本体の表面全体に再び脱水収縮層(スキン層)が形成され、当該脱水収縮層によりゲル本体内のインスリンが外部へ放出されることを抑制できる。
【0087】
従って、本発明の糖応答性ゲルでは、グルコース濃度に応答してインスリンを自律的に放出させることができ、かくして、従来よりも生体環境下での使用に適したpKaを有し、自律的なインスリン投与を行うことができる。
【0088】
(8)第1の実施の形態によるインスリン投与デバイス
次に、上述した糖応答性ゲルを利用したインスリン投与デバイスについて説明する。
図7において、10は第1の実施の形態によるインスリン投与デバイスを示し、薬剤投与対象としての生体の所定部位内に埋め込まれる移植方式が採用され得る。実際上、このインスリン投与デバイス10は、インスリン投与制御部11が患者の体内に埋め込まれ、必要に応じて患者の体外から供給手段12を介して当該インスリン投与制御部11に対しインスリンが供給され得るようになされている。
【0089】
インスリン投与制御部11は、糖応答性ゲル13と、この糖応答性ゲル13の表面全体を覆うように形成された被覆部14とから構成されており、糖応答性ゲル13にチューブ状の供給手段12が接続され、必要に応じて外部から糖応答性ゲル13にインスリンが供給され得る。糖応答性ゲル13は、上述した「(4)フェニルボロン酸系単量体を含有させた糖応答性ゲル」であり、インスリンが拡散されたゲル本体と、このゲル本体を被覆する脱水収縮層とで構成されている。これにより、糖応答性ゲル13は、患者のグルコース濃度が高くなり血糖値が上がると、グルコースと反応してグルコース濃度に応じたインスリンが内部のゲル本体から放出し得るようになされている。
【0090】
糖応答性ゲル13全体を覆う放出手段としての被覆部14は、例えばポリエチレングリコース等のような生体適合性を有し、かつグルコースやインスリンを透過可能な生体適合性材料から形成されている。この被覆部14は、糖応答性ゲル13を被覆することにより、外力によりゲル状の糖応答性ゲル13が生体内で破損して拡散することを防止し得るようになされている。
【0091】
以上の構成において、インスリン投与デバイス10は、上記一般式(5)に表すフェニルボロン酸系単量体を含有した糖応答性ゲル13を備えたインスリン投与制御部11が、患者の体内に埋め込まれるとともに、供給手段12を体外に引き出すように移植される。
【0092】
これによりインスリン投与デバイス10では、薬剤投与対象となる患者のグルコース濃度が高くなると、これに応答して内部の糖応答性ゲル13からインスリンを放出させることができ、また当該グルコース濃度が低くなると、これに応答して糖応答性ゲル13からのインスリンの放出を抑制させることができるので、グルコース濃度に応答した自律的なインスリン投与を行うことができる。
【0093】
また、このインスリン投与デバイス10では、インスリン投与制御部11の糖応答性ゲル13に供給手段12が接続されており、体内に埋め込まれた糖応答性ゲル13に対し供給手段12からインスリンを供給することができる。これによりインスリン投与デバイス10では、仮に糖応答性ゲル13からインスリンが放出されて、糖応答性ゲル13にインスリンが不足した場合であっても、体内からインスリン投与制御部11を取り出すことなく、インスリンの補充を外部から行うことができ、長期的に使用することができる。
【0094】
(9)第2の実施の形態によるインスリン投与デバイス
図8において、20は第2の実施の形態によるインスリン投与デバイスを示し、このインスリン投与デバイス20は、生体の皮膚に留置針22を刺して生体外部からインスリンを供給し得る留置針方式を採用し得る。実際上、このインスリン投与デバイス20は、留置針22と、この留置針22に一体形成され、かつインスリンが充填されたインスリン充填部21と、インスリン充填部21に接続された供給手段12とから構成され、上述した「(4)フェニルボロン酸系単量体を含有させた糖応答性ゲル」が留置針22の内部空間に充填されている。
【0095】
留置針22は、先端が針状に形成された円錐形状からなり、先端を患者の皮膚に刺すことで、内部空間に糖応答性ゲル23を留めたまま、この糖応答性ゲル23に患者の血液を接触させ得る。これにより、糖応答性ゲル23は、血液中のグルコース濃度に応じて、ゲル本体からインスリンを放出し、当該インスリンを留置針22内から患者の体内に投与し得るようになされている。
【0096】
なお、この実施の形態の場合、留置針22の円錐形状でなる微小内部空間に糖応答性ゲル23が充填されている場合について述べたが、本発明はこれに限らず、留置針22が患者の皮膚に刺されることで、留置針22内の糖応答性ゲル23に対して血液を確実に接触させ、血液中のグルコース濃度に応じて、ゲル本体からインスリンを放出させることができれば、留置針22のその他種々の領域に糖応答性ゲル23を充填させるようにしてもよい。
【0097】
また、留置針22は、根元部側の内部がインスリン充填部21の内部と連通し、糖応答性ゲル23にインスリン充填部21のインスリンが供給可能に構成されている。これにより、糖応答性ゲル23は、留置針22の微小空間内に充填されていても、インスリンを内包した状態を維持し得るようになされている。
【0098】
なお、インスリン充填部21は、供給手段12を介して内部空間にインスリンが充填され、留置針22内の糖応答性ゲル23に対してインスリンを供給し得る。これにより、インスリン投与デバイス20では、仮に糖応答性ゲル23からインスリンが放出されても、インスリン充填部21から糖応答性ゲル23にインスリンを常に補充させることができる。
【0099】
以上の構成において、インスリン投与デバイス20は、上記一般式(5)に表すフェニルボロン酸系単量体を含有した糖応答性ゲル23を留置針22内に設け、当該留置針22の針先を患者の皮膚に刺すことにより留置させ、糖応答性ゲル23に患者の血液を接触させる。
【0100】
これによりインスリン投与デバイス20では、患者のグルコース濃度が高くなると、これに応答して留置針22内の糖応答性ゲル23からインスリンを放出させることができ、また当該グルコース濃度が低くなると、これに応答して糖応答性ゲル23からのインスリンの放出を抑制させることができるので、グルコース濃度に応答した自律的なインスリン投与を行うことができる。
【0101】
(10)第3の実施の形態によるインスリン投与デバイス
図9において、30は、第3の実施の形態によるインスリン投与デバイスを示し、留置針33内に逆止弁34が設けられた逆止弁付留置針32と、逆止弁付留置針32の根元側に一体形成されたポンプ機能付インスリン充填部31と、ポンプ機能付インスリン充填部31のインスリン充填領域31aにインスリンを供給する供給手段12と、ポンプ機能付インスリン充填部31のポンプ領域31bに患者の血液を導入させる導入手段36とから構成されている。
【0102】
逆止弁付留置針32は、円錐形状に形成された留置針33の内部に設けられた逆止弁34によって、根元側のポンプ機能付インスリン充填部31から先端側へ所定の圧力が加わったときにのみ、インスリン充填領域31aのインスリンを先端側に流し、先端側から根元側へ液体が流れることが防止されている。
【0103】
ポンプ機能付インスリン充填部31の内部は、インスリンが充填されるインスリン充填領域31aと、血液が供給されるポンプ領域31bとが板状の仕切り部40によって仕切られている。ポンプ機能付インスリン充填部31のインスリン充填領域31aには、チューブからなる供給手段12によりインスリンが充填され得る。一方、ポンプ機能付インスリン充填部31のポンプ領域31bには、端部と仕切り部40とに当接するように柱状の糖応答性ゲル41が配置されおり、導入手段36によって患者の血液が供給され、当該血液が糖応答性ゲル41に接触し得るようになされている。
【0104】
ここで、糖応答性ゲル41は、上述した「(4)フェニルボロン酸系単量体を含有させた糖応答性ゲル」と同様に、一般式(5)で表されるフェニルボロン酸系単量体を含有したゲル本体から構成されている。但し、この実施の形態の場合、糖応答性ゲル41は、上述した実施の形態と異なり、ゲル本体にインスリンが拡散されておらず、かつゲル本体の表面に脱水収縮層が形成されていない。すなわち、この糖応答性ゲル41は、グルコース濃度に応答してもインスリンを放出することなく、単に膨張又は収縮し得る構成を有している。
【0105】
ポンプ領域31bに接続される導入手段36は、先端に設けられた留置針37の針先が患者の皮膚に刺され、当該留置針37からの患者の血液がチューブ38を経由させてポンプ機能付インスリン充填部31のポンプ領域31bに導入させ得るようになされている。
【0106】
これにより、ポンプ機能付インスリン充填部31は、ポンプ領域31bに設けた糖応答性ゲル41が血液と接触することで、血液中のグルコース濃度に応答して糖応答性ゲル41が膨張又は収縮し得るようになされている。これにより、このポンプ機能付インスリン充填部31は、例えば血液中のグルコース濃度が高くなると、糖応答性ゲル41がグルコース濃度に応答して膨張し、糖応答性ゲル41により仕切り部40が押圧されることで移動し、インスリン充填領域41aを小さくさせ得る。これによりポンプ機能付インスリン充填部31は、インスリン充填領域31a内のインスリンを逆止弁付留置針32に供給し、当該逆止弁付留置針32から患者の体内にインスリンを投与し得る。
【0107】
これに対して、ポンプ機能付インスリン充填部31は、例えば血液中のグルコース濃度が低くなると、糖応答性ゲル41がグルコース濃度に応答して収縮し、糖応答性ゲル41による仕切り部40の押圧が停止して、インスリン充填領域31a内のインスリンが逆止弁付留置針32から患者の体内へ投与されることが中止され得る。
【0108】
以上の構成において、インスリン投与デバイス30は、上記一般式(5)に表すフェニルボロン酸系単量体を含有した糖応答性ゲル41を、ポンプ機能付インスリン充填部31のポンプ領域31bに設け、逆止弁付留置針32の針先と、留置針37の針先とを患者の皮膚に刺して留置させる。また、インスリン投与デバイス30では、導入手段36によって、患者の血液をポンプ機能付インスリン充填部31のポンプ領域31bまで導き、糖応答性ゲル41に血液を接触させる。
【0109】
これにより、インスリン投与デバイス30では、患者のグルコース濃度が高くなると、これに応答してポンプ領域31b内の糖応答性ゲル41が膨張し、この膨張力により仕切り部40をインスリン充填領域31a側に移動させ、インスリン充填領域31a内のインスリンを逆止弁付留置針32から体内に放出させることができる。また、このインスリン投与デバイス30では、グルコース濃度が低くなると、これに応答して糖応答性ゲル41が収縮し、仕切り部40のインスリン充填領域31a側への移動が停止し、体内へのインスリンの放出を抑制させることができる。かくして、インスリン投与デバイス30では、グルコース濃度に応答して自律的にインスリンを投与することができる。
【0110】
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能であり、例えば、N-イソプロピルメタクリルアミド(NIPMAAm)と、実施例である本発明のフェニルボロン酸系単量体のサンプル1(FPBA)とを重合させる任意の割合として、N-イソプロピルメタクリルアミド(NIPMAAm)と、実施例である本発明のフェニルボロン酸系単量体のサンプル1(FPBA)とを、仕込みモル比90/10から、仕込みモル比70/30の範囲等、その他種々の割合に調合してもよい。この場合でも、一般的な生体温度(35℃〜37℃)付近で、グルコース濃度に応じて大きく膨潤させることができ、かくして自律的なインスリン投与に利用できる糖応答性ゲルとして十分な機能を発揮することができる。
【0111】
また、上述した実施の形態において、糖類として、グルコースを適用した場合について述べたが本発明はこれに限らず、ガラクトース、マンノース又はフルクトース等の1,2ジオール、1,3ジオール構造を含む他の糖類を適用してもよい。