特許第5697024号(P5697024)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5697024-圧縮機 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5697024
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 27/08 20060101AFI20150319BHJP
   F04B 39/10 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   F04B27/08 P
   F04B39/10 Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-285563(P2010-285563)
(22)【出願日】2010年12月22日
(65)【公開番号】特開2012-132372(P2012-132372A)
(43)【公開日】2012年7月12日
【審査請求日】2013年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078330
【弁理士】
【氏名又は名称】笹島 富二雄
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100154106
【弁理士】
【氏名又は名称】荒木 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】田口 幸彦
【審査官】 山本 崇昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−223757(JP,A)
【文献】 実開平04−053173(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 27/08
F04B 39/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸の軸線の延長線上に配設した吸入室、前記吸入室を囲む環状に配設した吐出室、及び、前記吐出室の径方向の外側から前記吐出室を跨いで前記吸入室にまで延設される吸入通路が形成されたシリンダヘッドと、
前記吸入通路の開度を調整する開度調整弁と、
を備えた圧縮機において、
前記開度調整弁は、筒状に形成されて前記吸入通路の前記吐出室を跨ぐ部分に内挿される通路形成部材を備え、前記通路形成部材は前記シリンダヘッドの成形材料であるアルミ系材料よりも熱伝導率が低い断熱材料で形成されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記通路形成部材の外周と前記吸入通路の内周との間に、環状の隙間を設けたことを特徴とする請求項1記載の圧縮機。
【請求項3】
前記通路形成部材を、前記吸入通路に対してOリングによって弾性支持したことを特徴とする請求項2記載の圧縮機。
【請求項4】
前記環状の隙間と前記通路形成部材の内部空間とを連通する連通孔を、前記通路形成部材に設けたことを特徴とする請求項2又は3記載の圧縮機。
【請求項5】
前記通路形成部材は、前記吸入通路の開度を減少させる方向の弁体の移動を規制する規制部を一体的に有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の圧縮機。
【請求項6】
前記通路形成部材の上流側端部が、前記吸入通路の軸方向への移動を規制されて前記吸入通路の内周壁に対し係止されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出室を跨いで吸入室にまで延設される吸入通路の開度を調整する開度調整弁を備えた圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輌エアコンシステムに使用される往復動圧縮機においては、冷媒吸入時に吸入リード弁が自励振動を起こして吸入圧力の脈動が発生し、係る圧力脈動が上流側回路(蒸発器)に伝播して異音が発生することがあった。
この吸入圧力の脈動を低減するため、特許文献1及び特許文献2には、吸入通路の開度を調整する開度調整弁を備えた圧縮機が開示されている。
また、特許文献3には、吸入冷媒が吸入通路内で加熱されて温度上昇することを抑制するため、吸入通路の壁面を断熱部材で被覆した圧縮機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−136776号公報
【特許文献2】特開2005−337232号公報
【特許文献3】特開2005−147021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献2に開示されるように、吸入通路が吐出室を跨いで吸入室にまで延設される往復動圧縮機では、吸入通路内の吸入冷媒が吐出室内の高温の吐出冷媒によって加熱され易く、これによりシリンダボアへ吸入される冷媒の温度が上昇して冷媒の密度が小さくなり、圧縮機の性能を低下させる要因となっていた。
従って、特許文献3に開示される、吸入通路を断熱部材で断熱する構造を、特許文献1,2に開示されるような圧縮機に適用し、吸入通路内での吸入冷媒の加熱を抑制することが望まれるが、専用の断熱部材を別途追加すると、圧縮機のコストが増加してしまうという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、吐出室を跨いで吸入室まで延設される吸入通路の断熱を、簡便な構造で行える圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る圧縮機は、駆動軸の軸線の延長線上に配設した吸入室、前記吸入室を囲む環状に配設した吐出室、及び、前記吐出室の径方向の外側から前記吐出室を跨いで前記吸入室にまで延設される吸入通路が形成されたシリンダヘッドと、前記吸入通路の開度を調整する開度調整弁と、を備えた圧縮機において、前記開度調整弁は、筒状に形成されて前記吸入通路の前記吐出室を跨ぐ部分に内挿される通路形成部材を備え、前記通路形成部材は前記シリンダヘッドの成形材料であるアルミ系材料よりも熱伝導率が低い断熱材料で形成されている
このような構成では、吸入通路に内挿される通路形成部材は、シリンダヘッドの成形材料であるアルミ系材料よりも熱伝導率が低い断熱材料で形成されるから、吸入通路と吐出室との間での熱交換を抑制する。
【0008】
ここで、前記通路形成部材の外周と前記吸入通路の内周との間に、環状の隙間を設けることができる。
このような構成では、通路形成部材の外周と吸入通路の内周との間に隙間を設けることで、吐出室内の流体と吸入通路内の流体との間における熱交換をより一層抑制できる。
また、前記通路形成部材を、前記吸入通路に対してOリングによって弾性支持することができる。
【0009】
また、前記環状の隙間と前記通路形成部材の内部空間とを連通する連通孔を、前記通路形成部材に設けることができる。
このような構成では、流体(冷媒)封入する前の真空引きの際に、通路形成部材の外周と吸入通路の内周との間の隙間の空気を、連通孔を介して排出させることができる。
また、前記通路形成部材は、前記吸入通路の開度を減少させる方向の弁体の移動を規制する規制部を一体的に有することができる。
このような構成では、通路形成部材は、開度調整弁の弁体の移動を規制するから、通路形成部材は、吸入通路を断熱しつつ、開度調整弁の構成要素として機能する。
【0010】
また、前記通路形成部材の上流側端部が、前記吸入通路の軸方向への移動を規制されて前記吸入通路の内周壁に対し係止されるようにできる。
このような構成では、通路形成部材、引いては、開度調整弁全体を、吸入通路内の所定位置に位置決めできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る圧縮機の縦断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る圧縮機を構成する開度調整弁の縦断面図であり、(a)は最大開弁状態を示す縦断面図、(b)は最小開弁状態を示す縦断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る圧縮機に対する開度調整弁の取り付け状態を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、実施形態における圧縮機を示し、この圧縮機は、車輌エアコンシステムに使用する斜板式可変容量型の往復動圧縮機100である。
【0015】
圧縮機100は、シリンダブロック101と、シリンダブロック101の一端に連結したフロントハウジング102と、シリンダブロック101の他端にバルブプレート103を介して連結したシリンダヘッド104と、を備える。
シリンダブロック101とフロントハウジング102とによりクランク室105が画成され、駆動軸106は、クランク室105内を横断するように、シリンダブロック101及びフロントハウジング102に対してラジアル方向及びスラスト方向のベアリング113,115,116を介して回転可能に支持される。
【0016】
駆動軸106の先端部は、フロントハウジング102のボス部102a内を貫通してフロントハウジング102の外部に突出し、この外部に突出した先端部に、車両のエンジンやモータなどの駆動源が動力伝達装置を介して連結される。
尚、駆動軸106とボス部102aとの間に軸封装置112を設け、フロントハウジング102の内部(クランク室105)を外部から遮断している。
【0017】
クランク室105内において、駆動軸106にはロータ108が固着され、このロータ108に対して連結部109を介して斜板107を取り付けてある。
斜板107は、その中心部に形成した貫通孔に駆動軸106が貫通し、駆動軸106と一体的に回転すると共に、駆動軸106の軸方向にスライド可能でかつ傾動可能に支持されている。また、ロータ108は、フロントハウジング102の前端側内壁に配設したスラストベアリング114によって回転可能に支持されている。
【0018】
ロータ108と斜板107との間には、斜板107の傾角を減少させる方向に向けて斜板107を付勢するコイルバネ110が装着され、また、駆動軸106に固定された止め輪130と斜板107との間には、斜板107の傾角を増大させる方向に向けて斜板107を付勢するコイルバネ111が装着されている。
シリンダブロック101には、駆動軸106を囲むように複数のシリンダボア101aが形成され、各シリンダボア101aには、ピストン117が駆動軸106の軸方向に往復動可能に収容されている。各ピストン117は、シュー118を介して斜板107の外周部に係合していて、斜板107が駆動軸106と共に回転すると、各ピストン117は、シリンダボア101a内を往復動する。
【0019】
シリンダヘッド104には、駆動軸106の軸線の延長線上に吸入室119が配設されると共に、吸入室119を環状に取り囲む吐出室120が配設される。吸入室119は、バルブプレート103に設けた連通孔103a及び吸入弁(図示せず)を介してシリンダボア101aと連通し、吐出室120は、吐出弁(図示せず)及びバルブプレート103に設けた連通孔103bを介してシリンダボア101aと連通している。
フロントハウジング102、シリンダブロック101、バルブプレート103、シリンダヘッド104が、図示しないガスケットを介して複数の通しボルト140によって締結され、圧縮機ハウジングが形成される。
【0020】
また、シリンダブロック101の外側には、マフラ121を設けてある。マフラ121は、有底筒状の蓋部材122を、シリンダブロック101の外面に立設した筒状壁101bに対してシール部材を介して連結して形成される。蓋部材122には、吐出ポート122aが形成され、この吐出ポート122aは、車輌エアコンシステムの吐出側冷媒回路(凝縮器)に接続される。
マフラ121内のマフラ空間123と吐出室120とを連通させる連通路124が、シリンダブロック101、バルブプレート103、シリンダヘッド104にわたって形成され、マフラ121と連通路124とは、吐出室120と吐出ポート122aとの間を連通させる吐出通路を形成し、マフラ121は、吐出通路途上の拡張空間を形成する。
【0021】
また、マフラ121の入口を開閉する逆止弁200が、マフラ121内に配置されている。逆止弁200は、連通路124とマフラ空間123との接続部に配置され、連通路124(上流側)とマフラ空間123(下流側)との圧力差に応答して動作し、連通路124内の圧力(上流側圧力)Puがマフラ空間123内の圧力(下流側圧力)Pdよりも所定値SL以上に高い場合(Pu−Pd>SL>0)に開弁し、係る圧力差の条件を満たさない場合(Pu−Pd≦SL>0)に閉弁する。
【0022】
シリンダヘッド104には、吸入ポート104a、及び、吸入ポート104aと吸入室119とを連通させる連通路104bが形成され、吸入室119は、連通路104b及び吸入ポート104aで形成される吸入通路104cを介して、車輌エアコンシステムの吸入側冷媒回路(蒸発器)と接続される。吸入通路104c(連通路104b)は、シリンダヘッド104の径方向外側から吐出室120を跨ぐように、シリンダヘッド104の径方向に略沿って直線的に延設される。
【0023】
また、連通路104bには、吸入通路104cの開度を調整する開度調整弁250を配置してある。
開度調整弁250は、断熱材料で円筒状に形成され連通路104bに内挿される通路形成部材254と、この通路形成部材254の下流側に係止される出口孔253aを備えた弁ハウジング253と、弁ハウジング253内に収容される弁体251と、弁体251を吸入通路104cの開度が小さくなる方向(閉弁方向)に向けて付勢する圧縮コイルバネ252とを備える。
【0024】
そして、吸入ポート104aに吸入された冷媒(流体)は、通路形成部材254の内部空間254a(実質的な吸入通路104c)及び弁ハウジング253の出口孔253aを介して吸入室119内に導入される。
開度調整弁250は、吸入通路104cを構成する通路形成部材254の内部空間254a(上流側)と吸入室119(下流側)との圧力差、つまり冷媒流量の変化に追従して吸入通路104cの開度を調整するもので、冷媒流量が減少すれば圧縮コイルバネ252の閉弁付勢力によって吸入通路104c(出口孔253a)の開度を小さくし、冷媒流量が増大すれば圧縮コイルバネ252の閉弁付勢力に抗して吸入通路104c(出口孔253a)の開度を大きくするように動作する。
【0025】
本実施形態において、シリンダヘッド104は、アルミ系材料によって形成される一方、弁ハウジング253、通路形成部材254及び弁体251は、アルミ系材料よりも熱伝導率が低い断熱材料である、ポリアミド系樹脂などの樹脂材料で形成されている。
尚、開度調整弁250の詳細な構造については、後で詳細に説明する。
【0026】
シリンダヘッド104には、容量制御弁300を取り付けてある。
容量制御弁300は、吐出室120とクランク室105とを連通する連通路125の開度を調整し、クランク室105への吐出冷媒の導入量を制御する。
また、クランク室105内の冷媒は、ベアリング115,116と駆動軸106との隙間を抜け、シリンダブロック101に形成した空間127、更に、バルブプレート103に形成したオリフィス103cを介して吸入室119へ流入する。
【0027】
従って、容量制御弁300によりクランク室105への吐出冷媒の導入量を調整してクランク室105の圧力を変化させ、斜板107の傾斜角、つまりピストン117のストローク量を変化させることにより、圧縮機100の吐出容量を制御することができる。
尚、容量制御弁300は、外部信号に基づいて内蔵するソレノイドへの通電量を調整し、連通路126を介して容量制御弁300の感圧室に導入される吸入室119の圧力が所定値になるように、圧縮機100の吐出容量を制御し、また、内蔵するソレノイドへの通電を遮断することにより、連通路125を強制開放して、圧縮機100の吐出容量を最小に制御する。
【0028】
次に、開度調整弁250の構造を、図2及び図3を参照して詳細に説明する。
開度調整弁250の弁ハウジング253は、周壁に複数の出口孔253aを備える有底筒状に形成され、弁ハウジング253の開放端の内周に通路形成部材254の下流側端の外周が嵌合して、通路形成部材254の内部空間254aに連続する内部空間253bを形成する。
【0029】
尚、弁ハウジング253の開放端の内周に、全周にわたって溝(凹部)253eを形成する一方、通路形成部材254の下流側端部の外周に、全周にわたって突起部(凸部)254eを形成してある。そして、通路形成部材254と弁ハウジング253とを嵌合させるときに、相互に弾性変形して突起部(凸部)254eが弁ハウジング253の開放端の内周に嵌合することを許容し、弾性復帰力によって前記溝(凹部)253e内に突起部(凸部)254eに嵌まり込んで、通路形成部材254と弁ハウジング253とが抜け防止された状態で嵌合されるようにしてある。
【0030】
また、弁体251は、弁ハウジング253の内部空間253b内に嵌合する外径の有底筒状に形成され、弁ハウジング253の内部空間253b内に、底部を内部空間253bの開放端側として嵌挿される。
そして、弁体251が、弁ハウジング253の内部空間253b内を軸方向に沿って移動することで、弁ハウジング253の周壁に開口する出口孔253aの開口面積を可変とする。
【0031】
即ち、弁体251が弁ハウジング253の内部空間253bの底側に近づくと、弁体251の周壁で閉鎖される出口孔253aの面積が減って、吸入通路104cの開度が増加する一方、弁体251が弁ハウジング253の内部空間253bの底側から遠ざかると、弁体251の周壁で閉鎖される出口孔253aの面積が増え、吸入通路104cの開度が減少する。
圧縮コイルバネ252は、弁ハウジング253の底部と弁体251の底部との間に配設され、弁体251を弁ハウジング253の内部空間253bの開放端側、即ち、吸入通路104cの開度が減少する側に向けて付勢する付勢手段である。
【0032】
また、通路形成部材254は、弁ハウジング253の開放端の内側に一端が嵌合する筒状に形成され、弁体251の底壁と当接することで弁体251の通路形成部材254側に向かう移動、即ち、吸入通路104cの開度を減少させる方向(閉弁方向)の移動を規制する規制部254bを、前記一端の環状端部に複数突出形成してある。
規制部254bは、通路形成部材254の筒状部の内外径と同じ内外径の円弧状に形成され、各規制部254bの高さを揃えてある。
【0033】
弁体251の底壁が規制部254bに当接して弁体251の移動が規制されている状態では、吸入通路104cが最小の開度になるが、本実施形態においては、最小開度は全閉状態ではなく、出口孔253aが僅かに開くように設定してある。これにより、冷媒循環が停止したときに、吸入室119内の圧力と、吸入ポート104a側の圧力とが等しくなる。
尚、規制部254bの数は、1個であってもよいが、等角度間隔で複数(2〜4個)の規制部254bを設けることが好ましい。
【0034】
また、通路形成部材254の下流側の環状端部から突出する規制部254bを設けずに、通路形成部材254の下流側の環状端部を規制部として用い、弁体251の底壁と通路形成部材254とが環状に当接する構造とすることが可能である。
但し、係る構造とした場合、弁体251の底壁と通路形成部材254とが環状に密着することで、吸入通路104cと吸入室119とを連通させる経路を確保できなくなる。そこで、本実施形態では、通路形成部材254の下流側の環状端部から突出する規制部254bを設け、弁体251の底壁が規制部254bに当接した状態で、通路形成部材254の下流側の環状端部と弁体251の底壁との間に隙間が生じるようにしてある。
【0035】
一方、吸入通路104cの開度を増大させる方向(開弁方向)、換言すれば、弁ハウジング253の底部に近づく方向への弁体251の移動は、弁体251の筒状部の開放側端部が、弁ハウジング253の底壁が当接することで規制される。
弁ハウジング253の底壁には、弁体251の背面側空間250bと吸入室119とを連通する小孔253bが形成され、これにより、弁体251は上流側(内部空間254a、吸入通路104c)と下流側(吸入室119)との圧力差に応答して動作し、吸入通路104cの開度を調整する。
【0036】
また、弁ハウジング253の開放端にフランジ253cが形成される一方、通路形成部材254には、弁ハウジング253と通路形成部材254とを嵌合させたときに、前記フランジ253cと共に周溝250cを形成するフランジ254fを形成してある。
そして、周溝250cにエラストマーで形成したOリング255を装着し、周溝250cから突出するOリング255を押し潰すようにして、連通路104bに嵌合させることで、開度調整弁250は、Oリング255によって連通路104bに対して弾性支持される。
【0037】
また、連通路104bの内径よりも吸入ポート104aの内径を大きくし、連通路104bと吸入ポート104aとの境界部分に段差部104eを形成してある一方、通路形成部材254の上流側端部には、連通路104bに連続する拡径部である吸入ポート104a(拡径部)に嵌合するフランジ254cを形成してある。
即ち、フランジ254cの径は、連通路104bの内径よりも大きく、かつ、吸入ポート104aの内径よりも小さく設定され、通路形成部材254を含む開度調整弁250は、弁ハウジング253側を下流に向けて、吸入ポート104aから連通路104bに対して差し入れられ、フランジ254cが、連通路104bと吸入ポート104aとの境界部分の段差部104eに突き当たることで、開度調整弁250(通路形成部材254)の連通路104b(吸入通路104c)に対する位置決めがなされる。
【0038】
そして、吸入ポート104aに、外部冷媒回路(外部流体回路)のフランジ400を内挿接続すると、通路形成部材254のフランジ254cが、フランジ400の先端部400aと段差部104eとで挟まれて、開度調整弁250の抜けがフランジ400によって阻止される。
尚、シリンダヘッド104から開度調整弁250を取り外す場合には、フランジ254cに形成した複数個所の切り欠き254gから工具差し込み、工具にフランジ254cを引っ掛けて取り出す。
【0039】
外部冷媒回路のフランジ400の外周面には溝400bが形成され、この溝400bにエラストマーで形成したOリング259を装着することで、吸入ポート104aの内周面とフランジ400の外周面との隙間をシールしている。
また、開度調整弁250が連通路104bに対して位置決めされた状態で、連通路104bの内周と通路形成部材254の外周との間に環状の隙間260が形成されるように、連通路104bの内径及び通路形成部材254の外径を設定してある。更に、通路形成部材254の周壁には、隙間260と、通路形成部材254の内部空間254aとを連通させる連通孔254dを形成してある。
【0040】
次に、上記の開度調整弁250の作用を説明する。
前述のように、シリンダヘッド104等のハウジングはアルミ系材料(金属材料)で形成される一方、開度調整弁250を構成する弁ハウジング253,通路形成部材254及び弁体251は樹脂材料で形成される。
【0041】
連通路104bは、吐出室120を跨いで延設されるため、連通路104bと吐出室120との間における断熱性が低いと、連通路104b内の吸入冷媒に吐出室120内の吐出冷媒の熱が伝達し、吸入冷媒の温度が上昇してしまう。しかし、上記圧縮機100においては、シリンダヘッド104の成形材料であるアルミ系材料に比べて熱伝導率が極めて小さい樹脂材料で筒状に形成した通路形成部材254を、連通路104bに内挿させてあるので、吐出室120内の吐出冷媒の熱が、連通路104b(通路形成部材254の内部空間254a)内の吸入冷媒に伝達することが抑制され、吸入冷媒の温度上昇が抑制される。
【0042】
また、連通路104bの内周と通路形成部材254の外周との間には隙間260が形成され、かつ、開度調整弁250は、Oリング255によって連通路104bに対して弾性支持され、開度調整弁250の通路形成部材254及び弁ハウジング253が、連通路104bと直接に接する面積を少なくすることで、通路形成部材254による断熱効果を更に高めている。
【0043】
また、連通路104bの内周と通路形成部材254の外周との間の隙間260と、通路形成部材254の内部空間254aとを連通させる連通孔254dを通路形成部材254に形成してあるので、冷媒回路に冷媒を封入する際に圧縮機100内の空気を排出すべく行われる真空引きにおいて、隙間260の空気が排出され易く、また、フランジ254cと吸入ポート104aとの隙間から冷媒やオイルが隙間260内に入り込んだ場合に、冷媒やオイルが内部空間254a側に抜け易くなる。
【0044】
次に、上記の開度調整弁250の効果を説明する。
上記圧縮機100では、断熱部材として機能する通路形成部材254を、連通路104b(吸入通路104c)に内挿し、連通路104b(吸入通路104c)内の冷媒の温度上昇を抑制するので、温度上昇による冷媒の密度低下、引いては、圧縮機100の性能低下を防止できる。
【0045】
更に、連通路104bの内周と通路形成部材254の外周との間に隙間260を設け、また、通路形成部材254を連通路104bに対してOリング255によって弾性支持したことで、通路形成部材254の断熱性能がより高まり、連通路104b(吸入通路104c)内の冷媒の温度上昇をより効果的に抑制できる。
また、開度調整弁250は、冷媒流量に応じて吸入通路104cの開度を調整するので、吸入圧力の脈動を低減でき、吸入圧力の脈動による異音の発生を抑制できる。
【0046】
また、通路形成部材254は、連通路104b(吸入通路104c)の断熱部材として機能とすると共に、開度調整弁250の弁体251の移動を規制する規制部254bを一体的に備え、開度調整機能の一部を担うので、断熱部材と、弁体251の移動を規制する部材とを個別に備える場合に比べて、圧縮機100の構造を簡略化でき、圧縮機100のコストアップを抑制できる。
【0047】
以上、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
例えば、上記実施形態では、吸入通路104cの軸線は駆動軸106の軸線に略直交し、吸入通路104cはシリンダヘッド104の径方向外側から吐出室120の一部を横切るように直線状に延設されるが、吸入通路104cは吐出室120を跨ぐものであれば良く、吸入通路104cの延設方向は径方向に限定されず、また、吸入通路104cの軸線が、駆動軸106の軸線に対して傾斜していても良い。
【0048】
また、実施形態では、通路形成部材254をポリアミド系樹脂材料で形成したが、ポリフェニレンサルファイドなどの他の樹脂材料で形成することができ、更に、例えば金属材料の表面を断熱作用のある樹脂被膜等で被覆した層構造の材料を用いて通路形成部材254を形成することもでき、本願では、前述のような層構造の材料を含めて断熱材料と称するものとする。
【0049】
また、実施形態では、開度調整弁250は、最小開度状態であっても全閉にならない構造としたが、開度調整弁250が最小開度状態において全閉となる構造(吸入逆止弁)としても良い。
また、通路形成部材254のフランジ254c側を連通路104bに対しOリングで弾性支持するようにすれば、更に断熱効果を高めることができる。
また、圧縮機100は、電磁クラッチを備えた往復動圧縮機、クラッチレス圧縮機またモータで駆動される圧縮機であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
100…圧縮機、101…シリンダブロック、101a…シリンダボア、102…フロントハウジング、103…バルブプレート、104…シリンダヘッド、104a…吸入ポート、104b…連通路、104c…吸入通路、105…クランク室、106…駆動軸、107…斜板、250…開度調整弁、251…弁体、252…圧縮コイルバネ、253…弁ハウジング、253a…出口孔、254…通路形成部材、254b…規制部、254c…フランジ、254d…連通孔、260…隙間
図1
図2
図3