【実施例1】
【0021】
図1及び
図2に示すように、本発明に係る空気清浄機1は、浄化処理しようとする空気を流すスリット状の流路2が形成された誘電体でなる絶縁ケーシング3の内部にプラズマ発生空間4が形成され、ケーシング3の外周面には流路2を挟んでプラズマ発生空間4の両側に平板状電極5A、5Bが配されている。
【0022】
プラズマ発生空間4には、前記電極5A又は5Bに挟まれる位置にこれと略同じ平面形状の光触媒フィルタFが絶縁ケーシング3に接触するように配されると共に、少なくとも一方の電極5A又は5B側の絶縁ケーシング3内面に、白金系、ニッケル系、酸化物系など処理しようとする汚染物質に応じた非光励起型の触媒を担持させた触媒層(触媒担体)7が形成されている。
【0023】
そして、光触媒フィルタFは交流電源6の交流出力端子に接続され、平板状電極5A及び5Bは接地電極として交流電源6のアース側に接続されており、光触媒フィルタFと、平板状電極5A及び5Bに、反対極性の電圧が印加されてこれらが一対のプラズマ発生電極として機能する。
すなわち、プラズマ発生空間4では、電極5A及び5Bを取り付けた絶縁ケーシング3が誘電体層として機能し、絶縁ケーシング3の電極5A側の内面に非光励起型の触媒による触媒層7が形成されており、絶縁ケーシング3と接するように光触媒フィルタFが配されており、電極5A及び5Bと、その反対極である光触媒フィルタFは、絶縁ケーシング3で形成される誘電体層の厚さしか離れていないので、低電力、低電流で安定放電を維持することができるというメリットがある。
また、この場合、ケーシング3の外部に露出している電極5A、5Bいずれもアース電位に落ちるので、安全性が高いというメリットがある。
【0024】
光触媒フィルタFは、
図3に示すように、チタン箔11に通気孔/通水孔となる多数の微細流路12が形成されると共にその表面に陽極酸化皮膜による酸化チタンベース層13を形成したチタンメッシュ14にアナターゼ型酸化チタン粒子を焼き付けて光触媒層15を形成した一枚以上のフィルタエレメントEを備えており、少なくとも一のフィルタエレメントEは、そのチタンメッシュ14に折曲成形あるいはプレス成形による起伏が周期的にあるいはランダム周期で形成されている。
どの起伏も、高さ(エレメントEの厚さ)が略一定になるように均一の高さで形成されており、その高さは光触媒フィルタFをプラズマ発生空間4に装着したときに、光触媒フィルタFの表裏両面が絶縁ケーシング3の内表面に当接されるように成っている。
本例では、光触媒フィルタFは一枚のフィルタエレメントEからなり、チタンメッシュ14に形成される起伏が、縦又は横の一方向に連続する波型に形成されて成る。
【0025】
図4はそのフィルタエレメントEの製造方法を示す説明図である。
まず、フラットなチタン箔11に通気孔となる微細流路12を形成するエッチング処理を行う。エッチング処理は、純チタンを圧延して形成したチタン箔11の表裏両面にフォトレジスト剤16を塗布する塗布工程(
図4(a))と、レジスト剤16の上から非周期的パターンが形成されたマスキングフィルム17、17を重ねて露光する露光工程(
図4(b))と、露光後、レジスト剤の感光していない部分を洗浄して感光した部分をチタン箔表面に残す洗浄工程(
図4(c))と、レジスト剤16で非周期網目パターンがマスキングされたチタン箔11をエッチング液に浸漬し、表裏両面からチタン箔11の厚さの半分まで浸食させることにより表裏を貫通する多数の微細流路12…を形成する浸漬工程(
図4(d))からなる。
【0026】
このように、チタン箔11の両面からエッチング処理を施せば、そのマスキングパターンに周期性がないことから、チタン箔の表側と裏側から異なるパターンの孔が形成される。その結果、
図2に示すように、チタン箔11の厚さ方向に複雑なラビリンス状の微細流路2が形成され、単純なメッシュ構造よりも比表面積が著しく大きくなる。
なお、チタンメッシュ14の空隙率(エッチング処理後の重量/エッチング処理前の重量)は20%程度である。
また、その表面を拡大観察すると、この時点では、
図4(e)に示すように、概ねフラットな状態となっている。
【0027】
次いで、その表面に酸化チタンベース層13を形成する陽極酸化処理を行う。
陽極酸化処理は、リン酸浴(例えばリン酸3%水溶液)中で、陽極となるチタン箔11と陰極との間に所定電圧を印加して行われ、その結果、
図4(f)に示すように、チタン箔11の表面が酸化されて陽極酸化皮膜が形成される。
このとき、酸化皮膜は、チタン箔11の表裏両面だけでなく、微細流路2の内壁面などリン酸浴に曝されている全表面に形成される。
その後、このチタン箔11を大気中で550℃、3時間加熱する加熱処理を施し、陽極酸化皮膜が加熱された酸化チタンベース層13が形成される。
その表面を拡大観察すると、エッチング処理した時点でフラットだった表面に、陽極酸化処理及び加熱処理によるひび割れ8が多数出現する。
なお、チタンを陽極酸化処理した場合、その酸化皮膜の厚さに応じて光の干渉により異なる色が発色し、厚さ70nm程度で紫色、150nm程度で緑色、200nm程度でピンク色を呈することが知られている。本例では、厚さ70nmの皮膜を形成した。
【0028】
そして最後に、アナターゼ型酸化チタン粒子4を担持させる焼き付け処理を行う。
表面に酸化チタンベース層13が形成されたチタン箔11を、アナターゼ型酸化チタン粒子4を分散したスラリー中にディッピングした後、これを550℃で焼き付けると、
図4(g)に示すように、チタン箔11の表裏両面及び微細流路12の内壁面に光触媒層15が形成される。
【0029】
なお本例では、フィルタエレメントを波型に形成するため、陽極酸化処理を施した後、加熱処理を施す前に、プレス加工により起伏を周期的にまたはランダム周期で形成する起伏成形処理を施す。
本例では、チタンメッシュ14の長手方向に沿って連続するピッチ約5mm、波高約5mmの波型起伏を折曲形成している。
【0030】
このように製造されたフィルタエレメントEの酸化チタンベース層13と光触媒層15は、酸化チタン同士が結合することになるので、その結合性が極めて強くなり、その結果、光触媒層15が剥がれ難くなる。
さらに、エッチング処理により微細流路12を形成したことにより表面が複雑な凹凸形状をなし、陽極酸化皮膜でなる酸化チタンベース層13はミクロンオーダーの微細なひび割れ13aを生ずるため、その上に光触媒層15が強固に結合するだけでなく、表面積が増え、処理効率が格段に向上する。また、UV光を照射したときに光触媒層15の表面及び酸化チタンベース層13との界面で乱反射/光散乱が起き、UV光を効率よく利用できる。
さらにまた、チタン箔を使用したことでチタンメッシュ14自体を軽量に形成することができることから設計の自由度が大きくなり、耐熱性、耐薬品にも優れるため、過酷な使用条件の下でも使用に耐え得る。
【0031】
そして、
図1及び
図2に示すように、このように製造された一枚のフィルタエレメントEを光触媒フィルタFとして、波型の起伏が露出する断面を処理しようとする空気の流入方向に対向して設けている。
図5は、このときの流路2の水平断面を模式的に示している。
フィルタエレメントEを波型に形成したことにより、流路2が複数の平行流路2a、2b…に分岐されることとなる。
また、平行流路2a、2b…の内壁には多数の微細流路12が形成されているので、各平行流路2a、2b…を流れる空気は、内壁に当たると微細流路12を通って隣接する平行流路2a、2b…に流出し、あるいは、隣接する空気流路2a、2b…から微細流路12を通って流入するなどの複雑な流れが形成される。
チタンメッシュ14の表面には、微細流路12の内壁面も含めて、光触媒層15が形成されているので、平行流路2a、2b…を流れる空気が光触媒層15に接触する機会は格段に増え、処理効率が向上する。
【0032】
なお、光触媒フィルタFのチタンメッシュ14は導体であるが、その表面に形成された陽極酸化皮膜からなる酸化チタンベース層13と光触媒層15は物性的に絶縁体であるので、光触媒フィルタFをプラズマ発生電極として機能させるためには、チタンメッシュ14に電力を供給すればよい。
【0033】
以上が本発明の一構成例であって、次に、その作用を説明する。
交流電源6により所定電圧の高周波電圧を印加すると、光触媒フィルタFと、平板状電極5A,5Bが反対極性のプラズマ発生電極として機能して放電を生じ、プラズマ発生空間4内が大気圧常温プラズマ状態となる。
このとき、光触媒フィルタFを絶縁ケーシング3に接触させることにより空気流路となるプラズマ発生空間4を狭くすることなく電極間距離を最も近づけることができるので、実質放電ギャップを狭くすることができる。
その結果、大気圧グロー放電によるプラズマを生じさせる場合でも低電力ひいては低電流で安定放電を維持することができるので、大型の電源装置を使用することなく稼動させることができ、空気清浄機を家庭電化製品に組み込む程度に小型化することができる。
【0034】
これにより、平板状電極5A,5Bと、これに平面形状が略等しい光触媒フィルタFとの間でプラズマを発生させるので、プラズマ発生空間4全体にプラズマが略均一に発生し、光触媒フィルタF全体がプラズマに曝される。
このとき、大気圧グロー放電によるプラズマを生じさせれば、そのエネルギーが空気中に一般的に含まれる汚染物質の結合エネルギーより大きいので、汚染物質をプラズマエネルギーにより二以上の分子又は原子に分解させることができる。
【0035】
また、窒素及び酸素を含む大気圧プラズマは、酸化チタン光触媒を励起可能な波長300〜380nmにいくつかのピークを有する紫外光を発するため、光触媒フィルタFが励起される。
この状態で、プラズマ発生空間4に、例えば室内空気や冷蔵庫内空気を通過させると、その空気は、波型のチタンメッシュ14により形成された光触媒層15に接触しながらその平行流路2a、2b…を通過する間に、光触媒作用により分解が促進されて無害/無臭化される。
【0036】
さらに、プラズマ発生区間4の絶縁ケーシング3の内壁面に非光励起型の触媒をコーティングさせた触媒層7が形成されているので、流路2を通過する処理空気がその触媒層7に接することとなり、その触媒作用により汚染物質が酸化・分解が促進されて無害/無臭化される。
【0037】
このように、本例では、プラズマにより分解され、プラズマ励起された光触媒により分解反応が促進され、さらに、非光励起型の通常触媒により分解反応が促進されるという三重の浄化処理が行われる。
したがって、空気清浄機を小型化することによりプラズマ発生空間の容積が小さくなって、個々の浄化処理の処理能力が多少低下することがあっても、全体として処理効率が低下することがない。
【0038】
なお、光触媒フィルタFは、酸化チタン粒子を担持させる基材として、チタン箔11を用いているので、フレキシブルなシート状に形成することができ、空気清浄機の仕様に応じて任意の形状に折り曲げたり巻回したりすることができる。
また、多数の通気孔を形成することにより表面積を大きくすることができ、特に、エッチング処理により非周期性海綿構造に形成した場合は、より表面積を大きくすることができるので、アナターゼ型酸化チタン粒子を焼き付けたときに、空気に触れる表面積が大きくなり、処理効率が向上する。