【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づいて、本発明に係る固体電解質及び電気化学素子についてさらに詳述する。
【0033】
(固体電解質及び電気化学素子の作製)
本実施例において、固体電解質及び電気化学素子は次のようにして作製した。
図3に作製工程の流れを説明するための概略図を示す。
【0034】
工程S1:
図3に示すように、蒸留水に所望のアミノ酸を溶解させ、pH調整した水溶液10mLを容器51に入れ、ここに固体粉末状のゲル52を添加(蒸留水:アガロース(寒天末)白色粉末の質量比が、100:3となるように添加)した後、攪拌した。攪拌後、水溶液を容器53に移し、電子レンジにてマイクロ波を15秒間照射し、ゲルを十分に溶解させた。その後、水溶液を直ちに型54へと流し込み、空冷してゲル化させた。つづいて、型からゲルを取り出し、所望の大きさに切り取って、試料用のゲル体55を得た。尚、ゲル体55において、アミノ酸とゲル52との質量比は、1:20とした。
【0035】
工程S2:次に、試料用のゲル体55を、透明の導電性薄膜(FTO/ITO/glass)からなる平板電極56、57により挟み込んだ。ゲル体55は、1種類1枚の場合と、2種類2枚の場合(ゲル体55a、55b)とがあるが、いずれの場合も、接着剤等は用いず、単に各層を重ね合わせるものとした。
【0036】
工程S3:最後に、試料ゲルを高分子フィルム(ポリプロピレン)からなる絶縁体の透明テープ58で固定し、1枚又は2枚のゲル体55を電極56、57によって挟持されてなる、評価用の電気化学素子60を得た。電気化学素子60において、透明導電性薄膜の厚みは3mm、ゲル体55の厚みは各2mmとした。
【0037】
(評価方法)
図4を参照しつつ、作製した電気化学素子60の評価方法について説明する。作製した電気化学素子60を
図4に示されるように回路に組み込み、直流安定化電源70を約3.7Vに設定し、電気化学素子60を流れる電流と電圧の測定を行った。まず、可変抵抗71を変化させて、電圧計として機能させるテスター72の電圧値を0Vから、およそ0.5Vずつ上昇させた。各電圧値において電流系として機能させるテスター73で、30秒間電流値を測定した。これを繰り返し、3.7Vまで測定した。得られた電圧と電流の時間変化に係るデータについて、コンピュータ74、75にて記録した。以下、評価結果について説明する。
【0038】
(参考例1)
ゲル体55として、アミノ酸を加えない1種類のアガロースゲルを使用し、1層構成からなる固体電解質を電気化学素子60に備えさせた場合について、評価結果を
図5に示す。
図5(A)は、電流値の時間変化を時間に対してプロットした結果であり、
図5(B)は電圧値の時間変化を時間に対してプロットした結果である。
図5(A)から明らかなように、参考例に係る電気化学素子においては、0〜2V間のPhaseI、2〜3.5V間のPhaseII、3.5〜3.75V間のPhaseIIIの3段階で、電流電圧特性が変化している。PhaseIでは電流が流れなかったが、PhaseIIではわずかに電流が流れるようになり、PhaseIIIでは急激に大電流が流れるようになっていることが分かる。また、
図5(B)の領域X1から分かるように、約3.7Vで電圧印加終了直後、電位が残存する現象が見られた。これはゲル体55内のイオンの拡散過程で、化学ポテンシャルが平衡に達しようとするために電界が生じ、その内部エネルギーが消失するまでに、しばらく時間がかかったことによるものと考えられる。こうした電気的特性は、固体電解質が1層構成であるため、電流の流れが順方向、逆方向ともに同様の特性であった。
【0039】
(参考例2)
中性アミノ酸或いは酸性アミノ酸5種類のいずれかについて、個々1種類を添加した1枚のゲル体55を用い、1層構成からなる固体電解質を電気化学素子60に備えさせた場合について、評価結果を
図6(A)〜(E)に示す。
図6及び以下の実施例において、Aspはアスパラギン酸、Gluはグルタミン酸、Glnはグルタミン、Glyはグリシン、Proはプロリンを示す。このうち、アスパラギン酸及びグルタミン酸は酸性アミノ酸であり、グルタミン、グリシン及びプロリンは中性アミノ酸である。
図6に示されるように、PhaseIIIおける電流値の変化を見ると、酸性アミノ酸を添加したゲル体を用いた場合、電流値の減少が小さく、変化が小さかった。これに対して中性アミノ酸を添加したゲル体を用いた場合、酸性アミノ酸を用いた場合に比べて、電流値の低下が大きかった(
図6中、領域X2、Y2又はZ2)。
【0040】
(参考例3)
酸性アミノ酸のグルタミン酸(Glu)と、3種類の中性アミノ酸(Gln、Gly、Pro)とによって、2層構成の固体電解質を作製し、当該固体電解質を陰極−陽極間に配置して電気化学素子を構成した場合の電気的特性について、評価結果を
図7(A)〜(F)に示す。尚、
図7及び以下に示す実施例において、「−(物質名A)−(物質名B)+」は、物質名Aを含むゲル体55が陰極側に、物質名Bを含むゲル体55が陽極側に備えられていることを意味する。
図7から明らかなように、いずれの場合も、アガロースゲル1枚のみを用いた場合(参考例1)と同様の電気的特性を示しており、PhaseIIIにて大電流が流れるようになった。また、電流方向につき、順方向、逆方向とで大きな差異は認められなかった。
図7では、同じゲル体で4回評価試験を行った結果を示しているが、若干の電流値低下が認められるものの、特性に大きな減衰は確認されなかった。PhaseIIIにおける電流値の変化をよく見てみると、中性アミノ酸を陰極側に配置した場合は、中性アミノ酸を陽極側に配置した場合と比べて電流値低下が大きい。例えば、−Glu−Gly+よりも、−Gly−Glu+のほうが大きく低下し、−Glu−Gln+よりも、−Gln−Glu+のほうが大きく低下し、−Glu−Pro+よりも、−Pro−Glu+のほうが大きく低下していることが分かる(
図7中、領域X3、Y3又はZ3)。
【0041】
(参考例4)
酸性アミノ酸のアスパラギン酸(Asp)と、3種類の中性アミノ酸(Gln、Gly、Pro)とによって、2層構成の固体電解質を作製し、当該固体電解質を陰極−陽極間に配置して電気化学素子を構成した場合の電気的特性について、評価結果を
図8(A)〜(F)に示す。いずれの場合においても、アガロースゲル1枚の場合(参考例1)と同様の電気的特性を示しており、PhaseIIIにて大電流が流れるようになった。また、電流方向につき、順方向、逆方向とで大きな差異は認められなかった。
図8では、同じゲル体で4回評価試験を行った結果を示しているが、PhaseIIIにて、上述したグルタミン酸を用いた場合(参考例3)と比較して大きな電流値低下が確認された(
図8中、領域X4、Y4又はZ4)。
【0042】
(参考例5)
酸性アミノ酸のアスパラギン酸(Asp)と、中性アミノ酸のグルタミン(Gln)とによって、2層構成の固体電解質を作製し、当該固体電解質を陰極−陽極間に配置して電気化学素子を構成した場合の電気的特性について、評価結果を
図9(A)、(B)に示す。
図9は、ゲル体55を作製してからの経過時間と電気的特性の関係を示している。
図9から分かるように、陰極、陽極の選択的差異はとくに認められなかった。また、PhaseIIIにおける電流値で比較すると、いずれの場合も、長時間経過によって、電流値がある一定の減少幅で収束することが分かった。
【0043】
(実施例1)
酸性アミノ酸のアスパラギン酸(Asp)と、塩基性アミノ酸のアルギニン(Arg)とによって、2層構成の固体電解質を作製し、当該固体電解質を陰極−陽極間に配置して電気化学素子を構成した場合の電気的特性について、評価結果を
図10に示す。
図10から明らかなように、−Arg−Asp+については、印加電圧3.7Vで5000μAの電流が流れた。この値は、上述した中性アミノ酸と酸性アミノ酸の組み合わせの電流値(約2000μA)に比して約2.5倍高い値であった。一方、−Asp−Arg+では、さらに4倍高い、20000μAもの大電流が流れた。その差異はPhaseII(2〜3.5V)において始まっていて、ダイオード特性と同様の整流作用であった。特に2〜3Vの範囲では、良好な整流特性が得られることがわかった。
【0044】
(実施例2)
上記のような整流作用は酸性アミノ酸のアスパラギン酸(Asp)と塩基性アミノ酸のアルギニン(Arg)の組み合わせだけに限定されるわけではない。酸性アミノ酸にはグルタミン酸(Glu)も存在し、塩基性アミノ酸にはリジン(Lys)も存在する。これらを用いた場合の2層構成の固体電解質を作製し、当該固体電解質を陰極−陽極間に配置して電気化学素子を構成した場合の電気的特性について、評価結果を
図11〜13に示す。
図11は、AspとLys、
図12は、GluとArg、
図13は、GluとLysの組み合わせによる結果である。
図11〜13から明らかなように、いずれも整流作用が確認された。ただし、それぞれの場合に流れる電流値は、AspとArgの場合に比して小さいことがわかる。その大小は、AspとArgの場合が最大で、次にAspとLys、第3番に、GluとArg及びGluとLysとなる。ただしGluとLysを用いた場合は、2.5〜3.0Vの電圧印加の範囲では、若干GluとArgよりも整流作用は大きい性質を示した。これらの比較データは、とくに大きな電流値を示したAspとArgの場合よりもアミノ酸の濃度を高くしたにも関わらず、このように有意な差を生じる結果となった。よって、AspとArgは最も適している組み合わせであるが、酸性アミノ酸にグルタミン酸(Glu)、塩基性アミノ酸にリジン(Lys)を使用する場合も、得られる電流値は低いとしても、整流作用を得ることができると結論づけることができる。
【0045】
以上、現時点において、最も実践的であり、且つ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う固体電解質或いは電気化学素子もまた本発明の技術範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【0046】
例えば、上記説明においては、固体電解質10において、アミノ酸の他、糖やセルロース等が含まれるものとして説明したが本発明はこの形態に限定されるものではない。例えば、固体電解質10の性質を損なわない範囲で、他の成分が含まれていてもよいし、上記糖やセルロース等が含まれない形態であってもよい。ただし、生体親和性により優れ、良好な整流特性を得ることができる観点から、固体電解質10は、アミノ酸の他、糖やセルロース等の生体材料によって構成されていることが好ましい。
【0047】
また、上記説明においては、固体電解質10が、ゲルを構成するための固体粉末を、アミノ酸が溶解された溶液に添加・溶解させる工程を経て、ゲル化させることによって作製されるものとして説明したが、本発明はこの形態に限定されるものではない。例えば、アミノ酸を溶解させた溶液中に、高分子或いはモノマーを添加し重合・架橋させて各層1、2を作製し、固体電解質10としてもよい。或いは、粉末状の高分子等とアミノ酸とを混合したものを層状(2層)に設け、ここに別途ゲル化前の溶液を添加して層1、2とし、固体電解質10を構成してもよい。ただし、より容易且つ確実に固体電解質10を作製する観点からは、溶媒にアガロース等の固体粉末を加熱溶解させた後、溶液を冷却してゲル状とする等、粉末を溶媒に溶解させる工程を経て固体電解質10を作製することが好ましい。