特許第5697122号(P5697122)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5697122チタン低次酸化物によるNOxの分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5697122
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】チタン低次酸化物によるNOxの分解方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/94 20060101AFI20150319BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20150319BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20150319BHJP
   B01J 21/06 20060101ALI20150319BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   B01D53/36 102C
   F01N3/10 AZAB
   F01N3/28 301C
   B01J21/06 A
   B01J35/04 A
【請求項の数】11
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2009-34342(P2009-34342)
(22)【出願日】2009年2月17日
(65)【公開番号】特開2010-188266(P2010-188266A)
(43)【公開日】2010年9月2日
【審査請求日】2012年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100085279
【弁理士】
【氏名又は名称】西元 勝一
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(74)【代理人】
【識別番号】100086896
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】水口 仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂
(72)【発明者】
【氏名】山口 大悟
【審査官】 山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−144147(JP,A)
【文献】 特開2005−103471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34
B01J 21/00 − 38/00
CAplus(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NOの分解方法であって、チタン低次酸化物(TiO(0<x<2))を水分の存在下で加熱してTi3+又はTi4+を発生させ、その際に放出される電子にNOを接触させて還元することを特徴とするチタン低次酸化物によるNOの分解方法。
【請求項2】
支持体上に担持したチタン低次酸化物を用いる請求項1記載のチタン低次酸化物によるNOの分解方法。
【請求項3】
支持体が金属、セラミック、炭素である請求項2記載のチタン低次酸化物によるNOの分解方法。
【請求項4】
支持体が多孔体である請求項3記載のチタン低次酸化物によるNOの分解方法。
【請求項5】
多孔体がセラミックである請求項4記載のチタン低次酸化物によるNOの分解方法。
【請求項6】
セラミック多孔体がコージライトハニカムである請求項5記載のチタン低次酸化物によるNOの分解方法。
【請求項7】
加熱温度が、200〜500℃である請求項1記載のチタン低次酸化物によるNOの分解方法。
【請求項8】
チタン低次酸化物の支持体上への担持は、非水溶液系TiO懸濁液をスプレーガンにて支持体に吹付・乾燥する方法である請求項2記載のチタン低次酸化物によるNOの分解方法。
【請求項9】
チタン低次酸化物の支持体上への担持は、支持体を一つの極にして、非水溶液系TiO懸濁液よりTiOを電気泳動電着させる方法である請求項2記載のチタン低次酸化物によるNOの分解方法。
【請求項10】
チタン低次酸化物の支持体上への担持は、支持体を、非水溶液系TiO懸濁液中に浸漬・乾燥させる方法である請求項2記載のチタン低次酸化物によるNOの分解方法。
【請求項11】
非水溶液系TiO懸濁液中にニトロセルロースを含有する請求項8乃至10いずれか1記載のチタン低次酸化物によるNOの分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NOの分解に関するものであり、具体的には、ディーゼル自動車から排出されるNOを、チタン低次酸化物の還元力を利用した分解方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
NOを代表例とする揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds )の分解については、これまでに幾つかの提案がなされてきたが、いずれも社会の要請に充分にマッチするものではない。具体的には、光触媒、オゾン、プラズマ、微生物等による分解方法が提案されているが、いずれも分解能力の小さいことが欠点であり、限定された風量、濃度の排気ガスにしか適応できないシステムであって、しかも、VOCをゼロベースまで完全分解することが難しいとされている。
【0003】
本発明者らは、既に、酸化物半導体を熱励起(熱触媒)することによって大量に発生する正孔を利用し、有機化合物を水と炭酸ガスにまで完全に燃焼分解する技術を提供している(特許文献1)。そして、かかる熱励起によってもたらされる酸化物半導体の分解能力を利用し、NOなどのVOCの分解除去にターゲットを絞って開発を進めてきた。
【0004】
酸化物半導体を基材の表面に担持させる一例として、金属やセラミックなどからなる基材の表面に、チタンまたはチタン合金からなる粉体粒子を噴射し、当該基材の表面にチタニア被膜を形成する技術がある(特許文献2、3)。これは、熱触媒の対象の一つとしても考えられる。
【0005】
さて、これら特許文献2〜3の代表例は、例えば、球状の酸化アルミ(Al)の表面に酸化チタン(TiO)を被覆するいわゆるチタンボール((株)不二機販製:PIPボール)と呼ばれるものである。しかるに、実際のチタンボールの被覆構造は、酸化チタンが一様に被覆されているものではなく、酸素濃度が傾斜的に変化する構造(TiO/TiO/Ti/Al)であるとされ、非特許文献1のFig.1(a)にその模式図が記載されている。そして、この傾斜構造を持つために広い波長に対して応答する光触媒(酸化作用)として有効であるとされている。
【0006】
しかるに、かかるチタンボールの表面の色(ほぼ金属チタンの色)、及び、表面の電気抵抗が10〜1012オームのオーダーと広い範囲にばらついていることから、非特許文献1のFig.1(b)のような構造であると推定した。つまり、TiO層は50〜100A程度の薄い膜であること、Ti金属が露出している箇所や、下地のAlが見えているところもある構造であると推定した。
【0007】
従って、このチタンボールを熱触媒として利用するには、低次酸化部位を酸化することによりTiO/Alの構造とする必要があると推定し、空気中で800℃程度で加熱し、これを熱触媒としてVOCの分解に供した。結果は推定通りとなり、VOCの熱分解が可能となったもので、その知見から特許文献4を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-139440号公報
【特許文献2】特開2000-061314号公報
【特許文献3】USP6638634号明細書
【特許文献4】特開2008-221088号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本金属学会(The Japan Institute of Metals) (Materials Transactions, Vol.50、No.02(2009)pp418-418
【非特許文献2】日本機会学会講習会(エンジン技術の基礎と応用(その18)、19-21頁)(2008年11月25日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、チタン低次酸化物を熱励起することによってNOを分解する技術の開発にあって、チタンの低次酸化物が極めて強い還元力を持つことを見出し、かかる知見に基づいてNOの完全分解を試み、本発明に到達したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は、チタン低次酸化物(TiO(0<x<2))の還元力を用いるNOの分解方法であって、チタン低次酸化物を水分の存在下で加熱してTi3+又はTi4+を発生させ、その際に放出される電子を200〜500℃でNOに接触させて還元分解することを特徴とする。
【0012】
通常は、チタン低次酸化物を、金属、セラミック、炭素から選ばれた支持体上に担持して用いるものである。かかる支持体の好適例としてはセラミック多孔体であり、特に、コージライトハニカムが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、水分の存在下において、TiOに強力な還元力があることを見出し、これを利用してNOの分解に利用したものであり、酸素が共存するとNOが完全に窒素ガスと水とに分解されるものであり、その分解能力はきわめて高い。そして、チタンの低次酸化物は粉体状態で容易に入手でき、コージライトハニカム等に簡単に担持することができるため、コンパクトな分解素子を構築することが可能となったものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は実験例1におけるNOの分解を示すグラフである。
図2図2は実験例2におけるNOの分解を示すグラフである。
図3図3は実験例3におけるNOの分解を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明にあって、チタンの低次酸化物(TiO(0<x<2))に強い還元作用があることを見出したのがその端緒である。即ち、チタンの低次酸化物(TiO(0<x<2))において水分の存在下でTiOが溶出して3価又は4価のTiイオン(Ti3+又はTi4+)になる。かかる溶解反応の際に放出される電子に基づく還元力を利用してNOの分解に発展させたものである。
【0016】
さて、前述のチタンボールは非特許文献1のFig.1(b)のような構造であると推定したが、これを精査するに、金属のチタン(Ti)及び二酸化チタン(TiO)は全く水に溶けないが、この中間にある部分的に露出したチタンの低次酸化物(TiO(0<x<2))起因するもので、これが水に溶け、Ti3+又はTi4+となることが分かった。つまり、チタンボールにはTiOに起因する強力な還元性質があることを突き止め、これをNO分解に応用したのが本発明である。
【0017】
そして、還元力の源泉となるチタンの低次酸化物は、取り扱い上支持体に担持されることが望ましく、用いられる支持体としては、金属、セラミック、炭素等が例示され、40〜100メッシュのSUSメッシュや、多孔構造体が好適である。多孔構造体としては、セラミックス製の多孔体が好ましく、ハニカム多孔体や三次元網状構造体が挙げられる。中でも、コージライト製のものが好適である。
【0018】
チタン低次酸化物の支持体上への担持の方法は、非水溶液系TiO懸濁液をスプレーガンにて支持体に吹付・乾燥する方法、支持体が金属の場合には、支持体を一つの極にして、非水溶液系TiO懸濁液よりTiOを電気泳動電着させる方法、支持体を非水溶液系TiO懸濁液中に浸漬・乾燥させる方法などがある。尚、非水溶液系TiO懸濁液中にニトロセルロースを含有させることにより、TiO粉体(粒子)の分散性が極めてよくなることも知見の一つである。
【0019】
チタンの低次酸化物の強い還元性の発現には水の存在が必要であるが、例えば、ディーゼル油の燃焼の際に放出される水分で十分である。即ち、ディーゼル油の燃焼にあって、NOの処理は数多く提案されているが、自動車用に採用されている例の一つは、尿素と水を給油時に積み込み、エンジンの出口で尿素の分解から放出されるアンモニアを用いてNOを還元し、NとHOに変換する(非特許文献2)方式があるが、本発明における水はここで生じる程度のもので充分であり、従って、エンジン出口に本発明のチタンの低次酸化物を担持した支持体を装備すればNOの処理に充分である。
【0020】
市販されているチタンの低次酸化物である三菱マテリアル(株)のTi−Blackおよび日亜化学工業(株)の一酸化チタンはともに組成がTiO(0<x<2)で結晶状態はTiOのルチル型とアナターゼ型の混合物であり、使用後も結晶状態が変化していないことをラマンスペクトルならびに粉末X線回折により確認した。このことは使用済のTiO の再生処理は単にアンモニア等で酸素を抜く作業だけ簡単に済むことを裏付けるものである。
【0021】
実験例1:(チタンボールによるNOの分解)
還元力の源泉となるチタンの低次酸化物として、前述のチタンボール((株)不二機販製:PIPボール)を使用した。300mlのオートクレーブにチタンボールを250ml充填し、これに湿潤NO/Arガスを100ml/minの流量で導入した。分解ガスのNOはArで希釈し、約1000ppmとした。分解ガスの測定には(株)ULVAC製の四重極質量分析計RG−102を使用した。
図1に示す通り、120℃付近からNOの分解がはじまり、250℃では90%以上分解している。それと同時にアルゴン量の約0.25%アンモニアの生成が認められた。しかし、質量分析計でNは検出されなかった。
【0022】
実験例2:(チタンブラックによるNOの分解)
実験例1と同様の実験をチタンボールの代わりにチタンブラック粉末を用いて行った。TiOを主成分とするチタンブラックを三菱マテリアル(株)から購入した(商品名:Ti−Black−13M;比表面積:10−20m/g)。100mlのチタンブラック粉末をオートクレーブにチャージし、150rpmで攪拌した。
図2に示す通り、50℃あたりからNOの分解が始まり、200℃から急激な分解がおこり、400℃では90%の分解が観測された。これと同時にアンモニアの発生が観測された。アンモニア量はアルゴン量の0.7%程度であった。しかし、質量分析計でNは検出されなかった。
【0023】
尚、前述の非特許文献2において、“尿素と水”によるNO処理を見ると、尿素分解により生じるアンモニアとNOの反応で、NとHOが生成
してNOの浄化が達成されると記載されている。従って、アンモニアが発生することは歓迎されるべきことであって、NO処理の障害にはならない。
【0024】
実験例3:(チタンブラックによるNOの分解:水・酸素の存在下)
NO分解は空気中で行うことが想定されるので酸素のNO分解への影響を検討した。実験例2の実験で、キャリヤーをArと空気の混合ガス(体積比で1:1)とし、流量は40ml/minとした。
図3に示す通り、NOの急激な分解は250℃あたりから始まり、これと同時にNの急激な増加が認められた。また、アンモニアの発生はほぼゼロであった。500℃ではNOの80%が分解された。この実験例では実験例1と2で観測されたアンモニアがNとHOに分解されることを示唆している。
【0025】
実験例4:(一酸化チタンによるNOの分解)
実験例1で使用したオートクレーブを使い、チタンボールの代わりに顆粒状の一酸化チタン(TiO:日亜化学工業(株))を100mlチャージした。300mlのオートクレーブに顆粒状のTiOを充填し、湿潤NOガスはアルゴンで希釈し、約1000ppmとした。流量50ml/minで実験を行った。
分解は100℃近傍から始まり、250℃では約95%分解した。また、NOの分解に伴い、NOならびにアンモニアが生成し、その量はアルゴン量に対してそれぞれ、0.03,0.05%程度であった。
【0026】
実験例5:(一酸化チタンによるNOの分解)
日亜化学工業(株)から購入した顆粒状の一酸化チタン(TiO)を一軸粉砕し、100μm程度の粒子径とした。次に、ニトロセルロースを含むTiO懸濁液を調製し、これに直径26mm、長さ5mmのコージライトハニカム(200cpi:京セラ(株))を3秒間浸漬した。その後、空気中室温で乾燥させた。
湿潤NOガスはアルゴンで希釈し、約1000ppmとした。前記のように空気中で乾燥させたコージライトハニカムをパイレックス(登録商標)反応管に挿入し、外部ヒーターで加熱した。アルゴン希釈のNOガスを水中にバブリングし、流量10ml/minで管内に導入した。分解ガスの測定には四重極質量分析計を用いた。
分解開始温度は200℃近傍で、400℃では約90%分解していた。実施例4の流動床の場合と同様にNOの分解に伴い、NOならびにアンモニアの生成が認められた。アンモニアはアルゴン量の約0.05%であった。また、250℃から急激に上昇している。また、NOの分解開始温度も流動床に比べると約100℃高い。
【0027】
実験例6:(一酸化チタンによるNOの分解:水・酸素の存在下)
実験例5において、実験例3と同様にキャリヤーをArと空気の混合ガス(体積比で1:1)として実験を行った。
この実験例6では実験例3と同様、実験例5で観測されたアンモニアが完全分解され、NとHOに分解された。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、以上の通り、チタンの低次酸化物の還元的性質を使って、NO分解を試み、水又は酸素の非存在下でNO分解と共にアンモニアの発生が認められた。一方、水・酸素存在下ではアンモニアの発生は抑えられ、窒素のみが生成していることがわかった。しかも、チタン容易に担持の低次酸化物は粉体状態で容易に入手でき、かつ、コージライトハニカム等に容易に担持することができるため、コンパクトな浄化装置を構築することが可能であるとともに、長期間の使用により活性が低下した分解素子はアンモニアなどを用いる通常の還元処理により再活性化できるので、その利用分野は極めて広い。
図1
図2
図3