特許第5697199号(P5697199)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5697199-吸入用乾燥粉末医薬組成物 図000029
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5697199
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】吸入用乾燥粉末医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/351 20060101AFI20150319BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20150319BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20150319BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20150319BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20150319BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   A61K31/351
   A61K9/72
   A61K47/26
   A61K9/19
   A61K9/14
   A61P31/16
【請求項の数】26
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2010-544095(P2010-544095)
(86)(22)【出願日】2009年12月24日
(86)【国際出願番号】JP2009071380
(87)【国際公開番号】WO2010074113
(87)【国際公開日】20100701
【審査請求日】2012年7月10日
(31)【優先権主張番号】特願2008-328006(P2008-328006)
(32)【優先日】2008年12月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2009-253610(P2009-253610)
(32)【優先日】2009年11月5日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113583
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 範子
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【弁理士】
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100164460
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100119622
【弁理士】
【氏名又は名称】金原 玲子
(72)【発明者】
【氏名】宮島 誠
(72)【発明者】
【氏名】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】井上 和博
(72)【発明者】
【氏名】公文 道子
(72)【発明者】
【氏名】石田 勝康
(72)【発明者】
【氏名】石塚 一志
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0063722(US,A1)
【文献】 特許第4205314(JP,B2)
【文献】 特開2001−151673(JP,A)
【文献】 特表平08−501056(JP,A)
【文献】 特表2004−510806(JP,A)
【文献】 特表2005−505534(JP,A)
【文献】 特表2005−504774(JP,A)
【文献】 特表2004−500424(JP,A)
【文献】 特開2009−197025(JP,A)
【文献】 International Journal of Pharmaceutics,1999年,Vol.182,p.133-144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 9/00−72
A61K 47/00−48
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
で表される化合物[ただし、式(I)で表される化合物と共に、さらに、式(II)
【化2】
で表される化合物を含有してもよい。]の1水和物、又はその薬理上許容される塩を薬効成分とし、
薬効成分を、無水物に換算して4重量%乃至30重量%含有し、
薬効成分のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による50重量%の粒子径が3.2μm以下であり、かつ、薬効成分のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による90重量%の粒子径が8.0μm以下であり、
さらに賦形剤として2種類の異なる粒子径分布を有する乳糖水和物を含有し、
賦形剤が、粒子径分布が(条件−1)又は(条件−2)のいずれかを満たす乳糖水和物と、粒子径分布が(条件−3)又は(条件−4)のいずれかを満たす乳糖水和物とからなることを特徴とする吸入用乾燥粉末医薬組成物:
(条件−1):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:5μm−60μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:50μm−110μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:75μm−160μm、
(条件−2):気流中飛散法による粒子径分布が、
32μm未満の画分:5−10重量%、
63μm未満の画分:70−100重量%、
100μm未満の画分:100重量%、
(条件−3):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:3μm以下、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:20μm以下、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:54μm以下、
(条件−4):気流中飛散法による粒子径分布が、
45μm未満の画分:90−100重量%、
63μm未満の画分:98−100重量%、
150μm未満の画分:100重量%。
【請求項2】
薬効成分の微粒子化方法が、ジェットミル法であることを特徴とする請求項1に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【請求項3】
賦形剤が、(条件−1)を満たす乳糖水和物と、(条件−3)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−1)を満たす乳糖水和物がさらに下記(条件−5)を満たす乳糖水和物であることを特徴とする請求項1に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物:
(条件−5):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:19−43μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:53−66μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:75−106μm。
【請求項4】
賦形剤が、(条件−1)を満たす乳糖水和物と、(条件−3)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−1)を満たす乳糖水和物がさらに下記(条件−6)を満たす乳糖水和物であることを特徴とする請求項1に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物:
(条件−6):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:5−15μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:50−100μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:120−160μm。
【請求項5】
賦形剤が、(条件−1)を満たす乳糖水和物と、(条件−3)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−1)を満たす乳糖水和物がさらに下記(条件−7)を満たす乳糖水和物であることを特徴とする請求項1に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物:
(条件−7):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:30−60μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:70−110μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:110−150μm。
【請求項6】
賦形剤が、(条件−1)を満たす乳糖水和物と、(条件−3)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−3)を満たす乳糖水和物がさらに下記(条件−8)を満たす乳糖水和物であることを特徴とする請求項1に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物:
(条件−8):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:1−3μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:11−20μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:37−54μm。
【請求項7】
賦形剤が、(条件−1)を満たす乳糖水和物と、(条件−3)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−3)を満たす乳糖水和物がさらに下記(条件−9)を満たす乳糖水和物であることを特徴とする請求項1に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物:
(条件−9):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:5μm以下、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:10μm以下。
【請求項8】
賦形剤が、(条件−2)を満たす乳糖水和物と、(条件−3)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−3)を満たす乳糖水和物がさらに下記(条件−8)を満たす乳糖水和物であることを特徴とする請求項1に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物:
(条件−8):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:1−3μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:11−20μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:37−54μm。
【請求項9】
賦形剤が、(条件−2)を満たす乳糖水和物と、(条件−4)を満たす乳糖水和物とからなることを特徴とする請求項1に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【請求項10】
賦形剤が、(条件−1)を満たす乳糖水和物と、(条件−4)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−1)を満たす乳糖水和物がさらに下記(条件−5)を満たす乳糖水和物であることを特徴とする請求項1に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物:
(条件−5):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:19−43μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:53−66μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:75−106μm。
【請求項11】
賦形剤が、(条件−1)を満たす乳糖水和物と、(条件−3)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−1)を満たす乳糖水和物がさらに下記(条件−5)を満たす乳糖水和物であり、(条件−3)を満たす乳糖水和物がさらに下記(条件−8)を満たす乳糖水和物であることを特徴とする請求項1に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物:
(条件−5):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:19−43μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:53−66μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:75−106μm、
(条件−8):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:1−3μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:11−20μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:37−54μm。
【請求項12】
賦形剤が、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物との重量組成比が50:50−100:0であることを特徴とする請求項8に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【請求項13】
賦形剤が、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物との重量組成比が50:50−100:0であることを特徴とする請求項9に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【請求項14】
賦形剤が、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物との重量組成比が50:50−100:0であることを特徴とする請求項10に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【請求項15】
賦形剤が、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物との重量組成比が50:50−100:0であることを特徴とする請求項11に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【請求項16】
賦形剤が、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−5)を満たす乳糖水和物の粒子径制御法が篩過であり、(条件−4)を満たす乳糖水和物の粒子径制御法が粉砕であることを特徴とする請求項10又は請求項14に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【請求項17】
賦形剤が、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−5)を満たす乳糖水和物の粒子径制御法が篩過であり、(条件−8)を満たす乳糖水和物の粒子径制御法が粉砕であることを特徴とする請求項11又は請求項15に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【請求項18】
薬効成分を、無水物に換算して15重量%乃至25重量%含有する請求項1乃至17のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【請求項19】
薬効成分を、無水物に換算して20重量%含有する請求項1乃至17のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【請求項20】
物理的混合方法で製造される請求項1乃至19のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【請求項21】
請求項1に記載の式(I)で表される化合物[ただし、さらに、請求項1に記載の式(II)で表される化合物を含有してもよい。]の1水和物、又はその薬理上許容される塩を薬効成分として含有し、該薬効成分の用量が、無水物に換算して5乃至120mgであり、インフルエンザウイルスの発症前のヒトの呼吸器に吸入により投与される、インフルエンザの予防用の、請求項1乃至20のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【請求項22】
請求項1に記載の式(I)で表される化合物[ただし、さらに、請求項1に記載の式(II)で表される化合物を含有してもよい。]の1水和物、又はその薬理上許容される塩を薬効成分として含有し、該薬効成分の用量が、無水物に換算して5乃至120mgであり、インフルエンザウイルスの発症時のヒトの呼吸器に、1回の吸入または2回に分けての吸入により投与される、インフルエンザの治療用の、請求項1乃至20のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【請求項23】
薬効成分の用量が、無水物に換算して20mgであり、吸入による投与回数が1回である、請求項21又は22に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【請求項24】
薬効成分の用量が、無水物に換算して20mgであり、吸入による投与回数が2回である、請求項22に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【請求項25】
薬効成分の用量が、無水物に換算して40mgであり、吸入による投与回数が1回である、請求項21又は22のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【請求項26】
薬効成分の用量が、無水物に換算して80mgであり、吸入による投与回数が1回である、請求項21又は22のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイラミニダーゼ阻害活性を有する化合物を薬効成分とし、あるいは更に特定の粒子径分布を有する賦形剤を含有する、インフルエンザウイルス感染症の治療又は予防のための吸入用乾燥粉末医薬組成物に関する。さらに、本発明は、投与量・投与回数を特定したインフルエンザウイルス感染症の治療又は予防のための吸入用乾燥粉末医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第3209946号公報(特許文献1)には、下記式(I)で表される化合物を包含するノイラミニダーゼ阻害作用を示す化合物が開示されている。下記式(I)で表される化合物は優れたノイラミニダーゼ阻害作用を示し、インフルエンザウイルス感染症の治療薬及び予防薬としての有用性が期待される。特許第4205314号公報(特許文献2)には、下記式(I)で表される化合物が、肺等の呼吸器組織において濃度が長期にわたり持続することが開示されている(特許文献2)。
【0003】
下記式(I)で表される化合物は、受容者の呼吸器へ投与され、受容者の呼吸器組織(上気道、肺等)に滞留させることにより、インフルエンザウイルス感染症の治療/予防効果を発揮することができる。そのため、下記式(I)で表される化合物を経口吸収ではなく、非経口経路で呼吸器組織へ到達させる投与法および投与剤形が必要である。
【0004】
非経口経路で投与する剤形に、吸入剤がある。吸入剤としては、加圧液化した噴射剤中に薬剤を分散させこれを大気圧中に放出させて吸引する加圧式定量噴霧吸入製剤や、乾燥粉末吸入製剤がある。しかし、加圧式定量噴霧吸入製は、噴射剤にフロンを使用していたため、フロンの使用に対する規制や、代替フロンの示した高い温室効果による環境への影響とあいまって、1990年代、その使用は、急速に乾燥粉末吸入製剤により代替された。乾燥粉末吸入製剤として、例えば、本発明の吸入用乾燥粉末医薬組成物と同様に、ノイラミニダーゼ阻害作用を示す抗インフルエンザ薬であるザナミビル(商標名リレンザ)が挙げられる(特許文献3)。
【0005】
乾燥粉末吸入製剤は、具体的には、吸入用の粉末処方と、吸入用のデバイスからなる。粉末処方は、カプセル、ブリスター、デバイス内のリザーバーやドージングディスク等の容器に格納され、1回分の投与量の粉末を受容者自身の吸気によってデバイスより吸入する。受容者の呼吸器組織への到達可能な粒子径は、およそ2−4μmと言われている(非特許文献1)。また、4.7μm以下の粒子径を有する薬物量(fine particle dose)と、薬物の肺への到達量には相関があることが報告されている(非特許文献2)。そのため、乾燥粉末吸入製剤では、薬物を微細化する必要がある。
【0006】
しかし、微細化された薬物は、単独では流動性に劣り、製剤の製造工程において取扱いにくいという問題がある。また、微細化された薬物は、付着性が高くデバイスに付着するため、噴霧性に劣るという問題を生じる場合もある。
【0007】
これらの問題に対し、これまで知られている改良方法として、3つの方法がしられている。ひとつは、微細化した薬物よりも大きな30−300μmの粒子径を有する担体を配合することにより微細化した薬物の流動性と付着性の問題を改善する方法である。担体としては乳糖、グルコース等が使用されている。乳糖、グルコース等は粒子表面に表面エネルギーが高い部分があり、この部分に付着した微細化した薬物は、担体から離脱しにくい。そこで、乳糖、グルコース等を担体とする場合は、表面エネルギーが高い部分をまず微細化した粒子で被覆し、次に微細化した薬物を混合するという製造方法(オーダーミックス法)が用いられている(非特許文献3、4)。
【0008】
また、ひとつには、微細な薬物粒子を単独で、あるいは同じ粒子径の担体粒子と混合して、緩く結合した、より大きな粒子径の凝集塊とする方法である。
【0009】
また、ひとつには、多孔性粒子が幾何学的粒子径よりも小さな空気力学的粒子径を有する原理を利用して、薬剤を空隙率の大きな多孔性粒子とする方法である。多孔性粒子とすることにより、流動性や付着性の点で問題が生じにくいレベルの粒子径でありながら、吸引時には微細化した粒子に匹敵する肺への到達性を示す例が報告されている(非特許文献5)。
【0010】
優れたノイラミニダーゼ阻害作用を示し、インフルエンザウイルス感染症の治療薬及び予防薬としての有用性が期待される下記一般式(I)で表される化合物について、これまで、受容者へ投与し呼吸器組織に到達させるのに好適な剤形は見出されていない。呼吸器組織へ到達させるために好適な投与法および投与剤形の開発が望まれる。
【0011】
下記一般式(I)で表される化合物と同様に、ノイラミニダーゼ阻害作用を示す抗インフルエンザ薬の既存薬として、オセルタミビルリン酸塩(商標名タミフル、特許文献4)とザナミビル(商標名リレンザ、特許文献3)が挙げられる。これらの既存薬は、治療のためには1日2回5日間の反復投与が必要である。これらの既存薬より投与回数を減らすことができれば、服用時の利便性の改善が可能である。また、肺や器官などのウイルス増殖部位への長期滞留という特性から、1回または2回投与した後、ウイルスの感染拡大を抑制し、二次被害を阻止させることが出来るという利点も期待される。そこで、既存薬と同等又はそれ以上のノイラミニダーゼ阻害作用を発揮しながらも、既存薬より服用時の利便性に優れ、感染拡大抑制にも優れるような、投与量および投与回数で投薬できる抗インフルエンザ薬の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3209946号公報(米国特許第6340702号明細書、欧州特許第823428号明細書)
【特許文献2】特許第4205314号公報
【特許文献3】国際公開第91/16320号パンフレット
【特許文献4】国際公開第96/26933号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Thorax、51、pp977−980(1996)
【非特許文献2】Interpharm Press,pp273−281(1996)
【非特許文献3】J.Pharm Pharmacol,34,pp141−145(1982)
【非特許文献4】Powder Technol,11,pp41−44(1975)
【非特許文献5】Science,276,pp1868(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、インフルエンザウイルス感染症を治療/予防する薬剤について長年にわたり鋭意検討を行なった。その結果、下記式(I)を有し、ノイラミニダーゼ阻害活性を有する化合物を薬効成分とし、あるいは更に賦形剤を含有し、薬効成分、賦形剤、それぞれの粒子径分布を特定の範囲にすることにより、受容者の呼吸器組織(上気道、肺等)に効率よく到達させることができ(すなわち、呼吸器到達性に優れる)、さらに、流動性、充填性、分散性、吸入性に優れた、吸入用乾燥粉末医薬組成物とすることができることを見出し、本発明を完成した。更に、本発明者は、本発明の吸入用乾燥粉末医薬組成物について、優れた投与量・投与回数を見出し本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、
[1] 式(I):
【0016】
【化1】
【0017】
で表される化合物[ただし、式(I)で表される化合物と共に、さらに、式(II)
【0018】
【化2】
【0019】
で表される化合物を含有してもよい。]、その薬理上許容される塩、又はこれらの水和物を薬効成分として含有する吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[2] [1]に記載の式(I)で表される化合物[ただし、さらに、[1]に記載の式(II)で表される化合物を含有してもよい。]の水和物結晶を薬効成分として含有する吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[3] [1]に記載の式(I)で表される化合物[ただし、さらに、[1]に記載の式(II)で表される化合物を含有してもよい。]の1水和物結晶を薬効成分として含有する経口吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[4] [1]乃至[3]のいずれか1項に記載の薬効成分のみからなる吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[5] 薬効成分のレーザー回折散乱式粒度分布測定法における50重量%の粒子径が3.2μm以下であり、かつ、薬効成分のレーザー回折散乱式粒度分布測定法における90重量%の粒子径が8.0μm以下である[1]乃至[4]のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[6] 薬効成分の微粒子化方法が、乾式粉砕法(該乾式粉砕法は、ジェットミル法及びピンミル法からなる群より選択される。)、湿式粉砕法、噴霧乾燥法並びに凍結乾燥法からなる群より選択される方法であることを特徴とする[1]乃至[5]のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[7] 薬効成分の微粒子化方法が、ジェットミル法であることを特徴とする[1]乃至[5]のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[8] さらに賦形剤を含有する[1]、[2]、[3]、[5]乃至[7]から選択されるいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[9] 賦形剤が、
糖(該糖は、乳糖、マンニトール、マルトース及びグルコースからなる群より選択される。)、アミノ酸(該アミノ酸は、フェニルアラニン、ロイシン及びグリシンからなる群より選択される。)、
脂質(該脂質は、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、フマル酸ステアリルナトリウム及びレシチンからなる群より選択される。)、
無機塩(該無機塩は、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、第二リン酸カルシウム及び第三リン酸カルシウムからなる群より選択される。)、
高分子乳糖類(該高分子乳糖類は、ポリ乳糖及び乳酸−グリコール酸共重合体からなる群より選択される。)
及びこれらの水和物からなる群より選択されることを特徴とする[8]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[10] 賦形剤が、乳糖水和物である[8]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[11] 賦形剤が、1種類の乳糖水和物、又は、2種類の異なる粒子径分布を有する乳糖水和物の混合物である[8]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[12]賦形剤が、粒子径分布が(条件−1)又は(条件−2)のいずれかを満たす乳糖水和物と、粒子径分布が(条件−3)又は(条件−4)のいずれかを満たす乳糖水和物とからなることを特徴とする[8]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物:
(条件−1):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:5μm−60μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:50μm−110μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:75μm−160μm。
(条件−2):気流中飛散法による粒子径分布が、
32μm未満の画分:5−10重量%、
63μm未満の画分:70−100重量%、
100μm未満の画分:100重量%。
(条件−3):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:3μm以下、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:20μm以下、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:54μm以下。
(条件−4):気流中飛散法による粒子径分布が、
45μm未満の画分:90−100重量%、
63μm未満の画分:98−100重量%、
150μm未満の画分:100重量%、
[13]賦形剤が、(条件−1)を満たす乳糖水和物と、(条件−3)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−1)を満たす乳糖水和物がさらに下記(条件−5)を満たす乳糖水和物であることを特徴とする[12]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物:
(条件−5):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:19−43μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:53−66μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:75−106μm、
[14]賦形剤が、(条件−1)を満たす乳糖水和物と、(条件−3)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−1)を満たす乳糖水和物がさらに下記(条件−6)を満たす乳糖水和物であることを特徴とする[12]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物:
(条件−6):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:5−15μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:50−100μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:120−160μm、
[15]賦形剤が、(条件−1)を満たす乳糖水和物と、(条件−3)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−1)を満たす乳糖水和物がさらに下記(条件−7)を満たす乳糖水和物であることを特徴とする[12]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物:
(条件−7):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:30−60μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:70−110μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:110−150μm、
[16]賦形剤が、(条件−1)を満たす乳糖水和物と、(条件−3)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−3)を満たす乳糖水和物がさらに下記(条件−8)を満たす乳糖水和物であることを特徴とする[12]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物:
(条件−8):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:1−3μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:11−20μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:37−54μm、
[17]賦形剤が、(条件−1)を満たす乳糖水和物と、(条件−3)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−3)を満たす乳糖水和物がさらに下記(条件−9)を満たす乳糖水和物であることを特徴とする[12]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物:
(条件−9):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:5μm以下、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:10μm以下、
[18]賦形剤が、(条件−2)を満たす乳糖水和物と、(条件−3)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−3)を満たす乳糖水和物がさらに[16]に記載の(条件−8)を満たす乳糖水和物であることを特徴とする[12]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[19]賦形剤が、(条件−2)を満たす乳糖水和物と、(条件−4)を満たす乳糖水和物とからなることを特徴とする[12]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[20]賦形剤が、(条件−1)を満たす乳糖水和物と、(条件−4)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−1)を満たす乳糖水和物がさらに[13]に記載の(条件−5)を満たす乳糖水和物であることを特徴とする[12]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[21]賦形剤が、(条件−1)を満たす乳糖水和物と、(条件−3)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−1)を満たす乳糖水和物がさらに[13]に記載の(条件−5)を満たす乳糖水和物であり、(条件−3)を満たす乳糖水和物がさらに[16]に記載の(条件−8)を満たす乳糖水和物であることを特徴とする[12]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[22]賦形剤が、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物との重量組成比が50:50−100:0であることを特徴とする[18]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
[23]賦形剤が、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物との重量組成比が50:50−100:0であることを特徴とする[19]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
[24]賦形剤が、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物との重量組成比が50:50−100:0であることを特徴とする[20]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
[25]賦形剤が、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物との重量組成比が50:50−100:0であることを特徴とする[21]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
[26]賦形剤が、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−2)を満たす乳糖水和物の粒子径制御法が篩過であり、(条件−8)を満たす乳糖水和物の粒子径制御法が粉砕であることを特徴とする[18]又は[22]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
[27]賦形剤が、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−2)を満たす乳糖水和物の粒子径制御法が篩過であり、(条件−4)を満たす乳糖水和物の粒子径制御法が粉砕であることを特徴とする[19]又は[23]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
[28]賦形剤が、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−5)を満たす乳糖水和物の粒子径制御法が篩過であり、(条件−4)を満たす乳糖水和物の粒子径制御法が粉砕であることを特徴とする[20]又は[24]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
[29]賦形剤が、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−5)を満たす乳糖水和物の粒子径制御法が篩過であり、(条件−8)を満たす乳糖水和物の粒子径制御法が粉砕であることを特徴とする[21]又は[25]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
[30] 薬効成分を無水物に換算して4重量%乃至30重量%含有する[1]、[2]、[3]、[5]乃至[29]のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[31] 薬効成分を無水物に換算して15重量%乃至25重量%含有する[1]、[2]、[3]、[5]乃至[29]のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[32] 薬効成分を、無水物に換算して20重量%含有する[1]、[2]、[3]、[5]乃至[29]のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[33] 物理的混合方法、噴霧乾燥法及び凍結乾燥法からなる群から選択される方法で製造される[1]乃至[32]のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[34] 物理的混合方法で製造される[1]乃至[32]のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[35] [1]に記載の式(I)で表される化合物[ただし、さらに、[1]に記載の式(II)で表される化合物を含有してもよい。]、その薬理上許容される塩、又はこれらの水和物を薬効成分として含有し、該薬効成分の用量が、無水物に換算して5乃至120mgであり、インフルエンザウイルス感染症の発症前のヒトの呼吸器に吸入により投与される[1]乃至[34]のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[36] [1]に記載の式(I)で表される化合物[ただし、さらに、[1]に記載の式(II)で表される化合物を含有してもよい。]、その薬理上許容される塩、又はこれらの水和物を薬効成分として含有し、該薬効成分の用量が、無水物に換算して5乃至120mgであり、インフルエンザウイルス感染症の発症時のヒトの呼吸器に、1回の吸入または2回に分けての吸入により投与される[1]乃至[34]のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[37] 薬効成分の用量が、無水物に換算して20mgであり、吸入による投与回数が1回である、[35]又は[36]のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[38] 薬効成分の用量が、無水物に換算して20mgであり、吸入による投与回数が2回である、[36]に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
[39] 薬効成分の用量が、無水物に換算して40mgであり、吸入による投与回数が1回のみである、[35]又は[36]のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、及び
[40] 薬効成分の用量が、無水物に換算して80mgであり、吸入による投与回数が1回のみである、[35]又は[36]のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物。
【0020】

上記式(II)で表される化合物(以下、化合物(II)とも記す。以下、本明細書において他の化合物も同様に記載する。)は、側鎖の2位のアシルオキシ基が分子内アシル転移反応により側鎖の3位に転移して、化合物(I)になりうる。そのため、化合物(I)を合成する際、得られる化合物に化合物(I)と共に化合物(II)も含有されうる。
【0021】
化合物(I)は、温血動物に投与されたとき、側鎖の3位のアシルオキシ基が加水分解等の代謝反応によりヒドロキシル基に変換され、生成した化合物(III):
【0022】
【化3】

【0023】
が薬理活性を示すことが知られている(特許文献1等)。また、化合物(II)が温血動物に投与されたとき、側鎖の2位のアシルオキシ基が加水分解等の代謝反応によりヒドロキシル基に変換され、同様に化合物(III)が生成する。温血動物の生体内では、化合物(I)および化合物(II)はいずれも活性代謝物である同一の化合物(III)へ変換される。
【0024】
これらのことから、化合物(I)および化合物(II)はいずれも本発明の吸入用乾燥粉末医薬組成物の有効成分であり、化合物(I)および化合物(II)の混合物も本発明の医薬組成物の有効成分である。
【0025】
なお、[1]に記載の式(I)と式(II)は、2式を併せて下記一般式(IV)
【0026】
【化4】
【0027】
[式中、R及びRは、いずれか一方が水素原子を表し、他方は式CH(CHCO−で表わされる基を表す。] で表わすことができる。
【0028】
以下に記載する、一般式(IV’)で表される化合物、一般式(IV’)で表される化合物の混合物、それらの薬理上許容される塩、又はそれらの水和物を薬効成分として含有する吸入用乾燥粉末医薬組成物も、本発明に包含される。すなわち、
(1) 一般式(IV’):
【0029】
【化5】
【0030】
[式中、
及びRは、いずれか一方が水素原子を表し、他方は式CH(CHCO−で表わされる基を表す。]
で表される化合物、一般式(IV’)で表される化合物の混合物、これらの薬理上許容される塩、又はこれらの水和物を薬効成分として含有する吸入用乾燥粉末医薬組成物、
(2) 上記(1)に記載の一般式(IV’)で表される化合物又は、一般式(IV’)で表される化合物の混合物の水和物結晶を薬効成分として含有する経口吸入用乾燥粉末医薬組成物
(3) 上記(1)又は(2)に記載の薬効成分のみからなる吸入用乾燥粉末医薬組成物、
(4) 薬効成分の50重量%粒子径が3.2μm以下であり、かつ、薬効成分の90重量%粒子径が8.0μm以下である上記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
(5) 薬効成分の微粒子化方法が、乾式粉砕法(該乾式粉砕法は、ジェットミル法及びピンミル法からなる群より選択される。)、湿式粉砕法、噴霧乾燥法並びに凍結乾燥法からなる群より選択される方法であることを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
(6) 薬効成分の微粒子化方法が、ジェットミル法であることを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
(7) さらに賦形剤を含有する上記(1)、(2)、(4)、(5)及び(6)から選択されるいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
(8) 賦形剤が、
糖(該糖は、乳糖、マンニトール、マルトース及びグルコースからなる群より選択される。)、アミノ酸(該アミノ酸は、フェニルアラニン、ロイシン及びグリシンからなる群より選択される。)、
脂質(該脂質は、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、フマル酸ステアリルナトリウム及びレシチンからなる群より選択される。)、
無機塩(該無機塩は、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、第二リン酸カルシウム及び第三リン酸カルシウムからなる群より選択される。)、
高分子乳糖類(該高分子乳糖類は、ポリ乳糖及び乳酸−グリコール酸共重合体からなる群より選択される。)
及びこれらの水和物からなる群より選択されることを特徴とする請求項7に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
(9) 賦形剤が、乳糖水和物である上記(7)に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
(10) 賦形剤が、1種類の乳糖水和物、又は、2種類の異なる粒子径分布を有する乳糖水和物の混合物である上記(7)に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
(11) 賦形剤が、粒子径分布が(条件−A)又は(条件−B)のいずれかを満たす乳糖水和物と、粒子径分布が(条件−C)又は(条件−D)のいずれかを満たす乳糖水和物とからなることを特徴とする上記(7)に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物:
(条件−A):32μm未満の画分:5重量%−10重量%、
63μm未満の画分:70重量%−100重量%、
100μm未満の画分:100重量%、
(条件−B):10重量%の乳糖水和物の粒子径:5μm−15μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:50μm−100μm
90重量%の乳糖水和物の粒子径:120μm−160μm、
(条件−C):45μm未満の画分:90重量%−100重量%
63μm未満の画分:98重量%−100重量%
150μm未満の画分:100重量%、
(条件−D):50重量%の乳糖水和物の粒子径:5μm以下
90重量%の乳糖水和物の粒子径:10μm以下。
(12) 賦形剤が、(条件−A)を満たす乳糖水和物と、(条件−C)を満たす乳糖水和物とからなることを特徴とする上記(11)に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
(13) 賦形剤が、(条件−A)を満たす乳糖水和物と(条件−C)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−A)を満たす乳糖水和物と(条件−C)を満たす乳糖水和物との重量組成比が75:25−100:0であることを特徴とする上記(11)に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
(14) 賦形剤が、(条件−A)を満たす乳糖水和物と(条件−C)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−A)を満たす乳糖水和物の粒子径制御法が篩過であり、(条件−C)を満たす乳糖水和物の粒子径制御法が粉砕であることを特徴とする上記(11)乃至(13)のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
(15) 薬効成分を4重量%乃至30重量%含有する上記(1)、(2)、(4)乃至(14)のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
(16) 薬効成分を15重量%乃至25重量%含有する上記(1)、(2)、(4)乃至(14)のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
(17) 物理的混合方法、噴霧乾燥法及び凍結乾燥法からなる群から選択される方法で製造される上記(1)乃至(16)のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物、
および、
(18) 物理的混合方法で製造される上記(1)乃至(16)のいずれか1項に記載の吸入用乾燥粉末医薬組成物
である。
【0031】
なお、薬効成分の50重量%粒子径と90重量%粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定される。
【0032】
上記(1)に記載する「一般式(IV’)で表される化合物の混合物」とは、化合物(I)と化合物(II)の混合物のことである。
【0033】
さらに、本発明の吸入用乾燥粉末医薬組成物を受容者の呼吸器へ投与することにより、ノイラミニダーゼ阻害活性を有する化合物を受容者の呼吸器組織(上気道、肺等)に到達させ滞留させることを特徴とするインフルエンザウイルス感染症の治療/予防方法を提供する。
【0034】
ここで、ノイラミニダーゼ阻害活性とは、インフルエンザウイルスが増殖するために必須の酵素であるノイラミニダーゼ(本酵素はシアリダーゼとも呼ばれる)の機能を阻害する作用をいう。
【0035】
本発明の吸入用乾燥粉末医薬組成物(以下、本発明の医薬組成物ともいう。)の薬効成分は、化合物(I)、すなわち、(2R,3R,4S)−3−アセトアミド−4−グアニジノ−2−[(1R,2R)−2−ヒドロキシ−1−メトキシ−3−(オクタノイルオキシ)プロピル]−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−6−カルボン酸[ただし、式(I)で表される化合物と共に、さらに、[1]に記載の化合物(II)、すなわち、(2R,3R,4S)−3−アセトアミド−4−グアニジノ−2−[(1S,2R)−3−ヒドロキシ−1−メトキシ−2−(オクタノイルオキシ)プロピル]−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−6−カルボン酸を含有してもよい。]、その薬理上許容される塩、又はこれらの水和物である。より好ましくは、化合物(I)[ただし、さらに、化合物(II)を含有してもよい。]の水和物結晶である。さらに好ましくは、化合物(I)[ただし、さらに、化合物(II)を含有してもよい。]の1水和物結晶である。
【0036】
化合物(I)及び化合物(II)は、分子内にグアニジノ基及びカルボキシル基を有するので、薬理的に毒性を示さない酸又は塩基と結合して薬理上許容される塩を形成することができる。化合物(I)及び化合物(II)の「その薬理上許容される塩」とは、このような塩をいう。
【0037】
「薬理上許容される塩」としては、例えばフッ化水素酸塩、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩のようなハロゲン化水素酸塩;硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、リン酸塩のような無機酸塩;メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩のようなアルカンスルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩のようなアリールスルホン酸塩;酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、しゅう酸塩、マレイン酸塩のような有機酸塩;グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩のようなアミノ酸塩;リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩のような金属塩;アンモニウム塩、t−オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、エチレンジアミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、プロカイン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩のような有機アミン若しくは有機アンモニウム塩等を挙げることができ、好適にはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩;酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩のような有機酸塩;または塩酸塩、硫酸塩のような無機酸塩である。
【0038】
化合物(I)、化合物(II)及びその薬理上許容される塩は、大気中に放置したり、水と混和したりすることによって水を吸収し、水和物を形成する場合がある。化合物(I)、化合物(II)やその薬理上許容される塩の水和物とは、このような水和物をいう。
【0039】
化合物(I):(2R,3R,4S)−3−アセトアミド−4−グアニジノ−2−[(1R,2R)−2−ヒドロキシ−1−メトキシ−3−(オクタノイルオキシ)プロピル]−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−6−カルボン酸の水和物結晶は、特許第3920041号公報(米国特許6844363号公報、欧州特許1277750号公報に相当する)に開示されており、銅のKα線の照射で得られる粉末X線回折において、面間隔が4.0、4.4、4.7、7.5及び10.2オングストロームに主ピークを示す水和物結晶である。
【0040】
ここで主ピークとは、面間隔d=4.7オングストロームを示すピークの強度を100としたときの相対強度が80以上のピークである。
【0041】
面間隔d(単位:オングストローム)は、式 2dsinθ=nλ においてn=1として算出することができる。
【0042】
本発明の医薬組成物の薬効成分の粒子径分布については、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による50重量%の粒子径D50が3.2μm以下であり、かつ、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による90重量%の粒子径D90が8.0μm以下であることが好ましい。この範囲であると、本発明の薬効成分は特に吸入性に優れ、高い呼吸器到達性を有し咽頭を通過して肺深部にまで到達することができ、その結果、高くかつ長期にわたる抗インフルエンザ活性を発揮する。
【0043】
本発明の医薬組成物は、薬効成分のみから構成されていてもよいが、薬効成分に加えて、賦形剤を含有しても良い。
【0044】
賦形剤は、薬効成分と混合されることにより、賦形剤の表面に薬効成分を担持して、薬効成分を運ぶキャリアーの役割を果たす。また、薬効成分と混合されることにより、本発明の医薬組成物の凝集を防ぐことができる。
【0045】
賦形剤は、糖(該糖は、乳糖、マンニトール、マルトース及びグルコースからなる群より選択される。)、アミノ酸(該アミノ酸は、フェニルアラニン、ロイシン及びグリシンからなる群より選択される。)、脂質(該脂質は、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、フマル酸ステアリルナトリウム及びレシチンからなる群より選択される。)、無機塩(該無機塩は、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、第二リン酸カルシウム及び第三リン酸カルシウムからなる群より選択される。)、高分子乳糖類(該高分子乳糖類は、ポリ乳糖及び乳酸−グリコール酸共重合体からなる群より選択される。)及びこれらの水和物からなる群より選択することができる。
【0046】
これらの中でも、好ましくは、糖であり、より好ましくは、乳糖であり、より更に好ましくは、乳糖水和物である。一般に、乳糖水和物は結晶状である。
【0047】
尚、乳糖水和物は、日本薬局方第15改正において「β−D−Galactopyranosyl-(1→4)-α-glucopyranoseの一水和物である。」と定義されており、α乳糖水和物とも言われる。すなわち、乳糖水和物とα乳糖水和物は同義である。
【0048】
賦形剤は、1種類の賦形剤を用いてもよいが、2種類以上の賦形剤を混合して用いても良い。また、1種類の賦形剤の中で、2種類以上の異なる粒子径分布を有する賦形剤を混合して用いても良い。
【0049】
特に、2種類の異なる粒子径分布を有する乳糖水和物を混合して用いるのが好ましい。2種類以上の異なる粒子径分布を有する賦形剤を混合すると、賦形剤表面に付着した薬効成分が、受容者の吸気活動により吸入器から排出される際に、賦形剤から分散しやすくなるので好ましい。
【0050】
2種類の異なる粒子径分布を有する乳糖水和物としては、その粒子径分布が、以下に示す(条件−1)又は(条件−2)のいずれかを満たす乳糖水和物と、粒子径分布が(条件−3)又は(条件−4)のいずれかを満たす乳糖水和物とからなることが好ましい:
(条件−1):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:5μm−60μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:50μm−110μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:75μm−160μm。
(条件−2):気流中飛散法による粒子径分布が、
32μm未満の画分:5−10重量%、
63μm未満の画分:70−100重量%、
100μm未満の画分:100重量%。
(条件−3):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:3μm以下、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:20μm以下、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:54μm以下。
(条件−4):気流中飛散法による粒子径分布が、
45μm未満の画分:90−100重量%、
63μm未満の画分:98−100重量%、
150μm未満の画分:100重量%。
【0051】
ここで、レーザー回折散乱式粒度分布測定法(Particle size analysis. Laser diffraction methods)とは、粒子群にレーザー光を照射し、そこから発せられる回折・散乱光の強度分布パターンから計算によって粒度分布を求める方法である。測定方法は、国際標準化機構により発行されたISO13320に規定されており、国際標準化されている。レーザー回折散乱式粒度分布測定法により得られる重量基準累積粒度分布曲線の10%、50%、90%における粒子径をそれぞれ10重量%粒子径、50重量%粒子径、90重量%粒子径、とする。
【0052】
気流中飛散法は、標準化されたエアージェットを用いて粉末を撹乱させながらふるいを用いて粒度分布を測定する方法である。気流中飛散法は、日本薬局方の「一般試験法、3.粉体物性測定法、3.04 粒度測定法 第2法 ふるい分け法、(2)気流中飛散法 エアージェット法」(第十五改正日本薬局方、廣川書店、158頁参照。)に記載されている。測定に用いられるふるいについて、第十五改正日本薬局方に「表 3.04−1 関係する範囲における標準ふるいの目開き寸法」(154頁)として、日本薬局方ふるい番号とともに、対応するISO公称ふるい番号、USPふるい番号、EPふるい番号が開示されており、米国や欧州の粒度分布の試験方法にも対応できる測定方法である。気流中飛散法として、具体的には、例えば、第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店、2006)の「B.一般試験法3.04 粒度測定 第2法ふるい分け法 ふるい分け法 2)気流中飛散法 エアージェット法及びソニック・シフター法」(B−421ページ)の注20に記載される、ALPINE社(ドイツ)が開発した粉体粒度測定器エアージェットシーブ(Alpine air jet sieve)を用いて測定をすることができる。測定結果は、ふるい上に残留する試料の質量を正確に量り、ふるい径範囲内の粉体の質量基準百分率(%)として与えられる。例えば、ふるい径がdμmである場合に、ふるいを通過した粉末重量の割合がA重量%のとき、粒子径dμm未満の画分の重量がA重量%となる
(条件−1)を満たす粒子径分布の好ましい例として、以下の(条件−5)、(条件−6)及び(条件−7)を挙げることができる。
(条件−5):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:19−43μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:53−66μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:75−106μm。
(条件−6):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:5−15μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:50−100μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:120−160μm。
(条件−7):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:30−60μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:70−110μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:110−150μm。
【0053】
(条件−3)を満たす粒子径分布の好ましい例として、以下の(条件−8)及び(条件−9)を挙げることができる。
(条件−8):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:1−3μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:11−20μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:37−54μm。
(条件−9):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:5μm以下、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:10μm以下。
【0054】
2種類の異なる粒子径分布を有する乳糖水和物の組み合わせとしては、(条件−1)を満たす乳糖水和物と(条件−3)を満たす乳糖水和物との組み合わせが好ましく、(条件−1)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物との組み合わせがより好ましく、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−3)を満たす乳糖水和物との組み合わせがより更に好ましく、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物との組み合わせが特に好ましい。
【0055】
(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−3)を満たす乳糖水和物との好ましい組み合わせとして、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物、及び、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−9)を満たす乳糖水和物の組み合わせを挙げることができる。
【0056】
(条件−1)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物との好ましい組み合わせとして、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物、(条件−6)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物、及び、(条件−7)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物の組み合わせを挙げることができる。
【0057】
(条件−1)を満たす乳糖水和物と(条件−3)を満たす乳糖水和物との好ましい組み合わせとして、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−3)を満たす乳糖水和物、(条件−6)を満たす乳糖水和物と(条件−3)を満たす乳糖水和物、(条件−7)を満たす乳糖水和物と(条件−3)を満たす乳糖水和物、(条件−1)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物、及び、(条件−1)を満たす乳糖水和物と(条件−9)を満たす乳糖水和物の組み合わせを挙げることができる。
【0058】
これらの組み合わせの中でも、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物、及び、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物の組み合わせが特に好ましい。
【0059】
賦形剤の粒子径分布がこの範囲であると、本発明の医薬組成物は、吸入器内で凝集、付着しにくくなり、流動性が良好であり好ましい。吸入器からの噴霧性も良好であり好ましい。また、賦形剤表面に付着した薬効成分が、受容者の吸気活動による気流の流れの中で賦形剤からはがれやすく、受容者の呼吸器組織により効率的に到達するので好ましい。
【0060】
賦形剤が、(条件−1)を満たす乳糖水和物と(条件−3)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−1)を満たす乳糖水和物と(条件−3)を満たす乳糖水和物との重量組成比が50:50−100:0であることが好ましく、75:25−100:0であることがより好ましい。
【0061】
さらに、賦形剤が、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物との重量組成比が50:50−100:0であること、
あるいは、賦形剤が、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−2)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物との重量組成比が50:50−100:0であること、
あるいは、賦形剤が、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−4)を満たす乳糖水和物との重量組成比が50:50−100:0であること、
賦形剤が、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物とからなり、(条件−5)を満たす乳糖水和物と(条件−8)を満たす乳糖水和物との重量組成比が50:50−100:0であること、
がより更に好ましい。
【0062】
賦形剤の含有比率がこの範囲であると、本発明の医薬組成物の流動性が良好であり、カプセルやインヘーラーに充填する際に、充填が容易であり好ましい。また、受容者による吸入性も良好である。
【0063】
本発明の医薬組成物は、薬効成分を無水物に換算して4重量%乃至30重量%含有するのが好ましく、薬効成分を無水物に換算して15重量%乃至25重量%含有するのが、より好ましい。この範囲であると、本発明の医薬組成物は、流動性に優れ、薬効成分と賦形剤とが均一に混合でき、吸入器への充填も精度よく行うことができる。また、この範囲であると、吸入器内での流動性にも優れ、吸入器からの放出時に賦形剤から薬効成分がはがれやすくなり、呼吸器組織へ薬効成分が比較的大きな割合で到達することができる。
【0064】
本発明の医薬組成物は、受容者の吸気活動により受容者の呼吸器組織に取り込まれる。呼吸器組織は、口腔咽頭、喉頭等の上気道、気管、気管支、細気管支、呼吸細気管支、ついで、肺深部にいたる下気道よりなる。本発明の吸入用乾燥粉末医薬組成物は、吸入により受容者の呼吸器組織に取り込まれ、上気道や下気道の上皮に付着し、そこで薬効成分が加水分解され細胞内に吸収されて、ウイルス増殖抑制による抗インフルエンザ作用を発揮する。
【0065】
本発明の医薬組成物は、一定の用量を供給するような形で投与するために、包装されていてもよい。包装は、硬質ゼラチンカプセル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)カプセル等のカプセル、カートリッジやブリスターパックが挙げられる。また、投与するための吸入器に、本発明の医薬組成物の一定量を直接充填していてもよい。本発明の医薬組成物は、乾燥粉末(ドライパウダー)であるので、用いる吸入器としては、一般にドライパウダーインヘイラー(DPI)に分類される吸入器が利用可能である。
【0066】
本発明の医薬組成物は、A型またはB型インフルエンザ感染症の治療薬及び予防薬として有用である。
【0067】
本発明の治療剤または予防剤の投与量は、使用される薬効成分の種類、インフルエンザの流行の程度、投与される患者の体重もしくは年齢等の状態により異なるが、ヒトに対して吸入投与する場合、体重1kgあたり、1回10μg乃至5mgの用量で、1週間に1から7回乃至1日に1から3回程度投与することが好ましい。
【0068】
特に好ましくは、薬効成分の用量として、化合物(I)[ただし、さらに、化合物(II)を含有してもよい。]、その薬理上許容される塩、又はこれらの水和物を、無水物に換算して5乃至120mg含有し、前述の賦形剤(好ましくは、前述の粒子径が制御された乳糖水和物)を含有する本発明の医薬組成物を、インフルエンザウイルス感染症の予防用としては、インフルエンザウイルス感染症の発症前のヒトの呼吸器に、吸入により投与することであり、インフルエンザウイルス感染症の治療用としては、インフルエンザウイルス感染症の発症時のヒトの呼吸器に、1回の吸入または2回に分けての吸入により投与することである。
【0069】
本発明の医薬組成物を予防剤として投与する場合は、インフルエンザウイルス感染症の発症前のヒトの呼吸器組織に、間歇的に投与する。各投与時の投与回数は1回である。投与間隔は例えば、5〜10日、あるいは、1週間である。
【0070】
実際の医療の現場では、インフルエンザウイルスに感染したか否かに係らず、インフルエンザ症状を発症する前に投与することを予防投与とする場合がある。本発明の予防剤の投与時期には、感染の有無に係らず、発症前に投与することも包含される。
【0071】
本発明の医薬組成物を治療剤として投与する場合は、インフルエンザウイルス感染症の発症後のヒトの呼吸器組織に、1回の吸入または2回に分けての吸入により投与する。
【0072】

ここで、発症前とは、ウイルス感染の有無は問わず、インフルエンザ症状が認められない状態のことをいう。
【0073】
発症時とは、インフルエンザウイルスが感染し、発熱等の自覚症状が認められることをいう。
【0074】
インフルエンザ症状とは、頭痛、倦怠感、筋肉痛(又は関節痛)、悪寒、発熱、発汗、鼻汁、のどの痛み、咳、くしゃみ等の症状をいう。
【0075】
インフルエンザウイルス感染症の予防剤としては、さらに好ましくは、上述の薬効成分の用量が、無水物に換算して20mgであり、吸入による投与回数が1回で投与すること;無水物に換算して40mgであり、吸入による投与回数が1回のみで投与すること;又は、無水物に換算して80mgであり、吸入による投与回数が1回のみで投与することである。これらの中でも最も好ましいのは、上述の薬効成分の用量が、無水物に換算して40mgであり、吸入による投与回数が1回のみで投与することである。
【0076】
インフルエンザウイルス感染症の治療剤として、さらに好ましくは、上述の薬効成分の用量が、無水物に換算して20mgであり、吸入による投与回数が1回で投与すること;無水物に換算して40mgであり、吸入による投与回数が1回か、或は、40mgを2回に分けて投与すること(すなわち、20mgを2回投与すること);又は、無水物に換算して80mgであり、吸入による投与回数が1回のみで投与することである。治療剤として、これらの中でも最も好ましいのは、上述の薬効成分の用量が、無水物に換算して40mgであり、吸入による投与回数が1回のみで投与することである。
【0077】
受容者は、好ましくは、哺乳類などの動物であり、より好ましくは、ヒト、又はウマ属に属するもの、例えば、ウマ、ロバまたはラバである。最も好ましくは、ヒトである。
【発明の効果】
【0078】
本発明の医薬組成物は、流動性が良好で、従って、吸引器への充填が容易であり、かつ精度よく行うことができる。本発明の医薬組成物は、分散性が高く、吸引力が通常の受容者、強い受容者はもちろん、吸引力が弱い受容者であっても吸引しやすい。
【0079】
特定の粒子径分布を有する本発明の医薬組成物は、受容者の呼吸器組織、特に上気道や肺にまで到達することができ、従って、高くかつ長期にわたる抗インフルエンザ活性という効能が提供される。
【0080】
本発明の医薬組成物は、特定の投与量を、1回又は2回という少ない回数で投与するだけで、ウイルス増殖阻害作用を示し、優れたインフルエンザの治療/予防効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0081】

図1図1は、製造例1で得られた(2R,3R,4S)−3−アセトアミド−4−グアニジノ−2−[(1R,2R)−2−ヒドロキシ−1−メトキシ−3−(オクタノイルオキシ)プロピル]−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−6−カルボン酸水和物結晶について、銅のKα線(波長λ=1.54オングストローム)の照射で得られる粉末X線回折パターンである。
【0082】
尚、粉末X線解析パターンの縦軸は回折強度をカウント/秒(cps)単位で示し、横軸は回折角度2θ(度)を示す。
【0083】
面間隔d(オングストローム)は、式 2dsinθ=nλ においてn=1として算出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0084】
化合物(I)、化合物(II)、またはその薬理上許容される塩は、特許第3209946号公報(特許文献1)に開示された方法又はそれに準ずる方法に従って製造することができる。
【0085】
化合物(I)、化合物(II)の結晶、およびその水和物結晶は、特開2002-012590号公報(特許3920041公報、米国特許第6844363明細書、欧州特許第1277750号明細書)に開示された方法又はそれに準ずる方法に従って製造することができる。
【0086】
本発明の医薬組成物の薬効成分は、前述したように、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による50重量%の薬効成分の粒子径が3.2μm以下であり、かつ、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による90重量%の薬効成分の粒子径が8.0μm以下であることが好ましい。
【0087】
本発明の医薬組成物の薬効成分の微粒子化方法は、特に限定されないが、好ましくは、乾式粉砕法、湿式粉砕法、噴霧乾燥法並びに凍結乾燥法からなる群より選択される方法を用いる。
【0088】
乾式粉砕法による微粒子化手段としては特に制限はないが、好ましくは、ジェットミル等の気流粉砕法、ピンミル法 、ハンマーミル法等の衝撃粉砕法、パルべライザー法等の摩砕粉砕法等を用いることができ、より好ましくは、ジェットミル法である。
【0089】
湿式粉砕法による微粉砕手段としては特に制限はなく、例えば、ビーズミル法、ボールミル法、超高圧ジェット法等を用いることができる。
【0090】
この中で、ビーズミル法は、溶媒に分散させた対象化合物のスラリーを、ガラス、ジルコニア、アルミナ等からなるビーズを充填した容器中をロータ回転羽根で攪拌しながら粒子を通過させることにより、ビーズとの衝突時の衝撃力及びビーズとの間をすり抜ける時の剪断力で微粒子化する方法であり、一般的に乾式・湿式を含めた粉砕法の中で最も粒子径を小さくすることができる。
【0091】
ボールミル法は、粉砕対象として粒子を溶媒に分散させたものを用いる以外は乾式粉砕におけるボールミル法と同じ粉砕法である。
【0092】
ビーズミル、ボールミル法はともに粒子以外の衝突媒体となるメディアを用いる方法であり、メディアとして、ビーズミル法においては粒径1μm〜1mm程度のジルコニア粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末、金属粉末を用いることができる。また、ボールミル法においては粒径1mm〜数cm程度のジルコニア球、アルミナ球、ナイロン球、金属球などを用いることができる。
【0093】
超高圧ジェット法は、加速させた粒子同士を対向衝突させて微粒子化する方法である。
【0094】
噴霧乾燥法は、対象化合物の溶液を、微小液滴状に噴霧し、これに熱風を当てて短時間に溶媒を蒸発させて乾燥して微粒子化する方法である。用いる噴霧乾燥装置としては、液滴を発生する方式によって、例えば、回転円盤型式、圧力ノズル式、二流体ノズル式、加圧二流体ノズル式、四流体ノズル式等の噴霧乾燥装置を用いることができる。噴霧乾燥法による微粒子化手段としては特に制限はなく、上述のいずれの噴霧乾燥装置を用いてもよい。好ましくは、二流体ノズル式、加圧二流体ノズル式、あるいは四流体ノズル式である。
【0095】
凍結乾燥法は、対象化合物の溶液を低温に急速に冷却し、急速凍結した後、減圧下で水分を昇華させることにより乾燥を行って微粒子化する方法である。あるいは、更に凍結乾燥させたのち、空気衝撃を加えて微粒子化してもよい。
【0096】
本発明の医薬組成物の薬効成分の微粒子化方法としては、乾式粉砕法が好ましく、ジェットミル法がより好ましい。ジェットミル法により製造すると、付着性が高くなく、ハンドリング性に優れる微粒子が得られるので、好ましい。
【0097】
本発明の医薬組成物の賦形剤の粒子径制御法としては特に限定されないが、好ましくは、乾式粉砕法、湿式粉砕法、噴霧乾燥法並びに凍結乾燥法からなる群より選択される微粒子化方法、あるいは篩分級法並びに気流式分級法からなる群より選択される分級法、あるいは微粒子化法と分級法の組み合わせを用いることができる。
【0098】
以下に示す(条件−1)又は(条件−2)のいずれかを満たす乳糖水和物の粒子径制御法としては分級法が好ましく、(条件−3)又は(条件−4)のいずれかを満たす乳糖水和物の粒子径制御法としては乾式粉砕法等の微粒子化法が好ましい。
(条件−1):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:5μm−60μm、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:50μm−110μm、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:75μm−160μm。
(条件−2):気流中飛散法による粒子径分布が、
32μm未満の画分:5−10重量%、
63μm未満の画分:70−100重量%、
100μm未満の画分:100重量%。
(条件−3):レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布が、
10重量%の乳糖水和物の粒子径:3μm以下、
50重量%の乳糖水和物の粒子径:20μm以下、
90重量%の乳糖水和物の粒子径:54μm以下。
(条件−4):気流中飛散法による粒子径分布が、
45μm未満の画分:90−100重量%、
63μm未満の画分:98−100重量%、
150μm未満の画分:100重量%。
【0099】
吸入するための乾燥粉末の製法は、あらかじめ粒子径制御された薬効成分とあらかじめ粒子径制御された賦形剤を混合する方法と、薬効成分および賦形剤を混合した後に微粒子化する方法とに大別される。
【0100】
前者の方法では、まず、乾式粉砕法、湿式粉砕法、噴霧乾燥法あるいは凍結乾燥法で粒子径制御された薬効成分と、乾式粉砕法、湿式粉砕法、噴霧乾燥法並びに凍結乾燥法からなる群より選択される微粒子化方法、あるいは篩分級法並びに気流式分級法からなる群より選択される分級法、あるいは微粒子化法と分級法の組み合わせにより粒子径制御された賦形剤を別々に製造する。しかる後に、粒子径制御された薬効成分を単独で造粒し、あるいは粒子径制御された薬効成分と粒子径制御された賦形剤とを所定の比率で混合、造粒することにより、医薬組成物とする。噴霧乾燥法としては、例えば、米国特許出願公開2008/0063722号明細書に記載の方法を参照することができる。凍結乾燥法としては、例えば、国際公開第2002/102445号パンフレットに記載の方法を参照することができる。
【0101】
薬効成分を単独で造粒する方法としては、流動層造粒法、スプレードライ等がある。
【0102】
薬効成分と賦形剤を混合、造粒する方法としては、整粒機や手篩によるふるい機、V型混合機、W型混合機、ボーレ混合機、タンブリングミキサー等による容器回転型混合機、リボンブレンダーやヘンシェル混合機等の回転羽根式混合機等を用いる物理的混合法、薬効成分と賦形剤を適切な溶媒中に溶解あるいは分散させてスプレードライする噴霧乾燥法、メカノケミカル的な反応により薬効成分と賦形剤を複合粒子化するメカノフュージョン法、および流動層造粒法がある。
【0103】
後者の方法では、薬効成分と賦形剤を所定の比率で混合した後、乾式粉砕法、湿式粉砕法、噴霧乾燥法並びに凍結乾燥法からなる群より選択される微粒子化方法により同時に粒子径制御を行う。賦形剤の種類、微粒子化法およびその条件を適切に選択することにより空隙率の高い粒子とし、凝集や付着を生じず、流動性、ハンドリング性に優れる大きさの粒子径分布を有しながら、経口吸入時には微小な粒子と同様、喉頭、上気管、気管支、肺深部に到達する性質を付与することができる。
【0104】
本発明の医薬組成物の製造方法としては、上述の製造方法の中でも、好ましくは、物理的混合方法、噴霧乾燥法及び凍結乾燥法からなる群から選択される方法であり、より好ましくは、物理的混合方法である。
【0105】
あらかじめ粒子径制御された薬効成分とあらかじめ粒子径制御された賦形剤を混合する前者の方法において、賦形剤が前述の(条件−1)又は前述の(条件−2)のいずれかを満たす乳糖水和物と、前述の(条件−3)又は前述の(条件−4)のいずれかを満たす乳糖水和物とからなる場合、混合の順序としては、先に乳糖水和物同士を混合し、そのあとで粒子径制御された薬効成分を加えて混合することが好ましい。この順序であると、賦形剤表面に付着した薬効成分が、受容者の吸気活動による気流の流れの中で賦形剤からはがれやすく、受容者の呼吸器組織により効率的に到達するので好ましい。
【0106】
本発明の医薬組成物は温度および湿度が制御された環境下で製造することが好ましい。
【0107】
温度および湿度の最適な範囲は、製造方法、機械、用いられる賦形剤の種類により異なる。 たとえば、噴霧乾燥法で微粒子化された薬効成分と、粒子径制御された賦形剤を物理的混合方法で混合する場合、温度は19℃〜27℃、相対湿度は30%RH−65%RHの範囲内に制御することが好ましい。
【実施例】
【0108】
以下に実施例、製剤例及び試験例を示し、本発明を更に詳細に説明する。
(製造例1)
(2R,3R,4S)−3−アセトアミド−4−グアニジノ−2−[(1R,2R)−2−ヒドロキシ−1−メトキシ−3−(オクタノイルオキシ)プロピル]−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−6−カルボン酸一水和物結晶[化合物(I)]
(1)特許第3209946号公報(特許文献1)の実施例35(i)の化合物、5−アセタミド−4−(N,N’−ビス−t−ブチロキシカルボニル)グアニジノ−9−O−オクタノイル−2,3,4,5−テトラデオキシ−7−O−メチル−D−グリセロ−D−ガラクト−ノン−2−エノピラノソン酸ジフェニルメチル(3.46g、4.1mmol)を塩化メチレン(27ml)、トリフルオロ酢酸(14ml)に溶解し、室温で終夜攪拌した。
【0109】
反応液を減圧下濃縮乾固した後、トルエン(5ml)で3回共沸乾固した。
得られた油状物を酢酸エチル(10ml)に溶解した。
【0110】
一方、本溶液を飽和重曹水(50ml)に注加し、20%炭酸ナトリウム水溶液を加えpH8.5にした。
【0111】
室温で3時間攪拌した後、塩酸(3ml)でpH5.0に調整し、室温で1時間攪拌した。
【0112】
更に氷冷下1時間撹拌後、結晶を吸引ろ過し、外温50℃にて10時間真空乾燥した。
【0113】

空気中で1日間放置し、標記目的化合物を結晶として得た(0.97g、収率51%)。
【0114】
ただし、この結晶は、標記目的化合物(I)とともに、化合物(II)[(2R,3R,4S)−3−アセトアミド−4−グアニジノ−2−[(1S,2R)−3−ヒドロキシ−1−メトキシ−2−(オクタノイルオキシ)プロピル]−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−6−カルボン酸一水和物]を含有した結晶であった。
赤外線吸収スペクトル(KBr)νmax cm-1: 3412, 2929, 2856, 1676, 1401, 1320, 1285, 1205, 1137, 722.1H核磁気共鳴スペクトル(400MHz, CD3OD)δppm: 5.88(1H, d, J=2.5 Hz), 4.45 (3H, m), 4.27 (1H, dd, J=10.0 Hz, 10.0 Hz), 4.15 (1H, m), 3.47 (2H, m), 3.42 (3H, s), 2.37 (2H, t, J=7.4 Hz), 2.10 (3H, s), 1.31 (2H, m), 1.20-1.40 (8H, m), 0.85-0.95 (3H, m).13C核磁気共鳴スペクトル(100MHz, CD3OD)δppm: 176.5, 173.7, 164.7, 158.9, 146.7, 108.7, 80.1, 78.0, 69.3, 66.8, 61.4, 52.4, 35.1, 32.8, 30.2, 30.1, 26.0, 23.7, 22.8, 14.4。
【0115】
本結晶について、銅のKα線(波長λ=1.54オングストローム)の照射で得られる粉末X線回折パターンを図1に示す。尚、粉末X線解析パターンの縦軸は回折強度をカウント/秒(cps)単位で示し、横軸は回折角度2θ(度)を示す。
【0116】
下記実施例で使用された乳糖水和物の粒子径分布を表1に記す。下記実施例において使用された乳糖水和物を、表1に示すように、乳糖1乃至乳糖7と記す。
【0117】
【表1】
【0118】
(実施例1−6)
製造例1で得られた水和物結晶(以下、薬効成分という。以下の実施例7−43においても同様である。)をジェットミル法(A-O JET MILL、(株)セイシン企業)で粉砕し、異なる粒子径分布を有する6種類の粉砕物を得た。次に、乳糖1を2800gと、乳糖2を400gとをV型混合機(寿ミックスウエル VY-10&5&3、(株)徳寿工作所)にて物理的に混合し、得られた乳糖混合末1.2gに、薬効成分の6種類の粉砕物0.3gを加えてTurbula混合機(TURBULA、Willy A. Bachofen AG、Switzerland)で物理的に混合することにより実施例1−6の医薬組成物を得た。これらの医薬組成物に配合された薬効成分の粉砕物のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による10重量%粒子径、50重量%粒子径、および90重量%粒子径を表2に記す。
【0119】
【表2】
【0120】
(実施例7−26)
製造例1で得られた水和物結晶(薬効成分)をジェットミル法で粉砕し表3に示す粒子径分布の粉砕物を得た。この粉砕物に対し、薬効成分が無水物換算で20重量%となるように、各種賦形剤を表4−表5に記した割合で添加して全量を10gとし、Turbula混合機で物理的に混合することにより実施例7−26の医薬組成物を得た。
【0121】

<実施例7−26に配合された薬効成分の粉砕物の粒子径分布>
【0122】
【表3】
【0123】
【表4】
【0124】
*1:医薬組成物中における薬効成分の無水物としての重量%を表す。
*2:添加剤同士の相対重量比を表す。
【0125】
【表5】
【0126】
*1:医薬組成物中における薬効成分の無水物としての重量%を表す。
*2:添加剤同士の相対重量比を表す。
【0127】
(実施例27−34)
製造例1で得られた水和物結晶(薬効成分)をジェットミル法で粉砕し表6に示す粒子径分布の粉砕物(薬効成分9)を得た。この粉砕物に対し、各種賦形剤を表7に記した割合で添加し、Turbula混合機で物理的に混合することにより実施例27−34の医薬組成物を得た。
【0128】

<実施例7−26に配合された薬効成分の粉砕物の粒子径分布>
【0129】
【表6】
【0130】
【表7】
【0131】
*1:医薬組成物中における薬効成分の無水物としての重量%を表す。
*2:添加剤同士の相対重量比を表す。
【0132】
(実施例35)
製造例1で得られた水和物結晶(薬効成分)をジェットミル法で粉砕し表8に示す粒子径分布の粉砕物を得た。次に、乳糖1を8400gと、乳糖2を1200gとを整粒機(コーミルQC-U-10、(株)パウレック)で篩過した後V型混合機(TCV-60、(株)徳寿工作所)にて物理的に混合し、乳糖混合末を得た。薬効成分の粉砕物に対し、乳糖混合末を、薬効成分が無水物に換算して20重量%となるように添加し、整粒機(コーミルQC-U-10、(株)パウレック)で篩過した後V型混合機(TCV-60、(株)徳寿工作所)にて物理的に混合し、実施例27の医薬組成物4000gを得た。以上の製造工程は、温度を19℃〜27℃、相対湿度を30%RH〜65%RHの範囲内に制御した環境下で実施された。
【0133】
【表8】
【0134】
(実施例36−40)
製造例1で得られた水和物結晶(薬効成分)をジェットミル法で粉砕し表9に示す粒子径分布の粉砕物5種を得た。次に、乳糖1を8400gと、乳糖2を1200gとを整粒機(コーミルQC-U-10、(株)パウレック)で篩過した後V型混合機(TCV-60、(株)徳寿工作所)にて物理的に混合し、乳糖混合末を得た。薬効成分の粉砕物に対し、乳糖混合末を、薬効成分が無水物に換算して20重量%となるように添加し、整粒機(コーミルQC-U-10、(株)パウレック)で篩過した後V型混合機(TCV-60、(株)徳寿工作所)にて物理的に混合し、実施例28〜32の医薬組成物各3000gを得た。以上の製造工程は、温度を19℃〜27℃、相対湿度を30%RH〜65%RHの範囲内に制御した環境下で実施された。
【0135】
【表9】
【0136】
(実施例41)
製造例1で得られた水和物結晶(薬効成分)をジェットミル法で粉砕し表10に示す粒子径分布の粉砕物を得た。次に、乳糖1を5600gと、乳糖2を800gとを手篩で篩過した後V型混合機(TCV-10、(株)徳寿工作所)にて物理的に混合し、乳糖混合末を得た。薬効成分の粉砕物に対し、乳糖混合末を、薬効成分が無水物に換算して20重量%となるように添加し、手篩で篩過した後V型混合機(TCV-10、(株)徳寿工作所)にて物理的に混合し、実施例41の医薬組成物1600gを得た。以上の製造工程は、温度を19℃〜27℃、相対湿度を30%RH〜65%RHの範囲内に制御した環境下で実施された。
【0137】
(実施例42)
製造例1で得られた水和物結晶(薬効成分)をジェットミル法で粉砕し表10に示す粒子径分布の粉砕物を得た。次に、乳糖1を5600gと、乳糖2を800gとを整粒機(コーミルQC-U-10、(株)パウレック)で篩過した後V型混合機(TCV-10、(株)徳寿工作所)にて物理的に混合し、乳糖混合末を得た。薬効成分の粉砕物に対し、乳糖混合末を、薬効成分が無水物に換算して20重量%となるように添加し、整粒機(コーミルQC-U-10、(株)パウレック)で篩過した後V型混合機(TCV-10、(株)徳寿工作所)にて物理的に混合し、実施例42の医薬組成物2000gを得た。以上の製造工程は、温度を19℃〜27℃、相対湿度を30%RH〜65%RHの範囲内に制御した環境下で実施された。
【0138】
(実施例43)
製造例1で得られた水和物結晶(薬効成分)をジェットミル法で粉砕し表10に示す粒子径分布の粉砕物3種を得た。次に、乳糖1を6000gと、乳糖2を1000gとを整粒機(コーミルQC-U-10、(株)パウレック)で篩過した後V型混合機(TCV-60、(株)徳寿工作所)にて物理的に混合し、乳糖混合末を得た。薬効成分の粉砕物に対し、乳糖混合末を、薬効成分が無水物に換算して20重量%となるように添加し、整粒機(コーミルQC-U-10、(株)パウレック)で篩過した後V型混合機(TCV-60、(株)徳寿工作所)にて物理的に混合し、実施例43の医薬組成物3000gを得た。以上の製造工程は、温度を19℃〜27℃、相対湿度を30%RH〜65%RHの範囲内に制御した環境下で実施された。
【0139】
【表10】
【0140】
(試験例1)薬剤の呼吸器到達性評価(主薬粒子径とFPFの関連性の検討)
吸入剤の呼吸器到達性をインビトロで簡易的に評価する方法として、カスケードインパクターによる微粒子量測定法が汎用されている(例えば、USP 31, <601>Aerosol/Physical Testsや、 European Pharmacopoeia 5.2, ‘2.9.18 Preparations for inhalation : Aerodynamic Assessment of Fine Particles’参照)。
【0141】
この方法は吸入用器具からポンプを介してカスケードインパクター内に吸引導入された薬剤粒子を分級する装置を用いる。吸引された薬剤は粒子径に応じてカスケードインパクターを構成する12個のパーツ(マウスピースアダプター、プレセパレーター、インダクションポート、ステージ0〜ステージ7、Filter)のいずれかに到達する。賦形剤粒子、賦形剤から脱離しなかった薬剤粒子、凝集隗等、大きな粒子はマウスピースアダプター、プレセパレーター、インダクションポートに捕集される。一方、賦形剤から脱離した薬剤粒子はステージ0〜Filterのいずれかに到達するが、粒子径が小さいほど番号のより大きなステージに到達し、ステージ7を通過した薬剤粒子はFilterに捕集される。
【0142】
ある特定のパーツに到達する薬剤量、あるいはそれが表示量に占める割合は、臨床における薬剤の呼吸器到達性と相関することが知られており(例えば、USP 31, <601>Aerosol/Physical Tests 参照)、前者はファインパーティクルドーズ(Fine Particle Dose、以下FPDと記す。)、後者はファインパーティクルフラクション(Fine Particle Fraction、以下FPFと記す。)と呼ばれる。本発明の医薬組成物では表示量のうちステージ3からFilterに到達した薬剤量をFPD、それが表示量に占める割合をFPFと定義し、これらのパラメータを用いて呼吸器到達性を評価した。
【0143】
粒子径分布の異なる薬効成分の粉砕物を用いて調製された実施例1〜6におけるFPF値を表11に記す。
【0144】
薬効成分のレーザー回折散乱式粒度分布測定法における50重量%粒子径が3.2μm以下の実施例1〜4は、50重量%粒子径が3.2μm以上の実施例5あるいは実施例6に比べ高いFPF値を示した。
【0145】
【表11】
【0146】
(試験例2)種々の賦形剤組成におけるFPFおよび噴霧効率
吸入用から噴霧される薬剤量の再現性(噴霧含量均一性)は吸入剤における基本的な製剤特性の一つであり、吸入用器具からポンプを介して専用チャンバー内に噴霧された薬剤量の表示量に対する割合(噴霧効率)を測定する方法が、米国公定書(以下USPと記す。)に収載されている(USP 31, <601>Aerosol/Physical Tests 参照)。本発明の医薬組成物ではUSPの方法に準じて噴霧効率(%)を評価した。
【0147】
表4および表5に示した実施例7乃至26のうち、賦形剤の組成の異なる一部の医薬組成物についてFPFおよび噴霧効率を表12に示す。いずれの実施例も30%以上のFPFおよび70%以上の噴霧効率を示し、式(I)で表される化合物を効率よく呼吸器組織へ到達させ得る投与剤形であることが示された。
【0148】
【表12】
【0149】
(試験例3)乳糖の粒子径、配合比率および薬効成分濃度とFPDの関係
表7および表8に示した実施例27乃至34の医薬組成物についてFPDを表13に示す。乳糖の粒子径と配合比率については、乳糖1と乳糖2を重量比0:100−60:20で配合したものが薬効成分濃度10−30重量%において高いFPDを示した。
【0150】
【表13】
【0151】
(試験例4)成人患者対象のオセルタミビルリン酸塩との比較試験
成人(20歳以上)のA型又はB型インフルエンザウイルス感染症患者を対象として、製造例1で得られた水和物結晶(薬効成分)を単回吸入投与し、インフルエンザ罹病時間を主要な評価項目としてオセルタミビルリン酸塩に対する非劣性により、薬効成分の有効性を検討した。なお、投薬には、実施例43に従って、薬効成分と乳糖1及び乳糖2とから調整した組成物として用い、薬効成分の用量が、無水物に換算して20mg又は40mgとなるように投薬した。このように調整した本発明の医薬組成物を、薬効成分の用量に注目して「薬効成分20mg」、「薬効成分40mg」等と記す。以下、試験例5〜8において同様である。
【0152】
オセルタミビルリン酸塩は、1回75mg、1日2回5日間、反復投与した。
【0153】
本試験は、薬効成分のインフルエンザ罹病時間に対する効果が、オセルタミビルリン酸塩に対して18時間以上劣らないことを示すことにより薬効成分の有効性を検証する非劣性試験とした。薬効成分各投与群とオセルタミビルリン酸塩群の中央値の差の95%信頼区間の上限が18時間未満であった場合、薬効成分はインフルエンザウイルス感染症に対して有効な治療薬であると判定することとした。なお、多重性調整のため、判定は高用量から順に逐次的に行った。
【0154】
表14に、薬効成分のそれぞれの用量でのインフルエンザ罹病時間の中央値を、表15に、オセルタミビルリン酸塩群との中央値の差(95%信頼区間)を示す。
【0155】
【表14】
【0156】
薬効成分20mg群はオセルタミビルリン酸塩群に比べてやや長く、薬効成分40mg群はオセルタミビルリン酸塩群と同程度であった。
【0157】
【表15】
【0158】
オセルタミビルリン酸塩群との中央値の差(95%信頼区間)は、いずれの投与群も中央値の差の95%信頼区間の上限が18時間未満であった。
【0159】
以上より、薬効成分20mg及び40mgの単回吸入投与は、オセルタミビルリン酸塩1回75mg、1日2回5日間投与と比較し、遜色のない結果であり、インフルエンザウイルス感染症に対して有効な治療薬であることが示された。
【0160】
(試験例5)小児患者対象のオセルタミビルリン酸塩との比較試験
小児(9歳以下)のA型又はB型インフルエンザウイルス感染症患者を対象として、薬効成分20mg又は40mgを単回吸入投与し、インフルエンザ罹病時間を主要な評価項目とし、オセルタミビルリン酸塩と比較することで、薬効成分の有効性の検討を行った。
【0161】

投薬には、実施例43に従って調整した組成物を用いた。
【0162】
有効性の検討のために、オセルタミビルリン酸塩を対照とした3群の無作為化二重盲検比較試験を行った。
【0163】
オセルタミビルリン酸塩は、1回2mg/kg(体重換算)、1日2回5日間、反復投与した。
【0164】
表16に、薬効成分のそれぞれの用量でのインフルエンザ罹病時間の中央値を、表17に、オセルタミビルリン酸塩群との中央値の差(95%信頼区間)を示す。
【0165】
【表16】
【0166】
【表17】
【0167】
薬効成分20mg群及び薬効成分40mg群のいずれの投与群も、オセルタミビルリン酸塩群に比べてインフルエンザ罹病時間は短かった(一般化ウイルコクソン検定:P=0.0099[薬効成分20mg群]、P=0.0591[薬効成分40mg群])。
【0168】
以上より、薬効成分20mg又は40mgの単回吸入投与はオセルタミビルリン酸塩の結果を上回り、小児(9歳以下)のインフルエンザウイルス感染症に対して有効な治療薬であることが示された。
【0169】
(試験例6)成人患者対象のオセルタミビルリン酸塩との比較試験
A型又はB型インフルエンザウイルス感染症患者を対象として、薬効成分20mgを2回吸入投与した時の薬効成分の有効性の検討を、オセルタミビルリン酸塩を対照とした2群の無作為化二重盲検比較試験として行った。有効性について、インフルエンザ罹病時間を主要な評価項目とし、薬効成分20mg・2回吸入投与とオセルタミビルリン酸塩の相対的な位置づけを検討した。
【0170】
投薬には、実施例42に従って調整した組成物を用いた。
【0171】
オセルタミビルリン酸塩は、1回75mg、1日2回5日間、反復投与した。
【0172】
表18に、主要評価項目であるインフルエンザ罹病時間の中央値を、表19に、オセルタミビルリン酸塩群との中央値の差(95%信頼区間)を示す。
【0173】
【表18】
【0174】
【表19】
【0175】
薬効成分群とオセルタミビルリン酸塩群でインフルエンザ罹病時間は同程度であった。
【0176】
以上より、薬効成分20mg・2回吸入投与は、インフルエンザウイルス感染症に対して有効な用法・用量であることが示唆された
(試験例7)健康成人男性対象の薬物動態の検討試験
健康成人男性を対象として、薬効成分5mg、10mg、20mg、40mgを単回吸入投与し、薬効成分および薬効成分の活性代謝物である前述の化合物(III)の薬物動態を検討した。
【0177】
投薬には、実施例41に従って調整した組成物を用いた。
【0178】
薬効成分を単回吸入投与した際の血漿および尿中には、薬効成分と、薬効成分の活性代謝物である前述の化合物(III)が認められた。薬効成分の血漿中濃度は、いずれの用量群においても速やかに上昇し、投与24時間後以降は定量下限未満に低下したが、活性代謝物・化合物(III)の血漿中濃度は、薬効成分よりも緩やかに上昇した後に減衰し、最高用量の40mg群では最終測定時点の投与144時間後まで定量可能であり、その消失半減期(t1/2)は63.99時間であった。
【0179】
尿中排泄についても、薬効成分は投与24時間後以降ほとんど認められなかったが、活性代謝物・化合物(III)は投与後144時間まで持続した。活性代謝物・化合物(III)の尿中排泄速度から算出した消失半減期は、54.36〜64.05時間であった。
【0180】
薬効成分の最高血中濃度(Cmax)、定量可能な最終時点までの血漿中濃度−時間曲線下面積値(AUC0−tz)、無限大時間までの血漿中濃度−時間曲線下面積値(AUC0−inf)、および、投与後144時間までの累積尿中排泄量(Ae0−144h)、ならびに活性代謝物・化合物(III)のCmaxおよびAe0−144hについて、それぞれ用量比例性が認められた。
【0181】
以上の薬物動態の結果から、薬効成分の単回投与で投与量の増加に伴った全身曝露が認められるとともに、持続的な薬効を発現する可能性が示された。
【0182】
(試験例8)健康成人男性対象の薬物動態の検討試験(高用量投与)
健康成人男性を対象として、薬効成分80mg又は120mgを単回吸入投与したときの薬物動態を検討した。併せて、薬効成分の活性代謝物である前述の化合物(III)の薬物動態も測定した。
【0183】
投薬には、実施例41に従って調整した組成物を用いた。
【0184】
表16に、最高血漿中濃度到達時間(tmax、中央値)、消失半減期(t1/2、幾何平均値)、最高血中濃度(Cmax、幾何平均値)、無限大時間までの血漿中濃度−時間曲線下面積値(AUC0−inf、幾何平均値)、投与後144時間までの累積尿中排泄率(fe0−144h、幾何平均値)について、得られた結果を示す。
【0185】
いずれの投与量でも、投与量の増加に伴った全身曝露が認められるとともに持続的な薬効を発現する可能性が示された。
【0186】
【表20】
図1