【実施例】
【0031】
<実施例1〜5>
Tb
4 O
7 、Sc
2 O
3 、及びGa
2 O
3 をガーネット原料とし、PbOとB
2 O
3 をフラックスとする出発原料を白金坩堝に入れ、縦型の抵抗加熱炉中で、1100℃で5時間加熱溶融し、その後、同じ1100℃で1時間攪拌した。次いで880℃に降温し、格子定数が12.38ÅのGGG基板(Gd
3 Ga
5 O
12)の小片を40rpmで回転させながら2分間浸して引き上げ、炉から取り出した。続いて、直径3インチ、厚み500μmのGGG基板を炉に入れ、片面を白金坩堝内メルト液面に浸し、40rpmで回転させた。所定時間経過後、メルト液面より10mm引き上げて切り離し、そのまま炉の中で室温まで冷却した。その後、GGG基板を炉から取り出し酸洗浄した。
【0032】
GGG小片、及び3インチGGG基板には、その(111)面上に組成がTb
3 Sc
x Ga
5-x O
12で表されるガーネット結晶が成長していた。この作業を、主に出発原料のSc
2 O
3 濃度を変えて繰り返し行った。実施例1から5に向かって、Sc
2 O
3 濃度を高くしている。
【0033】
GGG小片を用いて、X線回折法により育成したTGG結晶とGGG結晶の育成面垂直方向の格子定数差Δa(TGG結晶格子定数−GGG結晶格子定数)を測定した。また、3インチGGG基板付TGG結晶は、3mm角に切断し、研磨によりGGG基板を削除して両面を鏡面加工し、3mm角チップとした。この3mm角チップの面に垂直方向に光を通し、透過率(波長532nmと1064nm)、ベルデ定数(1064nm)と消光比(1064nm)を測定した。また、3mm角チップを用いて、EPMA(電子線マイクロアナライザ)により、組成分析した。
【0034】
表1に、育成時間、育成膜厚、育成面垂直方向の格子定数差、育成されたガーネット結晶の欠陥、亀裂の検査結果を示す。また表2に、3mm角チップの加工後の膜厚、光透過率、ベルデ定数、消光比の測定結果を示す。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
これらの結果から、育成したTGG結晶は、いずれも格子定数差が±0.02Å以内に収まっており、欠陥及び亀裂が少なく、良好であった。また、波長1064nmにおける透過率は80%を超えており、ベルデ定数は0.12min/(Oe・cm)、消光比40dBであり、いずれも良好であった。
【0038】
<比較例1〜3>
実施例1〜5と同様に、LPE法によりTGG結晶の育成を行った。比較例1は出発原料にSc
2 O
3 を含まないものである。また、比較例2は実施例1よりもSc
2 O
3 濃度が低く、比較例3は実施例5よりもSc
2 O
3 濃度が高い。検査結果を前記表1に実施例1〜5と併せて示す。比較例1〜3では、育成されたTGG結晶とGGG基板の格子定数差はいずれも、±0.02Åを超えており、育成した結晶には欠陥や亀裂が多数認められた。
【0039】
<実施例6〜8>
出発原料がTb
4 O
7 、In
2 O
3 、Ga
2 O
3 、PbO、B
2 O
3 である以外は実施例1〜5と同様の手法でTGG結晶を育成した。育成したTGG結晶の検査結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
いずれも格子定数差は±0.02Å以内であり、欠陥あるいは亀裂の少ない良好なTGG結晶が得られた。また、波長1064nmにおける光学特性も、透過率は80%を超えており、ベルデ定数は0.12min/(Oe・cm)、消光比40dBであって、いずれも良好であった。
【0042】
<比較例4〜5>
実施例6〜8と同様に、LPE法によるTGG結晶の育成を行った。比較例4は実施例6よりもIn
2 O
3 濃度が低く、比較例5は実施例8よりもIn
2 O
3 濃度が高い。検査結果を前記表3に実施例6〜8と併せて示す。いずれも、育成されたTGG結晶とGGG基板の格子定数差は±0.02Åを超えており、育成された結晶には欠陥や亀裂が多数認められた。
【0043】
<実施例9〜11>
出発原料がTb
4 O
7 、Sc
2 O
3 、In
2 O
3 、Ga
2 O
3 、PbO、B
2 O
3 である以外は実施例1〜5と同様の手法によってTGG結晶を育成した。つまり、Sc
2 O
3 とIn
2 O
3 の同時添加の例である。育成したTGG結晶の検査結果を表4に示す。いずれも格子定数差が±0.02Å以内であり、欠陥、亀裂の少ない良好なTGG結晶が得られた。また、波長1064nmにおける光学特性も、透過率は80%を超えており、ベルデ定数は0.12min/(Oe・cm)、消光比40dBであって、いずれも良好であった。
【0044】
【表4】
【0045】
これらの結果より、ScとInが同時に置換されていても、格子定数差が±0.02Å以内であれば良好な結晶が得られることが分かる。基板との格子定数差を±0.02Å以内にする場合、Sc(置換量y)とIn(置換量z)の合計置換量xの下限は、イオン半径の大きなInが主に置換される場合である。Inだけが置換される場合はInが0.1atoms/f.u.で格子定数差が−0.02Åとなることから、InとScの同時置換ではInが主に置換され、そこに僅かにScが置換された場合が、格子定数差の下限となり、両者の合計置換量xは0.1を僅かに上回るものになる。これとは反対に、ScとInの合計置換量xの上限は、イオン半径の小さいScが主に置換され、そこにInが僅かに置換された場合なので、両者の合計置換量は0.5を僅かに下回るものになる。
【0046】
<実施例12〜14>
Tb
4 O
7 、Sc
2 O
3 、Ga
2 O
3 、PbO、B
2 O
3 からなる出発原料を白金坩堝に入れ、縦型の抵抗加熱炉中で、1100℃で5時間加熱溶融し、その後、同じ1100℃で1時間攪拌した。次いで、960℃に降温し、格子定数が12.496ÅのSGGG基板[(CaGd)
3 (MgZrGa)
5 O
12]の小片を40rpmで回転させながら2分間浸し引き上げ、炉から取り出した。続いて、直径3インチ、厚み500μmのSGGG基板を炉に入れ、片面を白金坩堝内メルト液面に浸し、40rpmで回転させた。所定時間経過後、メルト液面より10mm引き上げて切り離し、そのまま炉の中で室温まで冷却した。その後、SGGG基板を炉から取り出し酸洗浄した。SGGG小片、及び3インチSGGG基板には、その(111)面上に組成がTb
3 Sc
x Ga
5-x O
12で表されるTGG結晶が成長していた。この作業を、主に出発原料のSc
2 O
3 濃度を変えて繰り返し行った。実施例12から14に向かって、Sc
2 O
3 濃度が高くなっている。
【0047】
得られたTGG結晶について、実施例1〜5と同様に処理し、評価を行った。表5に、育成時間、育成膜厚、育成面垂直方向の格子定数差、育成されたガーネット結晶の欠陥、亀裂の検査結果を示す。育成したTGG結晶は、SGGG基板との格子定数差が±0.02Å以内であり、欠陥、亀裂が少なく、良好であった。また、波長1064nmにおける透過率は80%を超えており、ベルデ定数は0.12min/(Oe・cm)、消光比40dBであって、いずれも良好であった。
【0048】
【表5】
【0049】
<比較例6〜7>
実施例12〜14と同様に、LPE法によるTGG結晶の育成を行った。比較例6は実施例12よりもSc
2 O
3 濃度が低く、比較例7は実施例14よりもSc
2 O
3 濃度が高くなっている。これらの場合も、検査結果を前記表5に実施例12〜14と併せて示す。いずれも育成したTGG結晶とSGGG基板の格子定数差は±0.02Åを超えており、TGG結晶には欠陥や亀裂が多数生じていた。
【0050】
<実施例15〜17>
出発原料が、Tb
4 O
7 、In
2 O
3 、Ga
2 O
3 、PbO、B
2 O
3 である以外は実施例12〜14と同様である。育成したTGG結晶の検査結果を表6に示す。いずれも格子定数差が±0.02Å以内であり、欠陥や亀裂の少ない良好なTGG結晶が得られた。また、波長1064nmにおける光学特性も、透過率は80%を超えており、ベルデ定数は0.12min/(Oe・cm)、消光比40dBであって、いずれも良好であった。
【0051】
【表6】
【0052】
<比較例8〜9>
実施例12〜14と同様に、LPE法によるTGG結晶の育成を行った。比較例8は実施例15よりもIn
2 O
3 濃度が低く、比較例9は実施例17よりもIn
2 O
3 濃度が高くなっている。検査結果を前記表6に実施例15〜17と併せて示す。いずれも、育成されたガーネット結晶とSGGG基板の格子定数差は±0.02Åを超えており、育成された結晶には欠陥や亀裂が多数生じていた。
【0053】
<実施例18〜20>
出発原料が、Tb
4 O
7 、Sc
2 O
3 、In
2 O
3 、Ga
2 O
3 、PbO、B
2 O
3 である以外は実施例12〜14と同様である。つまり、Sc
2 O
3 とIn
2 O
3 の同時添加の例である。育成したTGG結晶の検査結果を表7に示す。いずれの例も、格子定数差は±0.02Å以内であり、欠陥、亀裂の少ない良好なTGG結晶が得られた。また、波長1064nmにおける光学特性も、透過率は80%を超えており、ベルデ定数は0.12min/(Oe・cm)、消光比40dBであり、いずれも良好であった。
【0054】
【表7】
【0055】
この結果から、ScとInが同時に置換されていても、格子定数差が±0.02Å以内であれば良好なTGG結晶が得られることがわかる。基板との格子定数差を±0.02Å以内にする場合、Sc(置換量y)とIn(置換量z)の合計置換量xの下限はイオン半径の大きなInが主に置換される場合であり、Inだけが置換される場合はInが0.9atoms/f.u.で格子定数差が−0.02Åとなることから、InとScの同時置換では、Inが主に置換され、そこに僅かにScが置換された場合が、格子定数差の下限となり、両者の合計置換量は0.9を僅かに上回るものになる。これとは反対に、ScとInの合計置換量xの上限は、イオン半径の小さいScが主に置換され、そこにInが僅かに置換された場合なので、両者の合計置換量は1.65を僅かに下回るものになる。
【0056】
<実施例21〜24および比較例10>
実施例3で作製した3mm角チップを、水素含有量が2.7vol%の窒素雰囲気中で温度を変えて、6時間保持し還元処理した。還元処理後、波長532nmにおける透過率を測定した。結果を表8に示す。実施例21〜24では、波長532nmの透過率が向上した。特に還元温度が550〜800℃では波長532nmの透過率が大幅に向上した。これに対し、比較例10ではあまり変わらなかった。
【0057】
【表8】
【0058】
<実施例25〜27および比較例11〜12>
実施例3で作製した3mm角チップを、水素と窒素の混合ガス中で、混合ガス中の水素濃度を変えて、温度700℃、保持時間6時間で還元処理した。還元処理後、波長532nmにおける透過率を測定した。結果を表9に示す。実施例25〜27では、波長532nmの透過率が大きく向上した。これに対し、比較例11ではあまり変わらなかった。また、比較例12では、膜表面が荒れていた。このことから、水素濃度は0.5vol%以上6vol%以下が適当である。
【0059】
【表9】
【0060】
<実施例28>
実施例3を基にして、原料にCeO
2 を添加した。即ち、Tb
4 O
7 、Sc
2 O
3 、Ga
2 O
3 、PbO、B
2 O
3 からなる出発原料にCeO
2 を0.2wt%添加し、白金坩堝に入れ、縦型の抵抗加熱炉中で、1100℃で5時間加熱溶融し、その後、同じ1100℃で1時間攪拌した。次いで、880℃に降温し、格子定数が12.38ÅのGGG基板の小片を40rpmで回転させながら2分間浸し引き上げ炉から取り出した。続いて、直径3インチ、厚み500μmのGGG基板を炉に入れ、片面を白金内メルト液面に浸して40rpmで65時間回転させた。その後、メルト液面より10mm引き上げて切り離し、そのまま炉の中で室温まで冷却した。その後、GGG基板を炉から取り出し酸洗浄した。3インチGGG基板には、その(111)面上に組成がTb
3 Sc
0.35Ga
4.65O
12で表されるガーネット結晶が2.4mm成長しており、亀裂や欠陥が無く、殆ど着色していないTGG結晶が得られた。
【0061】
GGG小片を用いて、X線回折法により育成したTGG結晶とGGG基板の育成面垂直方向の格子定数差Δaを測定したところ、格子定数差はゼロであった。3インチGGG基板付TGG結晶を3mm角に切断し、研磨によりGGG基板を削除して、3mm角面の両面を鏡面加工した。加工後の厚みは2.32mmであった。次に、3mm角面に垂直方向に光を通し、透過率を測定したところ、波長532nmの透過率は73%、波長1064nmの透過率は82%で良好であった。
【0062】
<比較例13>
添加CeO
2 濃度が0.6wt%である以外は実施例29と同様にして結晶育成を行った。ところが、1100℃にしても不溶物があり、育成を断念した。
【0063】
<実施例29〜30>
実施例3を基にして、原料にSiO
2 を添加した。即ち、Tb
4 O
7 、Sc
2 O
3 、Ga
2 O
3 、PbO、B
2 O
3 からなる出発原料にSiO
2 を添加し、白金坩堝に入れ、縦型の抵抗加熱炉中、1100℃で5時間加熱溶融し、その後、同じ1100℃で1時間攪拌した。次に育成温度まで降温し、格子定数が12.38ÅのGGG基板の小片を40rpmで回転させながら2分間浸し引き上げ、炉から取り出した。ここで育成温度とは、GGG基板と育成したTGG結晶の格子定数が合う温度を指す。続いて、直径3インチ、厚み500μmのGGG基板を炉に入れ、片面を白金内メルト液面に浸し、40rpmで所定時間回転させた。その後、メルト液面より10mm引き上げて切り離し、そのまま炉の中で室温まで冷却した。その後、GGG基板を炉から取り出し酸洗浄した。3インチGGG基板には、その(111)面上に組成がTb
3 Sc
0.35Ga
4.65O
12で表されるガーネット結晶が成長しており、亀裂や欠陥のないTGG結晶が得られた。検査結果を表10に示す。また、3インチGGG基板付TGG結晶を3mm角に切断し、研磨によりGGG基板を削除して3mm角面の両面を鏡面加工した。次に3mm角面に垂直方向に光を通し、透過率を測定したところ、表11に示すように、波長532nmの透過率が60%以上であり良好であった。
【0064】
【表10】
【0065】
【表11】
【0066】
<比較例14>
Tb
4 O
7 、Sc
2 O
3 、Ga
2 O
3 、PbO、B
2 O
3 からなる出発原料にSiO
2 を3wt%添加し、白金坩堝に入れ、縦型の抵抗加熱炉中、1100℃で5時間加熱溶融し、その後、同じ1100℃で1時間攪拌した。次いで850℃まで降温し、格子定数が12.38ÅのGGG基板の小片を40rpmで回転させながら2分間浸し引き上げ、炉から取り出した。ところが、結晶は成長しておらず、GGG基板が一部溶融して薄くなっていた。このため、育成を断念した。