(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、半導体加工技術を用いて機構構造、センサ、回路部品などを作成するMEMS(micro electro mechanical system)技術が注目されつつある。このMEMS技術は、継電器やスイッチの分野にも応用されており、それらの装置を総称して、スイッチ装置という場合がある。
【0003】
一般的に、接点(可動接点及び固定接点)を有するスイッチ装置においては、接点表面に異物物質が付着したり、酸化被膜などが形成したりすると、接点が動作したとき、電気的接続が確立されない場合があり、接点信頼性を低下させる要因となる。このような汚染への従来の対策として、カバー(あるいは保護層)を設けて、接点に汚染物質が付着しないように密閉することにより、接点信頼性を改善させたものがある。
【0004】
しかし、スイッチ装置の全体にカバーを設けた場合、加工中の汚染や接点表面の酸化などによる接点信頼性の低下、部品点数の増加や工程の複雑化、外形寸法の大型化等の問題点があった。
【0005】
これに対し、接点(可動接点及び固定接点)のみを密閉する技術の一例としては、ガラス基板とダイアフラムとで密閉された空間が形成され、ガラス基板の表面に電極(固定接点)が設けられ、ダイアフラムの凹部に接点金属(可動接点)が設けられ、外力によりダイアフラムがたわんだときに接点金属が電極に電気的に接続した状態となり、ダイアフラムが復元したときに接点金属が電極から離れ、電気的に接続しない非接続状態となる半導体圧力スイッチがある(例えば、特許文献1)。
【0006】
また、密閉技術の他の例としては、ベースの上面に固定接点が配置され、アクチュエータの下面に、固定接点に接離可能に対向する可動接点が配置され、ベース及びアクチュエータの下面間に電圧を印加して生じる静電引力で、可動接点を固定接点に接離させるマイクロリレーにおいて、ベースの上面周辺縁部に接合一体させたカバーにより、固定接点及び可動接点を密封したものがある。(例えば、特許文献2)。
【0007】
さらに、密閉技術の他の例としては、基板に電極(固定接点)が設けられ、ダイアフラムに電荷蓄積電極(可動接点)が設けられ、電極と電荷蓄積電極との間に静電力が生じると、ダイアフラムを弾性変形させるスイッチがある(例えば、特許文献3)。
【0008】
このような密閉技術を用いても、ON時において固定接点と可動接点が固着し、OFF状態(非接続状態)に移行するときに大きな力で引き剥がさなければならない場合があり、接点信頼性を低下させる要因となっていた。
【0009】
また、従来の静電容量型リレーでは、OFF時における固定接点と可動接点との間隔が大きいと、それに比例して駆動用電極間距離も大きくなってしまう場合が多く駆動電圧が高くなってしまう。また、固定接点と可動接点との間隔が小さいと、リーク電流が発生するおそれが高まったり、絶縁性が低下してしまうといった問題が生じる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、この発明の各種実施形態について各図を参照して説明する。
【0022】
[第1の実施形態]
この発明の第1の実施形態に係る接点構造及びこれを用いたスイッチ装置の構成について
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は接点構造の分解斜視図、
図2は接点構造及びアクチュエータを組み合わせたものの断面図である。
【0023】
この実施形態に係るスイッチ装置は、接点構造と、アクチュエータ60とを組み合わせたものである。
【0024】
〈接点構造〉
先ず、接点構造の構成について簡単に説明する。接点構造は、基板10、可動部20、固定接点30、及び、可動接点40を有している。基板10の材質、及び、その製造工程については後述する。可動部20はダイアフラム(薄膜)で形成されている。以下、可動部20をダイアフラムという場合がある。ダイアフラム20は金属、Si、SiN、SiC、SiO2、高濃度不純物添加Si等の後述プロセス説明S108のエッチングにおいてSiとエッチングレート差が得られる素材を用いて形成される。ダイアフラム20の内面(
図2において下面)には可動接点40が設けられるため、ダイアフラム20は絶縁体で形成されることが望ましい。なお、ダイアフラム20の内面に絶縁体を設け、この絶縁体に可動接点を設けるようにすれば、ダイアフラム20を導体で形成してもよい。但し、揮発物質など汚染物質を発する物であってはならない。
【0025】
(接点機構)
以下の説明において、固定接点30、とその固定接点30に対し接離可能な可動接点40とを含むものを接点機構という場合がある。この接点構造においては、接点機構が一対設けられている。両方の接点機構は同じであるため、一方の接点機構を代表して説明する。
【0026】
固定接点30は基板10の表面11に設けられている。可動接点40はダイアフラム20の内面21に設けられている。固定接点30及び可動接点40を
図1から
図6に示す。
図5はダイアフラムの内面側を斜めから見たときの部分斜視図、
図6は接点構造の部分断面図である。
【0027】
(蓋体)
基板10との間に密閉空間50を形成する蓋体20aが設けられている。蓋体20aとダイアフラム20とは、弾性を有する薄膜で一体的に形成されている。なお、ダイアフラム20を蓋体20aと別体で形成してもよい。以下の説明では、蓋体20aをダイアフラム20という場合がある。密閉空間50の詳細については後述する。
【0028】
(ダイアフラム)
後述するアクチュエータ60から受けた圧力によってダイアフラム20が変形することにより可動接点40は固定接点30と接触する。ダイアフラム20は、外方(
図2において上方)にドーム状に突出するように形成されている。ダイアフラム20の外面22には、アクチュエータ60に押される一対の被押圧部23が設けられている。各被押圧部23は
図2で上方に凸状に形成されている。ダイアフラム20にはコルゲート部24が一体的に形成されている。コルゲート部24は、ドーム状の頂部領域を中心とする同心円状の複数の波形に形成されている。被押圧部23及びコルゲート部24を
図1に示す。
【0029】
ダイアフラム20が導体で形成される場合や高い絶縁性を必要とする場合、ダイアフラム20に絶縁層26を設け、この絶縁層26に可動接点40の金属が設けられる。
【0030】
(基板)
基板10はSi、ガラス、セラミックの何れかの素材を用いて形成される。但し、Siを用い、さらに高い電気絶縁性が必要な場合には高抵抗Siを用いるか、表面に絶縁層となるSiO2やSiNを設ける必要がある。基板10には貫通電極31を含む貫通配線33(
図2参照)が設けられ、固定接点30が貫通配線33により基板10の裏面12側に配線される。それにより、基板10の表面11に配線を設ける必要がなく、表面11に配線による段差が生じないので、基板10の表面11にダイアフラム20の周辺部27を隙間なく接合させることができる。
【0031】
(密閉空間)
平板形状に形成された基板10の表面11に蓋体20aの周辺部27を直接接合することにより、基板10と蓋体20aとの間に密閉空間50が形成される。密閉空間50は、
図1において右側に位置する分室50Rと左側に位置する分室50Lとに区分けされている。各分室50R、50Lの天井部にはドーム状に形成されたダイアフラム20が設けられている。直接接合の方法の一例としては陽極接合が用いられる。陽極接合の詳細については後述する。なお、基板10に凹部を形成することにより、密閉空間50を設けてもよい。以下、一対の分室50R、50Lをまとめて説明するときは、密閉空間50と称することにする。
【0032】
密閉空間50には、例えば大気圧程度の内圧になるように不活性ガスが充填されている。貫通電極31による配線、及び、直接接合による密閉化により密閉空間50の信頼性(密閉性)が向上し、表面11の汚染を防止できる。それにより接点信頼性も向上する。さらに、不活性ガスを用いることにより、接点表面に酸化被膜が形成されることを防止することができる。
【0033】
以上のようにして、固定接点30及び可動接点40を含む接点機構が一対の分室50R、50Lの内部にそれぞれ設けられる。一対の分室50R、50Lの間には通気部51が設けられている。通気部51により、両方の分室50R、50Lに閉じ込められた気体が相互に行き来可能となる。以上の一対の分室50R、50L及び通気部51によって、接点を外部から隔離する密閉空間が構成される。
【0034】
以上の接点構造では、一対の分室50R、50Lを設けたものを示したが、これに限らず、3以上の分室を設けてもよい。この場合、3以上の分室のうちの1つ以上の分室に接点機構をそれぞれ設ける。密閉空間50は、3以上の分室、及び、それらの間を連通する通気部51によって構成し、接点を外部から隔離する。
【0035】
〈アクチュエータ〉
次に、スイッチ装置のアクチュエータ60について
図2〜
図4を参照して説明する。
図3は、接点構造の概念図、
図4は可動接点を固定接点に接触させたときの概念図である。なお、
図3及び
図4では、絶縁層26を省略して示している。
【0036】
アクチュエータ60は、2つのダイアフラム20を交互に押圧して、可動接点40を動作させる揺動機構を有する。アクチュエータ60は、密閉空間50の外部(
図2において上方)に設けられている。アクチュエータ60は、磁性体板61、一対のコイル62、永久磁石63、磁性体64、スペーサ65、及び、支点部66を有している。
【0037】
磁性体板61は、両方の分室50R、50Lの上方にあって、これら両方に掛かるように配されている。磁性体64は磁性体板61の上方に配置され、磁性体板61と磁性体64により磁気閉回路を形成している。一対のコイル62は、磁性体64に巻かれている。永久磁石63は、一対のコイル62の間のスペースに設けられている。支点部66は、永久磁石63の下端部に設けられ、磁性体板61の中心を支持している。永久磁石63の下端部が例えばN極となっている。
【0038】
コイル62が通電しないとき、永久磁石63の磁力により、磁性体64の両端はS極となり、磁性体61の両端はN極となる。一般に磁力の強さは磁極間の距離の2乗に反比例する。したがって、磁性体64の端部と磁性体板61の端部との間隔の狭い方に作用する磁力が、間隔の広い方に作用する磁力より大きくなるから、間隔の狭い方では、磁性体板61の端部がダイアフラム20の被押圧部23から離れてOFF状態となり、間隔の広い方では、磁性体板61の端部がダイアフラム20の被押圧部23を押圧してON状態となり、それぞれの状態を保持し続ける。なお、磁性体板61の端部が凸状の被押圧部23を押圧するON状態では、磁性体板61の端部がダイアフラム20に触れないようになっている。
【0039】
次に、この接点構造の動作について
図2及び
図4を参照して説明する。
【0040】
磁性体64の右側の端部がS極、磁性体64の左側の端部がN極となるように、コイル62に通電すると、磁性体64の右側の端部が磁性体板61の右側の端部を引き寄せ、磁性体64の左側の端部が磁性体板61の左側の端部を押し出す。それにより、磁性体板61が支点部66を中心に
図2において反時計回り方向にシーソー動作をし、磁性体板61の左側の端部が、分室50L側のダイアフラム20の被押圧部23を押圧する(
図4参照)。
【0041】
磁性体板61の左側の端部が、分室50L側のダイアフラム20の被押圧部23を押圧すると、分室50Lが圧縮されて、分室50L内の可動接点40が固定接点30に接触してON状態となる。このとき、不活性ガスが、分室50Lから通気部51を通って分室50Rに流入する。
【0042】
それにより、分室50R内の可動接点40を押し上げる方向に力が働くため、OFF時の振動や衝撃による誤作動が低減される。
【0043】
以上に、磁性体板61を反時計回り方向にシーソー動作をさせることにより、左側の接点をON状態とし、右側の接点をOFF状態とする接点構造の動作を説明した。次に、磁性体板61を時計回り方向にシーソー動作をさせることにより、右側の接点をON状態とし、左側の接点をOFF状態とする接点構造の動作を説明する。
【0044】
磁性体64の左側の端部がS極、磁性体64の右側の端部がN極となるように、コイル62に通電すると、磁性体64の左側の端部が磁性体板61の左側の端部を引き寄せ、磁性体64の右側の端部が磁性体板61の右側の端部を押し出す。それにより、磁性体板61が支点部66を中心に
図2において時計回り方向にシーソー動作をし、磁性体板61の右側の端部が、分室50R側のダイアフラム20の被押圧部23を押圧する。
【0045】
それにより、分室50Rが圧縮されて、分室50R内の可動接点40が固定接点30に接触してON状態となる。このとき、不活性ガスが、分室50Rから通気部51を通って分室50Lに流入する。それにより、分室50L内の可動接点40を押し上げる方向に力が働くため、OFF時の振動や衝撃による誤作動が低減される。
【0046】
以上のように、いずれか一方の接点をON状態とすれば、他方の接点をOFF状態とし、OFF時の振動や衝撃による誤作動を確実に軽減することが可能となる。ダイアフラム20は薄膜で形成されており、耐久性などの機械特性、弾性係数などのバネ特性、及び、固定接点30と可動接点40との間の距離をコントロールし易くなる。
【0047】
次に、本実施形態に係る接点構造を作成する工程について
図7及び
図8を参照して説明する。
図7は接点構造の製造工程を示すフロチャート、
図8は、接点構造の各作成工程を概念的に示す図である。
【0048】
製造工程は、蓋体作成(S101〜S103)、基板作成(S104〜S106)、接合(S107)、及び、支持体除去(S108)を含む。各ステップの詳細を順番に説明する。
【0049】
〈蓋体作成:S101〜S103〉
〔S101〕(蓋体形状作成)
SiウェハーにSiエッチングにより蓋体の外形となる形状を作成する。Siウェハー以外での作成でも可能であるが、ステップS108の支持体除去の加工し易さを考慮するとSiが望ましい。
【0050】
〔S102〕(蓋体薄膜成膜)
ステップS101で作成した形状の表面に蓋体となる薄膜を形成する。薄膜の種類にもよるがCVD(Chemical Vapor Deposition)、スパッタ、熱拡散などの比較的に均一に成膜できる方法が望ましい。
〔S103〕(可動接点作成)
ステップS102で作成した蓋体薄膜が導体の場合や高い絶縁性を必要とする場合、先ず、絶縁層をCVDやスパッタ、蒸着などにより作成し、その後、メッキやスパッタや蒸着により可動接点40を作成する。蓋体数膜が絶縁体であり絶縁層を設ける必要のない場合、蓋体上に直接可動接点40を設けることができる。
【0051】
〈基板の作成:S104〜S106〉
〔S104〕(貫通孔作成)
基板に貫通配線を設けるための貫通孔を作成する。前述したが、基板がSiで作成される場合で高い絶縁性が必要な場合、貫通孔作成後熱酸化を行い表面にSiO2層を作成する。貫通孔は切削等の機械加工により作成されるが、基板がSiの場合にはエッチングにより作成することも可能である。
〔S105〕(貫通配線作成)
ステップS104で作成した貫通孔を貫通配線とするため、導電性金属をメッキにより埋める。また、金属ペーストを充填し熱処理によって硬化させることにより作成することも可能である。
【0052】
〔S106〕(固定接点作成)
貫通配線を作成した基板表面に固定接点を作成する。固定接点の作成方法には、スパッタ、蒸着、及び、厚膜印刷等が用いられる。
〔S107〕(接合)
ステップS101〜S103で作成した蓋体と、ステップS104〜S106で作成した基板とを接合する。接合の際に密閉空間50が不活性ガスで充填されるように不活性ガス中で接合を行う。さらに不活性ガスの圧力を調整できる槽内にて接合することが望ましい。接合方法としては、例えば、陽極接合やガラス不リット接合、Au膜を用いた共晶接合等が用いられる。
【0053】
〔S108〕(支持体除去)
蓋体と基板との接合後に蓋体支持体であるSiの除去を行う。蓋体は形状が複雑なため、ウェットエッチングによるエッチングが望ましい。但し、蓋体の材質を考慮したエッチング方法の選定が必要となる。以上で、接点構造を作成する工程についての説明を終了する。
【0054】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態に係る接点構造について
図9を参照して説明する。この接点構造は、第1実施形態に係る接点構造と基本的に同じである。
【0055】
以下、第1実施形態と異なる構成部分について説明し、同じ構成部分についてはその説明を省略する。
【0056】
第1の実施形態では、一対の分室50R、50Lの各内部に、固定接点30及び可動接点40を設けたが、第2の実施形態では、一対の分室50R、50Lの一方の内部のみに、接点(固定接点30及び可動接点40)を設ける。他方の分室の内部をガス溜まりと呼ぶことにする。分室50Rの方をガス溜まりとした例を
図9に示す。なお、接点が設けられた分室を接点側の分室、ガス溜まりとした分室をダミーの分室という場合がある。
【0057】
第2の実施形態に係る接点構造では、密閉空間50に不活性ガスを充填させて、ダイアフラム20を押し上げて、固定接点30と可動接点40との間を適正な距離に保つようにしたので、OFF時の振動や衝撃による誤作動が生じることを軽減することができる。分室50L側のダイアフラム20を押圧して分室50Lを圧縮させ、可動接点40を固定接点30に接触させてON状態とするとき、分室50L内の不活性ガスの一部が分室50Rに流入するので、ダイアフラム20を大きな力で押圧することがなく、ダイアフラム20に大きな応力を生じせずに済む。
【0058】
また、第2実施形態において、上記接点構成とガス溜まりとの組み合わせは、一対一としたが、これに限らず、複数対一であっても、一対複数であっても、複数対複数であっても良い。複数対複数の組み合わせについては第5の実施形態で説明する。
【0059】
さらに、ガス溜まりと接点構成との関係を以下のように設定すれば良い。
【0060】
先ず、ダイアフラム20のコルゲート部24の復元力に関し、ガス溜まり側の復元力を接点側の復元力より大きくなるように設定する。
【0061】
接点構成がON状態で、接点側の分室50Lから通気部51を通ってガス溜まり側の分室50Rに不活性ガスが流入して、ガス溜まり側のコルゲート部24が膨らんでいるとき、コルゲート部24の復元力が増大する。接点構成がOFF状態になると、ガス溜まり側のコルゲート部24の大きな復元力により、ガス溜まり側の分室50Rから通気部51を通って接点側の分室50Lに不活性ガスが流入して、接点側のコルゲート部24が確実に膨らむ。それにより、OFF時の振動や衝撃による誤作動が生じることをさらに軽減することができる。
【0062】
次に、密閉空間50の容積(不活性ガスの充填量)に関し、ガス溜まり側の分室50Rの容積を接点側の分室50Lの容積より小さくなるように設定する。
【0063】
接点構成がON状態で、接点側の分室50Lから通気部51を通ってガス溜まり側の分室50Rに不活性ガスが流入するとき、流入する不活性ガスが少量であっても、ガス溜まり側の分室50Rの容積が小さいため、ガス溜まり側のコルゲート部24が大きく膨らんで、大きな復元力が生じる。接点構成がOFF状態になると、ガス溜まり側のコルゲート部24の大きな復元力により、ガス溜まり側の分室50Rから通気部51を通って接点側の分室50Lに不活性ガスが流入して、接点側のコルゲート部24が確実に膨らむ。それにより、OFF時の振動や衝撃による誤作動が生じることをさらに軽減することができる。
【0064】
[第3の実施形態]
次に第3の実施形について
図10、
図11A及び
図11Bを参照して説明する。
図10はスイッチ装置の分解斜視図、
図11Aは、駆動電極間に電圧を印加しないときのスイッチ装置の断面図、
図11Bは、駆動電極間に電圧を印加したときのスイッチ装置の断面図である。
【0065】
第1の実施形態では、電磁型のアクチュエータ60を密閉空間50の外部に設けたものを示したが、このアクチュエータ60は一例であり、発明の範囲を限定することは意図していない。アクチュエータ60は、ダイアフラム20に作用して、可動接点40を動作させるためのものであれば、様々な形態で実施されることが可能であり、たとえば、密閉空間50の内部に設けることも可能である。
【0066】
この第3の実施形態に係るアクチュエータ60は、静電容量型であり、密閉空間50の内部に設けられ、対向配置された二つの駆動電極71、72を有する。一方の駆動電極71が、分室50Aの天井部に相当するダイアフラム20に設けられている。基板10に複数の貫通配線33が設けられている。貫通配線33の端部に設けられた貫通電極31a(
図10参照)にはダイアフラム20(駆動電極71)が接続されている。貫通電極31aとダイアフラム20とは、基板10とダイアフラム20との接合時に同時に接合される。よって、ダイアフラム20の材質は例えば低抵抗Siのような導電性をもったものに限られる。ダイアフラム20の内面21に絶縁層26が形成され、絶縁層26上に可動接点40が形成されている(
図11A参照)。
【0067】
貫通配線33の端部に設けられた貫通電極31b(
図10参照)には駆動電極72に接続されている。他方の駆動電極72が、分室50Aの底部に相当する基板10の表面11にメタルは、基本的には固定接点30と同じ材質であり、たとえば、Au、Pt、Ru、Ag、Cu等で形成される。但し、固定接点30ほど耐摩耗性や固着防止性に富んだ材質や導電性の高い材質でなくてもよい。他の複数の貫通配線33の端部にも貫通電極31がそれぞれ設けられ、それらの貫通電極31には固定接点30がそれぞれ接続されている(
図10参照)。
【0068】
駆動電極71、72間に電圧を印加し、プラスとマイナスとが引き合う力(静電引力)を用いて固定接点30と可動接点40とを接触させる。静電容量型では、動作時に駆動電極71、72同士を、接触させないので、電気的に導通せず、消費電力を生じない。なお、ダイアフラム20に絶縁層26を設け、その絶縁層26に駆動電極71を設けることで、動作時に駆動電極71、72同士が確実に絶縁性を保つようにしても良い(
図11B参照)。
【0069】
駆動電極71、72間に働く静電引力のエネルギーは次の式で表される。
W=CV
2/2 (1)
Cは静電容量、Vは電圧である。静電容量Cは、次の式で表わされる。
C=εS/d (2)
εは誘電率、Sは、駆動電極71、72の面積(対向する面積)、dは間隔である。
式(1)、(2)から、面積Sが大きくなるほど、また、間隔dが小さくなるほど静電容量Cが大きくなり、また、静電引力のエネルギーWが大きくなることがわかる。
【0070】
この実施形態では、駆動電極71として分室50Aの天井部全体を用い、駆動電極72として分室50Aの底部全体を用い、駆動電極71、72を大きな面積で、かつ、小さな間隔で対向配置させているので、静電容量C、及び、静電引力のエネルギーWを大きくすることが可能となる。
【0071】
なお、第1の実施形態に係る電磁型のアクチュエータ60では、磁性体板61がダイアフラム20の被押圧部23を押圧することにより、可動接点40を固定接点30に接触させたが、この静電容量型のアクチュエータ60では、ダイアフラム20に設けられた駆動電極71を動作させるので、ダイアフラム20に被押圧部23を設ける必要がない(
図10参照)。
【0072】
[第4の実施形態]
次に、第4実施形態に係るスイッチ装置ついて
図12から
図14Bを参照して説明する。
図12はスイッチ装置の分解斜視図、
図13は接点構造の分解斜視図、
図14Aは可動接点を動作させたときのスイッチ装置の断面図、
図14Bは可動接点を固定接点から離したときのスイッチ装置の断面図である。
【0073】
この実施形態では、第1の実施形態に対し、密閉空間50及びアクチュエータの各構成が異なり、他の構成については基本的に同じである。以下、異なる構成について説明し、同じ構成についてその説明を省略する。
【0074】
第1の実施形態では、密閉空間50を一対の分室に区分けしているのに対し、この実施形態では、密閉空間50を3以上の分室に区分けした構成の例として、3つに区分けしたものを説明する。
【0075】
(密閉空間)
密閉空間50は、3つの分室50Aに区分けされている。3つの分室50Aは、基板10の表面11上において、略正三角形の頂点の位置にそれぞれ配置されている(
図12参照)。その配置により、一定容積の密閉空間50内にできるだけ大きな容積の分室50Aを設けることが可能となる。通気部51は、1つの分室50A内の気体を他の2つの分室50Aにそれぞれ出し入れ可能に連通させている。
【0076】
3つの分室50Aには、接点(固定接点30及び可動接点40)がそれぞれ設けられている。3つの分室50A内の各接点は、可動接点40の両端部が一対の固定接点30にそれぞれ接離する橋絡型である。各接点における一対の固定接点30の一方同士は互いに接続されていて、各入力側の接点となっている。すなわち、電力を供給する貫通電極31から三方向に各貫通配線33がそれぞれ延ばされている。各貫通配線33には、各入力側の固定接点30がそれぞれ接続されている(
図13参照)。
【0077】
各分室50Aにおいて、一対の固定接点30の他方同士は互いに接続されていなく、各出力側の接点となっている。すなわち、各出力側の接点である固定接点30は、貫通電極31を含む各貫通配線33にそれぞれ接続されている。
【0078】
(アクチュエータ)
前記第1の実施形態のアクチュエータ60は電磁型であって、二つのダイアフラム20を交互に押圧する揺動機構を有するものであったが、この実施形態のアクチュエータ60は電磁型ではあるが、ダイアフラム20毎に設けられている。
【0079】
アクチュエータ60は、密閉空間50の外部に設けられ、磁性体板61、コイル62、磁性体64、スペーサ65、ボビン68を有する。蓋体20a上にはスペーサ65が設けられている。スペーサ65には貫通孔67が設けられている。アクチュエータ60とダイアフラム20とが貫通孔67を間にして対向配置され、アクチュエータ60が、貫通孔67を通してダイアフラム20にアクセスできるようになっている。
【0080】
磁性体板61は、ほぼL字状断面形状に形成され、角の隅部611、上端部612、及び、下端部613を有している。磁性体64は、溝形断面形状に形成され、溝底である中間部641、溝壁である上辺部642及び下辺部643を有している。磁性体板61の隅部611に、磁性体64の下辺部643が当接している。その当接部644を中心にして、磁性体板61が時計回りと反時計回りとの両方向に揺動する。背中合わせに配置された磁性体64の中間部641及びボビン68の軸部681には、コイル62が巻き付けられている。
【0081】
(アクチュエータの動作)
磁性体板61の上端部612と磁性体64の上辺部642とが引き合うようにコイル62に通電すると、当接部644を中心にして、磁性体板61の下端部613が反時計回りに揺動し、被押圧部23を押圧して、ダイアフラム20を押し下げ、接点をON動作させる(可動接点40を固定接点30に接触させる)(
図14A参照)。磁性体板61の上端部612と磁性体64の上辺部642とが反発するようにコイル62に通電すると、当接部644を中心にして、磁性体板61の下端部613が時計回りに揺動し、被押圧部23から離れ、ダイアフラム20を復元させることで、接点をOFF動作させる(可動接点40を固定接点30から離れさせる)(
図14B参照)。
【0082】
各アクチュエータ20は制御可能であるため、接点の一部又は全部をON動作させるようにアクチュエータ20を択一的又は全体的に制御することが可能となる。
接点の全部をON動作させることは、制御上可能であるが、密閉空間50の内圧を考えると、三接点の場合では1個か2個の接点をON動作させることが可能となる。但し、接点機構のないダミーのダイアフラム20を設け、内部空間を確保した場合には、全部の接点をON動作させることが可能となる。また、作成時に密閉空間50内を大気圧程度にしているため、この点からも全部の接点をON動作させることが可能となる。
【0083】
一例として、3つの分室50Aのうち、1つまたは2つの分室50A内の接点をON動作させるとき、ダイアフラム20に過度な負担をかけないために、ON動作させる分室50Aの容積と、OFF動作させる分室50Aの容積との関係は、1:1〜1:2/3の範囲内であることが望ましい。それにより、ON動作させた分室50Aからの気体を、OFF動作させる分室50Aが受け入れることにより、ON動作させた分室50Aのダイアフラム20の負担を軽減させることが可能となる。
【0084】
以上に説明したように、複数の接点を有するスイッチ装置の場合、全部の接点をOFF動作させることが可能である。一方で、全部の接点をON動作させることは、ダミーのダイアフラム20を設けた場合のみ可能である。全部の接点のうち、複数を同時にON動作させる場合には、ONに係る密閉空間50の容積と、OFFに係る密閉空間50の容積との関係が1:1〜1:2/3の範囲内であれば、ダイアフラム20に過度な負担をかけることなく接点を動作させることが可能となる。
【0085】
[第5の実施形態]
次に、第5の実施形態について
図15及び
図16を参照して説明する。
図15は、分室の配置図、
図16は、分室の押圧動作のバリエーションを示す図であり、ハッチングの有無により、押圧しているか否かを表す図である。
【0086】
第4の実施形態では3個のダイアフラム20の全部が接点機構を有するものであったが、第5の実施形態では、それらの3個のダイアフラム20に2個のダイアフラム20を追加し、追加した2個のダイアフラム20は、接点機構のないダミーのダイアフラム20となっている。ダミーのダイアフラム20を設けたので、3個のダイアフラム20の接点を全部ON動作させた場合でも、ダミーのダイアフラム20が膨らむので内部空間の内圧が高くなり過ぎることを防止することが可能となる。
【0087】
接点側の分室50Aとダミーの分室50Bとの配置の組み合わせには様々な態様がある。なお、全てが接点側の分室50Aである態様もある。3個の接点側の分室50Aと2個のダミーの分室50Bとを配置したものを
図15に示す。
【0088】
図16のa〜dに示す分室の押圧動作のバリエーションでは、押圧する接点側の分室50Aをハッチングした円で、ダミーの分室50Bを白抜きの円でそれぞれ表している。なお、分室50A、50B間で気体を出し入れするための通気部51を省略して示している。また、第4実施形態と同様に、接点側の分室50Aにはアクチュエータ60が設けられ、各アクチュエータ60を制御することで、分室50Aの接点を択一的にON動作させ、また、分室50A全部の接点をON動作可能となる。
【0089】
次に、
図15に示すように配置された接点側の分室50A及びダミーの分室50Bにおいて、各分室の押圧動作について
図16を参照して説明する。なお、作成時に密閉空間50内を大気圧程度にしているため、接点側の分室50A全部の接点を同時にOFF動作させることが可能となる(
図16a参照)。
【0090】
先ず、1つの接点側の分室50Aの接点をON動作させたとき、気体の流れの一例として、押圧された接点側の分室50A内の気体の一部はダミーの分室50Bに流れると共に、押圧されていないに接点側の分室50Aに流れる(
図16bに気体の流れを矢印で示す)。
【0091】
次に、2つの接点側の分室50Aの接点をON動作させたとき、気体の流れの一例として、一つの接点側の分室50A内の気体の一部はダミーの分室50Bに流れる。また、他の一つの接点側の分室50A内の気体の一部は、押圧されていないに接点側の分室50Aに流れる(
図16cに気体の流れを矢印で示す)。
【0092】
次に、3つの接点側の分室50A全部の接点をON動作させたとき、接点側の分室50A内の気体の一部は直接的にダミーの分室50Bに流れ、または、接点側の分室50A内を通ってから間接的にダミーの分室50Bに流れる(
図16d参照)。