(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両の駆動系の所定箇所が所定量回転する毎に現れるパルス信号を車速パルスとして監視し、この車速パルスに基づいて前記車両の走行速度を検出する車両速度検出方法であって、
前記車速パルスの発生周期の長さに基づいて車速の瞬時値を算出すると共に、
第1の時間周期以内に1つ以上のパルスが検出された状態が所定回数連続した場合を走行開始状態として検出し、
第2の時間周期以内にパルスが全く検出されない状態が所定回数連続した場合を走行終了状態として検出し、
前記走行開始状態および走行終了状態の検出結果に基づいて、前記車速の瞬時値に関するデータの有効性を識別し、
前記有効性を反映した前記車速の瞬時値に基づいて生成した車速の情報を表示もしくは記録し、
前記データは、前記第1の時間周期以内に1つ以上のパルスが検出された状態が所定回数連続したうちの最初の状態検出から、前記第2の時間周期以内にパルスが全く検出されない状態が所定回数連続したうちの最初の状態検出までのデータが有効なデータとして扱われる
ことを特徴とする車両速度検出方法。
車両の駆動系の所定箇所が所定量回転する毎に現れるパルス信号を車速パルスとして監視し、この車速パルスに基づいて前記車両の走行速度を検出し、検出された走行速度を含む車両のデータを自動的に記録する車両用データ記録装置であって、
前記車速パルスの発生周期の長さに基づいて車速の瞬時値を算出する車速瞬時値算出部と、
第1の時間周期以内に1つ以上のパルスが検出された状態が所定回数連続した場合を走行開始状態として検出する走行開始状態検出部と、
第2の時間周期以内にパルスが全く検出されない状態が所定回数連続した場合を走行終了状態として検出する走行終了状態検出部と、
前記走行開始状態および走行終了状態の検出結果に基づいて、前記車速の瞬時値に関するデータの有効性を識別し、前記有効性を反映した前記車速の瞬時値に基づいて生成した車速の情報を記録する車速データ記録部と
を備え、
前記車速データ記録部は、前記データのうち、前記第1の時間周期以内に1つ以上のパルスが検出された状態が所定回数連続したうちの最初の状態検出から、前記第2の時間周期以内にパルスが全く検出されない状態が所定回数連続したうちの最初の状態検出までのデータを有効なデータとして扱う
ことを特徴とする車両用データ記録装置。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車などの車両には、車両の移動速度を検出するために車速センサが搭載されている。また、一般的な車速センサは、車両のトランスミッションの出力軸や車輪が所定量回転する毎に車速パルスと呼ばれるパルス信号を出力する。
【0003】
実際の車速に応じてこの車速パルスの発生周期の長さが変化する。従って、例えば車両に搭載されるスピードメータ、デジタルタコグラフ、ドライブレコーダ、カーナビゲーション装置などの各種機器は、車速センサから出力される車速パルスの状態を監視することにより、現在の車速を把握することができる。すなわち、一定時間の間に発生するパルス数や、パルスの周期を計測することにより、車速を算出することが可能である。
【0004】
この種の車速検出に関する従来技術としては、例えば特許文献1〜特許文献4に開示された技術が知られている。
特許文献1は、車両用のデジタル表示車速計に関するものである。具体的には、車速パルスを一定ゲート時間計数する車速カウンタを備え、車速パルスの発生間隔が所定時間以上になった場合には表示を強制的に0にすることを提案している。
【0005】
特許文献2は、車速やエンジン回転数を表示するための自動車のデジタル表示装置に関するものである。具体的には、エンジンの駆動状態に応じた入力信号が所定時間内にいくつ到来するかを計数するカウンタを備え、過去の計数値を一時記憶する保持回路を備え、エンジンの駆動状態に関連した指令信号に従って、現在の計数値と過去の計数値のいずれかを選択して表示することを提案している。
【0006】
特許文献3は、回転速度計測装置に関するものである。具体的には、所定時間Tsの間に現れたパルスの数Nを計数し、更にこれらN個のパルスに対応する時間ΔTを計測し、「N>0」の場合にはNとΔTに基づいて速度を算出する。また、「N=0」の場合には、「N=0」になった連続回数NPを計測し、回数NPと時間Tsに基づいて速度を算出することを提案している。
【0007】
特許文献4は、鉄道車両用の速度検出装置に関するものである。具体的には、所定のサンプリング期間毎に発生した速度パルス数を一方のカウンタで計数し、もう一方のカウンタでクロックパルスを計数して速度パルスの1周期の長さを検出し、これらの検出結果に基づいて速度、加速度、減速度、加速度の変化量、減速度の変化量を算出することを提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、デジタルタコグラフあるいはドライブレコーダを車両に搭載することにより、時々刻々と変化する車速等のデータを、一定時間毎にサンプリングされた時系列データとして記録することが可能である。例えば、交通事故が発生したような場合に、デジタルタコグラフによって記録された時系列データが存在する場合には、この時系列データを解析することにより事故の状況や原因の特定に役立てることができる。しかし、事故の解析等を行う場合には、例えば1秒毎、あるいはそれより短い一定の周期で記録された精密な車速の時系列データが必要とされる場合もある。
【0010】
例えば、0.5秒毎のような短い周期で車速をサンプリングし、これと同等の周期でデータを記録しようとする場合、車速が低速になると車速パルスの周期が長くなり、サンプリングの1周期の間でパルスが1つも発生せず、車速の瞬時値を特定できないタイミングが生じる。
【0011】
例えば、ある種の車速センサを用いる場合には、トランスミッション出力軸の1回転あたり4パルスを出力し、2km/hの車速の時にパルスの周期が0.7秒程度になる。このような車速パルスを0.5秒周期でサンプリングすると、車速が2km/hの場合には、あるタイミングでは、0.5秒の間でパルスを全く検出できないことになるので、低速の時に時系列データとして不自然に変化する車速が記録されることがある。つまり、実際には車両が低速で走行を続けている状態であっても、車両が動いたり止まったりを不自然に繰り返したような状態を表す時系列データが記録されることもある。
【0012】
例えば、車両の運転者に現在の車速を知らせるためにリアルタイムで車速を表示するスピードメータの場合であれば、現在のタイミングで正しい車速の瞬時値が計算できない場合であっても、少し前のタイミングで得られたデータを用いて補完したり、複数のデータの平均化を行うことにより、現在の車速に近い車速を表示することもできる。また、特許文献2のように過去の計数値を表示したり、特許文献3のように通常よりも大きい周期で車速を計算して表示することも可能である。
【0013】
しかし、デジタルタコグラフ等において車速のデータを記録する場合には各タイミングで実際に測定された車速の瞬時値を正しく記録することが要求されるので、不足するデータを他のデータで補完したり、異なるタイミングで得られたデータを用いて平均化するような処理を行うことは適切でない。
【0014】
従って、例えば、車両が停止状態から動き始める時や、低速走行状態から停止しようとする時や、渋滞している道路上で車両が走行と停止とを交互に繰り返すような時には、時系列データとして、不自然に変化する車速が記録される可能性が高い。
【0015】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両が低速で走行している状態や停止している状態等においても、不自然な変化を生じることなく、適切な車速の時系列データを出力することが可能な車両速度検出方法および車両用データ記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車両速度検出方法は、下記(1)〜(3)を特徴としている。
(1) 車両の駆動系の所定箇所が所定量回転する毎に現れるパルス信号を車速パルスとして監視し、この車速パルスに基づいて前記車両の走行速度を検出する車両速度検出方法であって、
前記車速パルスの発生周期の長さに基づいて車速の瞬時値を算出すると共に、
第1の時間周期以内に1つ以上のパルスが検出された状態が所定回数連続した場合を走行開始状態として検出し、
第2の時間周期以内にパルスが全く検出されない状態が所定回数連続した場合を走行終了状態として検出し、
前記走行開始状態および走行終了状態の検出結果に基づいて、前記車速の瞬時値に関するデータの有効性を識別し、
前記有効性を反映した前記車速の瞬時値に基づいて生成した車速の情報を表示もしくは記録
し、
前記データは、前記第1の時間周期以内に1つ以上のパルスが検出された状態が所定回数連続したうちの最初の状態検出から、前記第2の時間周期以内にパルスが全く検出されない状態が所定回数連続したうちの最初の状態検出までのデータが有効なデータとして扱われる
こと。
(2) 上記(1)に記載の車両速度検出方法であって、
前記第1の時間周期および第2の時間周期よりも短い第3の時間周期毎に、新たなパルス発生の有無を識別し、
1つのパルスを検出してから次のパルスを検出するまでの所要時間が前記第1の時間周期または第2の時間周期未満である時には、前記車速パルスの発生周期の長さに基づいて車速の瞬時値を算出し、
1つのパルスを検出してから次のパルスを検出するまでの所要時間が前記第1の時間周期または第2の時間周期以上である時には、車速の瞬時値として停止状態に相当する車速を生成する
こと。
(3) 上記(1)に記載の車両速度検出方法であって、
前記車速の瞬時値の複数の算出結果を過去データとして所定のメモリ上に保存しておき、
前記走行開始状態または走行終了状態の検出結果が確定した時に、その時点から前記第1の時間周期または第2の時間周期以上前の時点までさかのぼって、その範囲内で得られた前記瞬時値の過去データについて有効性を識別する
こと。
【0017】
上記(1)の構成の車両速度検出方法によれば、車両が低速で走行している状態であっても、走行状態と停止状態とが不自然に繰り返されるような車速の時系列変化が記録されるのを抑制できる。すなわち、走行開始状態および走行終了状態を検出した結果に基づいて、車速の瞬時値に関するデータの有効性を識別するので、不自然に変化する車速のデータを無効化できる。
上記(2)の構成の車両速度検出方法によれば、新たなパルス発生の有無を識別する間隔が短いので、高精度の時系列データが得られる。また、この間隔よりも十分に長い周期のパルスに対しては、停止状態に相当する車速の瞬時値を生成するので、不自然に変化する車速が記録されるのを抑制できる。
上記(3)の構成の車両速度検出方法によれば、走行開始状態や走行終了状態を判定している途中で記録された過去の車速の瞬時値についても、データの有効性を識別して結果に反映できる。従って、走行開始/走行終了の状態判定に時間がかかる場合であっても、不自然に変化する車速データの発生を抑制できる。
【0018】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車両用データ記録装置は、下記(4)〜(6)を特徴としている。
(4) 車両の駆動系の所定箇所が所定量回転する毎に現れるパルス信号を車速パルスとして監視し、この車速パルスに基づいて前記車両の走行速度を検出し、検出された走行速度を含む車両のデータを自動的に記録する車両用データ記録装置であって、
前記車速パルスの発生周期の長さに基づいて車速の瞬時値を算出する車速瞬時値算出部と、
第1の時間周期以内に1つ以上のパルスが検出された状態が所定回数連続した場合を走行開始状態として検出する走行開始状態検出部と、
第2の時間周期以内にパルスが全く検出されない状態が所定回数連続した場合を走行終了状態として検出する走行終了状態検出部と、
前記走行開始状態および走行終了状態の検出結果に基づいて、前記車速の瞬時値に関するデータの有効性を識別し、前記有効性を反映した前記車速の瞬時値に基づいて生成した車速の情報を記録する車速データ記録部と
を備え
、
前記車速データ記録部は、前記データのうち、前記第1の時間周期以内に1つ以上のパルスが検出された状態が所定回数連続したうちの最初の状態検出から、前記第2の時間周期以内にパルスが全く検出されない状態が所定回数連続したうちの最初の状態検出までのデータを有効なデータとして扱う
こと。
(5) 上記(4)に記載の車両用データ記録装置であって、
前記車速瞬時値算出部は、
前記第1の時間周期および第2の時間周期よりも短い第3の時間周期毎に、新たなパルス発生の有無を識別し、
1つのパルスを検出してから次のパルスを検出するまでの所要時間が前記第1の時間周期または第2の時間周期未満である時には、前記車速パルスの発生周期の長さに基づいて車速の瞬時値を算出し、
1つのパルスを検出してから次のパルスを検出するまでの所要時間が前記第1の時間周期または第2の時間周期以上である時には、車速の瞬時値として停止状態に相当する車速を生成する
こと。
(6) 上記(4)に記載の車両用データ記録装置であって、
前記車速瞬時値算出部は、前記車速の瞬時値の複数の算出結果を過去データとして所定のメモリ上に保存しておき、
前記車速データ記録部は、前記走行開始状態または走行終了状態の検出結果が確定した時に、その時点から前記第1の時間周期または第2の時間周期以上前の時点までさかのぼって、その範囲内で得られた前記瞬時値の過去データについて有効性を識別する
こと。
【0019】
上記(4)の構成の車両用データ記録装置によれば、車両が低速で走行している状態であっても、走行状態と停止状態とが不自然に繰り返されるような車速の時系列変化が記録されるのを抑制できる。すなわち、走行開始状態および走行終了状態を検出した結果に基づいて、車速の瞬時値に関するデータの有効性を識別するので、不自然に変化する車速のデータを無効化できる。
上記(5)の構成の車両用データ記録装置によれば、新たなパルス発生の有無を識別する間隔が短いので、高精度の時系列データが得られる。また、この間隔よりも十分に長い周期のパルスに対しては、停止状態に相当する車速の瞬時値を生成するので、不自然に変化する車速が記録されるのを抑制できる。
上記(6)の構成の車両用データ記録装置によれば、走行開始状態や走行終了状態を判定している途中で記録された過去の車速の瞬時値についても、データの有効性を識別して結果に反映できる。従って、走行開始/走行終了の状態判定に時間がかかる場合であっても、不自然に変化する車速データの発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の車両速度検出方法および車両用データ記録装置によれば、車両が低速で走行している状態や停止している状態等においても、不自然な変化を生じることなく、適切な車速の時系列データを出力することが可能である。従って、例えばデジタルタコグラフやドライブレコーダなどの車載器に搭載することにより、一定の時間間隔でサンプリングされた高精度の車速を含む時系列データを記録することができる。
【0021】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の車両速度検出方法および車両用データ記録装置に関する具体的な実施の形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0024】
本発明の車両速度検出方法および車両用データ記録装置は、代表例として業務用の車両に搭載される車載器であるデジタルタコグラフに適用することが想定される。勿論、例えば車速を時系列データとして記録する機能を含むドライブレコーダなどに適用することも考えられる。
【0025】
デジタルタコグラフ100のハードウェアの構成例が
図3に示されている。また、本実施形態では、
図3に示したデジタルタコグラフ100に
図4に示す車両用データ記録装置10の機能が含まれている。
【0026】
図3に示すように、このデジタルタコグラフ100には、マイクロコンピュータ(CPU)101、速度信号インタフェース(I/F)102、エンジン信号インタフェース103、電源信号インタフェース104、音声処理部105、表示器(LCD)106、通信インタフェース107、GPSモジュール108、カードインタフェース109、データ処理部110、メモリ(SDRAM)111及び112が備わっている。
【0027】
このデジタルタコグラフ100は、これを搭載した車両の運行状況を表す時系列データを自動的に記録するものであり、時々刻々と変化する情報として、時刻、車速、エンジン回転速度、車両の現在位置などを記録することができる。本実施形態では、車速として適切なデータを記録するための機能を実現する
図4の車両用データ記録装置10がデジタルタコグラフ100に含まれている。
【0028】
マイクロコンピュータ101は、予め用意された所定のプログラムを実行し、デジタルタコグラフ100の全体の動作を制御する。
図1及び
図2に示す各処理や、
図4に示す各機能ブロックの動作もマイクロコンピュータ101の処理によって実現される。
【0029】
速度信号インタフェース102は、車両側のトランスミッションに装着された車速センサから出力される車速パルス信号(速度パルスとも言う)SG1を入力し、マイクロコンピュータ101が処理可能なレベルの信号に変換してマイクロコンピュータ101に与える。
【0030】
この車速パルス信号SG1は、二値信号であり、トランスミッション出力軸が所定量回転する毎にパルスが現れる。従って、このパルスの周期(
図4中のTx)は車両の移動速度に応じて変化し、低速になると現れるパルスの周期が長くなる。つまり、入力された車速パルス信号SG1のパルス周期を測定すれば、この周期から現在の車速を算出することができる。
【0031】
エンジン信号インタフェース103は、車両側のエンジンから出力されるエンジンパルス信号SG2を入力し、マイクロコンピュータ101が処理可能なレベルの信号に変換してマイクロコンピュータ101に与える。このエンジンパルス信号SG2には、エンジンの出力軸が所定量回転する毎にパルスが現れる。従って、エンジンパルス信号SG2を監視することにより、エンジンの回転速度を把握できる。
【0032】
電源信号インタフェース104は、電源に関連する信号、すなわちイグニッションオン/オフを表す信号や、車両上のバッテリーの出力電圧を表す信号などを入力してマイクロコンピュータ101に与える。
【0033】
音声処理部105は、音声処理機能を有する集積回路であり、音声等の音響信号を入力してサンプリングし記録可能なデータに変換したり、データを音声に変換して警報や案内用の音響信号として出力するために利用される。
【0034】
表示器106は、必要に応じてデジタルタコグラフ100の動作状態を表示したり、測定して得られたデータを文字や数値などの情報として表示するために利用される。通信インタフェース107は、車両上に搭載された他の機器との間でデータ通信を行うために利用される。
【0035】
GPSモジュール108は、車両上に搭載された図示しないGPS(Global Positioning System)受信機から出力されるデータを入力して車両の現在位置(緯度/経度)の情報を生成する。
【0036】
カードインタフェース109は、所定のメモリカード200を装着可能なスロットを有している。カードインタフェース109に装着するメモリカード200については、データの書き込み及び読み出しが可能な不揮発性メモリを搭載したカードを用いる。マイクロコンピュータ101は、データ処理部110を介して、メモリカード200にアクセスすることができる。
【0037】
メモリ111及び112は、データの読み出し及び書き込みが自在な揮発性のメモリ(SDRAM)であり、生成されたデータを一時的に記録するために利用される。車両の運行中に一定の時間周期でサンプリングされ生成された時刻、車速、エンジン回転速度、車両位置等の情報が時系列データとしてメモリ111又は112上に記録される。メモリ111及び112上に記録された時系列データは、車両の運行が中断又は終了し、電源が遮断される前にメモリカード200上に保存される。
【0038】
図4に示す車両用データ記録装置10は、
図3に示したデジタルタコグラフ100に備わっている様々な機能の中で、車速の検出及び記録のために必要な主要な要素だけを表している。なお、
図4に示した各要素の機能はマイクロコンピュータ101の処理によって実現できる。
【0039】
図4に示すように、車両用データ記録装置10にはパルス周期測定部11、車速瞬時値算出部12、走行開始状態検出部13、走行終了状態検出部14、および車速データ記録部15が備わっている。
【0040】
パルス周期測定部11は、車両側から入力される車速パルス信号SG1を常時監視して、パルス周期Txを検出する。本実施形態においては、車速パルス信号SG1の信号レベルの高レベルから低レベルへの変化、すなわち1つのパルスの立ち下がりから次のパルスの立ち下がりまでの時間の長さを繰り返し測定し、その測定結果を最新のパルス周期Txとして出力する。
【0041】
車速瞬時値算出部12は、車速を検出するための所定のサンプリング周期毎に、パルス周期測定部11から出力される最新のパルス周期Txに基づいて車速の瞬時値を算出する。すなわち、車両の移動量と発生するパルスの数との関係が一定であり、パルスの周波数(1/Tx)と車速とが比例するので、車速の瞬時値vxは次式により求めることができる。
vx=kv/Tx
kv:車速センサの特性等により定まる定数
【0042】
本実施形態においては、車両が2km/hの車速で移動する時に、0.7秒程度の周期で車速パルス信号SG1にパルスが発生する場合を想定している。また、車速瞬時値算出部12のサンプリング周期を、0.2秒に定めてある。
【0043】
ところで、車両が停止状態から動き始めるような時には、非常に低速の状態から徐々に車速が上昇するように状態が遷移するので、車速パルス信号SG1のパルス周期は例えば
図5に示すように変化する。また、車両が通常の走行状態から停止しようとする時には、通常の車速から徐々に車速が低下し、車速パルス信号SG1のパルス周期は例えば
図7に示すように変化する。
【0044】
一方、例えば1秒を経過する毎に車速の時系列変化を表す車速データを記録する場合を想定すると、低速の時にはパルス周期が長すぎるため、1秒を経過する間に、パルス周期を測定できないタイミングが生じる。このような場合には、車速が不規則にあるいは不自然に変化するような時系列データが記録される可能性がある。例えば、車両の事故の解析を行うために記録された時系列データを分析する時には、不規則な車速の変化や、サンプリング間隔の異なるデータや、現実と異なる時系列データの存在は解析の妨げになる可能性が高い。
【0045】
このような非常に低速の状態において、不規則あるいは不自然な車速の変化が記録されるのを防止するために、走行開始状態検出部13、走行終了状態検出部14、及び車速データ記録部15が車両用データ記録装置10に備わっている。
【0046】
走行開始状態検出部13は、入力される車速パルス信号SG1に基づいて、車両が走行を開始した状態か否かを識別するための機能を有している。本実施形態では、1秒間に1つ以上のパルスの立ち下がりが検出された状態が5秒間連続的に現れた時に、停止状態から走行開始状態に変化したものとみなす。
【0047】
例えば、
図5に示す例では、走行開始状態に変化したことが基準時刻tref1で検出される。但し、実際にはこれよりも5秒前に既に走行開始したとみなすこともできるので、その基準時刻(tref1−5秒(sec))以降の車速の瞬時値は有効なデータとして扱う。
【0048】
走行終了状態検出部14は、入力される車速パルス信号SG1に基づいて、車両が走行を終了した状態か否かを識別するための機能を有している。本実施形態では、1秒間にパルスの立ち下がりが1回も検出されない状態が5秒間連続的に現れた時に、走行状態から走行停止状態に変化したものとみなす。
【0049】
例えば、
図7に示す例では、走行停止状態に変化したことが基準時刻tref2で検出される。但し、実際にはこれよりも5秒前に既に走行停止したとみなすこともできるので、その基準時刻(tref2−5秒(sec))以降の車速の瞬時値は無効、あるいは停止状態のデータとして扱う。
【0050】
車速データ記録部15は、一定のサンプリング間隔で車速瞬時値算出部12が算出した車速の瞬時値を時系列データとしてメモリ111上に記録する。また、車速データ記録部15は走行開始状態検出部13の検出した状態や走行終了状態検出部14の検出した状態をメモリ111上の車速の時系列データに反映する。反映の際には、走行開始状態検出部13の検出の遅延時間(5秒)や走行終了状態検出部14の検出の遅延時間(5秒)を考慮して、実際に検出した時点より遅延時間だけ前の時刻までさかのぼって時系列データの有効性を反映する。
【0051】
図4の車両用データ記録装置10が実行する走行状態判定処理および速度サンプリング処理の内容が
図1および
図2にそれぞれ示されている。まず、
図2の速度サンプリング処理について説明する。
【0052】
ステップS21では、デジタルタコグラフ100がデータを記録すべき状態か否かを識別するために、マイクロコンピュータ101がイグニッションのオン/オフを表す信号の状態を参照する。イグニッションオン状態であれば次のステップS22に進み、オフ状態ならこの処理を終了する。また、図示しないがイグニッションオフ状態になった時には、メモリ111上に記録された時系列データを、データ処理部110およびカードインタフェース109を介してメモリカード200に転送し保存する。
【0053】
ステップS22では、マイクロコンピュータ101がサンプリング周期である0.2秒を経過したか否かを識別する。0.2秒を経過する毎に、ステップS23以降の処理が実行される。
【0054】
ステップS23では、0.2秒のサンプリング周期を経過する間に1つ以上のパルスの立ち下がりを検出したか否かをマイクロコンピュータ101が識別する。検出した場合はステップS24に進み、検出しない場合はステップS27に進む。
【0055】
ステップS24では、前のステップS23でパルスを検出した時間が、その前のパルスから1秒未満か否かをマイクロコンピュータ101が識別する。つまり、最後に検出されたパルス周期の長さが1秒未満か否かを識別する。1秒未満であればステップS25に進み、1秒以上であればステップS27に進む。
【0056】
例えば、
図5に示す時刻t03の近傍でパルスの立ち下がりを検出した時には、1つ前のパルスとの間隔T0が1秒以上の長さであるため、ステップS24からステップS27に進む。また、
図5に示す時刻t04の近傍でパルスの立ち下がりを検出した時には、1つ前のパルスとの間隔T1が1秒未満の長さであるためステップS24からステップS25に進む。
【0057】
図5の一部分について時間軸を拡大した状態が
図6に示されている。
図6に示すように、実際には0.2秒毎に
図2のステップS23以降の処理が実行される。つまり、0.2秒毎にパルスの有無が検出される。なお、
図4に示すパルス周期測定部11におけるパルス周期の測定については、0.2秒のサンプリングとは無関係にパルスの立ち下がりのタイミングで実行される。
【0058】
ステップS25では、車速パルス信号SG1に最後に現れたパルスの立ち下がりと、1つ前のパルスとのパルス周期Tnを検出する。このパルス周期Tnは、
図4に示したパルス周期測定部11の出力として得られる。例えば、
図6に示す時刻t101では周期T1が、時刻t102では周期T2が、時刻t103では周期T3がそれぞれパルス周期Tnとして検出される。
【0059】
ステップS26では、ステップS25で検出した最新のパルス周期Tnに基づいて、現在の車速瞬時値(vx)を車速瞬時値算出部12、すなわちマイクロコンピュータ101が算出する。
【0060】
ステップS27では、パルス周期が1秒以上なので、正確な車速瞬時値が算出できないものとみなし、停止状態に相当する車速(0km/h)を現在の車速瞬時値として出力する。
【0061】
なお、
図6に示す0.2秒毎のサンプリングタイミングの中で、時刻t104等においてはパルスの立ち下がりが検出できないが、1秒未満で1つ以上のパルスを検出している。このような場合には、ステップS27で停止状態の車速(0km/h)を出力せずに、直前に検出されたパルス周期T3を用いて車速瞬時値を算出するか、あるいは直前のステップS26で算出された車速瞬時値をそのまま出力しても良い。
【0062】
ステップS28では、車速データ記録部15、すなわちマイクロコンピュータ101がステップS26又はステップS27の最新の車速瞬時値を0.2秒間隔の時系列データとしてメモリ111上に書き込む。
【0063】
次に、
図1の走行状態判定処理について説明する。
ステップS11では、車速パルス信号SG1の状態を監視して、最新の1秒周期の間で1つ以上のパルスの立ち下がりを検出したか否かを走行開始状態検出部13が識別する。検出した場合はステップS12に進み、検出してなければステップS11の処理を繰り返す。
【0064】
ステップS12では、ステップS11の条件を満たす状態が5秒間連続的に現れたか否かを走行開始状態検出部13が識別する。5秒間連続した場合はステップS13に進み、それ以外の場合はステップS11に戻る。
【0065】
ステップS13では、車両が走行開始状態になったことを走行開始状態検出部13が認識する。
【0066】
ステップS14では、車速データ記録部15が所定の走行開始時処理を行う。すなわち、現在の走行開始状態では記録された車速瞬時値の時系列データが有効であることを反映するように、メモリ111上に記録された車速瞬時値の時系列データを処理する。また、走行開始状態検出部13が走行開始状態を検出する際に5秒間の遅延時間があるので、走行開始状態に切り替わった時点(
図5のtref1)から5秒前(tref1−5sec)までさかのぼって、過去のデータも有効なデータとして扱う。処理の具体例については後で説明する。
【0067】
ステップS15では、車速パルス信号SG1の状態を監視して、最新の1秒周期の間でパルスの立ち下がりを全く検出できない状態か否かを走行終了状態検出部14が識別する。パルスを非検出の場合はステップS16に進み、検出してなければステップS15の処理を繰り返す。
【0068】
ステップS16では、ステップS15の条件を満たす状態が5秒間連続的に現れたか否かを走行終了状態検出部14が識別する。5秒間連続した場合はステップS17に進み、それ以外の場合はステップS15に戻る。
【0069】
ステップS17では、車両が走行終了状態になったことを走行終了状態検出部14が認識する。
【0070】
ステップS18では、車速データ記録部15が所定の走行終了時処理を行う。すなわち、現在の走行終了状態では記録された車速瞬時値の時系列データが無効、つまり停止状態であることを反映するように、メモリ111上に記録された車速瞬時値の時系列データを処理する。また、走行終了状態検出部14が走行終了状態を検出する際に5秒間の遅延時間があるので、走行開始状態に切り替わった時点(
図7のtref2)から5秒前(tref2−5sec)までさかのぼって、過去のデータも無効なデータとして扱う。
【0071】
次に、
図1のステップS14及びS18に関する処理の具体例について説明する。ステップS14及びS18の処理を実行する前と後の記録データの具体例が
図9〜
図12にそれぞれ示されている。
【0072】
図9及び
図10に示した例では、メモリ111上に存在する記録データとして、時刻と、車速瞬時値と、データの有効性を表す情報とが含まれている場合を想定している。この例では、データの有効性の情報の「0」、「1」、「2」は、それぞれ「有効性を未確認である状態」、「データが有効である状態」、「データが無効もしくは停止状態」を表している。
【0073】
図9に示す例では、最後のデータを記録した時点である時刻tref1で、走行開始状態検出部13が走行開始を検出したため、
図1のステップS14の処理を実行した場合を想定している。つまり、この基準時刻tref1から5秒さかのぼった時刻(tref1−5sec)から最後のデータまでの全てのデータについて、データの有効性の情報を「0」から「1」に書き換えて有効化し、走行開始状態を反映する。
【0074】
図10に示す例では、最後のデータを記録した時点である時刻tref2で、走行終了状態検出部14が走行終了を検出したため、
図1のステップS18の処理を実行した場合を想定している。つまり、この基準時刻tref2から5秒さかのぼった時刻(tref2−5sec)から最後のデータまでの全てのデータについて、データの有効性の情報を「1」から「2」に書き換えて無効化し、走行終了状態を反映する。
【0075】
図11及び
図12に示した例では、メモリ111上に存在する記録データとして、時刻と、車速瞬時値とが含まれている場合を想定している。従って、走行開始状態や走行終了状態を反映するために、記録された車速瞬時値自体を修正している。
【0076】
図11に示す例では、最後のデータを記録した時点である時刻tref1で、走行開始状態検出部13が走行開始を検出したため、
図1のステップS14の処理を実行した場合を想定している。つまり、この基準時刻tref1から5秒さかのぼった時刻(tref1−5sec)から最後のデータまでの全てのデータを有効とし、それ以前の無効なデータは停止状態を表す0km/hの車速瞬時値に書き換える。
【0077】
図12に示す例では、最後のデータを記録した時点である時刻tref2で、走行終了状態検出部14が走行終了を検出したため、
図1のステップS18の処理を実行した場合を想定している。つまり、この基準時刻tref2から5秒さかのぼった時刻(tref2−5sec)から最後のデータまでの全てのデータを無効化するために、これらの車速瞬時値を停止状態を表す0km/hに書き換えて走行終了状態を反映する。
【0078】
以上のように、走行開始状態と走行終了状態とをそれぞれ検出し、検出した状態を記録データに反映することにより、非常に低速な状態で車両が走行しているような場合であっても、不規則にあるいは不自然に変化を繰り返すような車速の瞬時値が記録されるのを防止できる。
【0079】
(変形例)
次に、上述の実施形態の変形例について
図13〜
図18を参照しながら以下に説明する。なお、
図13〜
図18において、上述の実施形態と対応する要素及びステップについては共通の符号や番号を付けて示してある。共通の構成や動作については説明を省略する。
【0080】
この変形例においては、メモリカード等の不揮発性記録媒体にデータを保存するか否かを判断する際に、前述の走行開始状態および走行終了状態の検出結果を利用している。つまり、車両が走行していない時に取得したデータについては無効とみなせるのでこれを保存する必要はなく、保存対象から除外する。これにより、解析対象となる保存データのデータ容量を減らすことができ、データ解析の所要時間を短縮できる。
【0081】
図15に示すように、変形例のデジタルタコグラフ10Aにおいては、ワークメモリ16が追加されている。このワークメモリ16は、データの書き込み及び読み出しが可能なリング状のメモリである。書き込み位置を順次に移動してリング状に繰り返し使用する。つまり、時間的に古いデータを新しいデータで上書きして所定時間内に取得した新しいデータだけを保持する。この例では5秒間のデータを保持可能な容量を有している。
【0082】
走行開始未確定の状態では、車速データ記録部15は、車速瞬時値算出部12が算出した車速を一時データとしてワークメモリ16上に常時記録する。走行開始が確定すると、このタイミングでワークメモリ16上に保持されている過去5秒間分の車速データを保存対象の有効な時系列データとしてメモリ111あるいはメモリカード200上に転送する。また、走行開始が確定した後で車速瞬時値算出部12が算出した車速データについては、ワークメモリ16を使わずに、直接メモリ111あるいはメモリカード200上に記録(保存)する。
【0083】
従って、
図13に示す走行状態判定処理においては、ステップS14A、S14B、S18Aの処理が変更されている。また、
図14に示す速度サンプリング処理においては、ステップS28Aが変更されている。
【0084】
ステップS14Aでは、走行開始状態が確定したので、
図15のワークメモリ16上に保持されている過去5秒間分の車速データを記録対象(保存対象)の時系列データとしてメモリ111あるいはメモリカード200上に転送する。
【0085】
ステップS14Bでは、走行開始状態が確定したタイミング以降に車速瞬時値算出部12が算出した車速データを記録対象(保存対象)の時系列データとしてメモリ111あるいはメモリカード200上に記録(保存)する。
【0086】
ステップS18Aでは、走行終了状態が確定したので、このタイミング以降に車速瞬時値算出部12が算出した車速データを無効なデータとして記録対象(保存対象)から除外し、メモリ111やメモリカード200上には記録しない。
【0087】
ステップS28Aでは、車速瞬時値算出部12が算出した最新の車速瞬時値を一時データとしてワークメモリ16上に記憶する。
【0088】
従って、例えば
図16に示すように走行開始が確定すると、その5秒前の時刻t03以降のデータが有効とみなされてメモリカードに記録(保存)される。時刻t03より前のタイミングで得られたデータについては、走行開始状態ではないのでメモリカードには記録しない。
【0089】
同様に、
図17に示す記録データについても、時刻(tref1−5sec)以降のデータがメモリカード上に保存され、それ以前のタイミングのデータは保存対象にならない。また、
図18に示すように、走行停止を検出した5秒前の時刻(tref2−5sec)以降のデータはメモリカードへの保存対象から除外され、時刻(tref2−5sec)より前のデータのみがメモリカードへ保存される。
【0090】
以上のように、本発明の車両速度検出方法および車両用データ記録装置は、代表例として業務用の車両等に搭載されるデジタルタコグラフや、車速を記録する機能を備えたドライブレコーダに適用することが想定される。