(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本明細書は、タンジェンシャルフローろ過後の溶液の成分が所定の濃度となるよう、溶質濃度のろ過前調整を行うタンジェンシャルフローろ過法を報告する。
【0014】
用語「陽イオン/中性対」は、中性型のバッファー物質と、陽イオンとしてのプロトン化型のバッファー物質、すなわち正電荷型のバッファー物質からなるバッファーシステムを提供するバッファー物質を意味する。その一例はヒスチジンである。用語「中性/陰イオン対」は、中性型のバッファー物質と、陰イオンとしての脱プロトン化型のバッファー物質、すなわち負電荷型のバッファー物質からなるバッファーシステムを提供するバッファー物質を意味する。一例はアセテートである。
【0015】
用語「タンジェンシャルフローろ過」または短縮形の「TFF」は、濃縮されるポリペプチドを含有する溶液をろ過膜表面に沿って、すなわちその表面に対して接線方向に流すろ過プロセスを意味する。ろ過膜は、特定のカットオフ値を有する孔サイズを有する。一つの態様において、カットオフ値は20kDa〜50kDaの範囲であり、別の態様においては30kDaである。TFFは限外ろ過として行った。用語「クロスフロー」は、膜に対して接線方向の、濃縮される溶液の流れ(保持液流)を意味する。用語「流量」または「透過流」は、置換可能に使用することができ、膜を通過する、すなわち膜孔を通過する流体の流れを意味する。すなわち、膜を通過する透過流の体積流量を意味する。流量は通常、単位時間あたり、単位膜面積あたりの体積により、l/m
2/h(LMH)として示される。透過液は、保持液側に濃縮される溶液の溶媒および使用される膜のカットオフ値以下の分子量を有する分子を含むが、濃縮されるポリペプチドは含まない。用語「膜間圧」または「TMP」は、置換可能に使用することができ、溶媒および膜のカットオフ値より小さい成分の膜孔通過のために適用される圧力を意味する。膜間圧は、入口、出口および透過液の平均圧であり、
として計算できる。
【0016】
本明細書において使用する場合、用語「溶質」は、水分子および濃縮されるポリペプチド分子を除く、濃縮される溶液中のすべての成分、すなわち、イオン性物質および非イオン性物質を意味する。一般に、濃縮される溶液は、ポリペプチド、水およびバッファー塩、ならびに場合により非バッファー塩、例えば塩化ナトリウムを含む。
【0017】
「ポリペプチド」は、天然にまたは合成的に産生されたものを問わず、ペプチド結合により連結されたアミノ酸残基のポリマーである。約20アミノ酸残基未満のポリペプチドを「ペプチド」と称する。「タンパク質」は、一つまたはそれ以上のポリペプチド鎖または100アミノ酸残基を超える少なくとも一つのポリペプチド鎖を含む高分子である。ポリペプチドはまた、非ペプチド成分、例えば炭水化物基を含み得る。炭水化物およびその他の非ペプチド置換基は、そのポリペプチドを産生する細胞によりポリペプチドに付加され得、それは細胞型によって様々である。ポリペプチドは、本明細書ではそれらのアミノ酸骨格構造によって定義され;炭水化物基等の置換基は一般に特定されないものの、その場合であっても存在している可能性がある。
【0018】
用語「免疫グロブリン」は、実質的に免疫グロブリン遺伝子によってコードされる一つまたはそれ以上のポリペプチドからなるタンパク質を表す。確認されている免疫グロブリン遺伝子は、様々な定常領域遺伝子および多種多様な免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。免疫グロブリンは、例えば、Fv、FabおよびF(ab)
2ならびに単鎖(scFv)または二特異性抗体を含む多様な形態で存在し得る(総説については、Hood, L. E., et al., Immunology, The Benjamin N. Y., 2
nd edition (1984))。したがって用語「免疫グロブリン」は、二つの免疫グロブリン重鎖および二つの免疫グロブリン軽鎖からなる完全な免疫グロブリン、ならびに、重鎖の可変ドメイン、C
H1ドメイン、ヒンジ領域、C
H2ドメイン、C
H3ドメインもしくはC
H4ドメインから選択される少なくとも一つのドメインまたは軽鎖の可変ドメインもしくはC
Lドメインを含む「免疫グロブリンフラグメント」および免疫グロブリン重鎖または軽鎖の少なくとも一つのドメインがペプチド結合を通じてさらなるポリペプチドに接合された「免疫グロブリン接合体」を意味する。さらなるポリペプチドは、非免疫グロブリンペプチド、例えばホルモン、または毒素、または成長受容体、または非融合性ペプチド、または補体因子等である。
【0019】
バイオ技術により産生された免疫グロブリンの精製には、異なるカラムクロマトグラフィー工程の組み合わせがしばしば用いられる。一つの態様において、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーの後に一つまたは二つの追加の分離工程が行われる。最終精製工程は、凝集した免疫グロブリン、残留HCP(宿主細胞タンパク質)、DNA(宿主細胞核酸)、ウイルスまたは内毒素等の微量の不純物または夾雑物を除去するための、いわゆる「ポリッシング工程(polishing step)」である。一つの態様において、このポリッシング工程に、フロースルー式の陰イオン交換材料が用いられる。
【0020】
タンパク質の回収および精製には、微生物タンパク質を用いるアフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインAまたはプロテインGアフィニティークロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、陽イオン交換(カルボキシメチル樹脂)、陰イオン交換(アミノエチル樹脂)および混合モード交換)、チオフィリック吸着(例えば、ベータ-メルカプトエタノールおよび他のSHリガンドを用いるもの)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィー(例えば、フェニル-セファロース、アザ-アレノフィリック樹脂、またはm-アミノフェニルボロン酸を用いるもの)、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(例えば、Ni(II)およびCu(II)アフィニティー材料を用いるもの)、サイズ排除クロマトグラフィーおよび電気泳動法(例えば、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動)のような様々な方法が十分に確立され、広く利用されている。これらの方法は、本発明の様々な態様において独自に組み合わせることができる。
【0021】
用語「モノマー型の免疫グロブリン」およびその文法的等価物は、第二の免疫グロブリン分子と会合していない、すなわち別の免疫グロブリン分子に共有結合も非共有結合もしていない免疫グロブリン分子を意味する。用語「凝集型の免疫グロブリン」およびその文法的等価物は、少なくとも一つの追加の免疫グロブリン分子またはそのフラグメントと共有的または非共有的に会合しており、かつ、サイズ排除クロマトグラフィーカラムから単一ピークとして溶出される免疫グロブリン分子を意味する。本出願において使用する場合、用語「モノマー型」またはその文法的等価物は、必ずしも免疫グロブリン分子の100%がモノマー型で存在することを意味するものではない。この語は、免疫グロブリンが本質的にモノマー型で存在すること、すなわち、免疫グロブリン調製物のサイズ排除クロマトグラムのピーク面積で測定した場合に免疫グロブリンの少なくとも90%がモノマー型で存在すること、一つの態様においては、免疫グロブリンの少なくとも95%がモノマー型で存在すること、別の態様においては、免疫グロブリンの少なくとも98%がモノマー型で存在すること、さらなる態様においては、免疫グロブリンの少なくとも99%がモノマー型で存在すること、そして最後の態様においては、免疫グロブリンの99%超がモノマー型で存在することを意味する。用語「モノマー型および凝集型」は、他の免疫グロブリン分子と会合していない免疫グロブリン分子と他の免疫グロブリン分子に会合している免疫グロブリン分子の混合物を意味する。この混合物では、モノマー型または凝集型のいずれも排他的に存在していない。用語「高分子量(HMW)型」は、重合した、すなわち凝集した免疫グロブリンであって、凝集体であるにもかかわらず水性緩衝溶液に可溶性であるものを意味する。
【0022】
本出願において使用する場合、用語「100%」は、特定成分以外の成分の量が、参照する特定条件下での分析方法の検出限界を下回っていることを意味する。
【0023】
本出願において使用する場合、用語「90%」、「95%」、「98%」、「99%」は、正確な値を意味するものではなく、参照する特定条件下での分析方法の精度範囲内の値を意味する。
【0024】
一般に、残留する宿主細胞DNA、内毒素およびレトロウイルス様粒子を除去するためのモノクローナル免疫グロブリンの精製プロセスにおいて、フロースルー式のイオン交換クロマトグラフィーが最後のクロマトグラフィー工程となる。そのため、精製されたイオン交換クロマトグラフィープールは、例えば、リン酸バッファーまたはトリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタンバッファー中に存在する。その後、その条件を、例えば、保存時の医薬活性成分の安定性を確保するためのバッファーシステムに変更する必要がある。一般に、pH値は弱酸性、例えばpH5とpH6の間であり、5mS/cm未満の伝導度が必要とされる(Daugherty, A. L. and Mrsny, R. J., Adv. Drug Deliv. Rev. 58 (2006) 686-706)。
【0025】
同時に、そのイオン交換プールは、界面活性剤や糖などの様々な賦形剤のストック溶液を使用/添加することにより、製剤化のための基本バッファーとなる。したがって、イオン交換クロマトグラフィープールは、所定のタンパク質、バッファー溶質、pHおよび伝導度の組成物となるよう、限外ろ過によって適当なバッファー組成物に濃縮および透析ろ過される。
【0026】
非等電pH値におけるイオンとポリペプチドの静電相互作用は、限外ろ過プロセス中に、限外ろ過膜の保持液側と透過液側でその不均衡な分配をもたらす。このため、(濃縮および透析ろ過のための)タンジェンシャルフローろ過の前後で溶質濃度の大きなばらつきが生じ、かつ、タンジェンシャルフローろ過の前、最中および後でpHおよび伝導度にばらつきが生じる。
【0027】
例えば、免疫グロブリンのイオン交換クロマトグラフィープールを、プール体積の1〜10倍の透析ろ過体積(DV)の20mMヒスチジンバッファー(pH5.5;1.6mS/cm)に対して透析ろ過を行った。その後、その透析ろ過プールを、タンジェンシャルフローろ過によって、210mg/ml超のタンパク質濃度まで濃縮した。ヒスチジンバッファーシステムのpH値および伝導度に関する既定の条件は、10倍の透析ろ過体積を適用した後でさえ、全濃縮プロセス後に一定を維持することができないことが見いだされた。濃縮プロセス開始後、pH値は、保持液において、タンパク質濃度215mg/mlでpH5.7に上昇し、伝導度は2.2mS/cmに達する。
【0028】
さらに、20mMヒスチジンバッファー中、pH5.5でのUF濃縮プロセスの間の伝導度およびpH値をモニターした。ここでも、タンパク質濃度の上昇に伴い、伝導度の上昇が観察された。さらに、pH5.8へのpH値の上昇も観察された。
【0029】
別の、しかし同様の観察を、別のバッファーシステム(20mM酢酸バッファー、pH5.5)を用いたUF濃縮プロセスにおいて行った。UFプロセス中、pH値は、20mMヒスチジンバッファーを用いた場合に観察されたのと同様に、pH5.8に上昇したが、伝導度は、タンパク質濃度の上昇に伴い低下した。45mMの高酢酸濃度、pH5.0においても同じことが観察された。
【0030】
二つの異なる所定のバッファーシステム中でのモノクローナル免疫グロブリンのUF濃縮プロセスにおいて、アセテートの場合は保持液中のバッファー物質の有意な蓄積が、ヒスチジンの場合は保持液中のバッファー物質の有意な損失が、観察された(
図1および
図3を参照のこと)。約200mg/mlの免疫グロブリン濃度において、アセテートの濃度はほぼ2倍になったが、ヒスチジンの濃度は半減した。どちらも、濃縮プロセス中に伝導度およびpHの変化を誘導した。
【0031】
透析ろ過および濃縮操作中の溶質化合物の不均衡分配は、賦形剤濃度、pHおよび伝導度値を、プロセス開始時の透析ろ過バッファーのそれらと有意に異なるものにする。これは最終的に製剤化された免疫グロブリンの安定性に影響を及ぼし得るので、事前に設定した溶質化合物濃度が、濃縮された免疫グロブリン調製物に存在することが求められる。
【0032】
タンジェンシャルフローろ過中の変化を補正する様々な選択肢は、
- 濃縮後にバッファー溶液を補充/希釈すること、
- タンジェンシャルフローろ過前にpH値を等電点値付近に調整すること(例えば、
図2を参照のこと)
- タンジェンシャルフローろ過前に所定の溶質添加/削減を行うこと(例えば、
図4を参照のこと)
であろう。
【0033】
バッファー溶液によるUF後の希釈は、免疫グロブリン濃度をも希釈および低下させることになるため、適さない。これは、濃縮された免疫グロブリン溶液を提供するというUFプロセスの目的と正反対である。
【0034】
濃縮デバイス、膜素材および濃縮パラメータに非依存的に濃度変化を補正するのに、タンジェンシャルフローろ過プロセス前に溶質濃度の所定の添加/削減を行うことが有効であることが見いだされた。一つの態様において、ヒスチジンバッファー(=溶質)の場合、IgG 1およびIgG 4クラスの免疫グロブリンを215mg/mlに濃縮するタンジェンシャルフローろ過後にそれぞれ20mMおよび46mMヒスチジンという既定のヒスチジンバッファー濃度を達成するために、タンジェンシャルフローろ過前に約pH5.0でそれぞれ29.6mMおよび60mMヒスチジンに調整することが必要であることが見いだされた。
【0035】
限外ろ過プロセス中の濃度変化を解決する代替法として、UFプロセス後の攪拌溶液に0.5M塩酸(HCl)を添加することによって濃縮液をpH5.0のpH値に再調整した。これは、UF中のpHシフトのために、pH7.5でおよび20mMヒスチジンpH5.0で濃縮された溶液に対してのみ必要となった。29.6mMヒスチジンpH5.0で行った実験は、以前に報告されたようなpHシフトを示さなかった。表1は、UF前、UF後およびpH5.0への再調整後のpH値を示す。
【0036】
(表1)UF前、UF後およびpHを5.0に再調整した最終産物のpH値;最終産物においてpHをpH5.0に再調整するのに0.5M塩酸を用いた;3回の測定の平均値を±SDで表す。
【0037】
UF前の溶質濃度の調整は、以下の式2および式3に基づき計算する。
【0038】
式2は、膜を通過することができる正に荷電した溶質(S
+)の保持液中のモル濃度を表す。S
+は、タンパク質の電荷(z)、タンパク質のモル濃度(P)および分子量(Mp)ならびに、保持液(ρ)および透過液(ρ')の溶液密度に依存する。S'は、拡散可能な溶質の理論的モル濃度である。
【0039】
式3は、膜を通過することができる負に荷電した溶質(S
-)の保持液中のモル濃度を表す。
【0040】
WO 2003/070760またはUS 2005/0169925に報告されるようなアミロイドβペプチドに対する免疫グロブリン(抗Aβ抗体)の例においては、以下に概説されるように計算を行う。
【0041】
20mMヒスチジンバッファー中に200mg/mlの免疫グロブリン終濃度を有するpH5.5の溶液を得るための濃縮工程前のヒスチジン濃度は、溶質分子が正に荷電した分子であることから、S'の計算用に再編成された式2によって計算する。
【0042】
再編成された式2(式2')は:
である。
【0043】
以下のパラメータ値を使用した:
免疫グロブリンの分子量 150,000g/mol
透過液の密度 0.9989g/ml
濃縮終了時のモル濃度 0.00133mol/l
タンパク質の電荷 +9
(測定法については実施例13を参照のこと)
初期タンパク質濃度 15mg/ml
(測定法については実施例4を参照のこと)
目標バッファー濃度 0.020M
濃縮終了時のタンパク質溶液の密度 1.0551g/ml
(測定法については実施例14を参照のこと)
【0044】
数値を式2'に入力すると、以下のようになった:
[濃縮前のヒスチジン濃度]
【0045】
このように、計算、例えば終濃度を200mg/mlとする計算を行うために、濃縮される免疫グロブリンの電荷を実施例13に従い、濃縮後の免疫グロブリン溶液の密度を実施例14に従い、および初期免疫グロブリン溶液中の免疫グロブリンの濃度を実施例4に従い、実験的に測定する必要がある。
【0046】
初期溶液の密度については、以下の表2のような文献の値を使用することも可能である。
【0048】
再編成された式3(式3')は:
である。
【0049】
陰イオン性のバッファー塩(溶質)の場合、UFプロセス中のpH値の上昇により、陰イオン型のバッファー塩(溶質)の比率も上昇する。したがって、実際には、pH値を考慮しないと、上記の式を用いた計算に基づいて補充される以上に多くのバッファー塩陰イオンが失われるであろう。したがって、拡散可能な溶質の理論的濃度S'は、pH値を考慮する係数を用いて補正する必要がある。バッファー陰イオン/バッファー陽イオンとバッファー酸の間の比率は、ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式を用いることで、保持液で測定された各pHにおいて計算することができる。各pH値における相対的増加を、各々の補正係数として使用することができる。
【0050】
溶質モル濃度は、そのpH値における免疫グロブリンの実際の電荷値を式2および3のそれぞれに入力することによって概算した。総タンパク質電荷は、ゼータ電位測定によって測定した(実施例13を参照のこと)。
【0051】
pH値に依存するタンパク質価を測定するためにいくつかの選択肢が利用可能である。酸性および塩基性のすべてのアミノ酸側鎖の平均pK
a値を合算することにより計算されるタンパク質配列に基づく滴定曲線以外にも、ゼータ電位測定(Faude, A., et al., J. Chromatogr. A 1161 (2007) 29-35; Salinas, B. A., J. Pharm. Sci. 99 (2009) 82-93)またはゲルおよびキャピラリー電気泳動(Winzor, D. J., et al., Anal. Biochem. 333 (2004) 225-229)のような、電気泳動移動度に基づく実験的測定が可能である。タンパク質価はpHだけでなく周囲のバッファー電解質の組成にも依存するので、タンパク質の実際の電荷を測定するのに利用できる現実的な代替法は存在しない。
【0052】
2つの免疫グロブリン溶液(詳細については実施例の節を参照のこと)を、15mg/mlから200mg/mlに濃縮した。使用した一つの溶液は、UF前にpH5.0で20mMヒスチジンを含み、使用した一つの溶液は、pH5.5で20mMヒスチジンを含むものであった。両方の免疫グロブリン溶液は、濃縮プロセス後に、既定のpHで20mMヒスチジンが存在するよう意図されていた。UF中、ヒスチジンの変位を観察し、これを、タンパク質電荷を+11として式2を用いて量的に補正した。UF前の補充を行わない場合、200mg/mlの免疫グロブリン濃度では10.8mMのヒスチジンしか残らなかった。200mg/mlのタンパク質濃度に処理した後に20mMヒスチジンとなるようにするには、29.6mMヒスチジンがUF前に存在すべきと算出された。pH5.5で30.3 ± 0.7 mMヒスチジンを含有するバッファーシステムにおいて行った実験データは、200mg/mlの濃縮液が、予想通り、18.6 ± 0.4mMのヒスチジン濃度を有することを示した。このように、式2'を用いて計算される高ヒスチジン濃度をUF開始時に使用することにより、200mg/mlの目標タンパク質濃度へのUF後に意図するヒスチジン濃度が存在することが確認された。
【0053】
さらに、タンパク質濃度200mg/mlにおいて意図されるヒスチジン濃度46mMは、式2'を用いて計算されるUF前の初期高ヒスチジン濃度60mMを適用することにより達成することができる。この例では、タンパク質電荷+7を適用した。
【0054】
ヒスチジンの場合、算出されたUF濃縮プロセス開始前の高溶質モル濃度が、濃縮バルクにおけるヒスチジンの意図するモル濃度をもたらした。さらに、UFプロセス中およびその後、pH値は、それより低モル濃度で行った実験と比較して、ほぼ一定に保たれた。
【0055】
ヒスチジン濃度をUF前に29.6mMヒスチジンまで増やさなかった場合、pH値は、200mg/mlのタンパク質濃度において、pH5.44 ± 0.04からpH5.80 ± 0.05にシフトした。ヒスチジン濃度を29.6mMまで増やした場合、pH値はほぼ一定、すなわちUF処理前でpH5.45 ± 0.04であり、後でpH5.57であった。
【0056】
pH値の調整は必要ないことがさらに見いだされた。
【0057】
タンジェンシャルフローろ過プロセス前にpH値を等電点付近に調整すると、タンジェンシャルフローろ過プロセス中に凝集物および粒子の形成が誘導される。これに対して、タンジェンシャルフローろ過プロセス前の濃縮パラメータの体系的な補正は、凝集物および/または粒子の形成を誘導しない。
【0058】
20mg/mlの濃度の免疫グロブリン溶液を200mg/mlまで限外ろ過した。ヒスチジンに基づくバッファーシステムを使用した。一方で、実験を29.6mMヒスチジンバッファーpH5.0において行った。他方で、UFを20mMヒスチジンバッファーpH7.4において行った。結果を、20mMヒスチジンを含有するpH5.0のバッファーシステムにおいて行った実験と比較した(
図6および7を参照のこと)。
【0059】
UF中の粒子形成はpH7.4で増大することが観察された。UFの過程で、1μmより大きい粒子が最大8
*10
6個形成され、濁度が0.1AUから1.6AUに上昇した。pH5.0のpH値で限外ろ過した様々な免疫グロブリンを含有する溶液を、粒子形成および濁度に関して分析した。粒子形成および濁度は、このpH値で明らかに少なかった。これは、pH7.4というpH値が、約8と測定された抗体のうちの一つの等電点(IP)に近いことに起因するものと考えられる(Nakatsuka, S. and Michaels, A. S., J. Membr. Sci. 69 (1992) 189-211)。
【0060】
粒子の測定、350nmでの濁度およびSE-HPLCを実施し、塩酸の添加による凝集物の誘導をモニターした。pH5.0の20mMヒスチジン中で濃縮された溶液では、再調整された最終産物において、1μmより大きい粒子の誘導および濁度の上昇が観察された。
【0061】
2.23 ± 0.05%から2.71%へのHMWの増加を測定した。UF前に29.6mMヒスチジンを含有しpH5.0であった溶液では、1mlあたりの1μmより大きい粒子の数、濁度値およびHMWの比率は一定に維持されていた。
【0062】
pH値をpH7.4からpH5.0に再調整した後、HMWの比率は0.74%から17.15 ± 0.97%に上昇した。同時に、1μmより大きい粒子の数および濁度値は減少した。とはいうものの、粒子数および濁度値は他の2つのプロセスに比べてずっと高い状態で維持されていた。
【0063】
高モル濃度HClの添加により、ダイマーおよびオリゴマーの比率が上昇することが観察された。これは、0.02M HClを添加することによって防がれた。同時に、希HClの添加は、タンパク質の濃縮バルクを大きく希釈し、最終的に、pH調整後のタンパク質濃度が約3分の1となった。
【0064】
タンジェンシャルフローろ過プロセス前にpH値を変化させることによって、膜通過流量が減少し、濃縮時間が劇的に増加することも見いだされた(
図8を参照のこと)。UF前に溶質濃度の補正を行った場合、膜通過流量の減少は起こらず、濃縮時間は影響を受けない。
【0065】
透過流量は、pH5.0で行った実験と比較して、処理中に大きく減少することが観察された。UF開始前にpH値をpH7.4に調整した場合、処理時間は120 ± 2分から300 ± 2分と、2倍超となった。UF工程前にヒスチジンを添加しても、透過流量に影響しないことが観察された。
【0066】
タンジェンシャルフローろ過プロセス中にバッファー組成を変更すると、濃縮タンパク質の安定性が影響を受けることも見いだされた。
【0067】
UFプロセスは、プロセスおよび製剤化の開発段階で行う。様々なUFシステム、膜素材および操作パラメータを、タンパク質バルクの濃縮に適用する。本明細書で提案するモデルがUF濃縮時のヒスチジン損失に関する実験値を十分に反映していることを証明するため、様々な膜素材、UFシステムおよび操作パラメータを試験した(表3および
図5を参照のこと)。
【0069】
特に、ポリエーテルスルホン(PES)は、疎水性が高いため、再生セルロース(RC)よりも高度にタンパク質を吸着することが知られている。さらに、タンパク質および溶質は、電荷・電荷の相互作用に基づき膜表面と相互作用し得る。そのため、濃縮液における溶質のモル濃度の結果は、膜素材の選択に影響され得る。
【0070】
適用するUFシステム、膜素材または操作条件によらず、UF中のヒスチジンモル濃度に関する実験データは、先に報告された式を用いることで概算することができる。
【0071】
図10には、抗Aβ抗体を用いて例証する、本明細書で報告する方法に従い計算される、20mMヒスチジンバッファーを含有するpH5.5の最終溶液となるよう、意図するタンパク質終濃度に依存して限外ろ過前に調整されるヒスチジンの濃度を示すグラフが示されている。
【0072】
以下の実施例および図面は、本発明の理解を助ける目的で提供されるものであり、本発明の真の範囲は添付の特許請求の範囲に示されているものである。本発明の精神から逸脱することなく、示される手順に変更を加えることができることを理解されたい。
【実施例】
【0074】
実施例1
材料および方法
化学物質
使用した化合物および試薬はすべて、少なくとも分析グレードであった。塩酸および水酸化ナトリウムはMerck KG(Darmstadt, Germany)から入手した。L-ヒスチジンはAjinomoto(Raleigh, USA)製のものを使用した。酸性酸(acidic acid)はFluka(Steinheim, Germany)から入手した。塩化ナトリウムはMerck KG(Darmstadt, Germany)から入手した。
【0075】
抗体
本明細書で報告する方法は、WO 2003/070760またはUS2005/0169925に報告されているアミロイドβペプチドに対する免疫グロブリン(抗Aβ抗体)を用いて例証される。
【0076】
別の例示の免疫グロブリンは、WO 2005/100402またはUS2005/0226876に報告されている抗Pセレクチン抗体である。
【0077】
実施例2
サンプルの調製
pH5.5の20mMヒスチジンバッファー中50mg/mlの濃度の免疫グロブリンの溶液を、ヒスチジンバッファー中での濃縮実験のために準備した。より高モル濃度のヒスチジンを含有する材料を得るため、タンパク質溶液にヒスチジン塩基を添加し、0.1M塩酸を添加することによりpHをpH5.5に調整した。
【0078】
20mMおよび45mM酢酸バッファーpH5.0をそれぞれ含有する溶液を得るため、20mMヒスチジン材料を、TFFを使用することにより10倍量の酢酸ナトリウムバッファーpH5.0に対して透析ろ過した。
【0079】
pH5.0の20mMヒスチジンバッファー中20mg/mlの濃度の免疫グロブリンの溶液を、ヒスチジンバッファー中での濃縮実験のために準備した。限外ろ過(UF)処理の前に、対応するバッファーを用いて溶液を10mg/mlのタンパク質濃度まで希釈し、0.22μm膜カートリッジ(Sartorius, Gottingen, Germany)を通してろ過した。
【0080】
実施例3
タンジェンシャルフローろ過
濃縮された免疫グロブリン溶液の調製のために、自動タンジェンシャルフローろ過(TFF)システムAKTAcrossflow(商標)(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)を使用した。WO 2009/010269に報告されている方法をすべての実験に使用した。
【0081】
簡潔に説明すると、5mg/mlから25mg/mlへの免疫グロブリンの濃縮のためのUFプロセスの開始条件として、240 l/m
2/hの保持液流速および1.25バールのTMPを選択した。25mg/mlから50mg/mlでは、TMPを0.85バールに下げた。さらに、保持液流速を450 l/m
2/hに上げ、透過流量を30〜45 l/m
2/hにした。50mg/mlから目標濃度の140mg/mlまたはそれ以上までの濃縮範囲では、0.85バールのTMPおよび390 l/m
2/hの高速の保持液流速を設定した。
【0082】
再生セルロースのHydrosart(商標)膜、30kDaの名目分子量カットオフ(NMWC)および0.02m
2の膜面積を有するSartocon Sliceフラットシートカセットを使用した(Sartorius, Gottingen, Germany)。各実験における総膜荷重は約400g/m
2であった。濃縮後、膜モジュールを1M水酸化ナトリウムで洗浄した。洗浄サイクルごとに水の標準流量速度(NWF)を測定し、最初の使用前に得られた値と比較した。20℃での1バールあたりのNWFの低下(l/m
2/h)が、完全な洗浄および同程度の膜特性を担保する初期値の10%を下回った場合、そのカセットは次の実験のみに適用した。
【0083】
実施例4
濃度測定
免疫グロブリンの濃度は、バッファーブランク減算後の280nmおよび320nmにおける吸光度を用いて測定した(UV-Vis分光光度計Evolution 500, Thermo Fisher Scientific, Waltham, USA)。280nmでの吸光度から320nmでの吸光度を差し引き、この吸光度値を、ランバート・ベールの法則に従いタンパク質含有量を計算するのに使用した。
【0084】
実施例5
伝導度およびpHのモニタリング
TFFプロセス中、濃度が倍になる毎に、保持液から1mlを採取した。pH値は、WTW(Weilheim, Germany)製のpHシングルロッド測定セルE50-1.5を装着したMicroprocessor pH Meter pH 196を用いて測定した。伝導度は、WTW(Weilheim, Germany)製の標準的な伝導度セルTetraCon 325を装着したProfiLine Konduktumeter LF 197を用いて測定した。すべてのサンプルを、pHおよび伝導度の測定前に水浴中で25℃に調節した。
【0085】
実施例6
サイズ排除高圧液体クロマトグラフィー
サイズ排除高圧液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)実験は、Summit HPLCシステム(Dionex, Idstein, Germany)でTSK 3000 SWXLカラム(Tosoh Bioseparation GmbH, Stuttgart, Germany)を用いて行った。溶出ピークは、Dionex(Idstein, Germany)製のUVダイオードアレイ検出装置UVD170Uにより、280nmでモニターした。無勾配クロマトグラフィーは、200mMリン酸カリウムおよび250mM塩化カリウムで構成されるpH7.0のバッファー水溶液および流速0.5ml/minを用いて室温で行った。各サンプルは、1回の注入で100μgの免疫グロブリン添加量を含むものであった。クロマトグラムは、Chromeleonソフトウェア(Dionex, Idstein, Germany)を用いることにより手作業で積分した。ダイマーおよびそれより大きな可溶性オリゴマーを含む高分子量種(HMW)の比率は、2つのHMWピーク、モノマーピークおよび低分子量種(LMW)のピークの総面積に対する相対面積(mAU
*min)として測定した。
【0086】
実施例7
ヒスチジンアッセイ
保持液中のタンパク質濃度が倍になる毎に、ヒスチジン濃度を測定した。サンプルを、精製水(Milli-Q, Millipore, Billerica, USA)を用いて約100μMヒスチジン濃度に希釈した。その後、500μlの希釈サンプルを500μlの過塩素酸(5%)(Fluka, Steinheim, Germany)と混合した。10分後、サンプルを25℃、13.000rpmで10分間遠心分離した(miniSpin, Eppendorf, Hamburg, Germany)。100μlの上清をMonoS 5/50 GL CEXカラム(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)に注入した。クロマトグラフィー泳動を、Ultimate 3000 HPLCシステム(Dionex, Idstein, Germany)において、室温で、50mMアセテート、pH3.2(バッファーA)および50mMアセテート、pH3.2、1M塩化ナトリウム(バッファーB)で構成される二つのバッファー水溶液を適用する勾配溶出を用いて行った。1.0ml/minの流速を適用した。溶出は210nmでモニターした。クロマトグラムは、Chromeleonソフトウェア(Dionex, Idstein, Germany)を用いることにより手作業で積分した。ヒスチジンの量を定量するため、所定のピークの面積(mAU
*min)を標準曲線(r
2=0.9998)と比較した。
【0087】
実施例8
アセテートアッセイ
保持液中のタンパク質濃度が倍になる毎に、酢酸濃度を測定した。サンプルを、精製水(Milli-Q, Millipore, Billerica, USA)を用いて約25mM酢酸濃度に希釈した。その後、500μlの希釈サンプルを500μlの過塩素酸(5%)(Fluka, Steinheim, Germany)と混合した。10分後、サンプルを25℃、13.000rpmで10分間遠心分離した(miniSpin, Eppendorf, Hamburg, Germany)。100μlの上清をLiChrosorb RP C18 4/250カラム(Merck KG, Darmstadt, Germany)に注入した。クロマトグラフィーを、Ultimate 3000 HPLCシステム(Dionex, Idstein, Germany)において、室温で、6mMリン酸(Fluka, Steinheim, Germany)、pH2.6で構成されるバッファー水溶液を適用する15分間の無勾配溶出を用いて行った(Kordis-Krapez, M., et al., Food Technol. Biotechnol. 39 (2001) 93-99)。各サンプルラン後、サンプルのキャリーオーバーを避けるためにカラムを3mlアセトニトリル(Merck KG, Darmstadt, Germany)で洗浄した。1.0ml/minの流速を適用した。溶出は210nmでモニターした。クロマトグラムは、Chromeleonソフトウェア(Dionex, Idstein, Germany)を用いることにより手作業で積分した。アセテートの量を定量するため、所定のピークの面積(mAU
*min)を標準曲線(r
2=0.9999)と比較した。
【0088】
実施例9
塩化物アッセイ
保持液中のタンパク質濃度が倍になる毎に、塩化物濃度を測定した。サンプルを、精製水(Milli-Q, Millipore, Billerica, USA)を用いて1:200希釈した。10μlの希釈サンプルをIonPac AS11-HC 2/250カラム(Merck KG, Darmstadt, Germany)に注入した。クロマトグラフィーを、ICS 3000 Reagent-Free Ion Chromatographyシステム(Dionex, Idstein, Germany)において、室温で、最大100mM水酸化ナトリウムの水溶液を適用する30分間の勾配溶出を用いて行った。0.38ml/minの流速を適用した。検出は、ICS 3000 CD伝導度検出装置において行った。クロマトグラムは、Chromeleonソフトウェア(Dionex, Idstein, Germany)を用いることにより手作業で積分した。塩化物の量を定量するため、所定のピークの面積(mAU
*min)を標準曲線(r
2=0.9963)と比較した。
【0089】
実施例10
ナトリウムアッセイ
ナトリウムイオンの量を定量するため、サンプルを、マルチセンサーシステムBioProfile100plus(NOVA Biomedical, Waltham, USA)を用いて分析した。ナトリウムイオンを、2点キャリブレーションの後、25℃で定量した。サンプルは、測定前に精製水(Milli-Q, Millipore, Billerica, USA)で1:1希釈した。
【0090】
実施例11
濁度測定
濁度は、バッファーブランク減算後の350nmおよび550nmでの未希釈濃縮液の吸光度から測定し、モノクローナル免疫グロブリンの内部発色団からの吸収は使用しなかった(UV-Vis分光光度計Evolution 500, Thermo Fisher Scientific, Waltham, USA)(Capelle, M. A. H., et al., Eur. J. Pharm. Biopharm. 65 (2007) 131-148)。測定前にサンプルを混合した。懸濁した粒子の存在下では、散乱効果により、すべての波長においてUV吸収が増大する(Eberlein, G. A., et al., PDA J of Pharmac. Science and Technol. 48 (1994) 224-230)。
【0091】
実施例12
光遮蔽
米国薬局方の方法 <788> Particulate Matter of Injectionおよび欧州薬局方の方法2.9.1(European Directorate for the Quality of Medicine (Ed.), European Pharmacopoeia, Deutscher Apotheker Verlag/Govi-Verlag, Stuttgart/Eschborn, 2001a, 140-141; United States Pharmacopeia Convention (Ed.), United States Pharmacopeia, United States Pharmacopeia Convention, Rockville, MD, 2002, 2046-2051)と同様に、光遮蔽(LO)を用いて1〜200μmの範囲の粒子の形成をモニターした。粒子計数装置SVSS-C(PAMAS Partikelmess- und Analysesysteme, Rutesheim, Germany)にレーザーダイオードおよび光ダイオード検出装置を装着し、粒子がビーム経路を通過した後の残留光電流を測定した。粒子センサーHCB-LD-25/25を適用した。120 000/mlを超える高粒子含量の濃縮液は、使用するセンサーの仕様に合わせるため、バッファーで希釈した。0.3mlの洗い流しによる平衡化の後、各サンプルにつき0.5ml量の3回の測定を分析した。結果は、3回の測定の平均値として算出し、サンプル量1.0mlを参照した。濃縮液を希釈する前に、バッファーをStericup Express plus 0.1μmフィルターデバイス(Millipore, Billerica, USA)を用いてろ過し、粒子量を以前に記載されたようにして測定した。
【0092】
実施例13
ゼータ電位測定
様々なpH値におけるタンパク質の電荷を測定するため、Malvern Zetasizer Nano S(Malvern Instruments, Worcestershire, UK)を用いてレーザードップラー速度計測を行うことでタンパク質の電気泳動移動度を測定した。ゼータ電位ζは、Malvern DTSソフトウェア(バージョン5.0, Malvern Instruments, Worcestershire, UK)を用い、電荷の分布が均一であるという仮定の下で、ヘンリーの式から計算した。
式中、μ
eは電気泳動移動度であり、εは溶液の誘電率であり、k
sはモデルベースの定数であり、これは塩濃度が1mMより高い場合は1.5の値であり、ηは溶液の粘度であり、ζはゼータ電位である。サンプル調製のために、5mg/mlのmAb溶液を50mM酢酸バッファーpH5.0に透析し、その後0.2M塩酸を用いてpH2.0に滴定した。サンプルは、滴定装置MPT2(Malvern Instruments, Worcestershire, UK)を適用し、0.2M水酸化ナトリウム溶液を用いてpH2からpH12に滴定した。ゼータ電位は、25℃で、温度調節式折りたたみキャピラリーセル(Malvern Instruments, Worcestershire, UK)において、pH2から12までの間の15段階で測定した。各測定を3回繰り返し、平均値±SDを報告する。抗IL-1R抗体の例示的なゼータ電位測定については、
図9を参照されたい。
【0093】
実施例14
タンパク質溶液密度の測定
タンパク質溶液の密度ρを、各タンパク質濃縮段階で測定した。容積2.076mlの比重びん(Schott, Mainz, Germany)を、先に20℃に調節しておいたサンプル溶液で充填した。未充填および充填後の比重びんの質量を化学てんびん(MC 210 S, Sartorius, Gottingen, Germany)を用いて測定した。密度は、一般式ρ = m/Vに従い計算した。