(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0014】
「全体構成」
図1は、全体構成を示す図であり、システムは、ドライバ100と、モータ200とから構成される。入力信号は、ドライバ100に入力され、ドライバ100が入力信号に応じた駆動電流をモータ200に供給する。これによって、モータ200の回転が入力信号に応じて制御される。
【0015】
ここで、ドライバ100は、出力制御回路12を有しており、入力信号はこの出力制御回路12に供給される。出力制御回路12は、入力信号に応じて所定周波数の駆動波形(位相)を決定するとともに、その駆動電流の振幅をPWM制御によって決定し、駆動制御信号を作成する。そして、作成した駆動制御信号を出力回路14に供給する。
【0016】
出力回路14は、複数のトランジスタから構成され、これらのスイッチングによって電源からの電流を制御してモータ駆動電流を発生し、これをモータ200に供給する。
【0017】
モータ200は、ステッピングモータであり、2つのコイル22,24とロータ26を有している。2つのコイル22,24は、互いに電気角で90°位置がずれて配置されており、従って、ロータ26に対する磁界の方向もロータの中心角について互いに電気角で90°ずれている。また、ロータ26は例えば永久磁石を含んでおり、2つのコイル22,24からの磁界に応じて安定する位置が決定される。すなわち、ロータの回転角について90°ずれた位置に配置された2つのコイルに互いに90°位相の異なる交流電流を供給することで、その電流位相によりロータ26を移動させ、回転することができる。また、特定の電流位相のタイミングで、電流位相の変化を停止することで、その時の電流位相に応じた位置にロータを停止することができ、これによってモータ200の回転が制御される。
【0018】
2つのコイル22,24への4つの電流経路の出力OUT1〜OUT4の電圧は、駆動電流調整回路30に供給される。駆動電流調整回路30は、出力OUT1〜OUT4の電圧に基づき、モータ200への電流振幅を決定する。そして、この電流振幅についての調整信号を出力制御回路12に供給する。従って、出力制御回路12は、入力信号および調整信号から駆動制御信号を生成する。
【0019】
「出力回路の構成」
図2には、出力回路14の一部とモータ200の1つのコイル22(24)の構成を示す。
【0020】
このように、電源とアースの間に2つのトランジスタQ1、Q2の直列接続からなるアームと、2つのトランジスタQ3、Q4の直列接続からなるアームが設けられており、トランジスタQ1、Q2の中間点と、トランジスタQ3、Q4の中間点との間にコイル22(24)が接続される。そして、トランジスタQ1、Q4をオン、トランジスタQ2、Q3をオフすることで、コイル22(24)に一方向の電流を流し、トランジスタQ1、Q4をオフ、トランジスタQ2、Q3をオンすることで、コイル22(24)に反対方向の電流を流し、コイル22,24を駆動する。
【0021】
このような回路が2つ設けられることで、2つのコイル22,24に供給する電流を個別に制御することができる。
【0022】
「駆動電流調整回路の構成」
駆動電流調整回路30の構成例を
図3に示す。OUT1〜OUT4の電圧は、4つのスイッチ32をそれぞれ介し、ADC34に入力される。ADC34は、スイッチ32により選択されて入力されてくる電圧をデジタル信号に変換して順次出力する。ADC34の出力は、制御ロジック36に供給される。この制御ロジック36は、供給されるOUT1〜OUT4の電圧波形に基づき、モータ200への電流振幅を決定し、この電流振幅についての調整信号を出力制御回路12に供給する。
【0023】
出力制御回路12は、調整信号に応じてPWM制御における駆動制御信号を作成するが、ここでPWM制御の方式には、ダイレクトPWM制御方式と、定電流チョッピング方式がある。
【0024】
ダイレクトPWM制御方式の場合では、矩形波のデューティー比と電流出力とが比例すると仮定してPWM制御を行う。このとき、モータに誘起電圧が生じていると実際の電流出力値は小さくなる。ダイレクトPWM制御方式では、目標となる矩形波のデューティー比と、矩形波の振幅を調整する係数とを制御することで、電流出力値を調整することができる。
【0025】
定電流チョッピング方式の場合では、抵抗Rtを流れる電流を検出することで、モータを駆動する電流を検出し、その電流が目標値となるように矩形波のパルス幅を変更する制御を行う。定電流チョッピング方式では、上記の目標値を変更することで、電流出力値を調整することができる。
【0026】
本実施形態では、ダイレクトPWM制御方式を採用したドライバ回路の説明を行う。
【0027】
ここで、本実施形態においては、4つのコイル端への出力電圧OUT1〜OUT4をそのままADC34でAD変換している。
【0028】
このために、タイミング回路38を有しており、このタイミング回路38が各コイルの駆動位相に基づき、スイッチ32のスイッチングを制御すると共に、出力回路14におけるトランジスタQ2,Q4のスイッチングを制御している。すなわち、コイル22(24)において、一方の端子OUTをグランドに接続し、他方の端子OUTをオープンとする。これによって、オープン側の端子OUTに誘起電圧が現れる。これをADC34に入力して、ADC34は振幅を示すデジタル値を出力する。
【0029】
ここで、上述のように、1つのコイル22(24)に対する出力回路は
図2のような構成を有している。そして、1つのコイル22(24)の駆動は、トランジスタQ4をオンしている状態で、トランジスタQ1をPWM制御する状態と、トランジスタQ2をオンして、トランジスタトランジスタQ3をPWM制御する状態を繰り返す。
【0030】
図4には、コイル22へ駆動電圧を印加するOUT1−OUT2間の電圧波形、コイル24へ駆動電圧を印加するOUT3−OUT4間の電圧波形を示してある。このように、2つのコイル22,24への駆動波形は、90度位相が異なっており、コイル22の駆動波形の方がコイル24の駆動波形に比べ90度進んでいる。
【0031】
そして、OUT3−OUT4間の電圧波形の例では、
図2における、トランジスタQ4をオンしトランジスタQ1をPWM制御している状態から、トランジスタQ2をオンし、トランジスタQ3をPWM制御する状態へ移行するとき、すなわち駆動波形の180度のステップと、トランジスタQ2をオンしトランジスタQ3をPWM制御している状態から、トランジスタQ4をオンし、トランジスタQ1をPWM制御する状態へ移行するとき、すなわち駆動波形の0度のステップとにおいて、誘起電圧を検出する。
【0032】
すなわち、この期間においてトランジスタQ1,Q3はオフのままとして、次のフェーズにおいてオンとなるべきトランジスタQ2(またはQ4)をオンする。なお、トランジスタQ4(またはQ2)はオフのままにする。
【0033】
図4の例では、電気角0度の近辺において、コイル22に対するOUT1−OUT2では、トランジスタQ4をオンしトランジスタQ1をPWM制御している状態であり、電気角90度のステップにおいて、トランジスタQ2をオンしてOUT1をグランドGNDに接続、トランジスタQ1,Q3,Q4をオフして、OUT2をオープン状態にする。これによって、コイル22における誘起電圧がOUT2に得られ、スイッチ32−2をオンすることで、誘起電圧がADC34に入力される。電気角270度のステップにおいて、トランジスタQ4をオンしてOUT2をグランドGNDに接続、トランジスタQ1,Q2,Q3をオフして、OUT1をオープン状態にする。これによって、コイル22における誘起電圧がOUT1に得られ、スイッチ32−1をオンすることで、誘起電圧がADC34に入力される。コイル24は、位相が90度遅れているため、電気角0度においてOUT3がオープンとなり、OUT4がグランドに接続され、スイッチ32−3がオンとなりOUT3の誘起電圧がADC34に供給され、電気角180度においてOUT4がオープンとなり、OUT3がグランドに接続され、スイッチ32−4がオンとなりOUT4の誘起電圧がADC34に供給される。
【0034】
このような誘起電圧計測のためのコイル22,24に対する出力回路14における各トランジスタQ1〜Q4のスイッチング、スイッチ32の制御は、タイミング回路38が出力制御回路12からのスイッチング位相の信号に基づいて行う。
【0035】
コイル22(24)の誘起電圧は、両端の電圧の差として求められる。しかし、本実施形態においては、誘起電圧を測定する際にコイル22(24)の一端がグランドに接続されているため、オープン状態となっている他端において、コイル22(24)の両端の電位差の値が直接に得られる。従って、コイルの両端の電位差をオペアンプで検出する必要がなく、回路が簡単になる。また、オープン側のOUTは、誘起電圧が上昇する側の端子であり、ADC34への入力は基本的に正の電圧になり、ADC34においてそのままデジタル信号に変換が可能である。
【0036】
このようにして、駆動電流波形が0となる位相における誘起電圧が順次ADC34によって検出できる。従って、2つのコイル22,24において、モータの電気角1周期において、4回の検出が行える。なお、誘起電圧の検出期間は、本実施形態で採用している1−2相励磁モードで1/8周期となり、W1−2相励磁モードで1/16周期となる。
【0037】
次に、
図5には、1つのコイル22における駆動電圧波形と、誘起電圧波形についての3つの例が示されている。誘起電圧波形は、駆動電流が大きいと位相が進む傾向にあり、駆動電流が最適の場合に駆動電圧波形と誘起電圧波形の位相はほぼ一致する。一方、駆動電流が小さいと、ロータの駆動が不能になり脱調状態となるため、誘起電圧波形は0のまま動かないことになる。
【0038】
誘起電圧波形を駆動効率が最大となる位相になるように駆動電流の調整を行った場合、モータの負荷が変動したときに、脱調する危険が大きい。そこで、実際のモータの使用状況などにもよるが、駆動効率が最大となる位相となるように制御するのではなく、少し余裕のある位相となるように制御することが望ましい。
【0039】
「誘起電圧波形による判定」
図6には、誘起電圧検出期間における誘起電圧波形の例を示している。<状態1>では、キックバックの後、単調増加である。この状態は、検出期間の最初の辺りにゼロクロスが位置すると考えられる。従って、上述の最適(最低限)の駆動電流に比べて若干余裕のある駆動電流と考えられる。従って、これについて適切と判定するか、またはさらなる詳細な判定が必要となる。すなわち、モータの使用状況によって、その負荷変動が比較的大きな場合には、脱調の危険が大きいので、駆動電流量が少ないため、これを増やすことが必要と判定することができる。
【0040】
<状態2>では、キックバックの後の駆動電圧、山なりである。この場合、誘起電圧の位相が駆動電圧波形に比べ進んでいる。従って、
図5における駆動電流過大に対応すると考えられ、電流量を減少すべきと判定する。
【0041】
<状態3>では、キックバック後の誘起電圧がない。従って、ロータの回転がなく脱調状態と判定できる。
【0042】
駆動電流調整回路30の制御ロジック36においては、このような判定結果に基づいて、出力制御回路12を制御する。なお、状態3の場合には、制御ロジック36は、脱調を検出したことを示す信号を出力する。上記の信号はドライバ回路20を制御するコントローラ(図示なし)が受け取る。
【0043】
このように、本実施形態では、誘起電圧検出期間における誘起電圧波形に応じて、モータ駆動状態を判定して、モータ駆動電流を制御する。従って、モータの駆動状態を正確に把握して、適切なモータ駆動制御が行える。
【0044】
なお、制御ロジック36は、誘起電圧のデジタルデータにより、判定を行う。例えば、3点の検出値の比較から、上述の波形の判定を行うことが好適である。ここで、キックバックの大きさは、コイル電流の大きさなどよって異なる。そこで、キックバックの影響をできるだけ排除して、誘起電圧波形を検出するためには、検出期間の後半に実際の検出を行うことが好適である。例えば、検出期間を8つの期間に分割し、6/8,7/8,8/8のタイミングで検出を行うことが好適である。なお、8/8で、0Vであることにより脱調を検出するも可能である。
【0045】
「ゼロクロスの推定」
上述のように、本実施形態においては、基本的に誘起電圧波形は単調増加であって、ゼロクロスのポイントが検出期間の4/8のタイミングより前に存在するように、目標位相を設定する。そこで、誘起電圧波形が単調増加の場合には、6/8と、8/8の検出値により、傾きを求め、ゼロクロスを推定し、これを目標位相と比較し、推定したゼロクロスポイントが目標となるゼロクロスポイントに対しどこに位置するかで、駆動電流の増減を制御することが好適である。なお、このような波形の検出は、駆動電流調整回路30の制御ロジック36において行われ、制御ロジック36の出力に応じて、出力制御回路12が制御される。
【0046】
図7には、ゼロクロスポイントの推定の状態について示してある。例えば、キックバック後の単調増加状態の誘起電圧波形について、2点を検出する。2点間の時間がΔT、2点間の誘起電圧の差がΔVであった場合、誘起電圧波形の傾きはΔV/ΔTで表される。例えば、上述した検出期間を8等分した場合の6/8,8/8の時点での誘起電圧を検出するのであれば、ΔTは、検出期間の1/4の期間であり、ΔV×4=V0として、8/8のタイミングでの誘起電圧がV0であれば、0/8の時点がゼロクロスポイントと推定される。
【0047】
このように、誘起電圧について、設定した時間間隔ΔTの2点における誘起電圧を検出することで、ゼロクロスポイントを推定することができる。そして、モータの負荷変動などからモータ駆動電流の余裕についての設定をして、ゼロクロスポイントについての目標を設定し、ゼロクロスポイントが目標位相に近づくように制御することが好適である。
【0048】
推定したゼロクロスポイントが目標位相に比べ、遅れていれば電流量を増加、進んでいれば電流量を減少する。目標位相との差が大きい場合には、増加、減少の単位量を変更してもよいし、また目標位相との差が所定の範囲内の場合には増減しなくてもよい。
【0049】
さらに、単位量の変更は、1回の変更量を変更するのではなく、周波数を変更することでもよい。すなわち、1回の検出に対し、1単位量の変更を2回やれば、ゲインが倍になる。
【0050】
特に、電流量が不足方向の場合、脱調の危険があるので、早期に電流量を回復する必要がある。そこで、ゲインを大きくすることが好適である。例えば、駆動電流についての制御の範囲に対し、単位量(1ステップ)を1/256に設定し、通常電気角の1周期1回の制御(1単位量の変更)を行い、脱調に近い方では4回の制御(4単位量の変更)にしている。本実施形態においては、モータの1周期(電気角360度)に4回の検出が行われるため、その検出毎に制御を行い4回の制御とすることができる。なお、1回のみの変更の場合には、4回の判定結果から4回とも同じ判定結果であったときのみ増減の制御を行うようにすることも好適である。
【0051】
さらに、モータの特性や、駆動電圧の大きさなどによって、制御も変更する必要がある。そこで、制御ゲイン(単位量)を変更可能にすることが好適である。
【0052】
また、モータの特性によっては、キックバックの幅が大きくなり、誘起電圧の波形検出が行えない場合がある。このような誘起電圧波形の検出が行えない場合には、駆動電流の調整制御は行わず、最大の電流で駆動することも好適である。
【0053】
さらに、モータにかかる負荷変動が少ないシステムに適用される場合、誘起電圧の検出を行う端子をOUT1のみにすることができる。これによって、スイッチ32の数を減らすことができ、ドライバ100を小さくすることができる。
【0054】
「効果について」
本実施形態によれば、モータの高効率運転が可能になる。従って、消費電力を減少して効果的なモータ駆動が行える。また、なめらかな駆動になるので、振動、騒音の発生を抑制できる。さらに、高効率運転によって、発熱を抑制でき、冷却機構などを簡易にできるという効果も得られる。
【0055】
また、誘起電圧の検出の際に、差分を求める必要なく、電圧をそのままADC34に入力することで、波形を検出することができる。このため、オペアンプを省略して回路の簡略化を図ることができる。
【0056】
なお、この高効率制御は、回転動作を連続されるような通常運転時に最も効果のある制御であり、起動時などは最大電流での駆動や他の制御を行うことが好適である。回転数が所定以上であったときにのみこの制御を行うとよい。